本部

【屍国】対面禁止の脱出

東川 善通

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/15 00:25

掲示板

オープニング

●売り言葉に買い言葉
 曇天の下、若者の集団がぶつかり合っていた。スカジャンの背に紅の獅子を背負った集団に黒ジャージで背に青い不死鳥を背負った集団。
「じゃあ、度胸試しといこうじゃねぇか」
「いいぜ。ビビってしょん便垂らすんじゃねぇぞ」
「はっ、テメェには言われたくねぇなぁ」
 中心で言い合っていたのはそれぞれの集団のリーダー。赤髪に白メッシュが入ったでスカジャンを纏うがたいがいい男は権堂龍士(ごんどうりゅうじ)。金髪に青メッシュを入れた黒ジャージのチャラい男は宇鷹康(うたかしず)。
 この二人、目があった瞬間、これである。今日も今日とていつもと変わらなかった。ただ一点、心霊スポットを舞台としたこと以外。

「ルールは簡単だ。このホテルの中にあるって言う霊が書いたっていう落書きを見つけるだけだ。なんでも、カメラを通してじゃねぇと見えねぇらしい」
「なかったら?」
「なけりゃ、引き分けだな。ねぇんだから」
「まぁ、ありゃいい話ってことか。ま、どうせ、俺らアズラルアンカーが先に見つけるだろうがな」
「バカ言うんじゃねぇ。紅獅子が見つけるに決まってるだろうが」
 エポック都志。最初はハイランドホテルとしてオープンしたが、突然閉鎖。その後、エポック都志と改め、開業するもすぐさま閉鎖されたホテル。噂が噂を呼び、いつしか全国でも有名な心霊スポットとなっていた。曇天の雲が怪しく色づく黄昏時、そこにアズラルアンカーと紅獅子の2グループが度胸試しに訪れていた。
 彼らのように訪れた人間は多いのだろう、その場は荒らされ、色々なものが散乱していた。しかし、不思議なことにそれだけ荒らされているのに片付けてしまえば、普通にホテルとして使用できてしまう綺麗さを保っている。廃墟ともなれば、下品な落書きなんかされていてもおかしくないというのにそれが見当たらない。ある落書きと言えば、小さく目立たないものばかりだ。ただ、そんなホテル内部とは違い、外に放置されている車は時代を感じさせる如く、ボロボロに朽ち果てた末、緑に覆われ、不気味な存在感をアピールする。
 そんな廃墟の異様な雰囲気にびくつきながら、男たちの度胸試しが始まった。

●襲い掛かる恐怖
 何も起こることなく、彼らはホテル内部を一巡した。屋上まで調べたが、どちらも見つけられない。ただ、引き分けは面白くないということもあり、再び1階から隈なく調べることとなった。
「きゃぁあああああ!!!!」
 甲高い悲鳴が上がる。それに紅獅子はニヤニヤと笑みを浮かべる。
「おいおい、向こうは女でも連れてきてたか?」
 ゲラゲラと笑う彼らに対し、奥からはがたがたと物音がしたかと思うと、次に逃げるように階段を駆け上がる音が響く。その慌てように龍士は笑いを引っ込め、眉を顰める。
「……龍士さんどうしたんすか?」
「いや、なんか、やたら冷えねぇか?」
「まぁ、もう冬っすからねぇ」
 殆どの窓が板で塞がれているとはいえ、暖房器具の働いていない廃墟だ。冷えるのは当然だろというが、龍士の感じた寒気はそれではない。だから、それを否定しようと口を開いた瞬間、仲間から叫び声が上がった。
「なんだ!」
「龍士さん、あ、あ、アレ!!」
「――なんだよ、ありゃ」
 腰を抜かした仲間に龍士が駆け寄り、彼が指さす方を見て、目を見開く。そこにはとても生きた人間に見えない青白い肌をした人間たちがゆらゆらと体を揺らしながら、こちらに向かってきていた。
「……突破、は無理だな。仕方ねぇ」
 龍士は冷静にどうするか考える。そして、その結果、近くにあったカウンターを仲間と共に動かし、入り口を封鎖する。また、乗り越えてこられないようにと近くにあった金庫なども使い、完全に封鎖した。
「龍士さん、これからどうするんすか」
「一先ずは上に上がるぞ」
「は、はい」
 一通り見たとは言っても、窓が開いているだとかまでは確認していない。だからこそ、一先ず、上ってこれないことを想定し、上の階へと移動する。
「このまま、アイツらに襲われて俺ら死ぬんすね」
 そういって、めそめそし始める仲間に龍士は大きな溜息を吐く。そして、抑える力とはならないだろうが、少しでも仲間たちの心を弱らせないようにと思い、龍士はお守りとして持っている数珠を恐怖で震える手で取り出し、幼いころから家で聞いていた念仏を唱え始めた。

