本部

広告塔の少女~アイドルたちの戦い~

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2016/11/24 14:57

掲示板

オープニング

●挑戦状再び
「………………何よこれ」
「果たし状」
「そうじゃなくて、なによこれ、流行ってるの? そう言うの流行ってるの? だいたいなんでグロリア社に? H.O.P.E.の芸能課に送るべきじゃない?」
「うちもそれだけ大きくなったってことよ、喜ぶべきね。そうだわ、それほどまでに私たちの知名度が上がったことを記念して、パーティーを開きましょう、昔からお世話になっているアイドルたちを誘ってパーティーを……」
「やめて、連鎖的に予定を積み重ねるのはやめて……」
 そう額を抑えて遙華は言った。
「それより内容を読みなさい、ユーモアにあふれてるわ」
 遙華はメガネをかけ直す。
「……私達こそ本物のパフォーマーであることを示し、グロリア社広報部の……私たちのことね。広報部の専属アーティストとして起用を願う。その試験としてまずはリンカーアイドルより優れていることを証明するって……」
 ざっと要約して読み上げた遙華。その表情の青ざめ方を見てロクトは微笑んだ。
「ディスペアって……」
「それにしても『幻想歌劇団ディスペア』ね、厄介な相手に目をつけられたものだわ」
 『幻想歌劇団ディスペア』とは最近流行りはじめたアイドルグループで、バラエティーにとんだメンバー構成が売りだ。演劇、ライブだけではなく、ダンスやボランティア、一組リンカーがいるので戦闘もと幅広く活動している。
「でも、これ一方的な物よね。突っぱねてしまえば……」
「そんなことできるわけないじゃない、グロリア社の広告塔、その名前に傷がつくし、なにより重要なのはこれおいしいじゃない、あちら側からの企画の提案よ」
「どういうこと?」
「アイドルVSアイドルで番組を一本作れるってこと」
「でもそれって、ディスペアが勝ったら、ディスペアとしか仕事ができなくなるってことよね」
「そうね、その通り」
「それはいやだわ……」
「あのねぇ、遙華」
 ロクトは目を伏せた遙華に告げた。
「私たちは慈善事業とか仲良こよしとか、そう言う物で仕事をしているわけでは無いのよ。お金なの、ビジネスなの。名声と利益が全てなのよ」
「それはそうだけど」
「それに……この程度の相手に負けるようならアイドルリンカーたちに価値はないわ」
「そんな言い方ひどいわ!」
 珍しく遙華が怒った。
「それにあなたもね、友人の実力を信用できないと言っているようなものよ」
「そんなことないわ、あの子たちは十分な場数を踏んでるし、経験を持ってる」
「なら番組成立ね、あちら側の相談役には私がつくわ」
「え!」
「じゃないと公平性に欠けるでしょ? 今回はグロリア社は仲介人なんだから」
 なんだかうまく乗せられてしまったと再び頭を抱える遙華であった。


● 種目について
 今回は二種目で戦ってもらいます
1 歌唱
2 戦闘
 基本的にどちらかしか参加できませんのでご了承ください。
 


1 歌唱
 こちらアイドルルールを使用した歌唱勝負です。
アイドルルール
http://www.wtrpg0.com/rule/basic/9

 場所はグロリア社で持っているライブハウス。動員数360名。
 観客をターゲットに、より精神力を削ることのできた方が勝ちです。
 勝負は一本勝負。あちらはディスペア全員で演奏に臨むそうです。
 観客に対しアピールを行って精神力を多く削ることができたチームが勝利です。
 ディスペア側はチームを二手にわけるようです。なのでこちらも二グループに分けるとよいでしょう。


・アネット 瑠音ペア
・梓 クルシェ 小雪 トリオ
 
 
 『観客』
攻撃    ?     防御
狡猾 □□■□□ 純粋
冒険    ?    恋愛
理性    ?    感情
自主 □□■□□ 協調
?になっている部分は不明。
*追加ルール*
歌テーマ効果 
歌にはテーマを二つ設定することができる。テーマは各感情と一致し、相手の感情傾向に影響を与え、その感情の方向に引っ張ることができる。
もともと性格傾向が観客と完全一致だった場合は、与える精神ダメージが1D10増えます

