本部

レッツ鍋ぱーりぃ♪ in炬燵

時鳥

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/11/29 20:44

掲示板

オープニング

●鍋の季節
 徐々に気温が下がり冬の訪れを感じさせる今日この頃。
 『寒い季節はコタツに鍋!』そんな売り文句を掲げている、とある日本の食品メーカーから調査協力依頼が届いた。
 全国展開に向けて、海外からはては英雄まで様々な味覚にあった鍋の素を提供する、その心意気の実現の為、是非、H.O.P.E.に所属するエージェントの諸君に協力願いたいそうだ。
 メーカーの鍋の素を使った鍋をつつき、その味の感想をレポートで提出する。
 場所はとある食品メーカーの系列飲食店。日本家屋風の店の二階が貸し切りとなり、そこで鍋を食べてもらう。
 部屋は三部屋あり、襖で仕切ることもできるが全て解放して繋げることも可能。畳が敷かれ冬の日本名物炬燵が完備されている。
 鍋汁は部屋によって違いがあり、鍋自体はやや大きめだ。
 具材は廊下の棚に並べられ、自由に取ってくることができ、肉、魚、野菜、デザート用の果物などなどその種類は豊富だ。
 途中で鍋汁が少なくなれば追加することもできるそうだ。
 美味しく鍋を堪能していただきたい。

解説

●目的
 鍋を皆で美味しくつつこう!

●部屋ごとの鍋汁
<梅の間>
 あっさりとした鰹ダシの寄せ鍋汁

<竹の間>
 ちょっぴり辛いチゲ鍋汁

<松の間>
 まっくろ濃厚なイカ墨鍋汁

●具材
 白菜、しいたけ、水菜、鶏もも、ささみ、牛肉、豚肉、大根、餅入り巾着、などなど鍋に入っていておかしくないものであればプレイングに書いて頂ければ対応します。
 デザート用に、イチゴやバナナ、ミカンなどのフルーツもあります。
 しめ用のご飯や卵、うどんなどもあります。

●レポートについて
 リプレイでは鍋をわいわい食べている部分が中心となります。
 レポート内容をプレイングに書かなくて構いません。後日提出した、という形になります。

リプレイ


「いらっしゃいませ」
 日本家屋風の店に足を踏み入れれば、着物の女性がもてなしの挨拶と共に深々と頭を下げる。女性店員の案内に従い二階へ赴くと三部屋の和室にそれぞれ「松」「竹」「梅」の立て札が下げられていた。
「ええと、梅の間が寄せ鍋で竹の間が……さっ、颯佐お兄ちゃんっ!? そっちはイカ墨ですっ!」
 最初に到着したのは黒鳶 颯佐(aa4496)と新爲(aa4496hero002)だった。新爲は配られていた案内書を見ながら説明をするも、その隣をすり抜け一番近い松の間に颯佐がさっさと入って行ってしまった。
 炬燵に入りもう動く気配はない。元々好き嫌いは特になく、むしろ無頓着である颯佐にとっては鍋の汁は何でもよかった。
 そんな颯佐に内緒でこっそり今回の依頼を受けた新爲。
(お鍋、食べたかったんです……っ! 食べたかったんですよ? でも、あの……、)
「……さ……颯佐お兄ちゃん……お鍋が黒い、です……」
 入った部屋の底が見えない黒いイカ汁に満たされた鍋を見て心の声が途中から漏れていた。
 まさか先陣切ってイカ墨鍋に特攻する者がいようとは企画者も思っていなかったに違いない。
「寒くなってきたからね。鍋に良い時期だね」
「うむ。鍋か! 食べ放題気分は嫌いじゃないぞ。そして炬燵じゃ炬燵!」
 鍋に炬燵、とはしゃいでいるのはセラ(aa0996hero001)。その隣を炉威(aa0996)が歩く。セラはまず廊下から蜜柑を数個手に取った。
 そして颯佐達がいる松の間の障子を開ける。
「炬燵は良いモノじゃのう。鍋も良いが、ミカンが何とも言えんのじゃ♪」
 炬燵に鍋もいいが、やはり炬燵と言えば蜜柑。最高の組み合わせをセラはよく分かっている。
(前世だか何だか知らんが、日本人じゃないのかね。この年寄り発言は)
「何か言うたか?」
「いや、空耳だろ。それより挨拶」
 颯佐達の姿を認めそちらに視線を向けながら炉威が人当たり良く挨拶をした。

