本部

叫ぶ島

玲瓏

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/12/29 21:17

掲示板

オープニング


 無人島からの救難信号はつい昨日飛ばされたばかりであった。それにいち早く気づいたのはH.O.P.Eである。
 話は少し逸れるが、依頼というのは色を持っている。色は依頼の届け主に依存しており、例えば子犬を探して欲しいという少女からの依頼ならば薄い水色であったり、ピンク色であったりと優しさを感じる色。町中でヴィランが暴れている、愚神がいるという依頼ならば紫色であったり、赤であったりと危険を表す色。落ち着いた色ではない。
 依頼には確かに雰囲気があるのだった。実際に現場に行かずとも、おおよそ察しがつくものだ。大体こんなもんだろう、こんな感じだろう。ならばこう動けば、大体は解決するだろう。
 今日H.O.P.Eに飛び込んできた依頼には実に真っ黒であった。
 不気味、おどろおどろしい。得体のしれぬ、わからぬもの。まるで深淵だ。依頼という存在が生命を持ち、人間を殺してしまうのではないか?
 救難信号から、次の情報を知る。

 ――
 この島は異常だ。
 従魔が蔓延っている。種類は多い。まず、種類を一つ一つ説明しなければならない。
 まずはゴースト。彼らは通常攻撃が効かない挙句、突然現れる。ゾンビのようにグロテスクな見た目で、その攻撃方法も頭がイカれている。奴らは半透明だから我々に触れることができないが、接近されると超音波かなにかで体全体が麻痺し、その間に憑依される。憑依した後乗っ取った体で自分を攻撃する……。そうやって相手を殺す。
 鎌男。こいつはありとあらゆる攻撃が通じるが、面倒なのは持ってる道具が豊富すぎることだ。回復用の何か、逃げるための煙幕……逃げて仲間を呼ぶ寸法だ。罠の設置もできる。雑魚だが、面倒だ。
 斧男。両手に大きな斧を持って赤いマントを羽織った最低な奴だ。少なくとも島に五体はいる。八フィート(約二メートル)の図体で力が強い。しかも狙った獲物は絶対に殺す。こいつから逃げられた奴は一人もいない。
 クマのぬいぐるみ、その少女。こいつは一体しかいないが……正直、私はもう逢いたくない。こいつはゴーストを使役して、相手に憑依させた後にしか人間を攻撃しない。でその攻撃方法が……すまない、思い出したくない。最悪だった。
 それで……。
 キラー。多分、こいつは愚神だ。今までのは全部従魔だろうって、説明し忘れてたが……。
 仮面を被ってる。顔全体を多い隠す白い仮面だ。それで帽子を被ってる。シルクハットだ。こいつに限っては、これくらいしか情報がない。

 もう私以外の仲間は死んでいる。助けてほしい。お願いだ。
 人と全然話していない。壊れてしまいそうなんだ。

 ――

 黒くて、真っ黒。

解説

●目的
 従魔、愚神の討伐。救難信号を送ってきた人物の救助。

●救難信号を送ってきた人物
 カレンという名前の一般人女性。彼女は黒幕「キラー」の奴隷であった。
 ドロップゾーンを生成するためにキラーによって人間を連れてくるよう命じられていた。一度でも断れば彼女の住んでいた町に侵攻されるから、背けずにいたが、連れてくる人間に同情心が沸いて他の奴隷仲間達と一緒に島を脱出しようと試みたが発覚し、無残にも殺されることとなった。彼女はその中の、唯一の生き残り。
 彼女を生きたまま発見できれば、島の探索に大きく有利になるだろう。

