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【初夢】目覚めたら『愚神』になっていた
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最終発言2017/01/06 00:36:14
オープニング
●前提
この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。
●明晰夢?
『あなたたち』が目覚めると、周囲は冬とは思えない暖かな陽だまりの広場だった。
「目が覚めたか」
声のする方向に『あなたたち』が顔を向けると、そこには全長2m以上はある銀色の猫と、『橘』の名札プレートを下げた白衣の女性がいた。
「私はヒーリショナー。橘(たちばな)美弥(みや)という名もあるが、一応ここの説明役でもある。これはるーぷす」
そう言うとヒーリショナーは『るーぷす』と呼ばれた銀色の猫の背に乗って説明を始めた。
「まず私が言うのもなんだが。ここは夢の世界だ。試しに『空を飛ぶ』ことをイメージしてみてはどうだ?」
言われた通りに空を飛ぶイメージを浮かべると、『あなたたち』の背中から翼が生え、思った通りに地面から浮かぶことができた。
「一応安全設計のため、高度30m以上は飛べない仕組みになっている。翼のデザインや出し入れは自分に行える」
――何の安全設計なのかは「きぎょうひみつ」らしい。
そして『あなたたち』が浮かび上がった空の先には3つの扉が見える。
「あの扉の先には、こことは違う景色や中身が広がっている。ドロップゾーンといえばイメージしやすいと思う」
なおヒーリショナーの話では、ドロップゾーンと呼ばれる空間でライヴスが喰われている様子はないらしい。というのも。
「ここでは君達も『愚神』ということになっているから、君達の考えるような事態は起こらない」
『あなたたち』の知る愚神は人にとって良い事はしない、災厄の域から出ないが、この夢の中では異なるようだ。
銀の猫に乗ったヒーリショナーが手近にあった扉の一つを開ける。
そこには3つの頭と首に『けるぷす』という看板を下げたポメラニアンな『愚神』が大量にいて、訪れる者達にもふもふな世界を提供していた。
「くるちー」
「ぎぶあーっぷ」
おや、何体かの『けるぷす』はもふもふを堪能する人々のクリンチ……もとい抱きしめる強さがきつくて悲鳴を上げているようだ。
「このあたりは穏やかな時間に楽しみたいという『愚神』向けのドロップゾーンだ。他にも材料を放り込めば料理ができる空間もある」
ヒーリショナーは、扉を閉めて『けるぷす』の悲鳴を締め出すと、大きな銀色の猫を伴って次の扉へと飛んで行く。
●『あなたたち』ができること
次の扉の向こうには、何やらキャンプのような光景が広がっていた。
「ここでは、時間制限はあるが、そこに並んでいる道具や食材を使って料理が食べられる空間だ」
空間中央にたき火があるが、火の上には鍋とフライパンが浮かんでおり、その周囲を様々な食材や調味料の入った容器が浮遊しており、『あなたたち』の前にもいつの間にか空の深皿が浮かんでいるという、現実感が皆無な状況だ。
「ここではあの鍋やフライパンに食材を放り込んだり、調味料を加えれば料理ができる。こんな感じだ」
ヒーリショナーの言葉に従うかのように、浮遊する食材の一つがフライパンへ、ふよふよと飛び込み、食材の焼ける音が響く中、フライパンの上に『回す』と書かれた白い文字が現れた。
「ここで『回す』の文字を押すイメージを念じると、こうなる」
フライパンの上にある『回る』の文字が何かに押されたかのように明滅すると、フライパンが手早く動き、食材がひっくり返って裏面が新たに焼かれていく。
「食べごろは、別の文字が現れた頃かな」
ヒーリショナーの言葉通り、それまでフライパンの上に浮かんでいた『回す』の文字が消え、新たに『出す』の文字が現れた。
「この文字が出たら、それを押して手頃な皿へと移動させるイメージを念じれば完成だ」
そして『出す』の文字が何かに押され、食材がフライパンの上からヒーリショナーの前にあった深皿に移動すると、それは何かの魚のムニエルに変化した。
「ちなみにこの料理はサハギンのムニエルという名だ。同じ食材を鍋で料理すると、サハギンのクリームシチューになる。今回は調味料を加えなかったが、念じれば調理中に調味料を投入して、さらに美味しくできる」
サハギンと言えば『あなたたち』の世界では従魔の一種だが、この空間では食材になっているらしく、ヒーリショナーは自分の皿にあるムニエルを、いつの間にか現れたフォークやスプーンを使って、あっという間に平らげていく。
「このフォークやスプーンは、君達の前に料理が並べば自動的に現れるから、特に念じなくてもいい。ただ料理になる前に焼きすぎて焦げてしまったり、制限時間を過ぎるとこの空間から締め出されるから、それは覚えておいた方がいい」
食材を動かし始めてからおよそ100秒経ったら1度外に出されるそうだが、作成中の料理は消えるものの、入りなおす事は可能らしい。
●悪役プレイ?
