本部

クリスマス関連シナリオ

【聖夜】デートの付き添い人・急募

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/12/28 19:03

掲示板

オープニング

●デートの約束
「じ、実は、今度のクリスマスなんだけど、よかったら僕と今人気のテーマパークに遊びに行かない、かな? ……いや、本当、予定があったりとか、仕事が入ってたりとか、嫌とかだったら、全然いいんだけど」
 H.O.P.E.東京海上支部の一角、職員がお茶を入れるのによく使う給湯室で、1組の男女が話をしていた。2人はどちらもH.O.P.E.職員の制服を着ており、オペレーターとして勤務している。
 男性の見た目は、正直ぱっとしない。どこの会社にもいそうな、仕事を押しつけられたら断れずにサービス残業しちゃいそうな、さえない印象そのまま。最低限の身なりは整えているが、おしゃれなどとは無縁で個性がない。
 そんな彼は努めて普段通りを装おうとしているようだが、誰がどう見てもガッチガチに緊張している。動きが若干挙動不審で、視線も目の前の女性には固定されずあっちこっちへさまようばかり。
「…………」
 対する女性は、誰もが美人と認めるほどの容姿をしている。男性よりも若干背が高く、キリッとした切れ長の目と新雪を思わせる透き通った白い肌が目を引く、雪国の女王を思わせるような麗人である。
 ただ、女性は男性のお誘いに対し、無言かつ全くの無表情。とはいえ、この男性を表情から全否定しているわけではなく、これが彼女の素だ。どれだけ親しい相手でも表情を崩すことのない徹底ぶりは、陰で『鉄仮面』と揶揄されることもあるほど。
「……ええっと、その、やっぱり、無理、かな?」
 数分ほど同じ姿勢で固まった状態が続き、痺れを切らした男性が再び尋ねる。彼にとっては、人生に1度あるかないかというくらいの勇気を振り絞ったお誘い。断れたらすぐ諦めるくらいには弱気だが、答えを聞かずに逃げるくらいならそもそもデートに誘いはしない。
 YesかNo、せめてそれだけは聞こうと沈黙を破った男性に、女性もまた口を開いた。
「予定は、ないです」
「じゃ、じゃあ、っ!」
「でも、2人きりは、ちょっと……」
「そ、そっか…………」
 答えを聞いて、男性はがっくり肩を落とす。暇だ、と言われてちょっと期待した分、続く否定的な台詞に落胆の幅は大きい。
「……わかった。ごめん、今のは忘れて」
 これは脈がない。
 そう思った男性は緊張感から解放されて柔らかく笑い、用意していたテーマパークのチケットを引っ込めようとした。
「あの、」
 しかし、無表情のまま感情が見えない女性は、意外なことを口にした。
「2人きりじゃなかったら、いいですよ?」

●誰かデートに付き添って!
「……そういうわけなんです!」
 いや、どういうわけなんだろう?
 依頼を見るため支部を訪れたエージェントたちは、1人の男性職員に捕まって一通りの事情を聞かされた。何でも、同期の女性職員をクリスマスデートに誘ったところ、条件付きでOKをもらえたのだという。
 それだけならよかったね、で話は済むが、その条件が『自分たち以外の人がいるなら』というもの。
「時期的に予定が入っている方が多いのは重々承知していますが、どうか僕の恋愛を一歩進めるために協力してください!」
 とは言うが、クリスマスの日にテーマパークなんて恐ろしく混むだろうし、何よりチケットがない。
「あ、それなら安心してください。当日のチケットは僕が人数分用意しておきますし、事前に乗りたいアトラクションを知らせてくれれば、僕が園内をストレスフリーで回れるタイムスケジュールとルートを調べておきますよ。前に似たようなことを先輩に頼まれたとき、むちゃくちゃ感謝されたので混雑はほとんど気にしないでいいと思います」
 だが、付き添いということは1日中一緒なわけで、自然と選ぶアトラクションはそちらに合わせないといけないのでは?
「それも心配しないでください。僕たちは皆さんが行きたいアトラクションに合わせて、ルートを選びますから。僕と彼女が2人きりの状態にならなければ、誰か1人でもいてくれるだけでいいみたいですし」
 ……微妙にややこしいデートだが、それでいいのか?
「せっかく掴んだチャンスですから、どんな条件でも僕は構いません! ただ、皆さんの分のチケットを用意する関係で、報酬は少なくなってしまうので、そこだけは勘弁してください」
 ペコペコと、人当たりの良さそうな男性はエージェントたちに頭を下げる。
 さて、どうします?

