本部

【屍国】人を追駆者

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/29 09:36

掲示板

オープニング

●ランナーズ
「くっそ、ホントなんなんだよこいつら」
 爆音を響かせて蛇行しながら走るバイクの後をゾンビの集団が疲れる様子も無くずっと走ってついて来る。
 しかも、バイクの音に惹かれるように脇道からも次々とゾンビはやって来て追いかける集団に加わっていく。
 最初は数えられるほどしかいなかったゾンビ共はいつの間にか数えられないほどの数に増えていた。
 今朝いつもの様に走りに出た時には町はいつもと同じでこんなゾンビは一体もいなかった。
 いつもように特服を着て愛車にまたがった俺におふくろが小言を言って、バイクの爆音に出て来た近所のじじい共がグダグダと昔話を始めるのを無視して走り出すいつも通りの日だったのだ。
 だが、帰って来た町は一変していた。
 町の入口でいつもだべっているじじい共の姿が無く、代わりに妙な坊主とすれ違った。
 三十六番と三十七番の札所の間にあるこの町で遍路の姿を見かけることはよくあるが、歩く坊主など滅多に見かけることは無い。
 だが、それは些細な事だった。
 町の入口のじじい共だけでなく、町の中にも誰もいなかった。
 代わりに腐った肉が崩れ落ちて所々白い骨が見えるようなゾンビ共が町に溢れていた。
 今、大集団で後ろを追いかけてくるゾンビ共だ。
 ポケットで鳴りだしたスマフォの着信音にハンズフリーイヤホンの通信ボタンを押す。
 通販で買った高い品だけあってクリアな仲間の声が耳の中に響く。
「テツ、まだ生きてるか?」
 マブダチのタクの声にチラリと後ろを振り返って応える。
「あんなのろまに共に追いつかれるかよ。ぶっちぎっちまわねぇようにする方が大変だぜ」
 そう言いながらわざと吹かして大きな音を響かせる。
 町はそれ程広くは無いからタクにもきっと聞こえただろう。
「ぶっちぎんなよ、てめぇのおかげでこっちは楽できてんだ」
 奴らがバイクの音に集まって来るのを見てタクが考えたのがこの作戦だった。
 派手に走り回るテツがゾンビ共を引きつけてその間にタク達が親父共を探しに行ったのだ。
「で、誰かいたか?」
 その言葉にタクが応える。
「どうでもいいおばはんとか、ガキばっかだよ。公民館に避難した奴らがいるらしいからそっちへこれから行ってみる」
 公民館は最近高台に移されて町から少し離れた場所にある。
 足の弱ったじじばば共が登るのが面倒だと文句を言っていたのを思い出す。
「気を付けろよ、そっちの方はまだ回ってねぇからな」
「大丈夫だ。公民館の方に向かってった奴らもお前の方へ走って行くのをさっきから見かけてる。おかげで動けなかったんだがもう大丈夫そうだ」
 その言葉に「分かった」と応えて角を曲がろうとした先に駆けてくるゾンビが見える。
 方向からするとタクがさっき言ったゾンビ達だろう。
 思ったよりも多いその集団に慌てて別の道に飛び込む。
「くそ、町の外に出ちまう」
 咄嗟に入った道は街の外に続いている道だった。
 もう一度街に戻るにはこの先の橋を渡って上流か下流側の橋を周って帰って来るか、Uターンするかしかない。
「テツ、こっちは何とかする。ぶっちぎって逃げちまえ」
 タクの言葉にかっこつけて笑って見せるが、その顔は向こうには見えてない事に気付いて苦笑する。
「俺が逃げたら、お前らの方に行くだろ。まだガスは持つ、出来るだけ離れたとこまで連れて行くさ」
 そう言って何か言われるよりも先に通話を切る。
 だが、ガスはいつまでもある訳では無い。
 ガス欠になればその後は走るしかない。
 だが、走ったところですぐにバテて追いつかれるのはバカでも分かる。
「へっ、仲間の為に命張るなんてかっこいいじゃねぇか」
 そう自分に言い聞かせるが、やはり恐怖は拭えない。
 突然、スマフォが鳴りだす。
 驚きにバイクの操作をミスりかけるがかろうじて持ち直して慌てて通話ボタンを押す。
「突然切るんじゃねぇよ」
 聞こえてきたのはタクの声だった。
「今H.O.P.E.の人間だって奴と合流した。そいつが言うにはお前にそのゾンビ共を橋まで連れて行ってほしいそうだ」
「橋ってこの先のか?」
 この道の先に川を渡る橋がある。だが、何か特別な物があるわけでもない普通の橋だ。
「てめぇが町中のゾンビ共をほぼ全部連れてるんだと。それで逃げられねぇように橋の上で全部退治したんだと」
 恐らく頭のいいタクはH.O.P.E.のやりたいことを理解している。
「橋の上に連れてきゃいいんだな、なら問題ねぇ。そこまでならガスも持つ」
 チラリと後ろを振り返るとゾンビ共はさらに増えている様に見える。
「やばくなったら逃げろよ」
 タクの真剣な言葉に少しだけ気を引き締める。
「問題ねぇさ」
 道はもう橋までの一本道に入っている。後は真っ直ぐ進むだけだ。

