本部

煩悩を打ち破れ

saki

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/01/04 18:56

掲示板

オープニング

●大晦日にて
 この日は一年の最後の日――。ということで、108回の除夜の鐘が煩悩を消し去り、新たな一年をまた始める……という日でもある。
 それだというのに、近年は騒音だの何だのと目まぐるしい。近隣住民からの訴えがあり、この街の寺も除夜の鐘を鳴らすことができなくなってしまった。
 古くからこの土地に住まう人たちは嘆いた。
 しかし、みんなの総意だと我が物顔で署名を持ってきた自治会長はその言葉を突っぱねた。
 寺の住職も困り顔のまま、そうですかと頷いたのである。

 そして、その日の夜ことは起こった。
 何せ108回も鐘を突くのだ。例年なら疾うに鐘を撞いている時刻になり、街の中で異変が起こった。
 彼方此方から怒鳴り声やら物が壊れる音が響き、街は凄まじい騒ぎだ。
 人々は一体何がと思うのも束の間、自身のどこにこんな感情があったのかという程の抑えきれない感覚に襲われ、思いのままに振る舞いはじめた。
 ある者は泣き、嘆き、ある者は怒り……という風に際限なく己の内に込められた想いを吐露するのである。
「一体、何が……」と呟く住職のすぐ傍で、鐘が鈍く光った。

解説

●目的
→街の人達を正気に戻すこと

●補足
→寺の鐘にデクリオ級の従魔が憑りつきました。この従魔、気が付かれていなかっただけで、実はずっとこの鐘に憑りついていました。
 しかし、毎年鐘を突かれることによって人間の煩悩が清められる為、力を発揮することがきませんでした。
 それが今年は違う。鐘が撞かれなかった為、ここぞとばかりに力を発揮します。
 この従魔は人間の欲望を引き出す力を持っている為、街の人たちは己の欲望のままに行動を始めたのです。
→街の人たちは従魔によって操られているのですが、直接触れてライヴスを流し込めば支配から解放することができます。
 しかし、それよりも手っ取り早い方法は鐘を鳴らすこと。
 108回鐘を撞くことによって、街の人たちの支配は解かれます。また、従魔も今後一年間力を発揮することができなくなります。ただし、大人しくしているだけで消滅したわけではないので、鐘を撞いて大人しくさせた後に払いましょう。大人しくしている間はイマーゴ級寄りのミーレス級なので、ライヴスを流し込めば簡単に消滅させることができます。この弱さ故に、今まで気が付かれることがなく鐘に憑りついていたわけです。
→解決方法は簡単なのですが、何せ時間がありません。妨害してくる街の人たちを上手くかわし、素早く鐘を撞きましょう。
→終わった後は寺で振る舞われている甘酒を呑んだり、そのままお正月&新年会も楽しいかもしれませんね。

リプレイ

●目的地へ向かって
 話を聞いた赤城 龍哉(aa0090)は呆れた声で、「年末の恒例行事だと思ってたが、こんなとこにもケチを付けるようになってんのか」と呟いた。
 それに頷き、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)も眉根を寄せる。
『この国が宗教に対して寛容であり、曖昧で関心が薄いが故かもしれませんわね』
「良くも悪くもか。ともあれ、さっさと片を付けた方が良さそうだ」

 街の人たちの箍が外れ、理性など置き去りに思いのままに振る舞う様に虎噛 千颯(aa0123)は「うわぁー煩悩の塊みたいだな~」と声を上げるが、それに白虎丸(aa0123hero001)が突っ込む。
『どの口が…でござる。お前こそ煩悩の塊みたいなものでござろう』
「白虎ちゃん辛辣じゃない?」

「除夜の鐘が騒音扱いとは、世知辛い物だな」『昔から続けられる事には意味が有るのに…』と、御神 恭也(aa0127)伊邪那美(aa0127hero001)は理解できないとばかりに呟く。
「騒音扱いして中止させたら従魔が暴れ出すとは皮肉な物だな」
 その言葉に『まったく、古い物が全て駄目だと思うからこんな事になるんだよ。少しは反省して貰いたいね』と憤慨する伊邪那美に、恭也は「除夜の鐘の習慣は仏教伝来では? 神道的存在なのに良いか?」と内心で思い、首を傾げた。

