本部

【絶零】連動シナリオ

【絶零】hide-and-seek S

電気石八生

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/12/27 13:29

掲示板

オープニング

●回答
 ひとりのヴィランに「部下を見捨てる」ことを経験させる。
 ただそれだけのためにトリブヌス級愚神が実施したライヴス発電所襲撃の真相は、ノリリスク側からの要請を受けたマスコミの「自主規制」によって伏せられた。
 施設構造の脆弱性の指摘や、わずか数百キログラムの発電炉の耐久性への疑問――愚神の脅威を知られることよりも早すぎた設備投資を責められることを、新体制への移行を急ぐノリリスクは選んだのだ。
「作戦が失敗したと仮定する。その原因にはなにが考えられる?」
 ノリリスク市内の片隅にあるカフェ、そのテラス席――現在の外気温はマイナス30度である!――に座し、これらの新聞記事を読んでいた壮年の男が目も上げずに言った。
 丸テーブルを挟んで座るアルビノの少女は、白の防寒具をまとった体をまっすぐ伸ばして答えた。
「敵が従魔の掃討に捕らわれず、最大数で小官を挟撃することであります」
「戦況によっていくつかの想定は増やせるが、まずはそうだろうな。跳弾にこだわるあまり、貴様は一本道に陣取った。敵が発電炉室制圧を放棄し、貴様の後ろを塞げば脱出は困難だった。……では、貴様がとるべきだった作戦行動は?」
「作戦を考えれば、中央部で他の従魔と協働して十字砲火を形成するべきでした。作戦を考えなければ、小官が発電炉室内で待ち受けることが効率的であったものかと」
「脱出だけを考えればそれもいいだろうが、発電炉室前に陣取るほうが行動の選択肢は拡がった。ともあれ、中央部で多くの敵を足止めし、誘導できたのは幸いだったな」
 男はよれた軍用コートの襟を指先で引き伸ばし、立ち上がった。
「発電所には新たな発電炉が据えつけられ、すでに稼働を開始している。楽に取り外せるものは楽に据え付けられるというわけだ。この状況でこちらがすべきこともできることも少ないが――」
 少女は立ち上がり。
「撃ちます」
「許可できるのは一射だけだ。成否に関わらず、次の作戦行動に合流しろ。そちらに群れの一部を動員する」
 男が新聞を放り出すと、衝撃で凍りついた紙が砕け、白い圧雪の上に散り。男の姿は消え失せていた。
 少女――リュミドラ・パヴリヴィチは椅子の背にもたれ、静かに息を吐いた。
 すべてを鎮めるのだ。自分と、そして標的を。それらの挙動と鼓動が、彼女のスナイプを狂わせる。
 引き金を引くのは、標的が鎮まり、動きを止めたそのときに。

●問題
 12時。リュミドラは凍土のただ中で伏射姿勢を定める。
 ライヴス発電所のまわりには、破壊された壁の修復にあたる作業員、そしてその警備を担当するHOPEサンクトペテルブルグ支部のエージェントたちが見えた。
 サブマシンガンやアサルトライフル、ロケットランチャーで武装した彼らは、互いに互いをカバーできるよう位置取りしている。チーム戦に熟練したムダのない動き。おかげで各人のポジションがよくわかる。指揮官が誰なのかも。
 指揮官は警備に参加する10チームの中央で状況を見渡していた。その傍らで作業員ともよく言葉を交わし、広い意味での連携を成している。
 護衛は3人。指揮官になにかあれば即カバーリングに入るつもりだろう。
 が、リュミドラの愛銃、ライヴス式アンチマテリアルライフル“ラスコヴィーチェ”は、彼女の契約者のライヴスを糧に、火薬点火式ライフルの5倍以上の速度で12・7mm弾を弾き出す。撃つ前に気づいていなければ、絶対に止められない。
 と。作業員たちが小休止に入った。
 食事担当の女性から、エージェントたちにもあたたかなコーヒーが勧められた。
 指揮官はこの好意を受け、2チームずつ休憩をとらせることに。
 このあたりの土地ではもはや必需品と言える、ライヴス式保温装置付きカップに淹れられたコーヒーの湯気を顎先にあてて温まるエージェントたち。もちろん1秒後には湯気が凍りつき、酷い目にあうのだが。
 わめきちらすお調子者に苦笑しながら、指揮官はコーヒーへ口をつけた。これを見た休憩組も安心して胃をあたためる作業へかかった。
 コーヒーを受け取るときも飲む間も、指揮官は辺りに目を配り続ける。愚神どもがノリリスクへ攻撃を加えたいなら、もう一度この発電所を襲う可能性は高い。
 小休憩を終えたチームに指揮官が指示を出し、周辺の偵察行動へ向かわせた。
 施設の半径50メートル圏内を、2チームが互いにバックアップしつつ探る。彼らの任務は施設の、それ以上に作業員の警備だ。警備対象からあまり離れるわけにいかない。
 ――エージェント6チームが東の一点に向けて動き出した。
 従魔の一群が現われたのだ。種別は人狼。数は50。
 1チーム6人×6チームのエージェントは数こそ負けているが、練度は高い。一気に押し込んでいくが――新たな人狼10体の奇襲を北から受け、揺さぶられる。
 指揮官は作業員の避難が終了したことを確認し、残る4チーム中2チームを戦場へ向かわせた。そして自らは残る2チームと、施設に空いた穴の守りへ就く。
 敵は従魔のみ。現状の戦力で対処はできる。しかし、先の襲撃事件でも、敵は思わぬ手を使ってきたという。
 支部へ増援の要請を入れながら、彼は防寒マスク越しに深い息をついた。これほど寒いのに、息が詰まって暑苦しい。
 そして、細めた目で見た。さらに東から襲い来る、200の灰色狼の群れを。

