本部

HOPEカフェはいかが?

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~7人
英雄
7人 / 0~7人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/26 22:44

掲示板

オープニング

●HOPEカフェはいかが?
 暦の上ではこれといった行事のない月だが、だからこそ何かしらやろう、ということにもなりやすい。
 HOPE支部でも、一般の人も自由に支部内を見学できるようなイベントを行うことになっていた。大学でいうオープンキャンパスのようなもので、新たにリンカーとなった者や英雄が気軽にHOPEの内部や空気を感じられ、自然且つ積極的な所属を促進する目的がある。
 飲み物、軽食合わせて五、六種類ほどのメニューだが、値段が手頃なのと所属エージェント達が接客をすることで人気がある。リンカーや英雄達の生の声が聞ける、というところが魅力なのだそうだ。
「今年もカフェをやるので、運営メンバーを募集しています」
 スマートな男性職員が、ビラを手渡しながら魅力的に微笑んだ。
「スタッフといってもウエイター・ウエイトレスだけでなく、厨房担当もあります。清掃はみんなで協力してやることがほとんどですね。朝十時から夕方は四時までを目途に運営していただくので、シフトを組んだほうが身体が楽でしょう。ある程度人数が必要でしょうね」
 店として使う場所は小会議室で、もちろん調理場などはないからカセットコンロなどを持ち込むことになる。調理スペースとお客さんの飲食スペースを区切って使用することになるから、一度に入れるお客さんはせいぜい十人、無理すれば十五人ほどか。
「メニューも限られますね。そんなに手の込んだものは無理です。……ああ、言い忘れていましたが、何を作るかはカフェ運営スタッフが決めていいんですよ。去年は飲み物が珈琲、紅茶、オレンジジュース、軽食がサンドイッチ、おにぎり、それからパンケーキでした。どれもなかなか人気がありましたよ」
 簡易の調理場でも作れるものがベスト、と言うことか。
「食器類、テーブルクロス、それから店内の装飾に使う道具などの備品は、去年までの分があるのである程度なら揃います。もちろん、今年のスタッフのアイディアで自由にしてくださっても大歓迎ですが、あまりやりすぎるとお客さんもびっくりするので、適度にお願いしますね」
 男性職員は、最後にもう一度にっこり微笑んだ。
「楽しいカフェを、期待していますよ」

解説

●目的
 カフェを運営します。文化祭の模擬店のような感じのイメージです。必要な備品はある程度HOPEから貸してもらえますが、さらにアイディアを出してアレンジするのもOKです。
 飲食メニューは五、六種類くらい(軽食、飲み物合わせて)がベストかと思われます。運営スタッフで自由に決めることができます。場所は小会議室を使うので、一度に入れるお客さんは無理して最大十五人ほどと予想されます。調理スペースでは、カセットコンロなどを使用しての調理となります。凝った料理は難しいと思われます。
 運営時間は朝十時から夕方四時までを予定。接客・厨房スタッフそれぞれシフトを組んだほうがよいと思われます。

