本部

歯車は軋まない

月桂樹

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/16 16:48

掲示板

オープニング

●作戦記録H-8
「記録2016年10月28日。地点Fに出現した愚神と思しき物体を発見。対象を愚神σと呼称。拘束を試みる。その様子をドローンから空撮する」
 砂漠とそれに呑まれるようにして広がる街があった。元は高層ビルだったのだろうか、墓標のように点々と砂から顔をのぞかしている。その光景を下に見ながら飛んでいる視点から映像が始まった。
「ライヴスなどに反応する可能性を踏まえ、対象を刺激しないように遠距離操作の機械により拘束する」
 ドローンの高度が下がると大型の車両が何台かビルを避ける様に走行している様子が見える。

「愚神σは発見当初から目立った活動をみせてはないが、対象のライヴス量と何より……」
 ドローンの視点移動が止まる。と、映像の中央に異様なものが映る。
 巨体な黒金色の塊があった。岩石を乱雑に削って置いたようなごつごつとした物体。映像がズームになるとそれが五体そろった人型だと分かる。見様によっては、全身鎧をきた人間に見えるだろう。その近くには、同じ色をした四角いキューブがぽつりとある。
「何より対象の大きさ、全長四メートルはあるだろうか。この大きさは一般的な能力者の規格を逸脱している。接触に反応なし。よって意識を消失しているもしくは休眠状態であると認定、愚神と判断した」
 車両が愚神の近くに到着した。砂煙が巻き上がる。四メートル以上の愚神の輸送手段として作られた車両もまた巨大だった。

「愚神や能力者には通常の拘束は意味をなさないが、物理的な重さによる拘束は可能である。普通の人間の二倍の筋力を持つのなら、二倍の重さで押しつぶせばいいとは研究者連中の持論だ」
 車両の一つが開く。扉がそのままベルトコンベアのように愚神の前まで広がる。
「車両に収容後、液状超加重物質を注入。車両本体が沈まないように車両自体をフロートにすることで沈下しないようにしているらしい」

 クレーンが愚神を吊すために動き出す。クレーンの先がピタリと愚神にくっつく。ゆっくりと綱が張っていく。クレーンの稼働音にめきめきという異音が混じりだす。綱が限界まで張っているのに動かない。異音をかき消すよう稼働音がさらに大きくなる。すると、僅かに愚神が浮いた。
「愚神σ、物理的接触後も反応なし。作戦行動を継続する」
 愚神がベルトコンベアに乗せられるとともに、ベルトコンベアが起動する。愚神が車両の方に動いていく。石像が運ばれているかのようなシュールな光景がしばらく続いた後、それは起こった。
 
 正面から愚神を捉えていた映像ではっきりとわかる変化が起きた。人間で言う目があるところにスリットが開いていた。そのスリットに光がともる。炉心に火が入ったかのように振動と起動音が起こる。
 石像が命を宿したかのようにゆっくりと足をあげて降ろす。
 ただ、それだけの動作で車両が傾きビルが震え、黄色になった窓ガラスが砂にまかれていく。

「緊急事態発生。愚神σに反応あり」
 愚神は砂を押しつぶような一歩を繰り返し、元の位置の方に進んでいく。そこにあった四角いキューブに触れる。すると、キューブが見る間に形を変えていく。黒金色の内側にはギアが犇めいていた。ギアは生き物の様に、生きているかのようにかみ合い火花を散らしながら、狂ったように廻っていた。
 内側のギアが見えなくなり、キューブが腕に取りつき変形し巨体に見合う剣と化した。爆撃めいた斬撃が車両を木端微塵に粉砕する。
「おいおい、嘘だろ。攻撃してきたぞおい」
 
 ひとまずの破壊活動に満足したのか、静止した愚神の腕が変形し、そこから従魔が飛び出す。従魔が車両の残骸などに取りつくとともに形が変わっていく。
 機械でできたゴブリンとパラポラのアンテナそっくりの姿になった従魔がそこにいた。パラポラアンテナをゴブリンが担ぐようにして散っていく。
 愚神が徐に空を見る。映像の中の愚神と目があったような隙間。
「まずいぞ、気付きやがった。こうなったらこの映像は値千金だ。絶対最後まで落とすなよ」
 剣が再び変質する。今度はミサイルの発射台のような形になり肩に取りつく。
 姿を裏切らず、そこからミサイルが飛び出す。一度空に広がったミサイルは、噴煙を絡めながらも飛び続け、生き残った車両や他のドローンを撃ち落としていく。爆炎が起こる。余波で近くにあったビルが倒壊した。爆炎に吹き飛ばされながらも、映像は続いていた。

