本部

ビックス、ヴィランズやめるってよ

布川

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/14 16:19

掲示板

オープニング

●犯罪組織『BIG☆BOMERS』
 能力者でありながら、その力を使って、犯罪に走る者たちがいる。彼らをヴィランと呼ぶ。
 アメリカを中心に活躍する、犯罪組織『BIG☆BOMERS』。専ら、爆弾を仕掛けて市民を遠ざけ、その間に強奪などを働くのが手口のヴィランズである。
 防犯カメラがとらえた犯行の様子が、何度も街頭テレビに流れている。燃え上がった劇場から、逃げ惑う人たちの姿がある。逃げ遅れた少女に、燃え盛る柱が倒れてくる。少女の悲痛な悲鳴が、映像を締めくくった。
「この犯行は、ヴィランズの仕業とみられ……、現在、HOPEは、広く市民に情報提供を呼びかけています」
 ニュースの中で、アナウンサーが何度も何度も繰り返している。

 その映像を見上げながら、ビックスは自分の人生を後悔し始めていた。
 ビックスは『BIG☆BOMERS』の一員である。とはいえ、彼は能力者ではない。下っ端の構成員だ。
 はじめのころは良かった。仲間と一緒に建物を破壊して回るのは楽しかった。それが、取り返しのつかないことをしたと思い至るには遅かったのだ。耳からずっと少女の悲鳴が消えない。
 とぼとぼと道を歩いているビックスの目に、一枚のチラシが留まった。足跡で汚れた、汚いチラシだ。
『HOPE職員募集中! 君も、ヒーローの手助けをしてみないか?』
(ヒーロー、か……)
 遠い言葉だ。ビックスはスマートフォンをじっと眺める。頭の中で、HOPEの連絡先を何度も何度も反芻していた。しばらくそうやって立ち止まっていると、持っていたスマートフォンを、大きな手が掴みとった。
「おい、買い出しが遅いじゃないか、ああん? なにしてたんだ?」
 現れたのは、組織の幹部だった。
 冷や汗がたらりと流れる。その時は幸いにも、それ以上追及されることはなかった。

●疑惑
『BIG☆BOMERS』のボスは、巨体に似合わぬ器用さで、手元の爆弾を弄っていた。
「おい、最近ビックスの様子がおかしくねえか、ボス」
 部下の言葉に、ボスは顔をあげる。
「アイツはビビりだ。だからこそ使い勝手がいいんじゃないか。スパイって根性でもねえし、まさか、俺たちを裏切るタマでもねえよ」
「ボス、でもよ……」
「わかった、わかったよ、お前がそんなに心配するなら、見張りをつけておくとするか」
 ボスは再度鼻を鳴らした。
「妙な真似したら、即座に殺せ。『BIG☆BOMERS』の名にかけて、な」

●HOPE本部
 HOPEには、任務のために能力者たちが集められていた。
「犯罪組織、『BIG☆BOMERS』の構成員のひとりから、ヴィランズを抜けたいという申し出が……入っている。彼は、身柄の保護と引き換えに、ヴィランズの内部情報をこちらに提供するそうだ。自首した後は、更生して、罪を償うとも言っている」
 担当官は、そこで息をついた。
「……適当なところで彼を保護する予定だったのだが、どうも連絡が取れない。自首自体が本気ではなかった可能性もあるが、裏切りを悟られて、動きを制限されているのかもしれない。……もし彼が本当に組織を抜け、罪を償うというのなら、彼の持っている情報が、ヴィランズに打撃を与えることになるの間違いない」
 担当官は一枚の資料を映しだした。
「彼は、ひとつ襲撃の予定を漏らしてきた。食料品店の襲撃だ。それに乗じて彼を保護し、やってくるヴィランを逮捕してくれ」

解説

●目的
 ヴィランの襲撃を阻止し、ビックスを保護すること。
 大型の郊外スーパーマーケットをヴィランズが襲撃している最中に、リンカーたちが乗り込むところから始まる。
 ヴィランはできれば逮捕することが望ましいが、何より優先されるのはビックスの保護による情報の確保である。
 なお、ビックスは作戦中にヴィランズ側に裏切りを悟られれば、殺されてしまう可能性があるため、ビックスの確保には注意が必要である。

