本部

スリリング・ショット

昇竜

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/20 16:45

掲示板

オープニング

 今日は売り出し中のアイドル『クリフとリーナ』のコンサート当日であり、会場は盛況を極めているが、君たちがここにいる理由はコンサートに参加するためではない。
 その理由とはずばり、スタッフの人員不足を補うためのアルバイトである。ライヴスリンカーがアルバイトとはなんとも華のないことだが、それも仕方ない。
 金策、暇だった、無理矢理連れて来られたなど様々な理由で集まった、たまたまライヴスリンカーだった一行、それが諸君なのだから。

 さて、開場時間を過ぎてしばらく経った頃、スタッフ休憩所に本日の主役であるコンビアイドル『クリフとリーナ』が現れた。
 本番前で忙しいにも関わらず、わざわざ自分たちにまで挨拶に来てくれた彼らに、日雇いスタッフたちは拍手を送った。
 と、そのときであった。眩いフラッシュがあたりを包み込んだのは。
 突然の閃光に多くの者が驚き、きょろきょろと周囲を見渡した。すると舞台の骨組みの影から、カメラを携えたセクシーな暗黒騎士がこちらを伺っているではないか。

「ああクリフくん、今日も私なんかに笑顔の贈り物をありがとう!」

 女は興奮気味に激写した写真を確認し、呆気にとられる一同に投げキッスをして、セットの骨組みを伝って華麗に逃げ出した。特筆すべきは、その逃げ足の速いことである。

「あの女の人、また……!」
「リーナ、放っておけ。写真くらいで目くじら立てんな」

 クリフはそうは言っているものの、会場入りの時よりもピリピリしているような気がする。
 リーナは悲しそうに息を吐き、クリフと連れ立って休憩所を後にした。その後ろ姿を眺めていると、またもあの女性が物陰から姿を現し、突然撮影して二人を驚かせていた。
 ……さて、ライヴスリンカーというものは、大なり小なりの正義感を持ち合わせているものである。
 彼女をこのまま野放しにしておけば、撮影が禁止されている本番中にもシャッターを切って暴動や他の盗撮を誘発するかもしれない。

「助けようか」

 誰ともなく口にしたこの一言で、迷惑なパパラッチを捕まえて二人が安心してステージに立てるようにしようということが決まった。あの格好が趣味でなければ、女性は能力者なのであろう。会場の警備では手に余る。

「あれ?何か落ちてるよ」

 と、エージェントの一人が先ほどパパラッチがいた場所にノートの切れ端のようなものが落ちていることに気が付いた。
折りたたまれたそれを広げてみると、これはどうやって調べたのか、今日の『クリフとリーナ』のスケジュールのようであった。

「これを使って先回りしていたのね」
「でもこれ、間違ってるよ」

 そう、『クリフとリーナ』のスケジュールには本日変更となった部分があり、それは関係者であるエージェントたちのみが知り得る情報であった。その情報については、以下に記そう。
 さあ、日銭のために働きたいという君は、是非パパラッチ確保に協力してくれないだろうか。

●パパラッチのメモより抜粋

17:00 リハ再開、Bブロックが視界良好か。
18:00 WNL取材、鉄骨から撮影予定。設立秘話を確実に押える!
18:30 レギュラー番組取材、この間に屋根へ。オンエア要チェック!
18:45 スタンバイ、本番前で気の立ったクリフくんに睨んでもら×○△※□!

