本部

機械のものども

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
4人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/21 11:13

掲示板

オープニング

「One, Two, Three, Four......」
「Loud more! Hey, One more set, Go!」
「One, Two, Three, Four......」
「Count it, Count it......」

 ここは何の変哲もないエクササイズ教室。筋骨隆々の肉体を持つインストラクターが、大勢の人々を前に叫びながらその肉体を動かしている。汗だくになった人々も、必死になって彼の動きにくらいついていた。
 そんな中に一人の少女が混じっていた。いつものスーツは脱ぎ捨て、Tシャツにハーフパンツと、かなり身軽な――そして彼女のスタイルの貧相さが目立つ格好をしていた。彼女は汗一つかかず、激しいエクササイズについて行く。当然だ。共鳴していないとはいえ、彼女はリンカーなのだから。
 ところで、彼女がこうして腕をぐるぐるしたり拳を繰り出したり身体を捻って腹筋を鍛えたりしているのは何故かというと、身体を鍛えたいと思ったから……ではない。そこには海より深く山より高い理由があった。

『The Evangerical of Machina』、通称マキナ教団。研究室に渦巻く狂気の断片に触れながら、その名前をとあるエージェント達が目にした。
 それからまだ間もない中、彼女は再び単身動き出す。そして一人夜の繁華街へ飛び込んで情報を掻き集め、ついにこのエクササイズ教室を突き止めたのである。

 このエクササイズ教室は汗臭い以外にも何かある。そう嗅ぎ付けた澪河 青藍(az0063)は、エクササイズ教室の体験入学者として内部に潜り込んだのである。相方のエイブラハム・シェリング(az0063hero001)は向かいのカフェで遅まきのティータイム。軍を思わせる集団体操など御免との事だった。

「今日はこれまでとする。常に死力を振り絞れ。そうすれば肉体は必ず応える」
「Yes, Sir!」
「よし、解散!」

 とにかく暑苦しいやり取りが終わり、エクササイズを続けてへとへとになった人々はバラバラに散っていく。涼しい顔でエクササイズをこなしきった青藍は、スポーツドリンクを呷りながらそんな周囲の状況を抜かりなく見渡していた。
「(この人達は……特に怪しい雰囲気もないか……)」
 生徒達はとりあえず激しい運動のためにくたばったようで、とにかくスポーツドリンクを飲んでいる者もいれば、とにかく床に倒れ伏している者もいる。もちろん、見た目が只の人だからと言って油断できないのは先の事件で狂った研究者たちの話を聞いて理解していたが。
「セーラ、と言ったか? ちょっと来てくれ」
 そんな事を考えていると、青藍はいきなりインストラクターに話しかけられた。
「はい、何でしょうか」
「ずっと見ていたが、見かけによらず随分と鍛えているようだな。俺のプログラムに何の音も上げずについてくる少女がいるなんて信じられない」
「いやまあ、結構武者修行生活は長いので」
「そうだったのか。ところでセーラ。君は自分の肉体に不自由を感じた事はないか」
「はい?」
 青藍は眉間にしわが寄りそうなところをぐっとこらえた。やっぱり来た。彼女は心の奥底で呟く。
「例えばだ。もっと速く走る事が出来たら、もっとパワーがあれば、とか、そういった事だ」
「ふーむ……そうですねえ。あるっちゃあるとも言えますが」
 彼女は適度に相槌を打つ。するとインストラクターは、目をきらりと輝かせた。
「そうか。それは良かった。私は今特別なインストラクションを用意している。トップアスリートにも効き目がある、秘密の肉体改造計画だ」
「(文字通り、って奴かな……)まあ、興味はありますね。良く動けるに越したことはない仕事なので……」
「そうか。ならば今すぐ来てもらえないか。これから説明会の時間なんだ。このビルの地下の会議室で行っている」
「い、今からですか!?」
 青藍は逡巡した。確かにここは大チャンスだ。しかしここで突っ込んでいいものか。今まで一人でやってこれたが、それは運が良かっただけだ。今やHOPEのエージェント、危険を侵せば組織にも迷惑がかかる……
 やがて青藍は露骨に肩を落とし、大きく首を振った。
「いいえ、遠慮しておきます。ちょっとこれから外せない用があるので……」
「用? それなら仕方ない。だが、肉体改造計画は常に君を待っている。興味があるなら必ず来たまえ。君の幸運のためになる」
「ありがとうございます。そのうちその言葉に甘えさせていただきますね」
 青藍はぺこりと頭を下げると、とっとと更衣室の方へと引っ込んでいった。

