本部

【初夢】世界滅亡、3,2,1

布川

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/01/16 15:00

掲示板

オープニング

 この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●敗北宣言
 H.O.P.E.の作戦が終了した。巨大な隕石は、未だ空にあった。
 人類は、敵わなかった。

●世界滅亡まで、あと1日
 地球に突如接近した巨大隕石。
 新聞がジャスティン会長の行方不明を知らせる。H.O.P.E.は事実上の解散宣言を出した。エージェントたちはエージェントという身分を失い、ただリンカーという事実だけが残った。

 有志として治安維持にあたるエージェントたちがいるからか、それとも、人々の心にはまだ『希望』が残っているからだろうか――思いのほか、世界は荒れていない。

 町を歩いてみれば、とても静かだ。やっている店は少ないが、あるにはある。能力者ではない大半の人々は、そのまま日常を過ごすことを選んだ。
 略奪行為を働く者がいるかと思えば、それを追いかけるリンカーもいた。広場で神の国を説く者。急に泣き出す人。それまでを忘れて、笑いあう人々。
「どうぞご自由に」値札の上から貼られた張り紙。
 非日常は、いつもの日常と地続きだった。ただ空にある隕石だけが、この世界の滅亡を知らせる。明日ごろ、隕石は地球に衝突するでしょう。

 さて。
 今日は、世界最期の日。
 やり残したことはないだろうか?

解説

●目標
やりたいことをやる。

●状況
突如として巨大隕石が出現し、深夜0時ごろ地球を直撃するとみられている。
隕石の落下地点はアメリカであるが、これにより世界は半壊すると思われる。
運が良ければ生き延びることもできるかもしれないが、まず間違いなく世界システムは崩壊する。

●最後の一日の過ごし方の一例
・日常を送る
パートナー、友人とともに、いつも通りの日常を送る。

・シェルターに避難する
主要都市にシェルターがあるようだ。実際のところ、役に立つかは疑問であるが……。
避難誘導なども可能だろう。

・最終作戦
諦めないアメリカ軍とともに、有志が隕石の破壊にあたる。主にミサイルや兵器で隕石を打ち砕く予定だが、まず間違いなく上手くは行かないだろう。
大きな権力を動かすことは難しいが、独自に何かしても良い。
生存は絶望的である。

・治安維持活動
明日が世界の終わりだろうと、自分はエージェントだ。
混乱する民衆の治安を維持し、あるいは、出現した従魔・愚神などに攻撃を仕掛けることもできる。

・破壊活動
どうせ、明日はない。破壊活動に回ることもできる。
※あまり過激な行為は描写できません。

●補足
いつも以上に自由な行動が可能ですが、戦略として大きな権力・組織を動かすことは難しいと思われます。
また、他PC様が関わる場合については、予め許可を取っておいてください。

リプレイ


●幕引き
 人類滅亡。
 そんな事態を前にしても、心は波を打ったように静かだった。
 炉威(aa0996)は、いつも通りの空に目を細める。
「ま、それなりにそれにそなりの人生だったかね」
 隕石衝突とは、呆気ない幕引きに思えた。ふわあ、とあくびまで出る始末。
 ソファーの背もたれに体を預けると、視界にエレナ(aa0996hero002)が姿を現した。
『あら、炉威様、眠いのでしたらわたくしがお供しても構いませんわ』
 炉威が場所を詰めると、エレナはソファーに腰かけた。
 終わりを告げる空を、二人で眺める。
 この世界は、終わる。
「嬉しそうだな」
『この世の最後が愛し過ぎる人と過ごせるならば、わたくしが炉威さまの最後の女』
 それこそ、素敵。うっとりとした表情で、エレナは言う。
 エレナの望みは彼の人とともにあること。そして、彼が自分だけのモノであることだ。
「生憎ペドフィリアの気は微塵も無いからねぇ」
『あら、つれないお言葉ですのね』
 うふふ、と、エレナは笑い、そっと炉威に寄りかかる。

