本部

光と闇の幻想的イルミネーションへご招待!

時鳥

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/12/08 19:12

掲示板

オープニング

●光と闇の幻想世界へご招待
 冬、陽が沈むのが早まり、夜闇が多くの時間を占める季節。
 その闇を照らすように街中では数々の色合いのイルミネーションが咲くようになる。
「せっかくなので、これ、エージェントの皆さんに配りますか」
 H.O.P.E.が協賛企業として参加するイルミネーションイベントのご優待チケットが息抜き企画部に持ち込まれた。
 僅かな枚数である為、公募の上、希望者が多ければ抽選、という形になるだろう。
「冬のイルミネーションってデートの定番、って感じでいいですね!」
「そうだなぁ。まぁ、デートでなくてもそういうのが好きな人の息抜きにもなるだろ。募集用のチラシをよろしく頼むよ」
 こうして、光と闇の幻想世界、イルミネーションイベントへご招待! という張り紙がH.O.P.E.で貼りだされた。

●貼り紙
 この冬、日本のイルミネーションイベントへ足を運んでみませんか?
 H.O.P.E.からなんと、数組の方にご優待チケットをお渡しします!
 息も白くなる寒さの研ぎ澄まされた空気の中、夜に光り輝く圧倒的なスケールの光の演出を楽しむことが出来ます。
 イベント会場内は広く、ゆったりとしたひと時を過ごせるでしょう。

 このイルミネーションで使われている電飾は300万球以上!
 眩いばかりの闇を照らし出す光は幻想的で現実を忘れさせてくれます。

 暖かい料理も引き換えチケットで一部頂くことが出来ます。

 気になる方は息抜き企画部までお越しください。

●イルミネーションイベントの会場
 ベンチは所々に設置されており、ゆっくりと観賞することが可能。
 入口には大きな噴水があり、壮大で優雅な音楽と光を水が照らし出す噴水イルミネーションが出迎えてくれる。
 入口エリアから各3つのエリアへ移動することが可能。

 ・エリア1
 回廊と滝があるエリア。ナイアガラの滝付近に小さな出店が存在する。

 「輝く光の回廊」
 何十万という電飾と羽で覆われたトンネル型のイルミネーション。回廊を抜けるとナイアガラの滝にたどり着く。

 「ナイアガラの滝」
 滝をイメージしたイルミネーション。光が明滅することで水しぶきを表現し、滝が割れたり、虹が掛かったりなど、多彩な演出を見ることが出来る。

 ・エリア2
 「動物達と花畑」
 緑のイルミネーションと、花の形をした電飾で彩られたエリア。電飾で動物たちが作られており、童話の世界の森に迷い込んだようだ。
 佇む小屋風のログハウスにて飲食が可能。窓が多く設置してあり、中からエリア2を眺め楽しむことが出来る。

 ・エリア3
 「雪の海と巨大雪だるま」
 雪をイメージした白や薄い青の電飾が一面に飾られたエリア。その中を散歩道が通っており一足早く雪景色の中に身を置いたように感じられる。ベンチがソリの形になっている。
 エリアの中央には巨大な雪だるまのイルミネーションが飾られている。雪だるまの前では係員が写真を撮ってくれるサービスがあります。
 宮殿のような三階建ての白い建物で飲食が可能。壁がほぼガラス張りで建物の中からエリア3を眺め楽しむことが出来る。三階からはエリア3全て、噴水、エリア2の一部も見える。

解説

●目的
イルミネーションの満喫

●飲食について
 優待券には食べ物引き換えチケットがついています。一人に一枚ずつです。
 各エリアで下記の食べ物と交換できます。
 エリア1の出店:一口サイズのミートパイ、チョコパイ、アップルパイの詰め合わせ(各2計6個)
 エリア2のログハウス:おでん(各5種類選べます)
 エリア3の白い建物:クリームシチューとフランスパン

 他、飲食については各自購入すれば基本的にOKとします。書いていない飲食物に関してもプレイングに記載頂ければその場に相応しくないものでない限り対応します。

●当日の天気
 晴れています。星も月も出ていますが、イルミネーションの明かりであまり星を見ることは出来ないでしょう。
 気温は7℃程で、息が白くなります。

リプレイ


 息抜き企画部、そこに中城 凱(aa0406)と礼野 智美(aa0406hero001)の姿があった。
 凱は募集の貼り紙を眺めながら眉を顰める。
「……デート定番ならいら……っておい、智美。何で人数分貰ってる」
 が、彼の英雄、智美は既に企画部から四枚のチケットを貰っていた。
「う~ん、あやかなら割と好きかなって。俺とあやかだけで行っても良いけど、薫も興味示すかもしれないし、薫が行くならお前も行くと」
 ひらひらと受け取ったチケットを揺らしながら智美は言う。
(……此奴はもう……)
 凱は額を押さえた。冷やかされている。そう思った。しかし、もう何も言う気も起きない。
 その会話を聞いてチケットを渡した職員は二人とも彼女を誘うのかな、微笑ましいと思っていた。智美はこれでも女性なのだが……。
 智美が貰ったチケットを持って離戸 薫(aa0416)と美森 あやか(aa0416hero001)の二人をイルミネーションへ誘いに行く。
「あれ、このイベントって妹達が興味示していた分じゃないのかな?」
 チケットとイルミネーション詳細の載ったパンフレットを受け取ると薫があやかに視線を向ける。彼の3人の妹は幼いながら女性故かキラキラと光るイルミネーションに興味を示していたようだ。
「下見のつもりで行ってみませんか?」
「うん、暗くなるのも早くなったしね」
 あやかが促すように言うと薫は一つ頷く。妹たちが小さい分夜更かしは出来ないが、今は夕方でも随分と暗い。それなら、少しぐらい連れて行くことも出来るだろう。
 連れて行くならきちんと色々把握していた方が楽だった。
 一方、同じように企画部からチケット貰ってご機嫌に大宮 朝霞(aa0476)。
「じゃーん! 冬のイルミネーションイベントのご優待チケットだよ。さっきHOPEでもらってきた」
 春日部 伊奈(aa0476hero002)に二枚のチケットをどうだとばかりに見せつける。
「おっ! いいじゃん。行こうぜ行こうぜ」
 チケットに伊奈もとっても乗り気だ。
「当日は寒いらしいからあったかくしていこうね、伊奈ちゃん!」
「イケてるコートが欲しい!」
「もう、あるでしょう?」
 二人で当日のことを話しながら楽し気に予定を立てる朝霞と伊奈だった。


