本部

誰か止めれぇ~っ!

一 一

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
2人 / 0~6人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2017/01/06 20:14

掲示板

オープニング

●運が悪い
「くっそ、寝坊した!」
 この日、1人の大学生の青年が慌ただしく部屋着を脱ぎ捨てた。言葉通り、所属する大学の講義に間に合うかどうかといった時間まで寝入ってしまっていて、起きてびっくり間に合わねぇ! という逼迫した状況なのだ。
「あー、もうっ! 最近マジでツいてねぇ!!」
 青年は朝食を諦め、服を着込んで鞄をひっつかむ。そして誰に当てたわけでもない悪態を吐き出し、駐輪場へ向かう。
 というのも、近頃青年は全くといっていいほど運が悪かった。1週間前は何もないところで派手に転び、6日前はすれ違ったチワワに引くほど吠えられ、5日前は空行くカラスに糞の爆撃を頭に食らった。
 それだけで終わらず、4日前は信号無視の車と接触事故を起こしかけて死にそうになり、3日前は痴漢と間違えられて社会的に死にそうになり、2日前は財布を落として経済的に死にそうになり、昨日も恋人から飛び膝蹴りという斬新な別れを食らって人生に絶望しかけたところだった。
 そして、今回の遅刻である。いやまあ、青年が自棄を起こして酒を大量に飲んだのが原因であり、自業自得である面もあるのだが、とにかく彼は運がなかった。
「っ、っ! くそ、イラつくぜ!」
 で、こういう時に限ってキーを鍵穴にうまくさせないような、小さなイライラも生じてしまうものだ。通学の為に購入した自転車の鍵を苦戦しながら開け、かごへ鞄を乱暴に叩きつけた。
「出席日数ギリギリだから、後1日でも欠席だと単位落としちまう!」
 その上、青年の成績は決していいとはいえず、その講義の単位を落としたら進級できなくなるくらいには危ない。これも彼の努力不足が招いた悲劇だろうが、彼にとっては昨日まで降りかかった不幸の1つとカウントされていることだろう。
「間に合え!」
 焦燥が最高潮にまで達し、自転車のハンドルを握ってペダルに足をかけてサドルへまたがった、ちょうどその瞬間。
 近くを通りかかった従魔が、彼の乗る自転車に憑依した。
「ん?」
 青年が違和感に気づいたときには、ハンドルから伸びた触手のようなもので腕を絡め取られ。
「は?」
 ペダルから伸びた触手のようなもので足を固定され。
「え?」
 サドルから背もたれが出現し、シートベルトのように伸びた触手が青年の胴体を拘束した。
「ちょ!? おいおいおいおいっ!?!?」
 ついでにタイヤが分厚くなった上、痛そうなトゲが生えた魔改造従魔チャリへと変貌を遂げると、青年を乗せたまま勢いよく走り出してしまった。
 これは、まあ、うん。
 運が悪かったとしか言いようがない。

●……え? なにあれ?
 この日、非番だったエージェントたちはそれぞれの目的のために外出していた。いつ何時事件が起こるかわからないため、きちんと幻想蝶も持参している。
 本当は何も起こらないことが一番なのだが、愚神や従魔はこちらの都合など待ってくれない。エージェントとは常時戦場の心構えが必要な、とても大変な仕事なのだ。
「…………ぁぁっ!」
 だから、悲鳴のような声に素早く反応し、日常から瞬時に戦闘時の意識へ切り替え、警戒心を最大限にさせる。
「……ぅぁあああああっ!!!!」
 が、高速で真横を通り過ぎた物体を前にして、一瞬だが思考が止まった。
 見たものを簡潔に説明するならば、原色ギラギラな魔改造自転車と、それに乗車する恐怖で顔がひきつった青年の、夢のコラボレーションが実現していた。
 …………いやいや、惚けている場合じゃない!
 とにかく異常事態なのは見ればわかったので、エージェントたちはすぐさまかの悪趣味自転車を追走した!

