本部

豊食からの飽食、侮辱からの腐食

一 一

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/07 19:17

掲示板

オープニング

●終わりとハジマリ
 深夜のコンビニ。
 草木も眠る丑三つ時、とはよく言ったもので。
 昼間はにぎわう通りも人が少なく。
 白と黒に点滅する街灯と。
 知覚してくれる存在のいないロゴ入り看板。
 そして、いつくるとも知れない客を待つ、店内から漏れた蛍光灯。
 それらだけが、辺りに存在する光だった。
「よ、っと」
 誰もいない。
 なにも変わらない。
 漆黒で固められた時間の中で。
 コンビニから、1人の青年が姿を現す。
「今日も廃棄がかなり出たな~。っつっても、毎日全部の商品を捌ききるなんて、どんだけ繁盛してる店でもできないんだろうけど」
 手にしているのは、賞味期限や消費期限の過ぎた食べ物たち。
 興味を抱かれるよう。
 利益を得られるよう。
 客に食べられるよう。
 商品開発や味の改良、パッケージデザインの変更に、メディアを使った宣伝。
 様々な経営努力を重ねてできた、様々な生命のなれの果て。
 穀物、野菜、果物といった植物。
 牛、豚、鶏といった動物。
 保存期間の延長や品質低下を防ぐための各種食品添加物。
 人々が生きる糧として刈り取られ。
 食されるために工夫・加工され。
 今、生きている命に活力を与えるはずだった、不要物。
「いつも思うけど、やっぱもったいねぇな」
 青年が大きな黒いビニール袋にまとめて入れた、それら。
 綺麗に整えられた形を奪われ。
 生産過程で生じた努力を冒涜され。
 たくさんの人の目に触れ食欲を刺激したにも関わらず。
 待っていた末路は、無価値の烙印を押されて、ぐちゃぐちゃに混ぜられた、ゴミ。
 おにぎり、弁当、サンドイッチ、その他総菜。
 1つ1つに込められた数多のエネルギーが、無に帰す瞬間。
 誰もが見慣れてしまった。
 気にされることさえなくなった。
 無慈悲で残酷な、日常と化した現実。
「おーい、ゴミ捨てが終わったらこっち手伝ってくれ!」
「あ、はーい!」
 だから。
 躊躇われることはない。
 省みられることはない。
 想起されることはない。
 生まれた意味から、作られた願いから、存在した記憶から。
 忘れ去られ、呆気なく、消える。
 コンビニから己を呼ぶ声に、青年はゴミ袋を手放した。
 街灯に照らされるのは、山と積もったゴミ袋だけ。
 チカチカと、チカチカと。
 白と黒が不規則に照らす、中を見通せない黒のビニール袋の中で。
 ーーずるり。
 この世ならざるモノが、産声を上げた。