リプレイ

●前準備
「文化祭みたいでわくわくするかもっ」
 恋迷路 ネリネ(aa1453hero002)は楽しそうだった。散夏 日和(aa1453)の英雄にしてお屋敷で働く現役メイドさんでもある。
「文化祭の様……でも業者を入れたりはしないのでしょう? 私こういうのは疎いですしネリネ、頼りにしていますわよ」
 その日和はおっとりと微笑んだ。
「ぎ、業者……!? 流石日和さん。お嬢様学校とか行ってたんだろうなぁ。はい! 頑張っちゃいますよーっ」
「内装はカフェらしくお洒落にしたいですわね。キャラメルウッドの壁紙で落ち着いた雰囲気に。同色の仕切りで厨房とホールを分けましょう」
「仕切りに100均である造花の蔦とかくっつけたらお洒落っぽい? 入り口横に待ち椅子も用意した方がいいかな」
「白い裾レースのテーブルクロスだけじゃ寂しいかしら」
「テーブルに花を飾ってみたら? 花ならまりあ得意でしょ」
「そうね……小さな硝子の花瓶なら邪魔にもならないと思うし可愛いと思うの」
 月城 万里(aa1667hero001)に促され、桜乃まりあ(aa1667)はテーブルブーケを提案した。家で育てている花も持ってきてパステルカラーをメインに飾付けできるという。
「成程! いいですわね」
「あ、お花飾るならテーブル毎に違うのにしましょう! 席お花で管理すればオーダー管理しやすいと思うし」
 さらに日和とネリネがアイディアを追加した。
「後は制服かなー?」
「お揃いの制服? 簡単にシャツに黒系のパンツやスカート、お揃いのエプロンとかでも」
「家の使用人服でしたら幾らでも貸せましてよ」
「ネリネたんがメイドさんのあれこれを持ってきていて、着ることになったら、あ た し も 着 る 」
 攻めの姿勢を見せたのは風深 櫻子(aa1704)。実はかわいい服が大好きなのだ。
「シンシアもな!!」
「ふ、ふざけるな……っ!!」
 シンシア リリエンソール(aa1704hero001)は逃げの体勢を取った。
 盛り上がる女子達から離れたところで、黙々と内装をがんばっているのはレイ(aa0632)。簡易の壁紙貼替え中に、照明を弄る。会議室の照明はもちろんただの蛍光灯なので、そこにカラーフィルムの中でもセピア系の優しい色合いを貼っていく。灯りというのも重要で、白々とした蛍光灯の光よりも、そういう色彩のほうがぐっとくつろげる雰囲気になる。テーブル装飾等も手伝うが、椅子の背にテーブルクロスと同色のカバーを掛け、剥き出しにしないというちょっとした拘りも粋だ。
「……雰囲気だけでもカフェ、に感じられると良いかも、な」
 いつもの小会議室が、劇的な変化を遂げていく。
「万里万里、この前作ってくれたスコーンはどう? とても美味しかったのよ」
 メニュー決めも進行している。
「確かに作り置きしておいて、温めるだけにしておけば提供もスムーズかな……後はジャムやクロテッドクリームを添えるだけ」
 というわけで、まりあと万里はスコーンを提案した。苺ジャム、ブルーベリー、林檎等のジャムにクロテッドクリームを添えると、けっこう豪華になる。
「ジャムは紅茶に入れて飲んでも美味しいのよね?」
「そう、まりあのお気に入りだね」
「調理は力になれませんので紅茶は一級品を提供しますわ」
 日和が微笑む。
「二時間おき程度で数人ずつ休憩入る事にしましょう」
 朝十時から夕方四時くらいまでなので、人数もいることだしゆったりシフト制にした方が能率が上がるのは確かだ。
 日和、ネリネは接客を担当することにした。
「普段は給仕される側ですから新鮮ですわね」
「明るく笑顔で! 現本職メイド見習いとして頑張りますよー」
「まりあは絶対に接客。それでも心配だけど、厨房よりはマシでしょ」
「あら、万里ったら失礼ね。メイドさんがするようにお給仕をすれば良いのでしょう? お家にいるメイド長を見本にすれば良いのだもの」
 ここにも一人、お嬢様がいた。
「どんくさいし、運動神経無いから……あ、俺はどっちでもいけるから。必要なら接客もするよ」
「不愛想なのに……」
「五月蠅いよ」
 何だかんだで仲良しの二人であった。
「学園祭のノリ思い出したわ。おらシンシア、手伝え」
櫻子はプロの料理人なので、厨房担当である。
「シンシア、あんたもよ」
「料理など下男にでも任せておけと毎回毎回言っているだろうが」
「うるさい手伝え」
 シンシアの認識は現代とも櫻子ともかなり異なるので、なかなかすりあわせが難しい。
「これくらいできなきゃ嫁にも行けないわよ」
「お前が言うな」
 別に喧嘩をするわけではなく、二人にとってはよくあるやりとりにはなってきているようだ。