「あの……この依頼、ファルクさんが選んできてくれたんです……よね?」
「いや、寒くなって来たし、偶には……な。それに……」
「それに?」
「鍋って皆でわいわいやる方が楽しいだろう?」
 ファルク(aa4720hero001)に引き摺られるようにして参加した茨稀(aa4720)。ファルクは内心、彼を心配していたので受けたのだが、そこのことを茨稀は知らない。ほぼ興味がない、という表情をしている。
「……俺、別に1人でも構いませんけど……」
「可愛いコも居るかも、だし? ま、社会勉強だと思って、さ」
 話しながら竹の間を開ける二人。しかし竹の間には誰もいなかった。

「薫やあやかを危険にさらさなくても済む依頼は安心して誘えるよな」
「それは同意する。しかしこのラインナップだと梅の間一択だな」
「だよな」
 中城 凱(aa0406)と礼野 智美(aa0406hero001)が並びながら部屋のプレートと案内書を見比べながら話している。親友の離戸 薫(aa0416)、美森 あやか(aa0416hero001)を誘い四人連れ立って店までやってきた。凱がちらり、と後ろを振り返る。薫の希望を最優先するつもりだった。
「全国展開予定なんだよね……やっぱり、妹達にも食べられそうな鰹出汁食べてみたいかな」
(子供舌だと辛い物は嫌がる、イカ墨は……お気に入りの服に汁飛ばしたりしたら泣き出しそうだしなぁ……)
 凱の視線に応えながら、他の二つの鍋についても考える薫。
「一番癖なさそうですしね……お鍋みたいな大量調理・多人数用は智ちゃんの方が得意なんですけど」
「そういえばそうだよね。去年もお鍋とかおでんとかすき焼きなんかは智美さんがよくやってたし」
 と、薫とあやかは凱の隣の智美を見た。
「あっさりなんにでも合いそう、うまみ成分たっぷり鰹出汁。寄せ鍋風にして他の素材の素材そのもののうまみも楽しむのが万人受けしそうだし……このあたりもレポートに書いておくか。一番いいのは3つ食べ比べだろうけど」
 そう言って智美は梅の間の障子に手を掛ける。
「だから智美、お前なんでそんなに現代日本に対応しきっているんだ……」
 凱は智美を見ながら、色々な事を説明しなくて済む分、ある意味此奴本当に英雄なのか、二人目の英雄次第では適応するまで苦労するだろうな、と思った。
(……まだ中学生だし、今の所二人目の英雄と契約する意思はないけど……)
 そんな凱の胸の内を智美は知る由もなかった。
 凱達四人に続くようにもう四人が梅の間へと姿を現した。
「皆でお鍋ですか! この季節にぴったりですね」
「腹も満たせて体も休めていい機会だな」
「鍋ってのは大人数で食べんのが一番ッス! 色々味見て見聞広げたいッス! 鍋の道(?)は奥が深いッスから!! 久朗はどんた味が好きッスか?」
「みぞれ鍋に水菜が入っているさっぱり系だな」
 セラフィナ(aa0032hero001)、真壁 久朗(aa0032)、齶田 米衛門(aa1482)が会話を交わしている。スノー ヴェイツ(aa1482hero001)が早速具材でも取りに、と言いかけたところで、先客に気が付く四人。大人の男性の姿にあやかが智美の後ろに隠れた。
 凱と薫が表立ち、まずは軽い挨拶を交わす。
「おいーっす! 楽しんでる? 鍋パーティー楽しまな損だからね~!」
 そこへ丁度虎噛 千颯(aa0123)もやってきた。
「まだ、初めてない」
「これからッスよ!」
 知り合いの久朗と米衛門が振り返って答える。千颯の後ろから烏兎姫(aa0123hero002)が顔を出した。
「やあやあ初めまして。ボクは烏兎姫だよ。」
 と、元気に笑顔で挨拶をする。梅の間には10人も集まった。やはりセオリー通りの味は人気が高いようだ。
「ここ多いみたいだし、仕切りをとっぱらって一つにして皆で楽しむのはどう?」
「いいッスね!」
 人数の多さを把握した千颯は挨拶もそこそこに閉まっている襖を指さして提案する。すぐに賛同する米衛門。反対する者も特にいない。すぐに襖を米衛門がバーンっ! と勢いよく開けた。竹の間にいた一同の視線が集まる。茨稀とファルク、そしてヴァイオレット メタボリック(aa0584)とノエル メイフィールド(aa0584hero001)だ。
 ヴァイオレットは豊満な体を揺らした。この体形は一応変装みたいなものだったが日ごろの成果で食いしん坊なメタボボディになっている。見破られてはいけない、まだ成り切れていないので大食を極めたい、と本人は常に思っている。ちなみに竹の間に入ったのは全ての種類の鍋を食べたいが為、他の二部屋にも行きやすそうな真ん中を選んだのだった。