 同じルールを使用しているシナリオが過去にあり、参考にするとわかりやすいかもしれません『広告塔の少女~霊力なんてくだらねぇぜ~』です。
 ちなみにディスペアの感情傾向と謳ってくる歌、そしてテーマ効果についてはわかっていません、今回の勝負で分析することになります。

2 戦闘について。
 参加者はクルシェと梓・アネットペア。つまり戦闘員は二人です。
 百メートル四方の四角い箱のようなフィールドで戦っていただきますが、普通に戦闘してもつまらないので、ラブリーポイント制度を採用します。
 アイドルは戦闘していてもかっこよかったり、可愛くないといけません。よって観客が応援したいと思い、リンカーに対応したボタンを押すと一プッシュにつき一点追加されます。
 これはリンカーが使用を制限すると防御フィールドとして展開され、その点数分のダメージを軽減してくれる、いわば疑似生命点として機能します。
 試合は誰か一人でも生命が20を切ると終了です。
 もしくは時間経過で一時間過ぎると終了。
 こちら側のリンカーは2~4組エントリー可能です。
 クルシェは遠距離も近距離も行けるドレッドノート。
 梓はアルスマギカ主体のソフィスビショップです。どちらも高レベルなので注意しましょう。

解説

●『幻想歌劇団ディスペア』
 さまざまな分野に秀でた少女たちが集まり一つのグループを作り上げた。
 バラバラにもまとまってでも活動できる。
 代表曲は。ヒットチャート五週連続トップ3入りしている『少年A』
 デビュー曲の『トップスタンダード』
 車のCMで使われた『苛烈』などがある。


『アネット』
 ディスペアのリーダー。身長171センチ、漆黒の闇のような長髪と、人形のように白い肌からエルフと呼ばれる。
 少女と呼ぶには無理がある成長しきった体つきだが、気にしてはいけない。
 梓の英雄でもある。

『近衛 瑠音』
 ディスペアのセカンドリーダー。作詞作曲担当、演奏の面ではギター、バイオリン、ピアノ、ドラム、琴と。音楽面の才能もさることながら、歌唱力も高い。
 絶対の音感とリズム感を有する、
 おっとりした雰囲気を纏う水色の髪の少女、メイクなしで夜外に出ると中学生と間違われて連行されそうになるほど幼い容姿だが、一応大学生。
  

『クルシェ・アルノード』
 ディスペアのダンス担当、また声に張りがあり力強い曲が得意。『苛烈』はクルシェが中心となった曲である。瑠音と並んでディスペア二大ろりっこである。
 赤い短髪と常にへそだしルック。
 運動全般が得意で、趣味は機械いじり。
 また、英雄を二人持つリンカーでもある。

『止処 梓』
 かつて空に囚われた少女。これといった才能はなかったように思われたが最近演劇の才能に目覚めた。
 黒髪短髪の少女で純日本人の顔立ち。歳は17才
 常に一生懸命で何事にも前向きに取り組む姿勢の持ち主、意外とファン人気が高いのはライブでは積極的に場を盛り上げようとする姿勢からだろう。

『海崎 小雪』
 一番の新人さん18才、演劇の学校に通っておりその才能はずば抜けていると評判。歌唱では梓とタッグを組むことが多い。代表曲は『取り残された蒼き日々を』
 雪のように白い髪とブルーの瞳はメンバーの中でも特に異質。