「ッチ。次が来たらこれも落ちるぞ」
 突然、さらにミサイルを発射しようとした愚神が止まる。魔法が切れた石像のように立っていた。
「何だ、何が起こった」
 完全に静止した愚神に向かって青い光線が刺さる。ほど遠いビルから出ているようだ。青い光が愚神に奔ると、思い出したようにミサイルが発射される。
「青い光の元だ。ズームしろ。ありゃなんだ」
 そこにはパラポラアンテナがあった。それを最後に映像が途絶えた。 

●ブリーフィング
「皆々様が今ご覧になっていただきましたのが、先日行われたある作戦記録なんですが。あ、分かっちゃいました?」
 やけに明るいオペレーターだった。人によってはイラつかせるなんて接頭詞がつくだろうか。
「賢明なる皆様のお察しの通りです。えーまことに申し訳にくいのですがぁー退治してくれっちゃてくれませんか」
「あ、っとみなまで言わなくても結構ですよ。私分かります。作戦エリアの詳細を知りたいんですよね? 分かります分かります。ヒーローは周辺被害を考えなくちゃあいけないところが辛いところですよね」

 有無を言わさずに作戦エリアについて語っていく。
「というわけで御心配の芽を摘んでみようかと思います。今回の舞台は一言でいうなら廃墟ってやつです。とっくの昔に廃されている街ですね。これで皆様の心配の種はなくなっちゃいましたね。いやぁすばらしい」
「一応補足しておきますところ、何でも街はもともと砂漠の近くにあったらしいのですが、砂漠化の波に飲み込まれてしまって、今となっては、コンクリートジャングルがコンクリートデザートジャングルになっちゃいまいした。砂漠にジャングルとはいやはや人類の技術の到達点ってやつですか」
 皮肉気に言い放つ。

「んで、敵さんの情報に関しては、今見たままです。念のため言っておきますと、今の映像はノンフィクションです。実在の人物であり、虚飾脚色誇張がないことを宣言しておきます。そしてですね、敵は巨体の鎧を着た愚神+従魔です。愚神は戦隊ものでおなじみの変形機構付きの武器で武装してます。そして、従魔はゴブリン亜種、色違いでキャラ数稼ぐ奴じゃありませんよ、とアンテナもどきです」
「あの愚神はアンテナもどきの補給がないと動き続けることができないのかもしれませんね。悪役らしく主人公に対して後方施設を狙うなんてどうでしょうかねー」
「ほい、これにて終了します。定型文ですが最後に。ご武運をお祈りしております」

解説

●目的
愚神の排除

●場所
砂漠に呑まれた現代の都市。大半は砂の中に沈んだが、高層ビルなどの建築物は砂上に突き出ている。

●敵
愚神――仕掛け鎧をきた愚神。全長4メートルの巨人。対多人数用に調整されており、範囲攻撃が多彩。
    仕掛け鎧には使い捨ての武器と装甲が内臓されている。
    主武装は変形可能なキューブ。長射程のミサイル、範囲攻撃扱いの剣や盾などとして使用可能。乗り物にも変わる。
    弱点として消耗が速い。ライヴスの供給機から供給を受けないかった場合、全力での戦闘は3ラウンドほどしか続かない。そのため通常時は全力ではないが、それでも補給を必要とする。
    ライヴス供給機が全部破壊された場合、短期決戦にシフトする。
    
ライヴス供給機――愚神に調整されたライヴスを供給する従魔。見た目は通信のパラポラアンテナ。
         固定されており、ライヴスを光線として愚神に供給する。
         数は四。 本体自体は耐久力も低い。