料理に満ちた空間から広場上空へ戻り、禍々しい作りの扉を前に、ヒーリショナーは『あなたたち』に向き直る。
「ちょっとひと暴れしたいというなら、こちらの空間を勧める」
そう言いながらヒーリショナーが扉を開けた先には、複数の人間達が少人数の少年や子供を取り囲み、よってたかって暴行を加えたり、嘲笑の声をあげていた。
その内の1人の男に近づいたヒーリショナーは肩を叩いて男の注意と顔を自分に向けさせ、『君達がその人間達に暴力をふるう理由は?』と尋ねると男はヘラヘラした口調でこう言った。
「暴力? ハハハ違うってこれ『しつけ』ってやつ。理由? 理由ならしっかりあるって。動きがトロイとか、空気読めねーとか、やたら態度がキモいとか。……あん? なんだその目は? ガンつけてんのか?」
そう言って胸ぐらをつかんできた男の手がヒーリショナーの体をすりぬけた瞬間に、ヒーリショナーが男に触れると、まるで力を吸われたように男が崩れ落ち、その間にヒーリショナーは強引に扉を閉めた。
「この中ではこんな集団ばかりだ。ただ暴力をふるってすっきりしたいという性格で凝り固まってるから、話してわかるような相手ではない。さっさと無力化する事を勧める」
ヒーリショナーの説明では、この空間内の『あなたたち』は先程のように、触れる事ができない幽霊のような存在になるが、自分の思い描く姿やイメージする『攻撃』を幻として相手に見せたり、触れた相手の『強さ』を奪って弱体化させるといった『悪役プレイ』ができるらしい。
「空間内にいる存在達は、外に出る事はできないけど、君達は自由に出入りできるから好きに動いてくれていい」
そのうち君達の目が覚めるだろうから、と言ってヒーリショナーは銀色の猫から降りると広場にある椅子に腰かけ、銀色の猫は先程『けるぷす』がいた空間へと入って行った。
解説
●目標
『愚神』になって夢の世界を楽しむ
●登場
愚神
ヒーリショナー
基本人格は本編のものだが、この夢の中では『あなたたち』に娯楽となる空間を作る存在にして説明役。
るーぷす
本編の『ループス』は巨漢の姿をしているが、この世界では大きな猫の姿をしている。もふもふだが無口。
けるぷす
3つの頭を持つポメラニアン。全長20cm。喋る。もふもふ。周囲の気温を26度にする。
食材
サハギンの切り身。ドラゴンの切り身。カプリコーンの舌。デザートイーグルの胸肉。オークのロースハム。調味料として塩、ニンニク、コショウ、ワインが1回分ずつある。使用したら食材も調味料も時々補充される。
暴力をふるう人達
ある空間内で『いじめられる人間にはそうされる理由がある』と因縁をつけ暴力をふるう人間達。更生は不可能。
状況
3つのドロップゾーンと呼ばれる空間が交差する広場。
以下の3つの『ドロップゾーン』へ『あなたたち』は自由に出入り可能。
A:もふもふでいっぱいな空間。『けるぷす』『るーぷす』はここにいる。
B:鍋とフライパンが2つずつあり、その周囲を食材の山が取り囲んでいる空間。料理と食事ができるが制限時間あり。
C:悪人で満ちた空間。ここでは実体のない姿で『悪役プレイ』が可能。
●『あなたたち』ができること
・空を飛べる(全空間共通。高さ30mまで)
・念動力(Bの空間のみ可能。念じる事で1度に1つだけ自由に動かせる)
・透過や幻影攻撃。パワードレイン(Cの空間のみ可能。『あなたたち』は触れた相手の強さや気力を強奪したり、イメージした自分の姿や攻撃を幻として相手に見せたりぶつける事ができる)