解説

●目標
 男性職員のデートの付き添い

●登場
 佐藤 信一(さとう しんいち)…24歳。H.O.P.E.東京海上支部にて、オペレーター業務に携わる勤続2年目の男性職員。地味・気弱・緊張しいの三拍子そろったさえない系男子の典型。スカイツ○ーから飛び降りる覚悟でデートを申し込み、条件付きで了承を得る。現在、彼女とのデートプランを作成中。

 碓氷 静香(うすい しずか)…20歳。H.O.P.E.東京海上支部にて、オペレーター業務に携わる女性職員兼能力者(英雄は女性ドレッドノート)。高身長でモデル体型の美人。高校卒業と同時に就職したため、佐藤と年齢は離れているが同期入社。仕事もそつなくこなす一方、常に無表情で愛想がないため女性職員からやっかみを受けることも。

●場所
 東京郊外にある『リライヴァル・ワールド』。従業員として働く英雄たちの記憶を参考に、様々な世界の融合をうたった何でもありのテーマパーク。
 近年パレードなどの催しを売りに宣伝しており、人気上昇中。有名どころと比較すると劣るが、クリスマス時期の来園者は相当数に上る。規模としては大きめで、一通りのアトラクションは園内に設営されている。中にはちょっと変わり種も?

●状況
 午前10:00ごろ、遊園地入り口にて待ち合わせ。当日に田中から入園チケットが配られ、そこからはほぼ自由行動。PCたちが田中に合わせるというより、田中がPCの行動に合わせることになる。
 希望アトラクションや巡回ルートにもよるが、基本的に田中と碓氷を含む複数行動になる。2人きりになりたい場合、事前の報告で田中がルートを教えてくれる。

 大まかなタイムスケジュールは以下の通り。
・アトラクション巡り→昼食→アトラクション巡り→クリスマスパレード→解散
※あくまで予定であるため、希望ルートによっては変更あり。

リプレイ

●デート当日
「ついた! うわー、あれ乗れるの?」
「今からそんなにはしゃぐと疲れちゃうよ?」
 テーマパーク『リライヴァル・ワールド』の入園ゲート前。
 姿を現したのはピピ・ストレッロ(aa0778hero002)と皆月 若葉(aa0778)。前日から楽しみにしていたピピに早朝から叩き起こされてすぐに家を出たため、若葉の腕にはおにぎりなどがコンビニ袋の中で揺れる。
「あ、おはようございます」
 が、彼らよりも先に信一がいた。
「俺たちが言うのも何ですが、ずいぶん早くないですか?」
「いやぁ、何だか落ち着かなくて……」
 若葉の言葉を受け、信一はそわそわと落ち着かない。笑顔もぎこちなく、緊張しているのが丸わかりだ。
『僕が来てもよかったの?』
「お前と俺は表裏一体。置いてくって選択肢はねえだろ」
『ありがとう、僕も楽しむことにするよ』
 次に現れたのは、語り屋(aa4173hero001)と共鳴した佐藤 鷹輔(aa4173)。一緒の参加は鷹輔にとって決定事項だが、外見が子供泣かせと危惧した結果が今の形である。
「よーし、信一。ちょっと顔貸せ」
「え?」
 軽く挨拶をした後、鷹輔は信一を近くのトイレに連れ込み、信一の髪型を整える。
「服は……もう少し何とかならなかったのか?」
「……あはは、プランを考えるのに夢中で、つい」
 セッティング中、鷹輔の視線に信一は目をそらす。彼の服装はH.O.P.E.職員の制服だったのだ。
「よし、これで少しは自身が持てたか?」
「はい、ありがとうございます」
 服装は諦め、鷹輔は印象が変わった髪型を信一へ示す。緊張もほぐれたらしく、先ほどより自然な笑顔が鏡に映った。
「七海いいか? 二人の前で鷹輔と……」
「……う、うん、……え? 出来るかな、それ?」
 トイレから出た頃合いで、ジェフ 立川(aa3694hero001)と五十嵐 七海(aa3694)が登場。ジェフは信一を内気なタイプと分析し、積極性を出させるため七海に鷹輔と偽恋人を演じるよう助言。七海も信一のためと頷くが、次々飛び出す恋人偽装テクに混乱する。
「信一さんの為に一肌脱ぐよー!」
「……ほどほどにな」
 次に、気合い全開の不知火あけび(aa4519hero001)と冷静な日暮仙寿(aa4519)が到着。あけびの猛プッシュで参加した依頼だが、仙寿もピピ同様初の遊園地とあって彼の視線は忙しない。
「ん、ナナミ。やほやほ」
『今日はよろしく頼む』
「エミルん!」
 集合時間が迫る中、エミル・ハイドレンジア(aa0425)もぬいぐるみに待機するギール・ガングリフ(aa0425hero001)を抱えて七海へ声をかけた。その際、彼女がどこから現れ、いつからいたのかは誰もわからない。
「あ、もうみんな集まってる……!」
「今から急いでも意味はないわよ?」
 御門 鈴音(aa0175)は他のメンバーが揃っていることに焦り、朔夜(aa0175hero002)は小走りになった鈴音の後をゆっくり歩く。
「ほら、静香さん。皆さん集まってますよ」
 最後にエレオノール・ベルマン(aa4712)が途中で出会ったらしい静香と現れた。
「本日はよろしくお願いします」
 抑揚のない声と無表情で告げた静香は、信一と同じH.O.P.E.職員の制服で、使途不明の旅行鞄を持っていた。