従魔――ゴブリンが銃などで武装したもの。材質が金属でできているため通常の固体よりやや堅い。作戦エリア内に展開している。専らライヴス供給機を護るように行動する。
    10体で一分隊。分隊が7つ。

●特記事項
 ライヴス供給機による愚神に対する補給は補給時に愚神に隣接していれば、遮ることが可能。ただ、補給行動前に愚神はノックバック効果を含む攻撃をする。
 光線自体を遠距離攻撃で撃ち落とすのは可能ではあるが困難ではある。
 [(命中/10)+1D100]≧200

リプレイ

●歯車はただ回るだけ
 静止した街の中に来訪者が現れる。開幕の号砲は高らかに、カグヤ・アトラクア(aa0535)の砲口が火を噴く。
 大砲をそのまま腕に備え付ける規格外の武器、そこから起こる交通事故と表現するのがふさわしい反動を全身で受け止める。
 自身を駐退機としたカグヤを支える足がグッと砂に沈む。それを彩るように赤光が広がっていく。映像で映し出されていたライヴス供給機の一つがあったビルを直撃した弾頭が一瞬間をおいてから爆発する。
 人工の火口と化したビルが、真っ黒になり、音を立てて倒壊していく。
 荒れ狂う音が砂漠に抜けていくと、一転して静かになった戦場。瓦礫の山と帰したビルから次々とゴブリンが飛び出してくる。狙う先は、鮮烈な登場をしたカグヤ。カグヤは一直線に向かってくるゴブリンを見据える。
「高い移動力で分厚い装甲、そして長距離砲撃を可能とするものは何か知っておるかの?」
(戦車?)
 クー・ナンナ(aa0535hero001)は楽しげなカグヤとは正反対に気の抜けた雰囲気だった。呆れているのかもしれない。
「機動砲兵じゃ。わらわの技術を見せるじゃ」
(適当な造語で楽しそうだねー)
 今度ははっきりと呆れをにじませるクーと呵呵、と笑うカグヤ。ゴブリンと砂に着弾して軽い音を立てる弾丸が徐々に近くづいてくる。それを見据えながら、カグヤは後退を開始する。
 言葉通り機動力と射程に勝る点を生かしての引き撃ち戦法をとる。敵に撃たせずしてこちらだけが好き放題撃てる状況を作り出そうとしていた。
 それに釣られる形でゴブリンの群れが追いかける。カグヤは爆音を笛に見立てあたかも笛吹きのように長い列を従わせていった。
 ビルの間に耳障りな音が複数起こる。それに伴いゴブリン達がビルの合間に現れた。
 近くのビルで瓦礫でも崩れたのか、質量のある音がする。隊列の最後尾にいたらしいゴブリンが音の発生源に近づいていく。
 丁度背の高いビルの物陰になっていた。ゴブリンが踏み込む。と、ゴブリンに取りつくものが現れる。
 口を覆う様にまとわりつく影と肉を断つ底光りする凶器。凶器はゴブリンのちょうど喉の位置を通った。口を覆った手がゴブリンの最期の一息を押し殺す。振るわれた暴力には誰一人気付くことはできなかった。
「……ん、あっちは派手……だね」
 佐藤 咲雪(aa0040)が遠雷の如く響く砲声を耳にしながら呟いた。力を失くしたゴブリンを物陰にそっと横たえる。
(その分、ゴブリンの注意は自然とそっちに向くから仕事はラクになるわ)
 アリス(aa0040hero001)と答えながら、巡回しているゴブリンに意識を向ける様に促す。取り繕うような響きがあったのは通信機からその渦中の人物の楽しげな笑い声が聞こえていたからかもしれない。
 太陽の光がくっきりと影を作っていた。所々に伸びた暗い影は黒い墓標のように平面上に埋もれている。ゴブリンの隙間を抜けながら、咲雪は暗がりから暗がりに線を曳きながら移動していく。その狭間に大気を震わす音が聞こえた。

 愚神のスリットに明かりが灯る。巨体に見合うゆったりとした動作で動き始める。爆音を響かせる起動音が辺りの音を一掃する。風が運んできた砂が滑ると愚神の体から零れ落ちていく。
 一歩を踏み出すとふわりと周りの砂が浮く。愚神の歩みとリンクして愚神を中心に風が起こる。
 二歩目は速かった。三歩目はさらに。重ねた歩幅は徐々に大きくなっていく。何人たり止められない暴風の化身は砂嵐を纏いながら走り出す。

