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秋の味覚と温泉旅館!
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相談卓
最終発言2016/11/16 22:36:33 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/11/16 18:59:39
オープニング
●温泉旅館と山の幸
国内某所、篠丸日(しのまるひ)温泉旅館。
山奥といっていい場所にあり、立地の不便さ相まってなかなか客足の乏しい旅館ではあるが、ごく一部の通にはこの秘境っぽさが人気なんだとか。
紅葉が秋を彩り、山を美しく染め上げている今日この頃。
自然豊かな山奥だからこそ、いろいろな苦労もあるのである。とはいえ、自然というものは、そこが魅力の一つでもあったりするのだけれど。
「わざわざ遠いところからお越しいただき、本当にありがとうございます」
やってきたエージェントたちに、温泉旅館の従業員たちは頭を下げた。
今回、篠丸日温泉旅館では、山での猟が解禁されるに合わせて、H.O.P.E.に依頼を届けたのである。依頼内容は、山の獣のハンティング。普段であれば猟友会の手を借りているのだが、今年は、以前に従魔騒動があったことや、山に大きい獣が増えてきたという報告もあって、念のためといった形で、リンカーたちの手を借りることとなったのである。
もちろん、ただ狩りをすることだけが仕事ではない。
ついでにみつけた山の幸を、美味しく味わってもらうまでが仕事の内である。
「今回は主に山の方でのお仕事となりますが、実を言いますとね。山奥にも天然の温泉が湧いているんだそうですよ」
うちの温泉もそっからお湯を引いてるので、負けたものじゃないですけどね。そう言ってから、主人はにこにこと付け加えた。「でもやっぱり、山の奥で入る温泉ってのは格別でしょう」
解説
●目標
山の幸や温泉を楽しむ。
おおまかに、
・食材確保
・(調理)
・みんなで食事
という流れになります。
山に入ってご飯を食べるのがメインとなりそうですが、配分はご自由に。
入浴はお好きなタイミングでどうぞ!
●篠丸日温泉旅館周辺の自然
歩きやすいハイキングコースと、本格的な森林地帯がある。
クマやシカやイノシシ、ウサギ、キジなどの狩猟動物がいるほか、渓流には魚が住み着いている。
また、キノコや山菜なども豊富である。
●秘湯の温泉
一般の客はあまり立ち入らないが、奥地には自然に湧きだした温泉がある。
場所によっては高温高熱。いくつかのスポットがあるようで、自由に入ることができる。
※覗きはだいたい判定なしに失敗します。
●調理について
旅館に持ち込めば調理をしてもらえるが、もちろん自前で料理しても構わない。
また、調味料や食材の持ち込みも構わない。
特別料理の腕前について良い/悪いなどの指定がございましたら、プレイングにどうぞ!
リプレイ
●やってきました温泉旅館
のんびりと山を登ってきたエージェントたちは、ようやく温泉旅館にたどり着いた。
”んーっ、やっぱり自然の中はいいね! ちょっと寒いけど。すごい這いまわりたい”
「ごめん二本足で歩いて」
目いっぱい山の空気を吸い込んで、気持ちよさそうに言うムチャリンダ(aa4478hero002)。本当にはい回りそうに見えるのを、シャー・ナール・カプール(aa4478)がやんわりと止める。ムチャリンダの正体は巨大なコブラである。
『おう、山の中は何百年経ってもたいしてかわらんのう!』
ざくざくと道を進む堀内 彦次郎(aa4555hero001)を、井口 知加子(aa4555)が少しだけよろよろと追っている。無骨でがっしりとした体を持つ堀内は、全くもって疲れた様子を見せない。
「登山道とかだいぶ整備はされてるみたいだけどね……はあ、共鳴してないと体力は引きこもりみたいなものなんだから先先いかないでよ! おば……おばおねえさんなんだからもう!」
篠丸日温泉旅館にやってきたエージェントたちは、従業員たちが歓迎する。
大きく手を振る大宮 朝霞(aa0476)。茶色の髪を覆う帽子が揺れる。
「笹山さん、ゼムさん、今日はよろしくお願いしますね」
「宜しくお願いします♪」
『……ああ』
元気よく挨拶をする大宮に、笹山平介(aa0342)がにこやかに返事をしたが、対して、ゼム ロバート(aa0342hero002)はこくりと頷くのみだ。それでも十分伝わったらしく、大宮はにっこり笑った。
「あ、紹介しますね。こっちは、私の英雄の伊奈ちゃんです!」
『よろしくな!』
春日部 伊奈(aa0476hero002)は元気よく言った。大宮の高校時代の制服を着ている。彼女の名前は、記憶を失った彼女に大宮がつけたものである。
名前もすっかりなじんだらしい。
「私達、銃を扱うのには慣れていなくてですね……。コツとか教えてもらえると助かります」
宿から道具をさまざま借りながら、大宮は笹山に尋ねる。
「うーん、そうですね♪」
旅館から猟銃を借りてきた笹山は、大宮と春日部に基本的な銃の扱いをレクチャーした。流石に扱いなれているらしく、危うげがない。
「なるほど……!」
『やれる気がしてきたぜ』
彼の説明は非常に分かりやすく、二人はふむふむと頷いている。
「気を付けてくださいね♪」
「狩りと温泉……か」
【ふふ。まるでどこかのゲームのようですね。あちらとは順番が違うようですけれど】