●不愉快で不可解な不可思議
 夜が明け、太陽が天高く昇り、世界を光が支配した頃。
 ある商店街では多くの人々が行き交い。
 多くの飲食店から食欲をそそる香りが漂う。
 この日は休日。
 普段と比べると活気があり、人々のエネルギーに満ちている。
「……ん?」
 そこに、1つの波紋が落とされる。
「どうした?」
「いや、何か臭わない?」
 商店街の入り口に近い、和菓子店。
 特に地元住人から数多くの支持を得て、毎日1人は顔見知りの客と会う、繁盛店。
 先代から店を引き継がれ、今は二代目の店主と妻で営まれている。
 そこに生じた、かすかな違和感。
 お昼前にさしかかったところで、それに気づいたのは妻だった。
「……確かに、ちょっと臭うな」
 妻の言葉に店主も鼻を動かすと、わずかに顔をしかめた。
 かすかでも確かに感じ取れる、何とも表現のしようがない臭い。
 腐臭? 悪臭? 刺激臭?
 どれでもないし、どれともいえる。
 さりとて断言できるのは、決して心地のいいものではない臭いだということ。
「材料が傷んじゃったのかしら?」
「それならもっと早く気がつくだろう?」
 夫婦が首を傾げ、戸惑っているところに。
 ソレは現れた。
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
 突如、店の入り口のガラスが弾け飛んだ。
 短い悲鳴が上がり、瞬間一気に強くなる悪臭。
 日常を壊したのは、人・犬・猫の形をした、紫色をしたドロドロの塊。
『ひっ、……っ~!?!?』
 夫婦は悲鳴を上げかけ、それ以上に強すぎる悪臭に手で鼻ごと口を覆う。
 その間に、人の形をしたドロドロは頭を振りかぶり、何かを勢いよく吐き出した。
『っ!!』
 夫婦は思わず目を閉じ、身を固くする。
『……?』
 しかし、何も変化がない。
 少なくとも、自分たちの体には。
『な……っ!?』
 おそるおそる目を開けると、気味の悪いドロドロは姿を消し。
 かわりに、丹精込めて作られた和菓子がすべて、紫色のドロドロに沈んでいた。
「こ、これは……」
「に、にげましょう、っ!」
 入り口から見える範囲は、すべてドロドロで埋め尽くされている。
 ボコボコと泡立ち、気泡が弾ける度に強くなる異臭。
 臭いの強さはすぐに夫婦が我慢できる限界を超え、慌てて店の外へと飛び出した。
「げほっ、ごほっ! な、なんだったの、あれ?」
「うぐぅ、わからんが、ただごとじゃない!」
 店の外には、店内に残されたドロドロと同じ足跡が、点々と残っていた。
 そして、口元を押さえて商店街から逃げ出していく人々が横切る。
 夫婦もその中に混じり、目に涙を浮かべて身の安全だけを考えて走り出した。
 ーー商店街のすぐ近くにあった、紫で汚された無人のコンビニを通り過ぎて。

●腐食を防げ!
「ここからそう遠くない商店街で、従魔が暴れている模様です」
 多数の一般人からの通報を受け、H.O.P.E.職員はエージェントを集めた。
「最初の通報者によると、コンビニのゴミ袋に憑依したようですね。手始めに店内を荒らした後、すぐ近くの商店街に向かったとのことです。現在、人的被害は0。ただ、食べ物を扱うお店に押し入っては、商品をダメにして回っています。人を狙わない理由はわかりませんが、放置しておくとお店の経済的に大きな損失となることでしょう」
 商店街は南北に延び、規模は全長およそ400m。
 飲食店が多く軒を連ね、従魔が出現したと思われるコンビニは南口付近にあった。
 そして、従魔はどんどん数を増やし、商店街を北上しているらしい。
「情報では、従魔は悪臭を放つヘドロ状の物体。動きが外見にしては早い程度で、一般人でも全力で走れば逃げきれるそうです。討伐自体は難しくないでしょうが、数の多さには注意が必要だと思われます。くれぐれも気をつけてください」
 事件は十数分前に起きたばかりで、知られていることは少ない。
 早々に説明を終えた職員は、人々に害をなす敵の討伐をエージェントに委ねた。
 人々の日常と、日常を支える食べ物を守るために。

解説

●目標
 従魔の討伐。

●登場
 ヘドロ従魔…消費・賞味期限切れで廃棄された生ゴミに憑依したミーレス級従魔。体表は常に泡立ち、強烈な異臭が周囲に広がる。ヘドロ化した体を動物に変化させ、動きがやや機敏に。現状、人を襲う様子はないが、美味しそうな総菜や弁当などを発見してはヘドロを浴びせ、わずかなライヴスを得ている。

 野犬型…物理・魔法攻撃↓、回避↑、移動↑、イニシアチブ↑
 スキル
・マーキング…射程1~3、単体物理。ヘドロでドロドロになる。特殊抵抗判定でBS減退(1)付与。

 野良猫型…物理・魔法攻撃↓、回避↑、移動↑、イニシアチブ↑
 スキル
・糞飛ばし…射程1~15、単体魔法。ヘドロでドロドロになる。特殊抵抗判定でBS減退(2)付与。