●スタッフのしおりより抜粋

18時30分に予定していた本番直前インタビューは、60分繰り上げて行います。
18時から予定していたドキュメンタリー取材は美術通路の片づけが終わらないため、場所を楽屋に変更しました。
19時開演となりますので、各位15分前には持ち場で待機してください。
練習通り、オープニングで二人がドーム屋上から降下したら風船を発射してください。
17時15分よりリハーサル再開します。

解説

達成条件
コンサートが始まる前にパパラッチを捕まえて、無暗に撮影しないよう注意してください。

敵構成
・能力者『葉原つち子』
クリフが好きな中年女性。英雄『暗黒騎士フラッシュ』の契約者で、クラスはシャドウルーカーに該当します。
基本的に逃走を目的としていますが、逃げられない場合は戦闘します。
露出度の高いスリングショットのビキニアーマーです。
通常時は気弱なムチムチ眼鏡OLですが、常時リンク状態なので常に極限のスリルを感じており興奮気味。
着衣のみを切り裂く閃光の斬撃『会って二秒で即全裸』という技を使用します。
また、直径2メートル程度をやたらヌルヌルにする罠『異界化』を使用します。

状況
・開始時刻は午後5時、ライブは午後7時開演です。
・戦闘エリア『鉄骨』は立体的な複雑構造で、足場が不安定です。
・戦闘エリア『屋根』は広く平面で、エリア外に落下すると復帰に10ラウンドを消費します。
・参加者は『開演時に持ち場のバルーン射出機のスイッチを押す』アルバイトとして雇われています。

リプレイ

●17時

「げげげっ……あのパパラッチ女、いくらなんでも迷惑過ぎ。これ以上はさすがに知らんぷりするってわけにはいかないかー」
「うむ、捨て置けん状況でござる」
「取り敢えず説得して、ダメなら本番終了まで拘束かな? うーん、簡単なアルバイトのつもりだったのに、やれやれですね」

 そう、今回のヴィランはあまりに非常識で、到底野放しにはできかねる。稲葉 らいと(aa0846)は致し方なくといった口ぶりだが、それとは裏腹に『面白いことになった♪』という顔つきをしている。本当に厄介事に首突っ込むのが好きな御仁でござるなぁ……と、綱(aa0846hero001)は心の中でそう思った。

「大規模な作戦もあるのに、追っかけの相手してる場合かなぁ……」
「まあまあ、こういう小さな所からでも頑張っていかないとね」

 英雄の言葉に、芹沢 葵(aa0094)が仕方がないといった様子でストールを引き寄せる。豊満なバストがふるりと揺れ、周囲の男性スタッフはゴクリと生唾を呑んだ。この日の芹沢のコーディネートを見繕ったアルルメイヤ リンドネラ(aa0094hero001)は己の見立ての良さに満足したようにのほほんと笑った。
 その頃、キリエ(aa0994hero001)はどうしてこんなことになってしまったのか考えあぐねていた。いったいなぜ、およそ労働とは縁遠い召喚者・枦川 七生(aa0994)と共にハレンチな格好の女を追い回す羽目になったのだろう。しかし、考えても仕方あるまい。事件は現場で起きているのだ。
 一方楽屋。御神 恭也(aa0127)はアイドルグループ『クリフとリーナ』の特別警護任務に当たっており、そこへ例のパパラッチが現れたので、居合わせた同僚たちに流されるように解決に協力することになっていた。

「護衛としての仕事だった筈だが……」
「すごい……てれびの人が表に出て来てる」

 憮然としない御神をよそに、伊邪那美(aa0127hero001)はたくさんのスタッフに囲まれて髪の毛や衣装を弄られるリーナを感動したように見ている。クリフの方はというと、突然カメラ片手に訪ねてきた虎噛 千颯(aa0123)に詰め寄られていた。白虎丸(aa0123hero001)は虎噛に襲われるクリフを見て申し訳なさそうな表情だ。

「ねークリフちゃん、ちょっと協力してー♪」
「ダメだって事務所の許可がないと……やめろ! 衣装が伸びる!」
「このへんの写真とー、あとは適当なの頂戴ー誘い出す餌にするからー♪」

 虎噛はクリフのTシャツの胸元をぐいぐい引っ張ってパシャパシャ、裾をたくし上げて腹筋をパシャパシャ、いい加減にしろ! と照れ怒りする顔をパシャパシャ大量の写真を撮影。それを楽屋のプリンターで印刷すると、想像以上の仕上がりにフンスと鼻息を荒げた。特に浮き上がった鎖骨がチラ見えしているこの写真などはファン垂涎の逸品だ。