●状況
 スーパーマーケットは一階建てで、複雑な構造はない。そこそこ広い店内に、商品棚と、店の脇に在庫のダンボールが並んでいる。
 襲撃の予定日は店の定休日。客と店員などの一般人はいない。
 ヴィランの目的は食料品の確保である。

●出現
レニー:
 犯罪組織『BIG☆BOMERS』のナンバー2。
 スーパーマーケットの襲撃の指揮をとっている能力者で、このシナリオ上の実質のボス。
 遠距離射撃が得意な能力者。銃器から爆裂する銃弾を撃つ。
 慎重な性格をしており、状況の不利を悟れば作戦の途中でも引き上げるだろう。

ガインツ:
 犯罪組織『BIG☆BOMERS』のヴィラン。
 レニーの部下で、能力者である。
 防御に特化した能力と性能で、能力者たちをレニーに近づけさせないような行動をとる。
 レニーとは対照的に、直情型の性格をしている。

BIG☆BOMERS構成員:
 能力者でない下っ端であり、リンカーであれば軽くあしらってしまえるだろう。
 20数人ほど。殺さないように注意すること。

ビックス:
 犯罪組織『BIG☆BOMERS』の一員。
 ヴィランズを抜けたがっている。
 彼もまた能力的にはただの一般人である。
 赤毛とそばかすが特徴の痩せ型の男。作戦にあたって、人相は担当官から説明されている。