リプレイ
●夢です
陽だまりという表現が似合う広場の空に、複数の扉が浮いている非日常的な光景を前に、『これは夢だ』と告げられたエージェント達の反応は様々だった。
「ここが夢の世界ですか……」
「そんな……。本当に夢なの?」
鴉のような黒い翼を生やした笹山平介(aa0342)と、何かの白い翼を生やした柳京香(aa0342hero001)はそう言葉を交わし、京香は自分の頬をつねってみた。
「痛くない……。夢みたいね、これ」
そう呟く京香と笑顔を崩さない平介の傍には、灰色の羽根を持つ翼を生やした賢木 守凪(aa2548)と、黒と白の小さめの羽根を持ったカミユ(aa2548hero001)がいた。
「夢……か。目が覚めたら忘れるのか?」
そう呟く守凪に、カミユは首をかしげる。
「さぁねぇ。でもせっかくなんだし、楽しめたらいいよねぇ」
カミユは愉しげにそう言って守凪の背を押し、平介や京香と合流すると、守凪は平介に手を引かれて空に舞いあがり、カミユは京香と共にその後に続いて飛翔する。
「……? 平介、どこに行くんだ?」
「たまには皆さんで癒されるというのもいいかなと」
守凪の問いに平介はそう応え、その後ろで京香は飛びながらカミユに『平介はどこに行くつもりだと思う?』と尋ねていた。
「多分京香さんも癒される場所だと思う」
普段とは異なるしっかりした喋り方でカミユはそう京香に応え、4人はある空間への扉を開けて入っていく。
一方共にその外見の構築には、大量のカロリーが必要そうな姿のヴァイオレット メタボリック(aa0584)とノエル メイフィールド(aa0584hero001)は、空を飛べることや、食事のできる空間を確認すると、それぞれ翼を生やして飛びあがる。
「この先の空間は食の祭りのようじゃな。おぬしもこの状況を楽しむつもりじゃろう?」
「姉さん。わたくしは食材を動かすだけで、料理ができる空間の解明に興味があるだけなのよ」
楽しそうなノエルと、ノエルを『姉』と呼び、理知的な雰囲気を醸し出すヴァイオレットはそう言い合いながら、食事の楽しめる空間へと入っていく。
天宮城 颯太(aa4794)は、入れる空間を一通り見て回った後、光縒(aa4794hero001)へ確認するように問いかける。
「この世界では、ぼく達愚神みたいだよ?」
「忌々しいけど、そういうことらしいわね」
不本意そうに光縒が頷くと、颯太はこう提案する。
「ここなら、光縒さんのいう、『ことわり』から外れてもいいんじゃないかな。光縒さんに、美味しいものを食べてもらって、生きているって実感を持って欲しい」
颯太の言う光縒の理とは、食事をしないことだ。
光縒は颯太に食事をしない理由を問われた時、こう答えていた。
「食べるとは、娯楽のために命を奪う行為に等しいわ。それは世の理を破壊する事に繋がるかもしれないから、したくないの」と。
そんな光縒の意志を尊重しながらも、颯太は光縒に食事をとってほしいため言葉を尽くす。
――僕達の世界の理の中で、光縒さんも一緒に生きてほしい。
そんな颯太の強い意志におされ、光縒はようやく折れた。
「……そう。いいわ、やってごらんなさい」
「うん、向こうへ行ったら待ってて!」
承諾の意志を示した光縒に、颯太は嬉しそうに頷くと光縒の手を引いて飛翔し、先程ヴァイオレットやノエルの入って行った空間へと2人は消えていく。