 コートを着てフェドーラを被りながら青藍はビルの外へと出る。向かいのカフェでは、相も変わらず新聞を読み、紅茶を嗜むエイブの姿があった。青藍は溜め息をつき、彼の方へと駆け寄っていく。
「終わりましたよ。まあまあ黒いですね」
『まあまあなどというものではない。先程、右腕を機械に挿げ替えた奴らがこそこそとビルの裏口から中へと入っていったぞ』
「本当ですか!?」
『ああ。……近頃お前は私を見くびっているようだが、私もする仕事はする』
 小言じみた文句を呟き、エイブは静かに立ち上がる。丸めた新聞で、ビルの影に隠れた路地の方を差した。
『あの辺りだ。行くぞ、セーラ』
「ま、待ってくださいよ。この話はいったんHOPEの方に持って行って、援護を募ります」
『何?』
 エイブの顔がにわかに渋くなった。
『また組織か。腑抜けたぞお前は。この程度の仕事も独りでこなさんようになるとは』
「いやいやいや。色々ヤバい組織だってことは前回で分かった事でしょう。アイアンパンク技術で、何か神の合一とか囁くどこだかのカルト組織みたいなこと言い出してる組織だって。そんな所に単身で突っ込むのは無謀ですよ、流石に。猫の手だって借りて損はないんです。行きますよ、エイブさん」
『……お前がそういうのならば、逆らう道理はない』
 エイブは肩を落とし、筒状に丸めた新聞を投げて屑籠に放り込む。

 機械へ身を挿げ替えた者達との争いが、今始まろうとしていた……

解説

メイン
 澪河青藍を援護し、マキナ教団のアジトらしき場所を捜索し、潜んでいた機械のものどもを全滅させる。
サブ1
 教団員に一度も見つかる事無くメインを達成する。
サブ2
 教団員のおぞましい行為を全て目の当たりにする。

登場NPC
澪河青藍
 『マキナ教団』について単身調査した結果、あるエクササイズ教室が怪しいと見抜く。しかし、そのアジトに単身で乗り込むのは危険と考え、HOPEに依頼を出してきた。

以下、PC、PL情報分けます

登場敵
謎のアイアンパンク
PC:この街の研究所が開発した量産型義手に右腕を換装した集団。エクササイズ教室があるビルの地下に設けられた広い空間で何かしている。
PL:マキナ教団員。アジトで怪しい儀式を執り行っている。
機械のものども
PC:生身と機械が入り混じったような姿をした異形の存在。正体不明。全5体。
PL:従魔に侵され機械と肉体が融合してしまった哀れな教団員。戦闘力はミーレス級~デクリオ級。攻撃は肉弾戦のみ。脳筋。従魔が憑いている右腕を破壊すれば解放できる。

フィールド
B1F
PC:エクササイズ教室のあるビルの地下だ。見たところは倉庫のようだが……
PL:アイアンパンクを尾行する事で、さらなる地下へ続く隠し通路を発見できる。また、倉庫の一つで入信者の勧誘中。

B2F
PC:隠し通路を抜けると、そこは怪しげな研究室のような場所だ。
PL:一室にマキナ教団員が集まり、民衆救済の計画を話し合っている。機械のものどもが二体徘徊。

B3F
PC:うすら寒い空間だ。心なしか血と薬品の臭いがするような……?
PL:手術室で教団員のアイアンパンク改造儀式を行っている。機械のものどもが三体徘徊。

Tips
・澪河青藍は人手が足りない場合、頼めばサポートしてくれる。頼まない場合はPCの活躍を阻害しない程度に随行。
・教団員に敵認定されないように。場合によっては約30人が一斉に機械のものどもと変身する可能性有。