(PL情報)
 ビックスは事前には裏口の見張りを任される手はずだったが、怪しまれたため、直前にボスの護衛に配置換えされている。

リプレイ

●突入の前に
 ここ最近、リンカーたちが活躍する一方で、ヴィランによる犯罪もまた増加の一途を辿っている。エステル バルヴィノヴァ(aa1165)はそんな社会の現状に心を痛めつつ、アメリカ大陸の広い大地に心を慰められもていた。ワープゲートを通して世界中の支部を飛び回る仕事は決して楽ではないが、あちこちに行けるのはリンカーの特権でもある。エステルの隣では、彼女の英雄、泥眼(aa1165hero001)が桃色の髪をたなびかせ、エステルを気遣いながら静かに佇んでいる。
「BIG☆(ほし)BOMERS」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、ぽつりとこれから相対する敵組織の名前を口にした。
「そうそう、英語で……直訳すると大きな(スター)爆弾魔かな?」
「……絶妙に」
「ん?」
「ださいな」
 オリヴィエの言葉に、木霊・C・リュカ(aa0068)は思いきり噴き出した。
「うん。そうだね……! ☆を入れてる辺りにもえも言われぬだささを感じるね……!」
 確かに、凶悪な犯罪組織としては非常に微妙な名前である。
 しかし、多少名前がアレだったとしても、彼らはれっきとしたヴィランズだ。今回、能力者たちは能力者幹部への対応をしつつ、安全にビックスを保護しなくてはならない。密接な連携は不可欠だろう。
「天川 結よ。結でいいわ」
「イサナだ」
 天川 結(aa0953)とイサナ(aa0953hero001)が挨拶をするのを皮切りに、能力者たちは互いに名乗り合っていった。彼らは慎重にお互いの立ち回りや位置取りを確認していく。
「組織からすれば、抜け忍は友や家族とて例外なく死。こちらでうまく手引きしてやらねば」
 イサナの言葉に、天川は頷く。
「足抜けの手引き、全力を尽くすわよ」
「ヴィラン退治。ビックスの確保。後我が組合の宣伝も、え? それは止めろ?」
 白銀の髪と真紅の瞳を持つ美しい少女は、その容姿とは裏腹になかなかに豪快な性格をしているようである。先走りそうになる火乃元 篝(aa0437)を、その英雄がやんわり止める。
「事情は了解した。死人を出さずに全員逮捕すれば問題ないという訳だな」
 天原 一真(aa0188)は、任務に向けて、鋭い目つきで愛用のテルプシコラを確かめる。口数少ない彼の隣で、ミアキス エヴォルツィオン(aa0188hero001)の猫耳が揺れた。
「内通者か、信じられるのか?」
 ヘルマン アンダーヒル(aa1508hero001)の言葉に、壬生屋 紗夜(aa1508)は苦笑いをする。
「うーん、あまりそちらには興味はないんですが。更生するならいいことじゃないんですか?」
 壬生屋の興味は、強力な敵――すなわち、ヴィランの幹部たちである。壬生屋は獲物を掲げて、ゆっくりと中の喧騒に差し向ける。突入まで、あと少し。
「……ヴィランか。能力者や英雄相手は面倒なんだよなぁ……つーわけで、護衛は潰すから、後任せた」
 ツラナミ(aa1426)のポーカーフェイスと相まって、潰すという言葉が割合に重苦しく響いたように思える。場の空気を受けて、ツラナミは言葉を続けた。
「……ああ、問題ねえよ。仕事はするさ。仕事はな。全員死なねえよう配慮する。コレで問題無いだろ」
 エステルは、スーパーの見取り図を一同に示す。さらに木霊は、どこからか見つけた店の防災マニュアルを取り出した。上手く防犯シャッターを起動できれば、相手の動きを制限できる。作戦の助けになるはずだ。シャッター以外の出入り口は、おおまかに表と店員が使う搬入口の二つであるようだった。逃走経路は限られる。榊原・沙耶(aa1188)はそう直感した。