 呆気なさ過ぎる幕切れ。
 味気なさ過ぎる幕切れ。

 もうすぐ、世界は終わる。
 一緒に過ごした時間は永遠に消えない事実。たとえ、そうだとしても。
『ああ、最後に炉威様の血が見たいですわ』
 エレナは言い、隣にいる炉威に手を伸ばした。けれど、炉威はやはり、くすぐったそうに笑っているだけだった。
「物騒な事考えるねぇ」
『あら、わたくしの考えがお分かりになるなんて、感激ですわ』
(エレナの気持ちが分らないではないけどね)
 永遠が在るのならば、だけど。
 炉威は心の中で、独白する。
 どうせ消えるならば、永遠が在ろうとなかろうと関係ない。
「つまらないねぇ」
『あら、わたくしは嬉しさと喜びで打ち震えそうですわ』
 くるり。とエレナが回る。スカートの裾がふわりと持ち上がる。
「……確かにお前さんは何時もより愉快そうだね」
「ふふ」
 最期の支度を、と、エレナは席をはずした。
(しかしまあ、最後に一緒に居るのが幼女なのが一番情けないかね)
 全て終わる。誰と一緒だろうと関係ない。
 炉威は思っていた。
 寝っ転がって、窓を見上げる。空は晴れわたる。
 生き延びる奴も居るだろう。
 誰もが独りになったその時の世界は興味あるが、炉威にとっては如何でも良い。
「世界が終ろうと終わるまいと、俺には関係ない、か」
 そう。誰が居なくなったとて、世界は回るだろう。
(そう考えると、世界は何時でも独りだ)
『よろしいですか?』
 目を開けると、目の前にはエレナがいた。
(きっと冷たい血。返り血がわたくしを犯してくれる)
 炉威様が消える。誰のモノにもならずに。エレナは喜びとともに、胸を突くような悲しみを覚えた。
(でも、隕石には取られてしまう。そんなモノに取られるのは余りにつまらなさ過ぎる)
『炉威様』
 名を呼べば、炉威は顔をあげる。
『隕石などに消されるのならば、わたくしが炉威様を殺めたいですわ』
 隕石などに炉威様は渡さない。
 おいで、とでもいうように、炉威は目を閉じた。
 いつも通りに。

(そう。そして一瞬で永遠が生まれる)
 制止する世界。音もなく。永劫の邂逅。そして――。

 振り上げた腕がどうなったかは――。
 この世界に、知る者はいない。
 物語は、ここで終わるのだから。

●歌
「ファルク……何、してるんですか」
 茨稀(aa4720)は、床に散らばった撮影機材やらを見眺めて言った。
『んあ? 見て分かるだろ』
 ファルク(aa4720hero001)が、機材の山のなかから顔をあげる。
『用意だよ、用意。俺のバンドマンとしての時間だ』
 英雄のファルクは、普段はネットアイドルならぬネットバンドマンとして活動している。整った容姿と、色気ある物腰。そして、トーク力があるともなれば、人気を博さぬはずがない。
「……こんな日にネット配信の生動画なんて」
『こんな日だから、だぜ? 茨稀も好きに過ごせば良い」
 機材の向こう側には、こういった日でも彼の配信を楽しみにしているファンがいるのだろう。彼の真剣な様子を見て、茨稀は思った。

 パタン。
 扉が閉まる。邪魔してはいけない。
(大切な人を「また」失うかもしれない世界は滅べばいい。いっそ全てが、世界も……人も……失くなってしまえばいい……)
 茨稀は、心からそう思っていた。幼いころに起きた事故が、彼の中に暗い影を落としていた。
 誰とも心を通わせず、通わせようともせず。だが、この瞬間に過るこの知らない痛みは何なのか。
 いや、知らない訳ではない。遠い昔に感じたこの痛み。
 茨稀はそっと自分の胸を押さえる。
 それは「失くしたくない想い」だった。

