本部

流れ星に願いをかけよう

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/12/06 20:35

掲示板

オープニング

●流星群がやってくる
「ふたご座流星群がやってくるんですって」
 H.O.P.E.の女性職員が、男性職員に話しかけた。
「それで、A市にある農業体験公園で、流星群の観測会があるそうなんです。無料で参加できるそうなので、エージェントのみなさんにお知らせしようかと思うんですけど」
「観測会かぁ……寒そうだな」
「毛布とか必要な物は貸し出しますよ。普段忙しくしているエージェントのみなさんに、たまにはのんびりしてほしいなぁと思って」
「ふぅん。まあ、いいんじゃない」
「なぁに、何の話?」
 上司である男性が、二人の間に割り込んできた。上司は、女性職員が見ていた流星群の観測会のホームページに目を留めると、懐かしそうに呟いた。
「ふたご座流星群か。昔、俺も家族で見に行ったよ」
「流れ星たくさん見えましたか?」
「見えたよ。真っ暗な空に流れ星が光の尾をスーッと引いて落ちていくのがきれいだったな。冬は空気が澄んでいるから特にきれいに見えるんだよ。地面に寝転がって星を眺めていると、地球と一体化したような気持ちになって心が落ち着いたな。ちょうど俺は反抗期で親とはめったに口もきかないような時期だったんだけど、星を眺めている間は自然に会話できたなぁ」
「反抗期って、か、な、り、昔ですね」
「それを言うな。かなり冷えるから、その点は気をつけたほうがいいぞ」
「はーい」
 上司が立ち去ると、女性職員は男性職員に顔を向けた。
「じゃ、掲示板に張り紙出しますね。私も行こうと思うんですけど、先輩も行きますか?」
「俺はやめておく。寒いの嫌だから」
「残念」

●張り紙はこんな感じです
 流星群観測会のお知らせ

 流れ星に願いをかけよう☆
 3回願い事を唱えられたら、願いが叶うかも☆

 X月X日にA市の農業体験公園で、ふたご座流星群の観測会が開催されます。
 参加費は無料です。
 日頃忙しいエージェントのみなさん、たまにはのんびり星を眺めてみませんか?
 H.O.P.E.からは、毛布、レジャーシート、懐中電灯を貸し出します。
 それ以外の持ち物については各自でご用意ください。
 厳しい寒さが予想されますので、防寒対策をお忘れなく。
 ご希望の方は、担当者までご連絡ください。

解説

●目標
 流星群の観測会を楽しむ。
 流れ星に願いをかける。

●状況
 A市の農業体験公園には、広い丘があり、そこが観測会の会場となっている。
 一般人の参加者もたくさんいるが、会場が広いので、座るスペースは十分にある。
 観測会の参加費は無料。
 観測会は、日没頃から夜明け頃まで開催される。
 H.O.P.E.から、毛布、レジャーシート、懐中電灯が貸し出される。
 それ以外の持ち物は各自で用意する。
 厳しい冷え込みが予想されるので、防寒対策が必要。
 公園内には休憩所が二箇所あり、寒さに耐えきれなくなった場合はそこに避難できる。

リプレイ

●流星群の観測会に行こう
『流れ星を観に行くのじゃ!』
 高らかに宣言したのは、英雄のD・D(aa4755hero001)であった。D・Dは、かわいらしい少女である。英雄として召喚される前は、もっと大人だったらしいが……。
「……流れ星?」
 守矢 陽(aa4755)は眉をひそめた。彼の職業は探偵という名の何でも屋。事務所兼自宅にD・Dと一緒に住んでいる。
『うむ! 願い事をすると叶うらしいのじゃ!』
「……いやいや、D・Dさん? 今月も誰かさんの食費のお蔭で色々厳しいのよ? ここは依頼やら何やらで稼がなくちゃならないんじゃねーの!?」
『?』
「え? 何その反応?」
『もう参加すると伝えてきたのじゃ!』
「なん……だと……」
 そんなこんなで、守矢とD・Dは観測会に参加することになった