「ロック君? 何をそんなに緊張されてるんですか?」
「だってよ……、周りがエースだらけなんだぜ……。場違いと言うか……」
 少々遅れて廊下を歩いてきたのは神鷹 鹿時(aa0178)とエスカ・ランセット(aa0178hero002)だ。鹿時が怖気づいたのか廊下で立ち止まってしまう。
「もう! 変な所で臆病なんだから! ほらここに入りましょう! 活躍も聞ける良い機会なんですから!」
「ちょ! 引っ張るなって!」
 ぐいっとエスカがロックの腕を引き、梅の間の障子を開けた。が、既に三部屋の襖は取っ払われ、他のメンバーは全員集まっており、炬燵は中央の竹の間に寄せている最中だった。
「おっ、鹿時ちゃん、デート~?」
 千颯に声を掛けられて固まる鹿時。慌てて首を横に振る。
「パパのお友達? それならボクとも仲良くしてくれると嬉しいよ!」
 千颯の隣に座っている烏兎姫が千颯と鹿時を見比べてから鹿時に向かい手を振った。
「最初から味あるってのは投入の順番やら食材の相性も考えるべきッスね……難しのは食ってからッスね!! 鍋は何してもうめぐ(美味しく)なるッス! よっぽど相性悪くなけりゃッスけどね!」
 これから食材を選んで来よう、という話になり、鍋料理に飛びぬけた才を発揮する米衛門が水を得た魚のごとく喋り出す。久朗と千颯と共に廊下へと向かう。
「鰹出汁に合うんはさっぱりしたもんが良いッスね。葉物類はシャキッとした歯応えも良いッスし、へにゃってしてるのもまた良いッス! 好みに合わせて肉を入れたいッス! オイは鳥好きッスよ鳥! 淡白で味に左右されない生き様(?)あるッスな!」
「フルーツあんのかー……鍋に入れるっての聞いた気がすっけど、まんま食った方がうめーだろ?」
 はしゃぎながら葉物や鶏肉と取る米衛門。彼の英雄、スノーは並んでいるデザート類を眺めながら不思議そうに首を傾けていた。
 その隣の棚からヴァイオレットが牛、豚、鳥、鹿などなど肉類ばかりを大量に手にしていく。
「辛い鍋には牛肉がベストッス、しっかり味主張するんで辛さで麻痺しても丁度良いんスよ。辛いの苦手なんでガッ込んだりは出来ねッスけど、食いてッスね」
 ヴァイオレットの様子に特にチゲ鍋には牛がいい、と米衛門は押す。
「詳しいな。ちゃんこ鍋、牛鍋やぼたん鍋、水炊き、ポトフ、サムゲタン、イタリアン鍋、なんかも食べてみたいものだ」
 と、様々な鍋に思いを馳せるヴァイオレット。それなら、と、分かる範囲の鍋料理に合う具材の話を米衛門が答えた。その知識量は流石であり、老練な鍋専門の料理人のようだ。
「鰹出汁だからなぁ。海の物の方が合いそうな気はするが……牡蠣と蟹は土手鍋の方が良いし体質に合わない人も稀にいるし。鴨は癖強いしから鰹出汁凌駕しそうだし。最初は大人しめに白身の魚、ホタテ、鶏もも肉に豚肉……一応牛肉も取っておくか? 白菜、葱、椎茸、人参は……甘い金時人参にして、臭み取り用にささがき牛蒡、豆腐、茸類。あ、薫餅入り巾着好きだよな……こんなもんか」
 いつもの四人組は智美と料理上手なあやかと薫主導で具材選択をしていく。
「あら? うどんは最後に入れるんじゃないのですか?」
 鹿時が肉、白菜、豆腐、しらたき、うどん、と選んで手にするとエスカが不思議そうに問う。
「意外と最初から入ってる所もあるらしいぜ! だから入れる!」
「地方に寄って入れる具材や味付けも違うみたいだからな」
 ふんっと胸を張る鹿時の言葉に久朗が成程、と頷いた。
「俺さ、今回やってみたいことがあるんだが……」
「何でしょうか?」
「これだけ大きい鍋……しかも鍋汁追加可ってことは……」
 そう言い出したのはファルク。茨稀は不思議そうにファルクを眺めるが、ファルクは具材を運んできた店員を捕まえ、チゲ鍋自体を3種類位の鍋に分けられないか、と交渉する。個人用の小さめの鍋を二つ持ってきてくれることになった。
「では炉威、早う鍋をこしらえるのじゃ!」
「言ってないで自分で……は、するな。絶対するな」
 一番端、松の間付近でセラが座ったまま炉威に催促する。反射的に返しかけて炉威は過去セラが作った摩訶不思議で壊滅的なモノを思い出しすぐに言い直す。
 セラに料理に関する事はさせない。絶対させない。大事な事だから二度心の中で唱える炉威。
「我の料理の腕捌きが見たいなら、そう素直に言うと良いのじゃ」
「逆だよ。お前さんの料理の腕は十二分に知ってるからね」
(料理音痴超えてる腕前だからねぇ。料理は楽しく食べないと、食べて貰わないと、作った意味が無いと言うモノだしね)
 炉威の心内など露知らずならばやろう、と手を伸ばすセラをしっかりと止めながら炉威は美味しい鍋にしよう、と誓った。
「ま、取り合えず具を見繕うか。お前さん、希望はあるかね?」
「そうじゃのう……海鮮が良いの!」
 廊下の食材を見ながら炉威はセラにチョイスを任せる。鱈を手に取るサラ。鍋物としては鉄板だろう。問題ない筈だ。一方、炉威は豆腐を手に取る。その横に動かない颯佐を残して新爲も食材を取りに来ていた。
 ちなみにイカ墨鍋については流石の米衛門も
「流石にイカ墨味ってのは食った事無いんで合うんが分からんスけど、他に経験者が居るかもしんね。冒険は人生のスパイスッスよ!」
 と、言い切っていた。つまり、イカ墨味の経験者はいない、ということである。
「然しイカ墨……と言うか、真っ黒な出汁の鍋と言うのも珍しいね」
 食材を持ち帰り改めて黒々とした出汁を眺め炉威は呟いた。彼も初めての経験である。
(何が合うかは分からんが、興味があるし何の食材が合うかこの機会に探るのも良いね)
 そう思いながら鍋の中に自分とセラ、新爲が持ってきた食材を入れ始めた。