「いやー猪にゾンビときて、次はなんですかこれ? ロボットですかね? なんともバラエティに富む仕事のようで」
 君建 布津(aa4611)は柔和な微笑を浮かべていた。猛進している愚神を眺め、慣れきった本業との違いに素直に驚いてみせる。
(皆従魔と考えれば同じですから。何も問題ありませんわ)
 切裂 棄棄(aa4611hero001)が応じる。危険と隣合わせの状況で、世間話の調子で何気なく会話をこなしている。
「はっはっは! それもそうですね! これは一本取られました」
(ふふふ、馬鹿じゃないですか? ところで君建さん見てください。阿呆なことを言っているうちに敵がもう目の前に)
 遠巻きに愚神を観察していた布津をゴブリン達が囲んでいた。瓦礫やビルなどを遮蔽物として利用し身を隠している。
 ギシギシと呻きとも軋みとも聞き取れる音をゴブリンが発てながら、銃口を布津に向けていた。
 一斉に撃鉄が落ち、ゴブリン達が弾丸を放つ。布津がとっさに隠れたビルと弾丸が当たって弾ける。弾丸に弾き飛ばされたコンクリートや砂が徐々に布津に迫ってくる。
 削られていく遮蔽物に背中を預けながら、やれやれとぼやきをこぼす。
「お役目が来る前に消耗したくないので、そっとしておいてくれませんかね」
 落ち着いた雰囲気とは裏腹に行動は速かった。別方面から側面に回り込んできたゴブリンに向かって無雑作に鞭を伸ばす。
 ゴブリンの腕に絡まった鞭を引く。ゴブリンがよろけて布津の方に転がってくる。狙い通り遮蔽物の表に。
 仲間が放った無数の弾丸で倒れたゴブリンと仲間を撃たないようにと止まった発砲。
 ゴブリン達に一瞬の硬直が起こる。その一瞬をつくように布津が遮蔽物から離れると、ゴブリンから距離を取っていく。
 十分に距離を取ったことを確認した布津がふと気が付く。先ほどまで響いていた愚神の、あの大気をえぐるような移動音がしていないことに。