『……星が流れる……んですの?』
 英雄のファビュラス(aa4757hero001)は、観測会の張り紙を見て不思議そうに呟いた。ファビュラスは清楚で優しい雰囲気の女性である。
「ああ」
 どこかミステリアスな青年、シオン(aa4757)は頷いた。
「とは言っても、実際は宇宙の塵が大気圏内突入時に燃える様なんだが」
 シオンは、まだ見ぬ流れ星に思いを馳せた。
「それでも……美しい」
『空に輝く星が……塵。そして……流れる。不思議、ですのね……』
「参加してみようか」
『ええ。行きましょう。どんな楽しみが待っているのでしょうか……』
 ファビュラスは微笑んだ。その微笑みは、白薔薇のように美しかった。

 流れ星は、地球の大気にぶつかり燃え尽きる。
(燃え尽き消えるモノの心は、果たして存在するだろうか)
「……有り得ん事だ、な」
 アリス(aa4688)は自問自答し、そっと呟いた。
『?』
 英雄の葵(aa4688hero001)は、アリスの横顔を見つめた。
(また、何かを考えていらっしゃる……やはり不思議な方だ)
 遠くを見つめて、いつも何かを考えているようなアリス。葵は、この少女に忠誠を誓っていた。
(この季節だ。まず、間違いなく寒いだろう。温かい珈琲でも水筒に淹れ持参する、か……)
 アリスは、計画を練り始めた。

●集合場所は農業体験公園の前
 日が沈み、辺りを薄闇が覆うころ、流星群の観測会が開かれる農業体験公園に、続々と人が集まってきた。
 その中には、一時の休息を求めにきたエージェント達の姿もあった。

「ジェニー! 流星群の観測会だって、こんなの滅多に見れないよ! 一緒に見に行こう?」
『まあ……それは素敵ね』
 小宮 雅春(aa4756)は、パートナーであるJennifer(aa4756hero001)の手を引き、半ば無理矢理連れ出す形で観測会に参加した。小宮は背中まで届くストレートヘアで、銀縁眼鏡の青年である。
 小宮は、寒さを予想して、毛布、ホットコーヒーの入った保温水筒、防寒着を準備した。服装は、小宮はモッズコート。Jenniferにはダッフルコート、マフラー、手袋を用意した。だが、用意したのは全て男物。完全防備となったJenniferの姿を見て、小宮はふと我に返った。
「……なんと言うか……うん、ごめん」
『貴方らしいわね』
 Jenniferはクスッと笑った。見た目はイマイチだが、これで寒さには耐えられそうだ。

 英雄のザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)は、流れ星を見るのをとても楽しみにしていた。ルゥルゥは、とにかく元気で明るい少女である。
 ルゥルゥは、モコモコ仕様のダウンジャケットを着こみ、カイロに温かいスープも準備して、防寒対策はバッチリである。
 一方、パートナーの鵜鬱鷹 武之(aa3506)は、なんの準備もしていなかった。
「スープは、他の味がよかったな」
 準備を英雄任せにしておいて、文句は言う。基本的に動きたくない、働きたくないというクズ。それが武之なのである。流れ星を見るのも本当はどうでもいい。それよりは誰か養ってくれないだろうか、と相変わらずなことを考えていた。
『武之! 流れ星たくさんみれるといいね!』
「流れ星ねぇ……そんなのに情熱を捧げるくらいなら俺を養ってくれよ」

『流れ星♪ 流れ星♪ 願い事は何にするかのぉ♪』
 D・Dはウキウキとスキップしていた。守矢は、楽しそうなD・Dの後ろ姿を見つめて、ため息をついた。
「おのれ……あの騎士(笑)めぇ……。はぁ……まぁ、参加するなら楽しむべきか。これからの活動の願掛けでもしておくかねぇ」
 相棒の我儘に肩を落としつつも、気持ちを切り替えて流れ星を楽しもうと決めた守矢だった。