 どうしようもなく空を見上げるが、すぐに地に目を返す。
 知らぬ間に、茨稀の心も頬も静かに濡れていた。
(何が出来るだろう。何をどうすればいいのだろう)
 噛み締める唇と握り締める拳からは、ぽたり、ぽたりと赤い物が流れる。
 どうしてこの世界の大切さに気付けなかったのか。気付いていたからこそ、敬遠していたのか。
(分からない)
 唯一の望みは……何もかもを失うなら、己も一緒に散りたいというものだった。
「僕は……一体何を求めていた、のでしょうね……」
 茨稀は、自嘲気味に笑う。

 ファルクは、放送に向けてすうと息を吸った。
 普段と同じ行動、気持ち、そして僅かな希望。
 大きな力の前で何が出来ると言うのか。
 とめどない思考が押し寄せる。
(それよりもどんな時でも……こんな時でも自分を貫く心を持ちたい。自分の音楽を聴いてくれるヤツも……茨稀も、そんな風に居て欲しい)
 傲慢だと分かってもいても願ってしまう。
 3,2,1。
 セットされた機材が動き出し、動画配信が始まる。
 いつもと同じMC前に1曲、定番を演奏して一呼吸。反響は上々だ。共感してくれる人たちは、確かに、画面の向こうにいる。
 ファルクは、誰にともなく呼び掛ける。いや。これはきっと茨稀に呼び掛けているのだろう。
 自由に、自分が思う侭に、これが最期だとしても……。
『さぁて、今日がどんな日だって関係無いぜ?』
 一言一言に、思いを込める。
『心の赴く侭に、自分に素直に。最期に恥じないように生きようぜ』
 ファルクが歌いだしたそれは、この日の為の新曲だった。

 堂々とした最期を誇りに思える人生を送る。それは決して今からでも遅くない。
 時間なんて関係ない、一瞬でも良いから花を咲かせよう。

 気丈なメロディが、世界にこだましている。ファルクの叫びを、茨稀が知ったのかは分からない。 ファルクは高らかに歌い上げる。熱狂の輪が、世界を包み込む。
……きっと。

●青天の空の下、お茶を
「今日で世界が終わるとは、不思議な物だ、な」
『そうですね。今日は良い日和です』
 喧騒から離れた、郊外の静かな日本家屋。
 アリス(aa4688)と葵(aa4688hero001)は縁側に並び、座り、一緒に茶を飲んでいた。

(何時もと同じ朝が来た、か……。……否、何時もとは違うのかも知れんが)
 ここで終わりという実感は、不思議となかった。空になったカップを持ち上げ、アリスは言う。
「アオ、茶をもう一杯貰えるか?」
『はい。今淹れて参ります』
 去っていく葵を眺めながら、アリスは考えた。
(……世界が滅びるとは、どんな感じだろう、か。私とて当事者の一人だが、人々は何を想うだろうか)
 アオも思う所があるだろう。
「……まさかシェルターに行けと言われるとは思ってもみなかったが」
 アリスは呟いた。彼がアリスの決断に口を出すのは珍しいことだった。それでも、やはり、アリスの選択を尊重してくれることが、彼らしかった。
 陽光は暖かい。
(こんな日は嫌いではないが……別段好きでもない。ただ、何時もより静かなのは有難いとも思う、か……)
 葵の言葉を反芻しながら、ふっと息をつく。
(何の因果か此処に在るという事は不思議なモノだな)
 消え果てしまうという事。それは何時何時でも在り得る事。
 何時か必ず、誰にしもに来る平凡で平等な結末。
(終わりとは呆気なく、綺麗なモノ、だ……)
 葵の淹れた茶が美味いのは気の所為だろうか。

(アリス様には生き延びて欲しい。滅亡後のどんな世界になっていようとも。この方が生きていれば、生き延びていれば、世界も変わる気がする)
 ふと、葵の脳裏に美味しそうに茶を飲むアリスのすがたが浮かぶ。
(もう御守りする事は出来ないが……それでも、この方ならば生き延びられる気がする。
ならば、最後まで尽すのが、私の出来る事なのだろう)