賢木 守凪(aa2548)は、いつもの通り友人である笹山と一緒に行動する心づもりだ。
「平介は狩りに行くんだろう?」
「しかし……」
賢木の申し出に、笹山は少しだけ困った様子を見せた。イコイ(aa2548hero002)は、その様子を楽しそうに眺めている。
笹山は、彼の前で獲物を撃ち殺す所は見せたくないのだ。
さて、どう出るか。イコイが興味深く眺めていると、見かねたゼムが口を出した。
『……貴族、男の仕事に女を付き合わせるな……酷だろ』
「? ……女?」
【ふふ。だそうですよ。行きましょう、賢木さん】
『……行くぞ平介。』
イコイの気転を察したゼムは、早々に笹山を促した。
「でも……」
【笹山さんとゼムさんが猪を獲ってきてくれたとしても、それに合わせる山菜が無いと。お肉だけでは栄養が偏りますよ】
「……それも、そうか」
戸惑う賢木を、イコイがやんわりと諭す。
納得する様子の賢木を見て、イコイは分かりにくい笑みを浮かべた。
(まぁ、貸しにでもしておきましょうかねぇ)
「そっか、きっと、キノコとか、魚とかもありますよね!」
うんうんと頷く大宮。
「料理は任せてください♪」
『狩り食事の用意は平介がやれ、肉が食いたい……風呂は入る』
ゼムは断固として言った。
「たくさん採ってこなくちゃな」
気合を入れる賢木を、イコイは面白そうな様子で見ている。
「こたびはおせわになるのである! よしなにたのむぞ!」
『あら~素敵なところじゃない お世話になります』
まだ年端も行かぬ風に思えるほどであるのにぴしりと背筋の通った姿勢で、はっきりとした挨拶をする泉興京 桜子(aa0936)。泉興京の後ろから、ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)もまた、温泉旅館の人間に笑いかける。こちらこそ、と従業員はニコニコ顔だ。
「山には温泉もございますので、ぜひお立ちよりくださいませ」
エージェントたちは、もちろん、存分にこの場所を楽しむ心づもりでいる。であるから、どちらかといえば場所目当ての面々ももちろんいるのである。
「温泉に美味しいご飯、楽しみなの……♪」
「そうだね」
ほうと息をつくルーシャン(aa0784)に、アルセイド(aa0784hero001)は笑顔で同意した。
「わーいるーしゃんとおんせんであるぞ!」
『うふふーアルセイドちゃんと温泉よぉ★』
友人と一緒に入るのが嬉しいのか、泉興京はピョンピョンと跳ねている。ベルベットは、イケメンと温泉に入れることにテンションが上がっているようだ。なんとも微笑ましい。嬉しそうなルーシャンを眺めて、アルセイドはにっこり笑う。
「お邪魔します」
東城 栄二(aa2852)がここにやってきたのは、大規模作戦で疲弊した心身を癒すためだ。動物と出会わなければ、無理に狩りをするつもりはない。相棒のカノン(aa2852hero001)は、今は指輪の中にいる。
あまり外に出てこない英雄のことを、東城はよく理解していて、無理強いなどはしないのだった。
「うう……ここまでくるのも大変じゃ……」
「にゃー! 元気出すにゃー!」
音無 桜狐(aa3177)もまた、パートナーに首根っこ捕まれ引きずられてきたクチである。猫柳 千佳(aa3177hero001)は、美味しい料理と温泉に惹かれてやってきた。
「来る途中で良い水場を見つけたにゃ。きっと素敵な魚があるにちがいないにゃ!」
「……めんどくさい」
『狩猟前の安全確保がお仕事なんだから、きちんとやりなさい。特に熊は一般人には脅威なんですからね』
佐藤 咲雪(aa0040)がやってきたのは、やはり温泉が目当てだった。放っておけば動かない彼女を動かすのがアリス(aa0040hero001)である。
アリスがお世話になっておりますとぺこりと頭を下げさせる様子は見慣れたもので、従業員の方も同じように頭を下げている。
肩掛けカバンをたすき掛けしたまま頭を下げると、ぎゅうと胸が強調される。若い料理人は慌てて不自然に芽を逸らしていた。
●ハンターさんたち
(クマやイノシシが相手だからね。HOPEのエージェントとはいえ、共鳴しないと危険だよね?)
大宮は、真っすぐな目で春日部を見た。
「さぁ、伊奈ちゃん! 変身(共鳴)よ!」
『うへぇ、みんな見てるのに……』
「恥ずかしがらないの!」
大宮に急かされ、二人は共鳴を果たす。
「変身! ミラクル☆トランスフォーム!!」
ビシィッっとポーズを決めた大宮の目が、バイザーで覆われる。大宮のすがたは、白とピンクの煌びやかなスターのような衣装に変わる。
前に踏み出した足に従って、ひらりとスカートが舞う。ひるがえるマント。
派手な変身とともに、ばさばさと鳥が飛び去って行った。
「あ、獲物が……!」
『狙いはデカいのだろ、気にするなよ。いくぜっ!』
「わあ……♪」
「すごいのである!」
ルーシャンと泉興京がキラキラした目で大宮の変身を見ていた。
「聖霊紫帝闘士、ウラワンダーです!」
大宮は二人に目くばせすると、獲物を追って森の中へと進んでいった。
森を進む二人の前に、がさりと草木が揺れた。
「!」
現れたのは、巨大なイノシシだ。
『うわっ! ホントに出たよ! ほら朝霞、早く撃っちゃえよ!』
「ちょっと待って……。なるべく引きつけて……。落ち着いて、よく狙って……」
笹山の言葉を思い浮かべながら、大宮は猟銃を構える。イノシシが地面を蹴とばし、土煙を上げてこちらにやってくる。
(まだ……まだ……よし! 今!)
