本部

【初夢】お嬢様、御手をどうぞ

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
4人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/01/14 20:32

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掲示板

オープニング

 この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。


「いらっしゃいませ。ホストクラブ、金木犀へようこそ」
 スーツ姿の男性にエスコートされ、美しいドレス姿の女性が黄色い悲鳴を上げた。黒を基調としたシックな内装の店は、明かりも落とされて大人の雰囲気を漂わせている。壁にかけられているのは、何人もの男性の写真。
「お好きな先輩の名前をおよびください? えっ、先輩って誰だって、この店では接客をする従業員――つまりホストを先輩と呼ぶルールなんですよ。僕たちみたいに、お客さんを案内したりお酒を運ぶのは後輩です。大丈夫、ちゃんと僕たち後輩も指名ができますよ」
 とどのつまり、先輩ホストと後輩ホストというだけである。
「あの、二人ずつテーブルについているみたいなんですけど料金は倍するんですか?」
 初めて利用する女性客に、後輩ホストはにこやかに答える。
「メインのホストについてくるのは、盛り上げ役のホストですね。お酒を飲んで場を盛り上げたり、一発芸などをやったりして場を持ちあり上げるのです。そのほかにも指名が付かないホストがお客様の座席にやってくることがありますから、気に入ったら指名してください。「ここに座って」と言わない限りは、料金は発生しませんので」
 メインのホストについてくる男性は、自分を売り込みにやってくるホストなのである。彼らを気に入れば「座って」と言って指名をする。指名をすれば料金が発生するが、その男を独り占めできるのである。逆に指名しなければ、ホストがどの座席に移動しても文句はいえない。
「たっくん――。あーん、してほしいな」
 隣の座席では、女性客が男性ホストに何やら頼んでいる。
「あれは、当店で人気の少女漫画サービスです。お客様がホストにやってほしいこと「あーん」や「壁ドン」「お姫様抱っこ」などを別料金でサービスします。でも「キス」は大切な人のために取っておいてくださいね。ああ、そのほかの贈り物ならば大歓迎です」
 断られているのに、男性の柔らかな物腰に女性客はくらっときてしまう。なんだろう、この大切にされている感じの幸福感は。
「このコスプレサービスは?」
「ホストがお客様の好きな格好でサービスをいたします。いささかお値段も張りますし、ご用意できない衣装もございますが……先輩たちは皆かっこいいですよ」
 ささやかれた女性客は、顔を真っ赤にした。
「えっと、あなたに座っていてほしいな。あと、お酒とフルーツも」
「はい、少々お待ちくださいませ」
 にこり、と後輩ホストは笑う。

 ここはホストクラブ。
 今宵も美しい男たちが、女たちをとびきりのお姫様にしてくれる。

解説

※このシナリオは「IF」シナリオとなります。よって共鳴はできません。
男性ならば「ホストクラブで働いている」女性なら「客として店に来ている」ということになります。※男性が客になり、女性が「男装」してホストになることも可能です。

・ホストクラブ 金木犀
都会にある夜の店。地下に店があり、店内に窓はないがシックな大人の雰囲気が人気。店の敷地面積はさほど広くないが、そのぶん客とホストの距離も近くなるとのこと。酒やお摘みはなんでもあるが、シャンパンとフルーツ盛り合わせが人気。
基本的に客はソファーに座っており、そこが客とホストの席となる。

・メインホスト
 基本的に女性を接客するホスト。人気ホストがつくことが多い。

・盛り上げ役のホスト
 席にやってきて、芸をして盛り上げる。酒をたくさん飲む役でもある。

・後輩ホスト
 お酒やお摘みを給仕する役割。


・少女漫画サービス
「お姫様だっこ」「あーん」「壁ドン」などのシチュエーションをやってくれるサービス。事前に後輩に耳打ちすれば、より自然な態度でホストがサービスを行ってくれる。別料金。

・コスプレ
 ホストが着替えてくれる。店内の衣装にかぎりがあるため、対応できない場合があり。持ち込みOK。別料金発生、高い。

・客
ドレスコードありのため、着飾っての入店をお願いします。ホストへのプレゼントはOK。

そのほかのサービスもホスト自身に頼んでOKがでたら可能となります。

リプレイ

 街のネオンが輝き、暗い夜が華やかに彩られる。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
 ここは、ホストクラブ『金木犀』
 麗しい男性が、女の子たちをとびきりのお姫様に変えてくれる魔法の店。