 一方で、紅獅子よりも先にゾンビの存在に気づき、上の階へと逃げていたアズラルアンカーは頼るものもなく、頭を抱えていた。
「どうすんの? リーダー、気絶してっし」
「……待つしかないだろ」
「待つって何を? 周りにゃ家もねぇ、山の上だってノに気づくやついんのかよ」
 康を背負った副リーダー蒼馬(そうま)に他の仲間が食って掛かる。その後ろでは恐怖からか小さく家族の名前を唱えているものもいる。
「闇雲に逃げ出すのだって同じだろ。だったらーー」
「蒼馬、話しぶち切るけど、H.O.P.Eに連絡しねぇか? あそこだったら、警察と若干違ぇし、こういうことに慣れてんじゃねぇか?」
 その提案に蒼馬は頷き、連絡を頼む。「わかった」と頷いた青年も平静を装っているが恐怖からか手が震え、ダイアルが上手くできない。しかし、時間をかけ発信。
 同時刻、念仏を唱えてくれている龍士の傍で服リーダーがアズラルアンカー同様にH.O.P.Eへと救援の連絡を入れていた。
 そして、二通の電話がH.O.P.Eへ届き、君たちエージェントは心霊スポットとして有名なエポック都志の屋上へと降り立った。

解説

2チームが対面しないように脱出せよ。
【】はPL情報。

●エポック都志
 高知のとある名所が一望できる小高い丘の上にある6階建ての廃ホテル。近くには三十八番札所である金剛福寺がある。基本的に窓には板が打ち付けられている。また、肝試しなどで荒らされてはいるため、色々なものが散乱している。1~5階までは螺旋階段でつながっており、5階~屋上までは別階段となる。

●やんちゃな人達
・紅獅子(べにしし)×12
 権堂龍士率いるがたいのいい男衆。龍士は数珠を取り出し、念仏を唱え続けている。【なお、龍士は能力者。英雄が幻想蝶である数珠にいるが詳細不明。本人は自身が能力者であることすら知らない。また、覚醒時など一部記憶が抜け落ちている。ただ、場合により、共鳴できる】

・アズラルアンカー×13
 宇鷹康率いる細マッチョな男衆。尚、康は気絶につき副リーダーである蒼馬に背負われている。

・共通事項
 全員二十歳未満の若者。平気な顔だが、大のホラー嫌い。怪我は逃げる際に負ったもので、他の怪我はなし。【敵対チームと顔を合わせた瞬間、パニック状態に陥り、バラバラに逃げ出す。】

●状況(PL情報)
 エージェント達が屋上に着地後、嵐が激しくなり、航空機による脱出は不可。また外に出た際、雨による視界不良と泥濘によって、移動力、イニシアチブが-2減。
 裏口と正面入り口は封鎖中。壊すことは可。紅獅子は4階、アズラルアンカーは5階にいる。
 ただし、外(半径60m)にはゾンビ型従魔(数など詳細不明)がうようよとさまよっており、時折、中に入ってこようとしている。尚、動物系ゾンビの姿は今のところ確認されていない。ゾンビはとっても弱いため、エージェントたちがダメージを喰らうことはほぼない。
 食料などは持ち込んでいないため、時間経過により、2チームの体力、気力が減る。