●17時30分

「能力者がこんな事してて、英雄さんはそれでいいのかしら……」

 エージェントたちはパパラッチが落としたメモを手掛かりに彼女を探していたのだが、芹沢とアルルが早くも観客席でその姿を発見した。ビキニアーマー姿で惜しげもなく肌を晒した女……仮面のために顔はよく見えないが、鼻から下を鑑みるに美女は美女なのだろう。ただ皮膚のたるみ具合からしておよそ30代後半といった外見だ。アルルは英雄を拝み倒して共鳴を強いているであろうパパラッチに呆れたように額を押え、白銀の髪が肩から滑り落ちてモノクルがカチャと鳴った。芹沢は説得にさしあたって抵抗された場合を考慮し、英雄に共鳴を呼びかけた。

「言って聞かないなら実力行使あるのみ、仕方ないよね。アルル、共鳴いくよ」
「ええ、そうね葵」

 芹沢が幻想蝶にライヴスを込めると、その艶やかな黒髪がふわりと浮き上がる。アルルは光の渦になって芹沢を覆い、次に現れたときには芹沢はピンと立ったとんがり帽子と肩を露出する美麗な魔女のローブを身に纏っていた。芹沢が大きな瞳を瞬くと、青色だった瞳はアルルと同じエメラルドグリーンに変化している。

「……好きなのは仕方ないとして、本当に応援しているならファンとしてのルールは守りませんか?」

 シャッターを切るのに夢中になっていた女は、芹沢に声をかけられてようやく彼女の存在に気付いたようだ。

「……お嬢さんだあれ?」
「H.O.P.E.所属のエージェントです。貴方の迷惑行為は目に余ります、今すぐやめてください」
「ひどいわ……あたしからクリフくんを奪おうっていうの? そうはさせないわよぅ!」

 パパラッチはバッ! と腰と後頭部に手をあてて見ているのも恥ずかしいポーズを決めると、後ろ手に指をパチンと鳴らした。その途端、芹沢の足元のコンクリートがこんにゃくか生イカのように変化し、足を取られた彼女はその場に尻もちをついた。パパラッチはその隙にものすごい速さで逃げ出す。

「?! ……っきゃあ!」
「オホホホホ、そこで恥辱に溺れてるがいいわ!」
「な、なにこれぇ」

 芹沢は立ち上がろうと床に手を付くのだが、引っかかりが全く無くて力を入れるとそっちの方にズルッと滑ってしまい、もがけばもがくほど全身ヌルヌルのネトネトになった。そこへ間の悪いことにスタッフの男性が5、6人やってきてヌルヌル床に四苦八苦する芹沢を見つけてしまう。謎の液体でテラテラ光る巨乳魔女を目撃し、一人などは飲んでいたコーヒーをブブーッと噴出した。彼らは訳がわからなかったが、とりあえず大丈夫か?! と芹沢を助け起こそうとヌルヌル床の方へ足を踏み入れる。

「あっあっ来ちゃだめー! わあああ! ひゃああ!」

 芹沢の制止も空しく、男たちは次々にヌルヌル床の餌食となり芹沢の上に覆いかぶさってきて、一人などはおっぱいにがっつり顔が埋まってしまった。18歳とは思えない非常に肉感的なその感触に、男たちはなんかよく分らないけどラッキー! と思っていたことだろう。しかし芹沢は羞恥に打ち震え、悪質なヴィランに対する怒りを燃え上がらせた。

「うううっもう許さない……! コテンパンにしてやるんだから……!」

●18時

 稲葉は説得のため、共鳴状態でステージ裏手の骨組みがむき出しとなっているエリアに来ていた。そこに彼女は居た。というか痛た。後ろ姿がモロに裸に紐である。みなまで言いたくはないが、これはさすがに恥女である。しかし己の姿にも思う所があるのか、稲葉のコメントは甘口であった。共鳴時の稲葉の着衣を一言で表すなら、無駄にセクシーダイナマイトなバニーガールといったところだ。