●カフェで憩いのひとときを
「この辺り、が良い……か」
 HOPE支部一般公開日当日、そろそろ人が多くなってきた時間帯。
 レイは、HOPEの広場の一角に小さな黒板を設置した。カフェの告知が、ポップな自体とわかりやすい内容で書き込まれている。誰が描いたのか、可愛いチョークアートも人目を惹く。
 利潤追求ではなく、あくまでも楽しんでもらうためのカフェ。それでもやはり、一人でも多くの人に立ち寄ってもらいたい。そのつもりでみんな準備も頑張ってきた。もちろんレイもその一人だ。
 前日まで、彼は店内で流すBGM製作に打ち込んできた。バンドをやっているので、音楽には拘りがある。英雄のカール シェーンハイド(aa0632hero001)は今日は調理担当だが、彼と一緒に打ち合わせをして曲を決めた。そして自身のGt.とカールのBa.でカフェらしいお洒落な曲を録音、聴き馴染が良く明るめの曲で、雰囲気的には風を感じるような雰囲気の曲ができあがった。
 会議室と言う場所を一瞬でも忘れられるような曲にすることを心がけ、但し食事の邪魔をするようなものはNGというコンセプトだ。他のメンバーにも好評だった。
 そして今彼は、自ら楽器を手にHOPE広場にいる。彼流の呼び込みをするためだ。
 ギターをかき鳴らす。行き交う人々が足を止め、一斉に彼に注目した。

 虚勢も過ぎれば滑稽
 偶には肩の力、抜いてみな
 誰も笑わない
 誰も咎めない
 それは明日への力
 虚勢も過ぎればヘヴィ
 偶には肩の力、抜きに来な

 一瞬何事かと驚いていた人々も、レイの歌とカフェの告知を見て得心顔になる。癒やし系だがノリのいいメロディは、聴いている人の気持ちもわくわくさせる。
 途中でカフェのある方向へ向かっていく人、最後まで歌を聴いていく人様々だったが、レイの呼び込みは大成功だったようだ。
 歌い終えた彼は、人々に一礼しつつ動きを見守る。反応を見る限り、カフェに興味を持ってくれた人が多いようだ。これから忙しくなりそうだ。
 ある程度のところでこちらは切り上げて、接客の手伝いが必要かどうか様子を見に行った方がいいだろう。