●結果
 なにかが鎮まった。
 その瞬間にリュミドラは引き金を引き。
 指揮官の心臓を撃ち抜いた。


「たった今、プリセンサーが視た予知図はこんな感じだよ」
 ノリリスク警備の支援要員として現地に詰めている礼元堂深澪(az0016)が、同じ東京海上支部より派遣されているエージェントたちに説明する。
「ただ、『問題』のどこに『結果』が差し込まれるのかがわかんないんだよね……」
 深澪はいつにない切迫した表情でイライラと問題文を読み返した。
「リュミドラは指揮官を撃つ。指揮官が撃たれたら警備してるエージェントはみんな死んで、発電所は今度こそ再起不能にされちゃう」
 もう指揮官は10チームのエージェントと現場にいるのだ。彼らの行動を止めることはできない。
「今動けるのはここにいるみんなだけだから。現地へ着くまでにリュミドラがいつ撃つのか予想して。それが当てられれば指揮官は助かる。現場のエージェントはみんなと力を合わせて従魔と戦える」
 リュミドラの狙撃タイミングを読んで指揮官を守り、サンクトペテルブルグ支部の連中と連携し、従魔を掃討する。
 約束された未来を覆すため、エージェントたちが動き出す。

解説

●依頼
1.リュミドラが『●問題』の中でいつ撃つのかを予想し、当ててください。
2.サンクトペテルブルグ支部のエージェントと共に従魔群へ当たってください。
※注:どちらかが果たされれば「普通」以上の結果となります。

●状況
・作業車が点々と置かれている以外は拓けた雪原です。
・みなさんは12時ちょうどに現地へ到着、その瞬間から行動を開始することになります。
・描写は輸送車の中(予想/相談パート)から始まり、行動パートへ移行します。
・このシナリオでは、指揮官をカバーリングやハイカバーリンクで救うことはできません。
・リュミドラは狙撃の成否に関わらず、一射の後に戦場を離脱します。

●人狼の動き
・みなさんの相手は前半に登場する60体の人狼です。さらに指揮官の生死に関わらずサンクトペテルブルグ支部のエージェントと連携できるので、10体ほどが相手になるものと考えてください。
・連携を取ってきますが、指揮役がいないので目の前の敵を追いがちです。
・武装はアサルトライフルと手榴弾です(プラス爪牙)。

●備考
・『●問題』に書かれたプリセンサーの予知図は、リュミドラの狙撃が最後まで行われなかった場合の内容となります。
・200体の従魔が出現すると同時に増援が到着するため、みなさんが攻略を考える必要はありません。
・今回、ネウロイの干渉はありません。

リプレイ

●予測
 エージェントを乗せた雪上車がライヴス発電所へ急ぐ。
 到着予定地点に着くまで約5分。それまでに、現地の指揮官をリュミドラがいつ狙撃するのか……それを予測しなければならない。
 凶弾が運ぶバッドエンドを覆すために。