●エージェントへ
 四国の高知近辺に居たエージェント達に連絡が届いたのはテツ達が街に戻るよりも少し前であった。
 事件発生の報を受けて現場に駆け付けるエージェント達に新たな連絡が届く。
「目標地点の従魔は現在その全てがバイクで走行する少年を追いかけて移動しています。このまま少年の誘導により左右に逃げ場のない橋の上へと誘導、橋の上に従魔共を閉じ込めて一匹残らず撃破する事となりました」
 合わせてその目標の橋の位置も伝えられ、その上で少年を追いかける従魔共が散らないように橋の上にすべての従魔が入るまでの攻撃の禁止も通達される。
 現場ではない会議室からの指示に反発を抱く者もいただろうが、その指示に従いエージェント達は少年が従魔を誘導しているという橋へとそれぞれの考えと手段で向かっていた。

解説

●目標
・ゾンビ型従魔の全撃破

●ゾンビ型従魔
・典型的な走る方のゾンビです。
・体格体型は様々ですが、走っても疲れる様子はなくどこまでも走り続けます。
・数は約二百体。全て人型です。
・追いかける対象を失うと人の気配を求めてバラバラに歩き始めます。
・個々は弱くとも数が多いので複数に掴まれば動くことすらままならないでしょう。

●橋周辺の地形
・橋の長さは二百メートル、二車線で両側に歩道が有ります。
・歩道の外側に落下防止の名目で高さ二メートルの金網が設置されています。
・橋に続く道はテツが走って来る町側は一本道で堤防の上へと登る緩やかな坂になっています。
・町側の堤防の上には車道はついておらず、遊歩道があるだけです。
・橋を抜けた反対側は堤防の上に車道が走っていて、橋を抜けてすぐに信号のある交差点となっています。
・PL情報:封鎖に必要な物があれば日常目にする物ならば準備することが出来ます。近くにホームセンターも有ります。

●テツ
・気合の入ったリーゼントの不良少年です。

●町
・先着した別のエージェントが対応しているので町の心配をする必要はありません。

●PC到着
・それぞれの手段で現場へ向かっています。レンタカーの請求書はH.O.P.E.で清算できます。
・町を抜けて橋の手前で合流するか、別から回って橋に先着しているかはそれぞれのルート次第です。