リプレイ

●叩きつける雨が断つ退路
 救援の連絡を受け、航空機に乗ったエージェント達。目的地であるエポック都志に向かっているとバラバラと何かが機体を叩く。
「……雨かな」
 空気も湿ってたしとぽつりと零したのは木霊・C・リュカ(aa0068)だ。それに小窓を覗き込み、下に落ちていく線を確認した凛道(aa0068hero002)はそれに頷く。
「度胸試しとな、実に楽しそうな試みであるな! して、落書きは見つかったのだろうか」
「全然楽しくないのです……! 見つからない方がいいに決まってるのですよ」
 リュカの隣では紫 征四郎(aa0076)が楽しそうだというユエリャン・李(aa0076hero002)に顔をしかめている。
 そうしている間にもエポック都志の上空に到着。エージェントたちは次々と屋上へと降りていく。「では、後ほどーー」とアル(aa1730)が伝えようとしたが、一際強い風が吹き付けるとぐらりと機体が大きく揺れる。それもあり、エージェントたちは風によってエポック都志から引き離される前にと慌てて、屋上へと飛び降りた。通信機からは雑音だらけの音声で「こちらでの救援が厳しい」という旨が届けられた。それにリュカは吹き付けると海風と打ち付ける雨に仕方ないと頷く。
「……ッ!」
「ユーヤ!!」
 その一方で降り立った直後、ぐらりと揺れる麻生 遊夜(aa0452)。その姿にユフォアリーヤ(aa0452hero001)が声を上げる。それに遊夜は「大丈夫だ」と軽く手を挙げて見せた。
「アソウ、大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと立ちくらみしただけだ。問題ないさ」
「……ユーヤ」
 心配そうなユフォアリーヤを遊夜は撫で、大丈夫だと落ち着かせる。こちらに出発する前に参加した依頼では調子が良くなく、後方支援にとどまったが、今はそれを感じられない。
「それはともかく、2通期経って話だからここは二手に分かれるか」
「それがいいですね。合流して脱出すれば時間もかかりませんし」
 凜道の言葉にエージェント達は頷く。ただ、それに声を上げる者がいた。
「二手に分かれるのはいい思うけど、随分と多いみたいよ」
「先ほど、のぞいてみたが、うじゃうじゃいるぞ」
 ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)の言葉に泉興京 桜子(aa0936)が付け加え、全員が屋上から見下ろした。建物の周りに広がる雑木林や強く降り始めた雨が邪魔で正確な数は把握がつらいが、彼女たちの言葉の通り厄介な数いることは明らかだった。それに三手に分かれた方がいいだろうとなり、班分けをどうしたものかと顔を見合わせる。
「とりあえず、あたしたちは邪魔になりそうなゾンビちゃん達をお掃除しようかしら」
「うおーわかりやすいである! がんがんいくのであるぞ」
「では、征四郎たちもそちらに行きます!」
「うむ、それがよいな。しかし、ホラーは嫌いではないが、我輩ゾンビはあまり好きになれないである……」
 敵の頭数減らしに手を上げたのは桜子たちと征四郎たち。それに「では、そちらは任せる」と決まれば、「では、私はアズラルアンカーの方に行こうと思います。通報で気絶されているかたがいらっしゃるみたいですから」とすでにペンギン皇帝(aa4300hero001)と共鳴した酒又 織歌(aa4300)が手を挙げた。それにつられ、「じゃあ」とアルは紅獅子の方に行くということ手を挙げる。
「そいじゃあ、俺たちと酒又さんがアズラルアンカーのところへ」
「征四郎たちとセンコウインはゾンビ退治に向かうのです」
「じゃあ、残ったお兄さんたちは紅獅子のところに行こうか」
 それぞれに分かれる中、連絡を取り合う班のリーダーも決めると行動に移した。遊夜たちとリュカたちが建物の中に踏み込んでいく中、征四郎はユエリャンと共鳴し、ライヴスでできた鷹を飛ばす。建物の周りをぐるぐると回しながら、地上へと降下させていく。
「数が多いのです」
『ふむ、これはどこかに誘導するのがいいかもしれんな』
 裏口と正面を確認し、通信機のスイッチを押そうとしたところで、地上近くにいたこともあり、ゾンビが鷹に複数体が襲い掛かった。それにより、鷹はあっけなく崩れ落ちた。
「紫殿、どうされたのだ?」
「いえ、ちょっと鷹が攻撃されてしまったのです。でも、なんとか建物の状況はわかりました」
 どれだけのゾンビがいるかのおおよそと建物の損傷具合を通信機で、伝えると桜子とアイコンタクトをとると、同時に屋上から飛び降りた。