●幸先は不安
 全員揃ったところで信一からチケットが配布され、入園ゲートをくぐる。ファンタジー感溢れるパーク内はかなりの人が往来し、ワイルドブラッドの少年少女が目の前を通り過ぎた。
「皆と一緒の方が良いんだろ? 静香の英雄も一緒に遊ぶのはどうだ?」
「すでに共鳴済みです」
『レティだよ。よろしくねー!』
 入場の際、仙寿が静香に提案すると彼女の口から別の少女らしい声が。レティと名乗った英雄は鷹輔同様共鳴したまま参加するらしく、元気で溌剌とした挨拶をした。
「ん、テーマパーク……」
『ふむ、所謂娯楽施設という物だな』
「ん、従業員は、英雄」
『警備は万全という訳だ』
「ん……」
 パンフレット片手にきょろきょろと見渡すエミル。ギールの言葉は話半分に、早速目についた建物へ足が向く。
「……ん?」
「離れんな、エミル」
 それを止めたのは仙寿。実は世話焼きな彼は人混みの量と園内の広さを考慮し、年少組の動きに目を配っていた。
「まずはどこに行きますか?」
「もちろんドリームスクリューコースター!」
「あ、私も乗りたいです!」
 信一の言葉に、七海はパーク内で一番目立つジェットコースターを指さした。エレオノールも賛同したそれは、園内人気No.1かつ世界屈指の高低差と螺旋コースが売りの玄人向けマシンである。
「どうして真っ先に遠いやつを行きたがるんだよ……」
 が、鷹輔の言葉通り入り口から最も遠い位置にあった。
「いいじゃん、アレに乗りたいの!」
「テーマパークに絶叫マシンは外せませんよ!」
「……どうする?」
「私は構いません」
「とりあえず、園内を一通り回りましょうか」
 七海とエレオノールの力強い押しに鷹輔が静香へ水を向けるも、反応は薄い。すかさず信一が移動を提案し、全員で行動することに。
「ボクね、全部乗りたい! アレも、アレも、あとアレも!」
「人間の作った遊び物に興味ないわ。……ところであれは何かしら?」
 若葉に手を引かれて歩くピピはずっとハイテンションで、色んなアトラクションに目移りしながら表情を輝かせている。近くにいた朔夜ははしゃぐピピの声に1度は素っ気ない台詞を吐くも、ピーンとくる物を目撃しては鈴音に尋ねていた。
「ちなみに、何でここをデートの場所に選んだんだ?」
「夜のパレードがとても好評でして、一緒に見れたらな、と」
「へぇ、パレードがあるのか」
 仙寿は雰囲気を和らげるため、積極的に話題を提供する。
(信一さんは、静香さんのどこが好きになってデートに誘おうと思ったんですか?)
(……一目惚れです。一緒に仕事をする内に余計に好きになって、それで)
 さらに鈴音が小声でデートの動機を尋ねると、信一は気恥ずかしそうに答えた。
「七海、新しいコート買ったのか。似合ってるぜ」
「そ、そう?」
 それから信一の近くにいた鷹輔が、自然に七海の服装を褒める。七海も照れながら、ぎこちなく腕を組んでみたり。
(整えられた場で、言われたことやって、それで上手くいっても意味がねえ。信一自身の良さで勝負させる。七海、今日は大人しくエスコートされてろよ。信一のお手本だ)
(わかってる。それに、みんなで楽しく過ごせたら、信一さん達も自然と打ち解けれるかもしれないからね)
 すると、鷹輔は腕にもたれかかる七海に小声で作戦の確認を行った。七海も一瞬真剣な顔で返し、すぐに笑顔を浮かべて仲睦まじさをアピールする。
「あの2人、いい雰囲気ですね?」
「あ、え、と……」
 エレオノールが鷹輔たちの様子を信一へ示すも、静香へは後一歩踏み出せない。
「自信なさげにしてると、相手も不安になるぞ。静香さんに楽んで欲しくて来たのだろう?」
 さらにフォローを入れたジェフ。信一にそっと声をかけ、躊躇する一歩を押した。
「あ、あの、碓氷さ」
「すごーい! 大きいね!」
 が、ちょうどコースター前にきてピピの無邪気な声が上がり、タイミングが外されて信一の声は引っ込んだ。
「……へたーれー?」
「あ、はは……」
 一連の行動を見ていたエミルが、信一によじ登って痛恨の一撃。反論も出来ず、自覚もあった信一は乾いた笑いを漏らすしかなかった。