「夢の世界か。それなら、私の領分だ。私の姿も元に戻っているようだし、好きにさせてもらうぞ」
杏子(aa4344)と共鳴し、杏子が若返った姿ではなく、自身の在りし日の姿になったテトラ(aa4344hero001)は、杏子の人格が完全に沈黙していることを確認すると、そう呟いて翼を広げ、空を飛ぶ。
「夢……夢なん? 色々と状況がよぉ分からへんけど……。とりあえず、ここで歌ってもよかと……?」
鈴宮 夕燈(aa1480)はそう言いながらも周囲を見回すと、見慣れた人物達がいた事に密かに安堵する。
「あ、知ってる人おった……」
夕燈の視線の先にはリジー・V・ヒルデブラント(aa4420)とオーリャ(aa4420hero002)の姿があった。
だがオーリャはリジーに『入ります』と行った後、瞳の色は赤に近いオレンジ色に変化し、話し方もどこか普段とは異なるものに変えていた。
「いやハヤ、この羽根で空ヲ飛ぶコトができるとハ」
オーリャはふよふよとリジーの周囲を飛び回って飛べる感覚を楽しんでおり、リジーはそんなオーリャにつられて自分も浮遊すると、ふと夕燈と視線が合い、夕燈に向け挨拶する。
「こんにちは、夕燈さん。夕燈さんもこちらにいらっしゃるとは幸先のいい夢みたいですわね」
「こんにちは、リジーさん、オーリャさん。夢やけど、いい日和やね」
声をかけられた夕燈は嬉しそうにリジーやオーリャのもとへ向かい、元気よく挨拶を返すが、オーリャの様子が少し違う事に気付き『オーリャさん、どないしたん?』とリジーに問いかける。
「お気になさないで下さい。今オーリャは少し『モード』を変えているだけですわ」
リジーは気品のある物言いでそう応え、夕燈、オーリャと共に、悪人ばかりが集まっているという空間への扉を開け、遅れてテトラも合流し中に入っていく。
広場に残った愚神ヒーリショナーは、『イングリ・ランプランド(aa4692)は何か事情があったのか、この夢の世界には来れなかったようだ』と、ぼそりと呟いた。
●楽しんでみた
平介、守凪、京香、カミユが入った空間の先には、4人にとって見覚えのある存在がいた。
「けるぷす……! ……そうか、ここにいたのか……」
しみじみと呟く守凪を、連れてきた平介はにこやかに見守っている。
「け、けるぷす……」
そう呟く京香の視線の先には、首に『けるぷす』と書かれたひらがなの看板を下げた、3つ頭のポメラニアンが複数動き回っている。
実は京香は、また会えたら可愛がりたいと思っていたが、いざそれが叶った今、内心葛藤していた。
(あ、相変わらずのもふもふ……。ギュっとしたいけど……抱きしめたら苦しいかも。そ、そっと触ったり、抱き上げたりくらいなら苦しくないかしら)
だが京香の葛藤する間にも、とてとてと京香のもとへ『けるぷす』の1体が近づいてきた。
(どうしよう……か、可愛い……)
そんな京香の葛藤を、言葉には出さなくてもカミユにはわかっているようで、カミユは優しく京香に助言する。
「そんなにぎゅっとしなきゃ大丈夫だと思うよ? 嫌だったら嫌っていうだろうし」
カミユの助言に後押しされ、京香は自分の足元に来た『けるぷす』を抱き上げる。
「か、カミユ……すごい。『けるぷす』の毛並みがやわらかいわ」
しっかり『けるぷす』をモフモフした後、京香はカミユに『けるぷす』を手渡す。
「んん……。確かにもふもふだね」