「アリス様、お茶が入りましたよ」
『ありがとう、アオ』
 そう言って茶を飲むアリスの顔を、葵はじっと眺めている。
(アリス様はシェルターには行かぬと仰る。初めてアリス様の命に従わなかった気がする。生き延びていらして欲しい)
 何処へ行こうとも結果が変わらなくとも、少しの希望は捨てたくはない。それが、葵の考えだった。
(然し、アリス様が仰る事。この方が仰る事に従わない訳には行かない。……否、従う事こそ私が私で此処に居ると言う存在理由)
 アリス様が最後に選んだ場所。何時もと変わらぬ場所。
 雪でも降り積もれば良かった。葵が言った。
(一面の銀世界。美しき光景。雪の日の静けさと似た感じもする日だ、な……)
 そして、何時もと変わらぬ日常。
 シェルターからは見えない、本物の空。今にも雪が降り出しそうな、静かな空。

●ヒーロー
「それじゃあ、いってくるよ兄さん」
 東雲 マコト(aa2412)は、兄の墓の前から立ち上がった。彼女の兄は、以前ヴィランの凶行により亡くなっている。
「もういいのか? マコト」
「うん」
 バーティン アルリオ(aa2412hero001)に東雲は頷き、立ち上がった。
「なんなら最後の日ぐらい女の子らしく過ごしてみたらどうだ」
「冗談はよしてよ、アル!」
「ははは……」
 軽く笑ったアルリオは、不意に真面目な顔になった。
「でこの後どうするんだ、ヒーロー。大人しく指をくわえて世界の終わりを待つのか?」
「ううん、あたしは最後まで戦い続けるよ。例え世界最後の日だって妥協はしない……絶対に」
「聞くまでもなかったな」
 となれば、アルリオのやることも決まっていた。
「さあ行くかマコト!」

 たとえ、ここで世界が終わるとしても。

「へっ……どうせ最後だ。楽しもうぜ」
「だれか……だれか!」
 荒れ果てた町では、自棄になったヴィランが暴れまわっていた。抑制の利かなくなった暴力に、人々はただ怯えるだけだ。
「こんな終末で、助けに来ようって物好きがいるとは思えねえな!」
「やめろ!」
 果敢に立ち向かおうとした市民だが、一般市民がヴィランに敵おうはずもない。
「そこまでだ!」
 誰かが叫んだ。
「誰だ!?」
「おい、あれは……」
 ビルの屋上に、誰かがいる。シルエットは真紅のマフラーをなびかせ、ジャケットをひるがえして飛び降りる。
「おい、あれは何なんだ!」
「ヴァンクール……」
 市民の一人が、呟いた。
「来てくれた、ヴァンクールが来てくれたのよ!」
「ヴァンクール、戦場と化した世界に! 颯爽参上! 人々を傷つける奴はこのあたしが許さん!」
 東雲は叫ぶ。
 それでいい。アルリオと、今は亡き兄が、行動を肯定してくれている気がした。
(ありがとうアル、兄さん。二人があたしの心の中にいるから正直に生きてこれた)
 二人がいるから強くもなれるし、気高くなれる。
 そして最後は誇りを抱いて死ねる。

 歓声の中に、ヒーローは身を躍らせる。

●帰郷
「今日で世界が終わりかあ……」
 アルバティン・アルハヴィ(aa4773)は、取り急ぎ、故郷のサウジアラビアにと帰って来ていた。
 久しぶりに見る故郷。
 街中は閑散としている。かと思いきや、散発的に酒を飲み、バカ騒ぎをしているようなところもある。
 食事所を見つけたアルバティンは、食用サボテンを注文して口に運んだ。
 懐かしい味が、口いっぱいに広がる。

 砂漠にラクダを連れてきたアルバティンは、ざくざくと砂を踏みしめて、道なき道を歩いていた。
 元々中東の砂漠の民は、無事に約束の日に着けるかわからないので「アラーの思し召しのままに」のような言い方をする。
 その最後の日が今日やってきただけのことだ。アルバティンはそう考えていた。
(今日か)
 ラクダと一緒に誰もいない砂漠を歩いてると、なおさら涙がこみあげてくる。