「殺すだけならいつでもできるから、予想とか難しいよねー」
 長方形の空間の左右に横並びのベンチを据え付けただけの車内。ギシャ(aa3141)が、足をぱたぱた揺らして暖をとりつつ、白い息を噴いた。
 元暗殺者である竜娘には、殺せるときに殺す以外の発想がない。大局も戦況も、一暗殺者が考えるべき問題ではないのだ。
 傍らに座す3頭身の竜型着ぐるみ――自称「中の人などいない」――どらごん(aa3141hero001)もまた、トレンチコートの襟を立てて緑の首筋をカバーしつつ。
「敵戦力への対処。俺たちはそちらに専念するさ」
 その後に「僭越ながら」と続いたのは、光のない黒眼で一同を見渡した灰堂 焦一郎(aa0212)だ。
「リュミドラさんの立場から考えるなら、発電施設と守備の精兵を、人狼と一発の銃弾でどう攻略するか……となるでしょう」
「リュミドラの目的はただ指揮官を暗殺することじゃない。……発電所襲撃の成否を大きく左右するタイミングで、きっかけを作ることだ」
 沖 一真(aa3591)の言葉に焦一郎はうなずき。
「休息時に狙撃した場合、発電所近くにいるエージェントは敵の襲撃を察知し、施設付近に残留して守備を固めることでしょう。物量を生かすにはエージェントを誘引、分断する必要があり、必然としてエージェントの多くが施設から離れた瞬間に行われるものと推察いたします」
「えっと、いつ撃つ、か? うーん……」
 大きな黒瞳をぐるぐる、真っ赤に加熱された額から湯気などたてながら、必死で考える三木 弥生(aa4687)。侍巫女のたしなみを体現する袴姿なので、かなりどころではない勢いで寒いはずなのだが。
「本当に脳筋だなおまえ……最近の種子島のこたぁ知らねーが、邪魔が多くちゃ狙いにくいってのは昔も今もいっしょだろうよ」
 主君とあおぐ一真の役に立ちたい一心で知恵を絞り、知恵熱に沈みゆく弥生になまあたたかい視線を投げていた三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001)が言う。
『まさに警備の多くが前方の敵へ向かい、指揮官が息をついたその瞬間――だな』
 ニノマエ(aa4381)が持つ幻想蝶の内からミツルギ サヤ(aa4381hero001)が結論を述べた。
「ああ。休憩中はそのフォローに回ってる連中が警戒してるだろうしな。気づかれたら狙撃は失敗するんだろ? スナイパーとしちゃリスクが高すぎるんじゃないか?」
 ニノマエもまた、本業である警備員の立場から言葉を添えた。事件や事故は、緊張を解いた前任と緊張しきれていない後任が交代する瞬間に起こるものだ。
 と。「具申するであります!」、生真面目に挙手して意見する美空(aa4136)。
「狙撃は、指揮官さんがコーヒーを飲んで冷えた体をあたためる瞬間に行われるものと思われるのであります。……人間、ぬくもれば体も心も緩みますので」
 空色のショートカットのてっぺんからぴょこんと飛びだしたあほ毛を揺らし、美空はさらに言う。
「それにここで指揮官さんが倒れれば、多くのエージェントがその事実を見、動揺することになるのであります。結果、狙撃に連動した最初の陽動で全チームがおびき出される可能性も大であります」
「動揺、連動、陽どう……」
 弥生がついに額ばかりかこめかみからも煙を噴き始めたが、さておき。