 それぞれが選んできた食材をコトコトと煮込む。鍋からは湯気があがり美味しそうな匂いが部屋に満ちていた。
「色んた人がどんた具材入れるかっての見て楽しむのも良いッス、鍋は良いもんス」
 鰹出汁鍋は選択者が多かった為、鍋が一つ増えている。米衛門は楽しそうにそれぞれにぎっしり詰まった具材を眺めている。
 最初に手を付けたのはヴァイオレットだった。やはり牛肉などは火の通りが早い。肉を取り皿にこんもり盛る。相方のノエルは鰹出汁の鍋の方に座っていた。
「餅巾はぐったぐたにならね様に注意ッス」
 といいながら米衛門が餅巾着を取り皿に取る。いい具合に中の餅がとろけているがうっかり齧り付くと熱さで火傷しかねないのでそのことにも注意が必要だ。
 千颯は最初に烏兎姫の分の野菜や肉を取り皿に盛ってあげる。まだ烏兎姫の存在には困惑気味であり、どう接していいのか彼は迷っていた。距離感が掴めていないモノの、嫌いというわけではない。むしろつい甘やかしてしまう。
 エスカが鹿時の分まで丁寧に盛り、お互いの前に一つずつ置く。そして手を合わせ。
「さぁロック君、いただきますをしましょう。皆さんもせっかくですから、ぜひ」
 まずは鹿時を見て、それからまだ誰も箸をつけてないのを見るとエスカは周りに声を掛け一緒にやらないか、と誘った。米衛門、千颯とムードメーカーが賛同を示し、全員で一斉にやることにする。
「それでは……いただきます」
「いただきまーす!」
 掛け声をかけて、食事を始める際の日本語の挨拶を行う。鍋に炬燵、いただきます。とても相応しい光景だ。
 鰹出汁、チゲ、とそれぞれが箸をつける中、イカ墨鍋では、その黒さに一口目を戸惑う新爲の姿があった。
「い、イカ墨のお鍋、初めて見ました……っ! 颯佐お兄ちゃんは普通に食べてますけど、ニッタはその、とても勇気が……!」
「……お前が来たいと言ったんだろう」
 どの鍋も別に食えれば良い、と最初に手を付け黙々と食べ続ける颯佐に新爲は鍋と颯佐を見比べる。
「大丈夫じゃ、味は良いぞ!」
 颯佐に続いて食べ始めたセラが促すように声を掛けた。勇気を振り絞り新爲は無難そうな豆腐を口に運ぶ。イタリアン風味でありながら海鮮の味が調和しまろやかでイカ墨の臭みを感じさせない。
「……味は美味しい、ですね……んん、最初食べるまでが問題ですっ」
 想像していた味とは違い案外美味な味わいにほっ、と胸を撫で下ろす新爲。
「な、茨稀……辛さ調整とか任せていいか?」
「……ええ、良いですけど」
 小さめの鍋にチゲ鍋の汁を映して不穏なことをしているファルクと茨稀。結果、1番辛い鍋の毒々しいまでの赤さに頼んだファルクが引き気味になった。
「……これが一番辛い筈ですが……まだ甘いでしょうか」
 味を見ながら茨稀がまだ足りないかな、という顔をする。しかし、その匂いも既に刺激臭が漂っており明らかに普通の人が食べる色ではない。
「辛ぇのは味が曖昧になっちまうが嫌いじゃねェんだよなぁ」
 その様子を横で見ていたスノーがふと零す。
「好んでは食わねべ?」
「ピリッとするのはやっぱり苦手に変わりねーからな!」
 米衛門が問いかけると笑いながら答えるスノー。そして鰹出汁のしみ込んだ白菜と鶏もも肉を同時に口に運ぶ。じんわりと鶏肉の旨味が広がり白菜から溢れる鰹汁と口の中で絡んだ。