パアン。
銃声が鳴り響いた。
一瞬の間。イノシシは――倒れない。ごくりと息をのみ、後ろに後ずさり距離をとった大宮。追撃の構えをとったところで、イノシシはその場にどうと倒れた。
「上手くいったね!」
『よし、運ぶか』
『ぬっ。キジがおちたぞ』
(キジがいたじゃなくて?)
井口がくるりと振り返ってみると、見事、その場に倒れているキジが居た。拳大の石を拾い上げ、手のひらでもてあそぶ堀内を見て、ようやく事態を把握する。
目にもとまらぬ速さで石を放ったらしい。
「あんた後ろに目があるの? 気が付いたら石投げ終わったモーションしてたんだけど」
井口に、堀内は呆れた顔を向ける。
『そんなのんきでどうやって山で生きていたのだ』
「山に住まずに生きてたっつうの!!」
狩りのための道具は特に必要ない。宿の人間に端的にそう告げた堀内が何を考えているのかは、井口にはさっぱり分からなかった。しかし、森に入ってみれば、その意味はすぐに分かった。
『ぬう、ウサギがおるな。フンッ!!』
堀内が投げた枝は、やはり何かに当たったようだ。井口が繁みを覗いてみれば、そこには見事にウサギが倒れていた。
しかも、木の枝は首筋を的確に射貫いている。――ただの枝である。
「ぎゃあああ! なんで棍棒みたいな枝投げて即殺してるの!?」
『食材探しと聞いていたが』
「……感覚的には非常識って怒鳴りたいけど、西洋じゃ食肉っていう知識はまあある、し……日本でもちょっと昔は食べてたことは資料では知ってるけどさ、ほら心情的に……」
ウサギを見下ろしながら、井口は葛藤する。そうしているうちに、ガサリと再び茂みが鳴った。
『おう、みろよ、野犬じゃあ! えのころめしに……』
「えのころ飯はだめえええ! いいから! ウサギ食べていいから!! 苦情くるからやめて!!」
『むう……』
つまらんのう、と言いつつも、堀内は一応は納得したようだった。ほっと胸をなでおろし、ウサギをカゴに入れる。
「どうしたの?」
ぴたりと動きを止める堀内。目の前を、泉興京が横切っていく。
「何してるんだろう?」
『あの小童、なかなかやりおるぞ』
泉興京を見て、堀内はにたりと笑う。獣の足跡を調べているのだ。
「しゅういのやまみちにくわしい猟友会の方へ連絡をとるのである!」
時間は、少し前にさかのぼる。狩りのために泉興京がまず初めにやったことは、猟友会への連絡だった。猟友会であれば、山道などの情報にも詳しい。
「みちをおしえてもらうのであるぞ!」
手際よく道を聞いている泉興京を、ルーシャンは感嘆して見つめている。
『獲物が取れそうな場所もね★特に熊とか』
「うむ!」
ベルベットのさりげない助言に従って、泉興京は地図に場所を書きこんでいく。ふう、と手を置くと、それなりのものが出来上がっているように見える。
「すごい! すごいの!」
『流石だね』
見事にクマの足跡を発見した泉興京。ルーシャンとアルセイドに褒められて、泉興京は得意げである。
「るーしゃんらはあんぜんなばしょでまっているのであるぞ!」
「うん!」
『こちらのほうで、山菜や果物を探していますね』
二人に見送られた泉興京とベルベットは、茂みに分け入っていく。
(くまはどこであるかー!)
歩き回っていた泉興京は、ぴたりと歩みを止める。動く影があったのだ。まだこちらには気が付いていない。
気づかれぬうちに風下へと、気配を殺す。
(行くぞ!)
一瞬ののち、蝶のような燐光を放ち、その光が狐火に包まれ姿を変える。 ベルベットのようなような獣の耳と尻尾が備わる。
空気は澄んでいる。――相手の動きが、ゆっくりと、ゆっくりと遅く見える。止まっているようにすら見える。
泉興京の耳が、ぴくりと動いた。狙うのは、眉間と鼻。
一撃で。
構えたスナイパーライフルは、最小限の反動を腕に伝える。撃った瞬間、一発で仕留めたのは分かっていた。
「ふう……」
一仕事を終えた泉興京は、水辺を探し、小型のナイフで血抜きをする。
(処理した血は埋めておくのである!)
(たくましいわ♪)
きびきびと動く泉興京を、ベルベットが嬉しそうに眺めている。
(これって、仕事をしてることになるのかしら?)