「今年最後の依頼だ、手早く片付けるか」とやる気を見せる月影 飛翔(aa0224)に、ルビナス フローリア(aa0224hero001)も『皆様もゆっくり新年を迎えたいでしょうからね』と同意する。
「除夜の鐘が騒音だなんて。自治会長も何考えているんだか」
『完全な皮肉になりましたね。これで少しでも考え直されるといいのですが』

 破壊行動当たり前、喧嘩上等といった街の騒ぎに「随分とアグレッシブに新年を祝っているね」と、どこか的外れたような感想を九字原 昂(aa0919)は口にする。
 それにベルフ(aa0919hero001)は『だが、このバカ騒ぎもこれで終わりだ』と応じる。
「そうだね。早くこの騒ぎを収拾させないと落ち着いて新年も迎えられそうにないよ」

「……サテ……ココからが本番でスね…」と神妙な顔と声で語る鬼子母神 焔織(aa2439)に、作戦を聞かされた龍蓮 七面(aa2439hero002)は『うぅ……兄さま……視線がぁ……うぅ…』と羞恥に満ちた声を上げる。
 しかし鬼子母神に「……煩を吹き消し、寂静への道を説くベキを…このヨウな真似をスルのは、実に後ろメタイでスが…」と促され、『うぅぅぅ………は、は、は……恥ずかしいですぅぅぅうううううッッ!』と七面は声を上げるのだった。

 コートのポケットに手を突っ込んだ鬼灯 佐千子(aa2526)は「寒いしTV見たいし寒いし、さっさと終わらせて帰りましょう」と、不機嫌にそう言った。
 師走も最終日の夜なのだから、寒いのは当然である。白い息を吐きながら身を震わせる佐千子に、リタ(aa2526hero001)は『やれやれ…。焦りは判断を鈍らせる、着実にいこう』とクールに告げた。

 小宮 雅春(aa4756)は「年の瀬に従魔騒ぎだなんて、難儀なものだよねぇ…僕らも、街の人もさ」とぼやくものの、その内心ではリンカーとして必要とされていることに満更でもない様子である。
 それに対し、『そう言いながら、引き受けてる貴方も大分変わり者よ』と言うJennifer(aa4756hero001)は、内心では人々の取り繕っている化けの皮がはがれた乱痴気騒ぎを観察するのは面白いと、この騒ぎを密かに楽しんでいるのであった。

●街の中へ
 寺へ向かう者と、街の人の騒ぎを少しでも収拾させようとするメンバーとで二手に分かれて行動する。


 飛翔やルビナスは予めお寺や近所の神社に協力を依頼し、そちらで振る舞っている甘酒や毛布などを借りる。それに伴い、念の為に子供用にジュースやホットミルクなども用意した。そして、その飲み物の中に睡眠薬を混ぜる。
 寺での鐘撞きを邪魔しようとする人を邪魔するのが目的の為、移動の際は壁や屋根など一般人では通ることのできない場所を移動し、それを寺へ向かう道すがら『温かい飲み物はいかがでしょうか?』『冷えますから、温まってください』とルビナスが振る舞えば、飲んだ人たちは睡眠薬によっておやすみなさいだ。そこにライヴスを流し込めば一丁上がりである。
 眠る人達には『風邪をひかれないようにしませんと』「……これ、正気に戻った後も大変だろうな」と、毛布を掛ける配慮も忘れず、手際良く次から次へと暴動の徒を治めていく。
 中には二人にも暴力を振るおうとする輩もいるが、そんな相手は機動隊のようにシールドで押しとどめる。
「操られている人に怪我をさせるわけにもいかないが、数が多いとな」『ですがあと少しです。全部撃ち終わるまで持たせませんと』と、ライヴスを流し込んで正気へと戻せば、自身が何をしているのか解らず困惑している者や、気を失う者もいる。
「新年まであと数分か……、鐘の方は頼んだぞ」