「しかし最後に指揮官さんが息を吐いた後の狙撃なら、事実を知っているのは後詰めの12人だけで、前衛まで動揺が拡がりません。一射で最大効果を得ることが敵の目的なら、それは本意ではないのではないかと愚考する次第であります」
 ぴしり。歯切れよく言い終えた美空が一礼、すとんと座りなおす。
 その意見に深くうなずいた柳生 楓(aa3403)が口を開いた。
「私も美空さんと同じ意見です。リュミドラ個人の目的はわかりませんが、人狼たちの目的は施設襲撃でしょうから。でも」
 彼女の左隣、氷室 詩乃(aa3403hero001)が言葉を継ぐ。
「ボクと楓の目的はひとつだから、全力でがんばるだけだよ!」
 楓の両手が、意志を込めて強く握り締められた。
「……これ以上、彼女に誰も殺させません」
 意見を聞き終えた焦一郎が再び一同を見渡し。
「これは狙撃手としての意見となりますが……息を吐ききると、人間の体はわずかに硬直します。また、そこを狙い撃つことで視野を広く保っている後衛の目を指揮官に釘づけ、敵増援の接近への気づきを遅らせることも可能となります」
 語り終えた焦一郎へエージェントたちがうなずいた。射手の言葉に賭けると。
 ここで車内の隅で巨体を丸めてじっとしていたストレイド(aa0212hero001)が、機械音声を思わせる声音を発した。
『カウント90、89、88――総員出撃準備』
「R.A.Yちゃん初陣であります」
 意見が採用されなかったことを一切引きずる様子なく、すかっと立ち上がった美空――彼女は“ちんまい”ので、狭い車内でも直立歩行が可能だ――が、足元でだらだらしているサイボーグ少女R.A.Y(aa4136hero002)を引っぱった。
「……かったりーなー。俺はごろごろしてたい。あんたは俺の分までがんばれる」
「そんなこと言わないで魔界帰りの実力をぜひぜひ見せてほしいのであります!」
 ともあれエージェントたちが次々に共鳴していく中、装甲窓の隙間から外を垣間見た月夜(aa3591hero001)が契約主の一真を振り向き。
「一面、雪だね」
「プリセンサーによれば、もうすぐ血吹雪が舞うけどな……」
「そんなことさせないっ――よね?」
 一真はあえて応えず、月夜と共鳴した。
 その体に一真と月夜の意志を映したライヴスが滾る。この凍土の白、けして赤く染めさせはしない。
 真っ先に共鳴を終えていたギシャが、5歳分成長した顔に消えぬ笑みをたたえてつぶやいた。
「狙撃屋さん、会えるかな?」
 応えたのはどらごんならず、弥生の骨鎧と化した禅昌だ。
『会いてーわけじゃねーが、俺が気にしてんのはやつがどこから撃つか……でな。そいつがわかんねーと嫌がらせもできゃしねー』
 苦笑しながら、今度こそどらごんが、
『人狼を見せ札にして潜伏するスナイパーを見つけるのは無理だろう。狙うなら撃った直後か』
 一真もまた、
「リュミドラが撃つのは、エージェントが分断されて弾道が確保できた瞬間。狙撃後の混乱に紛れて逃走を図るつもりなんじゃないか?」
「その気なら見つけられそうだな。今回のリュミドラは確実な一射ってやつに固執してる」
『必中を狙いすぎて戦線離脱も遅れるか』
 ニノマエとサヤが言葉を重ね。
『とにかくスピードが肝心! 従魔を倒して狙撃も逸らしてリュミドラさんの邪魔しようっ』
 一真の内から月夜が急かした。