 黄昏ひりょ(aa0118)とその英雄フローラ メルクリィ(aa0118hero001)は、防寒具やその他のアイテムでしっかり防寒対策を整え、農業体験公園に到着した。ひりょは優しそうな青年、フローラは元の世界では「巫女」だったという経歴を持つ少女である。
「こんばんは」
『よろしくね』
 ひりょとフローラは、先に到着していたエージェントの仲間達に挨拶をした。
 お互いに簡単な自己紹介をしてから、いざ出発。
 観測会の会場へと向かう人の流れに乗って、皆で丘を目指した。

●流れ星を待ちながら
 丘の上には、たくさんの人が集まり、座ったり寝そべったりしながら、夜の訪れを待っていた。
 シオンとファビュラスは、レジャーシートを敷き、更にその上にブランケットを敷いて座った。二人とも防寒具一式を使用しており、防寒対策は怠りない。
 シオンは、農業体験公園の職員が配っていた星座表を広げた。A4サイズの紙に、冬の星座が印刷されている。
「東の空に見えるのがオリオン座だ」
『どれですの?』
 シオンは、星座を指差してファビュラスに教えた。
『あ、あれですのね。見つかりましたわ』
「暗くなれば、もっときれいに見えるはずだ」
『待ち遠しいですわ』
 二人が話している間に夜は深まり、星は輝きを増していった。

「ひりょ君、準備万端だね。すごいな」
 小宮は持参したコーヒーを啜りながら、ひりょを褒めた。
 ひりょは、コーヒーと高級ティーセットでいれたお茶を寒そうにしている人達にふるまっていた。
「いや、それほどでも」
 お湯が足りなくなったので、水を飯盒で沸かしながら、ひりょは言った。
「本当はお汁粉とかを用意出来れば、より体が温まったかもだけど」
 お汁粉は、費用と会場までの運搬の兼ね合いにより断念せざるをえなかった。
『お汁粉、食べたかったな』
「今度、作ってあげるから」
 ものすごく残念がっているフローラをひりょは優しくなだめた。
 小宮は、隣のJenniferの様子を気遣った。
「疲れた? 座ろうか」
 小宮とJenniferは、レジャーシートの上に座った。
『冷えてきたわね』
 Jenniferがそう呟くと、小宮は毛布をJenniferの肩に掛けてあげた。小宮にとってはJenniferが全てであり、Jenniferのためにいろいろしてあげられることが小宮は嬉しかった。
 Jenniferの言う通り、闇が深まるとともに急激に寒くなってきた。
 マフラーも手袋も全部Jenniferに渡してしまったことを小宮は少し後悔し始めていた。自分から観測会に誘った手前、離脱することもできず、小宮は痩せ我慢して夜空を見上げた。
『……寒い?』
 Jenniferに聞かれて、小宮は「ううん、大丈夫」と答えたものの、カタカタと身体が小刻みに震えていた。
『強がり。寒ければこうすればいい』
 Jenniferは、自分のマフラーを小宮の首に掛けた。ごくごく自然に一つのマフラーが、二人の首を温かく包んだ。
「!」
 小宮は目を丸くした。小宮の頬が少し赤くなった。恥ずかしいが、ありがたくJenniferのお言葉に甘えることにした。
 流れ星を待って夜空を見上げている人達の間から、歓声が上がった。
 小宮が空を見上げると、その日最初の流れ星が長い尾を引いて落ちていくところだった。

●流れ星に願いをかけよう
 深夜。
 ふたご座が天頂に昇り、南の空には冬の大三角やオリオン座が広がっている。
 たくさんの流れ星が現れ、人々の頭上に降り注ぐように落ちていく。