●『いらっしぃませ』
『なんとも落ち着いた、大人っぽい雰囲気のお店ですね』
 切裂 棄棄(aa4611hero001)は、階段を下りた先にある店の門をくぐった。明かりの落とされた店内は、シックで大人びた雰囲気を醸し出している。ホストクラブめぐりを趣味としている棄棄は、今日の服のコーディネイトと店の雰囲気がマッチしていたことに人知れず喜びを感じた。そして、店が上品であることにも喜びを感じる。なにせ、今日はホストクラブめぐりの初心者たちも連れ立っての来店である。
「ホストクラブ……。これが……いわゆる「オトナの世界」というものね」
『まさかそんな所に、しかもミィと一緒に来る日が来ようとは思いませんでした。というかめくるめくアルコールワールドじゃないの? 私らザ・未成年なんだけど』
 自分たちの手持ちの服の中で一番可愛く高価な私服に身を包んだフレイミィ・アリオス(aa4690)と亜(aa4690hero001)は、若干おどおどしながらも棄棄の後ろをついていく。
「酒を飲めば追い出されますけれど、ノンアルコールを頼んでいる限りは見逃してくれますよ。今は堂々として、お姫様である自分を楽しみましょうか」
 棄棄の場馴れした言葉に、パチパチと拍手をおくるホストがいた。
「さすがは、ホストクラブ通の棄棄だよ」
 見た顔のホストだ、と棄棄は思った。
 彼女が悩む前に、彼はすかさず自分の名刺を胸ポケットから取り出す。
「覚えていないだろうか? 以前の店で、少しばかり世話になったシオン(aa4757)だ」
 瞳に、どこかサディスティックな冷たさを感じる男は棄棄のほっそりとした手を取る。違う店で浮名を流していた彼にとっては、この程度の接客はあいさつの様なものだ。自分を指名すればもっと甘い店を見せてあげるよ、と無言で女性を誘惑する。
「どんな素敵な出会いがあるか楽しみにしていたら……まさか棄棄との縁がまた繋がるなんてな」
 手の甲に口づけしそうな距離感にフレイミィは、頬を真っ赤にする。顔立ちの整ったイケメンが、ナチュラルに自分たちをお姫様扱いしてくれる。そういう店である、とフレイミィはようやく自覚した。
「今夜も仕事か……。あー、くっそだりぃ……」
 客の前でも欠伸を隠そうともしないホスト、ツラナミ(aa1426)が現れる。数年前までは夜の帝王として君臨していた彼も、今では勢いと若さを失っているせいか売り上げは落ち込み気味であった。だが、その達観した佇まいから昔とはまた違った客層の女性たちに愛されているホストである。
「あーちゃん。細かい事はいいじゃない、ホストクラブは夢見る場所と聞いているわ……つまりは非日常、楽しんでいきましょう」
『ま、それもそうですかね』
 とことん楽しむと決めたらしいフレイミィと亜の姿を見たツラナミは、若干眉を寄せる。店の方針は知ってはいたが、やはり彼女たちほど幼い客を入れることに抵抗を感じているらしい。
「あー……今は指名が付いてないからな」
 指名はされていないツラナミは、それとなく幼い二人組を見守ることにした。仕事のほとんどが接客という名の人生相談になりつつあるツラナミにとっては、子供の話を聞き続けることなど苦にはならないはずだった。
「うーん……私は身も心も子供だから、無理に大人扱いしたりはなくて、私を子供と分かった上で一人のお客として見てくれる人が居れば指名したいわ。No1を目指してるのなら支援も、できれば」
『私は……面白ければそれで、指名して色々見てみたいかなぁ』
 どうやらリッチな子供たちらしいがだが、無駄遣いさせるわけにはいかない。
「あんたらね。あんまり、こんなところで無駄遣いをするもんじゃないぜ」
「私たち、色々と経験してみたいのよね」
『でも、見ての通りなので。アルコールはなしで』
 まずはデザート系をお願いします、と亜はメニュー表を開く。
「あら、先客がいまして?」
 次に店に入ってきたのは、ナーサリーライム(aa4502)である。イギリス人の彼女は自前の金髪を軽やかに揺らしながら、店内を見渡す。そして、慣れた様子でシオンに命じた。