佐藤は依頼を受けてそうそう、場所を決めて木に登り、――それから、一切動いていない。実際のところ、その不動の姿勢といえば結構なものだ。バランスを崩すこともなく、文字通り、一切動いていないのだ。
それでも、これまでの経験から、ただサボっているわけではないのは分かる。仕事は『最小限』。
木の下を、小動物が駆け抜けていった。狙うのはあれではない。
がさりと大きな音がした。
「!」
佐藤の共鳴は、ナノマシン群体である英雄(アリス)との完全融合。外見上に変化はないが、機械化と強化により、体重が大きく増加する。それに合わせて、体重を移動させたため、枝は軋みすらしなかった。アリスの仕事はあくまで補助だ。パイロットスーツに身を包んだ佐藤は、シャープエッジを取り出した。
5本一組。ただの獣相手であれば――4本は、必要ない。
思い切り脳天を射抜くと、動きが止まるのを待って、枝から降りる。
『お疲れ様……ってちょっと』
そのまま戻ろうとする佐藤を、アリスは慌てて引き留める。
「……ん。これ、持って……帰るの?」
『放置する訳にもいかないでしょ?』
佐藤はしぶしぶ獲物を回収した。
穏やかな日常。
彼の力であれば、全力を出せばもっとたくさん獲物が取れただろう。しかし、それは今回の目的ではない。笹山はほどほどに狩りをしていた。
ゼムと共鳴した笹山は、小さい頃の平介がそのまま大きく育ったかのような姿をしている。唯一の違いと言えば、ゼムと同じく赤く染まった瞳だろうか。
「命をいただく事に感謝をしなければ」
スコープに映るまだ小さなシカ。狙うのは、大きな獲物だけである。ただ眺める笹山に対して、ゼムはどこか苦々し気に言った。
『……幸せを奪えばそれだけで十分だ』
「ゼムはそうやって生きてきたのか……」
『……さぁな』
ゼムの言葉には、どこかどうしようもなく重い響きが籠っていた。笹山は、それを咎めもしなければ、深く追及することはない。
引き金は引かれず、獣はそのまま去って行った。
「戻ろうか」
獲物を幻想蝶にしまい込んだ笹山は、近くの川で汚れを洗い流すと、守凪に合流しようと思った。
『流石に解体の知識までは私も無いもの、魚ならともかく』
「……ん、お任せ」
佐藤とアリスは、獲物を宿へと持ち運んでいた。解体の知識は彼らにはない。お任せで美味しいご飯が出てくるのなら、咲雪もアリスも文句はない。
「ありがとうございます。……さすがに、エージェントのみなさまというのは素晴らしいものですねえ」
宿の人間は、あまりに見事に撃ち抜かれた獲物を眺めて感嘆した声を上げている。そこへやってきた大宮と春日部が、その様子に感嘆した声を上げる。
「投げナイフ一本で……すごいです」
『イケてるじゃん!』
「……ん」
こくりと頷く佐藤。
「こちらも流石ですよ……いやはや、まったく」
出発時は扱い慣れていない様子だった猟銃で、見事に狙いを逸らしていない。料理人たちは下ごしらえしつつも、珍しそうに獲物を眺めている。
『まあ、こんなもんじゃのう!』
「だ、だいぶ疲れた……」
堀内が持ってきたのは、石で的確に急所を抜いた動物である。きちんと下処理もされているようだ。やや遅れて井口がやってくる。
宿の主は準備している料理人らと顔を見合わせて、ただの人間と能力者の違いに感じ入っていた。
「えものをもってきたのであるぞ!」
と、そこへ元気よくやってきたのは泉興京である。どさりとそこに横たえたのは一番大柄なクマである。血抜きまでされているのを見て、料理人は舌を巻いた。
「さばくのもてつだうのである!」
●山の恵み、川の恵み
「何をつかまえよう?」
”殺生はよくないぞキミ”
きょろきょろと辺りを見回すシャーに、ムチャリンダがしっかりと忠告をする。
「ムチャリンダがいるんじゃ狩りはむりだね、キノコやムカゴ、イモ、キノコあたり探してみようかな」
”ギンコ、ギンコ”
「英語の銀杏? イチョウはアジア独特だったっけ」
ムチャリンダはシャーの態度に満足そうに頷くと、するすると木々をかき分けていった。落ち葉が敷き詰められたようなきれいな山道だ。
「ここ?」
ムチャリンダはコクリと頷いた。
ムチャリンダは器用に、一見して分からないような食べ物を見つけていく。落ち葉に埋もれていたり、地面に埋まっていたりする食べ物でも、難なく見つけ出す。
「おっと」
目の前を横切っていくキツネを、東城はのんびり見送った。彼の目的は狩りではなく、山菜やキノコ採集である。
「ま、目的は温泉ですからね~襲われないならドンパチする必要もないでしょう」
「仕事しようよ……」
ほんの少しあきれた声でカノンが言うが、それでも、ゆっくりしている様子の東城を見るのはなんだかほっともするのである。
「お、あっちにも人がいますね」
そこに姿を現したのは、大宮たちだった。
「あ、こんにちは! うーん、なかなか見つからないね……!」