 その後も雑談をしつつ園内を一周し、信一が各アトラクションの予約を取ると、時間を確認して最初の乗り物へ。
「コーヒーカップって燃えるよね!」
「……チビ達、あけびとは別のカップに乗れよ」
 あけびの発言に不安を覚えた仙寿は、あらかじめ朔夜・エミル・ピピに忠告。
「ん。望むところ」
 が、エミルは仙寿の注意を無視してあけびと同じティーカップへイン。止める間もなくスタートしてしまった。
「それえっ!」
「……ん、まだまだ」
 開始直後、あけびの手により勢いよくハンドルが回され、カップは超絶回転を開始。しかし、エミルはそれでも足りぬとばかりにギールと共鳴し、さらなるハンドル加速を行う。遊具は加速に加速を重ね、意味が分からない回転速度へ到達した。
「……なるほど、これはああして遊ぶものですか」
「えっ!? いや、碓氷さんちが」
 そして、あろうことか静香はあけび・エミルカップが基準だと勘違いし、一緒に乗った信一もろとも地獄の大車輪を披露。壮絶なデッドヒートを繰り広げる!
「……うぅ」
 結果、コーヒーカップ終了とともに信一は崩れ落ちる。元凶となったあけびとエミルはどこか満足そうに、静香は無表情でコーヒーカップを見続けていた。
「気を取り直して、次の乗り物に行きませんか? そこで一息つけば……」
「つぎは、あれ、なんです……」
 園内の遊具は絶叫系だけではないと提案した若葉だったが、信一がプルプルと指を向けたのはかの怪物コースター。まさかの絶叫物2連続(?)に若葉も言葉を失う。
「……ん、身長制限、許すまじ」
『こればかりはどうしようもないな』
「え、と……、私たちも一緒にお留守番だから、ね?」
 スムーズに乗車へこぎ着けたまではよかったが、エミルが身長制限で引っかかった。救済措置で共鳴時に背丈が越えればよかったが、エミルは残念ながら変化なし。ギールに慰められつつ留守番となる。
 また、1人で残すわけにもいかず、絶叫マシンに興味が薄い鈴音と朔夜も居残り組へ。負のオーラをまとうエミルに鈴音はおろおろするばかり。
「ほら荷物貸しな」
「ありがと」
 乗車組は鷹輔がさりげなく七海の荷物を持ってやる。七海も素直に受け入れ、信一へ気遣いの手本を見せた。
「碓氷さんの荷物、僕が持つね?」
 早速、信一も鷹輔を真似して静香の鞄を持ったが、そこで大きな誤算があった。
「それは……」
『ちょっ!? あぶな』
「わっ!?」
 静香とレティの警告を聞く前に、信一は鞄のあまりの重さに体ごと倒れ込んだ。
「……これ、何が入ってるの?」
「鍛錬用の重りを少々」
『200kgは少々じゃないって……』
 信一にすまし顔で答えた静香へ、レティの呆れ声が一陣の風とともに過ぎていった。

