本部

【屍国】絶望を導者

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/12 07:25

掲示板

オープニング

●包囲
 まるでお堂全体が揺れているかのように壁を叩く音が響く。
 お骨になって安置されていたはずの墓から這い出してきたゾンビ達が壁を叩く音。
 絶望へと誘うノックだ。
 ここに居る者は皆ゾンビ達から逃げ出してきたのだ。
 だが、この場所に逃げ込んだのは誰もが間違いだったと思っている。
 どこまでも走って逃げるべきだったのだ。
 こうして囲まれてしまえば逃げる場所など無いのだから。
 まだ壁は持ちそうだが、いつかは壁を崩されゾンビ達に喰い殺されるだろう。
 逃げてくる途中で見た人達のように。
 浮かび上がって来る凄惨な光景を頭を振って追い払い
「救援はまだなのか!?」
 何度目かも判らない言葉を市川 旭はスマホにぶつける。
 市川のスマホはH.O.P.E.に通報して以来繋がったままである。
 もうすぐ着く。
 返ってきたのはさっきから何度も聞いたのと同じ内容だった。
 スマホを投げ出したくなる衝動を我慢してお堂の中を見回す。
 今ここに居るのは二十三人、しかも無傷の者はたった五人で他は逃げてくる途中でゾンビに襲われ怪我を負っている。
 一応、応急処置は看護師だという二村 優理が行ったが、まるで毒でも含まれているかのように怪我をした者の症状は急激に悪化している。
「ホント、どうなってんだよ」
 呟いて市川は自分の指先に目を向ける。
 その手は驚くほどに青白く、まるで人形のように血の気が無い。
 この肌の変色は指先だけでなく体全体に広がっていて、今もじわじわと目に見える速度で徐々に広がってきている。
 市川は妙な疲労感にズルズルと背をつけて座り込む。
 その疲労感はここまで走って逃げてきたことによる物だけではなさそうだ。
 見上げる頭上には阿弥陀如来の姿が見える。
「どうぞ」
 かけられた声に視線を向けると二村が饅頭とお茶のペットボトルを差し出していた。
「お供え物だったんですけど、仏様も許してくれると思います」
 まだ二十代だと思われる彼女の顔にも疲労の色は濃く、本来は健康的な色をしているはずの頬は市川と同じように一部が青白く変色している。
「ありがとう」
 そう言って受け取った市川の隣に二村も腰を降ろす。
 金佛阿弥陀如来坐像の正面であるこの場所からは締め切った入り口が正面に見える。
 比較的新しいこの善楽寺のお堂の造りは意外に頑丈で扉はまだまだ持ちそうだ。
「座るともう立ち上がりたくなくなりますね」
 何気ない二村の一言はきっと本心だ。
 市川が何か言おうと口を開きかけた時、お堂の内部に悲鳴が響いた。
 
●救援
「見えました!」
 ヘリのパイロットが指差す先にあるのは四国八十八霊場 第三十番札所 善楽寺。
 普段は参拝客で賑わう境内を今はゾンビの群れが覆い尽くし、避難者達が隠れているというお堂をゾンビ達が壊そうとするように叩き続けている。
「どうします? あの中には降りられませんよ」
 パイロットの言う通り、境内に降りるのは不可能と思ってよかった。
『屋根を破って直接中に入ってください』
 H.O.P.E.のオペレーターからの指示が届く。
 避難者の中には一刻を争う怪我人もいるとの事で時間を掛けられないと判断したらしい。
 提示された作戦はお堂の屋根を破り中に侵入して遭難者をヘリで吊り上げて救助するというものだった。
 一度に吊り上げられる人数、それにヘリの収容数には限界があるので何度かに分けて救助する必要があるが、外からゾンビを倒していくよりは早いとの判断だった。
『作戦の判断自体はエージェントの皆様に……』
 いつものセリフを言いかけてオペレーターが突然言葉を切る。
『中にゾンビが現れたそうです! 考える時間はありません。すぐに行ってください!』
 オペレーターの叫び声がヘリのキャビンに響いた。