 焔織と七面は共鳴すると、高価な宝石(偽物)を彼方此方にちりばめ、目のやり場に困るような際どい踊り子の衣装を着たボン・キュ・ボンのナイスバディな絶世の美女へと変わる。
 その姿で「……ウゥム……全身を鷲掴みにサレ、舐め回されルような感覚がしまスね」『ふえええんお嫁に行けないですぅぅ!』「チナみニ、捕まれば」『えっ』「本当に全身鷲掴みの上」『えっ』「舐め回しの刑…でス、七面」というやり取りをし、鳥肌を立てた七面が『聞いてないですぅぅうううううううううう!?!?』と絶叫した。
 そんなやり取りはあったものの、魅惑的で蠱惑的な舞をしながら大通りを練り歩く。
 装飾品がシャラシャラと音を立て、住民達が惹きつけられたのを確認すると、迫りくる手という手を避け、肌を上気させ、汗を肌に伝わせながらもかろやかにかわしていく。
 そのかわす姿さえも踊っているかのようで、するすると人の間を抜けて視線を集める。
 しかし、いくら身を捩ったり跳んだりしても全てを避けることはできず、肌に不躾な手が触れた。すると、表に出た七面が『……お触りは……厳禁ですぅううううッッ!!』と、ライヴスを纏った張り手をお見舞いし、正気へと戻していく。
 武術と舞踊の入り混じったような動きで迫りくる人をいなし、ステップを踏むような要領で踏み込んではライヴスを流していく。
 乙女の悲鳴を上げ、身を守る為にも七面は奮闘するのであった。

●寺にて
 寺に向かう道中、『ねえ、操られている人達を無視して良いのかな?』という伊邪那美の言葉に、襲い掛かる住民をかわし、頸の横に手刀を入れた恭也は「一々、正気に戻していたら被害が広がる一方だ。鐘を叩いた方が被害は最小限に抑えられるが、流石に目に余る者は対処しないと不味いがな」と冷静に判断する。
 そんな風に注意を払いながら寺までやって来ると、時間稼ぎの為に境内の門を閉めて、予めここに居た者達は仕方がないとして、他の者達が入ってこられないようにする。


 寺に着いてからは、共鳴した佐千子が予め用意したあつあつおでんに、甘酒の樽で鐘の傍に居る住民を誘導できないか試みる。要するに食べ物で釣ろうというわけだ。


 佐千子が住民の注意を惹いていて離れている間、千颯はセーフティガスで無力化を図る。
 案の定、ガスの効き目で住民達は眠りについた。その間に、鐘を撞く為に他のメンバーが鐘へと近づく。
 千颯はそれに混じらず、倒れている人たちにライヴスを流し込む。メンバーが鐘を撞くことに集中できるように警護を買って出た雅春と昴とともに、手分けをして手早くライヴスを流して正気に戻すと、危険がないように巻き込まれない安全な場所まで運んでいく。
 運び終わり、千颯と白虎丸は「さてと、これでいいかなっと…」『流石に人数が人数なだけに大変でござるな』「ライブスの乱れならこれで正常化するかな~」と次に備え、鐘が飛盾の有効範囲内に陣取り、ガスの範囲外に居る住民達に目を光らせる。

 ライトアイで視界を確保した雅春が、「来ます」と走ってこちらへと向かって来る集団を見つける。集団はそれぞれ身近な物を片手に、例えばお玉だったり、例えば木の棒だったり、例えばバットだったりといったものを振り回して突っ込んで来る。
 それを相手にするのに流石に堂々と武器を振り回すわけにもいかず、雅春は素手で一人一人ライヴスを流し込んでいく。
 しかし、数が多い。
 一斉に襲い掛かってくるのに対応する為、武器の柄で相手の得物を弾きあげるとその隙に接近してライヴスを流していく。
 なるべく最小限の威力に抑えて武器は振るい、スキルはなるべく使わないという方向性だ。一対一だとすると、スキルの温存は辛いかもしれないが、千颯が先程発動したクリーンエリアとクリアプラスの効果もあり、どうにかなりそうである。
 なるべく人を傷つけず、そして景観を損ねないように細心の注意を払いながら応戦をする。
「怪我させないように気をつけよう」という雅春の言葉に、『ええ、分かっているわ』と頷きつつもJenniferは内心で『焦れったい…捻じ伏せて黙らせられればいいものを』と苛立たしさを滲ませるのであった。