●仮面の下と、自由な迷子
 コースターは噂通りの鬼仕様で、絶叫マシン好きにはとても好評。が、静香は相変わらずの無表情で、信一はグロッキー寸前。昼時もあって、一行はフードコートで休憩をとることに。
「席を確保しててくれ、全員分の注文品貰ってくる。一人じゃ時間がかかるから若葉と鷹輔と日暮と、……信一も頼めるか?」
 オーダーが確定すると、ジェフが男性陣に呼びかけた。体調が優れない信一への言葉は遠慮がちだったが、彼も快く引き受け席から離れる。
「さっきのジェットコースター、楽しかったね! シズカも楽しい?」
「ええ」
「よかった! ボクも楽しいよ!」
 その間、ピピがずっと無表情の静香へ話しかけ、満面の笑みを浮かべた。コースターに乗れなかったエミルは片眉がピクリ。
「静香さんは、どうして信一さんのデートを受けようと思ったんですか?」
「あ、私も気になります!」
 次に始まったのは鈴音きっかけの恋バナ。あけびも身を乗り出し、全員の視線が静香へ集まる。
「それは……」
『男の人に初めてデートに誘われたから、嬉しかったんだよねー?』
 言いよどむ静香に代わって暴露したレティの言葉に、『きゃー!』と楽しげで甲高い喚声が上がる。
「実力や腕力がある能力者が、一般の人と恋愛しにくい気持ち、すごくわかります。私も食事や飲酒で遠慮なんかしませんし、言いたいことも我慢しないタイプなので、外見とのギャップで男性から敬遠されますし」
 エレオノールは己の恋愛遍歴と静香を重ねて何度も首を縦に振った。
「私もエレオノールさんと同じ。第一印象と付き合い出してからとが違うみたいで、『思ってたのと違う』ってがっかりされたり、『貴女は人受け良いから得ね』とか言われて寂しくなったりするんだ……」
 似たような体験をした七海は、過去を思い出して表情に少し影が差す。
「でも、鷹輔は私の事をそのまま見てくれるから、居心地良いんだよ。だから私も、鷹輔をもっと見たくて来たんだ。……意地悪でヴーッ! って時も有るけど、ね」
 が、すぐに七海の顔は楽しげな笑みへ変わり、静香以外の笑いを誘った。
「……私は、お二人とは真逆です」
 すると、静香が重い口を開く。
「私は昔から、感情を表に出すのが苦手でした。親ですら私を怖いと、言ったほどです。当然、他人とのコミュニケーションも取れず、学生時代からずっと孤独でした」
『静香ってすごく感情豊かなんだよ? 今日のデートも、着る服がなくて落ち込んで、不安だから私に共鳴を頼んで、緊張を誤魔化すためにこの鞄を用意したくらいだもん』
「今日も、こんなに楽しいと思えた日はないのに、彼にはきっと、伝わらない。楽しいのに、怖いんです。結局、レティしか私といてくれないんじゃないかと思うと……」
 見れば、静香の手は震えていた。感情がわからない表情と声音のままで。
「大丈夫。信一さんなら、そのままの静香さんを見てくれるよ」
 その震えを、七海の手のひらが覆い被さり、優しく止める。静香が顔を上げると、いくつもの力強い頷きが視界に入る。それでも静香は黙ったままだった。

 程なくして男性陣が食事を手に戻ってくる。
「ん、おうどんは至高、うまうま」
 まず目を引くのは、エミルのフードコートの全メニューを並べたような大量のうどん。普通は食べきれないはずの量が、エミルの胃袋にどんどん入っていく。他は仙寿のホットドッグやあけびのたこ焼きのように、どちらかと言えば軽食が多い。
「鷹輔も食べる?」
 食事中、七海は注文したポテトを摘んで鷹輔に差し出した。
「じゃあ、こっちも食ってみろよ」
 鷹輔は素直に口へ含むと、今度は彼がサンドイッチを差し出してアーン。七海は一瞬たじろぐも、意を決してぱくっと食べた。
「僕のも食べてみる?」
「いえ、大丈夫です」
 これにも信一は果敢に挑戦するが、静香は拒絶した。微妙な雰囲気のまま食事を終えると、アトラクション巡りが再開される。
 ホラーハウスでは若葉にしがみつくピピを面白がったエミルが、度々脅かしてベソをかかせた以外は、おおむね楽しみながらテーマパークを回っていた。
「……エミルはどこだ?」
 が、園内をほぼ回りきったところで、仙寿がエミルの不在に気づく。慌てて周囲を探すも、彼女の姿はどこにもない。

