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最終発言2016/11/23 15:49:09 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/11/23 14:59:57
オープニング
シベリア某所の集落から、ロシア軍に向けてのSOSが発せられた。通信の主はアムリタ=ゲルトルート(az0054)。HOPEに籍を置く能力者にしてライヴス研究者である。
『まったく、軍の通信というのはガードが固くて困る。こちらの事態は急を要するというのに』
アムリタの英雄であるドクトル・フランケンシュタイン(az0054hero001)はため息を漏らすが実際はHOPE経由で通信しているため正規の通信でハッキングなどではない。しかしワンクッション置いている事実は変わらないのである意味的を得た愚痴である。
「愚痴を言っている暇があったらさっさと暖房設備の復旧をせんかい、フランケン! どうせ調査機材は半数以上使い物にならんのだ、適当にバラして修理に使って構わん! あー、私の英雄も触れたが事態は急を要するので状況の説明をさせてもらう。集落1つ丸ごとの人命がかかっているししこの通信もいつまでもつかわからん」
彼らは元々、HOPEの要請でシベリアに発生している異常な寒波の調査目的でシベリアを訪れていたのだが、寒波が強力になり一時的な拠点としていた集落が孤立。想像を超えた寒波により使用不能に陥った調査機材を思い切って集落の通信設備、暖房設備の修理に回してこうして通信しているのだという。
「上空は吹雪によって覆われているので空路は無理だ。加えて周辺を従魔どもがうろついていてこちらは身動きが取れん。ロシア軍の雪上車を供与のうえ、エージェント達を向かわせてほしい」
『我らだけなら逃げおおせることも不可能ではないと思うのだがね』
「何を言っとるか! 力はともかく数が多すぎるわ! それに村民を放置して凍え死なれたりしたら夢見が悪いだろうが!」
『世間から見ればマッドサイエンティストだというのに何だかんだ、人がいいじゃないか。まあそれでこそわが相棒だ』
「……コホン、すまんが私のアホなパートナーの発言は流してくれ。この村落には私とフランケンを含めて28名。周辺には雪だるまの従魔とゴブリンどもがうろついている、そう強くはないが数が多いので気を付けてくれ。」
現状では通信機器や暖房設備をアムリタ自ら修理しながら使っているのでそう簡単には使用不能にならないと思うとの事だが、万が一という事もある。雪上車は供出してもらえるが急ぐに越した事は無い。
村落を襲っている寒波はすさまじく、暖房手段が失われれば凍え死ぬことにもなりかねない……こうして急ぎ村落の救出に向かってほしい、という命がエージェント達に下されるのだった。
解説
強力な異常寒波によって、シベリアの集落が孤立。幸い調査目的でシベリアを訪れていたアムリタ達が通信・暖房設備を維持しているため連絡はついていますが、寒波によって家々は凍り付きつつあります。村民たちは暖房をフル回転させて耐えていますが、その寒波はすさまじく、暖房手段が失われれば凍え死ぬことにもなりかねません。
上空は吹雪によって覆われているため、ロシア軍から雪上車の供与を受けて救出に向かうことになります。アムリタの通信により、以下の敵が確認されています。
●ミミックスノウマン
雪だるまに擬態するミーレス級従魔。静かにしていると単なる雪だるまと見分けがつかないが、油断したところを襲い掛かったり、雪だるまを破壊し始めると一斉に動き出す。ワンフレーズ程度であるが、人間の言葉をしゃべることもある。10体ほどの複数体で登場するが、本体はうち1体のみである。
本体さえ倒してしまえれば全て崩れ去るが、一体一体の強さは本体とそれ以外で全く同じ。本体に相当する一体を撃破しない限り、それ以外のスノウマンは死亡しても自己蘇生や復活によって再生するため、本体を倒さない限り次から次に復活して襲い掛かってくる。
●ゴブリンスノウ(雪子鬼)
一般的なゴブリンの亜種。通常のゴブリンに比べて毛深く、白や灰色に近しい肌色をしており、雪原や雪山での戦いを得意とするが、特別な戦闘力がある様子ではない。ただし、雪の中に隠れたり雪山が崩れやすいなどの雪原戦闘特有の状況については本能的に理解しているらしく、雪に足も沈み込みにくいなど軽快な様子が見てとれる。武装などは通常のゴブリンと同じものを使用する。
※敵の詳細なステータスは特設ページにも掲載されています。
リプレイ
●極寒の村へ