 移動していた愚神が唐突に足を止める。砂で煙る視線の先には黒い花弁が浮いていた。太陽が燦々と大地を照らす中、その一角だけは夜が置き捨てられたかのように黒く染まっていく。
「そちらに行かせるわけにはいきません」
 九字原 昂(aa0919)の言葉と共に花弁がさらに増える。不毛の大地の仮初の花を従え昂が無表情のまま愚神を指し示す。花は花吹雪となり愚神を覆い隠していく。昂がその流れに溶け込み花の中に消える。
 夜に群がれた愚神は不動の姿勢のまま腕を起す。腕がガクッと流れる様に肩に収納され、代わりに新たに短い腕が現れた。より正確に言うなら腕というより筒と言った方がふさわしい。
 その短くなった腕に向かって風が巻き起こる。その風に乗せられて花弁が愚神の腕の中に吸い込まれていく。
 花弁がひとつ残らず吸い込まれると、愚神は己の腕を切り離す。黒く変色した腕は砂野の中に落ちるとすぐに砂の中に見えなくなった。愚神は何事もなかったように再び腕を戻し昂がいたほうに視線をやる。
 視線の反対、死角にどこからともなく昂が現れる。愚神の反応よりなお速く。踏込と一閃。真一文字に奔った線から鎧の破片が飛ぶ。愚神が振り返るや否や間合いから外れる。小高い砂の山に着地する。
 昂に向けて愚神が接近しようとすると突如、足もとに猛烈な衝撃が通る。金属のなかで反響してくぐもった音が外に漏れる。
「灯台下暗しとでも言いますか、つけいる隙は徹底的につかせてもらいます」
 砂山の上の昂を捉えるためにやや上向きだった視線。愚神が視線を下げると愚神の膝辺りには小さな少女がそれに不釣り合いな大剣を構えていた。
 人形が似合いそうな年頃の少女が武器を持つ、それだけでも目を疑う光景だが、少女は自身の背丈を遥かに上回る大剣を構えるだけではなく、縦横無尽に揮っていた。透き通るような銀色の刀身が愚神を打つたびに手元にまかれている茨で手が傷つき、血が少女の柔肌からしたたり落ちている。
「愚神ってのも色んな奴が出てくるもんだな」
 英雄の五々六(aa1568hero001)の言葉が獅子ヶ谷 七海(aa1568)の肉体を通して形となる。
「だが、まぁ……死ねば、みんな同じだ」
 呟きを息継ぎに変え、更なる斬撃を放つ。その斬撃もまた異常だった。愚神の足もとの関節部、一般的に装甲が薄い場所を的確に狙っていく。老練さすら窺える戦いっぷりだった。
 五々六の高密度の斬撃の中、集中して狙われた関節部の表面が変形し、表面から欠片が飛び散っていく。
 斬撃の合間に愚神の腕が上がった。片方の腕で五々六の斬撃を受け止める。腕に深々と入る大剣はしかし堅い筋肉に挟まれたのと同じく、愚神の腕に固定された。
 勢いが止まった五々六に愚神がもう片方の腕を振る。特に溜めもなく振るった腕はひどい手打ちだった。しかし、砲弾が飛ぶのと同等の圧倒的な重さを感じさせる唸りをあげながら五々六にぶつかる。
 五々六が咄嗟に引き戻した大剣で防ぎに入るが、勢いは止まらず大剣ごと身体が宙に浮いた。天まで突き抜ける衝撃が大剣を軋ませる。それを追いかけて砂が宙を舞う。
 足場のない空中で五々六が無防備をさらしている中、愚神が腕を動かす。丁度自分の目ほどの高さに向けて、張りつめた弦の如く腕が引かれていく。限界までひかれた腕が一瞬後の爆発に力をためる。
 腕が放たれる刹那、愚神を中心に爆発が起こる。爆炎が広がり爆煙が広がる。爆風に流された五々六が愚神から離れたところで着地する。それを見計らたタイミングで魔術で形度られた矢が愚神に殺到する。神秘的な光を纏った矢は幾筋も光跡を空中に描きながら煙の中に消えていく。
 中空に浮かんだ矢が尽きても、愚神を覆い隠す煙は消えず、周囲を漂っていた。動くものはいない膠着した時間が流れる。
 ニウェウス・アーラ(aa1428)が広げていた宝典をぱたりと閉じる。装いは少女趣味の塊の魔法少女らしさと機能性を兼ねたスーツの要素が共存していた。どちらと見るかで宝典がレポートとも魔法書とも見える。
(やったか……!?)
 ストゥルトゥス(aa1428hero001)が晴れない煙を前にしておちゃらけて言う。
「それ、フラグだからね」
 背振にかぶせてニウェウスがツッコミを入れる。熟練の漫才師のようなツッコミを繰り出しながらも、煙に飲み込まれたままの愚神からは眼を離さない。
 煙が徐々に風に吹き飛ばされていく。
 愚神がゆっくりと煙から踏み出してくる。隙間なく刺さった矢がとげとげとしく光っているが愚神は未だ健在。愚神が留め金を外すと棘山のようになった外壁が外套のように外れ地面に残される。
(あーもう、防御デバフを重ねがけしてやりてぇー!)
「それが出来たら苦労しない、よね。ほんと……」
宝典を開いたニウェウスにストゥルトゥスが声をかける。
(そっちもいいけど、周りにも気をくばってねー。あっちからなんか来てるみたいだよ)
 ざくざくと砂を踏む音と十重二重に重なった銃声がするのとはほぼ同じタイミングだった。
 近くのビルから表れたゴブリン達だ。手に持つ銃器を撃ちながら、じわじわと近づいてくる。飛来する銃弾は、徐々に能力者達の行動を妨げていく。銃弾が広がり面となって戦場を圧迫している。
 ゴブリン達の先頭がさらに能力者達との距離を詰めようとしたとき、それを見た。二メートルの大剣。もはや、鉄塊としか表現できないほどの大きさのものが、あろうことか自身に向けて突進してきていた。
 一瞬の硬直の後、大剣に向けて発砲する。後方のゴブリンもそれに続く。およそ、十体の銃からなる弾幕。それが大剣と接触するより速く、その後ろから何かが跳んだ。それは大剣を軸に空中に舞う。空中のはるか下を銃弾が通過していく。
 一息に大剣を空中で持ちなおすと、大剣を持ったまま回転し、最寄りのゴブリンに叩きつける。ゴブリンはうめき声をあげる暇すらなく、地面にたたきつけらえる。
 着地と共に今度は身体ごと巻き込む形で横に回転し、大剣を振り回す。着地点の付近にいたゴブリンに大剣が当たるたびに吹っ飛んでいく。
 大剣の主はすっと立ち上がると辺りを一瞥する。鋭い眼光は虎のそれだ。気圧されたのかゴブリン達がじわじわと下がっていく。
「てめぇらこれで終わりじゃあないだろうな」
 呉 淑華(aa4437)が咆える。他を圧する咆哮からはむき出しの狂暴性が噴き出している。しかし、大剣を構える様子には習練によって最適化された筋があった。
 人間の物とは思えないほど伸びた爪とその手が握る人間の武器がその象徴だ。
 淑華は引いていくゴブリンを見ながら大剣を振りかざすと獰猛な笑みを浮かべた。