リプレイ

●いざ中へ

――会議室――

「こ、こんな感じですが、大丈夫ですかね?」
 青藍は共鳴した姿でヴァイオレット メタボリック(aa0584)の前に立つ。普段の彼女より身長は20センチほども伸び、伊達眼鏡も合わせていかにもクールで理知的な雰囲気だ。
「ああ。それでいい。いかにも秘書の雰囲気だ」
『おぬしもおぬしでいかにも金満な雰囲気じゃのう』
 ノエル メイフィールド(aa0584hero001)は相棒の頭のてっぺんから爪先まで見下ろして肩を竦める。恰幅の良いその身体を紫色のドレスで包み込み、地の肌がろくに見えないほどの厚化粧だ。
「そうだ。その上で図々しく厚かましい。今日の私はいかにも面倒な女だ」
「と、ヴァイオレットが一階に潜入して引っ掻き回している間に、わらわ達で二階三階と探ればいいわけじゃな」
 最初こそ真面目くさって相槌打っていたカグヤ・アトラクア(aa0535)だが、やがてこらえきれなくなって笑い出す。
「ふふふ。わらわは三階を重点的に行きたいところじゃのう。この前のこともあるしの。奴らの技術、根こそぎ奪ってやるのじゃ」
『自分が正しいと思って何でもやる分、狂信者ってのは厄介なんだけど。やっぱりカグヤもカグヤだね……』
 相方のクー・ナンナ(aa0535hero001)は溜め息だ。そんなやりとりを苦笑気味で眺めていた桜小路 國光(aa4046)は、カグヤの悪だくみが終わるのを待って彼女に話しかける。
「カグヤさん。オレも地下三階に回ろうと思います。この事件とは何だかんだと付き合いが長いんで。どうせなら全部見てやりたいんです」
「そうか。ならわらわと共に行くとしよう」
『よろしくお願いします。カグヤさん』
 メテオバイザー(aa4046hero001)はぺこりとカグヤに頭を下げる。
『それにしても異様なのです……。同じにできないものを、同じになんて』
「流行りものは被りやすいけど、身体のパーツはね」
 街に潜む狂気をどっさり見届けてきた國光は、ただただ呆れるばかりだった。その呟きを横で聞いていた鹿島 和馬(aa3414)も顔を顰める。
「そこまでさせんのがカルトの力か。面倒臭ぇなあ」
『かと言って、放ってもおけないからね』
 俺氏(aa3414hero001)は腕組みしたままうんうんと頷く。全身白装束、どんな顔をしているかとんとわからない。その装束を、胡 佩芳(aa4503)は至近距離でじっと眺めまわす。
「……カルトも少しは勉強してきました。貴方はKKの加盟者ですか」
『なんですと!? 違うよ。俺氏は俺氏。英雄的な白の牡鹿だったけどちょっと角に矢を受けてこのザマになったの』
「なるほど。よくわかりません」
 突然の質問にわざとらしく驚く俺氏。佩芳はマイペースにゆったりと頷き、青藍の方に向き直った。
「時に青藍さん。佩芳は地下一階を探索してみようと思います。蟻や蜂は特定のフェロモンを受け取り行動を決定します。このカルト集団も、同じようにフェロモンなどで洗脳されている可能性はあるはずです」
「なるほど……フェロモンかはともかく、調べてみる価値はあるかもしれませんね」
「一階に三人、三階に二人。という事は、美空は鹿島さんと二階を調べるべきでありますね」
 黙々と大人達の話を聞いていた美空(aa4136)が急に声を張り上げる。和馬は思わず尻尾をふわりと動かす。
「ウェ? がきんちょの世話かよ。シャドウルーカーらしく、こっそり調査したかったんだが」
「美空はがきんちょではないであります。きちんと役に立つであります」
『いいんでない? 荒事に関わるわけでもないんだし』
「はいはい。おけおけ」
「では行くであります! 澪河青藍さんは美空たちに相談して正解なのであります。一人よりも助け合う方がより実力を発揮できるのでありますからね」
 美空は丸い目を見張って青藍を見上げる。青藍もまた目を丸くして――小さくはにかんだ。
「うん。その通りね」