リプレイ

プロローグ


「相手のアイドルグループ、えーっと「幻想歌劇団ディストピア」だっけ?」
 ここはグロリア社が持つライブハウスの控室。そこで『世良 杏奈(aa3447)』はティーポット片手にそう問いかける。
「ディスペアよ杏奈」
『ルナ(aa3447hero001)』は引きつった笑みを浮かべ、杏奈の言葉を訂正した。
 別に杏奈が変なことを言ったわけでは無い、単に緊張がピークに達し、先ほどからこの調子なのだ。
「いい香りなの」
『泉 杏樹(aa0045)』は紅茶の香りで穏やかな表情を取り戻す。
「いや、私の役目が奪われてしまいましたね」
 ビラ配りから戻った『榊 守(aa0045hero001)』がそう苦笑した。
「ルナが頑張るっていうんですもの、私も全力でサポートしないとね。はいそちらの方も」
 杏奈がカップを差し出すと『九重 陸(aa0422)』が受け取る。
「ああ、ありがとう。そうだ、挨拶が済んでなかったすね」
 そう告げると陸は遙華含め全員に一礼する。
「九重 陸っす。此方でお仕事させていただくのは初めて、っすよね? よろしくお願いします」
「俺は井合 アイです。まあ俺の事は、こいつのマネージャーみたいなものと思っていただければ」
 そう陸の肩に腕を乗せ、グイッと押し入ってきたのは『(HN)井合 アイ(aa0422hero002)』
「よろしくね」
「今回、初お披露目の姿で頑張るからね!」
 ルナが緊張を振り払うように拳を突き上げる。
「杏樹も初ステージなの」
 そう告げてティーカップを置くと『小詩 いのり(aa1420)』が杏樹の首に腕をからめた。
「アーン、緊張してるかな?」
「大丈夫なの、おちついてるの。アルさんは?」
『アル(aa1730)』は白く揺蕩う童子『白江(aa1730hero002)』の前に座り目を閉じていた。
 白江がアルの肩に手を置く。
「わかってるよ」
 アルは目を開いた、そして、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「ボクが見るのは目の前の対戦相手じゃない。何年……何十年も先の、観客達の心だ。ボクは、来てくれた人達に光を届けるだけだ」
 だから、アルは立ち上がりいのりと杏樹を見つめた。
 それと同時にアルの背後でモニターに明かりが灯り、ライブ会場の様子を映し出している。会場はぱっと身でわかるぐらいに超満員であった。
「勝つ! ……のは当然だけど」
 アルはそう告げて皆を見渡す。
「叩き落とすためだけのものとして見られて
それにグロリア社もバカにされて悔しい」
 その場にいる全員が頷いた。
「ありがとうみんな」
 遙華がそう胸に手を当てつぶやいた。
「でもでも、ボクはディスペアと良い関係でありたい」
「あ、でもうちのマネージャーが、乗り込んでいきましたから……無理かも!」
『蔵李・澄香(aa0010)』が申し訳なさそうに手を挙げた。
「大丈夫よ、あなたのマネージャーはあなたに必要なことをちゃんとわかってるわ」
 遙華が告げる。
「そんなことより、観客がお待ちかねよ。さぁ、ステージへ」
「……やっぱ俺は、歌よりヴァイオリン弾いてる方……」
 尻込みし始めた陸にアイは言う。
「まあアイドルに比べて冷遇されてる感はあるけど、需要がないのは仕方ないよ。それに案外ここで人気が出て、ヴァイオリンのお仕事も増えるかもよ?」
「それに、歌詞なんて考えてくれなくても作詞くらい自分で出来るのに…」
「いやいや。作詞までさせたら陸、一日中引き篭もってるだろ。俺も陸のお母さんには世話になってるし、あんまり心配させたくないなぁ」
「……」
「ほらほら、いつまでも膨れてないで。アイドルは笑顔笑顔!」
 そう自身の首に手を当てながらも、陸は一つ笑って見せた、顔が赤らんでいて、照れているのが丸わかりだったが。
 アイは及第点を与え、笑いをこらえながっら陸を先導して歩く。
「よーし、上出来! さぁ行こう!」

 全員がステージに上った。


第一章 


 MCである遙華とロクトが壇上で話す中、舞台袖の歌唱班はソワソワと落ち着かない様子だ。
「杏樹の、初ライブ、一人でも多く、癒したい」
「ボクは沢山の人に光を……」
「みんなで楽しく、やってよかったなぁって思えるステージを作ろう!」
 そういのりが拳を突き上げて、手の平を見せると二人は飛び上がってその手に自分の手を重ねた。
「私の記憶に残るこの歌、これを知っているという英雄さんがいればその方はきっと……」
『黒鉄・霊(aa1397hero001)』は書き起こした楽譜を装甲の中にしまい込むと、その背にアンプをがしゃーんと接続した。
「なるほど、そういう探し方もあるわけか……」
『五郎丸 孤五郎(aa1397)』がそのアンプの配線を確認。
 控室では『卸 蘿蔔(aa0405)』がモニターを眺めている。そんな蘿蔔の隣に立ち『レオンハルト(aa0405hero001)』はフムと考え込むしぐさを見せる。
「目的は何だろうな。仕事にお金……名声。歌。それとも……」
「考えすぎかもですが、交戦もしますし少し調べましょう」
 その直後である、控室の扉を押し開けるように『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』そして『セバス=チャン(aa1420hero001)』が入室する。
「ああ、クラリスおかえり」
 レオンハルトが軽く手を振ると。クラリスはげんなりした表情で告げる。
「疲れました……」
「何かあったんですか?」
 蘿蔔が問いかけるとセバスはいつもの調子で語り始める。
「不思議な雰囲気のご令嬢でしたな」
「ええ、それ以前に腹の探り合いが意外と面倒くさくて……」
 そう告げると、クラリスはことの次第を話し始めた。