●歯車は軋まない
 愚神と能力者との互角以上の戦いが続いていた。複数の能力者が死角を作り相互に連携を取りながらの戦闘は文字通り愚神の身を削っていた。点々と愚神のパーツが転がり、一回り以上全長が縮んでいた。
 押されるで後退した愚神が静止する。と、胸部が開きそこから映像で見られたキューブを取り出す。黒い内の中の無数の歯車がこぼれそうなほどに速く展開し、剣に形を変える。巨人にふさわしい巨人の剣に。
 それに伴い、より一層愚神を中心とした流れが強くなる。手を抜いていたわけではないのだろう。一秒一秒に燃焼され、外部に流出していくものが断然早くなっており燃費の悪さを窺える。
 ようやく自身に見合う武器を与えられた愚神は、先ほどまでの追い詰められた空気を一蹴するだけのものがあった。
 にわかに張り巡らされた緊張の糸。戦闘の音が遠く、しばし見た目上は平和な一時に回帰する。張り巡らされた緊張の糸は、最初に動く者をこそ真っ先に死に誘う……錯覚が浮かぶ。
 
 膠着に持ち込んだのが愚神なら、破るのも愚神だった。愚神は剣をさらに肥大化させそれを構える。
 近くにはフィールドの中でも一際大きいビル。沈下してなお高くそびえるビルは、過去の繁栄こそ思わせる。
 そのビルを斬った。過不足なくビルを切り離す。ビルはしばらくの静止した後、ゆっくりと崩れる。
 能力者達がまず感じたのは、空が暗くなったことだ。雲一つない晴天にもかかわらず出来た影にすっぽりと覆われていた。その影の拡大と共に、こちらに向けて倒壊しつつあるビルに気が付く。
 自重に耐え切れず、途中で欠落したビルのがれきが一足先に、降り注ぐ。質量による制圧。その制圧から逃れるために、能力者達が影から飛び出していく。
 ビルが砂の中に接地すると、爆発のしたかのように砂が宙に広がる。時間差を置いて衝撃が地を震わす。新たに瓦礫となったビルの近くに愚神がただ、佇んでいた。周囲には誰もいない。
 と黄色一色になった大気に、三つの青い光が飛んでいく。その青い光は愚神に当たると吸い込まれるようにして消失した。すると、愚神が再び稼働を再開する。それを合図に動き出すものたちもいた。