きょろきょろと辺りを見回す大宮に、東城はちょいちょいと地面を指す。なんだろうと地面を見てみると、そこにはいくつかのキノコ群があった。
「あっ! キノコあったよ!」
礼を言うと、東城は片手を上げてそれに答えた。
「……コレは食べられるのかなぁ」
『食べるには、ちょっとカラフル過ぎじゃね? 旅館の人にきいてみた方がいいんじゃねぇか?』
「そうしよっか!」
「たくさん取れたぞ! これもこれも食べられるものなんだろう?」
【どうでしょうね?】
山菜取りは初めてだ。目新しい経験に、賢木は弾む心を押さえられないようだ。
「それは食べられますね♪」
そこへ、笹山がひょいと顔を出した。
「平介!」
やってきた友人の姿に、賢木は嬉しそうな声を上げた。
「いっぱい採りましょう♪」
手分けをしつつ山菜を探していた笹山は、天然温泉を見つけた。
「温泉か……」
少し戸惑う賢木だったが、にぎやかな様子を見るに誰かが入っているようである。
『何やってんだ平介……』
上流の温泉のふちで温度を確かめ、ごそごそとざるを用意する笹山。
「温泉卵です♪ 皆で食べようかなと思いまして♪』
「温泉卵か」
「場所によって仕上がりが違ったりするんですよ♪」
「へえ」
賢木は興味深そうに手際を眺めている。
(卵持ち歩いてたのか……)
ゼムは腕組みでじっと見守りながら、様子の変わらないように見える卵を見ていた。
『……できたか?』
「もう少しですね♪」
一通り山菜やキノコを採り終わった大宮らは、川で魚釣りをしてみることにした。
『あ~ダメだ。釣れるまで待ってらんない。退屈だぁ』
「堪え性がないのね、伊奈ちゃん」
川辺に足を投げ出す春日部に、大宮は苦笑する。ふと、下流でぱしゃぱしゃと水の音が聞こえた。
『お、すげーことやってるな!』
と、そこでは、音無と猫柳らが華麗に釣りをしているところだった。
「こんなこともあろうかと水着持って来たにゃ♪」
水着姿の猫柳は、浅い場所に入りじっと待つ。しばらく水のせせらぎに耳を澄ませていると、ぴこぴこと猫の耳だけが揺れる。きらんと目が光ったかと思うと、すぱーんっと手の平が水面を走る。
川辺に魚が打ち上がる。びちびちと魚が跳ねている。音無は猫柳を見ながら、ただただ黙々と魚をかごに入れるのみである。
「マジカル♪フィッシングを見せてあげるのにゃー♪」
再びざぱんと川に入り、魚とともに水から出てくる猫柳。
「こんな時期に川に入るとは好き者じゃのぉ……。そして何もマジカルではないのじゃ……」
●ここらで一息、レッツ温泉
早々に任務を済ませ、真っ先に温泉に入っていたのは佐藤だった。……というよりは、温泉を見つけた瞬間に素早く入っていた。
めんどくさがりの咲雪も温泉は別、積極的にのんびりしている風である。
「……胸が……らく……」
ぽちゃんと湯に浸かれば、重力から解放されて肩が楽になる。15歳という年齢の割には不釣り合いなほど育った胸。佐藤としては、もう少しほどほどの方がラクである。
「屋外なんだから少しは警戒しなさい」
「……のんびり優先」
先ほどからほどほど近くを人が通ったりもしているのであるが、佐藤は意に介さない。人並みの羞恥心はあるけれど、見られた所で減るものでもないという考えだ。
他のエージェントたちも無粋なことはしないようで、とくに不埒な行動を起こす人間もいない。
「えっと、女湯ですよね? お邪魔してもいいでしょうか?」
と、そこへやってきたのは井口である。堀内の方は、流石にということで別の湯の方に任せているのだろう。そちらの方は、なんとなく声や雰囲気などから男湯になっているものと思われる。結構な距離があるにもかかわらず、堀内の笑い声が聞こえてきたりもした。
「ん」
こくりと頷き、場所を空ける佐藤。
『こら、ちゃんと挨拶しなさい。どうぞ』
「にゃ、おじゃまするにゃ」
「……おじゃまするのじゃ」
そこへ、漁を終えた音無と猫柳が加わる。
「……あったかい」
「あったかいですね……」
「流石にちょっと川は冷たかったにゃ。でも温泉がより気持ちいいにゃー♪」
温泉に浸かり、各々が息をつく。猫柳などは先ほどまで川に入って魚取りをしていただけあって、暖かい湯が身に染みる。
「山奥の秘湯というのも良い物じゃの……。自然の中で入っておると眠くな……」
そのままうつらうつらと前後不覚に陥る音無。
「いい湯だにゃ……にゃあ!?」
気持ちよさにぐっすりと眠り、溺れかけた桜狐を猫柳が慌てて助け起こした。
「エージェントの仕事は楽しいですけれど、……やっぱり、大変な時もありますよね」
『分かります。この前なんて……』
井口とアリスは、なにかと苦労話で盛り上がっている。と、そこへ、男湯の声が聞こえてきた。
一瞬にして二人の会話だけが止まった。のち、はっとして会話を再開する二人。
(ん……?)
(あら……?)