●キラーについて
 キラーはケントゥリオ級の愚神である。彼は残虐な方法でしか攻撃手段を取らない。武器や戦法は限定されずに「剣」「銃」「鈍器」「刃物」などその状況にあった武器を使い分けてエージェント達を追い込む。特にこれといった特殊能力はない。身体能力で全ての弱点を補っている。
 そしてエージェントを見つけ次第捕獲を試みる。エージェントの奴隷化、彼の目的はそうなる。もし断られたら「特別手術室」に連れ込まれる。
 厄介なのは彼は島を誰よりも知り尽くしている。逃げ道、自分にとって有利な場所等。彼は自分が不利になる場所では一切戦わない。

●島
 その日島付近の天気は曇っている。
 廃墟の集合体のような場所だ。気味の悪い実験施設、病院、古びた家、人工的に作られた洞窟。それ以外は全て森であり、海がよく見える浜辺にはペンションのような建物があるが、そこは奴隷小屋となっている。
 廃墟となった実験施設にキラーは拠点を構えており、カレンはそれを知っている。

リプレイ


 エージェント達を乗せた二つの小型フェリーは曇った島に到着した。
「任務でなければ、訪れたくないような場所ですね」
 船から降りて砂浜を踏んだエレオノール・ベルマン(aa4712)は、島全体を悪霊だと感じていた。
 砂浜を歩くと見えてきたのは一つの建物であった。ペンションに近いが、人の気配は微塵も得られない。それと、近づくにつれて悪臭が漂う。腐敗臭だけではない。
 餅 望月(aa0843)は鼻を両手で摘みながら言った。
「この中に救助者がいるのかな」
「可能性は高いが、良い予感はしないな」
 海の近くだからと建物は全て木造仕立てだ。老朽化は著しい。
「分かっているとは思うけれど、この島に安全な場所は一つもないだろうね。各自共鳴の準備はできているかな」
「カルロ、余計な言葉だ」
「そうだろうね。それじゃあ」
 シーナ(aa3212)と共鳴を終えたカルロ ガーランド(aa3212hero001)、彼女らが先頭になって奴隷小屋へと忍び込んだ。エージェント全員が入ると小屋の面積は狭くなるからと何人かのエージェントは浜辺に残って周囲を偵察している。
 家屋の内部は想像もつかない悪臭に溢れていた。窓は閉め切られている。部屋には何の飾り気もない。唯一床に散らばっていた鎖が小屋の用途を示しているのだ。
「奴隷の住処、といったところか」
 部屋の片隅に丸まっていた人間の遺体には首輪がついていた。御神 恭也(aa0127)はそれを見て言った。
 人が死んでいたのだ。
「これ……救助者の人じゃないよね」
「違うと信じたいな。救難信号の中には仲間がいるってあったから、仲間の一人だと思いたい」
「でも」
 伊邪那美(aa0127hero001)は手を合わせて言った。
「救助者の人じゃなくても、嫌だな。こんなの酷いから……」
 同じような気持ちを百薬(aa0843hero001)も共有できたのか、沈んだ顔付きになった。
 奴隷にされて、きっと毎日が絶望だっただろう。それでもいつかは解放されると信じて続けていたのか、全てを諦めて一生を終えると思っていたのかは関係ない。不憫だった。
「嘆いても仕方ねーじゃんか」
 シーナは二人の肩を叩いた。
「手を合わせて貰えて、少しはこいつも喜んでると思うけどさ。こんなところでボウっとしてると後一人、死んじゃうかもしれないんだぜ。そしたら私らが来た意味が無くなっちまう」
「うん――もう少しだけ手を合わせててもいいかな?」
「ま、いいんじゃねーかな。祈祷くらいは」
「百薬もします。癒やしの力で……」
 二人が微力でも安らぎを与えるべく祈りを捧げている間、御神は室内を探ってみたが情報らしい情報は一つも出ては来なかった。地図を探してみたのだが、何処にも見当たらない。彼はH.O.P.E本部から地図を取り寄せる手配する問い合わせをしていたが、地図は無いとのことだった。せめて島内にあると良いのだが。
 ペンションから外に出ると、ジャーナリストの如くアビゲイル・ヘインズビー(aa4764)が望月に歩み寄った。
「生存者は?!」
「ううん。ここにはいなかったみたい」
 アビゲイルの落胆模様は深かったが、一瞬で元気を取り戻した。
「まだ探し始めて全然時間がたってないものね、これからよ! 待っててね、生存者の人。この私、アビゲイルがちゃんと助けてみせるわ!」
「良い意気込みだぜ」
 付近を偵察していた赤城 龍哉(aa0090)は浜辺に戻るや突然聞こえてきたアビゲイルの威勢の良い声に朗らかに言った。
「そういや、他に何か分かったことはないか?」
「このペンション、奴隷が住んでいたみたい」
 奴隷。黛香月(aa0790)はその言葉に耳を尖らせた。彼女にとって愚神というだけで抹消すべき物質であったが、どうやら今回はただ抹消するだけでは終わりそうにない。残虐に葬る必要が出てきたようだ。
「香月様……」
 アウグストゥス(aa0790hero001)は海を眺める薫に言いかけたが、彼女は言葉の先を制止した。
 島の探索に向かうと呼びかけられた香月は短い返事をしてついていくが、彼女の心眼は憎悪に輝いていた。
 森の中に足を踏み入れる。百薬はその時、視線を得た。
 森の奥だが、エージェント達の進行方向よりも大きく逸れた場所だ。
 そして目が合ったような、感覚を得た。彼女は強大な力に睨まれたように、足が竦んだ。白いマスク、黒いシルクハット……。彼女の脳裏に、キラーという単語が浮かんだ。
 マスクは薄暗い場所から彼女を覗き込んでいた。
「ね、ねえ」
 百薬は望月の肩を叩いて、マスクのあった場所へと指を向けたが、既にいなくなっていた。