 皆が美味しそうに鍋を食べているのを眺めてセラフィナはきょろきょろ見渡しながらヒヨコ柄のメモ帳になにやら書き込んでいる。今回はうんとお鍋を楽しむのと料理スキル向上の為の勉強も兼ねているのだ。セラフィナは今まで自分の作った料理で人を笑顔にさせれた事が無い。“美味しい”とは何か、を知りたかった。
「皆さん美味しそうに食べてますね! 僕もこんな風に人を笑顔に出来るものが作れるようになりたいです……!」
 部屋の温度は低めに設定されている。アツアツの鍋は美味しく体の芯まで温まるようだ。もちろん、自然の皆の顔には笑みが零れる。その様子にセラフィナはメモを取りながら意気込みを口に出す。久朗がそんなセラフィナを陰ながら応援するため料理をスマホで撮影していた。レポートに写真も添付すれば充実感が違うだろう。
「人参の飾り切りとか憧れちゃいます!」
 可愛らしい桜型に飾り切りされた人参を摘み上げすごい、と感動を示すセラフィナ。もちろん人参も写真に収めてある。
 鰹出汁の鍋を程よく味見してから、辛いのが苦手なセラフィナはチゲ鍋を避けてイカ墨鍋の方へと移動した。
「それはすごいなー! いつか俺もそれぐらい活躍したいぜ!」
「あらあら、最初の臆病なロック君はどこへやらですね」
 千颯や久朗、と高レベルのエージェント達の活躍談をせがみ、千颯に面白おかしく話してもらい鹿時は入ってくる前のガチガチに緊張していたのはどこへやらすっかり溶け込んでいた。
 そしてエスカが一度廊下に向かい、キノコを持ってくると鹿時の表情は一変。
「何でキノコなんて持ってくるんだよ! 俺は絶対食わないからな!」
「好き嫌いはダメです! 栄養もあるんだから食べないとダメですよ!」
 騒いで絶対食べない! と宣言する鹿時にエスカが幼い子を叱るような口調で鍋にキノコを入れた。この後に起こる攻防戦を誰が予測できただろうか。
 一方、梅の間寄りの一番端に凱達四人が、男性が苦手なあやかを薫と智美が挟み座っている。
 凱は果物などを入れることを心配していたが特にそんなこともなく、平和に鍋パは進んでいく。
「炬燵だし……〆の後に食べるデザートは蜜柑にしようかな」
「……蜜柑鍋はやめましょうね」
「うん、聞いた事はあるけど……やっぱりやる勇気はないもん、あれ」
「〆どうします?雑炊かおうどんか……」
「うーん……どっちにしても卵と葱はあった方が良いよね……寄せ鍋だし……」
「人多いし、最後に汁の味見て、多数決とってから具材取りに来ない?」
 廊下にあった蜜柑を思い出し薫が呟くとあやかがそっ、と止める。そもそもそんな勇気は薫にはなかった。まだ、〆には早いが、平穏無事に終わりそうだ。
「家でやるのだったら……饂飩かなぁ。あったまるし、妹達がお饂飩好きだし。だから僕の家だとお鍋に牛肉良く入れるよね」
「……カレールー入れてカレーうどんとかもやりましたよね」
「あ、あれ。割と妹達には好評だったよね。智美さんの発案だったよね、確か」
 妹たちのことを思い出しながら薫とあやかはまったりと話している。
「牛肉は……そういえばうちでは牛肉はすき焼きになる事多いから鍋に入れるのは珍しいかも」
 と、薫達の会話を聞いて凱がふと自分の家の鍋事情に思いを馳せた。ぶくぶくと泡を吹きだす牛肉を見遣る。
「〆を美味しく食べるには、アクはこまめにとってた方が良いし」
 智美が言いながらアクを掬う。智美とあやかがこまめにやっている為、彼らの鍋は綺麗だった。