 最後尾で物言わず準備を進めていたArcard Flawless(aa1024)に、内から木目 隼(aa1024hero002)が声をかけた。
『意見を伸べなくてよかったのですか?』
「――ん、ああ。そんなことよりも大事な課題がある」
『課題、ですか』
「ネウロイとリュミドラの関係と目的、それが課題1。ネウロイの排除とリュミドラを無力化する手段、こっちが課題2」
 Arcardは肩をすくめ。
「元から違和感はあったんだ。ネウロイが姿を現わした過去2回、その両方で皆殺しにできたはずのエージェントを見逃した。この前の発電所ジャックでは、狙撃手には自殺行為同然の屋内籠城を強いた」
『あのとき彼は従魔に扮して紛れ込んでいました。どう転んでも自身の力で覆せると考えていたのでは?』
「そうなんだけど、それにしても……干渉が過ぎる。リュミドラにも、エージェントにも」
 ネウロイは状況をコントロールしている。それは他のエージェントも推察したとおり、リュミドラの訓練のためなのだろう。今回もまた、きっと。
「でも、その訓練自体が矛盾なんだ。ネウロイはなにを考えている?」

●行動
「高機動型狙撃屋さん、開店だよ」
 淡々と言い残したギシャが、雪上車が停止しきる直前に跳び降りた。同時にイメージプロジェクターを作動させて凍雪に紛れ、すべるように移動を開始する。
『高機動と言え足はいつもより遅い。距離と機を違えるなよ』
「りょーかい」
 一真は弥生を見て。
「おまえはまだ見習うなよ。この前みたいな無茶は厳禁だ」
「はい! 一命を賭して我慢いたします!!」
 元気よく応える自称家臣にうなずいてみせ、一真は向こうで作業員と言葉を交わす指揮官へ視線を移した。
「あちらはもうじき休憩時間だな。俺は前衛と連携して従魔を叩く」
「私は御屋形様にお供して参ります! 御屋形様をお守りいたすことこそ私の使命でございますゆえ!」
 ガシャリと胸を叩く弥生に、叩かれた禅昌が言い返した。
『その前に一回共鳴解け。俺ぁあの指揮官のまわりにマグロ吊るしに行く。こないだ体壊された借り、返しとかねぇと』
「非共鳴状態だと確実に死ぬぞ。弾が当たらずとも、常識外れの弾速が巻き起こす衝撃波でね」
 Arcardの指摘に言葉を失くす禅昌。それでも共鳴体を操ってそのへんにマグロを突き立ててみるのは、せめてものデコイ……気は心というやつなのだろうか。
「俺は後詰めの部隊に合流する。炉に続く穴の守りが手薄になるからな」
 そう言って歩き出すニノマエに、首に白マフラーをたなびかせたフルボーグ――美空も続いた。
 食事担当の女性作業員がコーヒーの詰まったポットを抱えて穴から出てきた。もうじきコーヒーは作業員へ、エージェントへ、そして指揮官へ渡るだろう。
「皆様、お気をつけて」
 それぞれ散っていく仲間を見送り、置かれたままの作業車の影で援護体制をとった焦一郎がモノアイを紅く光らせた。
『システム・戦闘モード。ターゲットの反応、感知できず』
「戦闘モードを保ったまま索敵を続行」
 この戦闘は「かくれんぼ」だ。鬼である自分たちがリュミドラを見つけたそのときが、始まりではなくクライマックスとなる。

「じゃあ、そういうことで」
 指揮官に了解をとり、イメージプロジェクターで作業員になりすましたニノマエが壁の穴の裏側に回り込んだ。
 指揮官へは警備の補強に来たと説明してある。作業員に扮する理由について訊かれもしたが、これには「敵にそうと気づかれないため」と返しておいた。
『リュミドラは北東にいるだろう。東からの強襲と北からの奇襲、それを妨げないためにも……状況を把握し、引き金を引く一瞬を見て取るためにも』
 サヤの言葉を聞きながら、ニノマエは壁越しに北から東へ視線を巡らせた。まだ、なにも見えない。
 バトルドレスをまとった楓はレアメタルシールドを手に、指揮官から少し離れた場所で控えている。指揮官に真実を告げられないのが――彼を全力で守りぬけない状況がもどかしい。それでも。
 ――もう誰も殺させない。詩乃とふたりでそう誓ったのですから。
 内から述べられた詩乃の手が楓の心に添えられ、その思いを支えた。

 作業員たちが、壁穴から内の暖かな休憩場所へ引っ込んでいった。
 食事担当がサンクトペテルブルグ支部のエージェントらにコーヒーを勧めた。
 指揮官はその好意を受け、2チームへ休憩を許可。お調子者が湯気であたためた直後に顎を凍りつかせてわめくのに苦笑しつつ、他の部下がコーヒーに口をつけやすいよう、率先して飲んで見せる。
 東京海上支部のエージェントたちの間に緊張が引き絞られた。
 狙撃は――ない。
 休憩を取り終えたエージェントのうち、6チームが索敵に出発。そして。
「従魔! 人狼タイプが50! 応戦します!!」

●迎撃
『鷹だ! 鷹になるのだー』
 内なる声をあげたギシャがスナイパーライフル「アルコンDC7」を構え、迷いのない指で引き金を引いた。
 回避行動をとることもできず、腹をぶち抜かれて転がる人狼。
『なぜ急に鷹なんだ?』
 どらごんの問いに、ギシャは凍雪の白へ紛れて急速移動しつつ応えた。
『なんとなく!』
 装備が命中特化装備の“鷹”だからなのだろうが……どらごんは口の端を歪め。
『竜が鷹に堕ちるなどごめんだな』
『おー、どらごんすぴりっとー』