 歩いているうちに、考えがまとまった。人とともに過ごして死のう。そう思った。
「これ、もらえるか?」
 アルバティンは、町中で捨て値で売られていたラクダを全財産で買いあさる。こんな日に売れると思っていなかったのだろう。商人は驚きながら、アルバティンにラクダを売った。一瞬だけ、眩しいサウジアラビアの光を振り返る。
 H.O.P.E.のワープ装置を使い、故郷を離れる。

「ありゃなんだ?」
「ラクダか?」
「まさかあ」
 どうやら気が触れちまったのかもしれねえな、と、老人たちは言い合った。
 アルバティンが向かったのは、ラクダなんてものは名前しか知らないような小さな国である。高速でラクダをひた走らせるアルバティン。その後ろを、列をなしてラクダがついてくる。
 まるで別世界の光景に、住民たちは、思わず笑顔にならずにはいられなかった。
 物珍しさに任せて寄ってきた子供たちに、アルバティンは様々な技を見せたり、遊びに付き合ったりしている。
 一人の住民が、アルバティンに近寄ってきた。
「なあ、お兄さん。そのラクダ、荷物は運べるんかいのう」
「もちろん」
 アルバティンは胸を張った。
「やい、お前、その荷物を寄こしてもらおうか」
 と、そこへやってきたのはヴィラン――野盗の類である。
「最後の日を安楽に過ごす邪魔をするな」
 アルバティンは、シャムシール「バドル」を構えた。
 敵うかどうかは分からない。けれど、どうせ死ぬなら戦おう。そう思った。

●子供たちの笑顔
「滅亡すると言えど、わたくしのなすべきことは変わりません」
 エルヴィラ・ニキフォロヴァ(aa4775)に、ラーヴ(aa4775hero001)はしっかりと頷いて見せた。
『うち、おうち、守る』
「ねえ、明日はもう、シスターに会えないの?」
 ニュースで知ったのだろう。一人の子供が、悲しそうにエルヴィラに言った。それにつられて、ぐすんぐすんとしゃくりあげている子供もいる。
 しゃがんで視線を合わせたエルヴィラは、にっこりと笑って見せる。
「不安がる必要なんてありませんよ。だって、わたくしたちが一緒ですから、ね」
『大丈夫、怖いの、うち、守る』
 ラーヴはじゃきんと武器を取り出して、何かを倒すふりをした。
 すると、子供たちから喝さいが上がる。
「ほら、ラーヴもこういっているでしょう?」
 エルヴィラは、知っているだろう子供たちの不安を取り除くためにただただ、日常を過ごすことを選んだ。次はこれを読んで、とせがまれれば、静かに本を朗読する。歌いたい、と言われれば、一緒に讃美歌を歌う。アレンジをして、次第にのびやかになる自由な讃美歌は、子供たちの笑顔を誘った。
「しぬの、こわいよ」
「死が怖いのは当然です。わたくしだって怖いですよ」
「本当?」
 エルヴィラは、静かに頷く。
「でも、まだわたくしたちは死んでませんよ。なら、笑顔で楽しく過ごしましょう」
『笑顔、笑顔』
 ラーヴとエルヴィラは、にっと笑う。ぎこちなく子供たちが笑いだす。エルヴィラは笑みを濃くする。
「その調子です」
 それでも、うつむいてしまう子がいた。
『笑顔、なれ!』
「きゃはははは」
 ラーヴが目ざとく見つけ出し、こちょこちょの刑を科す。子供はたまらず笑い出した。
「あら、楽しそうですね。わたくしも参戦しましょう」
 みんなで思う存分くすぐり合う。教会には笑い声が響いていた。
「ほら、まだ、笑えるでしょう。まだ、わたくしたちは生きてるのです。なら、もっと笑いましょう」
 元気よく、子どもたちが答える声がした。エルヴィラは、ステンドグラス越しに空を見上げる。