●くつろぎの空間
 そこはいつもは、小会議室としてHOPE支部内の様々な用途に利用される部屋だ。しかし今日は、憩いのカフェとして変身を遂げている。
 鶏冠井 玉子(aa0798)は、こういう料理関連の催しの際に腕を振るうエージェントの一人だ。オーロックス(aa0798hero001)ともども、調理を担当する。カフェの基本マニュアルも、実は玉子が作ってメンバーに配っていた。玉子の料理の腕は相当なものだが、今回は一部の技術を持った人間のみが対応可能なことをするのではなく、手が足りなければ誰もがヘルプに入ることができるというのを目指した。そうすることで誰かが休憩で抜けてもカフェの運営に支障を出さないようにし、且つ速やかにお客を回転させることも可能になる。
 今回のカフェを利用する者にとって、この場所は一息つくためのスペースであり、一緒に見学にやってきた友人知人と談笑をするための空間ということになる。店内スペースと客の回転率を考えると、メニューで悩ませるのはあまり好ましくないと判断した。店の個性を極力排除し、誰もが知っている定番メニューのみで構成することで、学食じみた安心感と、入りやすい雰囲気を与えることを優先する方向性だ。
 という中で玉子がこだわったのは、コーヒーだ。
「ベースはモカ、そこにタンザニアの浅炒りとブラジルの深炒りを合わせた、軽快に町を駆け抜けてゆくような飲み心地のコーヒーを作ってみたい」
 カフェというからには、やはりコーヒーだ。名付けてHOPEブレンド。お客にも好評だった。配合を決めれば、あとはドリップの際に気をつけるポイントさえ理解すれば大丈夫なので、他のメンバーもそれほど気負わずに積極的にコーヒーを淹れていく。
「料理は突き詰めれば突き詰める程に、より独創的なものをと考えてしまうものだ。誰も到達したことのない境地を目指し、未だかつてない一皿をと願ってしまう。それは食に携わる者の逃れられぬ性とも言えるだろう。であればこそ、自戒が必要なのだ。ただの味自慢、腕自慢に走らぬように。その視線の先には常に食べる者が映っているように」
 新たな一杯を注ぎながら、玉子は己に言い聞かせるように呟いた。それをオーロックスが阿吽の呼吸で盆に載せ、接客担当者に渡した。
「ほんと、レイは何を作っても張り合いがなくてさ」
 調理担当のカールは、そばにいるメンバーの誰にともなく話しかけている。話題は、相方とのやりとりだ。
「カフェ……か。確かに身近な存在にはなる、か」
「ちょ、レイ! これって、超オレの出番じゃね?」
「そうかもな……」
「レイに作っても作り甲斐が無いんだもんなぁ……このサプリ魔人め……」
 というやりとりのあと、無言で拳骨をくらったというエピソードを、楽しげに話している。それでも手は休まず素早く動いているのだから、まあ問題はない。
 カールが担当するのはお菓子類。事前にワッフルを大量に焼いて持ち込み、その他ティラミスを作ることにした。調理スペースが限られ、本格的な器具などもないので、各自手間がかかりそうな下準備や下ごしらえは可能な限りここではしないようにしようということになったためだ。ティラミスは冷蔵庫で冷やして作るので、大き目の調理用バットで一気に十数人分作成することも可能だ。
 ワッフルには、数種類のジャムを添える。ジャムは、まりあと万里が提案したスコーンにも使うので、かなりバリエーションが豊富になったのだ。
「まりあ、その髪の毛纏めるからね」
 その万里は隅っこの方で、接客担当のまりあの髪の毛を器用にまとめている。
 普段食べることのない珍しいジャムもあり、時折お客が上げる歓声が調理場まで聞こえてくる。
「わ! それも美味しそーっ!!」
 リーヴスラシル(aa0873hero001)が作っている料理を見て、カールは歓声を上げた。何と、ずんだ餅なのである。なんでも東北地方で覚えてきたそうだから、本格的だ。ちゃんと茹でた豆の薄皮まで取る手間暇も惜しまない。そうしないと、ずんだ餡が綺麗な緑色にならないのだ。
 今日は相方の月鏡 由利菜(aa0873)がアルバイト先の宣伝を頼まれたため、そこの制服を着用しているラシルだが、けっこう身体の線を強調するデザインなので大変セクシーなことになっている。
「体型的に胸がきつくてな……私はこの方が着やすい」
 実は可愛くセクシーなベルカナの制服を着るのが密かに楽しみだったラシルだった。
「オレんトコにお嫁サンに来ない?」
 セクハラないならない程度のボディタッチを交えてカールがにっこり言い放ったが、ラシルは華麗にそれをスルーした。
「い、いつ着てもこの胸の開きが恥ずかしいですけど、喜ぶお客様がいるなら……」
 一方由利菜は、ベルカナの制服を着てウェイトレスをしていた。いつも世話になっているバイト先のためとはいえ、なかなかセクシー制服には慣れない。
 店内もベルカナ(ベオク)のルーンをあしらったエンブレムの旗や壁で。デコレーションを彩っている。北欧出身のエレオノール・ベルマン(aa4712)のアイディアで北欧っぽい色合いの装飾アクセントや、制服に民族衣装っぽく別の色の帯をたらすという工夫もされているので、おしゃれな北欧風カフェの雰囲気満載になった。
 まだまだ、お客が増えそうな気配である。