一瞬だけ、何か妙な連帯感が流れたような気がした。
「はふぅ~……極楽」
ちゃっかりとお酒を持ち込んで、温泉を満喫する登場。
ほかほかとあたたまりながら、ゆっくりと湯に浸かる。
「栄二は無理しすぎだよ……この前だってそう」
「うん」
心配そうに言うカノンに、東城は曖昧に返す。なんとなく、また誰かを守るために戦場に身を投じるであろうことは分かっていた。
人の気配を感じたカノンは、そっと指輪に姿を消した。
「へえ、日本の温泉だ。やっぱり火山国だからかな?」
姿を現したのは、シャーとムチャリンダである。
「お邪魔してもいい?」
「どうぞどうぞ。あ、あっちの方、少し空いてるよ」
東城は笑いかけて、場所を空ける。ムチャリンダに気を使ったのだろう。
”インドはヒマラヤ山脈関係が多かったみたいだけど……”
そのまま温泉に入ろうとしたシャーを、ムチャリンダは止めた。
”ああ、キミ、ここでは下着は脱いで入るのが礼儀だゾ”
「インドと逆なんだね。温泉とかだと履いてないとおこられるけどさ」
”ふー”
ぺったりと岩に体を預け、ぽかぽかと温まるムチャリンダ。
「一応爬虫類なの? 体。あったまらないと動けないんだっけ」
”寒いのはちょっとね”
『ぬう、邪魔するぞ! おお、お主、良いものをもっておるのう!』
どっかりとお湯に入った堀内に、お湯がたっぷり溢れる。堀内は東城の持っている酒を見て、ごくりと喉を鳴らした。
「あ、いいですね。一杯やりますか」
しばらくすると、先客が引き上げたようである。誰もいない広い温泉だ。
「今なら入れますね♪ お先にどうぞ♪」
そう言いつつも、笹山は悩んでいた。出来れば一人で入りたい。
『汚れたままうろつく訳にはいかねぇだろ……さっさと入るぞ』
笹山は別の場所を探そうと思ったのだが、ゼムがとっとと入ってしまうので、ここに入ることにした。
(……この足を見せたら、気にする……だろうか)
守凪も守凪で、戸惑っていた。防水仕様の義足を取り出す。義足がなるべく見えないように着替えようとしたが、時間がかかる。
『女かテメェは……』
「……ふん。……貴様に言われずとも、入る」
『ならさっさと入れ……突っ立ってたら邪魔だろ……』
「そうする」
ゼムの言葉に、賢木は少し自棄になる。
木々の葉が擦れる音。自然のわずかな音を除けば、辺りはとても静かだった。
「……いい湯だな」
ちゃぷりと音がする。
「そうですね……」
笹山は、なぜだか賢木の顔が見られなかった。
「その………」
言葉を続けようとしたが、とくに言うべき言葉も見つからなかった。心地よいような気まずいような、不思議な沈黙が辺りを満たしている。
「いや、なんでもない」
「温まったら食事をして……早く寝ないと」
笹山は言いながら、少し恥ずかしく思う。
【隣、お邪魔しますね】
ちゃぷりと湯に入る音がする。
『! ……女……ここ男湯だぞ……』
ゼムはイコイに驚いた声を上げるが、きっちりとタオルを巻いているのを見て、気を取り直す。
【混浴だそうですよ。しっかり隠していますから、お気になさらず】
さりげなく傷を見られないように隠し、距離をとる。秘密を見せる気はなかった。幸いに湯は白く濁っていて、見られているということはないだろう。
【……何かやましいことでも?】
『わかったから……こっち見るな』
至極楽しそうににっこりと笑みを浮かべるイコイ。食えないやつだと思った。
●山の幸の味
エージェントたちが仕事を終え、のんびりとしている間に、着々と食事の準備が整っていた。
「シンプルなのもいいもんですね」
七輪の上にキノコを乗せて、ぱたぱたとあおぐ東城。食事の時ばかりはカノンも出てきて、人ごみからやや離れたところで一緒に調理を見守っていた。
「仕上げ仕上げ」
薄味の出汁醤油を用意すると、手早くつけて食べてみる。香ばしい醤油がキノコの歯ごたえに加わって、酒のつまみにちょうど良い。小さく裂いたものを、カノンもちょっとずつと味わっていた。
「あ、堀内さんもどうぞ」
『うむ、ほれ、肉の方も焼きあがったぞ』
「な、なんかすみません」
すっかり仲良くなったらしい堀内は、一緒にちびりちびりと酒を飲みながら料理をしている。井口は迷惑をかけていないかどうか心配そうでもあるが、それなりに上手くやっているようだ。
堀内の調理には現代のような繊細さはないものの、豪快に調理された肉は結構食べられる。調味料を足したり余分な骨を取り除きつつ、のんびりと食べている。
「料理は任せるにゃ!」
捕らえた魚を塩焼きにする猫柳。毎日桜狐のご飯を作ってるので調理は大得意である。
「ふむ、流石に新鮮な食材は違うの……。美味なのじゃ……」
しみじみと余韻に浸りながら、音無の箸は止まらない。
「相変わらずたくさん食べるにゃね。僕より小さいのに何倍も何処に入るにゃ」
小さいの辺りに含みがあったような気がしたが。
それはそれとして、もぐもぐと平らげている。
「これで油揚げがあれば最高じゃったの……」
「油揚げは流石に自然の中で生えてもいないし泳いでも居なかったにゃ……」
すんすんと美味しいお味噌汁の匂いが漂ってきて、ふたりはより一層あぶらあげに思いを馳せた。
一通りたき火の調整を終えると、猫柳は包丁を握る。
「よし、お刺身もつくってみるにゃ!」
「……そろそろいいかな?」
じっと鍋を見つめる大宮と春日井。彼女たちが作っていたのは、お味噌汁である。
『朝霞、味見してみようぜ! 早く早く!』
「上手くいってるといいな」
蓋を取ると、美味しそうな香りがあたりに広がる。採ってきたキノコや山菜、獣肉が加わって、複雑に深い香りを放っている。
そっとお玉で二人分の味見をすくいあげ、おそるおそると口に運ぶ。