 人間型…物理攻撃↑、魔法攻撃↓、命中↑、回避↓
 スキル
・嘔吐…射程1~5、単体魔法。ヘドロでドロドロになる。特殊抵抗判定でBS減退(3)付与。

●場所
 飲食店が多い商店街。全長400mで南北に延び、飲食店多数。休日の昼間でそこそこお客さんもいたが、従魔が登場してすぐ自主避難は完了。現場には鼻をえぐるような悪臭が広がり、長期間その場所にいると目の粘膜が刺激に耐えきれず、涙があふれてくる。

●状況
 従魔は商店街の中を散開して移動し、親の敵のように食べ物をダメにしていく。基本的に3体以上で行動し、地面に点々とヘドロの跡が付着しているので追跡は可能。すでに従魔が発生したコンビニでは食料品がすべてヘドロまみれであり、このまま放置すると商店街の商品も、いずれすべてが同じ末路をたどる。

※従魔を倒すとヘドロも臭いも消えるが、被害にあった食料品は腐った状態で取り残される。(PL情報)

リプレイ

●悪意に満ちた腐臭
「米一粒にも7柱の神様がいる、って言うよね」
 移動中、商店街の地図を見ていた木霊・C・リュカ(aa0068)は、ふと言葉を漏らす。
 八百万の神ーー日本に根付いた信仰に基づく謂れの1つだ。
「それだけ多くの神を捨ててきたのなら、罰が下ってもおかしくないのでは?」
「ふふーふ、確かに」
 事件の経緯と照らし合わせ、凛道(aa0068hero002)はリュカへ純粋な疑問を落とす。
 返すリュカの笑みは、いつも通りのようでいて、どこか違った。
 それから間もなく。
 エージェントたちは従魔発生地点と、商店街の外観を視界に収める。
「酷い臭いね。……早く終わらせたいものだけれど」
 現場に到着してすぐ。
 あまりに強烈な悪臭に、水瀬 雨月(aa0801)は口元を手で覆う。
「風上なら臭いを気にせずにすむ、と思ったが……」
「これほど強い臭いですと、さして変わらないかもしれませんわね」
 風向きで臭いの軽減を考えていた赤城 龍哉(aa0090)だが、目論見は外される。
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)の言葉通り、すでに商店街そのものが悪臭の元。
 臭気が濃すぎて、風程度では薄れそうもない。
「うっ……。報告にはきいていましたが、ひどい臭いですね」
「まったくじゃな。鼻が曲がるわい」
 新座 ミサト(aa3710)も臭いに不快感を示し、用意したマスクを着用。
 いつも飄々とした嵐山(aa3710hero001)も、これにはたまらず苦い顔となる。
「まだ食べれる物が駄目にされるのはやだな」
「傾国の妖狐に屑泥処理だと? 不敬極まったな」
 会津 灯影(aa0273)は従魔に襲われた食品を思い、複雑な表情を浮かべる。
 他方、楓(aa0273hero001)は依頼内容が気に入らないのか、不機嫌さを隠さない。
「これは随分と酷いであるな……」
「既に目が痛いのです。早期解決しなくちゃ、ですね」
 あまりの惨状に顔をしかめたユエリャン・李(aa0076hero002)。
 異臭の刺激で涙目の紫 征四郎(aa0076)は、まずライヴスゴーグルで目を保護。
 臭いと汚れをまき散らした従魔被害の解消に、強い気概を見せる。
 この中で、最初に動いたのは征四郎だった。
『行っておいで、可愛い子』
 共鳴後、ユエリャンの声を合図に『鷹の目』による偵察の鷹が上空へ飛び立つ。
 共有する視界から商店街全体を俯瞰し、敵の位置や外見を確認。
「……従魔は人・犬・猫型の3種、常に複数で行動しているのです。地面にあるヘドロの足跡をたどれば、追跡はできそうなのです」
 そして、征四郎が鷹の視覚で得た情報を仲間へ伝えた。
「それだけわかりゃ、十分だ!」
 大まかな情報を聞き、真っ先に反応したのは呉 淑華(aa4437)だ。
 地面のヘドロを確認しつつ、単独で商店街へ突入していく。
「あっ! 1人では危ないのですよ!」
「私が呉さんのサポートを!」
 征四郎の制止も虚しく、止まらぬ淑華の後をHoang Thi Hoa(aa4477)が追従。
 2人の背中はあっという間に奥の方へと消えていった。
「好きにやらせておけ。先んじて陽動となったと思えば、後は出てきた屑どもを始末するだけでいい。さすれば、我が汚物に触れずともよくなるだろう?」
『汚れるが嫌なのはわかるけど、少しはオブラートに包めって……』
 呪符で口元を隠した楓は焦らず、淑華たちを利用する気満々。
 共鳴中の灯影が言葉尻を捕らえてつっこむも、楓はどこ吹く風と涼しい顔だ。
 残ったエージェントたちも2人1組となり、散開して商店街へと足を踏み入れた。