『食べ放題、食べ放題、食べ放題……高級料理を所望するのじゃ!』
 D・Dは、流れ星に向かって願い事を叫んだ。大食漢のD・Dらしい願い事だった。
 D・Dの隣では、守矢が叫んでいた。
「家賃半額! 家賃半額! 家賃半額! ……せめて減額ぅ!!」
 D・Dのせいで食費がかさんでいる昨今、「家賃半額」は守矢の切なる願いだった。
 欲望垂れ流しの二人の傍では、ルゥルゥが武之に流れ星についてレクチャーしていた。
『願い事3回言えるといいんだよ!』
「願い事……はぁ、そんなもので養って貰えるならいくらでも願うよ」
 武之は、やる気なさそうにルゥルゥの話を聞いていた。
 ルゥルゥの願い事は、「武之とこれからも一緒にいられます様に」である。ルゥルゥは、流れ星を見つけると叫んだ。
『武之とこれからも! あ……流れちゃったんだよ……』
 しばらくして。
『武之とこれからもずっと一緒に! あ……また流れちゃったんだよ』
 またチャレンジしたが、失敗。
『武之、願い事言うのむずかしーんだよ……』
「あぁ、そう。終わったら起こしてね」
 ワイルドブラッドである武之は、自慢の狸の尻尾に丸まってぬくぬくしていた。
『武之……ルゥ……お願い事が言えないんだよー……』
 ルゥルゥは、武之の肩を揺さぶって訴えた。もっと短い言葉でなければ3回願い事を唱えるのは無理なのだが、頭の残念なルゥルゥはそのことに気づいていなかった……。
『武之とこれからも一緒にいられます様に、ってお願いしたいんだよ!』
「別に一緒にいてくれなんて頼んでないだろ」
『武之は何をお願いしたの?』
「願い事? 扶養希望扶養希望扶養希望、はい3回言ったよ」
 ちょうどタイミングよく流れ星を見つけた武之は、すんなり3回願い事を唱えた。

 シオンとファビュラスは、丘の平らな部分に仰向けに寝転がり、美しい星空と煌めき消え行く星達を眺めた。二人は交互に双眼鏡を使用し、色々な角度から流れ星を観測した。
『……あ、また流れましたわ!』
 ファビュラスは流れ星を指差した。
「極大時間なのかもしれない、な。観れる流星が多くなって見易い時間だ」
『でも……ああして美しく、儚く散っていく様は……』
 ファビュラスは、微苦笑を浮かべた。
『何だか不思議なような……寂しいような気が致しますわ』
「ああ。だけど潔いとも言える」
 シオンは、思索にふけりながら言葉を継いだ。
「心に残る程に美しく輝いて、そして消えて行く……」
「あんな風に散って行けたら……素晴らしい人生だったと思えそうだ」
『まぁ! シオンったら、そんなこと……!』
 ファビュラスは真剣な表情で続けた。
『シオンはあたしが護ります。ですから……散ってなど行かないのですわ』
「……」
 シオンは微笑しながら、星空を眺めていた。

「あ、流れ星!」
 流れ星を見つけた小宮は、嬉々として流れ星に願いをかけだした。
 小宮の願いは……。
(時々思うんだ。これは僕の夢で、朝起きたら、きみが隣にいることも、一緒に星を見たことも、何もかも消えてなくなってしまうんじゃないかって。だって「ジェニー」は僕の空想の中にしかいない人、こんな所にいるはずがない。子供じみたわがままだって分かってる、けど……)
「夢ならどうか醒めないで」
 小宮は、誰にも聞こえないような声でぼそりと呟いた。「ジェニー」に瓜二つのJennifer。Jenniferとずっと一緒にいられますように。
 すぐ傍にいるJenniferにも、その声は聞こえていない。Jenniferは流れ星ではなく、それを見ている人達を観察していた。
(星の塵に願いをかけるとは実に滑稽……しかし人間というものはつくづく面白い)
 身体の距離は近くても、心は遠い。そんな二人の頭上で、星は流れた。