 島を一周するのに歩いて一時間半以上はかかると見込まれ、捜索は二手に別れた。赤城と御神がそれぞれの班に付いている。
「道なき道って感じだな」
 斜面を登っていた。人間のために用意された道というのは存在しなかった。獣道も発見できない。更に、異様な静けさを持っている。動物の鳴き声が一切聞こえないのだ。
 邵 瑞麗(aa4763)は列の最後尾にいて先を行くエージェント達に続いていた。彼女は周囲をよく観察しており、特に木々に不審な点はないか観察は怠らなかった。一体どのように行動しているのだろう、この悪の人物らは。
 斜めに曲がっている奇妙な木を見つけて彼女は立ち止まろうとした。目を盗られてしまった。上に目を向けるとどうしても、下が疎かになってしまう。
「な、なに?!」
 瑞麗は地面を失った。一瞬、胃がひっくり返りもしたようだった。これは至って単純すぎる罠だ。通称「落とし穴」と呼ばれている。瑞麗は間一髪で両手を地面について、底に落ちずに済んだが、ぶら下がっている。
「今助けます」
 望月が助けようと瑞麗に手を伸ばしたが、その手を一つの鎌が掠った。
 斜面の上から鎌男達が嬉々として石や木等を投げつけているではないか。
「まさかこんなところにも罠を仕掛けてやがるとはな。餅、瑞麗を任せられるか?」
「任せてください!」
「頼んだぜ。その間にこいつらを始末しとかねえとな」
 鎌男は四人程だ。魚介類でいうとメダカレベルの相手、手間取りはしない。赤城に向けて飛ばされた鎌を彼は足で吹き飛ばして、前へ前へと走った。
 ところが背後から聞こえてきた瑞麗の悲鳴を聞き逃さなかった。
「下に何かいるんです! 何かが瑞麗の足を!」
 更に悲劇は重なった。鎌男達は用意周到すぎる。斜面の上から、人を轢き殺すには十分な大きさの廃車が転がり落ちてきそうだった。
「赤城君、穴の下に潜ってみます」
 大胆な宣言をアビゲイルはしてみせた。
「危険だぜ。できるか?」
「大丈夫です、アビゲイルはリンカーですから!」
 アビゲイルと拳を突き合わせると、赤城は正面から転がる車に向かって神斬を構えた。狙いは真っ二つだ。
 転がり落ちる車体。赤城の準備も整っていた。後はタイミングを見計らって剣を縦に振るだけだ。車は赤城目掛けて、タイヤを回しながら斜面を下り始めた。鎌男達がボンネットを蹴り飛ばした。
 剣を縦に振る瞬間が訪れた。
「おい、冗談だろ」
 寸前で赤城は剣を落として両手で車を押し止めた。一昔前の車で、どうやらエンジンが大きいようだった。赤城は思っていた以上の衝撃を両手に受け、後ろに引き戻された。危うく手を離すところだったが、それはできない。
 中に人が乗っていた。
 穴の中に入ったアビゲイルは、瑞麗の足を引っ張る二人の鎌男にヴァリアブル・ブーメランを食らわせた。その一撃じゃ彼らは倒れず接近戦を持ちかけてくるのだが、このブーメランは剣としても使えるのだ。鎌男は左右からアビゲイルに迫る。
 先端に刃のついたスラッシュブーメランを片方の鎌男、その頭に突き刺して剣でもう片方の腹を貫いた。動かなくなり、彼女はスラッシュブーメランを回収すると地上へと戻った。
 地上では瑞麗と望月が、赤城の代わりに鎌男達の相手をしていたが、簡単に終わった。
「車の搬送、手伝いますよ」
 十分以上かけて、四人で車を上に押し戻した。中にいる奴隷が生存しているかもしくは……。瑞麗は彼女を車から外に出して、地面に横にさせた。
 奇跡のようだった。奴隷は目を開いたのだ。
「良かった……」
 望月は胸を撫で下ろした。大げさだが、心から安心したという事だ。彼女は奴隷にケアレイをかけて、身体を回復させた。
「あなた達は」
 小さい声で奴隷は言った。
「俺達はエージェントだ。あんたを助けにきたんだぜ」
 手入れの行き届いていない髪と、ボロボロの服。彼女は自分の細すぎる手を見た。