「……水辺でもギリギリセーフな姿」
『この場では立派な恥女でござるな……』

 意識を共有している綱が小声で何か言ったが、聞こえなかったかもしれない。稲葉はパパラッチのいる鉄骨までひらりと飛び移ると、下の通路を覗き込んでいるスリングショット女に声をかけた。

「WNLのドキュメンタリー取材は場所が変更になりました。待っていてもクリフさんは来ませんよ」
「……あなたもエージェントとやらなの?」
「そういう撮影行為やハレンチな格好はマナー違反どころかもう犯罪ですよ? 止めて投降して下さい」
「フフ、嫌よ。クリフくんは私の生き甲斐だもの。それに、あたなみたいなエッチな格好の女の子に言われたって説得力ないわよぅ?」
「なっ……! 今ならまだ謝れば許してもらえますよ! 逃げ切れると思ったら大間違いです!」
「い・や・よ☆」

 パパラッチは稲葉の説得をにべもなく一蹴すると、仰々しいしぐさでパチンと指を鳴らした。すると稲葉の足元の鉄骨が突然汗をかいたようにぷつぷつと水滴を吹き出し、あっという間にヌルヌルと滑るようになる。稲葉はこれに足をとられ、落下しそうになって鉄骨にしがみついた。しかし、掴めども掴めども全く摩擦が生じない。

「わっ……わわっ」
「オーホホホ! 辱めを受けなさぁい!」
「きゃあーっ!」

 稲葉はついに鉄骨から美術通路に落下し、しこたま頭を打った。能力者というのはこれしきのことでダメージを受けることはないのだが、パパラッチには逃げられてしまう。ホホホ~と高笑いをしながら頭上を走り去るパパラッチ。

「ま……待ちなさ~いッ!」

 稲葉はそれを追いかけようとしたのだが、全身に絡みついたヌルヌルのせいでビターンと床で転んでしまう。ハッと顔を上げると美術通路ではたくさんの男性スタッフが作業していて、突然上から落ちてきたヌルヌルのバニーガールに皆ポカンとしていた。

「……みッ! みみみっ見てんじゃないわよーッ!」
『ムムム、やはり理屈が通じる相手ではないでござるな……らいと殿、気をしっかり!』

 一方その一部始終をまじまじと眺めていた枦川は、息をするように頭脳労働に勤しんでいた。

「面白い……非常に興味深い。至極手慣れた一連の行動から察するに常習なのだろう。関係者でないにも関わらず、ここまでに緻密なスケジュール調査にかかる労力とは如何ほどか。短期間とも言えない間その熱情を保ち続けている精神構造というのは正に感嘆に値する。是非とも、その執着の感情を余すところなく聞く時間を貰いたいものだ……」
「先生、気になるのはわかりますけど仕事中です、仕事してください。皆さんあの女の人を捕まえようとしているんですよ」

 放っておけば何時間でもそうした思考に耽ってしまう召喚者を、キリエが窘める。枦川は思い出したように逃げ去るパパラッチを見やった。

「そうだな。然しながら私はあまり体に負担の大きい運動というものは得意ではない。餅は餅屋だ、荒事はお若いのに一任しよう。我々は……そうだな、次に推測される出現場所に、スタッフや一般人が迷い込まないよう周辺警戒でもしておくか。それくらいが適当だろう」
「……わかりました。ではお体をお借りしますよ」
「ああ、任せるよキリエ」

 枦川はそう言って穏やかに瞳を伏せた。共鳴の準備が整った合図だ。キリエは静かにその身体に乗り移ると、息を切らさない程度に走り始めた。次にパパラッチの出現が予想される場所、それはアリーナの屋上だ。