 一方。正面から人狼を迎え討つ一真は、竜咢を象る籠手に鎧われた手を差し伸ばし。
「惑え」
 果たして、陰陽印に飾られた狩衣の袖口からあふれ出る幻影蝶の群れ。
 蝶たちはそのはばたきで風を遡り、討つべき敵へと群がった。
 ギャウ! BSを重ねがけられた先陣の人狼どもが雪に転がり、わずかな時間、後続の足を止める。
「陣形咒剣――俺が術で攪乱する! 狙撃が来るまでに敵陣を崩すぞ!」
 従魔の空白を、ガッシャガッシャと突撃する弥生が埋めた。
「御屋形様より授かりました新たなる我が魂、守護刀「小烏丸」で、立ち塞がる敵をなぎ倒して参ります!」
 そばかすの散る頬を決意で赤く染めた弥生が空を舞う。大切な人を護るためにこそ力を発揮するという刃が人狼をひと薙ぎに斬り裂いた。
『みなさん二の矢、お願いです!! ――一真!』
 月夜の言葉に、サンクトペテルブルグ支部のエージェントたちが猛攻を開始し、続けて一真は呪符「牡丹灯籠」を額につけるように掲げる。
「『九天応元雷声普化天尊――急々如律令!」』
 一真と月夜が声音とライヴスとを合わせて雷……サンダーランスを放った。
 陣を貫かれ、人狼が二分された。その隙間に東京海上支部、そしてサンクトペテルブルグ支部のエージェントが突入、さらなる分断を図る。
 同じく敵陣へ斬り込んだ一真はウレタン噴射機を装備し、人狼の脚へ噴射。移動を阻害した。
「悪いな、あんたらに構ってる暇はないんでな」
『ん、そこでおとなしくしていてね』

「甘いね」
 敵陣の裏を取りながら、正確な射撃で人狼をしとめていくギシャ。いくらかの反撃を喰らいはしたが、もれなくかすり傷だ。
『距離を開けろ。常の間合に引きずられているぞ』
『あいさー』
 どらごんの助言に内でサムズアップ。ギシャは追いすがろうとする人狼へ射撃を加えながら後へ退いた。
 かくしてエージェントらが十数体の人狼を屠ったタイミングで、北からの奇襲がきた。
「作業員の避難は――そうか、休憩明けで暖を取れていたのが幸いしたな。アセムとチェルネンコのチームは前衛のサポートに。ジョノビッチと私のチームはこのまま穴を塞ぐ」
指揮官の指示が飛び、サンクトペテルブルグ支部のエージェントらが速やかに動き出す。
『楓、ボクたちも行こう』
「はい」
 詩乃に応え、楓が指揮官を追った。
 放たれた弾丸が来る“そのとき”を止めるために。

 最初から炉への穴を塞ぐよう位置取りしていた美空は、LSR-M110による遠距離支援攻撃で敵を撃ち据える。
『おまえら全員37564だぜ!』
 敵を前にし、やる気スイッチを自動起動させたR.A.Yが吠えた。
『R.A.Yちゃん、美空たちが敵を倒す必要はないのであります。負傷させて、戦闘参加できなくすることが最優先でありますから』
 内なる声で言う美空に、R.A.Yは低い唸り声を返し。
『じゃあ、弾ばらまくついでに殺せたら殺す!』
 セミオートながら高い精度を誇る狙撃銃は、遠距離狙撃の連射という乱暴な扱いの中でも彼女たちの戦闘能力を損なうことなく発揮させた。
 その弾幕に紛れ、イメージプロジェクターで今度は凍雪に擬装したニノマエが静かに前進。奇襲にかかろうとしていた人狼どもを、ゴルディアシスの刃雨で打ち据えた。
 が、北からの人狼たちはニノマエよりも眼前のエージェントに気を取られ、戦いは混戦へ移った。
「ち、あいつら視界が狭すぎるぜ!」
『焦るな。あいつらを追うよりもリュミドラだ。いつでも行けるよう身構えておけ』
 サヤの言葉で冷静さを取り戻したニノマエが北東を見た。焦一郎の推察どおりなら――ニノマエの予想どおりなら、あと数十秒で北東からの狙撃が来る。

 仲間をAMR「アポローンFL」で援護しながら、Arcardは思索を続行する。
「……ネウロイがリュミドラに訓練させていると仮定する。が、彼女を兵器または兵士として使いたいなら、ネウロイはなぜ彼女を愚神化しない?」
『確かに、そうすれば訓練自体が不必要になりますね』
 隼にうなずきを返し、Arcardが言葉を継いだ。
「これが矛盾ならぬ必然なら、ネウロイはリュミドラが人間性を喪失する、またはそれに類することをデメリットだと考えているんだろう。つまり彼は――」
 2秒の空白を置いて、Arcardは結論を口にした。
「リュミドラという“人間”に固執している、ということかもしれない」
 彼女は通信機で東京海上支部へ連絡しようとしたが……ジャミングされているらしく、ノイズ以外に返ってくるものはなかった。
「仮説の証明は先送りだね」