   *   *
 
 時間は少し戻って開場前。
 それこそ、榊がビラを配ったりしていた頃。
 ディスペアの楽屋にセバスとクラリスが訪れた。
「いらっしゃい、入って」
 そうロクトが二人を通すと、落ちつき椅子に座って本を読んでいるアネット。そしてメンバーに指示を飛ばしている瑠音がまず目に入った。
「あら」
 アネットが足を組み替え微笑む。
「モノプロダクションの皆さまですね。ご機嫌いかがでしょう、アネットです」
 そう立ち上がりうやうやしくお辞儀をしたアネット。
 そんな彼女を見てセバスは思った。ぞっとするような美しさをもった女性だと。
「今回もよろしくお願い致しますぞ。ところで――」
 そうセバスが話を続けようとすると、アネットは指を一本たてて声を遮った
「ああ、大事な話みたいね、瑠音も席を共にしても?」
「構いませんよ」
 そうクラリスは答える。
 瑠音は音楽担当だと聞いていたが、実は裏方を一手に引き受けていたのだと、二人は知った。
 メイク、演出、衣装、全てに細かい注文を出す瑠音、そしてスタッフはそれに大人しく従っている。
 そんな作業の最中でも、アネットの声は聞き洩らさないのか、お呼びがかかると雰囲気を改め落ち着いた様子で歩みより、二人に手を差し出した。
「近衛 瑠音です、よろしくお願いします」
「彼女が実質私たちのブレインなんですのよ」
「いえ、そんなこと……ないです」
 そう小さくはにかむ瑠音はとても可愛らしかった。
「では、本題をどうぞ」
 アネットがそう告げるとクラリスは語り始める。
「まず、グロリア社と癒着を疑いでしたら、誤解です」
「ええ……」
「具体的額は守秘義務ですが、モノプロのアイドル収益は滅びの歌被害への寄付金となっております。断たれるのは困ります」
「なるほどですね」
 瑠音は何やら書き留めなが告げる。
「此方が勝った場合のそちらのペナルティは考えていますか? 独占禁止法もありますし、結局お互いに不利益です」
「あ、やっぱりそう思いますよね」
 そう瑠音は口元を隠して、罰が悪そうに告げる。心なしか顔が赤らんだようにも見えた。
「ほら、アネットちゃん。やっぱりこれ自体意味がないよ」
「ちゃんをつけるのはやめてくださらない?」
「ごめんなさい、私達としても、話題性を狙っただけで。こんな角の立つものにしたくはなかったんですが」
「やるからには勝ちましょう、そして勝ったなら何かをいただきましょう」
「……リーダーがこんな調子で編にやる気で」
「はぁ……」
 たじたじのクラリス。
「だから、私の筋書きとしては……」

  *   *
 
 洗いざらいすべてをその場にいる全員に話したクラリス。
「あちらの予定としては、もしディスペアが勝った場合でも、復讐戦という形で、またバトルをしませんかという、提案をするつもりだったらしいですね」
 クラリスがため息を一つつくと、セバスが言葉を繋ぐ。
「つまり、グロリア社の専属枠を巡ってバトルを繰り返すという、連作番組の提案が目的だったようです」
「うーん、それって本当なんですかね」
 蘿蔔は首をかしげた。
「たとえばリンカー側が何度も敗北した場合なんて、どうなるんでしょう」
「それは……」
 クラリスはモニターに視線を移す。
 そこに映し出されていたのはアネットと瑠音。厳正なるじゃんけんの結果彼女たちがトップバッターを勝ち取ったのだ。
 そして彼女たちが歌ったのは『鎖縛確死失楽園』歌テーマは攻撃。攻撃。