●誘導と躍動
 4組に分かれたエージェントたちは、商店街南側から進行。
 上空から見渡せる征四郎の情報で大まかな位置を確認し、通信機で情報共有する。
 とはいえ、建物内に潜んでいればその限りではなく、足を使った捜索も必要だ。
 故に従魔の発見は、主に点々と残るヘドロの跡をたどることになる。
 それにより、1番最初に接敵できたのは、初動が早かった淑華であった。
「はあっ!」
 いち早く敵陣の中へ突っ込んでいた淑華は、敵の一団を見つけると突進。
 形意拳のコン歩という独特な歩法を用い、かつ機械化した足から蒸気を噴出。
 動作の勢いをすべて乗せ、人型の頭部を鉤爪によるさん拳で突き上げた。
「危ない!」
 しばらく一撃離脱を繰り返していた淑華へ、ホアンが遅れて追いついた。
 そしてすぐさま身を踊らせ、淑華と従魔の間に割り込む。
 瞬間、淑華の側面から飛んだ犬型の『マーキング』を、構えた槍で受け止めた。
「悪い! だが、気をつけろ! こいつらの攻撃、受けるとまずいぞ!」
 かばわれたことに謝罪をしつつ、淑華は背筋に上る悪寒を覚えて注意も促す。
 鋭くなった野生の勘に従い、一度大きく距離を取った。
「っ!? ……確かに、ただのヘドロじゃなさそうね」
 同じく後退したホアンだが、一瞬めまいを覚えて頭を振る。
「仕方ねぇ、俺たちは敵のあぶり出しにかかるぞ!」
「わかった!」
 敵に包囲まではされていないが、攻撃の手応えから討伐は荷が重いと判断した。
 そこから淑華たちは倒すことにこだわらず、従魔の注意を引く方針へ転換。
 仲間たちのところへと誘導するため、目に付いた敵へ攻撃しつつの後退を選択した。

 場所は変わり、こちらは凛道・雨月ペア。
『わ! 汚い! それに臭い~っ!?』
「……ずいぶん小器用な従魔ですね」
 商店街を入ってすぐ、3体で行動していた従魔たちと遭遇。
 すると、出会い頭に猫型従魔が臀部からヘドロの糞を射出した。
 不意を打たれたのは凛道。躱しきれず、体にべっとりとヘドロを浴びる。
「凛道さん、下がって!」
 カウンターを行ったのは雨月。
 人・犬・猫従魔が固まる中心を起点に、『ブルームフレア』を発動。
 商店街の通路幅ギリギリまで、ライヴスの爆炎が大気ごと燃やし尽くす。
 直後、姿勢を低くした犬型と猫型のヘドロが炎から飛び出し、2人へ接近。
 炎が消えると、人型は跡形もなく消滅していた。
「雨月さん!」
「くっ!?」
 駆け寄る2体の従魔は、それぞれ攻撃目標を別々に設定。
 猫型は凛道へと接近し飛びかかるも、グリムリーパーで両断され消滅。
 犬型はスキル発動直後の雨月へ、そのまま体当たりでぶつかっていった。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫」
 だが、反撃はここまで。
 すぐさま刃を翻した凛道が犬型の首をはねたことで、周囲の敵影は一時的に消える。
 また、消えたのは敵だけではなかった。
『あれ? 体のドロドロが消えた?』
「よく見れば、店のヘドロも一部なくなっていますね」
「元を断てばヘドロ汚染も消える、か。シンプルでいいわね」
 最初の変化は、猫型の消滅と同時に凛道が浴びたヘドロの消失。
 リュカがそれに気づいた後、凛道と雨月も商店街のヘドロと臭いの減少を確認する。
 どうやら従魔が放ったヘドロは、従魔を倒せば一緒に消えるらしい。
 逆を言えば、商店街からヘドロが消えれば、従魔が全滅した証拠となる。
 雨月はそのことを、別の場所にいる仲間へと通信機で伝えた。
 同時に、敵の行動パターンやヘドロ攻撃についてもあわせて説明した。
『リンドウ、ちょっといい?』
 その間、リュカの指示で凛道はヘドロが消えた店から、無事だった食品を持ち出す。
『これで従魔をおびき寄せられるかも。お金は後で払いに行こう』
「はい、マスター」
 各々の行動を終えると、凛道と雨月は再び商店街の通りを進んでいった。