京香のはしゃぐ姿は楽しいと思うと同時に、そうさせている『けるぷす』に、カミユは少し名状しがたい思いを抱きつつ、『けるぷす』の感触を確認してそう呟き、再び京香に『けるぷす』を返す。
そんな京香やカミユの様子を、平介や守凪も眺めていた。
「……こんな風に、穏やかに過ごせたらいいんだがな……」
――俺は愚神や従魔に何か奪われたわけではないから、そう思えるのかもしれないが。
そんな守凪が内心吐露した声が聞こえたのか、そうでないのか、平介は常変わらぬ笑顔のまま頷いた。
「そうですね。……ここでなら、きっと守凪の願いはかなうでしょうね」
平介は『けるぷす』に関しては積極的に討伐するつもりはなく、守凪に思い出を作る事のほうが大切だった。
――振りかえって、楽しいと思える思い出を。少しでも多く守凪には持たせてあげたい。
そんな風に『けるぷす』のいる空間は、終始もふもふで和やかな時間が流れていた。
制限時間付きの食事空間では、ヴァイオレットがフライパンにデザートイーグルの胸肉を放り込み、ノエルも別のフライパンにオークのロースハムを放り込んで、共に『回す』のボタンを押しまくっていた。
フライパンに『出す』という文字が出た時、ノエルはいち早く自分の皿に取り出して『オークのハムステーキ』を出現させ、すごい勢いで貪り尽くすと、空になった皿に『デザートイーグルのソテー』が追加された。
「姉さん、あげる」
なぜかこちらを見ようとしないヴァイオレットに不審を抱きながらも、ノエルは出された料理を食べていくが、途中である事に気付き、完食した後ヴァイオレットに突っ込みを入れた。
「焦げすぎじゃ。失敗した料理の処分をワシにおしつけるでない」
「食の細い私より姉さんなら大丈夫と思っただけなのよ」
そう応じながらヴァイオレットは、新たに作った同じ料理を今度は自分の皿に盛りつけ食していく。
「今のおぬしのどこが『食が細い』のじゃ?」
ノエルはヴァイオレットがものすごい勢いで料理を食している姿を見ながら、呆れた口調でそう言うが、自分も同じような速度で料理を吸収していき、心なしか2人の姿が徐々に人間離れしていくようにも見える。
そして空いたフライパンや鍋も使って、颯太が様々な料理に取り組んでいた。
事前説明では、ただ鍋やフライパンに食材や調味料を放り込めば、自然に料理はできあがるのだが、颯太はイメージして具現化した調理器具を駆使し、下ごしらえから出汁とり、煮込み料理での灰汁とりなど一連の動作を手際よく行っていく。
「よし、間に合った!」
颯太が制限時間内で仕上げた料理に会心の叫びをあげる。
そしてフライパンより取り出し、光縒の前に現れたのは、一見すると普通の骨付きステーキ肉を程よく焼いたのち、複数のソースで煮込んで味を絡めた煮込みステーキだった。
差し出された料理に、光縒の握られたナイフとフォークが伸びる。
「ふぅん。ナイフがスーッと入るわね。焼き加減は合格……」
1口サイズにカットした肉をフォークに載せ、ソースの滴る肉を光縒は口に含む。
「何、この複雑なうま味っ! これは、3種類の肉を挟んでいる……!?」
それはドラゴン肉・カプリコーンの舌・オーク肉を颯太が薄くスライスして重ねた3重肉の煮込みステーキだった。
光縒が奥歯でかみしめた瞬間に、肉から肉汁を伴ったソースが溢れだし、溶けるように喉へ流されていく。
「うま味が幾重にも重なって、それが濃厚なソースと絡まり、口の中だけじゃなく喉にも広がっていく!」
うーまーいーぞー!