 5階。遊夜たちはリュカたちと分かれ、5階に留まるといるであろうアズラルアンカーを探す。どこかで話し声は聞こえないかと耳をすませば、雨の叩く音に混ざって微かに混乱しているような声が聞こえてきた。
「こっちだな」
「だいぶ、混乱しているようですね」
「まぁ、こんなことになるとは思ってもみなかったんだろう。それにしても、幽霊よりも従魔に警戒してほしいもんだがな」
「……ん、こういう案件ばかりだもの、ね?」
 特に四国にいるのだから、耳に入っていてもおかしくないんだがなと溜息を零す遊夜。ここ最近、四国のあちらこちらでゾンビ型従魔が起こす事件。恐らく、今回も何らかの関係があるだろうと遊夜は考えていた。
 そして、話し声が聞こえる部屋の前に来ると「よぅ、待たせたな」と部屋に踏み入る。そんな遊夜についてユフォアリーヤも「おまたせ」と言って、尻尾を揺らしながら入っていく。
「……H.O.P.Eか?」
「はい、H.O.P.Eです。助けに来ましたよー」
 証明としてエージェント登録証を提示し、確認してもらう織歌。それに見て、ホッとする者もいれば、「早くなんとかしてくれ」と訴える者もいた。
「なんとかしてやりたいのは山々なんだが、いかせん情報が少なくてな。情報提供してもらえるか?」
「大丈夫、皆、守るから」
 遊夜の言葉に情報提供って言ったってなぁと顔を見合わせる青年たち。
「ま、飯でも食いながら話をしようか」
 幻想蝶の中から遊夜の運営する孤児院の子供たちが作ったお菓子やおせちや高級弁当を取り出し、広げた。その美味しそうな食べ物に自然と唾を飲む。人によっては緊張が少しは解れたのか腹の虫が騒ぐものもいた。
「遠慮しなくていい。脱出するにも体力がいるからな」
 そんな遊夜の言葉に顔を見合わせ、そうだよな、口々に言うと美味しそうな食べ物へと次々と手を伸ばした。
 その一方で、織歌は蒼馬に近づき、気絶しているアズラルアンカーのリーダーである宇鷹康の容態を診せてもらっていた。頭などを強打していたらと思い、確認するも特にこれといった外傷はない。
「外傷はないみたいですけど、どこかを強く打ちつけたとかありますか?」
「いや、別にないはずだ。一応、倒れる前に支えれたから」
 そう答える蒼馬に織歌は「では、大丈夫そうですね」と一つ頷く。そうしていると「そーま」とお弁当を頬張る仲間に呼ばれた。
「コイツが話聞きたいってー。オレらリーダーについてきただけだからさぁ」
 お前なら知ってんじゃねぇか? という青年たちにふぅと一つ溜息を落とすと織歌に康を頼むと遊夜の方へと向かった。
「で、聞きたいことって」
「あぁ、簡単なことだ。なんで、ここに来たのか? だな」
「度胸試しだ。ま、うちの連中はなりはこうだが、ホラーは康を見てもらえばわかる通りだ」
「そうか。じゃあ、他には連れとかいるか? ほら、よくあるだろ。逃げてる間にはぐれたとか」
「…………仲間じゃねーが、紅獅子がいるはずだ」