「一番人気のヒトをお願いします」
 にっこりとほほ笑むナーサリーライムに、シオンは「ただいま、お呼びします」と返事を返した。
「ここが……金木犀でしょうか?」
 次に店に入ってきたのは、豪奢な振袖に身を包んだ泉 杏樹(aa0045)である。ドレスコードがある店とは言え、彼女ほど高価な衣装をまとうものはいないであろう。見事な友禅に、店員だけではなく客までもが「ほぅ」と感嘆のため息をもらした。
「杏樹も、大人になったから……1人で、おべんきょ、です」
 色々と教えてくれて優しい人はいませんか、と杏樹は後輩ホストである東城 栄二(aa2852)に尋ねた。童顔の彼はよく未成年に間違えられるが、立派な成人である。夜の街で働いていることもあり警察に「未成年だろ!」と引っ張られていき、ショックを受けこともしばしばだ。それでも生真面目な雰囲気は、いると夜のお店っぽくなくて良い意味で安心すると女性客に評判である。
「優しい人ですね。だったら、色々と教えてくれる大人の先輩がいますよ」
 しかも、とびきりかっこいいです。
 と、栄二は杏樹に耳打ちする。
「私たち後輩ホスト陣をご指名頂くこともできますよ」
 にっこりとほほ笑む、栄二。
 先輩を指名してもらえれば彼は高確率で、栄二にサポートを頼むであろう。そうなれば、次の指名につなげられるかもしれない。本当は自分が指名されたほうが給料的には美味しいのだが、と守銭奴な先輩が乗り移ったようなことを考えていた栄二であった。
「としうえの人が、いいの」
「榊さ~ん、ご指名入りましたよ~」
 にこやかに手を振る、栄二。
 客から見せない位置で、大きくバツ印を作っていた榊 守(aa0045hero001)。
 ホストクラブに着物を着てくる箱入りお嬢様など滅多に見ないカモ――ではなくて上客なのに、どうも守の食いつきは悪かった。
『今日の俺は執事じゃない、ホストだ。……お嬢の面倒は他の奴に頼むぜ』
 杏樹の執事が、守の本業である。
 ホストはあくまで副業であったが、その副業を雇い主の娘に知られるのはさすがにまずい。即刻首クビにはならないだろうが――色々とややこしい事態に発展しそうだ。
「お譲さん、こういうお店は初めてなのかな?」
 布野 橘(aa0064)が、杏樹に微笑みかける。守が指名を拒否するという異例の事態に陥ったために、代理として杏樹の接客をオーナーから命じられたのである。
 橘はこの店で、一番ホストらしいホストである。とにかく明るく、相手を楽しませる話術に長けている。初対面の人間にも「お嬢さん。おっ、可愛い服! なんだっけ、アリス?」とすらすらと言えてしまえるのだから、天性の才能なのであろう。
「はい……はじめてです。あの……布野さんは、年下でしょうか?」
 年上と聞いていたから、てっきりダンディーな男性がくると思い込んでいた杏樹は小首をかしげる。杏樹の席に座って早々に「俺、未成年だからお酒はNGなんだ。ごめんね」と言った橘は経験豊富な大人の男性には間違っても見えない。
「たしかに年下だけど、お人形さんみたいに可愛い杏樹ちゃんに色々と教えてあげれちゃうんだぜ。あっ、杏樹ちゃんって呼んで大丈夫?」
 勢いのあるトークに若干押されながらも杏樹は、こくんと頷いた。
「どうぞこちらへ、お嬢さん。赤と白、どちらになさいま――あぁもう、どっちがいい?」
 同じ年頃の橘は底抜けに明るそうで、会話に困るというタイプでなさそうだ。きっとホストに向いている性格なのであろう。性格が武器になる職業があるとは、世間は広いものであると杏樹は人知れず思った。
「そだ、チョコレート、メニューにあるんだ。どう? 世にも珍しい、チョコカクテル。アルコールも控えめだから、女の子は皆好きだよ」
 メニュー表に書かれた「チョコカクテル」の文字に、杏樹の目は輝いていた。
「ここは、何のしがらみにもとらわれないお嬢様でいられる。どうぞ、ごゆっくり」