●絶望
 響いた悲鳴に市川も二村も疲労感を振り払って立ち上がる。
 悲鳴を上げた女性は市川や二村と同じようにまだ動ける状態の人だった。
 彼女も怪我人の世話をしていたはずだ。
 その彼女の顔は恐怖に引き攣り金縛りにあったかのように硬直している。
 ゆらりと何かが立ち上がった。
 それはゾンビであった。
 腐った顔の肉がベロリと剥がれ落ちて弾けるように眼球が破裂する。
 目から流れ落ちる腐汁はまるで涙のように爛れた頬を伝っていく。
 そのゾンビが着ている服には見覚えがあった。
 一番重傷だった男が着ていた服だ。
 そのゾンビが女性に襲い掛かり、女性の首筋にゾンビの歯が喰い込む。
 食い千切られた首筋から噴水のように血が吹き上がり女性が後ろ向きに倒れる。
 女性が床に倒れた音が合図だったかのように悲鳴が連続して起こった。
 パニックになり右往左往と逃げ惑う人達の中で市川は動くことが出来ず倒れた女性から目を離せずにいた。
 もう生きていないと思われる女性の体全体が市川の指先と同じ青白い色へと変色する。
 そして見る間に腐敗していく。
 すぐにゾンビと変わらぬ外見になった女性がゆらりと起き上がる。
 女性のゾンビが柱に掴まる男性へと目を向ける。
 男性は足を怪我しており上手く動くことが出来ない。
 女性のゾンビが男性に手を伸ばす。
 必死に逃げようと後退った男性がバランスを崩して尻餅をつく。
「ダメだ!」
 咄嗟に叫んで近くにあった燭台を掴んで走る。
 ギリギリで間に合った。
 女性のゾンビの手が男性に届く前に燭台で殴り倒す。
 倒れた女性のゾンビを無視して転倒した男性を助け起こしてその場を離れる。
 男性の傷口に巻かれた包帯は赤く染まり滲み出した血が市川の服を汚していく。 
 再び悲鳴が上がる。
 慌てて視線を向けるとさっきと同じように誰かが腐敗していく姿が見える。
 服装からすると女子高生だ。
 確か、寺の前で見た事の無い若い男の僧侶と話していた少女だ。
 彼女は皮膚の色は誰よりも変色が早く気分が悪いとは言っていたが、怪我を負ってはいなかった。
 慌ててお堂の中を見渡すと二村が怪我人に肩を貸して最初の男のゾンビから逃げている姿が目に入る。
「何がどうなってるんだよ!」
 思わず叫んでいた。
 抱えていた男性がこちらを向いたように思い市川も視線を向ける。
 視線の先、ほんのすぐ近くに腐った顔があった。
 腐臭が市川を包む。
 咄嗟にゾンビへと変わった男性を突き飛ばす。
 その反動で市川自身も足がもつれて尻餅をついてしまう。
 女性のゾンビと男性のゾンビが揃って市川に迫る。
 立ち上がる時間も惜しく必死に這って逃げた市川の視線の先にいつの間にか落としたスマホが目に入る。
 縋りつくようにそのスマホを手に取り助けを求めた。
「早く! 助けてくれ! ゾンビだ!」

解説

●目標
・無事に生きて帰還する事

●状況
・お堂の外のゾンビは数えきれないほどです。
・どこにどう降りるのかはPC達次第です。
・最初の一人目のPCが中に入った時にゾンビへと変化していく様子に遭遇します。
 何人目の犠牲者かは、いかに迅速に突入できたか次第です。

●お堂の中
・明りは充分にあるので視界の不安は無いとしてください。
・広さは十五メートル四方の正方形で天井までの高さは五メートルです
・中央に五メートル四方の台座が有り台座含めて高さ四メートルの阿弥陀如来像が有ります。