今回救出作戦を行う集落が存在するノリリスク地方は、もともと寒い。平年でも-20度に達する極寒の地だ。だが今回の寒波はそんなものが可愛く思えるほどであり、最終の通信で聞いたところ-60度。これは南極点の平均最低気温並み……つまるところ『桁違いに寒い』のでのんびりしている余裕はない。救出優先という事もあり、エージェント達は速度に優れた雪上車『ウラル12』3台体制で現地に向かっていた。先頭から順にニノマエ(aa4381)と九字原 昂(aa0919)、無音 冬(aa3984)と霧島 侠(aa0782)、笹山平介(aa0342)と零月 蕾菜(aa0058)という形で分乗。
寒さに加えて吹雪、更に雪上車が巻き上げる雪煙で視界は白一色……こんな状態ではぐれたら二次災害確定、遭難ルートまっしぐらである。そのためもあり、全車両にオートマッピングシートを用意したメンバーが乗車している。
「寒い……」
『お前にとってはつらいな……』
パートナーの冬が寒さが苦手であることを良く知っているイヴィア(aa3984hero001)は彼を気遣うが、白い息を吐きながら返ってきたのは、決意を見せる言葉。
「……頑張るよ……人の命がかかってるから……」
ならばもはや何も言うまい、とイヴィアは笑みを返す。
『あぁ、その意気だ、大丈夫、動いてる間に温まるだろ。運転は任せておきな』
「うん……お願い」
イヴィア主導で共鳴し、目の前のニノマエの車両を見失わないようアクセルを踏みしめる。一方、後ろの車両では笹山とゼム ロバート(aa0342hero002)が二人とは逆の状況を作っていた。今回SOSを出した二人にしても通信を聞いているだけで凸凹コンビと言った印象が強いし、英雄と能力者の関係というのは案外わからないものである。
「異常寒波か……寒くないですか?」
『……ねぇよ』
その後ろで、冷静に周囲の状況把握に努めているのは蕾菜と十三月 風架(aa0058hero001)。今回の救出作戦は明確に役割分担がされている。彼女達は避難の際予想される襲撃に対する露払いであり、救助の間敵襲を引き受ける立場なので、事前に戦場を確認するのは必須と言えた。
『さすがに吹雪で視界良好、とは言い難いですかね』
「足元は動けないほどでもなさそう、でしょうか」
足元は確かに雪が深いが、身動きが取れないほどの豪雪ではない。難点としては、やはり吹雪による視界の悪さか……これに乗じて奇襲を受ける可能性もあるため、油断はできない。
殿が戦闘に向けての準備をしている間、ニノマエの車両では村落との通信を行っていた。元々雪で視界が悪い分をフォローするのはミツルギ サヤ(aa4381hero001)の役目だ。内容としては貴重品等の荷物は手に持てる範囲内、最小限で準備するようにという住民への打診、高齢者や幼児、移動困難者の有無を確認、研究データ保存と使える機材は幻想蝶へ収納するようにという避難準備に関するものだが、帰ってきた答えは良い意味で予想を裏切るものだった。
『フン、私を舐めるな! とうに準備はできている!』
『元々違法な研究に手を出していたのでね、私達はこと逃げ足に関してはそれなりに自信がある』
「……マッドサイエンティスト万歳、というところでしょうか? いくらシベリアでも限度がある……ってくらいの寒波ですし、冷凍保存されてしまう前に助け出しましょう」
昂はその準備の良さに胸を撫で下ろすが、サヤは少し呆れた様子だ。
『違法とわかっているものに手を出していた結果で逃げ足が早くなられてもな……あの御仁達は置いて行った方が世のためになる気はしないでもない』
「そう言うな、今回に関しては好都合なんだ。礼も含めて一緒に救助だ、そもそもSOSを発してくれたのも彼らだ」
アムリタの言葉によれば移動困難な者はいないが杖をついての移動になっている老人が4人、幼児が4人。それぞれ健康なものがフォローに回れる形にしてあり、通信施設・簡易研究施設を兼ねた大きめの家屋も含め、避難場所を5か所にまとめているという。すでに研究資材もまとめてあり、アムリタ達は村の一番奥にある通信施設にいるとのこと。これらの情報もすかさず通信で共有され、準備は万端。僅かに雪煙とは違う煙が見え、村落が近いことがわかる……あとは救出を行うのみだ。
●超高速救出作業
救助を待つ側の準備が良かったこともあり、救助作戦は非常に手早く進められた。本来目印になる屋根の色や形は雪のためにわかりづらく、煙突からの煙だよりとなったのが少々痛手であったが、幸い村に到着するまでは襲撃の様子はなかった……おそらく、周辺に陣取っているだけで村の中に入らないのは『逃がさないため』なのだろう。つまり、エージェント達すら雪と氷の中に閉じ込める腹で、中から脱出する際に襲い掛かってくるだろうことまでは予想ができる。蕾菜と風架は3台目の雪上車から、村に入る直前で下してもらう。