 当日、防寒対策をしっかりする凱。離れから出てきた智美の姿にあれ? と首を傾げる。
「智美、お前ショールなんて持ってたのか?」
「ん、マフラー替わりにもなるし嵩張らないから畳んでしまい易いし。良く薫の妹達なんかは遊び道具にしているし」
 見た目も男のように見え、そして本人も男装ばかり。そんな智美が女性的なアイテム持ってるのが凱は意外だった。薫の家へと二人で向かう。
「今度土曜日に連れて行くから」
 玄関先から幼い子供の声と、その後に薫の声が聞こえる。玄関から出てきて凱達が迎えに来ていたことに気が付く薫とあやか。
 出てくる前に妹達にチケットが見つかって大騒ぎしていたことを伝えた。
「今日は母さんがいるし大丈夫だよ」
 と、玄関を見つめる凱に薫は言う。四人は連れ立って既に日が暮れかかっている空の元、イベント会場へと向かった。

 黒い帳が下りて夜の訪れを告げる。その中に人が作り出した光の花が咲いた。
「300万個の電球とか想像出来ないですけどどんな感じなんですかねー」
 狼谷・優牙(aa0131)は入り口でチケットを渡しながら隣にいる小野寺・愛(aa0131hero002)を見た。
 折角のイルミネーションなのだからゆっくりと見たい。もう一人の英雄ではゆっくりと見れないだろう、と思って第二英雄の愛と共に来たのだ。
 中に入る直前、愛が優牙の手をそっと握った。急なことに慌てる優牙。そんな優牙の反応をニコニコと笑いながら見つめ
「せっかく見て回るのにはぐれて探したりしてては時間が勿体無いですしね~」
 と、迷子になってはいけないから、という理由をつける愛。
 二人はデート、というよりはお姉さんと妹、いや、弟のように見える。
 パンフレットを受け取り園内に入ると、噴水が水柱を数十本と上げ、テューバの深い低音と軽やかなトランペットの音に乗り青と緑、黄色、赤と色を変えながら二人を歓迎した。
「ちょっと、お洒落スポットすぎるけど、あたしなんか来ていいのかな」
 同じように噴水近くにいた餅 望月(aa0843)が不安そうにきょろきょろと眩い園内を見回す。
「ワタシとどちらが輝いているか、勝負ね」
「それはさすがに負けるぞ」
 百薬(aa0843hero001)が胸を張って負けない、と言いたげに言い切るもすぐ望月が突っ込みをいれた。
 二人はいつもと変わらない雰囲気でエリア1へと進んでいく。
「素敵! わたくし、こういうのって初めてです!」
「キレイだね。めっちゃ寒いけど」
 と、入り口から入るなり大はしゃぎをしているのは結羅織(aa0890hero002)。隣で十影夕(aa0890)が寒さで指先が赤くなった手を擦り合わせていた。キラキラと輝きステップを踏むように水が弧を描き繋がって行く。
 イケメンとデートでないのが残念ですけれど! 夕様にはマシな服を着せてきましたし、まあ及第点ですわ。とは、結羅織本人談。天性か転移による事故か、とにかく病的に惚れっぽい彼女は美男子が大好きだ。
(また今度チビも連れてきてやらなきゃ)
 夕は手に息を吹きかけ温めようとしながらももう一人の英雄のことを考える。結羅織の方ちらっと見ると彼女はしっかりと手袋をしておりとても暖かそうな恰好をしていた。
(俺も手袋してきたらよかったな)
「お兄様、しっかりエスコートしてくださいましね」
「えっ、俺も初めて来たからわかんないよ」
 ぼんやりと夕が考えていると結羅織が夕の顔を覗き込んできた。驚いて瞼を瞬かせる夕。
「そういうことじゃありません! せめてイケメンぽく振る舞ってくださいな!」
「ムチャいわないでよ。えーと……」
 もう、と言いながらパンフレットを結羅織は夕に押し付けた。
 夕はパンフレットを開き行き先をエリア2に決めた。果たして結羅織が求めるエスコートは出来るのだろうか。
「……ん、綺麗」
「これはすごいな……」
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)に手を引かれ入り口をくぐった麻生 遊夜(aa0452)は感嘆の吐息を零した。噴水は扇のように幾つもの水柱が噴出したかと思うと、水柱の高さが変わり音楽に合わせ波打って踊っているよう。ユフォアリーヤは尾を揺らし遊夜と噴水のライトアップショーを交互に見ていた。
「……あの、周りカップルだらけなんですけど」
 ぱっと見カップルに見える夕と結羅織や遊夜とユフォアリーヤ、波月 ラルフ(aa4220)とファラン・ステラ(aa4220hero001)、他のデートに来ている一般人のカップル達を見渡しながらウェンディ・フローレンス(aa4019)はため息を零した。
「いいじゃんいいじゃん。あたしとデートしよ♪」
 隣に並んだロザーリア・アレッサンドリ(aa4019hero001)が楽し気に笑いながら、恭しく演技掛かった仕草でウェンディに片手を差し出す。その手を見つめ、ウェンディは目を細めた。
「そんなことばっかり言ってると「そういうカップル」だと誤解されるだけのような」
 と言いながらウェンディが辺りを見回す。ちらちらっとこちらを見ていた人がいたようで、僅かだが誤解は既にされてしまったようだ。
「ガールズデートってことで楽しめばいいじゃん♪」
 しかし、ロザーリアはウェンディと対照的に気にした素振りもない。ウェンディの手を取りエリア1へと向かった。
「冬のイルミネーションと言えば、定番はデートだろうにねぇ……」
 そんな仲の良さそうなウェンディ達を見ながら炉威(aa0996)が呟く。何が悲しくて幼女のお守か。と、隣の小さな少女、セラ(aa0996hero001)を見下ろした。
「いるみねーしょん楽しみじゃのう♪」
 と、方やセラはうっきうきとご機嫌で噴水に近づいて行く。その後姿を見ながら、セラが何かで見てホンモノを見たいと言い出し、付いてくることになったのを炉威は思い出していた。
(付き合う事も無かった気もする……のは、気の所為ではない……ね。後悔先に立たずだね)
 白い息を吐きだし苦笑を浮かべる炉威。しかし折角来たのだし今更帰るのも面倒だ、と炉威は受付で受け取ったパンフレットの中にある園内マップを広げる。
「随分広いから、全部回るのはキツいかもね」
「何じゃ! だらしないのう! 寄越すのじゃ」
 マップを炉威が広げたのを見て戻ってきたセラがすぐにパンフレットを引っ張りマップを覗き込んだ。
「むう、確かに広いのじゃ……」
「お前さんがどれを見たいかは分からんが……エリア1が妥当かね」
 指でマップをなぞり、エリア1で止めてからちらり、とセラを見る。派手な方が喜ぶだろう。と、判断したのだ。
(……まあ、喜ばせても仕方ないと言えば仕方ないが……)
 と、心内で付け足す炉威。
「ならばいくのじゃ!」
 セラは嬉しそうにはしゃいでくるっと背を向けエリア1へと向かっていく。途中で立ち止まり「早くするのじゃ」と炉威を急かした。
 そんな数々の人が出入りし流れていく噴水前のベンチ。噴水イルミネーションを堪能する遊夜とユフォアリーヤ。
「ガキ共皆連れて来てやりたかったが」
 行きかう人々の中に子供の姿を見て遊夜は無念そうに白いため息を逃がした。自身が運営する孤児院の子供たちにもこの光景を見せてやりたい、とそう思った。
 ユフォアリーヤが遊夜の腕にしがみ付く。
「……、もう……今は楽しむの!」
「あー……わかったわかった、悪かったって」
 肩にぐりぐりと甘えるように額を押し付けるユフォアリーヤ。遊夜は苦笑いを浮かべパンフレットを取り出して膝の上に広げた。
「ふむ、3つエリアがあるらしいが……どれが好みかね?
 壮大な音楽を耳で楽しみ、その間に次の目的地の品定めをする。ユフォアリーヤは広げられた園内マップを覗き込み、
「……ん、ボクはこれが良い!」
 行き先をビシィっと指さした。
「なるほど、巨大雪ダルマがお望みか」(微笑ましげに
「……ん!」(尻尾ブンブン
 微笑ましげにユフォアリーヤを見遣る遊夜。嬉しそうにユフォアリーヤは尻尾をブンブンと揺らした。