「おや、今日は随分とかわいらしいお客様が多いみたいだね」
 来店したミラルカ ロレンツィーニ(aa1102)は、いつもの席に優雅に座っていた。脱いだレザージャケットの下から現れたのは天鵞絨のベストとレースのブラウス。下半身のスカートさえ目に入れなければ、貴族の少年のように見える恰好であった。
「お久しぶりです、ミラルカさん。すみません、メインのホストたちは手一杯でして。せめて、慰みとなると良いのですが」
 君建 布津(aa4611)の手から、一輪のバラが生まれ落ちる。年齢不詳とプロフィールにまで書かれる布津は、実はこの店では一番の古参である。稀に常連客と楽しそうに昭和の思い出話を語っているが、今夜のお嬢様方の年齢からそういう内容にはなりそうにはなかった。そんな彼が取り出したバラは、貴公子のようなミラルカにささげられた。
「ミカフツ、暇なホストを全員呼び出してくれ。メインのホストじゃなくてもいいよ。美しい姫君を愛でて、華のような男たちにかしずかれて。女に生まれて謳歌せずになんの夜遊びさ」
「はい、ありがとうございます」
 布津は、手の空いているホストをかたっぱしから集めた。人気ホストは全員指名が付いていて若手ばかりが集まったが、それゆえに華やかな席となる。
「どうぞ、ごゆるりとお楽しみくださいませ」
 ヴィクトア・ローゼ(aa4769)は、未成年のミラルカのためにノンアルコールのカクテルを持ってくる。布津と同じく年齢不詳にも思える雰囲気だが、ヴィクトアはまだ若手だ。その物腰の柔らかさから、正統派美形が好きな女性から人気がある。
 ヴィクトアは持ってきたのは青と黄色の美しいグラデーションのカクテルであったが、そのグラスには突き刺さった花火には火がついていない。
「おや、火を忘れてしまったのかね?」
 ミラルカの言葉に、ヴィクトアは首を振った。
 本業が執事であるヴィクトアは、常に心がけていることがある。主人と同じように女性に接すること。違うことは、女性に対してはサプライズを意識すること。
 ぱちん、とヴィクトアは指を鳴らす。
 カクテルに刺してあった花火に、火が付いた。
「こう見えても、僕、トランプを使ったマジックやナイフのジャグリング、得意なんですよ」
「へぇ、面白いね。君も飲むかい?」
 ヴィクトアの前にグラスが置かれた。
 グラスを置いたのは、38(aa1426hero001)である。幼い少年のようにも見える38は、弟にしたいと年上の女性に人気のホストである。しかし、若干喋りべたなところがあり、なかなかメインホストにはなれない。
『ハーイハイハイ、ハーイハイハイ、ぐーいぐぐいぐいぐーいぐい』
 そんな彼女も、コールはせめてと手拍子付きで盛り上げる。
『では、お代りは私の特技で』
 38はカクテルを作る道具をひょいひょいと空中に浮かせる。きらびやかな道具たちは、38の手によってジャグリングの道具に早変わりする。
『ほいっ、ほいっ、とう!!』
 あっという間に、一杯のカクテルが完成した。
『上手くできたらご褒美一杯、失敗したら罰ゲームの激マズ一杯』
 作った38は、ドリンクを再びヴィクトアの前においた。
『ハーイハイハイ、ハーイハイハイ』
 飲めというコールに、ヴィクトアはぐいっと勢いをつけてカクテルを飲み込む。なお、38の制作したカクテルはトマトジュースを主軸にしたカクテルである。隠し味は、タバスコ。
当然、ヴィクトアはせき込んだ。
『これは……甘カラ系の味がします』
 ヴィクトアは、白いハンカチで口元を抑える。
 ハンカチに白いシミがついて、まるで吐血したかのようだった。その佇まいは薄幸の美青年の風情がある。
『罰ゲームの激マズ一杯。38、いっきまーす』
 ちゃちゃちゃ、っと作ったカクテルを38は腰に手を当てて飲み干す。
『ん……ご馳走様でした』
「そ……それは、本当に僕のと同じ味だったんですかね?」
 ヴィクトアは自分とお内容に作られたカクテルを飲んでしれっとしていた38に、疑いの目を向ける。
『こちらの罰ゲーム用のカクテルは、お客様が飲むことも考えて若干辛みと甘さが控えめなってるんです』
「それでは、ただの味が薄い冷たいトマトスープではないですかっ!」
 ヴィクトアが38を叱咤するとなりで、布津はミラルカのためにお代りを注ぐ。
「なんだ、君ら。ほら、喧嘩をしてないでこっちにお座り」
 愛玩動物を愛でるかのように、ミラルカはヴィクトアと38に声をかける。指名を受けた二人は、ミラルカを挟むように座った。
「……これは、中々ハードですね」
 ヴィクトアの小さな呟きを、ミラルカは聞き逃さなかった。
「ん?」
「どうぞ、ごゆるりとお楽しみくださいませ。僕が、今楽しませることができるのはあなただけですから」
 お役目ごめんかな、と布津が席を立とうとするとミラルカは彼の腕を引っ張った。
「ミカフツ、君を気にしているお姫様がいるようだよ。せいぜい私をちやほやして、姫君を嫉妬させるんだね。……その後やっぱり君が良い、ってすっ飛んでお行き。効果抜群だから」
 ミラルカが微笑む向こう側には、棄棄がいた。
「あの方は、僕が側に行っても楽しくはないと思いますよ。それより、僕はミラルカの可愛いナイトたちのためにフルーツを取ってきますね」
 それともお酒が良いですか、と布津は微笑んだ。