「迎えに上がる際はご連絡させていただきます♪」
「できるだけ早くお願いします。私達も寒いですから」
ほぼ同時に、先頭車両から昴も降車。2人の役目は避難作業中の防衛、並びに敵の排除。霧島も同様の役目を担っているが、彼が構えているのは雪上車の上だ。上から角度をつけて、周囲をぐるりと見まわす……いた。
「マンガか。あれがミミックスノウマンとやららしいが、この天候で雪だるまの形をしている。あんなのがいくつもあれば警戒するのが当然だ。襲いかかれるほど油断する奴はおらんな」
あまりにあからさまな雪だるま。猛烈な吹雪の中だというのに綺麗な形を保っておりしかもそれが何体も点在している……不自然極まりないが、それに気づいていないらしい。所詮知能は低いという事か。
「今のところはあちらも様子見、と言ったところか。障害にならないならむやみに手を出す必要はない、こちらも動く必要はないな」
雪上車3台は、分担して家々で避難を開始。住み慣れた地を離れるのは辛いだろうと、説得に時間がかかることも覚悟していたのだが彼らは思いの外すんなりと避難に了承してくれた。
ノリリスク地方は元々人が暮らすのには非常に厳しい環境であり、集落の歴史も振り返ると囚人労働者出身という家も珍しくない。ただでさえ目の前に凍死しかねない寒波という現実があるのだから生活の保障が得られるのならば、離れても構わないという考えも少なくなかったのだ。
最奥の通信施設がある家を除けば住人が避難している住宅は4軒。このうち3件を一度で回ったのだから当然効率は良い。あと2か所……すでに半分を超えているが、ここまでされて見張っている者達が黙っているはずがない。昴のライヴスゴーグルの視界がわずかに揺らいだところで、小さな影がいくつも無人の家屋の陰から飛び出してくる。
「……ですよね。素直に帰してくれるならわざわざ依頼にはなりませんよね」
「わざわざ村の奥に踏み込むまで待ってから襲ってくるあたり、ゴブリンにしては頭が回るようですね。しかしここは通行禁止。救助の邪魔はしないでくださいね」
彼の横で身構え、風架と共鳴する蕾菜。霧島も投擲による援護の姿勢をとるが、そこで少しずつ雪だるまも動き始め、にらみ合いの状況が生まれる。最初は順調だったが、ここからはスピード勝負だ。正直なところ、戦力上は従魔達を全滅させるのは難しくない。
ミミックスノウマンの本体を倒さない限り復活し続ける性質こそ厄介だが、所詮ミーレス級であり『厄介』どまりだ。だが今回の目的は殲滅ではなく、救助。雪上車が動けなくなったりしようものならその時点で失敗である。故に、救助作業を行っている時間……特に今のような『村の奥の救助作業』は相手にとっては格好のチャンスであり、エージェント達には最大の正念場。この時間をいかに短縮できるかが、勝負の分かれ目と言ってよい……ここで無駄なく、可能な限り最大の速度での『超高速救助作業』を行えるかどうかに、勝負はかかっているのだ。
●逃げろや逃げろ
「すまない、大分待たせてしまったな。ところでアムリタさん、何故こんな村の一番奥に避難を? 手前の方が避難そのものもスムーズだったはずだ」
『それに関しては想定外の事態、というやつだな。この寒波に加えて通信障害があり、この村長の家にしかライヴスを使った通信手段が用意できなかったのだ。それよりも村長を連れていく手伝いを頼む、思ったよりも衰弱がひどい』
『貴殿は?』
この場にはやや不似合いな魔術師然とした男に、ミツルギが尋ねる。
『私はフランケンシュタイン。そこの被害妄想が過ぎる男のお守りだ』
男は余裕を失わない態度で答えるが、アムリタはジト目で彼を見ながら状況を補足する。
「本来ならばこの時間も惜しいが、要するにそれが私のパートナーだ」
「それにしても随分と用意が良かったな、助かる」
『通信でも言ったが、これでも我らは逃げ足には自信があるのだよ。戦いは不得手だがね』
無駄話をしている暇はない。アムリタも老人に肩を貸し、ニノマエは衰弱のひどい村長にエネルギーバーを渡したうえで、そのまま背負う。ここで通信機から良い知らせと悪い知らせが同時に届いた。
「逃げ遅れた方はいませんね」
『だな』
良い知らせは笹山とゼムで確認し、避難が完了したこと。悪い知らせは、霧島からのものでミミックスノウマンの数が増え始め、対応班に余裕がなくなってきた、という知らせ。
蕾菜は極力雪だるまを破壊しないように心がけていたが、それをいいことに向こうから自爆を仕掛けてきたり、数が増えてきたことでブルームフレアを使い対応したところ巻き込んでしまったりと思うようにはスノウマンを処理できずにいたのだ。これではキリがない……というところで、自分のものではないブルームフレア。冬だ。