解説

※本シナリオはチェイスルールを適用します。

●目標
 従魔討伐、および青年含む被害拡大の阻止。

●乗り物
 偶発的な遭遇のためなし。通行人から借りることは可能→距離カウンター『-2』。

●登場
 青年A…とにかく最近不運続きの大学生。単位を落とさないため、寝坊した講義に出ようと自転車に乗った瞬間、従魔に愛車を乗っ取られた。乗車中常にライヴスを奪われており、時間経過によりペダルに絡まった足が筋肉疲労でえげつないことに。

 能力…能力者適正のない一般人相当。

 自転車従魔…デコトラならぬデコチャリ。ハンドル・ペダル・背もたれから触手を出現させて青年の体をしっかり固定し、強制的に車輪を爆回転している。ベースは電動アシスト自転車。脅威度はミーレス級。

 能力…攻撃・防御↑↑、命中・生命力↑、回避↓、初期距離カウンター『+3』

 スキル
・脱輪…射程1~5。単体物理。命中+50。トゲ付き後輪が分裂して飛来。距離カウンターが低い相手のみ対象。命中→距離カウンター『-1』。対抗判定[命中vs回避]勝利→狼狽BS付与。
・脱棘…射程1~3。範囲2。範囲魔法。車輪のトゲが分裂して飛来。命中→距離カウンター『-1』。特殊抵抗判定[命中vs回避]勝利→減退(1)BS付与。

●状況
 午前中の街をランダムに爆走するため、進路予測による待ち伏せはほぼ不可能。歩道から車道まで平気で走るため幅は変動。青年の叫び声に反応し、通行人は自主的に進路を譲るが、幼児や妊婦や老人などは確実に避けられる保証はない。

●走行環境
※3ターンに1度、ランダムに環境が変更。
 一般歩道…幅2sq。修正値-2。通行人が結構いる。
 一般車道…幅10sq。修正値-1。一般車が走る。
 ビジネス街…幅6sq。修正値0。通行人がまばら。初期走行環境。
 商店街…幅8sq。修正値+1。通行人がやや少ない。
 公園…幅15sq。修正値+2。通行人が少ない。

リプレイ

●ある意味異種格闘技戦
「おぉ、変な乗り物が走ってる。都会ってすごいねー」
「いつでも若者は調子に乗るものだ。……まあ、今回は見る限り従魔の仕業のようだがな」
 最初に暴走従魔に気づいたのは、御菓子屋さん巡りで外出していたギシャ(aa3141)とどらごん(aa3141hero001)だった。
「ふーん、――ギシャの方が速いか、試していいかな?」
「何にせよ、従魔を止めねば彼が危険だ」
 のんびりとした会話で通り過ぎた背中を見ていたギシャだが、ふと瞳の奥に狩人の色が宿る。すぐさまどらごんと共鳴すると、ギシャは口角をつり上げて追跡を開始した。
「ロローー?」
「あれは、プリセンサーの報告はなかったはずですが……。ひとまず、追いかけないといけませんね」
 次にすれ違ったのは、日用品の買い出しに出ていた辺是 落児(aa0281)と構築の魔女(aa0281hero001)。従魔とギシャを指さした落児の声に目を細め、構築の魔女はすぐに共鳴を果たして幻想蝶からPride of foolsを取り出した。
「っと、追いついた!」
 さらに、ギシャと構築の魔女の後ろから追随したのは共鳴済みのアルバティン・アルハヴィ(aa4773)。ただし、自力で走る彼女たちと違って、彼はなんとラクダに乗っていた。しかも、操作が巧みで意外と速い。
 この日、アルバティンはシルクロード博のアルバイトをしており、仕事終わりに従魔を目撃した。追いかけようとした時、ふと会場にいた中東のおっさんが手綱を引くラクダに目が留まる。父親からラクダジョッキーの訓練を受けていた彼は交渉の末、追跡の足にラクダを駆ったのだ。
「うわっ!? 何でラクダがいるの!?」
「私たちも同じようなものですよ!」
 その後続からはポニーに乗った井口 知加子(aa4555)とアセンナス・R・P(aa4788)が、共鳴状態で追走。現代の競走馬より小さいポニーの乗馬は少し違和感があるが、存外なかなかの速度を維持している。
 知加子は同人描きに必要なGペン・トーン・ペンダムなどを買うために、アセンナスはビル街の環境でたまった鬱憤をふれあい動物園で癒されに外出していた。その帰路でぱったり遭遇した2人は従魔を目撃し、動物園から1頭ずつポニーを借りたのだ。
 その際、共鳴時の主導権争いで一悶着あった知加子は、従魔相手に平安武士そのものの戦い方を借り物のポニーでさせるわけにはいかない! という意思で何とか競り勝った。いつか身近な暴れ馬を完璧に乗りこなせる日は来るのだろうか?
「見えた! もう少し頑張ってもらうぞ!」
 最後に姿を現した共鳴状態のドゥアンラット・プラヤー(aa4424)は、大柄な象に跨がって爆走してきた。ドゥアンラットはアセンナスがいたところとは別の動物園でアルバイトとして象の飼育員をした帰りに、従魔と遭遇していた。
 車や自転車の操作に不安があるドゥアンラットが唯一乗りこなせるのは象くらい。こちらも動物園に声をかけ、さっき世話をした象を1頭連れ出している。鈍重なイメージの割になかなか速い象は、背に乗る象使いの指示通りに動いていた。
「……は!? ちょっ、今どういう状況だよ!?」
 青年を救うべくエージェントたちが従魔の背後にそろったわけだが、複数の鳴き声につられて首だけで背後を振り向いた時、混乱度合いがさらに増す。暴走する自転車を2人の人間と4頭の動物が追いかけており、中でも象やラクダは実物を見ると威圧感が強いため、無理もないが。
 こうして、都会ど真ん中のコンクリートジャングルで、まるでサファリパークのような様相となったビジネス街の追走劇が始まった。