《さぁ、楽土焦土と化すがいい、ひび割れた残響。喝采があたしたちを待っている》

《ここは極楽ユートピア? 違うね、私達が塗り替える。ここは神に見放された失楽園。私達に絶対者なんて必要ないから》

 先ほどの雰囲気とはまるで逆の荒々しいステージパフォーマンスに会場は異様な空気に包まれる、陶酔しているようなまなざしが多く見受けられた。
「まるで、いつかの聖女の様ですね」
 そう蘿蔔はつぶやいた。
 そして次は澄香チームの出番が回ってくる。
 アネット達が退場すると、ステージが暗くなり中央に明かりが灯った、中央にたっていたのは陸。

『テレパスピピピと受信して
 君と第一種接近遭遇
 だけど本心は観測不能
 僕は未確認飛行男子』

 パーンとはじける光、登場するのはミニスミカ、そしてギターサウンド高らかに黒鉄がアンプから音を振りまいていく。

「いのり、見ていてね」

 そして澄香は壇上に躍り出る、ステージ中央で大きく飛び、つま先から、指先から、謎の光に包まれて、空中で魔法少女が観客の視線を一手に集めた。
「魔法少女クラリスミカ!」
 会場から歓声が上がる。
「ではメンバーを紹介していきますね。まずはロボットヒロイン『F-204カスタム、ゲシュペンスト・アイゼン』さん」
 目にも留まらぬ指捌きにワイルダネス・ドリフターが心地よい悲鳴を上げる。
「仮面のヴァイオリニスト『九重 陸』さん、そして曲は『未確認飛行男子』」
 明るい曲調に深い歌詞を載せ、陸は観客に言葉を届けていく。
 心を守るために不思議くんを装うが。人との繋がりを求める純真な気持ちを持っている、そんな男の子がテーマの楽曲で、間奏では自らヴァイオリンの音を重ねる。
 激しくかき鳴らす『Fantome V1』を取り出しソロを奏でる。
 煌く汗が眩しい、そのメロディーラインに黒鉄のギター音が重なり、そして直後転調。
 会場の中心が爆発した。その爆炎を払って現れたのは澄香。
「Heroic Utopia!」
 グロリア社のテーマソングに「ユートピア」をロック調でアニソンを意識したヒロイックアレンジの曲。
『さあ、勝負の時だ』
 エンジェルスビットを展開すると、そのスピーカーにミニスミカが乗った、小さなステージだったが、そのスペースの中でちょこちょこと踊る様はとても可愛い。
『立ち向かおう、皆で』
 澄香自身も風にのり、高らかにステージを舞う。
『立ち上がろう、己の力で』
 そう澄香は右手を銃の形にすると、バーンとつぶやいて銀の魔弾を放った。
 それはエンジェルスビットに反射されながら、ライブハウス内を駆け巡り銀色の光を舞わせていく。
 そして黒鉄がかき鳴らすサウンドを最後にいったん音が途切れた。
 直後暗くなり。ステージの中央だけが照らされる。
 その中央に黒鉄が躍り出る。
「どうか皆さん聞いてください」
 黒鉄を白色光が照らす。今まで見えにくかったが、黒鉄の体の傷が生々しく光を反射し、その痛々しさに観客は悲痛の声を上げた。
「私は英雄です、違う世界から来ました」
 澄香の澄み渡るようなコーラスが場を満たす。
「記憶を失って、この世界に来てそれなりに楽しく日々を送っています」

「けれど、私は大切な何かを失ってしまった気がしてならないんです」

「私は元の世界のことが知りたい、だから、この歌とこの言葉『KV』という言葉に聞き覚えがある方がいれば名乗り出てほしいんです」
 そう必死に訴える黒鉄の鎧傷が見る見るうちに塞がり、輝きを帯びる。
「この曲だけが、私達を繋ぐ唯一の道しるべ、聞いてください」
 そして音を放つようにギターをかき鳴らす黒鉄。
 歌詞も曲も全て黒鉄の記憶に頼ったものだが、その旋律は確かな響きを持っている。
「攻めれば蹂躙、守れば鉄壁と称され無類の強さと固い結束を誇った仲間たちが集う大庭園、私はそれがどうなったのかを知りたい」
 そう歌い上げる曲は人の魂を奮い立たせる様な熱いサウンドに満ちていた。