『援護射撃・自動継続中。索敵開始……』
 行動のすべてを自身で引き受けたストレイドが、オプティカルサイトを取り付けたLSR-M110での必中射撃を実行しつつ、戦場から収集したデータを焦一郎の前に表示していく。
 目まぐるしく切り替わる数値を目で追いながら、焦一郎は息をさらに細く絞り――止めた瞬間。
 指揮官はマスクの奥で息を吐ききり、その動きを止めた。
 そして。

●不射の射
 焦一郎の視線が、見えるはずのない北東の先を射貫いた。
 しかし彼は確信する。
 凍土に伏せた狙撃手がそこにいて、引き金を引く指を刹那、強ばらせたことを。
 リュミドラは撃ち抜かれたのだ。
 焦一郎の、銃弾ならぬ視線――不射の射で。
「戦闘に復帰する。トリガーを自分に」
『了解。メインターゲットをリュミドラに設定』
「ダーゲットは従魔群に固定。……もう、勝負はついた」
 リュミドラの放った銃弾の行方を追うことなく、焦一郎は仲間たちの戦いに必中の銃弾を添え続ける。

『ここだよ!』
 焦一郎の予測した狙撃タイミングが訪れた瞬間、詩乃が楓に告げた。
 リュミドラが撃つまでに行動すればプリセンサーの視た未来が崩れ、過程と結末が変わる。だから、指揮官の危機に口も手も出すことはゆるされない。
 が。引き金を引く――リュミドラがもう行動を覆せなくなった瞬間からなら!
 楓が指揮官の前に自らの体を差し込んだそのとき、猛烈な衝撃が彼女の盾の縁を弾き、その体を吹き飛ばした。
 ――絶対に、誰も殺させませんよ。
 体勢を整えられないまま盾を構えていた左腕は螺旋状に折れていた。しかし、二射めがあるなら右腕で止める。それも折られたなら足でも口でも使って止めてみせる。
 このバトルドレスの青が、自らが流した血をすべて吸い尽くし、赤く染め上げられるとしても。
 弾の超高速回転が巻き起こす衝撃波になぎ倒され、地へ叩きつけられながら楓は見る。絶対の意志を視線に込めて、彼方にあるリュミドラの顔を。

 人狼の手榴弾を、受け止めたヘルメットごと投げ返した一真が、口の端をかすかに吊り上げた。
「っと。いつやっても慣れないもんだな」
 後方から指揮官が部下たちに原始的な手段――大声で指示を出して部下を導く。
 ――狙撃は無事、阻止できたようだな。
『一真、もう一回だよ!』
「心得た」
 月夜の言葉を受けた一真が、白き狩衣の袖を翻し、呪符で円の軌跡を描いた。
 符に描かれた牡丹灯籠が一真の霊力を吸ってほの赤く灯り、続く呪句に禍々しいまでの力を返す。
「『九天応元雷声普化天尊――急々如律令!」』
 サンダーランスが再び敵陣を裂き、エージェントたちに突撃の機をもたらした。
「行け!」
 ギシャとニノマエが人狼の陣を突っ切っていくのを見やり、一真は噛み砕かれたウレタン噴射機の代わり、消火器で人狼の目を潰しにかかる。
『また壊されちゃうかも』
 唇を尖らせる月夜へ一真は不敵に笑み。
「何秒でも足止めできればいいさ」
 果たして彼の思惑どおり、かかってきた人狼は目を押さえて動きを鈍らせるが――そこへ到来する200の人狼。数に物を言わせ、エージェントたちを押し切ろうと迫る。
「御屋形様!」
 人狼の放った弾と一真との間にすかさず飛び込んできたのは弥生だ。
「矢でも鉄砲でも持ってきなさい! この、先の戦いより硬さを増した身で全部跳ね返し、御屋形様をお守りいたしますゆえ!」
『おいコラふざけんな! 硬ぇのも痛ぇのもてめぇじゃなくて俺だ俺!』
「死なばもろともですよ御先祖様!」
 弥生と禅昌の言い合いの後ろで他のエージェントへ指揮を出す一真は、空になった消火器を人狼の口へ突っ込み、呪符で斬りつけた。
「このまま前進! 足を止めずに敵を散らす!」

「あんたらきっちり穴塞げ、穴! もうちょいで援軍来っから、撃て撃て撃て!!」
 横にいる指揮官を圧倒する勢いで指示しつつ、美空が新たな従魔群へ射撃を加える。
 そして彼女がライフル弾のマガジンを10本分空にしたとき、ついにサンクトペテルブルグ支部より緊急発進した輸送機が上空に到達し、ジェットパックを背負ったエージェントたちが降下攻撃を開始した。