「……ん、目標視認した」
(射程に入り次第、狙撃よ。動いていないから当てるのは難しくないわ)
 ライヴス供給機はビルの屋上に備え付けられていた。
 咲雪がうなずくと行動を開始する。ゴブリンの哨戒を潜り抜け、最短距離で突き進んでいく。
 ビルがみるみる近づいていく。路地を抜けているとゴブリンとばったりと遭遇する。
 ゴブリンの表情が呆然から認識に切り替わるより速く、その首元にナイフが突き刺さる。死体に切り替わっていくゴブリンから歩みを緩めずにすれ違いざまに刺さったナイフを回収する。
 今の騒動が見られたのか、銃弾が壁を打つ音が近くで起こる。敵陣の真ん中で追われながらも中に踏み入っていく。数センチ先を通過していく銃弾。立ちはだかるゴブリン。その全てを躱しきる。
 射程に入ったのか、安定させるために足を止める。背後からはゴブリンの群れが殺到している。動揺の息をこぼすことなく息を止める。安定したサイトの中央に供給機が入る。
 引き金を引く。銃弾が供給機を貫く。供給機全体を電流が奔ると爆発した。安物のおもちゃのようなあっけない終わり方だった。
「……ん、こっちの仕事は終わった」
 無線機に連絡を入れると、背後に迫るゴブリン達を振り切るために走り出した。

「先をこされちゃいましたね」
 布津は無線機をしまうと、自分の周りのゴブリン達を見回す。少し遠くに、供給機を抱えたゴブリンがいた。
 照射後供給機を移動させようとしていたところに何とか間に合ったはよかったものの、周りには無数のゴブリンが現在進行形で集まってきている。
「おっと、すみませんねえ。邪魔しないでもらえます?」
 布津の声はすぐに別の音にかき消される。ぐさと武器が地に深々と刺さる。ゴブリン達が上を見るとそこには空から降り注ぐ数々の武器があった。
 武器の雨。あつらえたように刃を下に向け自由落下していく武器は、たちどころに辺りを戦士の墓のように様変わりさせる。
 武器が地に刺さる音に混ざり、ゴブリンの悲鳴とも呻きともにつかぬ叫びが辺りに充満する。辺りに動くものはいなくなった。武器の雨の中央にいた布津を除いて。
『君建さん、ようやく自分でスキルを発動できるように‥遅くありません?』
「いやーそうですか? これも棄棄さんの指導のたまものですよ」
 棄棄と何食わぬ顔で会話をつづけながら、供給機の破壊を確認する。
 また、新たな銃声が響く。付近にいた別の分隊だ。愚神のもとに行かせまいと布陣している。
「こちらも供給機の破壊は終わりましたが……スキルを使い切ってしまいましたしそちらに合流するには時間がかかりそうです」