●ビジネス街の攻防
「まずは近付かないとねー。シャドウルーカーで獣人の足の速さは並じゃないのさー」
『彼は従魔に体を拘束されている。まずは安全確保をするべきだろう』
 まず追跡組の中で一番の速力を誇るギシャが、巧みに障害物を躱しながら自転車従魔に接近。手に白虎の爪牙(愛称【しろ】)を装着し、どらごんの声に耳を傾けつつ従魔の触手を切断しようと迫った。
「わっ!?」
 しかし、突如従魔が車体を激しく揺さぶったかと思うと、トゲつき後輪を外した『脱輪』がギシャへ襲いかかった。
「……車輪が外れたのに何故、後輪が残ったままなのでしょう?」
 咄嗟にガードし速度が緩んだギシャの様子を見ながら、構築の魔女は『脱輪』後も問題なく走行している従魔へ興味深い視線を送る。敵の挙動から攻撃パターンを見極めようとする傍ら、いきなり飛び込んできた不思議な光景に好奇心がうずいていた。
「きゃっ!? ちょ、ちょっと落ち着いて!」
 ただ、さすがに普通の動物を従魔との戦闘に参加させるのは難しいのか。馬上でショートボウを構えていたアセンナスは、『脱輪』に驚いて暴れ出したポニーをなだめるために攻撃を中断。若干距離が開いてしまう。
「動体を狙う流鏑馬(やぶさめ)なんて、ちょっと難易度高くない!? 馬のサイズは妙にしっくりくるけど、さ!」
 一方、知加子は野間馬や木曽馬に近い大きさであるポニーの扱いに多少慣れが見え、大きく暴れたりはしなかった。そのまま姿勢を整えると、鵠から弓矢を射出し従魔へ命中させる。
「うお、こわっ!? めっちゃ揺れる!!」
 すると、元が自転車であるためか攻撃の命中と同時に車体が大きくぐらつき、自然と青年の声がひきつる。これにより場合によっては転倒も考えられ、より慎重な攻撃が求められることをエージェントたちは理解した。
 直後、従魔は反撃とばかりに『脱棘』で車輪からトゲを射出。背後にいたエージェントたちをさらに引き離そうとする。
「ちっ、仕方ねぇ。オレはサポートに回る!」
 アルバティンは的確なラクダの操縦により、トゲの散弾を回避しながら敵との距離を詰めると、味方へ声をかけた。たまたま所持していた武器が大剣と斧であり、青年への危険を考慮して回復補助に尽力すると決めたのだ。
「私は動力を狙って、速力を奪ってみます!」
 並走しながら迫るトゲを撃ち落とした構築の魔女は、『シャープポジショニング』の位置取りからバッテリー部分に照準を合わせ、発砲。見事命中させると従魔の動きが鈍り、若干速度が落ちる。
『来るぞ!』
「面倒臭いなー」
 すかさず、従魔はまたも『脱棘』でカウンターを行った。どらごんの警告に顔をしかめたギシャは跳躍や速度の緩急でトゲをやり過ごし、なかなか近寄らせない従魔に眉をひそめた。
「ぐぅ!?」
「いった!?」
「ってぇ!? やりやがったな!」
「くぅっ!?」
 しかし、動物に騎乗するエージェントたちは避けられなかった。
 ドゥアンラットは象の足へ飛来するトゲからかばうために自ら盾になり、知加子は慌てて逃れようとポニーを急かすも自身が避けきれず、アルバティンはラクダへの被弾を防ぐのに集中して防御がおろそかになり、アセンナスはトゲに怯えるポニーを操作するのに精一杯で回避が間に合わなかった。
 動物たちは従魔を追跡する手段であると同時に、それぞれの所有者から一時的に借りたものであり、何より車などと違い生物である。いくら人命がかかっているとはいえ動物たちの被害を考慮しないわけにもいかず、完全な回避が難しくなっていた。
 そうしてエージェントの半数以上を後退させて『減退』も与えた従魔は、さらに彼らを振り切ろうとしたのかハンドルを一般歩道へ切ろうとした。
「人がいる場所には行かせません!」
 しかし、その直前で構築の魔女が『妨害射撃』で従魔の進路へ弾丸をばらまく。それにより、通行人の中へと突っ込む前に従魔は移動を諦め、引き続きビジネス街を走ることとなった。