 4階。紅獅子と合流したリュカたち。しかし、合流した当初はアルの英雄である白江(aa1730hero002)の姿を見て、阿鼻叫喚だった。アルは嫌な予感が当たったとばかりに誤解を解こうと必死になるが、聞いてもらえない。ただ、念仏を唱えていた権堂龍士の「黙れ」の一言に男たちは口を噤んだ。そこから、リュカが水筒や飯盒、トリートセットを取り出し、まずは落ち着こうかと紅獅子たちに飲み物を配る。そして、アルもコアラリュックの中にたっぷり入れたお菓子を並べた。
「で、そいつは幽霊とかじゃねぇんだな」
「そうだよ」
「だとよ」
 アルに白江のことを確認する質問をすれば、おずおずとだが紅獅子は胸を撫でおろしたようだ。そして、一点を見つめて、あれはどうなんだろうと首を傾げた。
「ウホ?」
 そこにいたのはやんちゃをするようになる前に教科書で見たことがあるような気がする猿人類――ホモ・ハビリス(aa4561hero001)。不思議な目に首を傾げるホモに彼の相方である犬養 菜摘(aa4561)は「彼も幽霊ではないです」と答えると全員が「だよな」と声をそろえた。
「さて、ちょっと和んだところで本題に行こうか」
「そうですね。あなた達もずっとここには居たくないでしょう」
「そりゃ当然だろ」
 リュカと凜道の言葉にうんうんと頷く。そして、情報を整理するという名目で、紅獅子から話を引き出していく。
「どうして、アズラルアンカーの人たちと一緒は嫌なの?」
「んな、情けねぇ姿見せられるわけねぇだろ」
 素朴な疑問に一人が答えれば、それに同調するように全員がうんうんと頷く。ただ、質問したアルはそういうものなの? と首を傾げていた。
「――、――」
 少し離れたところではエージェント達到着によって止めていた念仏を龍士が再開されていた。その念仏が気になってというよりも龍士の持つ数珠が気になったのかそろりと白江が龍士へと近づく。
「きよえちゃん? どうしたの?」
 白江は龍士の隣に座ると数珠を覗き込む。
「数珠……きよえも、持っているんです。あなたの大切なものなんですか?」
 自分の手首についている二連の数珠を見せながら、尋ねれば、龍士は念仏を再度止め、小さく「あぁ」と頷いた。それにアルも乗っかり「きよえちゃんが持ってる数珠は幻想蝶だよ。ボクらにとって、力を合わせて皆を救うのに必要なものなんだ」とにっこりと笑う。
「悪ぃが、俺のこれはそんなんじゃねぇよ」
 悲し気に数珠を見つめた龍士に白江はその数珠にそっと触れた。
「ふれると安心する、身体がぽかぽかして、勇気がわいてくる。……願いは必ず、ものに伝わるから。なかまを助けたいあなたの思いも、その数珠さんにきっと伝わっていると思います」
「そうだといいがな」
 そう話している後ろではリュカにより外でうようよしているものは“幽霊”ではなくて、リンカーなら倒せるものであることを説明していた。更に拳を握り「男の意地の見せどころ! 可愛い子の前でかっこわるい所見せるんじゃないぞっ」と語っていた。