●腐る身体を捨て去れ

――B1F――

「何と醜い肉体! 吐き気が来るぞ!」
 倉庫を改装して作られた一室の中で、男は派手に落胆の態度をとる。よほどメタのなりが気に喰わないらしい。しかしそれは彼女も織り込み済み、きっぱりと開き直る。
「何を言っているの、だから肉体改造プログラムに参加したくて来たのよ。健康のため、何よりも永遠の美のためにね!」
『すまんな。うちの社長はいつもこんな感じじゃ』
「申し訳ありません」
 ノエルと青藍が肩を竦める。男は腕組みをしたまま三人組を眺めていたが、やがて得意げな笑みを浮かべて周囲の人々を見渡す。
「だが、問題はない! この自堕落の固まりのような身体から魂を解放するための手段はしっかりと存在する! やや遺憾ではあるが、この女性は既にその手段を知っている」
 エクササイズ教室に参加していたと思しき人々が、男の言葉を聞いて首を傾げる。
「棄て去ればよいのだ。この身体を」

「ふむ……少なくともフェロモンなどを発して人々を洗脳しているわけではなさそうですね」
 部屋の側で鼻を利かせ、佩芳は呟く。彼女が嗅ぎ慣れた類の匂いは感じられなかった。周辺を見渡しても、最早不快なくらいに清潔だ。虫の子一匹見当たらない。
「おや、そんな所でどうしたんですか」
「はっ」
 背後から声をかけられ、佩芳は慌てて振り向く。そこには白衣のような装束を纏った男が、不思議そうな顔で佩芳を見つめていた。彼女は慌てて気を付けをすると、小さく頭を下げる。
「あ、いやその。機械の気配がして……」
「機械の気配?」
 男はますます不思議そうな顔をする。その右手は義手であった。
「はい。私は昔から機械が大好きで将来は自作のロボットと結婚したいくらいだと思っているのですが、先程ここを通った時にビビッと来たのです」
「何を言っているのかよくわかりませんが……」
 にっこりと微笑み、男はそっと佩芳に手を差し伸べる。
「ついてきてください。ここは貴方にとっての神の国となるでしょう」

●旧き神の支配は終わった

――B2F――

「さっきから何か視線を感じるんだよなぁ……」
『(ぴったりマークされてますなぁ)』
 隠し通路を抜けて研究所のような空間へと足を踏み入れた和馬。鋭敏な感覚が、物陰からの視線を感じ取らせていた。その視線の持ち主は暗がりを彷徨う機械のものども……ではなく、美空だった。
「ここから美空のサポートミッションであります」
 仲間たちと共に隠し通路を進んだ美空は、同じ階を調査する和馬をサポートすると決めたのだ。和馬とっては困った付き物だが。
「単独で行きたいところなんだが……」
『(仕方ないね。こっちの迷惑になるようなことはしないと思おう)』
 神経をピンと張り詰め、和馬は周囲を見渡す。さして侵入者に対する警戒はしていないのか、防犯カメラの類は見当たらない。
「ザルだな。張り合いがねえ」
『(張り合いがあっても困るけどねぇ)』
 和馬は適当な部屋を見つけると、まずは鍵穴から中を覗き込む。中は暗く、誰かがいる雰囲気は無い。ならばと彼は鍵を開く。造作も無い事だ。
「よしよし、開いた……って、何もねぇじゃん……」
 開いてみると、中には何もない。ただの空部屋だ。
「何もないでありますね」
 ひょこりと美空が現れる。突然の登場に和馬は思わず飛び跳ねる。
「うぉっ。脅かすなよ……ん、ちょっと待て。何か聞こえねえか?」
 部屋に何もない分、壁を隔てた向こうの音が良く聞こえる。人々のざわつく声、それに紛れる朗々とした演説の声。和馬はこっそりと壁に耳を押し付ける。
「……は、……。旧き神は……」
「ちっ。ざわざわしててよく聞こえね……」
「美空が行ってくるのであります。ちょっと肩を貸して頂きたいのでありますが」
「へ?」
 和馬は怪訝な顔を美空へ向ける。美空はライトを部屋の天井へ向ける。天井板は石膏ボードで出来ており、直ぐにも取り外せそうに見えた。
「あー、わかったわかった」
 彼は跳び上がり、剣で天井を切り裂いて穴を空ける。そのまま美空を肩車すると、天井裏に彼女を突っ込んだ。
「行くであります」
 天井裏に入りこんだ美空は、ごそごそと暗闇の中を進む。中はパイプだらけで狭い。小さな彼女だからこその業だ。進むうちにざわつきが下に聞こえ始める。美空は意気込み、天井板にじっと耳を押し付けた。
『時は満ちました。これより旧き神から世界を取り戻す儀式を執り行います。この地が、新たなる世界の為の礎となるのです……』
「ふるき神から、世界を? ……にゅー、よくわからないのであります……」
 美空はすごすごと引き返し、すとんと空の部屋に飛び降りる。外ではやきもきした様子で和馬が待ち構えていた。
「おい、どうだったんだよ?」
「よくわからない事を言っていたのであります。世界を取り戻す儀式をするとか何とか」
「世界を取り戻すぅ? 一体何のつもりだ……」
 その時、不意に部屋の扉が開いた。和馬は慌てる。そんな普段なら適当な物陰に隠れるが、余りにも場所が悪い。結局部屋の隅っこに引っ込む事しか出来なかった。
「おや、こんなところで何をしているのですか?」
 中に入ってきた白装束の男は首を傾げる。その瞬間、美空は慌てて目の前の男に飛びついた。
「お、おにーさん、おトイレはどこでありますかー」
「み、美空! さっき行ったばっかりだろ!」
 美空の意図を察した和馬もついでに目を丸くし、美空を男から引き離す。突然の事に戸惑い、男は仰け反る。
「何ですかいきなり。一体どうしたんですか」
「うるさい! 俺の妹がトイレに行きたいって言ってんだ! 何とかしろ!」
 和馬は食い気味に詰め寄る。こんな時は勢いで乗り切ってしまうのが一番だ。冷静になる隙も貰えず、男は二人のペースに飲み込まれる。
「そ、そんな事を申されましても……」
「このままでは漏れてしまうのですよぉ」
「……やれやれ。本当に肉体とは難儀なものだ! わかりましたよ……」