●別動隊
・すでに後続の救援は手配されていますが到着には三十分かかります。
・三十分耐えさえすれば、外のゾンビは別動隊が引き受けてくれるので逃げ出せるでしょう。

●避難者
・まともに動けるのは市川と二村だけです。
・他の人達は動けない訳ではありませんが一人で逃げられるような状態ではありません。

●ゾンビ
・死んだ者はゾンビとして蘇ります。
・怪我人もいるので時間と共にお堂内部のゾンビの数は増えていくでしょう。

リプレイ

●突入
『中にゾンビが現れたそうです! 考える時間はありません。すぐに行ってください!』
 オペレーターの言葉にすぐに反応したのは鬼灯 佐千子(aa2526)とアカデミック・ミリキー(aa4589)だった。
「ヘリを寄せて!」
「すぐに上から突入すると伝えてください!」
 鬼灯のパイロットへの言葉とミリキーのオペレーターへの返事が重なって響く。
 キャビンのドアを引き開けて鬼灯はリタ(aa2526hero001)と共鳴する。
 露わになった機械の手足を隠すことも忘れて鬼灯はライヴスガンセイバーの斬撃をお堂の屋根へと撃ち込む。
「……今回は……治療の……お急ぎ便……だよ……」
 お堂の屋根に開いた穴に向かって藤岡 桜(aa4608)が身を躍らせる。
『はい。行きますよ、桜』
 翼をもつパートナーのミルノ(aa4608hero001)の意識が最適な落下姿勢を共鳴した藤岡の体にとらせる。
「私達も行くよ!」
 藤岡に続いて目についたフライトジャケットを羽織って鬼灯もヘリから飛び出す。
「では、我らも行くか」
 二人の後を追うようにエミル・ハイドレンジア(aa0425)もヘリから降りる。
 もっとも、その姿と異なり口調はパートナーであるギール・ガングリフ(aa0425hero001)の物でエミル自身の意識は共鳴した体の中でスヤスヤと睡眠中である。
 別段その事を気にする様子も無く、ギールもお堂の中へ降りる。

 お堂の中の人も異形も全てが突然開いた天井の穴とそこから飛び込んできた三つの人影を見上げている。
「……あれが……ゾンビ……まずは……安全の……確保……」
 見えるゾンビの姿は四体。
『早々にお引き取り願いましょう』
 二対四枚の漆黒の翼を広げて速度を調整して藤岡は怪我人に肩を貸す二村とゾンビの間に降り立つ。
「天使……」
 驚くような二村の声を聞きながら振るったデビルブリンガーがゾンビを斬り払い骸へ還す。
「……もう……大丈夫……だよ」
 振り返りそう言った藤岡の目に二村が肩を貸している怪我人の姿が映る。
 すでに息も浅く死に捕らわれたその怪我人の肌はほとんどが青白く変色していて今も僅かに残った部分を覆うように変色は進んでいる。
 皮膚の全てが変色するのと怪我人の命が尽きるのは同時だった。
『桜!』
 ミルノの声に藤岡が事切れた怪我人から二村を引き離して抱き寄せる。
 支えを失って倒れた怪我人の体がゾンビへと変化して再び起き上がった。
 
 藤岡に続いて飛び込んだ鬼灯の目に飛び込んできたのは少女を襲う制服姿のゾンビの姿だった。
 空中で斬撃を放ち鬼灯はそのゾンビの足を斬り飛ばす。
 足を失ったゾンビは膝をつくように床に落ちるが、その動きはまだ止まらない。
 残った腕で這うようにして少女へと近付く。
「いや……来ないで……!」
 腰が抜けたように立ち上がれないまま後ろ向き這うようにして逃げる少女の背がお堂の壁に当たる。
 人の姿をした者を斬る躊躇いを無理やり意識から追い出して鬼灯は斬撃を放つ。
 その斬撃がゾンビの体を断ち割る音を鬼灯が着地する響くような重い音が打ち消す。
「H.O.P.E.エージェントです。……助けに来ました」
 少女の視線が鬼灯の言葉から力を奪う。
 その視線は鬼灯のむき出しの手足に向いている。
 恐怖に驚きの入り混じったその視線から逃げるように逸らした鬼灯の視界に藤岡と怪我人に肩を貸す二村の姿が映る。
 その怪我人の姿に何か違和感があった。
 それを確認するよりも先に藤岡が二村を引き寄せて怪我人から引き離す。
 支えを失い倒れる怪我人の姿に鬼灯はようやく違和感の正体に気付く。
 怪我人の体が変化していくのだ。
 ゾンビへと変わった怪我人が体を起こし立ち上がる。