『やはりこうなったか……』
「ん、勝った」
『誰にだ?』
 その頃のエミルは、謎の達成感に満たされて拳を握る。呆れが強いギールの声も何のその、好奇心の赴くままに単独行動を開始した。

「この人混みで迷子ですか?」
「まったく、世話の焼ける!」
 夜のパレード目当てに増えた人に若葉が焦燥を浮かべ、仙寿があけびと共鳴。『鷹の目』も使ってエミル捜索に方々へ散る。
「ここに来るかもしれねえし、二人はオペレーターを頼むよ。本業だろ?」
 先に鷹輔は信一・静香とともにサービスセンターへ向かい、迷子放送を頼んだ後で捜索へ向かった。
「……佐藤さん?」
「よし、行こう。僕たちはバックアップだ」
 2人きりにされて戸惑う静香は、信一の真剣な表情とともにセンターへ消えた。

「……人が多すぎる」
 迷子発覚から数分、『鷹の目』から懸命にエミルの姿を探す仙寿だが、人が密集しすぎて見つからない。
『こちらもまだ見あたりません』
『わたしもです。一体、エミルさんはどこへ?』
 ライヴス通信機越しに聞こえる若葉と鈴音の声も焦りの色が強い。七海がすでにエミルへ連絡を取るが応答がなく、現状足で探すしか手段がない。
『皆さん、信一さんがエミルさんを発見しました。今から誘導を行います』
 すると、通信機から聞こえる静香の素早い朗報に全員が驚きつつ、急いでそちらへ走った。
「……ん、やる」
『なかなかの使い手だ』
 その先で見たのは、テーマパークのマスコットキャラと攻防を繰り広げるエミルの姿。抱きつきからの悪戯に持ち込みたいエミルと、させまいとするマスコット。両者共鳴状態での激しいせめぎ合いは衆目を集め、一種のショーと化していた。
 無論、全員が脱力したのは言うまでもない。

●揺れる 揺れる
 無事合流できた一行は、パレードの時間までお土産を選ぶことになり売店へ。
「記念に全員でお揃いのキーホルダーとか買おうぜ」
 すると、鷹輔からの提案に全員が了承。『全員』が同じ物を買うことでハードルを下げ、同じ職場の信一と静香はペアに見えるこの案に、反対意見は出なかった。
「静香ってあけびと同じ位の歳だろ。どんな感じの物が好きなんだ?」
「固くて重くて頑丈なもの、でしょうか?」
『それはダンベルの話でしょ……。静香はデザインとか全然気にしないから、みんなの好みでいいよ~』
 仙寿が静香の好みをさり気なく聞くも、返答が斜め上過ぎて参考にならない。
「それじゃあ、これにします?」
 信一が手にしたのは、先ほどエミルと互角を演じたマスコットのキーホルダー。良くも悪くも今日の記憶が鮮烈に思い出せるだろう、と。
「鷹輔の買ったの頂戴。私のと交換だよ。同じ品とか突っ込んじゃダーメ」
「……しょうがねぇなぁ」
 全員が色違いを購入し、七海が鷹輔へキーホルダー交換を要求。台詞を先回りされた鷹輔は苦笑しつつ、満更でもなさそうに応じた。
「静香、レティ。ちょっといいか?」
 また、仙寿がこっそり静香たちに声をかけるところも見られつつ、一行は思い思いに買い物を楽しんだ。