「んっ! おいしっ!」
『やっぱ、自分で採ってきた食材で作るとサイコーにイケてるな!』
これはとても美味しい。やったね、と、二人は片手でハイタッチをした。
「桜子ちゃんやベルさんすごいね……熊、怖くなかった……?」
「へいきだったのであるぞ!」
『うふふ。大丈夫よ★』
おそるおそるといった調子で聞くルーシャンに、泉興京は胸を張る。
「自分よりずっと大きな熊さんにも立ち向かえるなんて、桜子ちゃん勇気あるの! カッコイイ……☆」
「そ、それほどでもないのである!」
手放しでほめられ、泉興京はかなり嬉しそうだ。
「では、俺達は採ってきた物を下拵えしようか、ルゥ様」
『よろしくね♪』
アルセイドは、捌く場面を見せないようにさりげなく誘導をする。アルセイドらは、拾った果物の下処理をしている。
「獲物がちとでかいであるがさばくのであるぞー!」
腕まくりをして、たくましく刃物を手にする泉興京。
「まずは~皮を剥ぐのである!」
慣れた調子で、腕や足を関節より切り離し、胴ををあけて内蔵を処理する。その見事さたるや、その道の料理人が手を貸すまでもない。
「素晴らしいですね。うちの人間に教えたいくらいです」
「~~できたのであるー! このにくでくまなべであるぞ! るーしゃんといっしょにお料理である!」
材料を持ち、料理場へと行く泉興京は、腕をまくり熊鍋を煮込み始める。
「熊鍋は味噌味でいくのである!」
「なるほど……勉強になりますね♪」
イノシシの捌き方を教わりながら、笹山は料理人と一緒に料理をたしなんでいた。山菜を洗うと、いくつかはサラダ、いくつかは天ぷらにすることにした。
手際の良さを見て、井口はふんふんと調理をしながら、詳細を記している。井口の手際は多少はおぼつかなくはあるが、現代人として調理用具の扱いは上手である。
「温泉卵ですか! いいですね……」
ゼムは、調理中は宿に戻って、椅子に座ってじっと待っている。肉の焼ける匂いは、多少食欲をくすぐる。
賢木もまた、温泉を上がってから所在なくぼーっとしている。
(避けられて……いや……)
気のせいなんだろうか。そうではないと思いたいのだが。
『貴族……どうした……』
ゼムが賢木に話しかけてみても、考え事に没頭している賢木は反応しない。
(考えていても仕方が無いのは分かっているのに、…どうにもならないな)
『おい』
「あ……悪い」
と、そこへイコイがやってきた。
【ゼムさんは料理されないんですね】
『料理は平介の仕事だ……』
そこまで言って、ゼムはまじまじとイコイの姿を見た。
『お前のその格好は何だ』
イコイは、女性ものの浴衣を身にまとっていた。普段の深層の令嬢のような雰囲気に、奥ゆかしさが備わり、とてもよく似合っている。細い銀色の髪がきちりと髪を結いあげられており、所作のひとつひとつが女性らしかった。
【折角の温泉だったので、借りてきてしまいました。どうでしょう】
くるりと回って見せれば、髪の毛をまとめた髪飾りが揺れる。
『……回るな……足が見えるだろ』
ゼムはぶっきらぼうに目を逸らした。
宿の方の調理は一通りの支度が整ったという知らせが入って、エージェントたちは食事場に集まっていた。すでに出来上がっているエージェントや、調理中にちょいちょいつまんでいるエージェントもいる。
『味は悪くはないが、料理ってのはまだるっこしいのう』
「文句言わないの!」
「あはは」
にぎやかに言い合う井口と堀内。堀内に、東城が酒を注ぐ。結構な酒豪らしく、顔に現れている様子もない。
(あ、あれ)
井口は普段調理済パウチなどを頼ることが多く、それほど調理に慣れているわけではない。椀に盛られた多少不揃いな根菜を見て、自分が切ったものだとわかった。
『まあ、悪くはない。悪くは』
堀内は、形など気にせずずずっと平らげる。
(気にしただけ無駄だったわ)
「手間がかかってるね」
ずらりと並んだ料理をしげしげと眺めるシャーは、その中でも食べられそうなものを何品か選ぶ。
”米食は共通だからたいした違和感はないね。キミ、箸使うんだぞ箸”
「日本食レストランはバーラーナーシーにもデリーにもできてるしさすがにわかるよ……」
ムチャリンダに苦笑しつつ、しげしげと料理を眺めている。
”木のワクにおこわがはいってるね”
「囲炉裏みたいに固形燃料に火つけてここで鍋するみたいだけど」
”牛肉は食べるんじゃないぞ”
「いいよその分エビをたべるから」
「天ぷらとか大丈夫でしたらどうぞ♪」
「キノコとかありますよ!」
「ありがとう」
仲間たちから食べられそうなものをもらったシャーは、笑顔で礼を言う。
”お返しに、こっちのもどうぞ”
「ん……」
佐藤が黙々と食事を平らげる傍ら、アリスは井口や大宮ら女性陣と世間話で盛り上がっているようだ。
「みなでわいわいたべるのがたのしいのである!」
「熊のお肉食べるの初めてなの……♪」
珍しそうに食卓を眺めるルーシャンに、泉興京がひょいとお椀によそった料理を差し出す。
「るーしゃん熊鍋ここらへんなんて美味しいぞである!」
「ありがとうなの! ……あつあつで美味しい♪」
もぐもぐとほおばるルーシャン。おいしい、という言葉を聞いた瞬間、泉興京の顔がぱっと輝く。
「たくさんあるのであるぞ!」
ベルベットとアルセイドは、その様子をにこにこと眺めている。実のところ、ベルベットがちらほらと味付けを整えていたりもするのである。
『うふふ~アルセイドちゃんもどうぞ~』
ベルベットは、アルセイドにぴったりくっつくと、匙を口元に差し出す。
「……あ、あの、ベルベット殿、そのように近くては貴方も食べ難いのでは……」