「ふん、生者が憎々しいか。だがおいそれとやらせる訳にもいかぬ」
 言葉と共にギールは市川と男女のゾンビの間に降り立つ。
 今まさに市川に向けて振り下ろされようとしていた爪がギールの体に傷をつける。
「不浄なる物の分際で、我が身に傷をつけるか」
 それは微々たる傷であったが、不愉快そうに口にしてギールはゾンビへと拳を叩き付ける。
 ストレートブロウの力を乗せた拳は易々とゾンビの体を弾き飛ばし打ち砕く。
 拳に残る不快な感触に眉をひそめてギールはもう一体のゾンビへと向き直る。
 その視線の端に藤岡が二村を引き寄せる姿と事切れた怪我人がゾンビへと変わる様子が映る。
「死者に憑依する従魔か……」
 そう口にしてギールは礼装剣・蒼華を手に現す。
「今日の我は些か荒々しい、貴様らの存在は非常に不愉快なのでな」
 不快さを隠さないままそう言い放ちギールの振るった刃がゾンビの体を断ち切る。

「……何よ、コレ」
 鬼灯の口から言葉が零れ落ちる。
『サチコ。――逡巡は人を殺す。分かっているな?』
 リタの声が聞こえる。
 だが、さっき斬った制服姿のゾンビの姿が頭から離れない。
「……~~ッ、うるッさい! 分かッているわよ、ンなコトは!」
 迷いと逡巡を吐き出した言葉の勢いで押し込めて鬼灯は斬撃を放つ。
 藤岡と二村に向けて手を伸ばしたゾンビの体が鬼灯の斬撃に切り裂かれ崩れ落ちる。

『骸がこんなふうに弄ばれていては、死者の魂は救われない……』
 ギールが伝えたゾンビが死者に憑依した従魔であるという言葉にマイヤ サーア(aa1445hero001)の亡くした記憶を揺さぶるような悪寒が広がる。
『……私達に彼等を救う手段はない。せめて私達の手で……』
 それが彼女がかつて味わった苦痛と同じなのだと、共鳴した迫間 央(aa1445)にも理解できた。
「……あぁ、送ってやる。あくまでクールにな」
 マイヤに聞かせるようにそう言葉にして迫間もヘリから屋根へと飛び移る。

「なんつうか……これ、流行ってんの?」
 ひしめくゾンビ達を見下ろして言ったツラナミ(aa1426)に
「ん……たぶ、ん?でも……急じゃない、だけ……マシ。……気に、なる?」
 横から同じようにゾンビを見下ろして38(aa1426hero001)が応える。
 その問いは38自身の意識しない複雑な気持ちからこぼれた言葉だった。
「……別に。さっさと支度しろ」
 ツラナミはいつもと変わらず応え、38と共鳴する。
「待ってくれ。壁にメディカルセットが有る」
 飛び降りようとしたツラナミにパイロットが声をかける。
 見れば赤い十字のマークの入ったメディカルボックスがヘリに備え付けられている。
「薬に包帯、あんた達には不要かもしれないが怪我人には必要だろう」
 蓋を開くと中には包帯等と一緒に薬剤のアンプルやエナジーバーも入っている。
「預かる」
 パイロットにそう声をかけてツラナミは屋根に降りた迫間の隣に降り立つ。
「迫間君」
 ロープを手にした迫間に声をかけてツラナミはメディカルボックスを渡す。
「中はそっちで対応してくれ」
 ツラナミの言葉に迫間は
「ツラナミは?」
 そう言葉を返す。
「外の連中に対処する」
 ツラナミの言葉につられるように迫間もお堂の外のゾンビへと目を向ける。
 数えられない程のゾンビがお堂を取り囲んでいる。
「分かった。中が落ち着いたら俺もこっちへ戻る」
 そう声をかけて迫間はロープを結んでお堂の中へと降りる。