「あ、もうすぐパレードの時間じゃないですか!?」
 時間をチェックしていたエレオノールの声で、一行は足早に店から出て信一が調べたパレードの穴場スポットへ移動。すっかり日も落ち暗くなったテーマパークに、いくつもの人工の光が明滅する。パレードの始まりだ。
「うわー、すごーい!!」
「あんまり動くと危ないよ」
 はしゃぐピピを肩車した若葉はやんわり注意しつつ、パレードへ視線を向ける。テーマパークのシンボルである巨大な城と、設置された巨大クリスマスツリーに、プロジェクションマッピングで異世界の様々な光景が映し出された。同時に流れる心躍る音楽も合わさり、皆が目を奪われる。
「とても綺麗ですね。何だか、夢の中にいるよう……」
「そうですね」
 エレオノールはさり気なくジェフへ近づき、そっと腕へ触れてみる。ジェフは拒絶はせずとも敬語による返事に『その気がない』と臭わせ、エレオノールもそれ以上は何も言わない。
「う、わ。すごいね、仙寿様」
「そうだな」
 驚くあけびの隣に立つ仙寿は素っ気なく返し、ある物を取り出した。
「!? 仙寿様良いの!? ありがとー!」
 それは、可愛らしいマフラー。静香とレティの助言を受けつつ選んだ、少しは優しく出来たらという気持ちを込めた、あけびへの贈り物。
「……夜寒いからな」
 白い吐息とともに満面の笑顔を浮かべたあけびに、仙寿は内心で安堵しながらそっぽを向いた。
 静香たちには他に髪飾りも勧められたが、あけびには師匠の簪がある。でももし、自分がプレゼントした髪飾りをつけて、あけびが嬉しそうに笑ってくれたら。
 ……仙寿はしばらく、あけびの方を見られなかった。
「……綺麗だね」
「はい」
 そして信一と静香もまた、パレードを眺める。
(頑張れ、信一さん!)
 2人の雰囲気を感じ取った若葉は、こっそり距離を取る。他のメンバーも、自然と信一たちから離れた。
「碓氷さん、僕は」
「佐藤さん。先ほどの手腕、お見事でした」
 信一の言葉の途中、静香は強引に言葉を重ねた。
 迷子事件で信一は施設側と交渉し、モニター室に入ると100台以上の監視カメラからエミルを特定。さらにエージェントたちの位置も瞬時に把握し、ルート誘導までした。オペレーターとして、完璧なバックアップ。
 静香はただ、信一に従って通信機で指示を飛ばすだけだったことを賞賛し、信一の言葉の先を、遮る。
「……僕は、貴女が好きだ」
 それでも、信一は怯まず思いを口にした。
 エージェントたちのバックアップを、無駄にしないために。
「……ずるい人、ですね」
 静香は小さくこぼし、信一の手をふんわり握り。
 2人の間にあった空白が、ぴったりと埋まる。
 後はもう、言葉は必要なかった。
「……よかったね、信一さん」
 肩を寄り添う2つの背中を、鈴音は笑みを浮かべて見つめた。
 鈴音は思う。恋愛のきっかけなんて些細なこと。そこからどう行動するかで、結果は大きく変わる、と。一目惚れから思いを強めた信一と、人間関係に臆病だった静香が、結ばれたように。
 恋人と言うには拙く、けれど確かに芽吹いた初々しい愛情の種は、2人の手で少しずつ育っていくのだろう。
 いつかは自分も、きっと……。
 1人1人にかけがえのない思い出を刻みつけたパレードは、多くの打ち上げ花火によって終わりを迎える。
 そして、1組の奥手な男女の新たな関係が、始まった。

「ふふ、みんな笑顔で嬉しいね。また来たいな」
「そうだね、また皆で遊びに来よう」
 パレードが終わり帰路に就く中、ピピと若葉は手を繋いで笑い合った。
「今度はどこ行きたい?」
「んー、『みんなも』一緒ならどこでも」
「なーんでそこを強調すんだよ」
 恋人役を演じきった鷹輔と七海も、一緒に歩きながらじゃれ合う。
「……ねぇ朔夜、私って魅力ないかな? 前に学校の先輩を好きになったことがあったのだけど、その人恋人がいて諦めちゃったんだ……」
「人間らしい悩みね。あなたに足りないのは欲望よ。女は欲望のままに動けばいいのよ。欲しいままに男を虜にする悪魔の淫術を伝授してあげましょうか?」
「いや、それは遠慮します……」
 鷹輔たちの様子を眺める鈴音は、ふと過去を思い出して朔夜に振る。が、朔夜が示した結果重視の悪魔的解決法は、過程を重視する鈴音の理想とズレが大きく、参考にならなかった。

 それから、信一と静香の距離感はまた同じくらい離れた。
 だがクリスマス以来、2人の持ち物に色違いの同じキーホルダーがぶら下がる。
 信一が贈ったピンク色と。
 静香が贈った緑色。
 肌身離さず揺れるそれらは、今日も嬉しそうに揺れている。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173

重体一覧

参加者

  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 残酷な微笑み
    朔夜aa0175hero002
    英雄|9才|女性|バト
  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173
    人間|20才|男性|防御
  • 秘めたる思いを映す影
    語り屋aa4173hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命



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