 一気に腹の中へと流し込んでいたヴァイオレットがころり、とその場に横になった。
「立派に肥えてしまったもんじゃな……」
「そうか? 腹が出てきたがまだ目標にはほど遠い」
 改めてその巨大に膨れた腹を見てノエルが零す。しかし、ヴァイオレット本人はまだまだ足りない、と言い切った。そして、腹をこなす為にヴァイオレットは少しの仮眠をとる。
「烏兎ちゃんもちゃんと食べてる?」
「食べてるよ。パパがボクの為に取ってくれたんだもんね! パパも食べてる? ボクがパパの分を取ってあげるよ」
 千颯は烏兎姫の様子を伺う。すぐに元気に答え、まだ少し入っている千颯の取り皿に新しい白菜と豚肉、水菜を取ってあげる。
「あー……うん……パパも食べてるよ……?」
 グイグイ来る烏兎姫の対応に戸惑う千颯。しかし、その千颯の様子にはお構いなしに取り皿を持ったまま烏兎姫は豚肉を掬い上げると千颯の口の前に差し出した。
「はい、パパ。あーん!」
「あ……あーん?! えっと……烏兎ちゃん……それここでやるの?」
「ダメ? パパはあーんしてくれないのかな……?」
 困惑しながら一度遠回しに断ろうとする千颯だったが
「えーっと……その…………ダメじゃないけど…………あ……あーん。」
「はい、あーん! ふふパパ大好きだよ」
 結局押し切られた千颯だった。しかし、大好きと言われればやはり悪い気はしないものである。
「嫌だ嫌だ! キノコだけは食べたくない! 無理やり入れても吐き出してやる!」
 そんなほのぼの親子の前の席、いや、前の部屋の柱。そこに十台の少年が抱き着き、無理やりキノコを食べさせようとしたエスカに徹底交戦の構えに入っていた。教育に悪い、と千颯が烏兎姫の視線を遮る。
「ここまで嫌がるロック君は初めてですね。何かトラウマがあるのでしょうか?」
 呟きを零しながらもひっぺ剥がそうと頑張るエスカ。しかし、鹿時はテコでも動かない。
「わかりました、もう諦めますから炬燵に戻りましょう、……ね」
 結局先にエスカの方が根を上げた。キノコダメ、絶対! という鹿時の信念は守られたようだ。
 久朗がその横で米衛門に鍋のアレンジの仕方や他にもおすすめな具材を事細かに聞いている。
「よっぽどでねば合う、持論ッス」
 と、言い切る米衛門。だが、それ以上にきちんと、おすすめな具材やアレンジはしっかりと久朗に教える。そこに起きて鰹出汁鍋に手を出し始めたヴァイオレットが加わった。人付き合いが苦手なのだが根が、陽気なので鍋の話しなとつい混じって自然に盛り上がる。それと同時に鰹出汁鍋に肉類が大量に投下されていた。流石は南米系。お肉大好き。
「こ、このお鍋はどうしたんですか! 焦げてしまったんですか!?」
 一方セラフィナ。イカ墨鍋を見て驚いた顔をしていた。セラや新爲が軽く説明をしてくれる。
「イカ墨……! 未知の食材ですね……!」
 メモをしながら興味津々のセラフィナ。どうぞ、と炉威が新しい取り皿に少しよそってセラフィナに手渡した。
「……この味付け僕好みかもしれません……!」
 食べてみると頬に片手当て美味しそうにするセラフィナ。味オンチではあるが、舌のピントが合ったようだ。
「颯佐くん、ちゃんと食べてますか?」
「……最低限は」
「颯佐くん、いつもそうですっ、今日こそはしっかり食べてもらいますからね!」
 新爲は口数の少ない颯佐の様子を伺いながら小言を零す。そして、セラフィナの行動に新爲も押されて立ち上がり
「他のお鍋も気になりますねっ。出来れば皆さんと沢山お話したいですし……折角なので、頂いてきますっ! 颯佐くんの分もよそってきますね! お鍋コンプリート、ですっ!」
 他の鍋から貰って来よう、と移動を開始する。短い返事だけで見送る颯佐。
 白菜を中心に肉等バランス良く三種の辛さで味わっていたファルクだが、飽きたので豆腐やチーズをプラスする。味の変化をつけ、最後まで美味しく、というアレンジだ。
「折角だ、色んな味を楽しむといいさ。それにバリエーションが有った方が面白いだろう?」
「……いいな。俺は定番レシピそのままで作る人間だから、アレンジが出来る奴は凄いと思う」
 フォルクの言葉に久朗が感心したように言う。
「……チーズ、美味しいですね……」
「! ……茨稀が積極的だと?! 良いことだな」
 久朗と会話をしている途中で茨稀がぽろっと零した一言にすごい勢いで振り返るフォルク。よっぽど意外だったのだろう。
 ちなみにヴァイオレットはいつの間にかイカ墨鍋に挑戦していた。よく食べよく寝る。
「余り寝てしまうと、デブ猫になってしまうぞ」
「健康的に肥えないといけないからな難しい」
 ノエルが再度、忠告をするもふむ、と考えたヴァイオレットの結論は結局もっと肥える方向だった。