何やら食レポのような叫びのあと、光縒が口から光線の様なものを発していた気がするが、きっと気のせいだろう。
――などと颯太が思いながら眺めていた光縒が我に返り、静かに咳払いをした後、颯太にこう言った。
「これが生きている、ということなのね。覚えておくわ」
「うん。じゃあ次もこの空間に入ろうね」
その言葉に颯太が嬉しさをこめてそう言って、光縒に手を差し伸べたところで、この空間の制限時間が来た。
そんな2つの空間とは毛色の違う悪人だらけの空間では、『ほな、飛ばして歌うでーっ!』との夕燈の叫びと共に、その一角に突如派手なライブ会場が出現してた。
ライブの奏でる爆音が周囲に広がり、それまで暴力を振るっていた人間達の意識をライヴ会場へと向けさせる。
無数のライトや花火で色どられたライヴ会場のステージ上では、夕燈が飛行しながら普段は歌わないような激しく派手な歌を熱唱していた。
「~♪」
時々シャウトも入れてパンクからハードロックのような雰囲気を出し、夕燈は楽しそうに飛び回って歌い上げる。
(飛べるんも楽しいけど、派手な感じでバンバン歌えるんのも楽しい! これであとは暴力を振るう人達さんも歌乗せられたら、暴力やめたりせぇへんかなー?)
そう思いながら夕燈は出来る限り多くの人達の頭上を飛び回り、自分の歌を届けていたが、夕燈の願いほど暴力を止めた人間は多くなかった。
しかし暴力を止めない男達のもとには、既に夕燈の歌に合わせて踊っていたオーリャや、一緒に歌っていたリジー、最初から制裁を加えるつもりだったテトラが向かっていた。
「『人間の営為ハ中道にしテ熄みやすイ』(人間の活動はすぐ堕落しがちになる)……トハ、よく言ったモノだ」
今のオーリャは自称『不詳の人形』モードとなって、悪人たちを見下ろしていた。
「不詳の人形を知っているカ? 周りにハ死が絶えナかッタ、血や死ニ塗れタ人形よ」
オーリャの言葉に合わせるように、オーリャの姿が悪人達の目には禍々しく変貌していく。
そんなオーリャに悪人達の拳や蹴りが襲うが、いずれの攻撃もオーリャの体を擦り抜け、男達は無様に転倒する。
「ああ、こいつらは助けてもどうにもならん連中だ」
ひとしきり周囲の悪人達を観察し、そう呟いたテトラにもその悪人達は取り囲み、拳や蹴りを見舞うが、全てテトラをすり抜ける。
その向こう側にいた別の悪人達に攻撃が当たる中、テトラは振り向いて、背後から襲いかかってきた男に幻影を送る。
「敵はおまえの周囲にいるぞ」
酷薄な笑みと共にテトラが男にそう告げると、テトラに操られた男は別の人間に攻撃を加え、同士討ちが始まる。
「誰でもよいのだろう? そういう連中の間だけで好きなだけ暴れていろ」
テトラが醜い同士討ちを観察しながら悪人達にそう告げる中、空を飛んで気持ちよく歌を奏でる夕燈に暴力を振るおうと近付く別の悪人達には、リジーが密かに先回りし、男達の振るう暴力を素通りさせては力を奪っていった。
「『己に返ってくる矢を放ってはならない』。不干渉でもよかったのですが、やはり皆さんのような存在は不快ですわね」
古い戯曲の中にあった諺を口ずさんだリジーの周囲では、力を奪われた男達が立ち上がろうとしては転ぶ、無様な姿をさらしていたが、リジーはそんな男達に一瞥もくれることなく、再びオーリャのもとへと向かい、リジーによって邪魔者が消えた夕燈は、あらゆる音が周囲を揺さぶる激しい歌を歌いあげ、悪人空間の一角を熱狂の渦に巻き込んでいた。
「暴力はあかんでー! やったらぺんぺんやで!」
「さあ、精々ワタシの舞台ノ上で踊り狂うが良イ」
夕燈の作る熱狂空間に向かわなかった悪人たちには、嗤うオーリャが襲いかかって無力化されていき、悪人達の空間はリジー、オーリャ、テトラ、夕燈達によって制圧されつつあった。
●さらに楽しんでみた
食事のできる空間では、引き続き颯太が光縒への料理を作り続けていた。