●カフェもたけなわ
「大丈夫です、ああ見えても気さくですから。それに色々な服を着てみたがったりして、可愛らしいんですよ?」
「……フォローしてくれるのはいいが、後半は余計だぞ」
 凛としたラシルに近寄りがたさを感じているまりあに由利菜が言ったのを、ラシルは厨房から料理と渡すのと一緒に突っ込んだ。そのやりとりに、まりあはくすっと笑う。
 緊張が解けたようだ。由利菜は安心して、彼女にバイト経験を生かしたアドバイスをしつつ配膳とオーダー取りを行う。日頃の慣れのおかげで、かなりてきぱきとして手際がいい。
 だが、慣れは時にハプニングを呼ぶ。
「きゃっ!」
 お客に運ぼうとしていた水を、転んでひっくり返してしまったのだ。幸いお客や料理に被害はなかったが、制服がびしょびしょに濡れてしまう。
「着替えた方がいいね」
駆けつけたカールに促され、由利菜はみんなと同じ制服に着替えに行く。ラシルも合わせて、衣装を変えることになった。
 ベルカナ制服は可愛いし着慣れているが、共同制服はシンプルな分動きやすさがアップした。由利菜は張り切って仕事を再開する。
「わっちはアレ食べたい」
「今日は接客するほうですよ」
「わっちの可愛さにかかれば接客など」
 フェンリル(aa4712hero001)は、接客を頑張っている。今運んでいるのは、エレオノールが発案したオープンサンドだ。北欧は朝と昼は火をつかわずにオープンサンドなどで手ぬきをして夜に火を通したまともな夕食を食べる人も結構いるので、簡易サンドイッチのバリエーションが発達しているらしい。
 黒パンやサフラン入りのパンを普段の自分の入手ルートから少し多めに買い、そこにクリスマス用の本格ハムも一塊とりよせて準備をした。モノの質はよくても現場作業は薄く切ってのせるだけなのでカフェに都合がいいと思うという提案は、全員一致で受け入れられた。
 エレオノールが作ったオープンサンドの作り方の手順は、実にシンプルだった。パンにハム、チーズなどをのせ、あとは香辛料やハーブやマヨネーズで味付けをすませる。作れるならソースも一種類だけ作っておいて多くの料理に使いまわす。ジャガイモをハーブで茹でて切ったものにも同じソースをかけて出してもよい、というものだ。お客には、珍しいジャガイモの料理が好評なようだ。
 他に、デザートとしてコケモモ、スグリ、ブルーベリー、ラズベリーなどのベリー類を用意した。最初からジャムを持ち込んでただ皿にのせるだけでもいいし、市販のアイスクリームにそえる程度でいいし、パンケーキは単純で簡単にできるのでそれに足して一品としてもよいという、小回りが利くところが採用された。幸いジャムはたくさんあるので、デザートにも有効活用されている。
 エレオノール個人としては、本当はミルクやチーズとベリーを煮込む料理をおすすめしたかったのだが、現場のリソースがたりないしカフェにあまり手間をかけすぎる料理は厨房の作業効率が悪いのでボツになった。
「なぜだ、なぜサクラにこき使われねばならんのだ。おかしいだろう。剣士なら切るのは得意だろうだと? 無茶苦茶もいいところだ。……おい、聞いているのか!!」
 シンシアは、櫻子の指示で調理しながらも文句が止まらない。
 だから、櫻子が接近しているのに気づかなかったのだ。
 料理ができあがった一瞬の隙を突き、櫻子はシンシアを羽交い締めにした。もがくシンシアだが、料理の皿をひっくり返すことをつい恐れてうまく反撃ができない。そこが敗因となった。
 しばらくの格闘の後、シンシアはふるふると震えていた。
「ふ、ふざけるな……っ!! なんでこんなっ……!!」
 可愛いメイド服を着せられてしまったという事実に。
「……くっ、殺せっ!!」
 もちろん、華麗にスルーされた。
 さて、シフトは二時間くらいずつの入れ替わりで、日和とネリネが接客担当として店内に入る。
「……ふふっどうです?似合いますかしら!」
 日和は、メイド服でじゃじゃーんとポーズを決める。
「実は一度着てみたかったんですのよね」
「わぁ! 日和さんメイド服! 可愛いです~」
 ネリネが手を叩き、きゃっきゃと盛り上がる二人。
 だがそこはそれとして、仕事はきちんとこなす。
「御機嫌よう、何名様でいらっしゃいます? ……ああ、御機嫌ようではなくいらっしゃいませ、ですわね。中々難しいですわ」