●最期は
 空港に降り立った邵 瑞麗(aa4763)は、香港の空気を思いっきり肺に吸い込んだ。
 帰ってきた。直感でそう思った。
 華僑である邵は、もうずっとアメリカで暮らしていた。香港はほとんど居なかったのだけど、それでも、自分の故郷はあくまで香港だと感じた。
「クーロン城ももう残っていない……親から伝え聞いた香港はもうほとんど残ってないネ」
 香港の町を練り歩きながら、邵は暴れる場所を探す。どうせ、最終日だというのなら、最後に思い切り暴れたっていいだろう。
「できるだけ悪そうな奴がいいね。どこにいこうかな?」
『臨時休業中』――そう書かれていた酒場を見つけて、邵は店に入る。店には、勝手に上がり込んで、笑い声をあげている酒飲みどもがいた。
「三合会ヤクザとかヴィランのいる場所、知らないか」
「ああ?」
 強烈な拳での一突きが、壁にのめり込む。――共鳴した邵だった。

「襲撃だ!」
 叫んだ男は、そのまま壁に叩きつけられた。銃を構えたヴィランは、思わず狙いをはずした。
「ばっ……」
「そらあバケモノがきたぞ! 隕石に殺されるよりは戦って死ぬがいい!」
 逆さまになった邵が、脚を前に出して前進する。猛爪『オルトロス』が、闇からヴィランを切り裂いた。空いた両手で九龍城砦を持ち、銃弾を防ぐ。
 ヴィラン達には、人の姿をかけはなれたバケモノにも見えた。
「くそ! どうする!?」
「応援を頼め!」
 どうせ死ぬなら何も怖いことはない、ただできるだけ大勢殺して暴れたい。盾でできるだけ身をかばい、目につく連中をオルトロスで嬲り殺す。
 一人でも多く。
「人を呼べ!」
 辺りはとたん、静かになった。
 まだ、心臓は動いている。次の狩場を求めて、邵は去っていく。もっともっと、悪そうなやつらがいる方へ。騒ぎを聞きつけて、物騒な男たちがやってきた。
 向けられる銃口を、逆さまの景色から睨む。
 砲撃の嵐。
「やったか!?」
 硝煙の中、邵は思い切り蹴りを放った。生への祈念が、邵の動きを苛烈にせしめていく。
 しかし、それも長くは続かないだろう。――無数の銃口が見えた。
 躱せないなら、一人でも多く。最期は、ボロクズのように。

 邵の声は、ついに聞こえなくなった。

●望み
「やる事は1つだ、いつであっても関係ない。例えそれが、最期の日だとしても」
 黒鳶 颯佐(aa4496)は、無表情にヴィランを屠った。治安維持やらエージェントという肩書やらはどうでもいい。
 そもそも黒鳶は、正義感でHOPEにいたわけではない。今颯佐を動かしているものはかつての英雄との約束と、今の英雄、伽羅(aa4496hero001)との約束である。
 地獄で待つと言ったかつての英雄に会いに逝くべく、生きて、地獄に堕ちるに足る数の敵を殺す。二つの約束の為、黒鳶は最期の瞬間までただ敵を屠り続けるのみである。
 それ以上の感情は無い。恐怖も、怒りも、悲しみも。
『昔は、どうだったんですか? 前の英雄さんと一緒だった頃は』
「……ただ振り回されていただけだった気もするが……どうだったかな」
 黒鳶は言葉を濁す。
 黒鳶は前の英雄との事はあまり話したがらない。
『そうですか……。……』
 伽羅は、この騒ぎの中、前にいた世界での己の一部を取り戻していた。端境の護り手としての自分。
 伽羅は颯佐の選択に口を出さないという誓約の下、従魔討伐に力を貸していた。

 隕石落下の瞬間、黒鳶が心配なのはただ一つ。
 自らが屠った数が、地獄に堕ちるに足る数か否か。
「……足りる、か……?」
 どうか――彼の英雄に、「地獄で待つ」と約束した英雄に、合うだけの業を。この手に。

 破滅とも呼べるような願望を抱く黒鳶に対して、伽羅は、最後まで抗い続ける面々を見て全員は無理でも常世と現世の境界を超える人間を減らせるやもしれぬと考えていた。
 いくら端境の護り手といえ、今此処にいる以上、力の行使は恐らく不可能だろう。
 けれど。思い出した以上、自らが端境の護り手である事に変わりはない。そして、今の自分にはバトルメディックの適性がある。
 隕石が落ちることは止められなくとも、隕石が落ちた後だ。恐らく救える数はとても少ないが、瀕死ならまだこちらに戻せるかもしれない。
(その為に先ずは颯佐を何がなんでも生かさなくては――)
 それは、黒鳶の望みとは相反する行動だったかもしれないが。
『そう簡単に、渡らせてあげませんから。……絶対に帰します』
 決意を胸に、彼らは戦場へと身を躍らせる。