「確かに広いけど、アメリカも日本もスーパーの大きさってあんまし変わんないんだね」
 骸 麟(aa1166)と宍影(aa1166hero001)は、店内と見取り図とスーパーマーケットを見比べていた。
「人の脚で回れる範囲は限られるでござるからの」
 骸はふと入り口に積み上げられているカートに目を止める。
「あれ? 電動カートがある」
「アレはなんと言うか体重的にチャレンジされている方向けでござるよ」
 宍影の解説に、骸はふんふんと頷いた。宍影は、わりと現代知識に詳しい。
 声が届かない距離ではないだろうが、乱戦になると、声だけで正確な情報を伝え合うのはともすれば難しいかもしれない。木霊の提案で、能力者たちは突入前に必要な連絡先を交換し合うことになった。
「力の使い方って、面倒よね。正義なき力は暴力。力なき正義は無力。なぁんて、正義なんてのも胡散臭いけどね」
 榊原は、赤い瞳でじっとスーパーマーケットを見据える。白衣がどこか眩しく日光を反射する。相手は犯罪者とはいえ、ここは法治国家。ヴィランズの裁きは司法の手にゆだねなくてはならない。今回の任務では、能力を持たない一般構成員も多数相手にすることになる。無傷で、というわけにはいかないだろうが、命を奪ってしまうのは避けたいものである。榊原は一般の構成員の対応にあたる予定だ。
「幹部は、蔵李ちゃんとクラリスちゃんが何とかしてくれるらしいわね」
 蔵李・澄香(aa0010)は今回、前衛としてヴィランズの幹部を取り押さえることを担当する。前線に出るとそれだけ危険も多い。榊原の英雄小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)は、口にこそ出さないが、友人である蔵李・澄香を気にしているようだ。
(相棒の小鳥遊ちゃんは心配していたみたいだけど、大丈夫よね。――艦板胸みたいに平坦だし)
 含み笑いをひそめながら、榊原は蔵李に声をかける。
「絶対防壁、略して絶壁の蔵李ちゃん頑張れ~」
 どことなく悪意のあるからかいに、蔵李はぐっと唇を噛んだ。そこへすかさず、可愛く、可愛く、と蔵李の英雄、クラリス・ミカ(aa0010hero001)が圧力をかけてくる。
「クラリス、連携プレーで戦わない?」
「何を言っているものやら。リンクしますよ」
「やっぱりしなきゃダメ?」
「駄目でしょうよ」
 蔵李は諦めたように肩を落とし、クラリスと共鳴する。光のベールが彼女を包み込む。大和撫子のような出で立ちの蔵李の黒髪と瞳は鮮やかなピンク色に染まり、どこからともなく現れた幻影のフリルが身を飾った。その姿は、まるで魔法少女のような、……いや、まさに、彼女の姿は魔法少女そのものだ。
「魔法少女クラリスミカ! 貴方のハートをくらくらりん!」
 決めポーズをしっかりと決めながら、蔵李は、心の中で血の涙を流していた。彼女の英雄との誓いは『魔法少女を名乗り可愛らしく戦う』というものである。これもリンクレートのため、ひいては任務のため。この憤りは、任務にぶつけるほかない。
 木霊は、駐車場に転がっていたロープを拾い上げて感触を確かめた。下っ端を縛りあげるには十分だろう。
 天川とイサナは、駐車場へと向かい、大人数と大量の荷物が載せられる車を探す。賊の移動手段は恐らく大型車両だ。休業日のスーパーに来ている車は相当に目立つ。よく探すまでもなく、斜めに駐車されている大型の輸送用トラックが見付かった。天川はサーベルで素早くタイヤの空気を抜く。そして、裏口に、見張りが立っているのを目にとめた。
「見張りがいるなら、通報されぬよう忍び寄って制さねばな」
 イサナは声を潜め、天川にそう言った。