 何十万という電飾と羽で覆われたトンネルは光り輝き、別世界への入り口のように佇んでいる。
 朝霞と伊奈がトンネル手前でパンフレットを広げながら立ち止まっていた。
「輝く光の回廊を抜けると、ナイアガラの滝があるんだってさ」
「へぇ~、すっげぇ綺麗だな! 朝霞、はやく行ってみようぜ」
 瞳を輝かせながら伊奈は朝霞の手を引っ張ってトンネルへと足を踏み入れる。白い羽に電飾の明かりが反射し、光の真ん中を歩いているように感じられた。
「綺麗だね~」
「彼氏と一緒だとさ、”君の方が綺麗だよ”とか言われるんだぜ、きっと」
「……現実にそんなことを言う人、いるのかな?」
 夢を膨らませる伊奈の言葉に、素朴に疑問を口にする朝霞。伊奈は朝霞の方を振り返り瞬いた。
「朝霞って、意外にリアリストだよなぁ」
「そう? こういうのってリアリストって言うのかな?」
 しみじみという伊奈、それに対しう~ん、と朝霞は首を傾げる。
 そんな二人の後方をゆっくりと歩いているのは望月と百薬だ。できるだけゆっくりのんびりと歩き、イルミネーションを堪能する。
「別世界に来たみたい、人類の英知とすら言えるね」
 と、望月は感心したように零した。
「ねぇねぇ、飾りに羽があるよ。ワタシの羽にもこれつけたら、すっごく輝けるかな?」
「なんか後光みたくなりそう……」
 トンネルの電飾を指さし楽し気にする百薬の言葉に、羽にLED電飾を飾り胸を張る彼女の姿を想像して、望月は首を横に振る。
「おお! 凄いのじゃ!」
 望月達の後方、トンネル入り口。たどり着いたセラはその瞳を輝かせた。セラ達はイルミネーションの定番、この「輝く光の回廊」をメインに据えてゆっくりと楽しむことにしたのだ。
(光の中を歩ければ、セラも満足するだろ)
 炉威はそう考えていた。回廊の電飾は惜しみなく天井を覆うように張り巡らされており、昼間の燦々と太陽が輝く時間のように明るい。
 一歩、セラと共にトンネルの中へと踏み出す。
 寒い外気を白い光が撥ね退けるかのように、僅かだが温かみが感じられた気がした。
「こうして光の中を歩くと、不思議な感じがするのう……」
「そうかね?」
 二人で並んで歩いているとその圧倒的な光の洞窟にセラが呟くように言う。
「うむ。昼の太陽の光とも、夜の月の光とも違う、不思議な光じゃ」
「人工だからね。不思議じゃなく異質だ」
 半ば感動を覚えているセラの隣で同じように白い電飾の光に包まれながら炉威は零した。

 …そう考えると、いい気はしない。偽物の景色。色。光。場所。
 まあ、”本物”なんて存在しないだろうがね。
 其処に在るモノが全て。ただそれだけだ。

 炉威の瞳に電飾の明かりが反射する。しんっ、と辺りの空気が冷えた気がした。先程の温かさもきっと、偽物だから。
「炉威! 時化た空気を出すでない!」
 セラの大きな声に炉威は意識を引き戻す。
「はいはい。セラさまの仰せの儘にってね」
 肩を竦めて見せ、また炉威はセラの隣を歩く。セラが楽しめるように。

