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【秋食】飲んで探してオクトーバーフェスト
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/10/17 19:37:11 -
【相談スレ】飲み会に行こう
最終発言2016/10/18 16:22:44
オープニング
●宴の準備
「よっし! これで準備はほぼ終わったな!」
「ああ、今から楽しみだ」
ここはH.O.P.E.ロンドン支部。先日、ダメもとで提出したオーパーツ貸し出し要望書が、支部長のキュリス・F・アルトリルゼインの目を通って認可が下り、方々でオーパーツを使った催しの準備が進められている。
そして、この2人のH.O.P.E.職員もまた、あるオーパーツを借りて大まかな段取りを終わらせたところだった。
「しかし、だいぶ奮発したみたいだな?」
「そりゃそうだ。オーパーツが使える機会なんて、滅多にないからな」
彼らが進めていたのは、大勢の職員とエージェントを集めた、慰労会と称した飲み会だ。未成年やお酒を飲まない人でも楽しめるように、ノンアルコール飲料や美味しい料理も数多く取り寄せる予定となっている。
「で、こんなものまで用意したと?」
「交渉にかなり苦労したし、先方にはだいぶ無理を言った自覚はあるよ。何せ、本場で使うものと同じやつだからな」
苦笑混じりな職員の横で、酒類の手配を担当した職員はドヤ顔で目の前の光景を指し示す。用意されたのは、大量のビア樽だった。それぞれラベルには別々の会社名が刻まれ、1つ1つに『ミュンヘン・ヴィーゼンビア』という注意書きが施されている。
職員が用意したのは、毎年9~10月に開催されるドイツの収穫祭、『オクトーバーフェスト』で使用されるビールだった。ドイツ各地では10月半ばに開催する場合がほとんどだが、中でも有名なミュンヘンでは『ヴィーズン』という愛称で親しまれ、より暖かい9月後半の時期から開催するのが定着している。
そんなミュンヘンで使用される特別なビールを『ヴィーゼンビア』と呼ぶ。職員は粘り強い交渉の末、その『ヴィーゼンビア』を醸造する各メーカーから、実際の祭りで使用するビールの融通に成功したのだ。
「というか、うちの支部長じゃないけど、よく全部の会社から販売許可が下りたな?」
「ま、この仕事を長くやってると、自分でも意外な人脈が広がるんだよ」
そして、職員は中心にあったビア樽に張られた会社のロゴマーク部分に、小石のような物をロゴと同じ色のテープで何重にも張り付けた。
「これでよし。当日が待ち遠しいぜ」
「テープで大丈夫か? なくなったら一大事だぞ?」
「平気平気。外に持ち出すわけでもないし、念入りに張ってるから落ちたりしないって」
すべての準備を終えた職員は、慰労会の日を待ち遠しく思いながら、ビア樽から離れていった。
●まさかの展開
「すまんっ!! 俺たちの依頼を受けてくれ!!」
慰労会当日。
参加者として集まったエージェントたちは、顔を真っ青にした職員にいきなり頭を下げられた。
「最初に断っておくが、これはH.O.P.E.を通した依頼じゃない個人依頼な上、報酬も出せない。だがそこは無理を承知で頼む。この通りだ」
困惑するエージェントたちをよそに、どんどん頭が下がっていく職員2人。顔を見合わせた後、とにかく事情を聞こうと職員へ声をかけると、彼らはぽつぽつと語り出す。
「……実は、こちらの手違いで用意していたビア樽が、1つ残らず別の場所に移送されてしまったんだ」
「俺たちが気づいたのが数時間前。急いで他の同僚に話を聞いていく内、どうやら間違えて送られた物と勘違いしたやつがいて、勝手にミュンヘンのオクトーバーフェストへ送っちまったらしい」
なるほど、酒がなくては慰労会の楽しさは半減以下だろう。だが、それと依頼にどのような関係があるのだろうか?
「ここからが重要なんだが、移送されたビア樽の1つに、貸し出されたオーパーツを張り付けたままなんだ」
…………え? マズくね?