●いざ、突入
 構成員が物品を漁る喧騒の中、ビックスの側には、レニーとガインツ……『BIG☆BOMERS』の幹部がいた。ビックスは裏口の見張りを任されるはずが、急な配置換えを命じられたのだ。
 裏切りがバレているのだろうか。心臓が早鐘をうつ。能力者たちが、どのような動きをするのか、ビックスには分からない。この作戦は、上手くいくのだろうか。

 見張りに忍び寄った天川が、グランツサーベルの柄をふるい、見事に敵を気絶させた。犯罪組織とはいえ、能力を持たない一般人はリンカーの前に無力である。
 木霊はその横から影のように滑り込み建物の中に入り、防火シャッターのスイッチを押す。それを合図に、幹部へと対応する能力者たちがなだれ込む。
「なんだ!?」
 風のように先陣を切り、真正面から斬りこんでいくのは壬生屋とヘルマンだ。
「ふん、野党の類か。汚らしい子悪党どもめ、神に代わりてこのヘルマン・アンダーソンが……」
「……あは♪」
 壬生屋は、ヘルマンの口上も待たずに敵に斬りこんでいく。突然のことに構成員は対応できない。しかしながら、彼女の狙いは敵能力者である。まわりの雑魚は彼女の眼中にはない。彼女は真っ直ぐと駆け抜けて、店の中央へと向かう。
「おい、見張りは何してる!?」
「れ、連絡が取れません」
「チッ……全員でかかれ!」
 続いて天原がテルプシコラを抜き、突撃をしかけていく。彼は的確なリンクコントロールでぐんぐんと英雄とのリンクレートをあげていく。立ち向かって来る構成員を、急所を外しつつ確実にあしらって幹部たちへと迫る。
「その在り方は見事なり。ならば私たちを倒す覚悟もあろうか!」
 そして、華麗な口上とともに火乃元が乱入する。群がる構成員たちを、彼女は易々といなす。
「ひ、ひいいいい」
「お前達は何を思う何を願う! その『考え』こそが大事なのだ!」
 可憐な少女が次々と武器の柄で大の男たちを殴り、投げ飛ばしたりするさまは、傍から見れば恐怖だった。火乃元の周りから、一歩、二歩と構成員は後ずさる。しかしながら、ボスの手前降伏することは出来ないのだろうか。
「撃て、撃てーー!」
 彼らは、破れかぶれに銃を持ち連射を仕掛ける。当然のことながら、リンクした能力者に銃弾は通らない。火乃元は楽しそうに声を張り上げた。
「その行動もまたよし! なればこそ私もまた意を貫くのみだ!!」
 店の中央に、レニーとガインツがいた。レニーの前に、ガインツが立ちふさがるようにして立っている。レニーは間合いを取ると、能力者たちに銃弾を浴びせる。特殊な銃弾は、着弾点で爆風を巻き起こす。
「ええい、厄介な術を使う」
「銃弾を爆弾にでしょうか、面白いですね」
 壬生屋は大剣で攻撃をかわすと、隙を見てじわじわレニーへ距離を詰めていく。
 火乃元は一般構成員の群れをいなしながら、ガインツを狙って斬りこんでいく。ガインツとレニーの間に身を躍らせて、ガインツのガードを逸らす。
 ガインツが火乃元に攻撃を仕掛けようと構えたとき、そこに割りこんできたのは――ふりふりの衣装をまとった魔法少女だ。場違いな闖入者に、まわりは一瞬ザワついた。呆気にとられた構成員に、蔵李はローキックをしかける。骨の折れるような音がして、構成員は横に思いっきり吹っ飛び、気絶する。茫然としていた者たちも、それを見てようやくこの魔法少女が脅威であることへ思い至ったのか、慌てて構える。
 そこを狙って、素早く天原が動く。彼は、ガインツに向かってライブスを込めたテルプシコラを叩き込んだ。英雄と一体化した重い一撃は、ガインツを大いにひるませた。ガインツは天原の追撃に向かって構えたが、天原はガインツの隣をすり抜け、レニーへと攻勢に移る。ガインツは、天原を追おうと姿勢を変えようとした。しかし、そこには火乃元の型のはまらない攻撃がやってくる。
 天原は、銃口の延長線上に片腕を置いて頭部を庇い、半身になってレニーにぐんぐんと間合いを詰めていく。爆風をすり抜けるように壬生屋の猛攻の横から接近すると、天原は再びライブスブローを振り下ろした。
「ぐあああ……! 畜生、痛えな……!」
「リーダー!」
 ガインツが割りこもうとするのだが、火乃元と蔵李がなかなか接近を許してくれない。天原のレニーへの攻撃が止んだところには、すかさず壬生屋の大剣が振り下ろされる。壬生屋は、爆弾が着弾するタイミングに合わせて軽やかに棚に身をひそめる。
 ガインツと対峙する蔵李は、ガインツの前で攻撃を受けながら、後列にいるレニーへ銀の魔弾を撃ち出した。
「盾役でお揃いですね☆ ――まあ私は遠距離攻撃も得意ですけど」
「なにぃ!」
 ガインツが蔵李に掴みかかって投げ飛ばす。レニーのほうに向かっていた火乃元は、素早く事態を把握すると、天性のリズムで獲物をブン投げた。あまりに予期できない行動に、ガインツは一歩飛び退く。火乃元は素早く武器を回収すると、笑いながら再び斬りこんでくる。
 リンカーたちと猛攻を交わすレニーとガインツに、状況を把握する暇は与えられない。中央での戦いは激しくなり、もはや能力を持たない一般人が手を出せるレベルではなくなっていた。