 回廊を抜ければ「ナイアガラの滝」の滝がその雄大たる姿で出迎えてくれるだろう。
 四人組の凱達は滝の前で立ち止まった。
(智美はそれなりには興味ありそうだけど……)
 と、凱は自分の英雄の様子を伺う。
「確かに綺麗だが、月も星も見えないほどだとやりすぎって感じもするな」
 その視線に気が付いた智美は空を見上げて答えた。
「まあそういうイベントだから」
 凱はそう言いながら目の前の滝を模したイルミネーションに視線を向ける。まるで本物の水しぶきのように光が点滅し、そして急に割れた。そこから鯉が飛び出し龍へと変化し消えていく。
 その演出に使っている技術に純粋に感心する凱。
「行き過ぎた技術や化学は魔法にしか見えないって言葉もあるぞ」
「本当に魔法みたいなスキル使ってる俺達が言う言葉じゃないぞ」
 智美も同じように滝を見つめながらその様にまるで魔法、と言いたげだ。しかし、そこはリンカー。確かに彼らが使う力の方が魔法そのもののようだ。
「飛び込んで泳いじゃおうよ」
 そこに滝へとたどり着いた百薬が吸い込まれそうになり柵に持たれながら滝の方へ手を伸ばしていた。
「その誘惑に捕らわれる気持ちは良くわかるわ」
 と、望月も隣で頷きながら百薬が柵を乗り越えてしまわないように腕を引く。柵がなかったら危なかった。望月もその青く澄んだような電飾の幻に吸い込まれそうになっていたからだ。
「本当に光が流れてるみたいね」
 感心してじっと滝を見つめる望月。雨が降っているようなイルミネーションから晴れて虹が現れる演出が、彼女達の目の前で演じられていた。
「みろよ朝霞! あそこのお店でパイが売ってるぜ!」
「……伊奈ちゃんも十分、リアリストよ。この状況でイルミネーションよりパイが先に来るなんて」
 小さな出店から漂う美味しそうなミートパイの香りに誘われ、伊奈が出店を指さし朝霞の服を引っ張る。やれやれ、と息を逃がす朝霞。
「ミートパイ、おいしそうだなぁ」
「待って伊奈ちゃん。残念ながら、ココでは食べ物引き換えチケットは使わないわ」
「えぇ!? なんでだよ?」
 ミートパイに心奪われている伊奈に朝霞がちっちっち、と指を横に揺らして、ミートパイとチケット交換を行わないことを告げる。伊奈は抗議の声を上げたが、それに対し朝霞はふふんっと得意げに笑みを浮かべ
「それはあとのお楽しみよ。ふふふ……」
 と、意味あり気に答えたのだった。
 二人で滝のイルミネーションも眺め、その綺麗な風景を心の中にしまう。
 そして伊奈が指さしていた出店では丁度、凱が引き換えチケットを使いパイを交換していた。
 三種の味が六個入っている一口サイズのパイ詰め合わせを四人で分ける。
 あやかと智美の女性陣がアップルパイを分け合う。あやかはあまり食べないからだ。薫がチョコレートで凱がミートパイ。凱は甘いものが苦手なのでどっちにしろミートパイしか選択肢はなかった。
「この一口パイ、お土産に手頃かな? 冷めても電子レンジで再加熱したらよいし」
「でも後2エリアも見るし」
 チョコレートパイを齧じり出店に貼られた値段票を見ながら考える薫に、凱はまだ決めなくてもいいのでは、と趣旨のことを言う。
「確かに一理あるけど」
「帰るときにもう一度寄ればいいんですよ」
 あやかの言葉にそうか、と薫。それでもいいか、凱と智美に確認すると、二人はにべもなく頷いた。
 それぞれがばらばらとエリア1を去る頃、滝近くのベンチに炉威はセラを座らせた。
「ちょっと待ってろ」
「? うむ……???」
 不思議そうに首を傾げるセラ。冷え込んでくる寒さは暖かくしていてもやはり体温を奪ってくる。暖かい飲み物を近くの自販機で購入した。
「ほれ、寒いだろ、飲めば少しは暖かくなるだろうよ」
「おお、炉威にしては気が効くのう!」
 ホットの缶を受け取り抱えてセラは嬉しそうな笑みを炉威に向けた。隣に座る炉威。
 セラは暖かい飲み物をゆっくりと味わいながらイルミネーションを眺めている。
(これだけ嬉しそうなら少しは連れてきた甲斐があるってモノか……ね)
 彼女の横顔を眺め、そのとても嬉しそうな顔を見ていると、炉威は少し心の奥が暖かくなった気がした。でも……
 この偽物の光に、セラは何を見てるんだろうかね……。
 偽物の光で夜空にも何も見えない。
 空へと炉威が向けた視線は冷めきっていて