●スリリングチェイス
「これ以上、従魔に好き勝手はさせません!」
 先ほどの従魔の動きから、隙を見せれば犠牲者を増やそうとする意図を感じたアセンナスは義憤を強くし、早々の決着をつけんと『ファストショット』を放った。弦を離れた一矢は前輪へヒットし、車体が大きくぐらついた。
「うっ……!」
「あんまり無茶しちゃダメですって!」
 しかし、素早い攻撃動作によりトゲを受けた場所から出血量が増え、アセンナスは苦痛で顔を歪める。その様子を見てアルバティンは、ラクダを近づけながら『クリアレイ』を飛ばし、アセンナスの流血を止めた。
「うおおおっ!? 足つるぅ!?」
 その間に、従魔は衰えた速度を青年の足を強制的に回転させて取り戻し、体勢が整ったところで背後にいた構築の魔女へ『脱輪』をけしかける。
「……ペダルから足を解放できたら、脚部への負担を軽減できるでしょうか? それに、速度を緩めるなど倒した後のフォローがないと、従魔消滅と同時に彼も負傷しかねない速度ですね」
 青年の絶叫を聞きながら、構築の魔女は迫るトゲ車輪の勢いを銃弾で殺し、跳躍してあっさり回避。ライヴスで複製された後輪の消滅を見送ることなく従魔の真横へつくと、今度は青年を拘束する触手の位置を確認していき、倒し方にも注意を払おうと思考を巡らす。
「あはー。逃がさないよー」
 すると、構築の魔女とは反対側面からギシャが接近し、従魔へ『縫止』の針を投擲。車体部分に突き刺さった針は従魔のライヴスを大きく乱し、連動してハンドル操作も乱れたのか何度も蛇行を繰り返していく。
「先ほどのお返しだ!」
 不安定な走行をチャンスと見たのか、今度はドゥアンラットが従魔に近づくと象から飛び降り、頭上からベヒモスホーンの切っ先にライヴスを集めた『ヘヴィアタック』で強襲。従魔の体勢をさらに崩し、ドゥアンラットは跳躍して象の背へ戻った。
「そこっ!」
 その隙を突いたのが知加子。つかず離れずの距離をキープしつつ、放たれた鵠の矢は車輪の側面へ命中。どんどんと速度が落ちていき、相対的にほとんどのエージェントたちが従魔の前方へ躍り出ることとなる。
「彼を従魔から引き剥がし、足を止めましょう!」
 従魔の急な方向転換を警戒して並走を心がけていた構築の魔女だが、ライヴスが弱まった様子を見て作戦を変更。これ以上暴走される前に、ここで動きを止めてしまおうと走りながら体を反転させた。
「へっ!? ちょっ、危ねぇってぇ!!」
 ちょうど従魔の進行方向にいた構築の魔女が振り返り、両手に握る銃口を真っ直ぐこちらへ向けるのを確認すると、青年は明らかに顔色を青くして悲鳴を上げる。が、泣き言をかき消すように1つに重なった複数の銃声は、青年を縛っていた両手・両足を従魔から解放した。
『足止めは俺たちだ!』
「おっけー! これで鬼ごっこは終わりなのさー!」
 次にどらごんの台詞を聞いたギシャが頷き、『女郎蜘蛛』を従魔の前輪へ向けて投げ放った。爆回転する車輪に巻き込まれた『女郎蜘蛛』は、トゲやタイヤやスポークへ複雑に絡み合い、走行速度が急激に落ちる。
「どわぁっ!?!?」
 結果、急ブレーキがかかったような状態になった従魔は後輪が大きくバウンドし、バック転のように車体が宙を舞った。両手足の拘束が外され、触手シートベルトだけが従魔自転車と固定される命綱だった青年は、下手な絶叫マシンより怖い思いを体感する。
「ふんっ!」
 あわや地面と激突しそうだというところで、ドゥアンラットが再び象から飛び降り、従魔自転車ごと青年を受け止めた。そして素早く触手を引きちぎり、青年を従魔の呪縛から解放する。
『チェックメイト、だな』
「後は皆でぼこって終わりだねー」
 その後、従魔が前輪の『拘束』を外す前に、葉巻を加えた姿が幻視できるどらごんの渋い声とともに、ギシャが笑顔で【しろ】を構えた。
 車体が横倒しとなり、身動きがとれない従魔に抵抗の余地はなく、そのまま周囲を取り囲んだエージェントたちに文字通りぼこられて消滅。こうして、はた迷惑な無差別街中レースにチェッカーフラッグが振られたのであった。