「好き勝手移動させると、汚染地帯が広がるのです。どこかで釘付けたいところですが」
 その頃、征四郎・楓ペアはメイン通りを進み、現れる従魔を蹴散らしていた。
『何か罠的な……、あ、『あれ』使えるかな? 商店街中央に設置して、従魔ホイホイみたいにさ?』
「……貴様正気か?」
 征四郎の言葉に閃いた灯影の『あれ』を理解し、楓は明らかに表情を歪める。
『あれ』とは、灯影特製・手作り和食三昧の4段重箱。
 被害状況から、食べ物を狙う従魔への囮になると、リュカと同じ結論に灯影も至る。
「我の栗飯と油揚げの煮浸しとささみの梅紫蘇和え、その他香り立つ絶品和食を無にすると?」
 ただそれは本来、楓が食べる予定だったもの。
 従魔討伐には効果的だろうが、楓にとっては歓迎されるものではない。
『勿体無いけどまた作ってやるからさ?』
「いや、夕餉にしろ。それで譲歩してやる」
『よしっ、じゃー決まりな!』
 問答の末、交換条件で渋々楓が折れ、重箱投入が決まる。
 そして新たに出現した従魔へ、楓が腹いせの『ブルームフレア』を放った。
 楓の苛立ちがこもったライヴスは、見事に従魔を一網打尽とする。
「私たちも食べ物を探すのです!」
『ライヴスで感知をしているなら、量があるのが良かろう』
 灯影の提案を聞いていた征四郎とユエリャンも、作戦に同意。
 従魔を警戒しつつ、ヘドロが消えた店の無事な食料を集めていった。

 散開した直後の、こちらは龍哉・ミサトペア。
 両者ドレッドノートの組み合わせは、役割を明確に分けて従魔に対応。
 ミサトが虹蛇で前衛を、龍哉が九陽神弓で後衛を担当する。
 こちらも商店街に入ってすぐ、凛道・雨月ペアと同様従魔3体と交戦状態へ。
 そしてまたしても、ヘドロ従魔の洗礼を受けることに。
「これは……ヘドロでドロドロだわ。なんてイヤな攻撃を」
『被害が増える前に、迅速に始末していくしかないの』
 先手を許したのはミサト。
 遠距離から放たれた猫型の糞ヘドロをまともに受けてしまった。
 また、案外すばしっこい従魔の動きに、嵐山は警戒レベルを引き上げる。
「何とも行儀の悪い従魔もいたもんだ」
『傍迷惑極まりますわね。人的被害がなかったのが幸いですわ』
「ともあれさっさと片付けるに限る。やるぞ、ヴァル!」
 が、黙ってやられてやるほど、エージェントは甘くない。
 少々下品な攻撃方法を揶揄しつつ、龍哉は弓矢を引き絞った一矢で猫型を粉砕した。
「悪い子には、おしおきが必要ね!」
 龍哉の援護射撃を受けつつ、ミサトも鞭を自在に振るって従魔を翻弄。
 残る2体も、すぐにしとめることができた。
「食べ物からライヴスを得ただけだからか、力はさほど強くねぇな」
「しかしその分、数が多いようです。注意していきましょう」
 戦闘の手応えから、1体の脅威度は低いと龍哉は判断。
 ミサトも頷きつつ、されど油断は禁物と引き続き警戒を促す。
 この時、通信機で雨月から従魔とヘドロの関連が指摘されていた。
 しかし、減ったヘドロの量は少なく、従魔の数がまだまだ多いことも判明。
 敵に包囲されることは避けようと、慎重に先を進んでいった。