 現実なんて、所詮こんなモノだね。

 そう心の中で呟く。そんな炉威の横顔をセラはそっと見ていた。


 メルヘンチックな童話の世界を表現したエリア。そこに夕と結羅織の姿があった。
「まあ、可愛らしいイルミネーション!」
「おでんあるって。食べよっか」
 花や動物や可愛らしいイルミネーションに喜ぶ結羅織に対して、夕はさっさとログハウスに行こうとする。
「……お兄様は、おでんがお好きなの?」
「うーん、どちらかというと好きではない。でも寒いから」
「それじゃあ場所を変えませんこと!? あちらのエリアはシチューですって!」
 足を止めてログハウスに向かおうとする夕の腕を引っ張り、エリア3の方角を指さす。
 結羅織はあくまでもお洒落な感じで楽しみたいのだ。
(おでんってあなたいつもコンビニで買ってるやつじゃない。しかも好きじゃないってどういうこと?)
 と、内心ぷりぷりとしながら夕の腕を引く結羅織。夕は抵抗する素振りも見せず、結羅織に引っ張られて行った。
「滝も凄かったですけど、ここもまたなかなか」
 エリア1から移動してきたウェンディが弾んだ声で言う。
「滝はダイナミックな感じでしたけど、こちらはメルヘンな感じかしら? わたくしは、どちらかというとこういうほうが好きですけど」
「ウェンディはメルヘンとかファンタジーな感じの方が好きだからねぇ。あたしはライト照らしまくりならどっちもいい感じかなー」
 ゆっくりと森のような電飾の合間を歩きながら楽し気に話すウェンディにチケットを取ってきたロザーリアは満足げに頷く。
 ウェンディは元々は本の精霊でありファンタジーの体現者と言っても過言ではないロザーリアを英雄にしている時点で、如何にそういうものが好きか、というのは明白だった。
「それにしても、ずいぶん豪勢にライトを使ってますわね。……ロザリーってば、電飾の中でもなんでこんなに目立つのかしら」
 動物の森を歩きながら前方に向かっていったロザーリアを見つめ不思議そうに零すウェンディ。その言葉を聞き振り返ってどや!!! という顔をロザーリアはした。
 チケットを貰ってきたときも
「ウェンディがこういうの好きだって聞いて、チケット取ってきた!!」
 と、今と全く同じ顔をしていたのをウェンディは思い出す。
「これは……なにかしら。ウサギ??」
 様々な動物を模したイルミネーションを見つめ、ウェンディは白い電飾で彩られた長い耳のウサギの前で足を止める。
「えー、ウサギってアレでしょ? 時計持って穴の中に走って行ったり、いきなり襲ってきて首刎ねたりするヤツ」
「ロザリー、あなた一体ここ(この世界)に来る前なにをしてましたの……」
 じっとウサギのイルミネーションを見ながら何度も首を左右に傾けるロザーリア。後半、不穏なことを言う彼女にウェンディは眉間に皺をよせ訝し気に呟いた。一体何の本の話なのか。
 そんな動物エリア前、
「次は、動物達と花畑だって。童話をイメージしてるらしいよ」
「なるほど。さっきのトコはいかにもカップル向けだったけど、私達にはコッチのが合ってそうだな!」
 朝霞と伊奈がエリア1からエリア2へと差し掛かる。
「そうだね! ほらみてみて! お花のイルミネーションだよ」
 光の鮮やかな黄色や赤の花畑を指さし朝霞がはしゃぐ。森と花畑の中の動物も見えてきて伊奈が楽しそうに笑顔を浮かべた。
「動物もかわいいな! 持って帰りたいぜ!」
「……だめだよ。ウチでやったら、電気代が大変なことになっちゃうから」
 テンションの上がった伊奈の言葉に朝霞がテンションを下げて現実的なことを口にする。
「朝霞のリアリスト……」
 と、伊奈もテンションを下げて呟いた。
 一方、同じようにエリア2にやってきた望月と百薬。
 森の中を楽しくちょっとだけスキップしてみる。
「百薬、触っちゃダメよ」
 動物達に近づいて触ろうとする百薬を止める望月。
(あたしもあの動物達と戯れたいのは山々だけど)
 そう思いながらも触っては壊れてしまうかもしれない。望月は一緒に揺れるだけで我慢することにした。
 やはり小さい子に人気があるのだろうか、優牙も童話のような世界に目をキラキラとさせていた。何気に一番気に入ったようだ。
 愛は迷子にならないように、と優牙の手を握っている。
「うわぁ、凄いですっ。こんな風にも出来るんですねー。本の中に入ったみたいですっ」
 と、はしゃぐ優牙。愛は微笑まし気にニコニコと笑みを絶やさず見守っている。
 楽し気な子供たちの声が作られた光の森に響いていた。

「ふっふっふっ。さっきチケットを使わなかった理由は、コレです!じゃーん!」
 エリア2に佇むログハウス前、そこに書かれたおでんの上りを指さしながらどうだ、とばかりに胸を張る朝霞。しかし、伊奈の反応が今一だ。
「お……でん? なんだ? 鍋料理か?」
「ん~。まぁ似たようなものね。とにかく、冬といえばおでんなのよ!」
 と、いいながらログハウスの中へと入って行く。冬と言えばおでん。アツアツの湯気とあの出汁の香りは食欲を誘う。
「すみませ~ん。はんぺんと~大根と~こんにゃくと、それから~」
 朝霞は手慣れた様子でおでんを選択していく。はんぺんと言えば静岡の黒はんぺんや関西でははんぺんそのものが入っていなかったりするわけだが、今回は白い一般的なはんぺんだ。出汁をたっぷりと吸い表面が丸く膨れ上がっている。
 二人でおでんを持って席に向かった。
 初めてみるおでんに伊奈は興味津々だ。匂いをくんくんと嗅いでみている。美味しそうだ。
「卵は特に熱いから気を付けてね」
 向かい合って座り、お互いにおでんに箸をつける。伊奈が卵を口に運ぼうとしていたので、朝霞は先に忠告をしておいた。
「うわ、あっつ! でもおいしいな!」
 卵を齧ると口の中に出汁が染み込んだあっさりとしかし濃厚な黄身の味が広がる。伊奈は他のおでんも齧って見ながらその味が気に入ったらしくとても嬉しそうだ。
 しっかりとおでんを全部食べ切る二人。
「いや~、堪能したね!」
 と、朝霞は楽し気に伊奈に笑いかけた。伊奈もそうだな。と満足げに返す。体はほかほかと暖かく心地よかった。