 そして喝采の中、三人のステージは幕を下ろした

 舞台袖に下がった陸。その顔面にタオルが投げつけられた。
「で、どうだった?」
 アイが問いかける。
「そうっすね……まあ、たまには悪くなかったっす」
「素直じゃないねー。コンクールで機械の腕を理不尽に非難された俺には他人事じゃないって、言ってたのは誰だっけ?」
 きまり悪そうにそっぽを向く陸。
「なんだかんだ言って楽しそうに歌うねぇ」
 孤五郎は共鳴を解くと黒鉄に告げた。
「それはもう、元いた世界の元の私ではどんなに望んでもできないことでしたから」
 そう告げた黒鉄はどことなく寂しそうで、孤五郎はそのボディーに手をかける。
「最重要のピースが欠けてもなお鮮やかに輝き続ける、過酷を極めたあの世界にあっても人の温かさを失わなかった大切な場所とそこからの旅立ち……この場合は巣立ちでしょうか?」
 そんな黒鉄の体をぺちぺちと叩く遙華。
「黒鉄、前より大きくなってない?」
「それはほら……なんといいますか。視力検査の上限が2.0から2.5になったようなもの……と言えば伝わるでしょうか?」
「うーんわからないわ、お持ち帰り案件ね、あ、ディスペアの演奏が終わったわ」

第二章

 クルシェ、梓、小雪は『苛烈』を謳った。属性は攻撃と狡猾。
 あらゆる手を尽くしてでも、君を引きずり落とす、そんな呪詛を込めた曲だが、クルシェのアレンジでとてもかっこよく、スタイリッシュに聞こえるあたり、音楽は奥が深い。
 そしてついにおおとり。
 ステージにはすでに杏樹がいた。
 その杏樹は舞台上に腰をおろし、そして切なげに観客へと手を伸ばす。
「皆に、癒しの音、届けます」
 しみいるような曲が、会場を満たす、いつの間にか展開されていたエンジェルスビット、そしていのりの奏でる旋律。
 その中で杏樹は足を滑らせるように起き上がり、舞う。
 扇子を開いて、着物の袖の端まで意識が通っているかのように硬質に。
 しかし、桜の花びらのように儚く、柔らかく、そして。
 いのりが、マイクに魂を吹き込むように告げた
「ボク達、新ユニット『茉莉花(ジャスミン)』だよ、トップバッターは、今日デビューしたてホヤホヤ、杏樹で曲は」
 アルの背と杏樹の背がぶつかった時、杏樹は目を開いた。
「『1cm』」
 そうぽつりと告げると、杏樹は息を吸い込んだ。

『1cm届かなかった。
それが永遠の別れだった。
救えなかった後悔に今足すくわれる。
ずっとあの人を忘れられない』

 そう杏樹はアルの手に指をからめる。

『気づいて俯いた貴方に手を差し出してる人がいる』

『1cm届かないと。
貴方の笑顔がみたいと。
救えない悔しさに今唇噛み締めてる。
絶対貴方を忘れたりしない』

 繰り返す1cmという言葉、それに後悔と切望が滲んでいる。
 彼女には見えているのだ、救えず蹲って涙する。
 そんな誰かの姿が。

「杏樹は、そんなあなたが、どうすれば楽になれるのか、ずっと、答えを探してるの」 
 そう曲の感想でつぶやいた言葉、それは音響や照明を管理している榊の耳にも届いていた。
 彼は一つ笑うと、頷いて告げる。
「そうだな、探そう、みんなが幸せになれる結末を」

 杏樹は顔を上げた。
 
『今は立ち上がれなくても』

 いのりとアルのコーラスが熱を増して入り込む。

『1cm手を伸ばして。
貴方を癒したい』

 そう余韻を残してしみいる残響。

 それを噛みしめている間に、アルと杏樹はピアノのそばへ。
「いのりん♪ お願い」
いのりにバトンタッチというポーズ。
「素敵だったよ、アン! 続きは任せて!」
 そして響くのはいのりのピアノソロ。浸るような旋律。奏でるのは月の音のアレンジ。
 ピアノを弾きつつもエンジェルスビットの配置を常にかえつづける。
 それはまるで一つの世界を織りなすかのような繊細な作業。
 それ故に観客はその世界に飲まれていく。
「へぇ」
 アネットは舞台袖でそう感嘆の声を漏らす。そして瑠音に問いかけた。
「どう思います? 瑠音」
 真剣な顔をして聞いていた瑠音。
「ピアノなら私の方がうまい」
 そんな二人に歩み寄るのは白い影。
「これは、なんですか?」
 アネットは振り返る、そこに立っていたのは儚げな童子、白江である。
「任務で亡くなった方を何人も見て」
 そう白江は舞台上のアルを見やる。
「遺志を継ごうと命をかける。ある達は、そんな彼らと共に歩む覚悟を決めた。命を賭す。
貴女達は、グロリア専属となる本当の意味。当然理解していますよね?」
 そんな童子にアネットは告げた。
「意味とは後からついてくるもの、ちがくて?」 
 その言葉に白江は目を見開いた。
「そして、前提としてあった意味など無意味、我々は新しい物を作っていく、古めかしいものを排除して。ね……」