●18時30分

「しかし、あの痴女丸出しの姿で何故発見が遅れたんだ?」
『う~ん、またあの姿を見たいから捕まらない様に黙っているとか』

 意識を共有した伊邪那美が御神の脳内に直接意見を訴えた。……そういうこともあるのか、と返しておく。アリーナ屋上に張り込んでいた御神はパパラッチを発見していた。その姿は彼の予想していた以上にきわどい……。御神は携帯電話で仲間に連絡を入れ、見つからないよう換気塔の影に身を潜めた。こちらの戦力が揃うまでは、見張りを続けておくべきだろう。これほど平野極まりない依頼であろうとも、この二人が肩の力を抜くことはない。大真面目だ。

『気を付けてね恭也。あのかめらって道具は人の魂を削り取って紙に焼き付ける道具なんでしょ?』
「……それは、大昔のデマ話だぞ」

 御神が溜息を吐いたのと時を同じくして、ヌルヌルから復帰した芹沢と稲葉が屋上に現れた。二人とも一旦共鳴を解除し、ヌルヌルになった服はライヴスに還元したようだ。稲葉は到着早々スマホでお尻に紐を食い込ませるパパラッチの姿をカシャカシャ撮影しはじめた。

「来たか。どうだ、ヤツの技量は」
「どうもこうもないよアイツ! とにかくポカポカ叩いてやるもんね!」
「ううっまだわきの下とかヌルヌルする……絶対許さないんだから」
「ぬ……何をされたんだ、君たちは」
「みんなお待たせ~♪」

 とりあえず、敵がヌルヌルする技を使ってくることは理解した。御神の知るところではないが、二人とも内心はらわたが煮くりかえっているのである。そこへ何やら茶封筒を携えた虎噛が到着し、枦川は見張りに立っているからして、これで面子は出揃ったわけである。

「そこまででござるっ!」

 ピョン! と兎耳を揺らす網を先頭にエージェントたちがパパラッチの前に躍り出ると、彼女は大げさな身振りでやれやれと首を振った。進んで前に出たのは芹沢だった。

「しつこいわぁ、またあなたたち? 私とクリフくんの愛は誰にも邪魔できないのよぅ」
「……本当にそうかなぁ? クリフくんだったら、私と貴方どっちをとると思う?」
「なっなんですって?」
「いい歳した女性が、そんなカッコしていいんですか? ムチムチと言えば聞こえはいいですが、歳の陰りが見えますよ!」
「え……芹沢ちゃんキャラ変わってない?」

 芹沢は自分の若々しい我侭な体をやや強調しつつ、挑発するように言ってのけた。虎噛が思わずツッコむのも無理はない、芹沢自身言っててちょっと恥ずかしそうだ。それもそのはず、これらの台詞を考案したのはアルルであった。パパラッチはムキィー! と悔しがり、逃げる気を失くしたようだ。そこへ稲葉が宣誓の一言を言い放つ。

「悪いけどもう逃がさないからね。綱、共鳴です!」
「あいさーでござる!」
「アルル、私たちも!」
「ええ」

 光の風が吹き乱れ、再び共鳴状態となった稲葉と芹沢がパパラッチに急接近する。隙を与えなければヌルヌルを食らうこともない。稲葉は槍というよりは棒高跳びの棒のような長大なランスを巧みに操り、パパラッチのカメラを狙って突き出した。彼女は大切なデータの入ったそれを庇い、突撃は背中をかすめてブラトップを支える紐の一本を断ち切った。しかし元来鎧であるそれはその程度のことではポロリしないようだ。

「ああん! 何するのよぅ!」

 怒ったパパラッチは本気を出し、目にも止まらぬ閃光の斬撃で稲葉と芹沢を切り裂く! すると彼女たちの衣類は紙切れのようにハラリハラリと剥がれ落ち、ものの二秒で恥ずかしい姿になってしまった! 後ろで機を伺っていた御神は目をひん剥き、虎噛はイヤン☆ と両目を覆う。白虎丸は生真面目にもフッと視線を逸らした。

「きゃああ!」
「いやあ~! なんで私まで?!」
「オホホホホ! 斬りたかったからに決まってるじゃない!」

 とばっちりを食らった芹沢は耳の裏まで真っ赤にして両腕を抱き、その場に蹲る。しかし稲葉は勇敢にも身体を隠そうともせず、槍をカランと投げ捨てるとパパラッチに素手で飛びかかって怒りのダブルアームスープレックスを試みた!