 その頃御神達は不思議な、そして気味の悪い施設を見つけていた。看板には英語で「実験施設」と書かれている。
 実験施設についてアビゲイルが奴隷に尋ねているのが、通信機越しに聞こえてきた。
「そこは人間を拉致していた場所のようですね」
「奴らの拠点と考えても良いのか?」
 御神の問いかけを、全くそのままにアビゲイルは奴隷に尋ねた。
「島自体が拠点のようなものだから、特別な場所という話ではないみたいですね。ただ要注意するべき場所というのは間違いではないそうです。キラーの住処のようで」
「奴はここにいるのか」
「可能性は高いみたいですね」
 薫はすぐに、施設に歩みを進めた。御神は通信を終えてすぐ薫に続いた。施設の扉は破壊されていて、飛び散ったガラスが地面を這っている。
 施設の中には電気がないが、窓ガラスがたくさんあって明かりに困らない。天井や壁、至るところに貼ってある。探索ができるのは昼までだ。夜になると真っ暗闇に包まれてしまう。
 エレオノールは慎重に探索をしていた。四人は二列に並んで、周囲の物音に聴覚を配っていた。物音がすれば、それは従魔かキラーだ。だから一瞬でも気を緩められない。
 理由は分からない。理由がなくとも、何気なく行動してしまうのはよくある話だろう。何気なくテレビをつける、何気なく道端に落ちていた石を蹴る。ほとんどの場合、それは無意味に終わってしまうものだ。エレオノールも、何気なく後ろを振り向いただけだった。
 少女が立っていた。手にはぬいぐるみを持っていた。この情報を、エレオノールは知っている。恐ろしい人物であるということを。
 御神の肩を叩いたのはエレオノールだ。音を立てず、彼女は御神に少女の気配を伝えた。
 どこから溢れてきたのだろう。腐敗した人間達が少女の後ろに現れていた。ここは一本の細い廊下だ。彼らに近寄れば憑依されると分かっているならば、距離を置けば良い。だが、後ろだけでなく前からも従魔が来ていたら、逃げられるのは難しい。
「一度部屋に避難するぞ」
 シーナは隣にスライドドアを見つけて中に入るよう提案して、すぐに実行に移した。
 酷い悪臭だ、酷すぎる。この部屋は一体なんの部屋だ? 目にすら染みる。シーナは鼻を手で覆い隠して、中を見渡した。
 事態は悪化したと直感が言った。中は広い休憩室のような場所で、黒板らしき物が壁に飾られていた。ロッカーや棚もあって、棚には皿やコップが残っている。中央には机があるのだが、赤かった。
 悪臭はそこからしているのだった。シーナに背中を向けて、大きな男が鉈を持って、その鉈を机に打ち付けていた。
「ここはだめだ、皆別の場所を――」
 混乱と混沌。シーナは皆に呼びかけるために後ろを振り向いたが、仲間の顔は映らなかった。少女の真っ白な顔と笑みが見えて、少女は両手でシーナを押した。扉が大きな音を立てて閉まった。
「シーナ!」
 カレンの情報にはなかった。少女は瞬間移動をするのか? 御神は少女に一撃を食らわせるべくドラゴンスレイヤーを叩きつけたが、少女は元の場所に戻っていた。
「扉を破ってシーナを助けるぞ」
「は、はい! あの、ベルマンはこの従魔たちを倒します。その間に!」
 雷書「グロム」を取り出したエレオノールは周囲に電気が巻き起こり始めた。その電気は腐敗した人間らに命中して、彼らは倒れたが奥から続々と次の軍が押し寄せてきていた。
「シーナ、大丈夫か!」
 扉を蹴破った御神は中に入った。シーナは襟を掴まれて、先ほど男が鉈を叩きつけていた机上で足を暴れさせていた。御神は剣で斧男を、力いっぱい吹き飛ばしてシーナの窮地を救った。男は壁端まで吹き飛び、施設を揺らした。
「助かった……。死ぬかと思ったぜ」
「外はエレオノールさんらに任せている。この男を片付けるぞ」
 斧男は、名前の通り斧を手に持って二人に向かった。その足元をライヴスの、不浄な風が包む。シーナは御神のサポートに回っていた。
 廊下から発砲音が鳴った。薫の持つLSR-M110が吠えたのだ。銃弾の先には少女があり、狙いはぬいぐるみに向けられていた。薫の銃弾はぬいぐるみを貫いて、綿が散った。
「キッイイッイイイイ」
 声ではない悲鳴が少女から漏れた。今まで表情のなかった顔に、怒りが募った。少女は充血した目を薫に向けて尋常ではない速度で近寄り、その首を両手で強く締め付けた。
 落ち着いた物腰で薫の持つ狙撃銃からまた一つ弾が鳴った。その弾丸は少女の頭を貫いた。
 ちょうど時を同じくして、壁を破壊して斧男が廊下に倒れてきた。倒れた男は動かないままだった。