 一方、凱達四人組もエリア2へ訪れていた。
 薫が一番興味を示しているようだ。
(まぁ彼奴の妹達小さいし、いかにも好きそうな感じだよな)
 親友である凱には薫が此処に興味を示している理由を言わなくても察せられた。
(走り回りそうだよなぁ……うん、僕一人じゃ無理だ。あやかさんに協力してもらっても……週休二日の父さんも巻き込もう)
 そんなことを考えている薫を黙って凱はじっと見つめている。
 そのまま四人連れ立って森の中のログハウスへと向かった。
 中は暖かく冷えた体をややしく包み込んでくれる。
「ログハウスは風がないだけでもあったかく感じるね」
「あぁ、俺的にはログハウスから見るだけで十分だけど……」
 窓の外に広がる色鮮やかな電飾の森を見つめ凱は薫と一緒に窓側の席に座った。あやかと智美はカウンターへ向かい、チケットでおでんを交換している。凱と薫は並んで座って外を眺めていた。
「え、おでんがメイン? 何だかなぁ」
 持ってきてもらったおでんを見て面食らう薫。ログハウスのメニューは他にも盛りだくさんではあったが、今回のチケット交換はおでんだった。
 智美が餅巾着と卵、あやかが白滝と筍、薫が大根と出し巻卵と分けていく。すじ肉、卵、つくね串、がんもどき、が凱の前に並んだ。
「俺4つ食べて良いのか?」
「もう1つエリアあるし、お前なら入るだろ」
 四つ並んだ自分の取り皿を眺めながら一応確認を取ると、智美がしれっと答えた。
「まぁ食べるけど」
「1人1つじゃ少ないけど……凱、良く食べるね……」
 と言いながらすじ肉からかじりつく凱。それを出し巻き卵を口に運びながら薫はすごい、というように凱を見た。
 その時丁度、ログハウス前にウェンディ達が辿り着いていた。
「はぁ。いくら元気になったとはいえ、夜遅くに長々出歩くのはまだちょっと疲れますわね」
「ウェンディも疲れ始めてみたいだし、ちょっと休もうかな」
 ロザーリアがウェンディの手を引きログハウスへと向かう。
 寒い中、やはり室内が一番か、息をほっ、と吐くウェンディ。
 二人で空いている凱達の隣の窓際の席に腰を下ろし、ロザーリアが暖かい飲み物を買いに行った。
 ウェンディは目の前の席の中学生たちを見てふと思い出す。
 体が弱く、昔は一人ベッドの上で本を読んでいた。友達とこうして出歩くこともなかった。
 もし、元気だったら何をしただろう、と。
 コツン。
 ウェンディの前に暖かいコーンスープの入ったカップが置かれる。
「パイも食べよっか」
 さっきの滝の出店で交換してきたパイをコーンスープの隣にロザーリアは並べた。向かい合って座る。
「わたくし、こうして外でご飯を食べたことがほとんどなくて。お友達はみんないろんなところで食べてたのに」
 パイを一つ、齧りながら先程までの感慨の余韻か過去を零すウェンディ。
「……ふぅん」
 何かを考えるようにロザーリアは黙った。
「ね、ウェンディ。今、楽しい??」
 そしてゆっくりと問いかける。ウェンディは真っ直ぐにロザーリアの銀の瞳を見返した。
「あら、すごく楽しいですわよ?」
「そっかそっか。よかったよかった」
 口端を緩めて答えるウェンディ。ロザーリアは嬉しそうに表情を崩した。彼女達を彼女達が好きな世界を模したイルミネーションが見守っている。


 白い白い空間。雪が積もったかと錯覚する程、電飾が一面に飾られていた。
 その散歩道をのんびりと歩いている遊夜とユフォアリーヤ。
 遊夜は歩きながら綺麗だなぁ、と純粋に思う。しかし一方で、裏側の壮絶であったろう設営作業の方に思いを馳せてしまうのは職業病だろうか。
(来年は孤児院の方でもイルミネーション頑張ってみるかねぇ……っと切り替えないとな、また怒られちまう)
「……ん?」
 また孤児院のことに思考が及びそうになり遊夜はちらっとユフォアリーヤを見る。彼女はにへー、と幸せいっぱいの顔で遊夜を見返した。
「いや、何でもないさ……綺麗だよなー」
「……ん、だねぇ」
 すりすりと頬を遊夜の腕に摺り寄せるユフォアリーヤ。雰囲気は大人のデートそのもの。
 だんだんと雪の中に見える雪だるまが近づいてくる。
 中央まで来ると、写真撮影を行っているスタッフが如何ですか、と声を掛けてきた。
「すいません、お願いします」
 そう言ってユフォアリーヤと共に雪だるまの前に向かう遊夜。ユフォアリーヤはニコニコと満面の笑顔で尻尾はとても嬉しそうに揺れている。その姿を見てスタッフもとても微笑ましそうに笑顔で二人の撮影をしてくれた。
 ユフォアリーヤの撮影指導の下、腕を抱きかかえられたリ、後ろからユフォアリーヤを抱きしめたり、と何枚か撮ってもらう。
「やれやれ……ま、喜んでるなら何よりかね」
 とても嬉しそうなユフォアリーヤの顔を見て遊夜は呟いた。
 遊夜達が去った後に雪だるまの元へやってきたのは優牙と愛だった。スタッフに声を掛けられせっかくなので、と写真を撮ってもらうことにする。
 二人で雪だるまの前まで来ると愛は優牙の後ろへと回る。愛の行動の意図を察せない優牙はきょとん、としていた。
 そんな優牙を抱きかかえるように手を前に回す愛。優牙の頬が赤く染まる。
「あ、温かいけど恥ずかしいですよっ!? あうー……」
「この方が温かいですしよくないですか~?」
 わたわたとするものの止める言葉を発することはなく、ぎゅぅ、と寄り身を寄せてお互いの体温を感じながらシャッターが切られるのを待った。