リプレイ

●準備
 スマホの画面に表示されたH.O.P.E.の番号に君建 布津(aa4611)は愛車のハンドルを握ったまま手を伸ばすが、君建が手に取るよりも先に助手席の切裂 棄棄(aa4611hero001)がスマホのスピーカーをオンにする。
 内容は緊急要請だった。
 君建たちが走っている場所からそれ程離れていない場所で起こった事件への対応要請。
「……本当はちょっと用事があったんですけどねえ。まあ、寄り道くらい許されるでしょう」
 作戦の概要を聞いて君建は急ハンドルを切る。
 軽自動車の車体を軋ませてUターンすると君建はアクセルを目一杯踏み込んだ。
 緊急要請は周囲のエージェント達全てに送信されていた。
「ゾンビ型の従魔だってよ、マリ。それも走る奴200体だってさ」
 バイクに寄りかかって待っていたカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は戻って来た御童 紗希(aa0339)に声をかける。
「こないだTVで観た映画のゾンビも走ってたね」
 そう言って御童 紗希(aa0339)は買ってきた缶ジュースをカイに手渡す。
「アスリート並の身体能力持ったゾンビじゃないこと祈るね」
 そのジュースを受け取って一気に飲み干すとカイはバイクにまたがって御童にヘルメットを差し出す。
「現場じゃテツとかゆーヤンキーが橋までゾンビを誘導してくれるらしい。こっちは橋に先回りしてなんとか橋の上でケリつけたいな」
 バイクの後ろにまたがる御童にそう声をかけてカイはバイクのアクセルを開けて駐車場から飛び出した。
 現場にはすぐに到着した。
「おい、橋についたけど何もねぇぞ」
 誰もいない橋の上はガランとしていて何も無く、封鎖もされておらずこのままではゾンビ達は素通しである。
「どうしようか? カイ」
 御童の言葉に
「とにかく町に入ってる別働隊に交渉してみる」
 そう言ってカイは通信機に呼びかける。
 応答はすぐにあった。
 町の中は凄惨な有様で至る所に血の跡が有り、まるでゴーストタウンのように荒れているというが、町の中には死体もゾンビも見当たらずエージェント達は僅かな生存者を探して避難させているという。
 その生存者から聞けたのはゾンビ達の集団のおおよそな規模とまだ無事と思われる橋のこちら側の街の位置だけだった。
 比較的大きく商店も揃っているその街ならば必要なものは揃いそうだが、ここをゾンビが抜ければその街も被害にあうと言う事でもある。
 そうした情報を集めているうちに他のエージェント達も到着する。
 揃った12人にカイが集めた情報を伝える。
「大量のゾンビを倒すのに、この人数だけでは正面からぶつかってもまずいでしょう。よって、大型車などを使って橋の上に封鎖するという作戦をとるのはどうでしょうか?」
 アカデミック・ミリキー(aa4589)の提案に異存は出ず唯一
「ソンビとはなんだ?」
 250年前のマサイの戦士にしてライオンの殺害数歴代ナンバー2のシンバ・マウアジー(aa4589hero001)が疑問をパートナー投げかけるが、アカデミック・ミリキーは後で説明するとだけ言ってH.O.P.E.へと大型車の要請を送る。
 オペレーターに麻生 遊夜(aa0452)の「出来ればバスがいい」という提案を伝えてバスを含む複数車両が手配されることになる。
 H.O.P.E.への要請を済ましたアカデミック・ミリキーは
「まかり間違っても車がこれないということが無いように別口でも手配しておきましょう」
 そう言ってスマホで調べた別の会社にも電話をかけ始める。
「さて、時間との勝負だな」
 麻生のその言葉に
「……ん、残り時間は少ない」
 そう言ってユフォアリーヤ(aa0452hero001)もコクリと頷く。
 早速、麻生とユフォアリーヤはスマホとラジカセを取り出して設置を始める。
「ラジカセなんてどうするんですか?」
 戦場構築を手伝おうと以前同じ依頼で見かけた事のある麻生に着いて行った雪ノ下・正太郎(aa0297)が首を傾げて見せる。
 ラジカセは普通の物でゾンビを退治する役に立つとも思えない。
「ラジカセの音に反応しないのは確認済みだが、スマホの声に反応するしないの確認は大事だからな」
 応えた麻生の言葉に雪ノ下はまた首を傾げる。
「反応しないのにラジカセを置くんですか?」
「……ん、反応したら、それはそれで良い……ね?」
 応えたユフォアリーヤは麻生の方しか見ていない。
「車を固定する物も必要ね」
 すでに準備を始めた麻生たちの姿を見ながらマリエッタ・デファン(aa4469)がシャーロット・シュヴァリエ(aa4469hero001)に声をかける。
「街にホームセンターもあるようですし、今のうちに必要なものは買って来た方が良さそうですね」
 スマホで周囲の地図を見て確認していた君建が顔を上げる。
「荷物も多くなるでしょうから棄棄さんはそちらへ荷物持ちに行ってください。私は少し手配しておきたいことが有りますので」
 君建の言葉に
「そうですね、君建さんの言う通り荷物持ちくらいしか役に立ちませんから」
 切裂がそう返す。
「車はボクが運転しますよ。数百年前のマサイである英雄は貨幣経済に慣れてないので、単純手作業や力仕事用に残ってください」
 アカデミック・ミリキーはそう言うと車に乗り込んでエンジンをかける。
「分かった。罠に必要なものは分かっているな?」
 シンバの念押しにアカデミック・ミリキーが
「分かっているよ。都会の現代カルチャーの罠を見せてあげますよ」
 そう答えている間にシャーロットは慣れた動作で運転席側の後部座席の扉を開け、マリエッタも旧家の娘らしく自然にそれを受け入れる。
「騎士とお姫様みたいね」
 二人の姿に御童はそうつぶやいてカイの大きな背中に目を向ける。
 似合わない連絡係としてH.O.P.E.やテツとの連絡をこなすカイの背中は御童をここまで導いてくれた背中だ。
「本当にゾンビ映画の世界ですね、四国で敵は何を狙ってるのか見えてこないですね。」
 突然聞こえた雪ノ下の声に御童は慌ててカイの背中かから視線を逸らす。
「四国は存在自体がある種の魔術的な回路でお遍路巡りが魔術儀式だし、剣山がミステリースポットだったり狸の妖怪の宝庫と候補が絞り切れないよな」
 ゾンビの事や四国の事を雪ノ下はシンバに説明している。
 ああして誰かとすぐ仲良くなれるのもきっと才能だろう。
 見回せば君建もどこかに電話して仕事をしている。
「マリ」
 カイは所在なく立つ御童に声をかける。
「車の側面を補強する準備を手伝ってくれるか?」
 その言葉に御童は嬉しそうに頷いてカイに駆け寄った。