●『お嬢様はご機嫌斜めですか?』
 ナーサリーライムは若干イライラしていた。実は彼女、好みのタイプを発見したのだ。だが、彼女はホストではなく客であった。名前も知らない客にときめいたなど、ホスト慣れしたナーサリーライムのプライドが許さない。
 そんな不機嫌そうな彼を喜ばせようとするホストが一人。
「姫……俺は貴女の騎士になれる、かな?」
 憂いのはれないナーサリーライムにバラの花を差し出す、シオン。
「うかない顔だね。姫、俺でその憂いをはらすことはできるかな」
「そうね。バラを片付けて、シャンパンとフルーツを持ってきて」
 高慢なナーサリーライムに態度に、若いホストならば苛立ちを覚えるであろう。しかし、シオンは他の店で経験を積んできたホストだ。たとえこの店では若手であっても、女性を微笑ませるための心得は会得している。
「姫、俺じゃ代わりにならないんだね」
 子犬のような顔をしてみせるが、ナーサリーライムの視界には入れない。ここは店が誇る「厄介な客をさばいてくれるホスト」を助っ人に呼ぶしかない。
「……あんた、大分顔赤くね。ちょっと休めよ」
 ナーサリーライムの隣に座ったのは、守だ。
「あら、私はまだ全然酔っていないですわ」
 高慢なナーサリーライムの態度にも、経験豊富な守は余裕の構えであった。
「良い女とアルコールはワンセットでいて欲しいもんだが、良い女こそ良い気分で良い酒を飲んで欲しいもんなのさ」
 守は、ぱちんと指を鳴らした。守とそろいの執事服に身を包んだ栄二は、ナーサリーライムにレモンを絞った水を差しだす。守は、栄二に何時かと尋ねた。栄二はもっていた懐中時計を取り出す。
「9時です」
「なら、まだシンデレラになる時間じゃないな」
 守は、栄二が注いだ酒を飲みほした。
「ではごゆっくり。夢中になって、穴に落ちないよう気を付けて、な」
 橘はよほど金払いのよい客を捕まえたのか、上機嫌で声をかけてきた。片手には、チョコカクテル。甘い匂いに、ナーサリーライムはうんざりとした顔をした。
「……欲しいものが手に入らないって、悔しいものです。ここは、それ以外は夢のように美しい場所なのに」
 はぁ、とため息を吐くナーサリーライムは失恋したかのようであった。
 そんな彼女の髪に、男がふれる。
『俺のお姫様。あんまり綺麗な髪だったから触りたかった。嫌なら辞めるけど』
「そうね。今はお姫様と呼ばれる気分ではないです」
「なら、お嬢様」
 守は、ナーサリーライムの前で膝をつく。
『今夜のわたくしは貴方の執事、お側におります』
 