 能力者と愚神の天秤は愚神に傾きつつあった。ただ、再三ある供給機からの供給を受けられていない。能力者達が愚神の付近に留まり続け何とか遮っているからだ。
 愚神が剣を槍のように細くするとそれを昂に向かって投擲する。
 音速を超える瞬きすら遅い速さ。昂の視界いっぱいに剣が広がる。しかし、それを避けてこそ能力者。
 空間をねじ切るように飛ぶ剣から一歩身を引く。死の余韻を残しながらすれ違う。
 昂はやり過ごした死の感覚を意に介さず愚神に視線を向ける。そして、今度こそ時が止まったように感じた。楯を構えた愚神がいた。剣と鋼鉄の線で結ばれた愚神が剣に引っ張られる形で高速で飛来していた。
 目の前に迫る黒金の壁。エネルギーの塊となった愚神と正面衝突する。昂の内側から何やらぐしゃと嫌な音がした。血が口から飛び出でくる。
 それでも、何とか体勢を立て直す。思わず、膝から崩れ落ちそうになるのを何とか剣で支えている。顔面蒼白でありながらも表情は変らない。
「現状なら……まだやれます」
 客観的な自己分析を基に立ち上がるとまだ勢いが止まっていない愚神に向けて、ライヴスの網を飛ばす。瞬間的に愚神以上に広がった網が愚神を捉える。網が複雑に絡み合い愚神を静止させる。
 絡まった網を表面から表れた刃が切断した。静止した愚神に合流した淑華が切りかかる。愚神が盾でその斬撃を受ける。大剣は弾けると勢いをなくし空中で泳いでいる。
「このデカ物が。武術の神髄てめぇに見せてやる」
 言い放つと淑華は大剣を手放し無手のまま踏み込む。愚神の胴体に手を添える。地から力を吸いいれる踏込。それを余すことなく衝撃に変え内部に送り込む。浸透した衝撃が内側で弾ける。愚神の鎧が内側からへこみ、外に飛び出してくる。
 腕で淑華を振り払い、剣を拾い上げると形を変えようとする。歯車が表面に現れ形を変え始める。
 狡猾にタイミングを計っていた五々六が、愚神に駆け寄るとともに、その歯車に直接大剣をえぐり込む。歯車に火花が散り、それは夥しく奔流のように外部に漏れだしていく。
 愚神が五々六に腕を向ける。手甲の下部が外れると銃口が露出する。愚神にとっては銃口でも、それは十分に砲口といっていいサイズ。
 銃口から炎と衝撃が線となって吹き出す。大剣を引き戻す間もなく五々六はその中に飲み込まれたかと思うと、すぐにそこから飛び出してくる。高熱で焙られた皮膚が痛々しく変色しているが、大剣を構えなおす。
「暗器の類はこれだからやり辛い。だが、僅かだが剥いでやったぞ」
 銃口が離れ薬莢ごと分離する。剣は遮られた変形を終えると、今度は肩に取りつきミサイルの発射台になる。金剛不壊の形が少し崩れ、火花が散っている。多少淀みながら動作を終え、愚神からミサイルが放たれる。
 空に白い痕跡を残すと、地上に向かって降り注ぐ。それを迎撃するニウェウスの光の矢が広がり、空中で爆発を引き起こす。その爆発の隙間からミサイルが地に降り注ぐ。
 爆発があちこちで起こる中、ニウェウスは瓦礫を楯にしていた。爆発の度に通り過ぎていく熱気は空気を焼いている。
「あんなもの、直撃でも受けたら……!」
 ニウェウスが戦慄したように息をのむとストゥルトゥスが陽気に答える。
『あるものは使え、だ。そこらの瓦礫とかで盾に出来そうなものがあったら、それを使うんだよー』
 ミサイルでの攻撃が落ち着くと雨が降った。光を乱反射させながら振り続ける雨は振れた能力者達に光を移していく。光を受け取った体から傷が薄れていく。
「真打は何とやら。わらわがおる限り誰も死なせぬよ」
 自身が引き連れたゴブリンを殲滅し終えたカグヤのスキルだ。次いで光を糸のように紡ぎ線として飛ばして重傷者達を癒していく。紡がれた糸は巣で守る蜘蛛のように。必要な量を必要な場所に。
「お宝まであと少しじゃ。皆頑張ろうぞ」
 技術をこそ宝とみるカグヤが檄を飛ばす。能力者達は戦闘の開始前とまではいかないまでも、それに近いほど回復している。初めと明確に違うのはあちこちに傷が残る愚神のみだ。
 
 絶え間ない攻防。愚神はキューブのみでなく自身の武器をも駆使し戦闘を続ける。歩く武器庫と言ってもいいほどその数は甚大だ。幾筋ものミサイルが空に線を引き幾重もの剣が剣閃を煌めかせる。
 能力者も無数の浅手を受けながらも食い下がり愚神の体を食い破る。剥離し欠落していく愚神の体が辺りに散っていく。
 能力者にとっては長い、しかして実際にはわずかな時間の後ついに愚神の稼働音が止まった。スリットの灯は消えてはいないがもはや動くだけの熱量がない。
 力をなくした手から剣がこぼれる。愚神はねじが外れたように崩れていく。ただの金属の塊と化した愚神からは歯車が血や内臓の如く零れだしそうして動かなくなった。
 

「最後に某能力者がパーツを持ち去ろうとする珍事、まあ面白いから私的にはいいんですけどねーお上がうるさくて、がありましたが依頼の完遂確認しました。あの一帯から従魔は掃討され無事事態は収拾されました」
「世もすべてこともなし、本当にお疲れ様でした」
  

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • エージェント
    刀神 織姫aa2163
    機械|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    刀神 桜aa2163hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 武芸者
    呉 淑華aa4437
    機械|18才|女性|回避



  • エージェント
    君建 布津aa4611
    人間|36才|男性|回避
  • エージェント
    切裂 棄棄aa4611hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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