 信徒達はお人好しだった。お人好しだからこそ、彼らは心を脅かされるのだ。

●そして我らは一となる

――B3F――

『嫌な臭い……血の……』
 メテオは顔を顰める。彼女と國光は一つの部屋の前に立っていた。お世辞にも厚いとは言えない扉の向こうから、薬品の匂いと、それからきつい血の臭いが漂ってくる。鋸で木を切るような、微かな音も聞こえる。中で何をしているのか、見ずとも簡単に想像がつく。
『どうしますか、サクラコ』
「実際に眼で確認したいけど、いきなり扉を叩き壊して突入なんてするわけにいかないし……」
 二人が顔を見合わせていると、通信機に連絡が入ってくる。カグヤだ。
「國光、こっちは研究資料の収まったデータベースを見つけたぞ。ひとまずデータを落として持ち帰る事にする。そっちはどうじゃ?」
「こちらは手術を行っていると思しき部屋を見つけました。扉が閉め切られているので、中に入るという訳にはいきませんが……おそらく腕を切断し、義手へと替える手術を……」
「致し方ないの。データを取ってしまえば十分じゃろう。そっちはその手術が終わってしまう前に、先程見つけた従魔を倒しにかかってくれんか」
「そうですね。了解しました。……行こう、メテオ」
『はいっ』
 二人は素早く共鳴すると、武器を構えぬまま静かに駆け出す。その視線の先には、廊下を見張り番のようにずかずかと歩き回る従魔。右腕の義手から伸びるケーブルが全身に突き刺さり、あちこちが機械に変じた人間。見ているだけで寒気がする。
『(もしかして、あの義手に従魔がとりついていた、という事なのでしょうか?)』
「かもしれないね」
 誰もいない部屋に半身を突っ込み、國光は守るべき誓いを放つ。周囲に放たれたライヴスが、廊下の先にいる従魔二体を引き付けた。
『来ます!』
「ああ。行こう!」
 二人は拳を構え、部屋に乗り込んで来た機械のものに殴り掛かった。鳩尾への一撃。生暖かい感触。ライヴスもよく感じる。
『(この人、生きてるのです)』
「なら……」
 大振りなパンチを手刀で往なし、素早く後ろへと回り込む。
「ライヴスリッパー!」
 鋭い手刀が機械のもののうなじへと叩き込まれる。ライヴスが一気に流し込まれた従魔は、耐えきれなくなり本来の憑依先である右腕の義手へと引っ込む。それを見逃さなかった國光は、素早くナイフを抜き放ち、義手に深々と突き立てた。
「……!?」
 悲鳴のような異常駆動音を立て、義手に空いた穴から従魔が飛び出してくる。國光は鋭い回し蹴りでその従魔を叩き潰す。憑依から解放された信者は、気を失ったまま固い床に倒れ込んだ。
「アアア……」
 倒れた信者を乗り越え、新たな機械のものが國光へ迫ってくる。ナイフを構え直し、國光は見るも無残なその姿を睨みつけた。
「同じ要領で行くよ。メテオ!」
『(了解なのです!)』