●『リッチに遊んでください』
「わー、いったーい! でも、うれしいから杏樹ちゃんの言うことなんでも聞いちゃうぞ!!」
「もっと、ちょこ、ください、です」
 杏樹がバックから出した札束で、橘の頬をぺちぺちと叩いていた。橘は満面の笑みを浮かべているが、店の趣旨から大いに外れているような気がしないでもない。
「お客様、大丈夫でしょうか!? うわわわ、お札の匂いこちらにまで来ます!!」
 守の知り合いのようだからと様子を見に来た栄二は、完全に巻き込まれていた。お札の魔力で杏樹にチョコ捧げる係りとなった、橘。守のフォローもしつつ、暇さえあれば厨房からチョコを取ってくる係りとなった、栄二。今の二人に合言葉があるのならば「チョコだーい好き。お金もすきー!」だろう。

「あれは、どういうイベントなの?」
『う~ん、チョコわんこと言ったところでしょうか』
 フレイミィと亜が興味を示した光景をみたツラナミは、言葉を失った。見渡すかぎり、チョコ、チョコ、チョコの山である。見ただけで胸やけ思想な光景だ。
「イベントだったら、可能な限り参加したいわ。なにせ、ここではほとんどが初めての体験だもの……」
「あれはイベントじゃなくて、金持ちの金に物をいわせた道楽だ」
『歌やダンス。そういうものがあれば、もっと盛り上がると思うんですが』
 この子供たちは、ホストクラブをキャバレーと勘違いしているのではないだろうかとツラナミはおののいた。
「……無理して高いもんを注文する必要もねえだろ、好きなペースで、飲んで食え。そんで俺も好きに飲ませてくれ」
 自分で勝手にグラスに酒をつぐ、ツラナミ。
 ほう、と一息つくやいないや
「さー、ここでシャンパンタワーの注文が入りましたー」
 という言葉を合図にお祭り騒ぎが始まった。

『さすがは人気店のシャンパンタワー。高いものですね』
 天井に着くのではないかというほどのタワーを写真に収めて、棄棄が満足げに笑う。最近は不景気だということもあって、シャンパンタワーなどを景気よくやってくれる客は少なくなってきたのである。
『実際に見れて、ラッキーですね。自分では、シャンパンタワーの注文など夢のまた夢ですから』
「そんなに高価ものなの?」
『綺麗だけど……。空のグラスがピラミット状積み重なっているだけに見えます』
 フレイミィと亜に、棄棄は微笑みかけた。
『サラリーマンの初任給ぐらいの値段はしますよ』
 さすがの金額に、二人は驚いて顔を見合わせた。
『羽の様に軽いお姫様。飛んで行くなよ。俺の側にいてくれ』
「きゃあ!」
 守に抱きかかえられてきたナーサリーライムが、甲高い悲鳴を上げる。
「おや、今夜のお姫様は全員が王子様持ちのようだね。ざんねん」
 ミラルカが蠱惑的な笑みを浮かべながら、ヴィクトアの尻尾にもたれかかる。
「尻尾はどうぞご自由にお触りください。ただ、お酒は零さないでくださいね」
『さぁ、見ていてくださいね。黄金色のシャンパンが並々と注がれる一番美しい――姿を』
 棄棄の言葉に反して、注がれたのは黄金色ではなく黒色の液体であった。酒の種類でいえば、黒ビールが一番似ている。
「ちょこ、ちょこ、ちょこ……」
 甘い匂いが店内を満たす。
「お嬢様の粋な計らいだぁっ! 全員、チョコになっちゃえよ!!」
「チョコばんざーい!!」
 杏樹というより、お金に洗脳された橘と栄二が次々とチョコカクテルをつぎ始める。むせ返るような甘い香りに、シオンは危機感を覚えた。このままではせっかく磨き上げた調度品がチョコくさくなってしまう。そうなっては、明日きていただくお姫様たちに申し訳が立たない。
「ちょっと、そこらへんで……」
 グラっ――と液体を満たしていたグラスが傾いだ。
 あぶないっ、と誰かが言う前にシオンは全身チョコまみれになった。
「――ふっ。お嬢様たち、怪我はないですか? 申し訳ありませんが、本日の『金木犀』は閉店となります。あまい、香りに包まれて眠ってくださいね」
 一拍おいて、再びシオンが口を開いた。
「従業員は朝まで掃除だ! 俺たちの聖地を取り戻すんだ!!」

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結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 信念を抱く者
    布野 橘aa0064
    人間|20才|男性|攻撃



  • エージェント
    ミラルカ ロレンツィーニaa1102
    機械|21才|女性|攻撃



  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 守護する魔導士
    東城 栄二aa2852
    人間|21才|男性|命中



  • エージェント
    アリスaa4502
    人間|14才|女性|回避



  • エージェント
    君建 布津aa4611
    人間|36才|男性|回避
  • エージェント
    切裂 棄棄aa4611hero001
    英雄|22才|女性|カオ
  • 高潔の狙撃手
    フレイミィ・アリオスaa4690
    獣人|12才|女性|命中
  • 宵闇からの援護者
    aa4690hero001
    英雄|12才|女性|ジャ
  • 藤色の騎士
    シオンaa4757
    人間|24才|男性|攻撃



  • 誠実執事
    ヴィクトア・ローゼaa4769
    獣人|28才|男性|防御



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