●幸か不幸か
 討伐後、救助した青年には大きな怪我もなく、ライヴスが奪われて貧血に似た症状が出たくらいだった。また、構築の魔女の進路誘導もあって従魔が暴走したのは午前中で人がまばらなビジネス街のみであり、通行人への被害もゼロで抑えられている。
「……ロロ」
「ん? ああ、まだ買ってなかった物があったわね」
 市民の通報で駆けつけた増員エージェントへの報告を終え、構築の魔女は落児の指摘で買い物に戻る。
 ここからは自然と応援のエージェントへ仕事を引き継ぎ、解散の流れとなった。自転車従魔を止めたエージェントたちは元々非番だったこともあり、誰からも異存は出なかった。
「全力で走って満足したー。たまにはこういうのもいいよねー」
「それはなによりだ。……従魔相手ではなく、もっと子供らしく遊んでいれば尚よかったのだがな」
 んーっ! と満足そうに背伸びをしたギシャも後始末を他のエージェントに任せ、さっさと御菓子屋さん巡りに意識を戻した。満足そうではあるが世間ズレしたギシャの感覚にどらごんは多くを語らず、ソフト帽をかぶり直して元気な彼女の背中を追う。
「慣れないことをさせて悪かったな」
「はー、懐かれてますねー」
 こちらはドゥアンラットが追跡の手伝いを労うと、象はそれに応えるように長い鼻を彼の腕に軽く絡ませて小さく鳴いた。その隣ではアルバティンがラクダを引きつつ感心し、見よう見まねで即席の相棒となってくれたラクダの首を撫でると、口元がブルブル震え唾が飛んだ。
「えー、っと、傷はなさそうね。よかったー」
「この子も大丈夫でした。では、返しに行きましょうか」
 最後に、ポニーに従魔のトゲが刺さってないことを確認し、知加子は安堵の息をこぼす。アセンナスもまた興奮気味なポニーを落ち着かせつつ、知加子とともにふれあい動物園の方へと戻っていった。

 大した被害もなく、これでめでたしめでたし。
 ……とはいかなかった。
「あっ! 講義!!」
 エージェントから一通り事情聴取を受けた後、青年はようやく自分の状況を思い出すことが出来た。自転車はしばらく従魔の影響調査の名目でH.O.P.E.に押収され、大学までは走るしかない。しかも、最終手段のタクシーを捕まえようにも、運悪く1台も通ってくれなかった。
 それから青年は何とか自力で大学まで走ったが、寝坊した上に従魔騒動にも巻き込まれてしまえば、当然間に合うはずもなく。結局、青年は教授に事情を説明して何度も頭を下げ、何とか首の皮一枚を繋げることが出来た。その日の残りの講義は、極度の疲労で寝るしかなかったが。
 従魔と遭遇しながらエージェントたちに救けられ、無傷ですんだ幸運と。
 従魔の事件で大学の単位と進級が、すこぶる危険な状態に陥った不運と。
 今日1日の諸々を全部総合しても、青年はやっぱり運が悪かった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • ひとひらの想い
    ドゥアンラット・プラヤーaa4424
    人間|21才|女性|防御



  • 街中のポニー乗り
    井口 知加子aa4555
    人間|31才|女性|攻撃



  • 街中のラクダ使い
    アルバティン・アルハヴィaa4773
    獣人|14才|男性|回避



  • 街中のポニー乗り
    アセンナス・R・Paa4788
    人間|23才|女性|命中



前に戻る
ページトップへ戻る