 立ち振る舞いと言葉遣いで微妙に店内を格調高い雰囲気にしつつ接客する日和と、
「いらっしゃいませー!」
 ほわわ~とした笑顔で元気よくお客に接するネリネ。好対照だった。
 今回のカフェは、ただの出し物ではない。まだ所属していないリンカーや英雄達がHOPEに入りやすくなるように、現役エージェント達の姿や経験を知ってもらうのが大きな目的だ。
「私まだ英雄になったばっかりだけど……」
 ネリネは、その一環としてお客であるリンカー達に自分のことを話す。
「戦うお仕事は日和さんの方が詳しいかな。でもこういう戦わないお仕事もあるし、皆さんと一緒に頑張っていけたらなって思います」
 率直で気負うところのない彼女の話は、どことなく不安そうにしていた人の心も解したようだ。店を出るときには屈託のない笑顔になっている者も少なくない。
 そうこうしているうちに、カフェの終了時間が近づいてきた。ラストオーダーは余裕を持って設定しているが、外で待っているお客はそれまでに店に入れそうにない。このままでは、ただ待たせただけになってしまいそうだった。
「どうしましょうか?」
 片付けられるものはラシルと協力して片付けながら、由利菜が心配そうに言う。
「事情を説明して、飲み物とか無料で提供するとか? それくらいなら間に合いそう」
 櫻子が提案する。
「じゃあそれで……って、そうだ、いいこと考えた」
 そしてカールが出したアイディアを聞いて、彼らは一斉に行動に移った。
 廊下と繋がる出入り口を、大きく開け放す。部屋の中の空いたスペースに、フルートを手にしてにっこり笑って立っているのは、日和。その少し後ろには、ギターを構えたレイと、ベースを調整するカール。
 まずは、ラストオーダーの時間になってしまったことのお詫びと、ドリンクの無料サービスの旨をお知らせする。落胆の声もちらほら上がったが、クレームにならなかったのは幸いだった。いいお客さんばかりでよかった。
「それでは、生演奏をお楽しみいただきながら、ドリンクをお召し上がりください」
 日和が、フルートを吹き始めた。ちなみに、ネリネが急いで屋敷に連絡して、持ってきてもらった。
 カールとレイが、フルートの主旋律を引き立てるように伴奏する。打ち合わせの時間はあまりなかったが、二人ともバンド経験者だ。突然のセッションくらい何てことはない。
 美しい演奏に酔いしれるお客達に、他のメンバーがドリンクを配って回る。それもまた、人々を満足させた。
 用意した料理も、ほぼすべて完売。のちにアンケートを採ったところ、HOPEの現役エージェントといい話ができたという感想もたくさんあって、大変評判がよかったらしい。
 こうしてHOPEカフェも含めた一般観覧日は、誰にとっても有意義な一日で終わったのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • Sound Holic
    レイaa0632
  • あたしがロリ少女だ!
    風深 櫻子aa1704

重体一覧

参加者

  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
    人間|24才|女性|命中
  • メイドは任せろ
    恋迷路 ネリネaa1453hero002
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • 花の妖精
    桜乃まりあaa1667
    人間|23才|女性|生命
  • エージェント
    月城 万里aa1667hero001
    英雄|15才|男性|バト
  • あたしがロリ少女だ!
    風深 櫻子aa1704
    人間|28才|女性|命中
  • メイド騎士
    シンシア リリエンソールaa1704hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命
  • エージェント
    フェンリルaa4712hero001
    英雄|16才|女性|シャド
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