●切り開く退路
 建物の外では桜子と征四郎が立ち回っていた。
「リュカたちが合流したみたいですね」
「ならば、そろそろ動く可能性があるということだな」
 一体一体の攻撃は弱く、ダメージにならず、話しながら、戦えるほど余裕があるというのに、数がいるため、キリがない。リンカーだから、それで済んでいるが一般人がここに飛び込めば、タダでは済まないだろう。
『おチビちゃん、確か、正面突破をするのだったな。ならば、あそこを補修しておく方がいいと思うぞ』
 通信機から入ってきた情報として、一緒に脱出することに断固拒否する要救助者たち。そのため、面倒が一組ずつ脱出させることとなった。しかし、問題となったのは出口。別々に脱出させれば、顔を合わせることもないのだが、いかせんゾンビの数が膨大である。そのため、正面入り口から突破を図るというものへとなった。
 そして、入り口の両端でゾンビを引きつける征四郎と桜子。ただ、やはり漏れというものもあるわけで、それらが壁に体当たりし、エントランスへと向かう通路の壁にダメージを与えていた。
「壊させはしません」
 孤月を一旦しまうと代わりにウレタン噴射器を手にする。そして、ひび割れた壁に噴射。
『ゾンビって自然発生するものじゃないわよね? 何かしらこの廃ホテルに仕掛けがしてあって呼び寄せるとか発生させるとかしてると多分思うんだけど……?』
「そんなものがあるのか!?」
『かもしれないってだけよ。そこは調べてみないとわからないわね』
 ただ、気になるのはさっき、使ったライヴスショットにゾンビたちが反応したことなのよねと桜子の中でベルベットは思考を巡らせる。そもそも、先程から中へ入ろうとするゾンビよりも征四郎と桜子に近づくゾンビの方が多い。視覚は働いていないのだろう。目は焦点があっておらず、攻撃も大きく腕を振るう程度。それは征四郎とユエリャンも感じていた。そして、内々で話し合っていると通信が入る。
「センコウイン、アズラルアンカーからくるそうです」
「うむ! こちらはいつでも大丈夫であるぞ」

 少し時間は遡り、紅獅子。
「いいですか、押すな、離すな、死ぬな、のおはしです」
 凜道による脱出の方法を説明していた。“おはし”についてはリュカが何ともいない顔をしていたが、この状況を考えると間違えていない気もした。斧近くでは菜摘とホモが隊列に置いての自分たちの動きを確認していた。ただ、傍から見るとただただホモが「ウホウホ」と鳴き、菜摘が頷き、提案するというもので、何をどう話し合っているのかわからなかった。その間にもアズラルアンカーが階段を下りて、出口へと向かう。丁度、4階を通る際にはタイミングよく音楽CD【希望】を取り出したアル。
「これにボクの曲も入ってて。『影の音』っていうの。歌ってもいい?」
 可愛い女の子にそう言われて、助けてくれるということもあってか否とは言えず、頷く。そして、機械で補っているとはいえ、奏でられる可愛らしい声。
“今は絶望(影)が濃く見えてるのかな?
でも影のないところに光は無い。表裏一体
しかもその影が濃ければ濃いほど
希望(光)は眩しく美しく見えるんだ。
あなたにとっての光は、なんですか?”
「諦めないでね。必ず、守るから」
 歌い終わった締めくくりにとそういえば、男たちは怖がっている自分たちを情けなく思った。その一方で、龍士は「おふくろ」と小さく呟き、数珠を握りしめた。

「……ん、ゆっくり、ついてきてね」
 尻尾をふりふり振りながら歩くユフォアリーヤにアズラルアンカーたちは気持ちのいい返事をしてついていっていた。共鳴のできる距離を保ち、敵に備えつつも通信機で現状の報告と紅獅子組と外組と情報をすり合わせを行う。
「ったく、お前らも現金だよなぁ。いや、確かに可愛いけど」
 意識を戻した康は織歌からもらったパンダクッキーを頬張りながら、歩いていた。それに「康も人のこと言えないだろ」と近くで小さく零していた。
 そして、1階に何事もなく到着するとその旨を報告し、遊夜はアズラルアンカーを振り返った。
「いいか、これをぶち破ったら、突っ走れ!」
「……ん、捕まっちゃ、ダメよ?」
「はぐれないように前の人をしっかりと追いかけてくださいね」
 遊夜、ユフォアリーヤ、織歌の言葉にアズラルアンカーはこわばった顔で頷く。そして、遊夜とユフォアリーヤや共鳴し、正面に積み上げられたバリケードを破壊。先陣を切って外へと出る。
「敵は征四郎たちが引きつけてます!」
「はぐれぬようにするのだぞ」
 土砂降りの中、戦闘していた征四郎と桜子から声がかかり、アズラルアンカーたちは遊夜たちの言うように走った。泥濘で足を取られそうになるが、近くにいる仲間たちを意識し、ひたすら走った。途中、ゾンビで襲われそうになるも、織歌がアイギスの盾で庇い、先を促す。織歌はアズラルアンカーにつき、遊夜はある程度敵を引き付けると列を離れ、ハウンドドッグから重武装エレキギター「パラダイスバード」に持ち替える。ギターを掻き鳴らした。
「さぁ、人生最後のライブだ!聴いてから逝きな!」
『……ん……ボク達の歌を聴けー!』