『随分と、冷たくなって参りましたね』
 葵は白い息を吐きながら呟いた。
(そう、冬だからな。寒いのは当たり前、か。アオの居た元の場所も、寒い日も在った事だろうな……。どんな世界か……興味深い、な)
 アリスは、葵がかつて存在していた世界に思いを馳せながら、言った。
「そこに有る毛布でも借りる、か?」
『いえ、私は構いませんが、アリス様はお寒くは無いですか?』
「冬は寒いからな。こんなモノだと思えばこんなモノ。だな」
 冷静に葵に返答して、アリスは物思いにふけった。
(流星群か。“ほこり”が、燃える。燃え尽きる。“ほこり”は、埃だろうか。それとも誇りだろうか。宙の埃が燃える。宙の誇りが燃え尽きる。何にせよ、燃え尽き、消える運命……か)
(流れ星に願いとは、一体誰が考えたのだろうな)
「……アオ、流れ星に願いをかけると、叶うとか言う事は知っているか?」
『はい。一応此方の世界で聞き及んではいましたが……』
(それが嘘か真かは、願いを掛けた方が決める事、か……)
 論理的に考えれば、流れ星に願い事をして願いが叶うはずがない。だが、願いをかけた人間が叶うと信じるならば、願いは叶うのかもしれない。
「アオならば、何を願う」
『……直ぐには思いつかないモノですね……』
 葵は少し考えてから、言った。
『誰かに頼り、叶うモノならば、私には必要無いかも知れません……』
「……そうか」
『アリス様は何を願いなされますか?』
「私に願いは、無い」
 アリスが見上げる空には満天の星。
「こうして星を眺めるだけで十分。と言える、な」
『そう……かも知れないですね』

 ひりょは、双眼鏡で夜空を眺めた。
「フローラはこんな風に星空を眺めたこと、ある?」
 ひりょが聞くと、フローラは考え考え答えた。
『星空は変わらない……気がする』
 少し曖昧な返事だった。元の世界の記憶は朧げのようだから仕方ないのかな、とひりょは思った。
(俺も実はエージェントになる前の記憶が少し曖昧になってる部分があるんだよな。俺も誰かとこうして星空を眺めた事があったのだろうか。何故か思い出せないのだよな……)
 昔、ひりょが住んでいた街は災害に襲われた。その時のショックで、ひりょの体の成長はほぼ止まってしまっている。ひりょの記憶にも、あの災害は影響を与えているのだろう。
「願い事をするとしたら、何にする?」
『沢山美味しい物が食べたい』
 フローラの返事に、ひりょは思わず苦笑いした。腹ペコ魔人という異名を持つフローラである。聞かなくても想像できた答えだったな、とひりょが思っていると、フローラはポツリと呟いた。
『あと……皆とこれからも笑顔で一杯の日々が過ごせますように、かな』
 ひりょは、心の中で同意した。
(俺もフローラも誰かの笑顔を守りたいと思いながら進んできた。誰かの心身の傷を癒せる存在でありたい……。でも、果たして自分の傷はどうしたらいい……)
 止まってしまった自分の時間。体の傷と心の傷。
(俺の願いは何だろう。無論皆の笑顔をこれからも守っていきたいという思いもある。でも、今までの俺は自分の身を削りながら進んできた気もする。それは過去の自分の過ちへの贖罪の意味もあっただろうが、フローラや仲間達にも心配を掛けた事もある。自分をもっと労る事も大事なのだろうな……)
 ひりょの願い事は……。
(俺が俺でいられる場所、存在、安らげる場所が欲しい……なのかな)