今度は肉単品の味を楽しんでもらうため、カプリコーンのタンソテー、ドラゴンのフィレステーキ、オーク肉のピカタの3種を作り上げ、光縒の前に並べていく。
「ふぅん。今度はそれぞれの味が楽しめるわけね」
口調こそ冷静だったが、料理を口に運ぶたび、光縒の食べ方が一心不乱になっていく。
合わせて颯太が鍋で作ったデザートイーグルのロワイヤルは、卵とブイヨンを合わせて蒸し、卵豆腐のように固められ、トマトやグリンピースなどで色づけされている。
「これも自信作なんだ。さあ、光縒さん。食べてみて!」
空間内での調理で、颯太の手際がさらに上達した結果だ。
「これは……なかなか……プルプル……とろとろ」
休むことなく光縒はスプーンを口に運び、勢いよく食べ続け、あっという間に皿が空になり。
「うま―――いっ!」
光縒は口から子供のような声をあげ、つかの間光線の様なものを再び発する幻を見せた後、咳払いし冷静さを取り戻す。
「良かった。生きている、って実感が光縒さんの中に増えて」
颯太はそんな光縒の様子に満足していた。
一心不乱といえば、ヴァイオレットやノエルもそうだったが、この2人は何度も空間を出入りして食事を重ねていくうちに、その姿がどんどん人外のものへと変わっていく。
気づいた時にはヴァイオレットは他人から見ると、体に金属のフレームが走り、顔や体の凹凸は見えるが、紫色の樹脂でできた彫像のように変化したヴァイオレット曰く『メタシフター』に変化していた。
同様にノエルの姿も黄土色の岩の集合体が人の形をとったような鬼の姿、ノエル曰く『オーカシャ』へと見える姿が変わっていた。
「これがわたくしなのね。姉さんは……岩になってしまったのね」
「何ヲ言ッテオルンジャ。ワシハ鬼……ア、ソウジャナ。ワシハ岩ノ化身ジャ」
ヴァイオレットの言葉にノエルは反論しかけるも、一瞬考えてノエルは首肯する。
その間にもヴァイオレットは外見上は目も口もないはずなのに、よほど気に入ったのかデザートイーグルのソテーを次々と口らしきあたりに放り込んでいく。
「良ク喰ウノウ。口ナド無イダロウニ」
「それを言うなら姉さんだって岩なのに、食べる必要はあるの?」
「姿ガ変ワロウト、ワシノ食欲ハ健在ジャ」
珍しくヴァイオレットに切り返されたノエルはそう応じ、オークのロースハムステーキを平らげていく。
やがて調理に慣れてきたのか、ヴァイオレットとノエルは調味料として置かれたニンニクやワイン、塩、コショウもお互い役割分担して鍋やフライパンに投入し、時々喧嘩しつつも仲良く味のバラエティを増やし、楽しんでいた。
こうして食事空間がフル稼働する中、モフモフ空間では穏やかな時間が流れていた。
「カワイイ。あ。この子たちも」
どうやらぎゅっと抱きしめても問題ないと、カミユから教えられた京香は『けるぷす』をモフモフしていたが、ふと周囲に別の『けるぷす』達が集まってきているのを知って京香の頬が緩む。
「ボクは京香さんのほうが可愛いと思うけどね」
「……! そ、そう……ありがとう」
カミユのストレートな物言いに、京香は照れながらも礼を言う。
(もふもふしているところも、照れているところも可愛いな)
などとカミユは内心思っていたが、京香が口にした『こんな風に、みんな幸せになれたらいいのに』という言葉には何も言えなかった。
その頭上には、自分達もモフモフを堪能して癒しをもらい、今は空を飛んでいる守凪と平介の姿があった。
「平介も、気を使ってばかりだと疲れるぞ?」
「大丈夫。今は楽しいからね」
平介の口調は守凪との約束通り砕けたものになっているが、守凪は一瞬だけ覚えた違和感については口には出さずにいた。
だからこう口にするにとどめておく。
「そうだな。ここは……穏やかだから」
「そうだね。ここならきっと」
――どうか陽だまりの暖かさが届きますように。
それは誰かの願いかもしれない。
そこへ別の空間で歌いまくり、疲れた夕燈がふよふよと飛行しながら入ってきた。