●抵抗
「あと一日、かぁ……」
 そう言われても、リオン クロフォード(aa3237hero001)はなんとなく実感がわかない。明日には世界が終わるなんて、急に言われても受け入れられるものではない。
「リオン、どうしたらいいのかなぁ……」
 藤咲 仁菜(aa3237)は、ぼーっと虚空を見つめていた。
『俺はいっつも作戦はニーナまかせだからねー。ニーナはどうしたい? 考えてるんでしょ?』
 そう言うと、藤咲はぎょっとした顔でリオンを見た。
 その理由は、リオンにはよくわかる。
(知ってるよ、ニーナが諦めが悪い事くらい。きっとニーナは勝機のない自分の考えに俺を巻き込みたくなくて黙ってるんだって)
 だから、リオンは自分から口にする。そうでもしなければ、――自分より人が傷つくことが嫌いな彼女は言い出せないと思ったからだ。
『いいよ、ニーナ。悔いのないようにぶつかってこう! ちゃんと最後まで付き合うよ』
 いつだって共に命をかけて戦ってきた。
 今更遠慮することないだろ? 思いを込めて自分の胸を叩くと、藤咲は決意を込めたように話し出した。
「……あのね、リオン”特攻隊”って知ってる?」
『火器つんで、敵船に自爆しに突っ込んでくやつでしょ。うわぁ、何それハードモード!』
 あえて茶化してみると、藤咲はむぅっとした顔になる。頬が膨れて、白いロップイヤーの耳がぱたんと下りた。
『でもHOPEの作戦で駄目だったんだから、それしかないよなー』
「……」
(HOPEもそれを考えたのかもしれないけど、さすがに「駄目かもしれないけど自爆してきて☆」とは言えないよなぁ)
 リオンは、彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
『オッケー! やってみよう! 上手くいけば被害も抑えられるかもしれないし』
 泣きそうな顔をする彼女を、リオンはいつものように笑顔で引っ張る。
(大丈夫、ニーナを一人になんかしないから。泣き虫で、頑張り屋な俺の相棒!)

 ネットで集った有志が、アメリカ軍の支援を受けて、”最期の作戦”に挑むのだという。
(私は最後まで戦う事に悔いはないけど、リオンはどうなんだろう。多分無駄に終わるし、私たちの死は免れない。
 明るく振る舞うリオンを見ながら、藤咲は笑おうと努めた。
 自分でも馬鹿な事を考えてると思う。
(でも、リオンはそんな私の考えてる事なんてお見通しで、「一緒に死んでほしい」と言っているようなものなのに何でもないように、茶化して、笑って、私の手を引いてくれる)
 ありがとう。強くて、優しい私の相棒。
 馬鹿みたいにいつも通りで、泣きそうになる。
 この涙は、怖いからじゃなくて。

●重力に任せて
 飛行機の機体が大きく揺れた。
 体勢を崩しそうになるレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)を、狒村 緋十郎(aa3678)が支えた。礼を口にするかしないかの前に、狒村 緋十郎(aa3678)は当然だというように頷いた。
 ここは、アメリカ行きの飛行機の中だ。
「会長も行方不明、HOPEも機能停止……。改めて組織の力の偉大さを痛感させられるな……」
『ええ。会長が健在で在ってくれたなら……もっと組織的な、大掛かりなこともできたのでしょうけれど……』
 隕石衝突の報せを知り、狒村は、初めはレミアと二人で穏やかに最後の日々を過ごすことを考えていた。
 しかし、当のレミアに喝を入れられ、最後の瞬間まで足掻き続けることを決意したのだった。
「レミア。ゆうべはすまなかったな。情けない姿を見せてしまった……」
『いいのよ。わたしこそ、少し言い過ぎたかもしれないわ。でも……こうして立ち向かうことを決意してくれて、嬉しい。その抗う意志に満ちた瞳……それでこそ緋十郎だわ』
「ああ。最後の瞬間まで……俺は、俺の筋を通し続ける。だから……改めて頼む。レミア、俺に力を貸してくれ」
『勿論よ。だって……』
 夫婦、だもの。レミアの言葉が、飛行機のエンジン音とともに空へと吸い込まれていった。