「スゲー……雪景色だ」
「なんてロマンチック……どこかに麗しい美男子が落ちてないかしら」
「落ちてたら怖いから」
「乙女の夢じゃありませんか!」
 エリア3入り口、夕と結羅織がなんだがロマンチックではない会話をしていた。
 雪だるまや城の方角を目指し、散歩道を二人並んで歩いていく。壮大な白い光の洪水に飲み込まれてしまったように錯覚しそうだ。
「夕様はデートにお誘いしたい方はいらっしゃいませんの?」
「いない」
「どうして!?」
 結羅織の問いかけに即答する夕。すぐに結羅織が新たに問いを被せた。
「どうしてって……ユエだっていないんでしょ?」
「わたくしは絶賛捜索中です!」
「遭難かよ」
 ふんっ、と胸を張る結羅織に夕は糸目になる。何と答えて良いか分からずツッコミを入れてしまった。
 しばらくの沈黙。しかし、
「お兄様にも素敵な人が見つかるといいですね!」
「素敵な人……」
 これだけかみ合わない会話をしていてもめげない結羅織。彼女は恋バナをしたくして仕方がなかった。
「心当たりが!?」
「食い付き過ぎだから。いない。いません」
 ガッツリ食いつくもにべもなく一蹴する夕。ぷくっ、と頬を膨らませる結羅織。
 こういう話はやっぱり難しいな、と夕は思った。
 同じようにエリア3に訪れた凱達。白銀の世界を模した空間は色の所為か、一気に冷え込んだ感じがする。
「凄く寒く感じるね」
 薫が自分で両腕を摩りながら零す。
 ソリのベンチも気にかかるがゆっくり座っている気にはなれない。
 雪だるまにたどり着くと、スタッフが四人に声を掛けてきた。折角なので、四人並んで写真を撮る。
 真ん中に薫とあやか。あやかの隣に智美が並び、凱は薫の隣に立った。
「こういうサービスは嬉しいよな」
「確かに。何時もイベントでは他の人に頼んで4人一緒の写真撮ってたし」
 雪だるまを離れながら撮ってもらった写メを眺め智美が言う。凱も同意するように頷いた。
 これでまた新しく、四人の思い出が形として積み重ねられたのだと、凱は智美が見ている写真を覗き込む。綺麗に撮れていた。
 そんな彼らが向かう先、三階建ての白い建物。
 エリア1と2を巡り、此処でチケットをクリームシチューとフランスパンに変えたラルフとファラン。
「目がチカチカする」
「冬はこういうのは結構あるぜ」
 席へ向かいながら明るい光の洪水に疲れた目を瞬かせるファラン。ラルフの言葉に「詳しいな」と何気なく言った。
「デートには定番だから多少は」
「でーと?」
 知らない単語に首をファランは傾ける。あぁ、と一つ頷いて
「お前の世界にない単語だったか。恋人いた時はちゃんと連れてった」
「何だと」
 ラルフは丁寧に言い直した。予想外の言葉にファランは足を止める。
 どうした、と不思議そうにファランを見るラルフ。いや、と首を横に揺らし空いてる席にファランは腰を下ろした。
(恋人いたことあんのかこいつ。何だ、私は何故イライラしてる……)
 胸の奥に閊える何かがもどかしく、苛々としてしまう。何かも分からない。自問しても答えが、出てこない。
「人並には経験あるって。最後の恋人とは大学卒業前に別れたけどな」
 「何だと」というファランの言葉を恋人がいたことに驚いただけだと思ったラルフは、向かい合って座りシチューを啜りながら、話を続ける。
「あっちはあっちで自分の夢の為に頑張ってたし」
「……そうか」
「今はお前とアキラがいて面白いから、いいかな」
「……そうか」
 ただ、ファランは相槌しか打てない。複雑な、こんがらがって解けない何かが、喉の奥に絡まっているような。
(さっきからイライラしたり安心したり落胆したり何なんだ、私は)
 スプーンを咥えたまま再度自分に問いかけるファラン。だが、それに対する答えはどこにも見当たらなかった。
 同じ建物内、そこに遊夜とユフォアリーヤがやってきた。遊夜は手にしたチケットを歩きながら確認している。
「引き換えは……シチューとパンだったか」
「……ん、お肉も欲しい」
 遊夜の腕にくっつきながら耳をピコピコするユフォアリーヤ。ターキーやチキン辺り、置いてあるだろうか、と受付でメニューを遊夜は見上げた。もちろんターキーレッグやローストビーフなど肉料理も豊富に取り揃えている。
 ターキーレッグを買い、ユフォアリーヤと共に三階へ上がる。ガラスの外を並んで見られる席へと二人で腰かけた。
「……む、口元汚れてんぞ」
 食べている途中、ユフォアリーヤの口元にシチューが白くついているのに気が付く遊夜。
「……んぅ? ……ん」
「やれやれ……」
 口元をクイッ僅かに上げて催促するユフォアリーヤに小さく微笑んで遊夜はハンカチで丁寧に拭ってやった。
 緩やかに時間が過ぎていく。
(さて、何時もの如く薬を仕込まれる前に先制攻撃しておくか)
 ある程度食べ、落ち着いたところでユフォアリーヤへ遊夜が向き直った。
「ほれ、手ぇ出しな」
「……ん、はい」
 食べるのをやめ、不思議そうに首を傾げながらも言われた通りにユフォアリーヤは左手を差し出す。
 その手を優しく受け止めて、薬指へお互いのイニシャル入りのブラックシルバーリングをはめた。キラリ、と外からの光を反射して黒い指輪は輝く。
「欲しいって言ってたろ、どうだ?」
「……!?」
 遊夜の問いかけにユフォアリーヤの耳と尻尾がブワワッと逆立った。指輪と遊夜を交互に何度も見返す。
「……ん、本当に?」
 尻尾をブンブンと揺らしながら改めて確認するようにじっと遊夜の黒い瞳を覗き込んだ。
「おぅ、センスねぇからシンプルなのになっちまったがね」
「……ん、嬉しい」
 遊夜の言葉を耳にしてにへら、と表情を崩し、とても嬉しそうに微笑むユフォアリーヤ。
 その顔は幸せの光に満ちていた。