「……今のうちに」
「助かりました!」
「では今のうちに逃げるとしましょう」
昴の言葉を合図に、従魔対応班も撤退準備に入る。本来運転担当である冬が支援に回った分、足並みが乱れる。やむを得ず近づいてきたスノウマンに対して昴が猫騙を用いて牽制、更に霧島が攻撃し時間を稼ぐ。
「本体を見破る策はあるが、問題は実行不可能ということだ」
それでは意味がないのだが、今はそんな議論をしている時間すら惜しい。あとは逃げるだけなのだから、とにかく追い払えれば充分だ。
「状況はいかがでしょう?」
何とか逃げる体制を整えたところで笹山が殿となった蕾菜に尋ねる。いい加減鬱陶しいがゴブリンも数を減らしており、その気になれば逃げきれなくはなさそうだ……しかし、世の中に完璧というのはそうそうあるものではない。念を押すように風架が蕾菜に代わって答える
『余裕を持って逃げるなら、あと一押し欲しいところです』
それを聞いて、村民らとともに車内にいたアムリタに声をかける笹山。
「アムリタさん、少しの間運転を変わっていただけますか?」
「全く、人使いの荒い事だな」
『褒め言葉として受け取っておく』
ゼムがパートナーに代わってそう答え、共鳴しつつ車を飛び降りる笹山。
「迎えにあがりました♪」
「ありがとうございます、運転は?」
「ちょっと代わってもらいました」
SOSを出し、避難の体制を整え、更に可能な限りの調査資料まで持ち出したというのにこの上運転を押し付けられたアムリタに、ちょっとだけ蕾菜は同情した。しかし、せっかく来た迎えを無駄にするわけにはいかない。改めて笹山のロストモーメントとブルームフレアで従魔達を薙ぎ払い、その動きが止まったところで共に車に向かって全力ダッシュして、アクション映画のワンシーンのように車へと飛び乗る。従魔達も当然追いかけてくるが、最後の牽制もあって徐々にその距離は離れていく……。
村民達も程度の差はあれ疲弊しており、外に気を配る余裕はなかったがこうして零下60度という極寒の中での救出作戦はひとまずの成功を見たのだった。
●災厄は続く
何とか集落からの脱出を成功させ、毛布や温かいお茶を配るといったフォローが続く雪上車。笹山が用意したお茶と、冬の用意した肉まんの温かさがほっと染み渡る。運転はやはり、イヴィア主導である。
「あったかい……」
「それで、話というのは?」
何とか従魔を巻いて寒波が和らいだところで、アムリタからエージェント達へ報告があるという話があったのだ。
『正直なところ、何もわかっていないようなものだがそれでも伝えておいた方がいいだろうと、アムリタが言うのでね』
「どうせ戻ったら報告せねばならんのだ、今話しても同じだろう……結論から言うと、各地の大寒波……特に今回の村の寒波は、収まらない可能性が高い」
それは、衝撃だった。エージェント達はドロップゾーンの影響で、この寒波が起きていると踏んでいたので、この作戦後に返す刀で従魔を倒してしまえばいったん収まるのではという予感があったのだ。
「この寒波はノリリスク地方の各地で、起きている。よってこの原因は複数の従魔、愚神によるものと思われるがゴブリンスノウやミミックスノウマンはミーレス級、これだけの寒波を起こすドロップゾーンを形成するにはあまりに弱い。つまり、原因は別のところにある可能性が高い……例えば、非常に強力な愚神がどこかに存在する可能性はあるが、現状それらしい話もないので仮説の域を出ない」
翻って、フランケンシュタインが言う通り原因は従魔ではない、というくらいしかわかっていないという事だがこれ以上については調査の前に今回の状況に陥ったため少々消化不良の感は否めないが、それでも収穫はあったと捉えるべきかもしれない。
「ところで、調査器具などはどういったものを使っていたんですか?」
興味を持った冬が尋ねるが、答えは簡素なものだった。
「いずれも零下40度でも使用できる寒冷地仕様にカスタマイズしていたが寒波も広範囲に及んでいるから、ライヴスの測定用機材を積んだドローンや簡易型の測定器程度だ。強いて言えばカスタマイズの費用は余分にかかるが、一般的なライヴス絡みの調査とそう中身は変わらん……より強力な低温に耐えられるように、となると再度予算を出すのは上が渋りそうだがな」
一次調査の時点での異様な寒波に、今だわからない原因……見えない何かの影を感じるが、その全貌がまるでつかめない。そんな不安はあるが、それ以上に住民たちは不安だろう……それでなくとも、住み慣れた村を半ば強制的に追い出される羽目になったのだ。
彼らの安全こそが、今は最優先。それを再確認して、エージェント達は雪上車のアクセルを踏みしめて雪煙を上げながら帰投するのだった……。