「ロケットを1台打ち上げて貰えないか」
 これが、エージェントたちの”最期の作戦”。
 狒村の申し出に、最終作戦本部の人間はうろたえていた。
「或いは、発射するミサイルに俺を括り付けて貰えないか」
 しぶる研究員に、狒村は言う。
「承知の上だ」
 成功するか分からない。隕石に届くかどうか――それでもいい。可能性が、1パーセント。いや、それ以下でも、あるのならば。
「おねがい…・・・します」
 藤咲もぺこりと頭を下げた。

 ミサイルが、隕石に向かってうちあげられる。遠くで、爆発音が響き渡った。降り注ぐ隕石の欠片を逸らすために、いくつかの誘導ミサイルが放たれていたのだ。

 狒村は宇宙空間でで隕石迎撃の構えをとった。共鳴の主体は、レミアではなく狒村。緋十郎の瞳が赤黒く染まり、口元からはレミアのような鋭い犬歯が覗く。
 ボロボロになったレミアの外套を身に纏い、狒村は魔剣を手に取る。――《闇夜の血華》。前世界のレミアの愛剣が、門の影響で現世に飛来したものだ。
「逃げて、隠れて、それで生き延びても、悔いが残るだけだ……。ならば……この魔剣で……隕石を両断してみせる…!」
 剣を振りかざす狒村に、レミアがそっと語り掛ける。
『ねぇ緋十郎……あのね。今、わたしのお腹にね。緋十郎の……赤ちゃん、居るのよ。お願い。この子のためにも……地球滅亡なんて、させないで』
 狒村は、動きを止めた。
 吸血鬼であるレミアの体は、医学的には“死体”である。子供を授かることは無理と女医からも言われていた。
「そうか……!」
 驚きが去ると共に、じわじわと喜びが胸に満ちる。
「ならば……尚更、この刃に全霊を込めねばな」
 笑みが少し柔らかさを帯びる。決意をもって、剣を握りしめた。
「女の子なら、きっとレミアに似て、気高くも美しい娘に育つだろうな」
『男の子なら、緋十郎そっくりの変態かしら』
 二人は揶揄して、楽しげに笑い合う。青い地球が、眼前に見えている。流れ星のように、ライヴスが尾を引いて――。
『死が二人を別つまで……何て誓いの言葉も世の中にはあるみたいだけれど。死んでも離さないわ。緋十郎は、未来永劫にわたしの下僕よ』
「ああ、本望だ」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • 白く染まる世界の中に
    エレナaa0996hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412
    人間|19才|女性|回避
  • ヒーロー魂
    バーティン アルリオaa2412hero001
    英雄|26才|男性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 孤高
    黒鳶 颯佐aa4496
    人間|21才|男性|生命
  • 端境の護り手
    新爲aa4496hero002
    英雄|13才|女性|バト
  • クールビューティ
    アリスaa4688
    人間|18才|女性|攻撃
  • 運命の輪が重なって
    aa4688hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • ひとひらの想い
    茨稀aa4720
    機械|17才|男性|回避
  • 一つの漂着点を見た者
    ファルクaa4720hero001
    英雄|27才|男性|シャド
  • エージェント
    邵 瑞麗aa4763
    人間|22才|女性|生命



  • 街中のラクダ使い
    アルバティン・アルハヴィaa4773
    獣人|14才|男性|回避



  • エージェント
    エルヴィラ・ニキフォロヴァaa4775
    人間|23才|女性|回避
  • エージェント
    ラーヴaa4775hero001
    英雄|15才|女性|シャド
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