 そして壇上ではいのりに当たっていたスポットライト、それが徐々に明度を落していく。

 真っ暗になる会場、ざわめく会場。しかしその中心に輝きを放つ少女が一人。

「まだまだボクらの歌は終わらない! アル、任せたよ!」
 そしてアルが歩みだすと、ステージの全面だけ灯りがついていく。
 柔らかく、暖かな光。男色の光を纏ってアルの背後でモニターに明かりが灯る。

【進むことの反対は止まることじゃないの】

 柔らかく、誰もが待ち望んでいた声が響く。
【そこから一歩も動こうとしないことたよ』
 これは杏樹の曲へのアンサーソング。
 杏樹と再び背を合わせ、悲しむ少女へと言葉を届ける。
 
【俯いてもいいよ
涙しても後ろにちょっと戻ってみてもいいの。
でもどうか、歩くその脚はとめないでね】


 背後に映し出されたのは、『あなた』を演じるアルの姿。
 ただし目元は映っていない、誰しもが主役になれるという意思表示。

 そしてアルは暗闇の中へ落ちる、杏樹の声が響く。
 歌うのは1cmの歌詞。
 観客を見据え再び声を響かせる。 

『1cm届かないと。
貴方の笑顔がみたいと。
救えない悔しさに今唇噛み締めてる。
絶対貴方を忘れたりしない』

 アルが杏樹の背にもたれかかる、その小さな体は杏樹の背に隠れてしまう。
 その儚く、いつ飛び去ってしまうともわからない少女を、手を握りしめて、杏樹はその場に繋ぎとめるのだ。

【一歩また一歩あるいていこう。大丈夫】
『今は立ち上がれなくても』
 そう杏樹はアルへと向き直り。
【貴方が笑顔でいる限り。私は貴方の中で生き続けるから】
『1cm手を伸ばして』
 その手を差し伸べて。
【貴方のその一歩で】
『貴方を癒したい』
 涙ぬぐう彼女と手を取って。
【1cmの心の隙間、埋まりますように】
 会場はいっぱいの光に包まれる、二人はシルエットとなって、それもまた光の中へ。

 大喝采に包まれる会場。

「皆大好きなの。これからも、頑張ります、です」
 そう杏樹が頭を下げると、いのりとアルが両脇から抱き着いてきた。
「やったね! ボクら全力を出せたと思う! 素敵な時間だった!」
「ありがと、です。2人の、おかげで、最高のライブ、だったの。楽しかったです」


第三章 

「どっどうしよう杏奈、すごく緊張してきちゃった」
――大丈夫よ。いつも通りのルナでいればいいんだから♪
 そうルナ主体で共鳴している杏奈は楽しそうに告げた。
「はい、これ、メンテしておいてあげたわ」
 そんな二人に秘密兵器を手渡す遙華。そして隣にあるレバーをガチャリと下ろすと、ライブ会場を突如振動が襲った。