 何人かの雑魚を退けて研究所に辿りついた赤城達は、中に入って合流した。カレンも一緒だ。
「一つ聞いておくことがある。カレン、どうやって救難信号を外に飛ばしたんだ」
 御神はこの信号が罠だと疑っていた。
「外から、餌となる人間を捕まえにいったときにアンテナと、色々持ってきて、仲間達と協力して、脱出しようとした。だから飛ばせた」
「人間を捕まえにいくとき……その時に逃げようとは思わなかったのか」
「キラーが見張っていたから、逃げられなかった。逃げたら、私の知人を殺すと言われていたわ」
「アンテナを買うことができたのは、どうしてだろう」
 望月が疑問を口にして、カレンは簡単に答えた。
「人間を、連れてくるときに使う道具って言い訳で……」
 久々に声を出して喉が疲れたのだろう。カレンの声はか細くなっていた。これ以上の質問は難しいと判断できたが、薫は容赦がなかった。
「この施設にキラーはいなかった。他にどこにいるか、想像できるか」
「分から……ない」
 カレンが小さく答えたのと同時に、施設に大きな音が響いた。音が聞こえたかと思えば、全ての窓が消えて暗闇が内部を支配した。望月はすぐに救国の聖旗「ジャンヌ」でフィールドを形成し、光を起こした。
「危ない!」
 飛んできたナイフを防いだのは瑞麗であり、彼女は片腕を伸ばしてナイフを自ら食らった。危うく、カレンに命中するところであったのだ。
「やはり来たか。キラー」
 赤城の目の先には、白いマスクが暗闇に浮かんでいた。キラーには体があるが、全身が黒い。だから暗闇に、マスクが浮かんでいるようにしか見えなかった。
 施設の中央の、円形状の広場だった。赤城はカレンに、キラーが自分が有利な状況の時にしか攻撃をしてこないだろうと教えられていた。だからわざと不利な状況を作って誘き出したのだ。キラーにとって有利な状況というのは「暗闇」であることと、「広い場所」であることだ。
 薫はすぐに狙撃銃でマスクを狙った。弾丸は何かに弾かれて消えた。
「あの時私を捕らえ、操り人形にするためにこんな体に改造したのは貴様か? それとも貴様の仲間か?」
 キラーは答えようとしない。
 周囲には鎌を持った男、斧を持った大男も現れた。ゴーストも見えるではないか。愚神は周囲にいる従魔を全て呼び寄せたのだ。
「フン……答えは期待せん。とにかく目障りだ、消えろ!」
 薫の狙撃銃がまず一度目吠えたのを切っ掛けに、戦場は動いた。
「エレオノール、カレンを守れるな」
 赤城が尋ねた。
「はい、守ります」
「良い返事だ。餅の貼ったフィールドから絶対離れるな」
 周囲を取り囲む鎌男に対する攻撃は、アビゲイルが有用であった。彼女は二つのブーメランを駆使して接近を許さない。御神が彼女の攻撃に追い打ちを仕掛け、回復を与えないのだ。
 瑞麗とエレオノールはカレンを守りながら近寄るゴーストの始末をしていた。エレオノールは先ほどの交戦でゴーストが雷撃に脆い事実を知った。この従魔が他の味方に手を加える前に始末しなければならない。二人は互いに背中を合わせ、ゴーストを無へと返すのだ。