「んー、すごいね」
 建物の中から見渡せるエリア3の雪海の壮大さに望月は感嘆のため息を逃がす。これを一番楽しみにしていた。
 チケットでクリームシチューとフランスパンを受け取り、敢えて外のベンチへと百薬と二人で向かう。
「ベンチも輝いてるね、光の中にいるとはまさにこのことだわね」
「ひろいー、たのしいー」
 光の海を歩きソリのベンチを目指しながらも白と僅かな青で彩られた世界の真ん中を歩くことを楽しむ二人。
「たまやー」
「それは違うよ」
 何故か電飾の雪原に向かい声を張り上げる百薬。思わず望月はツッコミを入れた。
 二人は並んでソリのベンチに腰掛ける。暖かいシチューは外気に触れると白い水蒸気を吐き出した。
 白いシチューに白い電飾の海。吹き抜ける風は冷たいが暖かいスープのおかげで体の中からほかほかと、暖かくなった。
 クリームシチューとフランスパンを食べ終わると望月は隣の百薬を見た。
「さて、百薬、勝負するんだっけ?」
「光の速さよりワタシの槍の方が高速だよ」
「さすがにそれはないでしょ、じゃなくてここで槍とかダメよ」
 槍を投げる仕草をする百薬にメッ、と叱る望月。
 エリア3は広い為か、二人の周りには今、誰もいない。
 百薬の白い翼が雪海に映えて、本当に天使のように見えた。
 一方、彼女達が建物を出た直後、暖かいシチューを求め、写真を撮り終えた優牙と愛が建物へと入って行った。
「愛さん、ここで食事引き換えましょうっ。3階からだとエリア全体が見渡せるみたいですし」
 二人は引き換えチケットでクリームシチューとフランスパンを受け取ると優牙の提案で三階まで上る。
「んー、とても綺麗ですね~♪」
 三階の窓からは眩いばかりの白い平原が見渡せた。さっき一緒に撮った雪だるまは随分と小さく見える。
「あら、あそこで座って見れるみたいですしそちらに行きましょう~」
 適当な席を愛が見繕い二人並んで腰かけた。雪の庭を見下ろしながら愛はぴったりと優牙にくっつく。
 愛の体温に先程の写真を撮った時のぬくもりを思い出し、優牙の頬はまた赤く染まってしまった。
「愛さん、あ、あの……あうー……」
「あはは~、いいじゃないですか~。くっついてても誰も気にしないですよ~♪」
 ニコニコと笑顔を浮かべる愛。周りもカップルが身を寄せ合い、美しい光の海を見下ろしていた。
 ゆっくりと、ロマンチックに、暖かいシチューを堪能しながら残りの時を優牙と愛は過ごしたのだった。
 そんな優牙達とほぼ同時刻。薫達も同じ建物へたどり着いていた。
 最後の薫の引き換えチケットでクリームシチューとフランスパンを受け取る。その合間に智美とあやかは焼き林檎を買っていた。
(あれも妹達好きだしなぁ……)
 と、焼き林檎を眺めながら、妹達のことを思い浮かべる。
 四人は連れ立って三階まで上り、ガラス張りから見える景色に小さく息を呑む。薫は凄い、と思った。
 三階は高くて、少しばかり怖いけれど、そこから見える景色はその恐怖さえ圧倒する。
 薫は土曜日に妹達を連れて来よう。この景色を見せてやりたい。
 そう、思っていた。

「俺雪ってあんま馴染みないから、普通に凄いな」
 ラルフとファランは連れ立って、電飾雪の中を歩いていた。スープのおかげで体は暖かい。
(他のは本物見に行ったことがあるな。小春いたりとかで見方が違ったけど)
 と、ラルフはぼんやりと過去を思い出す。愛猫の小春が居れば今もまた違っただろうか。
「そういえば、あまり雪降らないな」
「東京で雪降ったら色々ヤバイなー」
 雪、と聞いてファランは空を見上げた。釣られてラルフも天を仰ぐ。
「生まれ故郷もあんま降らない所らしいし」
「生まれ故郷?」
「フランス。オルレアンって都市の近くだな」
 ラルフが視線をファランへ戻した。生まれ故郷、と言っても、ラルフは日本での生活のが長い。
「子供の頃はフランスにいたとか、目の色で少し苦労したとか聞いたが、今の実家はお前にとって叔母夫婦の家だった筈。何故日本に……」
「俺の両親は俺が4歳の時死んだ。身内に引き取られるのは当たり前だろ」
「っ!」
 不用意に聞いてしまった、とファランは言葉を詰まらせた。何といえばいいのか、言葉が見つからない。
「ガキ過ぎて両親も事細かに憶えてないし、生まれ故郷もある程度成長して改めて訪れた時に何となく懐かしいって思った程度だったから、幸せで恵まれていたと思う分、申し訳ないと思うけどな。感覚的には東京出身の日本人だし」
 だが、ラルフは気にした素振りもなく、話を続ける。ファランはまだ、何も言えないでいた。
「だからお前やアキラは放っておけねぇんだろうな。お前は嫌かもしれないが、年上のお節介とでも思っておけ」
 ファランの肩を優しく叩くラルフ。そんなラルフからファランは戸惑い視線を逸らした。
「……別に嫌だとは言ってない」
「それは何より」
 ふっ、とラルフが小さく息を逃がす。
「アキラも待ってるだろうし、此処を抜けたら帰るか」
 促すようにもう一度肩を軽く叩いてからラルフは背を向け出口の方へ足を向ける。
(こいつは、私と母さんを捨てたあの男と違いすぎる、違いすぎて……戸惑う)
 その背中をじっとファランは見つめ、複雑な自分の気持ちを抱えたまま、ラルフの後ろをついて歩き出した。
 彼女のその複雑な乙女心はいつかファラン自身が理解するときが来るだろうか。
 人工的だが、白い光が、彼女達を見守っていた。

 光に満ち溢れたこの景色と共に。
 その時にしか感じられない思い出を。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    小野寺・愛aa0131hero002
    英雄|20才|女性|カオ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 私ってばちょ~イケてる!?
    春日部 伊奈aa0476hero002
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    結羅織aa0890hero002
    英雄|15才|女性|バト
  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    セラaa0996hero001
    英雄|10才|女性|ソフィ
  • ガールズデート
    ウェンディ・フローレンスaa4019
    獣人|20才|女性|生命
  • ガールズデート
    ロザーリア・アレッサンドリaa4019hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • 巡り合う者
    ファラン・ステラaa4220hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
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