 一方、カグヤとナンナもまた共鳴し、一体の従魔と向かい合っていた。データを取っている間に、思わず背後を取られそうになったのだ。
『(ずっと警戒してたのにね)』
「いやはや。実際に興味深いデータを目の当たりにするとつい夢中になってしまうのう。アイアンパンク技術を利用した支配体制構築……面白いものを見たわい」
 カグヤはにやりと不敵に笑うと、チェーンソーを取り出した。起動キーを引いた瞬間、ライヴスを受けたチェーンソーが唸りをあげる。
「さてさて。サンプル回収といこうかのう!」
 パニッシュメントを放つ。白光が暗闇を切り裂き、機械のものにもダメージを与える。特にその右腕は、呻き声にも似た音を上げた。機械のものは唸りを上げ、その右腕を振り回してカグヤを殴りつける。それをチェーンソーの持ち手で受け止め、カグヤは黒い眼を光らせる。
「やはりそこに従魔がおるな。ならば話は早いわ!」
 素早く振り抜かれた一撃が機械のものの右腕を捉える。右腕が悲鳴を上げる。そのまま従魔を蹴倒し、動けないでいる従魔の右腕を切り落としていく。
「悪いがこいつは貰うぞ。新たに付け替えてもらう事じゃな!」
 火花が散り、鉄粉が飛び、従魔はあっけなく切り裂かれる。機械のものの身体は、その瞬間にただの人間へと戻っていく。本当の右腕は永遠に失った、哀れな人間の身体に。
「やれやれ。弱点を見つけてしまえばどうという事はないのう」
 傍に寄ると、脈を取り、肌の色、目の状態を確かめる。すっかり気は失っているが、それ以外にはどうという事もなさそうだった。
「この様子ならば処置を施さずとも問題はないな。遠慮なくこれは持ち帰るとしよう」
『(ちゃっかりしてるよ、カグヤは)』
 チェーンソーを幻想蝶に収め、切り落とした義手を片手にカグヤは國光へ連絡を送る。
「一体倒したぞ」
「こっちも二体片づけました。ついでに見回ってますが、この階にはもういないようです」
「ならば早々に撤退するとしよう。上の奴らにも渡りをつけてくれんか」
「わかりました。……この人達はどうします」
 カグヤはちらりと倒れた信徒の姿を見る。無残に切り落とされた右腕の先から火花が散り、うっすらと男の満ち足りた表情を映している。
「……捨て置こう。仮にわらわ達が此奴らを病院へ担ぎ込んだところで、どうなる。そこで何かをやらかさんとも限らんぞ」
「ですよね。最初から従魔にコントロールされているならさっさと担ぎ出すんですが。うちの友人が無理だって言うくらいですから……」
「くふふ。気に病むことはない。いつかわらわが新たな義手をこさえて、科学技術の発展に役立つような奴に変えてみせるわ。それまでは我慢の子じゃの」
「その言い方は少し引っかかりますが……期待していますよ。ハハ……」
 國光からの通信が切れる。カグヤは振り返り、データベースに接続していた端末を外す。
「データも取り終えた。では、退くとしよう!」