●橋上戦
 爆音をあげながら近付いて来るバイクとその背後の数えきれないほどのゾンビの集団が見えてくる。
 橋の上は様々な仕掛けが施され迎え撃つ準備は整っている。
「橋に入ったら真っ直ぐ走り抜けろ」
 テツにカイはスマホでそう伝えると御童と共鳴して橋の左右に横付けした車の間に他の仲間と同じように身を潜める。
 テツが橋へと差し掛かる。
「さっさと囮から解放してやらんとな」
 町側に止めたバスの中に隠れている麻生がそう呟き、
『……ん、あとで褒めてあげないと』
 とユフォアリーヤも尻尾を振るように麻生に答える。
 二人の前を最後のゾンビが通過して橋へと入る。
 同時に麻生が最大音量で橋の左右の金網に括り付けてあるスマホでゾンビへと呼びかけ大型バスで橋の入口を封鎖する。
 バスへと駆け寄ろうとしたゾンビの背後でラジカセが大音量で流れ始め、再び振り返り駆け出した後方のゾンビ達に押されて集団の中程のゾンビ達が行き場を失い押しつぶされる。
 ゾンビ達の先頭ではユフォアリーヤがブルーシートと粘着剤で作ったゾンビホイホイとアカデミック・ミリキーが見繕った罠により混乱が起きていた。
 だが、ゾンビ達全体の動きは止まらない。
 唯一の人の気配であるテツを追いかける足を止めずに進み続ける。
「本当にゾンビ映画みたいだな……」
 トラップに捕まり動けなくなったゾンビを踏みつけて前へと進むゾンビ達の姿に雪ノ下は思わずそう呟いていた。
 目の前で繰り広げられる光景は映画の中の世界そのものである。
 そして、こういうシーンでは必ず何かが起こる。
 そのまま逃げ切れる事など映画ではそうそうない。
 そして、現実もそう優しくは無かった。
 テツのバイクが残り10m程を残してガス欠で停止する。
「橋の向こう側まで全力で走れ!」
 御童が叫び、隠れていた車の影から飛び出し16式60mm携行型速射砲をテツを追いかけるゾンビの先頭へと向ける。
 轟音と共に放たれる弾丸がゾンビの集団を微塵に打ち砕くが勢いに乗った集団を全て止めることなどできはしない。
 バイクを諦めて走り出したテツの足がもつれ、倒れる。
「雪ノ下さん、後をお願いします」
 橋の出口でテツの通過を待っていたマリエッタと共鳴したシャーロットが跳び出す。
 だが、その顔は驚きを浮かべていた。
 跳び出したのはマリエッタの意思だった。
 元来の戦いを好まない性格が災いし積極的に戦闘に関われないマリエッタが、いや、そんなマリエッタだからこそ誰よりも早くその判断を下せたのだろう。
「助力ありがとう。後は任せろ」
 テツにそう声をかけてシャーロットはテツのすぐ背後に迫っていたゾンビ達に身の丈以上もある大剣ドラゴンスレイヤーを叩き込む。
 柄に巻き付いた吸血茨が吸い上げた力が大剣にさらなる力を与えてゾンビ達の体をまとめて両断する。
 テツは何とか体を起こしていたが、疲れているのかその体に力が入らないようでフラついている。
「シャーロットさん、無理を頼みますわ」
 その言葉と同時にシャーロットの鎧から赤い紋章が消え共鳴を解いたマリエッタがテツに駆け寄る。
 高貴なる者に伴う義務、マリエッタの行動の礎であるその意思にシャーロットは異を唱えなかった。
 なによりも「マリエッタの騎士」を名乗るシャーロットにはマリエッタを守る義務がある。
 ドラゴンスレイヤーの巨大な剣身を横にして盾のように使いゾンビの攻撃を防ぎ、大きく鎧を鳴らして周囲のゾンビ達をひきつける。
 ゾンビ達に身動きが取れない程囲まれているにもかかわらずシャーロットは涼しい顔をしていた。
「纏わり付かれるのは正直鬱陶しいし嫌な気分だけど……今回に限っては好都合なんだよ」
 鎧の表面をゾンビの爪がひっかき嫌な音を立てる。
 金属の鎧の表面には噛みついたゾンビの歯形が残る。
 英雄一人で出来ることなどほとんどない。
 だが、耐えることくらいはできる。
 一人で戦っているわけではないのだから。
「離れろ、ゾンビ共!」
 シャーロットに群がっていたゾンビ達がまとめて数体吹き飛ばされ、空いた空間に歌舞伎の主役モチーフの特撮ヒーローのような姿が現れる。
「カブキリンカー推参!」
 ライヴスツインセイバーを振り回し歌舞伎風の見得を切ったそれは雪ノ下の共鳴した姿だった。
「ここは拙者が抑える」
 シャーロットへ声をかけて雪ノ下は光刃でゾンビを切り裂いていく。
「頼む」
 一言だけ雪ノ下に声をかけるとシャーロットは身を翻す。