 それから散発的に戦闘を繰り返し、目に見えてヘドロが減った頃。
 通信機のやりとりを経て、2組が一度落ち合うように移動を開始した。
 そして合流を果たしたのは、凛道・雨月ペアと征四郎・楓ペア。
 食品で従魔を誘い込もうと考えた2組であり、それぞれ集めた食品を持ち寄った。
「征四郎さん、これも使ってください」
「ありがとうなのです!」
 凛道・征四郎は店から調達した食料品を。
「これも囮に使える?」
「不本意だが、仕方あるまい」
 雨月・楓は持参していた弁当を。
 事前に入れた連絡もあって、受け渡しはスムーズに行われた。
 肝心の設置役は、『鷹の目』で全体を把握できる征四郎が担当。
 集まった食品を幻想蝶へ保管し、征四郎は単独で商店街の中心へと向かう。
「これでどうです、か?」
 そして、集めた食品を征四郎が取り出し、重箱の蓋を開けた直後。
『鷹の目』が捉えた従魔たちの動きに、明らかな変化が見られた。

●臭撃の終劇
 まず、商店街の各店内にいたヘドロ従魔が、一斉に外へ飛び出してきた。
 次に、食料品のライヴスを感知した従魔たちは、移動速度が急上昇。
 征四郎が出したばかりの囮を捕捉し、一気に集まってきたのだ。
「おい! こいつらの動きが急に変わったぞ!? 何かあったのか!?」
 それに合わせ、かなり奥まで先行していた淑華やホアンも姿を見せた。
 淑華らの背後には、今まで気を引いてきた従魔たちの団体もいる。
 食品の囮効果も上乗せされ、かなりの数がなだれ込んできた。
「メイン通りの従魔は頼みます! 僕と雨月さんは西側からくる敵を!」
「りょ、了解なのです!」
 急に押し寄せる従魔の動きに対応するため、3組はそれぞれ配置を決める。
 メイン通りの西側側面から現れた4体は、雨月が『ブルームフレア』で焼失。
 さらに炎を突き抜けた後続の従魔を、凛道が『ストームエッジ』で薙ぎ払う。
 正面の敵は征四郎、楓、淑華、ホアンが迎え撃つことに。
「ひっ、やめるのです! そのまま、近づかないでくださーいー!」
 が、今までと違い敵の数が多い。
 視覚的に威力の高いヘドロの大群に怯みつつ、征四郎は『女郎蜘蛛』で動きを阻害。
 淑華とホアンが続いて、動きが鈍った従魔を狙ってダメージを加えていく。
「あっ!」
 しかし、隙を突いた猫型が網をすり抜け、征四郎たちの横を素通り。
 先ほど設置した重箱・弁当・食料品めがけ、ヘドロを何度もまき散らした。
「貴様!」
 紫ヘドロに沈んだ光景に、楓の柳眉が逆立つ。
 本日1番の怒りがこもった『ブルームフレア』で従魔を木っ端微塵に吹き飛ばす。
『そんなに食いたかったの?』
「あの死神風情がこの苦労も得ず、暢気に食していると思うと……!」
『ああ、そういう……』
 色々察した灯影からは呆れ声が漏れるも、楓は止まらない。
 さらに征四郎が留めた従魔たちを、『ゴーストウィンド』でまとめて薙ぎ払った。
 食料品は犠牲になったが作戦は見事にはまり、どんどん従魔の数が減っていく。