 神斬を手に薫はキラーと対峙している。斧男、鎌男、ゴーストの攻撃は周りの味方に任せていた。彼女は狙撃銃で牽制した後、大剣を手に特攻した。
 キラーは両手に剣を持っている。
 薫は頭上の構えから一気に下に振り下ろした。二つの剣がキラーを刃から守るが、薫は力に任せて押し付けた。キラーは剣を手放した。
 思いもよらぬ手法に薫は寸分の隙を見せるが、早い判断で後方に退いて攻撃を断った。
 すると、キラーの足元に黒い風が巻き起こった。シーナの手柄だ。
「これで奴は動きにくくなったはずだぜ。チャンスだ!」
 頷いた薫は、再びキラーへと走った。
 間合いに入る寸前、薫は足に激痛を得た。キラーは二つの剣を捨てて、鞭を武器に選んだ。その鞭が振るわれて、薫の足に命中したのだ。
 追撃をさせてはならない。彼女は狙撃銃で威嚇して距離を取ろうとしたが、足が十分な動きをさせてくれない。
「回復専念というわけにもいきませんね。ワタシも攻撃の手数として働きましょう」
 鞭には麻痺を促していたようだ。望月のクリアレイが薫の麻痺を取り除いた。
「感謝する」
「もう大丈夫そうですね。それではやってしまいましょう、もう終わらせないと!」
 先に動いたのはキラーだ。その男は鞭を捨て、素手となった。すると素早い動きで望月へと迫り、三連撃の飛び蹴りを披露してみせた。三つ襲いかかる足を全てフラメアで防いだ望月は反撃を試みたが、キラーの動きは常軌を逸していた。滑らかでいて、まるで演劇だ。
 三度の攻撃を繰り返して、まだ愚神の手番は続いている。足の攻撃を終えれば手によるストレートパンチ、それが終われば再び飛び膝蹴り。薫は大剣をその体に振りかざしたが、つま先で弾き返されたのだった。
 袖から銀色の閃光があった。このキラーという奴はまだ攻撃手法を備えているというのか。素手による連撃を繰り返しながら、袖からナイフを二つ取り出して――その刃を薫の腹に突き刺した。
「薫君!」
 どこからか声が聞こえた。腹からの血が服を赤く染めたが、薫の表情は静かな笑みが浮かんでいた。
「捕らえた」
 キラーの両手を捕まえた薫は思い切り手前に引き、敵の体制を崩すとキラーの顎に膝による強撃を二度与えた。脳が揺れたのか、キラーはそのまま床に倒れ伏したが、薫の攻撃は終わらない。神斬とバンカーメイスを両手に、それを何度も地面に打ち付けた。罅が入り、埃が舞う。腹から垂れた血が血溜まりに落ちる。
 薫の肩を誰かが叩いた。見れば、カレンだ。その手には剣が握られていた。
「あんたのせいで皆死んだのよ。中には私の友達もいたわ、親友も。あんたは奪いすぎたのッ! たくさん、私にはあったのにッ! 殺してやるわ、殺してやるッ!」
 カレンは重そうに剣を持つが、限界を構わず何度も剣を地面にたたきつけた。何度も――やがて体力が悲鳴を上げると剣を手放して、床に倒れた。