 その視線の先にはテツに肩を貸して歩くマリエッタの背中が見える。
 背を向けたシャーロットに追いすがるゾンビの足がバスの窓からの麻生のハウンドドッグによる狙撃で吹き飛ばされる。
 狙撃により麻生の気配に気付いたゾンビ達がバスに殺到し車体が大きく揺れる。
 だが、君建の提案でタイヤをパンクさせていたおかげで横転は免れる事が出来た。
 麻生は揺れるバスの中からゾンビ達の反対側に出ると段ボール箱に隠れて移動を始める。
 バスの中を確認しようと窓へと手を伸ばすゾンビ達に気付かれないように息を殺して車へと近付き段ボール箱に潜んだまま屋根の上へと登る。
 振り返るとバスに群がっていたゾンビ達は中に誰もいない事に気付いたのか目的を失い彷徨うようにウロウロと歩き始めていた。
 その様子を確認して麻生は狙撃の体制を整える。
 今はテツを無事に逃がしきることが重要だ。
「くっそ、俺は荷物じゃねぇぞ」
 アカデミック・ミリキーにより封鎖された橋の出口のバスの裏にシャーロットは抱えていたテツを降ろす。
 再びその鎧には剣を幾何模様化した赤い紋章が浮かび上がっている。
「それだけ言えれば大丈夫だな」
 テツの体に広がっている人の皮膚とは思えない青白い色に不穏な物を感じながらもシャーロットはそう言って戦場を振り返る。
「そこで休んでいろ」
 振り返らないままテツにそう声をかけてシャーロットはバスの屋根へと跳躍する。
 バスのタイヤに穴をあけてパンクさせていたアカデミック・ミリキーも前線へと駆けて行く。
 そのパートナーのシンバは雪ノ下の横に並びどこからか拾ってきた鉄棒を槍のように操って巧みにゾンビ達の動きを止めている。
 ゾンビに普通の道具でダメージを与えることは出来ないが、何体ものライオンを倒してきたというシンバは槍の動きだけで敵を制する方法を知っているのか様に巧みに突き出し振るう棒の動きでゾンビを誘導してその場に足止めしている。
 シンバにとっては頭の鈍いゾンビなどライオンと比べて遥かに楽な相手かもしれない。
 だが、共鳴しなければゾンビを倒すことは出来ない。
 そしてシンバの元にアカデミック・ミリキーがたどり着くまでにはまだ少し時間がかかる。
 シャーロットは車の上から大きく跳躍すると空中でカオティックソウルを発動する。
「うちの吸血鬼と違って串刺しが好きってワケじゃないんだが……精々足掻け、有象無象」
 着地と同時に発動したウェポンズレインの無数の刃が雨のように周囲に降り注ぐ。
 刃の雨に貫かれ、切り裂かれたゾンビ達がシャーロットの周りに折り重なるように倒れていく。
 ゾンビ達の注意がシャーロットへと動く。
「村人を食らうライオンどもの顎を突き破れ、戦士たちよ、槍を投擲せよ!」
 ゾンビ達の意識が逸れたすきにシンバと合流して共鳴したアカデミック・ミリキーが声を上げる。
 その声に合わせるように一瞬だけ戦士の軍団の幻影が現れる。
 それはアカデミック・ミリキーの理想だったのか、それともシンバの記憶だったのかは分からない。
 幻影が一斉に槍を放つようにアカデミック・ミリキーのストームエッジの刃がシャーロットへと意識を向けていたゾンビ達を切り刻みその骸を再び死へと還す。
 派手にスキルを放つシャーロットとアカデミック・ミリキーとは逆に君建は静かに動き始めていた。
「ははぁ……成程。噂に聴いてはいましたが、これが巷で流行りのウォーキング」
『違いますよ』
 言いかけた君建のセリフを切裂がバッサリと切って捨てる。
「……冗談です」
 すこし傷ついたかのように言って見せて、君建は渋滞して押しつぶされ、身動きをとれなくなっている集団の中程に近づくとカオティックソウルとウェポンズレインの合わせ技で一気にゾンビの数を減らしていく。
 H.O.P.E.での戦闘経験は少ないにも関わらず、その手際はどこか手慣れた様子がある。
 君建がゾンビの一部を倒したことにより渋滞していたゾンビ達の逃げ道が出来る。
 空いた空間へゾンビ達が殺到する。
 だが、それは君建自身が準備した場所だった。
 誘い込むように距離を取る君建を追いかけるゾンビ達がその場所に誘い込まれた。
 再び発動した同じ技が先程と同じようにゾンビ達の数をまとめて減らす。
 だが、それですべてのゾンビが倒れたわけではない。
 まだ残っているゾンビ達が君建へと追いすがる。
 君建へと手を伸ばすゾンビ達が突然足を滑らせる。