●ゾンビ牽制
『日本という国はゾンビばかりなのか?』
 シンバ・マウアジー(aa4589hero001)の言葉に
「さぁ、ミリキーも知りませんよ」
 そう応えてミリキーはパイロットにお堂から少し離れて高度を下げるよう声をかける。
『どうするつもりだ?』 
 シンバの言葉にミリキーはお堂に群がるゾンビへと目を向ける。
「お堂を壊されては大変ですからね」
 高度を下げたヘリからミリキーがストームエッジをゾンビの集団へと向けて放つ。
 吹き荒れた刃の嵐によりゾンビ達が切り刻まれ死体と骨壺に戻る。
 ゾンビ達の群れに開いた小さな空間へと飛び降りたミリキーに周囲のゾンビ達の注意が移る。
 向かってくるゾンビを薙刀で斬り払いミリキーはお堂から離れる方向へと移動していく。
 だが、ゾンビの群れは厚く見る間に行く手を阻まれて進めなくなる。
 周囲から迫るゾンビ達に
『ミリキー君、新技を使ってみてはどうですか?』
 シンバがミリキーに声をかける。
「そうでした!」
 その言葉に手を一つ打つとミリキーはウェポンズレインを発動する。
 降り注ぐ無数の刃が周囲に迫るゾンビを撃ち倒し、周囲に空間が広がる。
 その空間に次のゾンビが入って来るよりも先にミリキーはお堂から離れる方向に全力で移動する。

「うぁ……元気だな」
 ゾンビの群れの中を走るミリキーの様子に思わずと言った感じでツラナミが言葉を零す。
 そのツラナミの傍らには鷹の目で生成された体長九十センチメートルもあるカンムリタカワシが止まっている。
 ミリキーがゾンビを引き連れて移動したとはいえ、それはお堂を取り囲むゾンビの一部にすぎない。
「試してみるか」
 以前遭遇したゾンビ達は音には反応したがそこに人が居なければすぐに興味を失っていた。
 生体反応の有る無しを従魔が判断する基準は何かと考えれば自ずとライヴスという予想に行きつく。
 ツラナミはカンムリタカワシを屋根から飛び立たせる。
 すぐにゾンビ達は反応した。
 だが、お堂の周囲のゾンビ達はすぐに興味を失ったようにお堂に視線を戻す。
 やはり効果が無いか、と思い始めた時変化が有った。
 お堂から離れた場所のゾンビ達がカンムリタカワシを追い始めたのだ。
「……使えるか?」
 お堂からは距離がかなりある場所ではゾンビを引きつけることには成功した。
 反応を見る限りゾンビはライヴスを感知している事は間違いがなさそうだが、優先されるのは人の放つライヴスなのか他のライヴスには惹かれにくいようである。
「数を減らす役には立ったか……」
 そのままゾンビ達を離れた方向に誘導していくが、お堂の周りのゾンビの数は減ってはいない。

●恐怖
 三人の後から降りた迫間が改めてH.O.P.E.エージェントであることを説明し救出の準備があることと、後続の応援もすぐに到着することを告げて何とかお堂の中は落ち着いていた。
「感染系と思うが、経路が分からぬな」
 生存者から話を聞いていたギールの言葉に迫間も頷いて言葉を返す。
「ゾンビに襲われた怪我の有る無しで変りもない」
 ヘリから持ち込んだ薬で怪我人の治療を済まし、バイタルバーで怪我の小さな者には体力の回復を促しているが思ったような効果は出ていない。
 どの生存者も一様に見られる皮膚の変色は速度に個人差はあるが止まることなく進行している。
 そして、ゾンビ化の引き金はその変色が体全体を覆うことであると思われる。
 一応、回復スキルでわずかな時間だけその進行を抑えられる事は分かったがそれは気休め程度の時間でしかない。
 今の状態では後続の到着前に少なくない人数がゾンビ化する可能性がある。
「怪我による死は防げても、この変化が抑えられねばどうにもならぬ」
 手を出せない事が不愉快そうにギールが言葉を吐き出す。
 増援が到着したとしても外のゾンビを何とかしない限りは生存者を運び出す事が出来ない。
「少しでも助かる方法を考えるべきだな」
 迫間も苦々しげに言葉を口にする。