 キラーが倒された後、島に残る全ての従魔を一日かけて掃除し終えて、ようやくエージェントとカレンはこの呪われた島を脱出ができるようになった。もう夜になっている。
「もう来たくない島だな」
 小型フェリーの上で、シーナが言った。「そう願いたい」と、カルロも疲れた顔付きだ。
 瑞麗は今回の出来事をノートに纏めていた。どのように敵が動いていたのか、今後の参考のために記しているのだ。
「大丈夫でしょうか」
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)はカレンの背中をさすっていた。先ほどフェリーに積み込まれていたおにぎりをバクバクと平らげ、そのせいで吐いてしまったのだ。
「ええ、大丈夫……。ありがとう」
 カレンは最初あった時よりも大分回復していた。望月のケアと、十分な睡眠が取れたことによる好作用だろう。
「お辛かったですわね」
「とても辛かった。アンテナが完成して、エージェント達を呼んだら後は待つだけだったのに、それが奴にバレて皆死んじゃったのよ。もう少しで、皆で脱出できたのに」
 彼女は水で嗽をして、言葉を続けた。
「でも、そんなことを言うと折角助けにきてくれたあなた達に申し訳ないわ。だからね、ありがとうって言うの。助けにきてくれて」
「勿論ですわ」
「生きてるって最高ね。本当に」
 夜闇に紛れて遠くに見える島は、まだ曇っている。愚神や従魔はもういないが、おそらく死んだ奴隷の遺魂が曇らせているのだろう。醜い島ではなかった。むしろ綺麗な島だ。
 綺麗だからこそ、キラーは目をつけたのだろうか。
 黒くて、真っ黒に染まった島は一体何を叫んだだろう。
 ――助けてくれ。
 カレンが飛ばした救難信号は、島の叫び声だったのだろう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • エージェント
    シーナaa3212
    獣人|26才|女性|防御
  • エージェント
    カルロ ガーランドaa3212hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命



  • エージェント
    邵 瑞麗aa4763
    人間|22才|女性|生命



  • エージェント
    アビゲイル・ヘインズビーaa4764
    人間|16才|女性|命中



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