夕燈は周囲で動く『けるぷす』や、巨大な銀色の猫『るーぷす』の姿を見て『もふもふがいっぱいやぁ~』と嬉しそうな声を上げ、近くにいた『けるぷす』をモフモフしながら、ふかふかの床へとダイブする。
「ごろもふやぁ~。もふもふは正義……」
そんな夕燈に周囲から『けるぷす』達が集まり、多数の『けるぷす』の下敷きになるものの、夕燈は苦しくないようで、もふもふに包まれ嬉しそうだ。
「これ、持って帰ってええ……?」
夕燈が『けるぷす』をもふもふしながら『るーぷす』にお持ち帰りを所望するが、『るーぷす』は緩く首を横に振る。
「あかんの? しょんもり……」
夕燈はしょんぼりとするが、ならばここで思う存分堪能するとばかり、周囲の『けるぷす』に全身を埋めてもふもふを楽しむ。
「ねむみ……あれ、夢の中でも寝れるんかな……?」
そう囁いて、夕燈は『けるぷす』達に包まれ眠りにつく。
一方制圧された悪人空間では、力を奪われた悪人達がリジーやオーリャに自分達を攻撃する理由を必死に尋ねていた。
「『剣に依る者は剣によって滅ぶ』。皆さんにそれが該当するだけですわ」
「理由? 強イテ言えば、退屈シのギ、カナ。汝らもソウであろう? 大しタ理由もなくその子ラを虐げタのだろウ?」
リジーは古い戯曲に引用された言葉を口ずさみ、オーリャは自分達に感謝しながら消えていく人達を見ながら、悪人達にそう応え、悪人達へ幻影を送る。
「た、たすけ……っ!」
悪人達は横にいたテトラに懇願すると、テトラは悪人達へ蔑みの笑みと共にこう応じる。
「おまえたち、今消えた人達に、笑いながら暴力を振るっていたな。だったら、同じこの状況で、どうして自分達だけ助けてもらえると思えるんだ?」
テトラの言葉に合わせ、周囲に無数のナイフが顕現し、テトラが『行け』と短く告げると、四方八方から飛翔音が集中し、何十本というナイフが悪人達に突き立った。無論テトラの幻影攻撃だ。
ナイフの針山にされる幻を見せられた悪人達は、そのまま昏倒し気絶する。
「こんなものか。リジー。そちらはどうだ?」
テトラに声をかけられたリジーは『そろそろ面白みも失せてきましたの』と応じ、オーリャに『帰りますわよ』と声をかける。
「……はーい!」
リジーの声を受け、一瞬で元の人格に戻ったオーリャは可愛らしく返事をしてリジーに合流する。
「私もこれで十分だ。帰るとしよう」
テトラも悪人達への攻撃を止め、リジーやオーリャと共に外へ出る。
そこにはあの広場ではなく光に満ちており、3人は直感でこれが夢の終わりだと気付いた。
●日常へ
そしてエージェント達はいつもの世界の朝を迎える。
平介や京香、守凪やカミユはモフモフ空間で体験した内容を覚えており、記録には残せなかったが4人の共有できた大切な思い出にしたらしい。
夢の世界で颯太の料理を存分に味わった光縒が、現実の世界でも料理を食べるようになったかや、共鳴する事で、杏子に夢の中の出来事を見せなかったテトラが、杏子に夢での出来事を話したかについては、コメントを差し控えさせて頂く。
「『この世は舞台。人は皆ただの役者』。まったく、踊らされていたのはどちらだったのやら……」
古典戯曲の一節を口ずさみ、リジーはあの広場にいた愚神の姿を一瞬思い浮かべ、夢での体験をそう締めくくる。
そしてあの夢の中で歌いまくり、モフモフを堪能できた夕燈は、何かをやり遂げた達成感や癒し成分を胸に抱き、今日も元気よく一日を送っている。
「ノエル。次はケバブの店に行きましょうか」
「ふぁあ……。腹ごなしの仮眠はまだ慣れんの」
そしてヴァイオレットとノエルは、いつもの食欲に満ちた日常を送っていた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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