●ビックスの確保
 一方その頃、ビックス救出および構成員対応班はというと、裏口から、いなしてもいなしても現れる大量の構成員の相手を強いられていた。
「必要なら鳩尾や股ぐらも蹴るから、覚悟してもらうぞ」
 後ろから迫ってひとりに、天川は的確に蹴りを加える。遮蔽物に素早く身をひそめ、一人一人を引き摺りこんでいく天川の動きは確実に残る構成員を減らしていた。
「お前たちはここで全員捕縛する。大人しくすれば危害は加えない。しなければ? 加える」
 オリヴィエの言葉を、木霊が引き取る。
「痛いだろうけど我慢してね、後で病院は連れてくから」
 降伏を求める言葉に、構成員たちは一瞬たじろいだようだが、後ろから聞こえてくる爆音を聞くと気を取り直し、そのまま立ち向かって来る。木霊は素早く足を撃ち抜くと、続けざまロープで縛る。戦闘の被害が及ばない辺りに転がし、さりげなくビックスの姿を探す。
 ツラナミは、突入と同時に、ざっと室内を見渡し、幹部たちととビックスの位置を把握していた。ビックスは存外奥の方にいるようである。幹部は仲間たちの対応でそれどころではないようだが、構成員の中に、ビックスの見張りと思しき2名がいた。彼らは戦闘には参加せず、仲間の裏切りに目を配っているようである。ツラナミが無線機に一言二言告げると、近くに潜んでいた骸が、方向を変えて飛び出す。骸は、棚の隙間を縫いながら、構成員をなぎ倒していく。
 飛び出してきた骸に、能力者たちの猛攻を縫ってレニーの銃口が向いた。ビックスを意識しているものではなく、能力者を狙ったものだろう。躯はそれに応じて、思い切り棚を倒した。
 辺りに商品の海が広がる。日本よりもいくらか大きなビックサイズの商品が、床に広がって溢れていく。倒れた棚にひっかかり、ドミノ倒しのようにまた棚が倒れていく。そこに炸裂弾が着弾した。
「チョコチップポテチ爆弾だ!」
 商品が派手にはじけ飛ぶ。構成員の一人がケチャップに足をとられて転んだ。
「冷凍ピザが爆散して床一面に……指揮官! C8通路に新たにスリップゾーンが形成! 注意されたし」
 榊原は、店の惨状にあきれ返ったが。しかしまあ、この乱戦状態では仕方ないだろうと思い直す。一つがスウェーデン産の缶詰にぶつかると、強烈な刺激臭が辺りに充満した。
「そうか……カンズメって撒菱の代わりになるんだ。うわ、イワシくさ」
 火乃元は、相対する構成員の中に赤毛を見つける。思いっきり腕を掴んでツラナミのほうにブン投げた。木霊の放つ弾丸が、ビックスの頬すれすれをかすめる。――心臓が凍りつくような心地がした。
 共鳴により、ツラナミの片目は赤く染まっている。ツラナミは周囲にいる雑魚を、的確に鳩尾と後頭部を狙い、次々と沈めながら、じわじわとビックスの下に迫る。ツラナミはそのまま、スピードを落とさず、ビックスの鳩尾へと拳を固める。
(あ、コレ死んだ……)
 ビックスは思いっきり目を閉じた。しかし、いつまでたっても衝撃はやってはこなかった。ツラナミはラリアットのように拳の向きを変えると、腹部から脇で抱え込む。ビックスの身体は軽々と持ち上がった。
「……保護してやる。死にたくなければ抵抗するな」
 一瞬、何を言われているか分からなかった。ビックスはホッとして、泣きたくなるような心地がした。
 乱戦状態から離脱するのは容易ではない。一般構成員から流れ弾が飛んでくる。ツラナミは、銃弾を易々とグローブで受けながらビックスを庇い、他の敵の横をすり抜け巧みに戦闘区域外へと出る。
 追いかけるように、混戦状態の幹部たちから再び炸裂弾が飛んできた。ツラナミは身をねじり、ビックスを自分の後ろにやった。爆風が吹き荒れ、止む。ツラナミの腕に僅かに血がにじんでいる。ハッとして表情を見上げるが、無表情は変わらない。ツラナミのケガにビックスは一瞬目を丸くすると、ヒーローについて酷く感じ入って床を見つめていた。続けて炸裂弾が飛んできそうになったが、前線で戦っていた壬生屋が、大剣で棚をなぎ倒す。棚は再び崩れ落ち、完全にビックスたちへの射線を塞いだ。骸と天川が素早く立ち回り、銃を持った構成員を次々と無力化していく。リンカーたちに阻まれ、それ以上の追撃はとてもではないが出来ないだろう。

「敵将からの狙撃には気をつけるのだぞ。まさか味方ごと爆裂弾で吹き飛ばしはしないと思うが……」
 しかしながら、イサナの懸念は当たっていた。積極的に仲間を狙っているわけではないが、攻撃は一般構成員が巻き込まれるのもお構いなしなのだ。天川は爆発が直撃しそうだった構成員の前に割り込み、凶悪な爆発から庇った。天川に銃を向けていた構成員は、一瞬、自分が庇われたことが信じられないのか、気をとられたように固まった。爆風が止んだところで、天川はへたりこんだ構成員を捕縛する。
 榊原の前では、逃げ遅れた構成員が、一人、棚に押しつぶされていた。
(元とはいえ、医者の私の前で人死にも何だしね……)
 榊原は、棚に挟まれて動けない構成員にケアレイを放つと、棚から引き出して捕縛する。パニックになって裏口から逃げ出した一人を、エステルがクリスタルファンで転ばせた。安否を確認すると、エステルはほっとしたように息をついた。