「ちょっと、何してくれるかなぁぁあ!!」
『らいと殿、肌が、生娘の肌がっ』

 ………怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒………!
 効果音にすればそんなところだろう。英雄が彼女の精神に必死で訴えかけるも、マジギレした稲葉にその声は届かない。しかし渾身の一撃はパパラッチにひらりとかわされ、稲葉は空振りの勢いでドシャーッと転倒してしまった。
 すぐさま御神が動き、パパラッチに向かって大剣を振りかざした。彼女は指をパチンと鳴らし、御神の前をヌルヌル床に変えた。しかし御神はそこへ斜め後傾で飛び込むと、そのまま滑走してすれ違いざまにパパラッチを狙った! まさかの攻撃に虚を突かれ、彼女は回避を試みたが間に合わずブラトップを支える最後の紐がぷつん! と千切れた。ぶるるん! と中身が青空の下になる。戦闘に関して意識の高い御神ならではの戦術であった。

「いや~~ん!」
「お前の攻撃は厄介だが利用も出来る。後は羞恥心を如何にかすれば対応出来なくも無い」
『えへへ、幾ら何でも裸でてれびの人達の前に出れないでしょ?』
「……ム。伊邪那美、時間だ」

 時計を確認した御神は共鳴を解除し、伊邪那美をバイト業務に送り出した。そうとも、これだけ働いて無賃ではかなわない。
 パパラッチは無様な姿でなお逃げ遂せようとしたが、そこへ虎噛が立ちはだかった。彼女は彼をキッ! と睨んだが、虎噛が封筒から一枚の写真を取り出して見せると途端に物欲しそうな表情になった。そう、セクシーなクリフの鎖骨写真である。

「おっと、逃げちゃっていいのかな~? クリフちゃんのお宝写真とか俺ちゃん持ってるんだぜ~? ほらこれ~。これ以外にもこの封筒にはムフフな写真がいっぱいあるけど逃げちゃうんだね~」
「そ、それをどこで手に入れたというの……?!」
「お、おい千颯……」
「しぃー、白虎ちゃんも少しは協力して!」
「う、うむ……まさか男同士でこんな写真を撮るとは……」
「それを……渡しなさぁぁい!」

 パパラッチは鬼の形相で駆け出し、虎噛の服をシュパァ! と切り裂く。しかし、こんなことで怯んでいる虎噛千颯ではない。驚いたのはパパラッチの方である。

「だっ脱衣に動じない……ですって?!」
「俺ちゃん家では完全開放だから今更気にしないぜ! こうして被害というていで公然と脱げるなら俺ちゃん平気!」
「千颯……もう黙ってくれ」
「フッ、封筒は無事か。衣類以外は斬れないみたいだな……まだまだ未熟だぜ!」
「くっ……こんなもんじゃないわよぅ!」

 虎噛は己の身体に恥ずかしい箇所等何処にもない! とばかりにそのままの姿で大鎌を持ち出した。パパラッチももうなりふり構っていられない。男と女の闘いがいま幕を開けた。

「肌色で大鎌ってちょっと犯罪臭い気もするけど俺ちゃん被害者だもんね! 仕方ない!」
「なによ! あたしなんて暗黒騎士ビキニアーマーよ?!」
「それがどうした! そんなの白虎ちゃんだって着てるぜ!」
「!! 千颯!?」