 眠った住民達を脇へと移動させた後、昴は、封鎖できそうな通路を封鎖して足止めを行う。
 それをある程度こなすと、千颯と雅春の元へ戻り、住民達の対処をする。
 鐘を鳴らすのを妨害しようと寄ってくる住民を、鞘に納めた得物で足を払い、バランスを崩したところでライヴスを流し込む。単純なことではあるものの、相手に怪我をさせないようにと考えるとなかなかに難しいものである。
 それを繰り返していたものの、押し寄せるようにしてやって来た団体さんに向かい、ハングドマンを投擲した。
 すると、短剣の間に張られた鋼線が上手い具合に作用し、何人も絡めて纏めて捕縛することに成功する。
 捕縛した者達を上手く利用することにより、更に押し寄せてくる者達に対して足止めもこなす。
「初詣はきちんと並んで参拝しないと駄目ですよ」
『言って聞くような状態じゃないんだ。実力行使といくぞ』
 言っていることは丁寧ではあるものの、ベルフの言うように実力行使を辞さない姿勢である。
 縫止や猫騙を駆使し、メンバーと連携しながら鐘へは絶対に近づかせないように応じるのであった。


 千颯と雅春と昴が住民達の対処をしている間に、さっさと鐘を撞きにかかる。

「風情も何もないのはこの際勘弁な」と言いながら、龍哉は構えを取る。
 それに対し、真面目なのか冗談なのかヴァルトラウテは『いっそチャクラのポーズでも取ると良いですわ』と言う。
 確かにそれっぽいと言えばそれっぽいのだが、「どこのゲーム得意な小僧だ、それは」と突っ込まざるを得ない。
 しかし、形式やらに格好に拘っている場合ではないので、鐘を壊さないように注意しつつも虹輝を打ち込む。
 ジャブの要領で繰り返し拳が当たり、鐘が大きな音を立てて鳴る。
 連続で打ち込めれば簡単ではあるものの、複数の方向にメンバーが立っている状態では上手くタイミングを掴みながら打ち込まなければ上手く鳴らず、意外な所で苦戦を強いられることとなる。
「一応鳴ることには鳴るが、案外難しいなこれ。もう既に、メンバーのトータルで108回以上は打ち込まれているけど、きちんと鳴らないとカウントされていないのか?」
『そのようですわ。住民の対応をしている方達の様子を見るに、まだ武器を振り回していますもの』

 時折手が空くのか、余裕が出来ると千颯から飛盾が飛んで鐘を鳴らしていく。昴からも、苦無「極」が投擲され、鐘が音を立てる。
 千颯が使っている飛盾は、文字通り飛んだ盾が鐘に当たっているのである。
「飛盾…初めて使う武器だけど上手く扱えるかな?」と言いつつも、コントロール通りに鐘へと向かう。
 それを白虎丸は眉根を寄せながら首を傾げ、『何やら面妖な攻撃方法でござるな。浮いているでござるよ』と不思議な様子である。それに千颯が「最新技術ってやつだぜ」と少し得意げに言うものの、ふと思ったのか、「そういや、これ鐘を突くのが間に合わなかったらどうなるんだ?」と今度はこちらが首を傾げる。
『除夜の鐘を考えればそうそう時間はなさそうでござるな。皆正常に戻らないのではないでござるか?』

 恭也は、破壊しないように注意しながら疾風怒濤を発動する。
 連続的に鐘に当たり、ゴーンというよりはガガガと音が鳴る。
 鐘を撞きながらも、周囲の様子に目を向けると、相変わらず住民達は獲物を片手に暴れている様子だ。
『どういうことなの? 鐘を撞いているのに効いてないみたいだけど……』と言う伊邪那美の困惑に恭也は頷き、そこで龍哉同様に「鐘が鳴りきらないとカウントされないのだろう」という結論に達する。
『それならどうするわけ!?』という焦った伊邪那美に「こうする」と応えると、鐘から少し距離を取り、タイミングを見計らって烈風波を打ち込む。
 それに『成程』と頷くものの、『何て言うか情緒が無い鳴らし方だね』と身も蓋もないと伊邪那美は少々不満があるようである。
「邪魔が入らないなら作法に則って鳴らしてるさ」