――B2F――

「うっし! こいつで終わりだな!」
『(ナイスな一撃だ。和馬氏)』
 和馬は鮮やかな身のこなしで機械のものどもの攻撃を躱しきると、そのまま義手を叩き壊して沈黙させる。それと同時に彼の通信機に連絡が飛んできた。國光だ。
「鹿島さん、地下三階の調査は終わりました。そちらは」
「ん? おう、上々上々。少々ヤバい場面はあったが、問題ない。トイレ作戦で切り抜けた」
「トイレ作戦?」
「ついでに従魔も始末して脱出経路は確保してあるぜ。とっとと行こうや」
「……は、はい。了解です」
 通信を切って周囲を見渡すと、また美空がいなくなっている。思い切り顔を顰めてうんざりしていたが、その時丁度良く美空が地下の床板を外して戻ってくる。
「とんでもないスクープを発見したであります! かせーふはみたであります!」
 美空は和馬に向かって携帯を突き出す。画質は悪いが、手術をしている様子がはっきりと写っていた。
「マイペースにとんでもないもん抜いてきたなおまえ……まあいいや。いこうぜ!」

――B1F――

「だから、腕のパーツを黄金製にしていただければそれでいいのよ。インカの黄金のように。そしたら貴方達のパトロンになってあげるわ。いい取引でしょう?」
「Shit! お前は何もわかってない! その行為はNew World Orderへの反逆だと何度言ったらわかる!」
 メタの戦いは相変わらず続いていた。演技とはいえ、その様子を見飽きたノエルの口から溜め息が洩れる。
『社長よ、さすがに強情な態度が過ぎんかのう……』
「は、はは……あ、電話だ」
 青藍は通信機を耳に当て、何度か頷く。それを聞いた瞬間、彼女は剥がれかけていたメッキを張り直し、クールな秘書に戻ってメタに頭を下げる。
「社長。例の取引の件で連絡が入ってきました。早急にお会いしたいそうです」
「本当? わかりましたわ。早々に行くとしようかしら」
「そういう事ですので。この件はまた次回という事に」
「もう来るなおまえら。神敵だ」
 げっそりと疲れ果てたインストラクターを前に、青藍は淡々と頭を下げる。
「失礼仕ります」
 三人は半ば追い出されるように部屋を出る。そこには既に佩芳が待ち構えていた。
「調べた結果、何らかの成分による洗脳はなさそうでしたねぇ」
『その報告はまた後じゃ。今は脱出するぞい』
「そうですねぇ」
「あれ、どこ行ったんですか? 我々の技術の素晴らしいところはここからですよー? あれー?」
 佩芳に撒かれた信徒の虚しい声が遠くから聞こえてくる。四人は顔を見合わせると、とっととその場を抜け出していった。

 かくして、エージェント達はマキナ教団の抱えこむ闇を探る事に成功した。これにより、彼ら教団はテロリストおよびアイアンパンクの違法改造を行った集団として認められることになる。カグヤが持ち帰った義手が重要な証拠となった。
 ……とはいえ、全く侵入を気取られずに、とは済まなかった。

●マキナ、進撃
『どうやら侵入者がいたようですね。五人には新たな義手を差し上げましょう』
「我らの、我らの神敵が現れたのですか」
『落ち着きなさい。恐れる必要などありません。彼らも所詮は旧神の頸木に繋がれた者。我らに敵う謂れなど無いのです。その右腕を見なさい』
「……」
『我らは既に大いなる一歩を踏み出しました。旧神のもたらした死を超越し、神より世界を奪還し完全なる存在となるための第一歩を』
「はい! 我ら新世界を創る者! 機械の福音を聴く者なり!」
『往きましょう。戦いは今この時より始まります』
 彼がそう告げた瞬間、教団員達は天へと義手を掲げる。その瞬間に彼らの身体は従魔に取り込まれ、機械のものどもと化していった。彼らは死出の戦いへ赴く兵士のように、一糸乱れぬ動作で愚神を見上げる。その姿を見渡し、愚神――マキナは見えぬ敵影を見上げて言い放つ。
『さあ来なさい。腐った肉に縋る者達よ。貴方達は、私の与えた“希望”を上回れるというのですか?』

To be continued.

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414

重体一覧

参加者

  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御



  • エージェント
    胡 佩芳aa4503
    人間|20才|女性|生命



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