 〆の時間がやってきた。鰹出汁は二つあるので一つをご飯、一つをうどん、で両方卵とじ。イカ墨鍋にはパスタ。
 チーズを投入したチゲ鍋はご飯と更にチーズを足しチーズリゾットへと変身。
「辛めのチーズリゾット。どうだ? 気に入ったか?」
「別に。そうですね……美味しいとは思いますが……その辛さが……チーズの所為で辛さが目立たないんです」
「……何だか残念な気がするんですが……俺だけでしょうか」
 チーズリゾットを茨稀に手渡し感想を待ったファルクだったが、その出てきた感想にがっくりと肩を落とす。
 もちろん、全ての〆をすべて掻っ込むのはヴァイオレット。彼女が居れば残ることはないだろう。
「……これなら自宅でも出来そうだな。留守番してるあいつにも何か食べさせてやらないと」
 〆の最中、久朗は色々と聞きメモしたおすすめのアレンジや具材から自宅で出来そうなものにチェックを入れ、家で留守番をしているもう一人の英雄に思いを馳せていた。
 腹も満たされ心も体も暖かくなり、和やかに最後の食事が終ろうとしていた。
 ヴァイオレットが店員に何か掛け合い、茶色の液体の入った小鍋を持ってきてもらう。甘いカカオの香りがふわっと漂った。チョコレートだ。
 その鍋へ果物を入れてチョコレート鍋、もといチョコレートフォンデュを作るヴァイオレット。すぐに烏兎姫がボクも食べたい! と言い出す。先程おなかいっぱい、と烏兎姫が言っていたこともあって千颯は心配そうに入るの? と問いかけた。
「甘いものは別物っていうからね。デザートは特別なんだよ」
 と、答える烏兎姫。彼女の手には既にチョコレートの掛かった苺の刺さったフォークが握られている。最後のデザートに、とチョコレート鍋を楽しむ一同。
 凱のように甘いのが苦手な場合は手を付けなかったが。
 鍋の中身が全て空になる。
 それと同時にすぐに鹿時とエスカはレポートを書き始めた。後日提出、というのは性に合わない。すぐの方が味の感想もぼやけない、と判断したのだろう。ほぼ、同じ内容の二人。しかし、キノコの件だけは違った。
「キノコが全然合わない鍋の素が欲しい。キノコ嫌いなら絶対売れる!」
『キノコが美味しくなるお鍋の素が欲しいです。キノコ嫌いの人でも食べれるように。』
 と、それぞれ真逆のことを書く。どちらも検討の余地はありそうだった。
(腹も満足したし、相性のいい具材も更に分かったし、まあまあの収穫だね)
 余韻に浸りながら空になった鍋を見つめる炉威。
「そろそろ帰るかね」
「む……名残惜しいが…………炬燵は良いのう……」
「そこで暮らすと良いよ。俺は帰るがね」
 立ち上がり帰り炉威が支度を始める中、セラは炬燵の心地よさになかなか動こうとしない。しかし、そのまま出口へ炉威は向かおうとする。
「待たんか炉威! 置いて行くでない!」
「はいはい。然しそんなに炬燵が良ければ家にも取り入れても良いかもね」
「そうか! 炉威、良く言うたぞ! ぬしもたまには良い事も言えるモノじゃの!」
 炉威の提案に瞳を輝かせよく思い付いた、と褒めるセラ。二人は仲良く帰路につく。彼らの家に炬燵が入ったかどうかは、彼らのみが知っている。
「パパありがとうね! 凄く楽しかったんだよ! ボクこんな楽しい鍋パーティーは初めてだよ!」
「烏兎ちゃんが楽しんでくれたなら良かったよ。烏兎ちゃんの喜ぶ顔が見れたならそれだけ俺ちゃんは満足だよ」
 満足げに笑顔を浮かべる烏兎姫に小さく笑みを返す千颯。烏兎姫の我儘を聞くのも悪くないのかもしれない。今回は財布へのダイレクトアタックもないし。まぁ、帰り道は分からないが……。
 さて、と茨稀も帰ろうと立ち上がりかけたところでパタッと卒倒する。普段の許容量を大幅にオーバーしてしまったようだ。
「だあああッ! 茨稀、死ぬなーッ!!!」
「……大袈裟過ぎます……ファルクさん……でも、俺……元気になったら……また此処に来たい……で、す」
「茨稀ーーッ! それは死亡フラグだ……ッ!! ……生きろッ!!!」
 青い顔で意識喪失をした茨稀をがくがく揺さぶるフォルク。もちろん、注目の的だった。
 わいわいと賑やかにしかし、少しずつ部屋からは活気が減って行く。
 帰る、と言い出した颯佐の後に新爲は慌てて続いた。
(……お鍋が食べたかったのも本当ですが……、ニッタは、颯佐くんにお休みを取ってほしかったのと、色んな方と関わってほしかったんです)
 彼の背中を見ながら今回の依頼を受けた本当の理由を心の中で呟く。しかし誓約上、新爲は颯佐の選択に口を出せない。だから、せめてこういう時だけは、と。
(……颯佐くんには内緒ですよ?)
 もう一度、心の中で自分に言い聞かすように呟いて新爲は颯佐の背中を追った。