 住民達を撒いた佐千子も鐘撞きに加わる。
『確か、鐘は小屋の天井から吊るされた木の棒で打ち鳴らすのだったな』とリタが確認すると、佐千子が「鐘楼に撞木、ね」と教える。
『む、ではその鐘楼を占拠する』
 そう言うと、鐘を撞くメンバーが全て鐘楼に居る状態で、鐘楼へと至る階段を潰す形でエアーシェルを展開して余所から妨害が入らないように封鎖する。
 それに加え、撞木の足元でもうひとつを展開し、完全に邪魔が入らない形へともっていく。
『さて、鐘突きか。108回だったか?』
「そうね。……手っ取り早く行きましょう」
 そう言いつつも、身体の支配権を持った佐千子の行動を読み、『おい、やめろ。ガトリングを展開するな。鐘を破壊する気か』と突っ込む。
 そして止められたことに対し、「えっ?」とでも言いた気な佐千子の顔に、『なんだ、その意外そうな顔は』とリタは眉根を寄せる。
 そのやり取りがあったものの、どうにか撞木を使う方向へと落ち着く。
 リタは『全く』と溜め息を吐く。
『…とはいえ、撞木をいちいち使っていては回数を稼げんな。双拳銃での射撃や格闘術でも回数を進められないだろうか。撞木を持たない時に試してみよう』


 そんなこんなで苦戦はあったものの、ある程度回数をこなせば其々のタイミングは掴めるものである。
 どうにか時間内に回数をこなすことができたようで、鐘を撞いているメンバーは何回撞けたのか不明のまま、得物を取り落し急に大人しくなった住民達の姿から108回に達したのだと察した。
 そして、それと同時に鈍く光っていた鐘の光も失われる。
 鐘はうんともすんともいわずそこにただの無機物として存在しているだけである。

 佐千子はエアーシェルを解いた。
 住民の対応をしていた千颯と雅春もやって来て、ここに居るメンバー全員で鐘に手を当てる。
「さて、それじゃ後片付けと行こうか」『今年の汚れは今年のうちに、ですわ』と言う、龍哉とヴァルトラウテの言葉を合図に、其々ライヴスを流し込む。
 ライヴスを流し込むのと同時に、鐘が揺らぐ。
 何せ、これに憑りついているのは、殆どイマーゴ級に近いようなミーレス級の従魔なのである。ライヴスを流し込めば思念体とほぼ変わらず、依り代から離れれば存在を維持できないような弱小な従魔だ。だが、その弱い存在故にこれまで気が着かれず、それがこうして騒ぎを起こしたのだから、何があるのか解らないものだ。
 剥がれたそれを、雅春はこれでもかとばかりに思い切り一撃を与えるとあっさりと消滅した。
 これまでの手間に比べ、あまりにも呆気のない終わりに、誰ともなく溜息を吐くのであった。

●それから
 一応従魔は倒したものの、周囲の確認とケアも怠らない。

 龍哉とヴァルトラウテは件の自治会長の元へ赴き、「野暮な事は言いっこ無しだぜ。こういうのは縁起物と思って皆でやれば良いと思うんだがな」『どこの国でも行事というものには所以があるものですわ。それが邪魔だと思う程心に余裕がないのも如何なものですの?』という風に理解を求める言葉を口にした。
 事が起こってしまっただけに、自治会長は何も言い返すことはできず、唇を噛んで二人を睨み付けるにとどまった。
 それに対して龍哉も強く言うことはなく「受け入れるかどうかはこの街の人次第だからな」と、自治会長の態度に呆れたような表情のヴァルトラウテに肩を竦めた。
 その後、事態が収拾したら「もう一年なのか、まだ一年なのか……感覚的にはどちらもってとこだが」『私たちの誓約からすれば、まだ一年、で良いと思いますわよ』と一息を吐くのであった。

 鐘の音は何度も聞こえていたものの、急速に収まった騒動に飛翔は「何とかなったか。煩悩祓いももう馬鹿にできないな」と呟いた。
 今回の作戦で振る舞う為に使用した甘酒を補充する為、ルビナスは甘酒の調理を手伝い、補充したものを飛翔が借り受けた場所へと従魔を倒したことも含めて報告へと向かう。
 そして多めに作った甘酒は他のメンバーにも配り、住民達に対しては『昔から行われていることです。ちゃんと意味もあることですから。皆様が健やかに新年を迎えられますように』と振る舞うのであった。
 片づけが終わると二人は寺を辞し、神社へと参拝に向かった。
「今年も健やかに頑張れますように」と参拝した後、二人とも引いた大吉の御神籤に笑みを浮かべた。