「……私の……前で……死人なんて……出させない……出させない……から……」
 そう繰り返しながら藤岡は怪我人の治療を続けていた。
『ちょっと、桜? 落ち着いて?』
 いつもと違う感じの藤岡にミルノがそう呼びかける。
 今使った回復スキルが最後だった。
 しばらくはスキルを使うことが出来ない。
 そこまでしても怪我の治った男の体はすでに体のほとんどが青白い変色に覆われている。
 この変化を止める術が無い事はバトルメディックであるミルノと共鳴している藤岡は誰よりも理解している。
 そして、ここまで変化した者は正気を保てなくなる者もいる。
 男の奇声がお堂の中に響く。
 その声は獣のようで人の言葉からもすでにかけ離れている。
 刺さるような視線が男へと注がれる。
「残念だが、致し方あるまい」
 近付いてきたギールの言葉に思わず藤岡は睨むように視線を向ける。
 せっかく怪我による死は免れたのだ。
 だが、何も言わず黙ってそこに立つギールの無言の言葉に藤岡は唇を噛みしめて男から離れる。
 代わりにギールが奇声を上げる男を抱え上げてお堂の隅へ、他から見えないように囲われた場所へ連れて行く。
 その場所には今までにゾンビ化した八名の遺体が並んでいる。
「俺は外の援護に向かう」
 じっとその方向を見つめる藤岡に迫間が声をかける。
「怪我人も多い状況でここが崩されては守る者も守れんからな……藤岡、ここが落ち着いたら上から支援を頼む」
 迫間の言葉に視線を戻し、ゆっくりとお堂の中を見回してから
「……ん……わかった……落ち着いたら……すぐ行く……よ……」
 そう答えた藤岡に頷いて迫間はお堂の屋根へと上がっていく。
 入れ替わりに二村が藤岡の側にやって来る。
「ごめんなさい、あなた達にばかりつらい役目を押し付けて」
 そう言って二村は藤岡を優しく抱き寄せる。
 感情の起伏がほとんどない藤岡が驚いたように感情を揺らすのを共鳴しているミルノは感じていた。
「けど忘れないで。あなた達のおかげで私が生きていられるの。私はあなたに助けられたの」
 優しくそう言った二村の言葉に藤岡はその胸に抱かれたまま小さく頷いた。 

●ゾンビ掃討
「中は大丈夫なのか?」
 ロープを伝って上がってきた迫間にツラナミはミリキーの援護射撃を続けながら声をかける。
「ゾンビ化を止める手段が無い、今は一刻も早くきちんとした設備のある場所に運ぶ事が最善だ」
 迫間のその言葉にツラナミは地上へと目を向ける。
 ゾンビ達は未だお堂の周りにひしめいている。
「のんびりはしてられないか」
「そうだな。時間はかけられない」
 ツラナミの言葉にそう応えて迫間は屋根から身を躍らせる。
 その体の周りに英雄経巻が展開して白く輝く光がゾンビを撃ち倒す。
 地面に降り立つと同時に右手で抜き放った天叢雲剣が閃きゾンビの首を刎ね飛ばし、剣閃から湧き出す雲のようなオーラが迫間の体を包みゾンビ達の目を撹乱する。
 闇雲に振り回されたゾンビの爪を左手で抜いた忍刀「無」で受け、天叢雲剣で斬り払う。
 迫間はいつもよりも苛烈な自分を意識していた。
 落ち着いて対応しているようでどこかゾンビに対して容赦がない部分が有る。
 それがマイヤの記憶のせいなのか、それとも自分の感情なのかどこか判然としない。
 どちらにしろその感情に飲まれるわけにはいかない。
 一人でも多くの者を救う事、それが今考えるべき一番大切な事なのだから。