「そこにはオイルが撒いてあるのですよ」
 転んだゾンビ達にそう言って君建は車の屋根の上へと登り武器をダズルソード03に持ち替える。
 ダズルソード03の赤く煌めく刀身から放たれる鋭い衝撃波が車へと登ろうとするゾンビ達を切り裂いていく。
 まるで降りて来いと手を振るようにゆらゆらと手を伸ばすゾンビ達に
「はっはっは、下なんておりませんよこわいじゃないですか!」
 君建はそう声をかける。
『君建さん、ゾンビとお話ですか?』
 切裂の言葉に
「ゾンビは元は人だったのですよ」
 君建はそう言葉を返す。
 倒れて動かなくなったゾンビは消える事無く折り重なっている。
 それはどう見ても人の死体でしかない。
「そんなところでボーッとしてっと頭なくなっちまうぜ?」
 スマホから声が響くたびにゾンビ達の一部は麻生を探すようにスマホへと視線を向ける。
「……ん、今日はちょっと、過激だから……ね?」
 同じスマホから今度はユフォアリーヤの声が聞こえてくる。
 ラジカセと違い断続的に音が出るスマホにはゾンビ達は音がするたびに反応している。
 恐らくはそこに誰もいないことを記憶することが出来ないのだろう。
 ゾンビ達の注意を乱しながら狙撃していた麻生は違和感を感じていた。
 先日戦った墓地のゾンビは倒せば遺骨に戻ったのだが今回のゾンビはまるで元々腐敗した死体であったかのように倒しても姿を変える事が無い。
 それは病院で遭遇したゾンビと同じであったが、あの時のような能力低下は起こっていない。
「あっちゃん、後ろだ!」
 通信機からカイの声が響く。
 咄嗟に段ボールを捨てて振り返るとすぐ後ろにゾンビが立っていた。
 墓地の時のゾンビは障害物を登る事は出来なかった。
 その事が麻生の注意を少しだけ鈍らせていた。
 60mmの弾丸がそのゾンビを吹き飛ばす。
「あっちゃん、援護するから早く逃げろ!」
 御童の姿だがその言葉は完全にカイの物へと変わっている。
 カイの手から放たれた目覚まし時計「デスソニック」が麻生に手を伸ばしていたゾンビの頭を粉砕して地面に落ちる。
 車から飛び降りて走り出した麻生の背後で目覚まし時計のベルの音が響く。
 目を覚まさせるはずの機械の放つ殺人的な大音量が動き出した死体を再び眠りへと誘う。
 その音に吹き飛ばされたゾンビ達はやはりその姿をそのままそこに残している。
 ゾンビの元が何であれやるべき事は変わらない。
 麻生はハウンドドッグを重武装エレキギター「パラダイスバード 」へと持ち替える。
「おっと、今日のライブはこっちだぜー?」
 ゾンビ達に向かって存在感を最大にして大音量を響かせる。
「……ん、おにさん、こちら……天国に、連れてってあげる」
 ユフォアリーヤがクスクスといつもと同じようにゾンビ達に声をかける。
 派手に撃ち出されるパラダイスバードの大音響にゾンビ達の意識が麻生へと集中する。
 その隙を逃がさず、君建のストームエッジが確実にゾンビの数を削り取る。
 だが、それにより君建の周りのゾンビが車へと登る隙が出来るが、背後に迫るゾンビを君建はあえて無視していた。
 君建に襲い掛かろうとしたゾンビが勢い良く吹き飛ばされる。
 吹き飛ばされたゾンビを追うようにカブキリンカーがゾンビの集団の真ん中に着地した。
 君建は金網の上を走って来る雪ノ下の姿に気付いていたのだ。
 雪ノ下はライブスショットで周囲のゾンビを吹き飛ばし、ライブスブローをのせたツインセイバーの光刃で集団の中からゾンビを切り裂いていく。
 武術の心得があるのか、その動きには危なげが無い。
「若いというのは素晴らしいですね」
 ゾンビの集団の中で戦う雪ノ下を見ながら君建はそう口にする。
『まるで年寄りですね』
 切裂の言葉に微笑して君建は雪ノ下の背後へと迫るゾンビを衝撃波で斬り倒す。
 前線はシャーロットとアカデミック・ミリキーの二人が抑えていた。
 シャーロットは足を止めずにゾンビの間を動き回りドラゴンスレイヤーの質量とサイズを利用して遠心力を乗せた薙ぎ払いで近づかれる前にゾンビを潰していく。
 前に出るシャーロットとは逆にアカデミック・ミリキーは障害物を利用して下がりながら戦っていた。
 小さな武器で隙を見つけてはチクチクと攻撃して集まって来たゾンビへとストームエッジを叩き付ける。
 次第に動く死体の数は減っていた。
 最後の一体をアカデミック・ミリキーのリボルバーが撃ち倒した。