 千颯と白虎丸は、この騒ぎで怪我した住民がいないか見て回り、暴動でやんちゃなことをして怪我をした人には手当を施す。
 ルビナスから受け取った甘酒を片手に歩き回り、ふと時刻を確認して「あー明けましておめでとうございますになっちゃったかなー?」と呟いた。
『何とも激しい戦いでござった…』
 その疲れたような言葉と溜め息が全てを物語っている。
「うーんこの後どうする~時間あるなら軽く新年会でもする~?」
『それよりは帰って家族と一緒にお正月でござる! 嫁殿も坊も待っているでござるよ!』
 切実なまでの白虎丸の言葉に、「わかった、わかった」と千颯は頷いた。

 破壊された境内の修復や片づけを手伝っていた恭也と伊邪那美であったが、『一年最後のお仕事が掃除なんて……面倒だよ』と伊邪那美は早くも嘆いている。
 確かにもう日付も変わるような時刻に片づけをしているのだから、その気持ちも解らないわけでもない。しかし、それを恭也が「自分達がした後始末だ。我慢しろ」と窘めた。
 しかし、伊邪那美から返ってきたのは溜息だ。
『はぁ……お腹空いた、お家で炬燵に入ってぬくぬくしたいな~』
 その様に、恭也が思わず「伊邪那美の煩悩の数は108で収まらんのだろうな」と呟けば伊邪那美は頬を膨らませ、『……何か失礼な事を考えて無い?』とむくれるのであった。

 片づけを手伝った後、昴とベルフは甘酒片手に初詣へと向かう。
「いやー、年末最終日の夜から始まり、年始早々にかけて働いたね」
 夜遅くの仕事だっただけに疲れたとばかりに伸びをする昴に、ベルフも頷く。
『バカ騒ぎが何とか収拾して良かった』という言葉には、慣れないことに対する疲れが微かに感じ取れる。
「まぁ、こうして終わったことだし、初詣をして家に帰ってゆっくりしよう」と言い、「あっ、言い忘れていたけれど、明けましておめでとうございます」と続けた。

 焔織は「今年もイヨイヨ終わり……任務は無事終了、でスね」と、今年最後の依頼に対して達成感を滲ませているものの、七面は『うぅ……あちこち触られました……』と半泣き状態だ。
 うら若き乙女である七面は、知らない人間から触られまくったことに対し、正に「お嫁にいけない」と嘆く状態である。
 しかし、焔織が「フフ……皆が無事なら良いじゃナイでスか」とその肩を叩くと、気を取り直したかのように『そう、ですね兄さま!』と顔を上げた。
 もう今年も終わりということで『……来年もどうか、良い年でありますように…』と祈り、「サぁ、我々も煩を吹き消しに、参りまショう」と促されるのであった。

 片づけなどの手伝いもこなし、リタは『終わったな。帰還しよう』と、佐千子と帰宅しようとしたところで『――む、もうこんな時間か』と呟いた。
 甘酒片手に少々休憩している間に、もう年が明けていたのである。あまりにも忙しない年明けだ。
 しかし、二人とも騒ぐ性質ではなく、落ち着いているところがあるだけに、「明けたわね。…、明けましておめでとう、リタ。今年もよろしく」『明けましておめでとう。こちらこそ、よろしく頼む』と、のんびりと挨拶を交わすのであった。

 雅春は負傷者を救急医療キットで手当てし、セーフティガスで眠ってしまった人はクリアレイで起こした。そして、他にも手が足りていないところはないか見て回る。
 そうこうしている内に日付を跨ぎ、雅春としてはかなりドタバタとした年明けになってしまったが、まぁこんなこともあるかというような認識である。しかし、Jenniferに対しては巻き込んだ形になる為、「付き合わせちゃってごめんね」と謝る。だが、Jenniferは愉快な夜更けだと特に気にした様子ではない。
『私の「退屈しのぎ」でいられる限り、お前の望む姿を演じてやろう』という言葉を貰い、雅春はほっと息を吐く。
「除夜の鐘もただの小煩い音じゃないって、街の人も気付いてくれるといいね」
『そうね』


 ……ということで、一同はドタバタとした一年の終わりと始まりを迎えることになったが依頼は無事に完遂である。

 ……余談ではあるが、この件から逆に住民達から寺に除夜の鐘を求める署名が寄せられ、これ以降ここ周辺の地域ではこれまで同様、毎年必ず除夜の鐘が撞かれることになるのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439
    人間|18才|男性|命中
  • 煩悩撃退
    龍蓮 七面aa2439hero002
    英雄|14才|女性|バト
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • お人形ごっこ
    Jenniferaa4756hero001
    英雄|26才|女性|バト
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