 ミリキーの派手な戦い方とは逆の迫間の静かで素早い忍のような戦い方を見ながらツラナミは本堂隣の大師堂に移り、フリーガーファウストG3を放つ。
 その音に周囲のゾンビ達が反応して大師堂へと殺到する。
 勢いよくぶつかるゾンビにより足場にしていた庇部分の柱が折れる。
 崩れ落ちる屋根の残骸と立ち昇る粉塵に紛れてツラナミはゾンビ達の間に降り立ち三日月宗近でゾンビの首を刎ね飛ばす。
 そのまま足を止める事無く移動しながらゾンビを屠っていくが、密集したゾンビの中では移動する空間も限られていく。
 完全に空間が失われる前にツラナミは斬り倒したゾンビの体を足場に跳躍する。
「ゾンビに押しつぶされて圧死とか……勘弁してほしいな」
 そう言いながら両手にブレイジングソウルを現すと足元のゾンビへ銃撃を加えながらすし詰状態のゾンビの頭を足場に手水社の上へと移動する。

 正面のゾンビの群れに向かいミリキーが二発目のストームエッジを叩き付ける。
『都会で鈍っているのではないですか?』
 息の上がり始めたミリキーにシンバが声をかける。
「まだまだ、大丈夫ですよ」
 強がってみせるが、戦い始めた最初のころに比べて明らかに勢いが落ちている。
 周囲から伸ばされる腕をミリキーは薙刀で払い続けるが、払いきれなかった腕がミリキーの右腕を掴みゾンビの歯がその腕に喰い込む。
「大丈夫か?」
 ミリキーが対応するよりも先に喰いついたゾンビの力が緩み崩れ落ちる。
 その背後から迫間が姿を現す。
「助かりました」
 そう言いながらミリキーが薙刀で迫間へと延びるゾンビの手を打ち払い、迫間は英雄経巻でミリキーの背後に迫ったゾンビを打ち倒して互いに背中合わせの位置をとる。
「中はどうなっているのですか?」
 少しだけお堂に視線を向けてミリキーがたずねる。
「状況は良くない。早くしないとゾンビ化する者が増えることになる」
 迫間の言葉にミリキーは眉をしかめる。
「止められないのですね」
 通信の内容はミリキーも聞いている。
「止められない。だから一刻も早く救助する必要が有る」
 設備の整った施設に運び込めさえすれば何か手はあるかもしれないのだ。
 二人へと押し寄せるゾンビに矢が刺さり撃ち倒される。
 お堂の屋根の上に月弓「アルテミス」を構えた藤岡の姿が見える。
 それは、もう中で出来る事が何もない事を示している。
 外のゾンビに対処する人数が増えた事でミリキーにも思考する余裕が生まれた。