『流れ星たのしーなんだよ!』
 ルゥルゥは、まだまだ元気いっぱいである。
『D・Dちゃんは、何をお願いしたの?』
『それはもちろん決まっているのじゃ! 食べ放題なのじゃ!』
 D・Dも元気に拳を振り上げた。
 守矢は、新型MM水筒に入れてきたホットコーヒーをカップに注いだ。そして、ミルクと砂糖をたっぷり入れて一口。
「うまいなぁ」
 守矢もD・Dも防寒具一式を用意してきたが、やはり冬の夜は寒い。温かい飲み物を飲むと、身体が温まる。
「いやー、寒いですねぇ。良かったら如何です?」
 守矢は、武之にカップに入れたコーヒーを差し出した。
「あ、どうも。スープ飲むかい? あんまりうまくないけど」
 守矢と武之がレジャーシートに座って談笑していると、ルゥルゥがさっと近寄ってきて言った。
『みんなと一緒できてルゥうれしーだよ!』
「そのテンションが面倒なんだよ……」
 武之は、英雄のテンションの高さが若干うざかった。
「あー、こらこら! 懐中電灯を振り回さないの!」
 守矢は、懐中電灯で遊んでいるD・Dを叱りつけると、懐中電灯の光が当たったシオンとファビュラスに「すいませんねぇ」と頭を下げた。
『いえ、大丈夫ですわ。元気ですわね』
 ファビュラスは、にっこりと微笑んだ。
「……はぁ」
「……はぁ」
 守矢と武之のため息が重なった。元気すぎる英雄がパートナーだと、こうなる。

(さらに寒くなってきたな……)
 アリスは、葵にコーヒーを渡した。
「珈琲を持ってきた。飲むと、良い」
『有り難う御座います』
 二人でコーヒーを飲みながら、夜空を見上げる。
『……今、流れましたね』
「流星、か……」
(命果てる炎。果たして命在るなどと言って良いのかは分らんが)
「……悪くは、無い」
『消える一瞬の輝きだけが心に焼き付きます』
(燃え尽きる命の炎とは強いモノだな)
 アリスは黙って星空を見つめ続けた。

 シオンとファビュラスは、水筒に入れてきた熱燗をカップに注ぎ、二人で一献傾けた。
「雪見ならぬ、星見酒……だな」
『何だか……星に申し訳ない気もしつつ、ですけれど』
 シオンはちびちびと酒を飲みながら、流れ星を眺めた。
(この世界での色々な楽しみや美しさをファビュラスに教えたい。……永遠に続くモノ等、在りはしないことを。一刻だけの……一刻だからこその美しさも在る、と)
 シオンが持つ独特の美意識。それをファビュラスが共有してくれたら、二人はもっと近づけるだろう。
(いつか……永遠なる美しさに出逢えるように……)
 シオンは、そう流れ星に願いをかけた。
 一方、ファビュラスは思っていた。
(確かに流星は美しい。観測もまた楽しい。けれど何処か寂しくて、それを観せるシオンの心情を知りたい)
 ファビュラスは、そっとシオンの端整な横顔を見つめた。謎めいた雰囲気を持つシオンが何を考えているのか、ファビュラスにはよくわからない。だが、優しい人だということはわかっている。ファビュラスが空腹で行き倒れているところを救ってくれたのが、シオンなのだ。
(この流れ星達にも行き場がありますように……)
 自分がシオンに出会えたのと同じように。ファビュラスは、そう願った。

 ひりょとフローラは、丘を下りて休憩所へ向かった。休憩所の建物に入ると、ストーブの火が赤々と燃えており、中はほっと一息つける暖かさであった。
 十人くらいの人が椅子に座って話したり、ストーブの近くで冷えた身体を温めたりしていた。部屋の片隅では、農業体験公園の職員らしき男性がこっくりこっくり船を漕いでいた。
「あ、ひりょさん、フローラさん」
 気軽に声を掛けてきた女性がいたので、誰かと思えば、H.O.P.E.の女性職員だった。
「流れ星、きれいですよね。寒いですけど。私、いったんストーブの近くに来たらもう離れられなくなっちゃって」
 ひりょは、クスッと笑って女性職員にお茶を勧めた。
「お茶でもいかがですか」
 ひりょは、その場にいる他の人達にもお茶を振る舞い、楽しく談笑した。とは言っても、静かに夜空を眺めている人達や居眠りをしている男性の邪魔にならないように、気をつけていた。
「さて、ひりょさんのお茶のおかげで温まったから、また寒さと戦うか」
 女性職員はそう言うと、休憩所を出て行った。
 ひりょとフローラも、休憩所を出て観測場所に戻った。身体が温まってうとうとしてきたので、ひりょとフローラは寝袋にもぐりこんだ。
(何気ない日常の中の一ページ。こんな時を大事にしたいな)
 ひりょは眠い目を擦りながら、そう思った。