 提出されたレポートには個性豊かなものがたくさんあった。米衛門は評価と入れてみて相性の良かった具材を重点に、流石は鍋料理が得意なだけはあり的確な意見が書かれていた。出汁の味自体に慣れない人はいたが抵抗を感じる人はいなかった旨、また、鶏ガラの出汁が欲しい旨もあった。
 また、久朗のレポートは性別年齢と使用した具材と自身の所感に加え、セラフィナの各鍋のココが美味しかったポイントのコメント、そして写真が添えられていた。そして最後に何か書いて消された跡が残っていた。
「努力する英雄に恥じぬよう自分も少しでも他者の役に立てられる様に」
 その字を読めたならそう書かれていただろうが、読める者はおらず、書いた本人の心の中にだけ、その言葉は刻まれている。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • 雨に唄えば
    烏兎姫aa0123hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • キノコダメ、絶対!
    神鷹 鹿時aa0178
    人間|17才|男性|命中
  • エージェント
    エスカ・ランセットaa0178hero002
    英雄|16才|女性|バト
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    セラaa0996hero001
    英雄|10才|女性|ソフィ
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 孤高
    黒鳶 颯佐aa4496
    人間|21才|男性|生命
  • 端境の護り手
    新爲aa4496hero002
    英雄|13才|女性|バト
  • ひとひらの想い
    茨稀aa4720
    機械|17才|男性|回避
  • 一つの漂着点を見た者
    ファルクaa4720hero001
    英雄|27才|男性|シャド
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