●ヴィランとの戦い
 構成員の中には戸惑いが広がっている。リンカーとの圧倒的な力の差を見せ続けられて、不利を悟りつつあるのである。しかしながら、レニーとガインツは能力者なだけあって、格が違う。今のところは、リンカーたちと対等に渡り合っていた。
 壬生屋が、嬉しそうに高らかな笑い声をあげる。
「うふ、あはははっ。数の利はこちらにあるのに押しきれませんか。己の勝手を通すのにさぞや鍛えられたんでしょう。いいですねえ、そんな方々こそ私は斬りたいんです」
 壬生屋の猛攻が、確実にレニーを斬りつけていく。レニーの弾幕が激しくなる。
「まだだ!」
 火乃元は、負傷してもなお、引かず壁の如く立ちはだかっている。彼女の本能と直感は、天性のセンスからくるものだった。火乃元と蔵李の立ち回りに、ガインツはなかなかレニーのほうを気にする余裕がない。不規則なリズムで繰り出される火乃元のヘヴィアタックが、確実にガインツの体力を削っていく。火乃元へ向けたガインツの攻撃を、蔵李が素早く割り込み、シールドで庇った。続けざまに、蔵李はレニーに向けて銀の弾丸を放つ。
「チッ!」
 レニーが撃った炸裂弾が、銀の弾丸と交差するようにそれぞれ着弾して爆発する。と、そこで、蔵李の攻撃が止んだ。ひらひらと手を振って、スタッフを投げ捨てる。
「ごめーん、私の魔法、燃料切れー! このままガード続けるからあとよろしくね!」
 蔵李の行動に、一瞬呆気にとられたガインツだったが、ぎりぎりと唇を噛みしめる。
「チッ、舐めやがって……!」
 ガインツは、確かに油断した。火乃元のほうに気をやったのを見計らって、蔵李は、盾で体を隠しながら、幻想蝶からブラッディランスを召喚する。突如現れた槍を、ガインツは避けることが出来なかった。
「ぐあっ……」
「敵の言うこと鵜呑みにしちゃいけないよ」
 蔵李は武器をランスに持ち代え、防御とともに再び攻撃を開始する。
「ま、まだだ、まだ……」
 壬生屋の動きを見計らって、天原は攻撃を緩めることなくゆっくりと身を引いた。火乃元がガインツに、壬生屋がレニーに、同時にオーガドライブをぶつける。二人の防御を捨てた猛攻は、膠着した状況にヒビを入れるのに十分だった。ガインツは膝をつき、レニーは武器を取り落す。
「骸舞風斬!」
 その時、ビックスを確保し、駆けつけた骸が前線に加わった。レニーに向かって、華麗なシルフィードが舞う。天川もまた、後ろからリンカーたちのサポートにまわる。
「骸分身術二分撃!」
 骸は、幻影とともに思い切りレニーに斬りかかる。分身に気をとられたレニーは、あらぬ方向に銃弾を撃ち出していた。
「チッ、潮時か……ガインツ!」
 レニーは身を転身させる。ガインツもまた、身を反転させようと動く。骸は、逃走の構えを悟ると、ライブスの針を形成して素早くガインツにぶつけた。
「骸止水影!」
 無数の針が巨体の動きを鈍らせる。既に歩くこともおぼつかないガインツは、火乃元に足をひっかけられて倒される。
「お前の相手は私だ!! 何かな、女相手に逃げるのか貴様は! ハーッハハハ!」
「もう降参してよ。抵抗しないなら何もしないから」
 蔵李のセリフに、ガインツは両手を挙げる。
「わ、分かった、俺の負けだ……」
「分かってくれたのね!」
 蔵李はにっこりと可愛らしく笑うと、その至上の笑みのまま、盾で頭を殴りつける。男の意識は、抵抗するまでもなく落ちて行った。
「だから、敵の言うこと鵜呑みにしちゃ駄目だってば」
 レニーは表口から駐車場へと飛び出していく。待機していたエステルの攻撃が、レニーの右腕をかすめる。トラックが動かないとみると、レニーは走り出した。一台のライトバンが駐車場に滑り込むように入ってくる。数名の仲間とともに、レニーは去っていった。エステルは、逃げる方向をしっかりと見据える。
 ツラナミの側にはビックスがいた。ツラナミの機転で、去っていくレニーと鉢合わせることはなかった。脅威が去ったと見えて、どっと疲れが出たらしい。壬生屋は、撤退する敵の背中を、どこか名残惜しそうに見つめていた。