●夜明けは近い
 極大時刻を過ぎ、流れ星がまばらになってきた。

 シオンとファビュラスは、空気が澄んで綺麗な冬の星空を二人で満喫していた。
「あの星の集まりが、おうし座のプレアデス星団だ。日本では“すばる”と呼ぶ」
 シオンはファビュラスに星を教え、ファビュラスはにこにことそれを聞いていた。
「ファビュラス。昼間は太陽の所為で見えない星も在るんだ。でも。それぞれずっと輝いている……」
 誰かが見ていても見ていなくても輝き続ける星達。その美しさは、それを愛でる人がいて初めて存在するのだろうか。それとも……。
「不思議なモノ、だな」
 シオンは呟いた。

 東の空が白み始めてきた。

 はしゃぎ過ぎたルゥルゥは、眠気に勝てず、武之の肩に寄りかかった。
『……ルゥ……武之とずっと一緒なんだよ……』
 ルゥルゥは、流れ星に言えなかった願い事をむにゃむにゃと呟いた。
「燥ぎすぎるから……誰がこいつ家まで持って帰るんだよ……めんどくさい……」
 武之は呆れ顔でぼやいた。
 とりあえずルゥルゥが自然に起きるまで待つとするか。
 武之も目を閉じた。そして数秒後にはぐっすり眠りこんでいた。

「おんぶしてやるから、少し寝なさいよ」
 眠気でぼんやりしているD・Dに、守矢は言った。
『……ん』
 目をごしごし擦っているD・Dの姿は、子供みたいだった。
 守矢はD・Dを毛布でくるんで背負い、丘を下りようとした。
 ひりょは、守矢に声を掛けた。
「守矢さん、もう帰るんですか? もう少ししたら、日の出が見えますよ」
『ほら、見て! きれいな朝焼け!』
 フローラが歓声を上げた。
 東の空が茜色に染まり、眩しい太陽がゆっくりと昇ってきた。
「D・D、起きろー。きれいだよ」
 守矢は、背負っているD・Dを揺すった。
『もっと食べるのじゃ! 全部食べるまでは帰らないのじゃ!』
 D・Dはパチッと目を開けてそう言うと、再びくかーっと眠りに落ちた。
「……なんの夢を見ているんだよ」
 守矢は突っ込みを入れた。
 ひりょやフローラ、周りにいる仲間達から、笑い声が上がった。

 D・Dが流れ星にかけた願いは、夢の中で叶ったようだ。
 他のエージェント達の願い事も、いつかきっと叶う。かもしれない。

『夢じゃなくて、現実がいいのじゃ!』
 あとでD・Dが言ったとか言わなかったとか。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 駄菓子
    鵜鬱鷹 武之aa3506
    獣人|36才|男性|回避
  • 名を持つ者
    ザフル・アル・ルゥルゥaa3506hero001
    英雄|12才|女性|シャド
  • クールビューティ
    アリスaa4688
    人間|18才|女性|攻撃
  • 運命の輪が重なって
    aa4688hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • ラッキーな青年
    守矢 一道aa4755
    人間|25才|男性|回避
  • 大食い少女
    D・Daa4755hero001
    英雄|14才|女性|ブレ
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • お人形ごっこ
    Jenniferaa4756hero001
    英雄|26才|女性|バト
  • 藤色の騎士
    シオンaa4757
    人間|24才|男性|攻撃
  • 翡翠の姫
    ファビュラスaa4757hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
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