 また商店街の中心から見て東側にいた龍哉・ミサトペアも、従魔の群れと遭遇。
 荒ぶるヘドロ従魔を相手に、激しい戦闘を繰り広げていた。
「魅せてあげましょう。私の華麗な鞭捌きを!」
 押し寄せるヘドロを前に、ミサトは『怒濤乱舞』で迎撃。
 嵐のように鞭を乱れ打ち、従魔の進行速度を緩めた。
「足を止めたら、いい的だぞ!」
 その隙を逃さず、ミサトの背後から龍哉が弓矢を次々と射出。
 1射1殺の勢いで、アウトレンジから従魔を的確に射止めていく。
「私も、単なる足止めではありませんよ!」
 さらに、龍哉の攻撃に臆す従魔へミサトが接近。
『一気呵成』や『疾風怒濤』の高速鞭術を駆使し、さらに敵の数を減らしていく。
 中心部の征四郎たちよりは少ないものの、かなりの数の従魔を次々消滅させる。
 前衛のミサトは時々被弾しながらも、見事な連携で敵を圧倒していた。

「凛道さんはメイン通りの援護へ! ここは私だけで大丈夫よ!」
「わかりました! 気をつけて!」
「……加減はできないわ、あまり時間は掛けたくないの」
 次第に従魔の攻勢が落ち、側面からの敵は少ないと判断した雨月。
『ゴーストウィンド』で牽制しつつ、凛道を敵数が多いメイン通りへ促した。
 そこでは、征四郎と楓に協力して集まった敵相手に淑華とホアンが奮闘。
 が、数的劣勢により、いつの間にか人型2体の挟み撃ちにあう。
「ぐっ!?」
「呉さん!」
 ほぼ同時に、淑華もホアンも人型の口から吐き出されたヘドロを浴びた。
 それでも、ホアンはすぐさま槍の刺突で従魔をしとめ、ヘドロを消すことに成功。
 だが、淑華はヘドロで鈍った動きが災いし、拳を躱されしとめ損ねた。
 しかも、人型の動作に追撃の予兆が見え、淑華は表情を強ばらせた。
「ご無事ですか?」
 次の瞬間、凛道の死神の刃が淑華の背後から煌めき、従魔が四散・霧消する。
「すまねぇ、助かった」
 淑華は礼を言って構えを取り、凛道も加えて残る敵の掃討へ畳みかけた。
 商店街の中心を背にした3つの戦場は、やがて終息していく。
 最初に大通りの従魔が姿を消し、気づけば店のヘドロや臭いがほとんど消えていた。
「こっちも終わりよ!」
 続けて雨月も、従魔を1人で抑えきり全滅させる。
「これでラストだ!」
 龍哉・ミサトが対峙した敵も、たった今最後の1体が撃破された。
 こうしてヘドロ従魔は駆除され、商店街の景色は日常を取り戻したのだった。