 続いて行われるのは戦闘。

 ステージは謎の機構で地面に飲まれ、新たに登場したのは地下闘技場への道。
 そこへ送り出されるのはルナと蘿蔔。
「大丈夫です。歌が響いている限り、私負けません」
 戦場の周囲を太陽と月のエンジェルスビットが浮遊する。
 そして戦場に降り立った蘿蔔は遙華に向けて告げた。
「私絶対勝ちます。一緒にお仕事もっとしたいですから」
「信じてるわ、蘿蔔」
「では、あちら側の提案をディスペアが飲んだので、フィールドを半分にした、一対一の戦闘をはじめるわ」
 そう告げたのはロクト、そして言い切らないうちに闘技場の扉は閉ざされてしまった。
 そして戦闘システムについて説明が入る。ラブリーポイント制などなど。
 そして説明が終われば戦いのゴングが鳴る。
「いきます!」
 蘿蔔は駆けた。銃を構えクルシェに狙いをつける。だがまるで鏡のようにクルシェも銃を構えた。
――ハウンドドッグ! 
 レオンハルトが驚きの声を上げる。
 そして放った弾丸はお互いの弾丸が空中で激突、ややそれてお互いの肩口に突き刺さった。
 お互いに駆け回りながらの銃撃戦が繰り広げられる。
「かなちゃんもドレッドノートだったな。最近考えるんです……もしも、再び現れたらどうしよう、戦えるのかなって」
――よそ見をしてる暇はないぞ、蘿蔔。
 眼前の赤髪が彼方と重なる、しかし彼女はもうこの世界にいない。
 だから目の前にいるのは。
「やっぱり、私はこれだよな!」
 クルシェ、そして彼女はもう突進しながら、振り上げたのはスパナ。
 いつの間にか接近を許していたのだ。
「そんな……」
 轟音、そして土煙が上がる。
 対してルナは。
「変身」
 全身が光に包まれ、衣装がきらびやかな物に替わる。
「皆さん初めまして! ルナティックローズです。今回が初めてのステージなんだけど、一生懸命頑張るから応援よろしくね!」
 そうウィンクを観客席に投げる、すると湧き上がる歓声。
 さっそくポイントが加算されていく。
「ずるい!」
 梓が指をさして抗議する。
「あんな可愛い生物に勝てるはずない!」
――そう言うルールでしょう? ずるくないわ、あなたも見習うといいのよ。
 お互いに初手は拒絶の風。そしてルナはアルスマギカを開く。
「奇遇ね」
 梓も同じ本を開く。
 直後展開される魔方陣、雨のように放たれる魔法弾。
 そんな激化する戦場を見つめ、いのりと澄香は手を繋ぐ。
「さ、いのり。歌おうか。ルネは私たちの領分さ」
「アーティストとして色んな人とセッションすることはあっても、やっぱりボクの場所はここ――キミの隣だよ」
『空の歌~Stella~』が会場内に響き渡る。 
 そしてその歌に自分の歌を重ねる蘿蔔。
 目の前に迫るスパナを、半透明なシールドが止める。誰かがボタンを押したのだろう。
「歌いながら戦ってる?」
 蘿蔔は謳いながらも、信じられない精度で狙いをつけている。
 テレポートショット、その弾丸がクルシェの手をかすめ、クルシェは武器を落した。
「奥の手!」
 そうクルシェはいったん距離を取り、幻想蝶から武器を召喚しようとする、しかし。
 それを許す蘿蔔ではない
 あらかじめ放ってあった弾丸、それがエンジェルスビットに当たって軌道を変え、そしてクルシェの腕を穿った。
 痛みで幻想蝶を落すクルシェ。そんな少女に蘿蔔は銃を突きつける。
「実戦でないとはいえ、これ以上貴女を撃ちたくないです。降参してくれませんか?」
 そんな蘿蔔の髪を爆風が揺らす。膨大なエネルギーが衝突したせいだ。
 見れば爆風を切り裂いてルナは進み、梓の懐に潜り込んでいた。その手に握られていたのは『ルナティックステッキ』
 宝玉が虹色の輝きを放つ。
――ゼロ距離で最大最速。
「プリズム・バタフライ!!」
 あふれ出た蝶、それが梓を包み込み、そして。
 前後不覚、全く戦える状態でなくなってしまった梓を見かねてアネットは告げた。
――勝負ありね。
「まけたよ」
 それを見つめてクルシェも降参する。
「……その、よかったらまた勝負して下さい」
 そう手を差し出す蘿蔔。
 この勝負歌唱側は茉莉花が圧倒的投票を経て勝利。
 戦闘側もグロリア社側の勝利となった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422
    機械|15才|男性|回避
  • 叛旗の先駆
    (HN)井合 アイaa0422hero002
    英雄|27才|男性|ブレ
  • 汝、Arkの矛となり
    五郎丸 孤五郎aa1397
    機械|15才|?|攻撃
  • 残照を《謳う》 
    黒鉄・霊aa1397hero001
    英雄|15才|?|ドレ
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • 見つめ続ける童子
    白江aa1730hero002
    英雄|8才|?|ブレ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
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