『はいあーん★』
過剰ににこにこしているベルベットは、イケメンとのスキンシップにものすごく幸せそうである。退く様子がないのを察したアルセイドは、勢いに苦笑しながらも差し出されたものを恐る恐る口にする。
「はぁ……、お気持ち有り難く頂戴します……」
『どう? どう?』
「ジビエ料理、というものを戴くのは俺も初めてですが、なかなかに美味です」
『まだまだあるわよ~♪』
「皆で作ったお料理の味、きっと忘れないの……☆」
ルーシャンは幸せそうに、仲間たちをにこにこと見ている。
「そろそろデザートでしょうか?」
「なにかあるのであるか?」
「はい、どうぞなの!」
ルーシャンが差し出したのはアケビだった。
「アケビはそのまま食べても美味しいし、栗はね、アリスが栗きんとんにしてくれたのよ。食後のデザートにどうぞなの♪」
「でざーとであるか! さすがルーシャンとアルセイド殿であるぞ!」
泉興京はきらきらとスプーンを手に、デザートを平らげていった。
●ここらで一息、レッツ温泉
依頼が終了した後ではあるが、しかし、一部のエージェントたちの夜はまだ終わらない。
「やっぱり、温泉は……いい」
のんびりと宿の温泉に浸かる佐藤。空にはちらほらと星が瞬いている。
「おじゃまするにゃー」
と、そこへ、音無と猫柳がやってきた。
「星を見ながら温泉に入るのも乙なものじゃの……。秘湯も良かったが……」
桜狐の横で、猫柳は徳利に入れた冷たいお酒……ではなくミルクをお猪口に入れながら飲んでる。
「美味しいのは理解するが、そういう風に飲むものじゃったかのぉ……。風呂上がりに飲むものでは……」
「お酒は飲めない歳だからにゃー。ミルクも美味しいにゃよ?」
一方で、宿の外へと出かけていく組もいる。
「さて、伊奈ちゃん。天然の温泉の場所を旅館の人にきいてきたよ」
『温泉! 待ってました! 行こう行こう』
大宮の提案に、春日部は一も二もなく立ち上がる。
「ねるまえにひとっぷろであるぞ!」
泉興京は、意気揚々とルーシャンを誘いにいく。
「るーしゃんいっしょに温泉入ろうであるー!」
『アルセイドちゃ~んあたしたちも温泉いきましょ~★』
「いくの!」
『はい、準備いたしましょうね』
(もちろんイケメンをばっちり堪能してさらりとセクハラぐふふふ)
『?』
ベルベットの視線に、アルセイドは少したじろぐがにこりと返す。
ルーシャンに手招きされた泉興京は、言われた通りにちょこんと座る。ルーシャンは丁寧に泉興京の髪の毛を梳くと、きれいに結い上げてある。
「きれいな黒髪なの!」
「ルーシャンのむらさきもすきであるぞ!」
二人が準備しているのを見守るアルセイドは、自分の主のためにと準備をする。
(タオルとお召し物、暗くなってきたのでLEDランプも必要かな)
「苦しゅうない。 おお! 動きやすいのである!」
はしゃぐ泉興京を、ルーシャンはにこにこと眺める。
「ついた! ここだね!」
秘湯へとやってきたエージェントたち。
大宮と春日部は、持参した水着に着替える。
『うわっ! あっちぃ!』
お湯に入ろうとしてひるんだ春日部を見て、泉興京とルーシャンは顔を見合わせる。
「はう、ちょっと熱いね……」
「へ、平気であるぞ!」
おそるおそる湯をさわるルーシャンに、泉興京は強がってみるが、やはり熱い。
「火傷しないでね。こっちはいいお湯だよ」
『お、ほんとだ』
「熱くないのである!」
泉興京とルーシャンは、手招きをされて大宮らの側に行く。
『いやぁ~、やっぱり温泉はサイコーだな!』
「景色も最高だね!」
大宮の言う通り、ここはなかなかの絶景である。ほのかな月と星明りの下で、きれいなお湯の上に、ひらひらと紅葉が落ちてくる。
「紅葉も綺麗だし、自然の中で入るお風呂って気持ちいい……♪」
ほうとため息をついたルーシャンは、泉興京をねぎらう。
「今日は桜子ちゃんお疲れ様だったの!」
「ぷち旅行できて楽しかった! また一緒に遊ぼうね……♪」
「うむ! 約束であるぞ!」
一方その頃のアルセイドは、楽しそうな主らの声を聞き、安心して近くの別の湯に浸かることにした。誰もいないと思われていた温泉だったが、ふわりと長い髪が揺れる。
「わ、わ!?」
「ふふふ。あたしよ♪」
「ベルベット殿でしたか……一緒に? ええ、構いませんよ」
楽し気な声を聴きながら、二人はのんびりと景色を眺める。
「普段母性溢れるお姿を見慣れているものですから、少々驚いてしまいました、ご無礼を」
「あたしとアルセイドちゃんの仲じゃない♪」
「……ところで、やはりその、共に入浴するにしても距離が近いのですがなにゆえ……」
「ふふふ」
何とか笑顔でかわそうとするアルセイドであるが、距離をとっただけ距離を詰められる。誰かやってきてくれればと思いながら、攻防を繰り広げていた。
●おやすみなさい
堀内らを筆頭とするメンバーがまだ長く飲んでいるようで、宿はなかなかにぎやかである。
「あれ? いつのまにか布団が敷いてある」
のんびりと部屋に戻ってきたシャーは、二人分の布団を見て首をかしげる。
”勤労意欲旺盛なことだ。キミが敷くべきじゃなかったのかい”
「旅館ってそういうところなんでしょ。はやく寝よう、もう」
”ボクは幻想蝶に入らせてもらうから”
ムチャリンダは、ガネーシャを彫った小さいペンダントの中にごそごそ入っていく。
「おやすみなさい」
小さくおやすみ、と声がした気がした。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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