 およそ200メートルの距離の向こう、ニノマエは立ち上がる白い人影を見た。その背からは人影と同じく白いロングバレルが突きだしていた。
「あれが、リュミドラ」
『リュミドラに戦意はない。我らが近づけば逃げられるだけであろうが』
 サヤの言葉の意味を、ニノマエは正確に読み取った。近づかず、あと少しだけ足を止めさせる――!
 ニノマエがストームエッジを召還した。もちろん届かない。届くはずがない。しかし。届くのかと、1秒でも思わせられればいい。
 果たして。
 遙か手前でかき消えた刃の嵐に、リュミドラがほんのわずか、迷い。
 潜伏し、射程距離ギリギリまで近づいてていたギシャが、リュミドラの胸を撃ち抜いた。
「全力で挑んでみたよ、狙撃屋さん」
 大きく状態を傾がせるリュミドラ。
 その胸からあふれ出したものは血――ではなかった。
 ウォォォォォォ……咆哮、そして、黒く乾いた獣の鼻先。
 まだ。まだ早い。約束のときは、まだ。
 鼻を押し込むように左手を当てがい、リュミドラは身を翻した。
 すぐに後を追ったギシャの足ですら追いつけない、凄絶なまでの速度で、雪原の彼方に消えた。

 穴のまわり、人狼群の殲滅に成功したエージェントらが追撃に警戒しつつ、がやがやと談笑している。
「おつかれさまでした。ブルーハワイ茶であります」
 美空が新型MM水筒に入れてきた茶を一同にふるまった。
 ちなみにやる気スイッチの切れたR.A.Yは施設内で転がっている。
『リュミドラの胸から出てきたのって、英雄なのかな?』
 応急処置をすませ、搬送を待つ楓の内から詩乃が訊いた。
「まだわかりませんが……」
 ためらいがちに応えた楓に変わり、Arcardが推察を足した。
「その可能性は高い。……ふむ、ネウロイと彼女の関係性が少し見えたかな」
 新たな思索に潜り込んでいくArcardを邪魔しないよう、隼は言葉を控えて見守った。
『……リュミドラの生体パターンは把握した。次は不射ではなく、実射で貫く』
 ストレイドの言葉に焦一郎はうなずき、リュミドラの消えた彼方を見やった。
 いずれ射手として弾を交わし、語り合いましょう。
「御屋形様! お怪我はございませんでしたでしょうか!? もし傷など負われていらっしゃいましたらこちらを」
 どうぞ。弥生が一真に差し出したのは、狙撃弾の衝撃波を受けて半ば損壊したマグロの大トロだ。
「……いや、大丈夫だから」
『お醤油もないし……っていうか、マグロ食べても回復しないし』
 弥生は月夜と心を合わせて一歩退く一真を愕然と見送って。
「ま、マグロはえぇじぇんとの兵糧丸では!? 誰ですかそのような嘘を語ったのは。――あ、でも傷が癒えていく気が!」
 むしゃむしゃ。
『おまえ、本当に脳筋馬鹿だな』
 犯人――いや、禅昌がしみじみつぶやいた。
「ネウロイはどういう気だ?」
 図らずも焦一郎と同じ彼方を見やり、ニノマエがぽつり。
「リュミドラのこと、HOPEに保護させたかったんじゃねぇかって、思ったんだけどな」
『刃弾を交わせばおのずと知れよう。次こそは、かならず』
 サヤの言うとおり、直接戦えばわかるのか? とはいえ言い返す言葉も思いつけず、ニノマエは「そうだな」と応えるよりなかった。
『――弾を喰らわせたおまえはなにかわかったか?』
 どらごんに問われたギシャは笑顔を傾げ。
「わかんない。でも、リュミドラもからっぽだったものを埋めてくれるなにか、見つけられるといいよねー」
 リュミドラ“も”、か。
 ギシャの言葉を飾るその一音に、どらごんはほろりと笑みを浮かべた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212

重体一覧

参加者

  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • 神鳥射落す《狂気》
    Arcard Flawlessaa1024
    機械|22才|女性|防御
  • エージェント
    木目 隼aa1024hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 悪の暗黒頭巾
    R.A.Yaa4136hero002
    英雄|18才|女性|カオ
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • 護りの巫女
    三木 弥生aa4687
    人間|16才|女性|生命
  • 守護骸骨
    三木 龍澤山 禅昌aa4687hero001
    英雄|58才|男性|シャド
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