「ひでぇ、有様だな」
 その言葉に全員の視線が向く。
 橋の欄干に寄りかかるようにしてテツが立っている姿が目に入る。
「よぅ、お疲れさんだ……頑張ったな!」
 麻生がそう声をかけ、
「……ん、えらいえらい」
 ユフォアリーヤが母性全開でテツの頭を撫でる。
 その手を邪険に払うテツの手は異常なほど青白く、テツ自身立っているのがやっとのようである。
「すぐに救急車も到着するそうだ」
 共鳴した御童の姿のままカイがH.O.P.E.からの連絡を伝える。
「テツの仲間も全員無事だそうだ」
 近くで待機していたのかすぐに到着した救急車でテツを送り出してエージェント達は橋の惨状に目を向ける。
「後片付けはH.O.P.E.でやるそうだ」
 カイの言葉に麻生は黙って頷く。
「ゾンビとは、黒幕にネクロマンサーみたいな愚神がいる気がします」
 雪ノ下のその言葉は案外、的を射ているかも知れなかった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 敏腕スカウトマン
    雪ノ下・正太郎aa0297
    人間|16才|男性|攻撃



  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • エージェント
    マリエッタ・デファンaa4469
    人間|15才|女性|生命
  • エージェント
    シャーロット・シュヴァリエaa4469hero001
    英雄|16才|?|カオ
  • エージェント
    アカデミック・ミリキーaa4589
    人間|22才|男性|攻撃
  • エージェント
    シンバ・マウアジーaa4589hero001
    英雄|19才|男性|カオ
  • エージェント
    君建 布津aa4611
    人間|36才|男性|回避
  • エージェント
    切裂 棄棄aa4611hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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