●今を乗り越え、明日を信じて
 その後、従魔殲滅の報を聞き、商店街の人たちも戻ってくる。
 このタイミングで、リュカと征四郎は囮に使った食料品の代金を差し出した。
 が、自分たちの帰る場所を守ってもらったからと、店主は頑なに受け取らなかった。
 最終的にリュカたちが折れた後、代わりに彼らの清掃作業を手伝うことに。
「……これらは、従魔が憑りついていた食料品ですか」
「ふむ。……これはだめじゃな。すべて腐ってしまっておる」
 地面に散らばる食品を、ミサトと嵐山は静かに見下ろしていた。
「老師、もしかして今回の事件は、私達人類に対する警鐘だったのではないでしょうか」
「ほう、警鐘とは?」
 ふと、ミサトは今回の事件で浮かんだ思いをこぼす。
 続きを促す嵐山の目は、波紋1つない湖面がごとく静かで、どこか温かい。
「日々口にする食べ物への感謝。それがいまの私達には足りていないのだと」
「ほっほっほ。相変わらずミサトちゃんは真面目じゃのう。ほれ、後片付けでもするかの。食べ物への感謝を込めてな」
 日々の中にあるからこそ、見落とされる。
 当たり前すぎるからこそ、忘れ去られる。
 自身が今、生き繋げていることの感謝を。
 ミサトを真面目だと笑った嵐山は、されど否定もせず。
 ありのままを受け入れたミサトは、視線をそらさない。
 そんな彼女たちもまた、朽ちた食品を丁寧に回収していく。
「やれやれ、敵が片付いたはいいが、少なからず酷い有様だな」
「マナーがなっておりませんわ」
 続けて、龍哉は腐った食べ物が散乱する商店街の状況にため息をこぼし。
 ヴァルトラウテも、立つ鳥跡を濁す従魔の所行に立腹しつつ。
 腐った食品を地道に拾い集めていく。
「食べ物を粗末にしたくは無かったけど、これじゃ食べられないわね」
 雨月は持参弁当が朽ちた姿に眉尻を下げ、ため息を残してゴミ袋へ突っ込んだ。
「腐ったのは残るんだな……。俺も掃除、手伝ってくる」
「好きにしろ。我は夕餉の食材でも考えておくとしよう。……しかし、あれを汚らしい屑の餌にしたのは惜しい。我に更なる美食を捧げる為、より励めよ主夫!」
 共鳴解除前に香水を身に振り、解除後も念入りに臭いを清めていた楓。
 掃除に勤しむ灯影の背に声をかけるも、自身が動く気配はない。
「主夫じゃねーつの!」
 即座に言い返した灯影の声音は、普段通りの楓を見つけてどこか柔らかい。
 無駄となった食品に灯影が覚えた寂しさを、少しだけ和らげてくれたから。
「髪の匂いが取れるか心配であるぞ」
「うう、かえってシャンプーいっぱいするのです……」
 ユエリャンと征四郎もまた臭いを気にしながら、清掃作業を手伝う。
「勿体無いであるなぁ」
「食べたらお腹壊しますよ、ダメですよ!?」
 腐敗した食料を見たユエリャンの一言に、征四郎が強く制止する場面も見られたが。
「ヘドロの従魔、……そっちは何とかできても、こっちは解決できるのかな?」
 淑華とともにゴミとなった食品を掃除するホアンもまた、思案を巡らす。
 ホアンをこの依頼へ突き動かした動機は、食と貧困に悩む祖国での経験から。
 ただ今回は、あふれる廃棄食材という豊かな悩みに、従魔が目を付けて起きたもの。
 足りない立場と、満ちすぎる立場。
 食という軸の対極に位置する問題は、どちらも重く深刻だ。
 腐った食品を見つめ、ホアンは不平等な世界を思い、瞳を揺らす。
 今のホアンには、目の前の問題に向き合うことで精一杯だった。
 分担して作業が行われ、夕方頃には被害にあった食品が一カ所に集められた。
「根本からの解決は難しいのでしょうか」
「商売との兼ね合いでもあるからね」
 大量のゴミを前にした凛道の呟きは、祈りを捧げたリュカの声を受け、途切れる。
 そして、従魔の影響を絶やすため、ライヴスの攻撃をもってゴミは処分された。
「帰りは期限間近のお弁当、買って帰ろっか」
「……はい、マスター」
 帰り際、リュカの寂しげな笑みを前に、凛道は静かに肯定を返した。
 時間が経った食品は、フードバンクという活動で有効利用する動きもある。
 しかし、今回従魔が憑依したのはその活動の対象外である食品ばかり。
 口にする人々を考慮し、食品の安全もまた、厳守すべき内容だから。
 余剰なき供給と、消費者の安全。
 食における2つの命題を両立する解答は、まだ誰も明確に示すことはできない。
 でも。
 それでも。
 人は間違いに気づくことができる。
 憂慮を善意に替えることができる。
 正そうと行動に移すことができる。
 矛盾を抱えた社会の行く先にある、よりよい未来を選べるよう。
 人の思いは、消えない希望となり続ける。
 だから。
 自分ができることを、自分ができる範囲で。
 小さな積み重ねで、大きな結果へと繋げる。
 誰もが望む未来を掴む一歩になると信じて。
 エージェントたちは、今日もどこかで、人々の日常を守っていく。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • ローズクロス・クイーン
    新座 ミサトaa3710
    人間|24才|女性|攻撃
  • 老練のオシリスキー
    嵐山aa3710hero001
    英雄|79才|男性|ドレ
  • 武芸者
    呉 淑華aa4437
    機械|18才|女性|回避



  • 恋は戦争、愛は略奪
    Hoang Thi Hoaaa4477
    人間|22才|女性|生命



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