●絶望
「若いな」
 中央の阿弥陀如来の下で立つ鬼灯の姿にギールはそう口にする。
 じっと立つ鬼灯の姿からは様々な葛藤が滲み出てくるようである。
 もっとも、今のギールの姿は共鳴したパートナーのエミルの物なので見た目だけで言えばギールの方がずっと子供であるが、人の生き死に動揺するようなことはギールには無い。
 今、お堂の中に残っているのはギールと鬼灯だけであるが、変化の進行を考えればまだしばらくお堂の中は安全なはずである。
 少し肩の力を抜くように声をかけようと立ち上がったギールに市川が声をかける。
「なぁ、俺達無事に助かるんだよな?」
 その言葉にギールが足を止め
「助ける」
 と答える。
「変な話が流れてるんだ」
 市川の言葉にギールが眉をしかめる。
 嫌な予感がした。
「もう助からないから、ゾンビになって苦しい思いをする前に死んでしまおうって話てる奴らがいるんだ」
 しかもその話をしているのはまだ何とか動ける症状が軽い者だという。
「誰が……」
 ギールが言いかかった言葉を遮るようにミリキーからの通信が入る。
『確実に助かる人だけでも今からヘリへ乗せましょう』
 一人でも助かるならば。
 ミリキーのその判断は間違っていない。
「……他は、見捨てろって?」
 鬼灯の言葉が聞こえる。
 その声は小さく抑えられてはいたが言葉として発せられた。
 生存者と会話を交わしていないミリキーの判断は冷静だが、それだけに冷たく聞こえる。
『助けられない命を守って、助けられる命を失う訳にはいきません』
 続いた言葉はシンバの物だった。
 二人はマサイの民だという。その分、死生感は自然に近いのかもしれない。
「分かった。だが、少し待て」
 鬼灯が次の言葉を発するよりも先にギールが通信に答える。
 お堂内部に嫌な空気が生まれている。
 鬼灯がライブスガンセイバーを構える。
 その視線の先でゾンビが立ち上がる。
 その者が変化するまではまだしばらく時間が有ったはずである。
 ゾンビとなった者の首筋に刺さっていた刃物が音を立てて落ちるのがギールには見えた。
 鬼灯の斬撃がゾンビを斬り倒す。
「不愉快だな」
 何か意図的な悪意を感じるがそれを追及している暇はない。
「ダメ!」
 声が響く。
 それは最初に鬼灯が助けた少女だった。
 少女は別の女性にしがみついている。
 女性の手にはどこから持って来たのか刃物が握られている。
「死なせてよ! あんなになって死ぬくらいなら今のまま死んだ方が良いじゃない!」
 女性はそう叫んで少女を振り払うと自らの首に刃物を突き立てる。
 その体から噴き出る血が割って入った鬼灯の体を赤く濡らす。
 女性がゾンビに代わると同時に鬼灯の剣が再び死を与える。
 だが、他にもゾンビ達が立ち上がり始めていた。
「動ける者から、引き上げる」
 ギールの声が響く。
『サチコ!』
 リタの声に迷いを押し流して鬼灯は少女の体を抱き上げて走る。
 礼装剣・蒼華を抜いたギールが二村へと襲い掛かるゾンビを斬り倒すが、立ち上がったゾンビは二体。
 残った一体が別の者を襲いさらにゾンビが増える。
「……手伝う」
 屋根から降りてきた藤岡が鬼灯から少女を受け取り台座の上に引き上げる。
「頼みます」
 少女と視線を合わせないまま鬼灯は駆け出そうとする。
 その背に声がかった。
「ありがとう」
 少女の言葉に虚をつかれたように鬼灯の動きが止まる。
「いま、言わなきゃって……」
 背にかけられたその言葉に
 少しだけ振り返り頷いて見せると鬼灯は立ち上がるゾンビへと向かう。

「手が足らぬな」
 屠剣「神斬」に持ち替え斬撃を飛ばしてゾンビを斬り払いギールが苦々しげに口にする。
 一体倒す間に一体増えたのではキリがない。
「動ける者は台座に登れ!」
 そう声をかけるが一人で動ける者はそう多くは無い。
 少女を藤岡に預けた鬼灯が戦闘に復帰するがその間にさらに一体のゾンビが増えている。
「動けぬものを運ぶ。ゾンビの対処は任せるぞ」
 鬼灯に声をかけてギールは走り出す。
 起き上ったゾンビは鬼灯により全て撃ち倒されたがまだ油断はできない。
 ゾンビがギールの前に立ち上がる。
「間に合わなかったか」
 そのゾンビはある意味では想定されていたゾンビだった、問題はその横の者である。
 自力で動けないその男はまだ変化まで時間は有るはずだがここで襲われれば助けられなくなる。
 振り下ろされるゾンビの爪を神斬で受ける。
 背負っていた悪魔を模したぬいぐるみの口からライヴスが噴射される。
 その勢いを借りてギールは神斬ごとゾンビの体を押し返し斬り払う。
 抱え上げたその男で生存者は最後だった。

●希望
 最終的に救出できたのは六名だった。
 施設に保護された生存者は延命処置により今の所は全員無事であるという。
 完治する方法は未だ完成していないが、その方法自体はすでに研究は進んでいて近いうちに完成するだろうとエージェント達には伝えられていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • エージェント
    アカデミック・ミリキーaa4589
    人間|22才|男性|攻撃
  • エージェント
    シンバ・マウアジーaa4589hero001
    英雄|19才|男性|カオ
  • 薄紅色の想いを携え
    藤岡 桜aa4608
    人間|13才|女性|生命
  • あなたと結ぶ未来を願う
    ミルノaa4608hero001
    英雄|20才|女性|バト
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