「マスター、アズラルアンカーが脱出したそうです」
「よし、お兄さんたちも行こうか」
 アズラルアンカーが突破する頃、紅獅子は2階へと移動していた。そして、リュカと凜道、菜摘とホモ、アルと白江はそれぞれ共鳴し、ゾンビに備え、正面へと向かう。
「共鳴するとね、皆を守る力が溢れてくるんだよ」
 アルはそういって龍士に微笑み、蛇腹剣を握る。
「さ、走ってください! ただ、“おはし”は忘れないように!」
 正面に到着すると中に入ってこようとするゾンビを凜道がグリムリーパーで一薙ぎする。そして、走れと促された紅獅子たちも走り出した。その手にはしっかりと命綱を握って。
「ひっ」
「あなた達には触れさせません!」
 戦闘は苦手ですが、精いっぱい補助させていただきますと菜摘はLSR-M110で襲い掛かるゾンビを撃ち抜く。
 龍士は周りを見て、情けない気持ちでいっぱいだった。雨の中、外で敵を引き付けていたのは共鳴しているとはいえ少女たち。更に、自分たちを落ちつけようと歌を歌ってくれたのもまた少女だ。男として、情けないと思うと同時に、昔も誰か女性に守ってもらった気がした。
「お兄さんたち言ってたけど、龍士さんは二重人格だって。でもね、きっと、そうじゃないと思うんだ」
 そういったアルの言葉で「なるほどな」と龍士は笑みを浮かべた。親父がおふくろの形見だから、持ってろと言った意味も、時折記憶がない意味も分かった気がする。
「……守りてぇもんがある。力を貸せよ」
 ぼそりと言えば、数珠が温かくなった気がした。それと同時に力が溢れてくる。
「ほらね、きよえちゃんが言った通り、願いは必ず、ものに伝わったでしょ」
「そうだな」
 アルの言葉に龍士は頷き、数珠の中の奴が武器として渡してくれた錫杖を握った。

●勝負の結果は両成敗
 無事に脱出したアズラルアンカーと紅獅子。彼らがゾンビが追っかけてこない所に辿り着くころには雨は止み、空には星が輝いてた。
「そういえば、聞き忘れてたんですが見つかりましたか? 落書き」
「あーー!! 忘れてたぁ。おい、権堂テメェのとこは見つけたのかよ!」
「……いや」
「よーし、じゃあ、引き分けだな」
 びしょ濡れのままもあれだからと龍士はエージェント達もアズラルアンカーも近くにある実家である寺社に連れ込んだ。そして、女性陣は特にゾンビの気持ち悪さに辟易していたようで「風呂を」という龍士の言葉に即座に食いつき、風呂場が華園と化した。その間に男たちは自分たちの髪を乾かしていたりしたのだが、その折にふと思い出したらしい凜道が声を上げれば、つられて康が叫ぶ。龍士が見つけてないと言えば、康はそれはもう誇らしげに胸を張った。


 後日、エージェントの元に菓子折りと裏に感謝が綴られた一枚の写真が届いた。そこに映っていたのはカメラに向かって微笑む中性的な有髪僧と壁の落書きを指差してニヤリと笑っている龍士の姿だった。

“龍士さんがご迷惑をおかけしました。されど、皆様のおかげで、こうして堂々と力を振るうことができます。誠にありがとうございました。”

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • 見つめ続ける童子
    白江aa1730hero002
    英雄|8才|?|ブレ
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
  • エージェント
    犬養 菜摘aa4561
    人間|22才|女性|命中
  • エージェント
    ホモ・ハビリスaa4561hero001
    英雄|25才|男性|ジャ
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