●こうして平和は守られた
 夕暮れの冷たさが、戦いの興奮を冷ましていく。壬生屋はそっと武器を収めた。エステルが、前線を張っていたケガの深い仲間にケアレイを放つ。
「食べ物を粗末にすると罰が当たるって本当だね」
「麟殿……髪がチーズとケチャップで凄い事になっているでござる」
 骸の艶やかな黒髪は、今や戦いの後でべたべただ。HOPE職員が見かねてタオルをよこす。
(魔法少女とはなんだったのかー!)
 頭を抱えている蔵李の横で、蔵李の魔法少女姿を心行くまで堪能したクラリスがほっこりと顔をほころばせている。
 ツラナミが、HOPE職員にビックスを引き渡す。その横でまた、次々と構成員が護送されていく。
「よくやった! お前達も我が組合に……ってうわぁぁ、ディオよ邪魔をするなぁぁ」
 火乃元は構成員たちに誘いをかけるが、自身の英雄に妨害された。
 HOPEの職員が、任務を終えた能力者たちをねぎらう。
「よくやってくれた。任務は成功だ。これは伝えていなかったが、彼は、自分が作戦を漏らしたせいで、仲間が不利になって死ぬかもしれないことをとても気にしていたんだ。いくらかはやむを得ないと思っていたが、誰一人、ただの一人も死者がいない」
 それに、と、HOPE職員は続けた。まさにヒーローにふさわしいリンカーたちの振る舞いに、少なからず心を動かされたものたちも非常に多かったに違いない。
「彼らの中には、内心組織に不満を持っていたものも少なくない。この逮捕は、確実にヴィラン組織壊滅のための手助けになるだろう。彼に代わって例を言おう。『ありがとう』と」
 エステルは、うつむくビックスを見やる。
「何処にでもある話だけど、ビックスさんには更生して欲しいですね」
「エステル。何処にでもある話なんて無いのよ。全て一度限りの人生で苦悩もそこにあるものが唯一なの」
「そうね、ディタ。ごめんなさい」
「罪を後悔する心があるなら、まだ引き返せる。一生かけてでも、償って欲しいわ」
 天川もまた、ビックスについてそんな感想を漏らした。
「ところでイサナ。抜け忍には死と言っていたけど、もしかして……」
「……」
「覚えておらぬよ、昔のことはな」
 イサナの目は、どこか懐かしむような、寂しいような遠くを見ている。
 ヒーローたちの活躍は、見事にスーパーマーケットの襲撃を防いだ。それだけではない。圧倒的な力を見せつけた彼らの戦いぶりは、あるいは、敵対する者たちにも最上限の気遣いを見せた彼らの活躍は、ビックス含め、一部の構成員たちを多く改心させたことだろう。取り調べが進めば、ビックスの提供する情報は、組織に大きな打撃を与えることになるのは間違いない。
 彼らの任務は、成功だ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • エージェント
    ツラナミaa1426

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • うーまーいーぞー!!
    天原 一真aa0188
    人間|17才|男性|生命
  • エージェント
    ミアキス エヴォルツィオンaa0188hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
    人間|19才|女性|攻撃



  • エージェント
    天川 結aa0953
    人間|19才|女性|命中
  • エージェント
    イサナaa0953hero001
    英雄|13才|女性|シャド
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃



  • ヘイジーキラー
    壬生屋 紗夜aa1508
    人間|17才|女性|命中
  • エージェント
    ヘルマン アンダーヒルaa1508hero001
    英雄|27才|男性|ドレ
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