 それまで脇からツッコみを入れるのに忙しかった白虎丸が、虎噛の爆弾発言に雷が落ちたような顔をした。そう、白虎丸は常日頃からビキニアーマーを着用していたのだ。

「なっなんですって?!」
「長身の野郎がビキニアーマーの方が視覚的暴力は半端ないんだぜ!」
「千颯、お前は武士はこれを着るべきだと」
「だから俺ちゃんにはお前の姿になんの魅力も感じないぜ!」
「千颯? 聞いてるのか? 千颯? なぁ? おい…」
「くっ、あたしは痴女失格ってことね……」
「そーゆーこと! ホラ、飛べない痴女はただのブタだぞ!」

 訳のわからない戦いに終止符を打ったのは虎噛が屋上から放り投げた写真入り封筒であった。痴女は雄叫びをあげ、落下する封筒の後を追って屋上から飛び降り地上へ真っ逆さまに落ちていった。凄まじい勢いで地面に衝突したパパラッチだが、しかし何とか意識を保っており振るえる手で封筒を引き寄せた。そこへ、歩み寄る人影が……見張りをしていた枦川である。

「……ところで、君に聞きたいことがあったのだ。その恰好は、海など肌の露出が公然と容認される場でも機密性が守られる自室でもないこのような衆目の目前に出るには、些か露出度が高いように私は感じるのだが、君の趣味かね」
「そ、そうよ……! 何かいけない?」
「個性を悪いとは言わないが最近朝晩は急に冷え込むことが多い、君の用意していたスケジュールを見るに夜冷え込む時間までいる予定であろう事はわかるのだが、上着を所持しているようには見えないのでな」
「……」

 思いがけず心配してもらったパパラッチは、封筒を握りしめ情けない格好でひれ伏している自分の姿が急に恥ずかしくなり、大人しくお縄にかけられた。

●19時

「……あられもない姿を晒してしまった……」
「元気出して葵、いいことあるわ」

 芹沢は既に服を取り戻していたが、色んな人に恥ずかしいところを見られてしまった事を激しく後悔していた。落ち込む芹沢をなでなで、アルルが優しく慰める。

「家族や近所周辺や職場にこの写真をバラ撒かれたくなかったら二度とパパラッチ行為はしないことね」
「はい……」

 一方、稲葉は恥女……葉原つち子の身柄を警備員に引き渡すと共に、痴女姿を激写した写真データも一緒に預け、彼女にキツく忠告した。これで葉原は迷惑行為から足を洗うだろう。稲葉は安心したのか、急に大切な仕事を忘れていたことを思い出した。

「あ?! 風船!」

 稲葉が振り返ると、アリーナからは既に歓声が上がっており、風船も発射された後であった。伊邪那美が皆に代わって業務を遂行してくれたのだ。元来の護衛任務に戻った御神たちがステージ裏で待機していると、一曲目を歌い終えたリーナが早着替えのためにステージから下がってきた。伊邪那美は大勢のスタッフに毟られるように衣装を着替えるリーナを捕まえて、ひどく素っ頓狂な質問をした。

『ねえねえ、てれびの中ってどんな所なの?』
「え?」
『時々呼び掛けてるんだけど、外から音は聞こえないのかな?』
「あー、あれはね……」
「あとで伊邪那美に嘘を教えた奴を探さないとな……恥ずかし過ぎるぞこれは」

 リーナに困りましたね……といった顔をされ、御神は鉄の仮面をほんのわずかに赤らめた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    芹沢 葵aa0094
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    アルルメイヤ リンドネラaa0094hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 戦慄のセクシーバニー
    稲葉 らいとaa0846
    人間|17才|女性|回避
  • 甘いのがお好き
    aa0846hero001
    英雄|10才|?|シャド
  • 学ぶべきことは必ずある
    枦川 七生aa0994
    人間|46才|男性|生命
  • 堕落せし者
    キリエaa0994hero001
    英雄|26才|男性|ソフィ
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