「マズい。とんでもなくマズい。オーパーツそのものは酒の醸造を早め、保管がしやすくなる効果の小石なんだが、貸し出されたオーパーツを紛失したなんてことになったら、今後オーパーツの貸し出しは全面的に禁止されることだろう」
「まだこの事実は俺たちだけが知っているが、もしキュリス支部長の耳に入っちまったら、それだけでアウトだ。貴重なオーパーツの管理不備や賠償責任を考えたら、……俺たちは破滅だぁ~!」
職員は体をくねらせ絶望に声を沈ませる。やらかしたことを考えれば、下手なフォローさえ出てこない。
「しかし、まだ支部長にバレてない今なら、『事故で紛失した』という事実をなかったことにできるかもしれない。だから、君たちにはオクトーバーフェストに参加して、密かにオーパーツを探して回収して欲しいんだ」
普通は主催者に連絡して捜索すれば確実だが、それをするとキュリス支部長に連絡が入る可能性が高い。事実を隠蔽するには、大事にしてしまうことだけは避ける必要があった。
「どの会社のビア樽に張り付けたのか覚えてなくて、手当たり次第に当たってもらうことになるだろうけど、今ならまだ初日の開催には間に合うし、オーパーツの効果があるビア樽は他の酒と比べても味が違うだろうから、飲めばすぐに特定できるはずだ!」
となると、オーパーツを見つけるまでかなりの量の飲酒をすることになる。結局飲み会には違いないが、報酬のない『依頼』と考えると、エージェントたちの表情は渋い。
「他の職員には、祭り会場での飲み会に変更になったとだけ伝えていて、事情は一切知らない。もし出会ったら、話を合わせてほしい。そして、彼らの飲食代も俺らが支払うことになっていて、総額いくらかかるかわからないから、報酬が出せないんだ」
「もちろん、依頼が終わったら交通費や飲食代は事前に集めた参加費で出すし、足りなかった分は俺たちが責任を持って全額払う! この件がバレることに比べれば、まだマシだ! だから頼む! 俺たちを助けてくれ!」
彼らの必死の懇願を受け、エージェントたちは最終的に全員が依頼を引き受けた。
……タダで飲み食いできるとわかったからかどうかは、定かではない。
●不穏な影
「ドイツでオーパーツの反応がありました。詳細な位置は特定できませんでしたが、どうやら祭り会場に紛れているようです。いかがしますか?」
「無論、回収に動く。戦闘員に出撃準備を通達しろ。H.O.P.E.の邪魔が入ってもいいよう、万全の準備を整えておくように、とな」
「了解しました」
一方で、流出したオーパーツの存在は、セラエノにも知られてしまっていた。すぐさまオーパーツ奪取に向けて、慌ただしく動き始める。
「ヴィーズン、か。……俺も飲みてぇなぁ」
「前に1回参加したことあるけど、ソーセージをつまみにして流し込むビールは最高だったぞ」
「……ごくっ」
「やめろ、バカ。俺まで飲みたくなってくるだろうが」
出撃命令を受けた大半の戦闘員は、祭りに意識をとられているようだったが。
解説
●目標
オーパーツの捜索・回収。
●登場
『アルタン』…小石型オーパーツ。お酒の熟成を早め、かつ保存に適した環境に調整する力場を発生し、より美味しくさせる。ただし、アルコール度数も上がる。
セラエノ構成員(PL情報)…現場に派遣されたセラエノ構成員。隊長以外は祭りの参加に乗り気。隊長は一滴でぶっ倒れるくらいの下戸。戦闘を想定した準備のみで、酒の強さはほとんど並程度だが、中には強者も。
ALC.(アルコール)耐性…飲めない→低 ■□□□□ 高、並程度→低 □□■□□ 高、強者→低 □□□□■ 高
●状況
場所はドイツ・ミュンヘンのオクトーバーフェスト会場。一般客に混じって参加。幹事職員の極秘依頼扱いなので、主催者や一般参加者、H.O.P.E.職員への周知は行われていない。飲食代金は後に幹事職員が全額支払うため、実質飲み放題の食べ放題。PCが先に到着し、1杯目が到着したところでセラエノと遭遇。
オーパーツはビールメーカー提供の樽に紛れており、どの会社かは不明。ビールメーカーは全部で6つで、販売テントは大小20。1つのテントでは1種類のメーカーのビールしか飲めない。
●留意事項
ビール…現地での飲酒は16歳から可能。1Lジョッキ『マス』単位で販売。2杯目は全部飲み干してから。ジョッキはデポジット方式で、壊しても買い直せる。通常ビールのALC.度数は5~7度だが、オーパーツビールは10~14度で抜群に美味い。
ノンアルコール飲料…主にアプフェルザフトショーレ(リンゴジュース+炭酸)・シュペーツィ(コーラ+オレンジジュース)など。カフェテントではお茶も提供。
料理…主にプレッツェル・ソーセージ・鳥の丸焼き・ザワークラウトなど。カフェテントではケーキなどのお菓子も提供。
重要…大きな騒ぎを起こすと、キュリス支部長の耳に入る可能性大。セラエノとの戦闘は御法度で、その他騒動を起こさないことを推奨。
リプレイ
●捜索開始!
会場へ到着したエージェント達は、まず場の空気に圧倒された。
「オクトーバーフェスト……、ドイツの伝統的なお祭り、だったっけ? いいな、伝統に触れつつ楽しめそうで。でも仕事は仕事、しっかりやらないと」
秋津 隼人(aa0034)は会場の賑わいを前に一瞬頬を緩め、すぐに表情を引き締める。
「んー、まあいいんじゃない? どっちにしろ脚を使って地道にやるのが現実的だし、となれば実際に飲んでみる役も必要だからね。というわけで、考えるのはボクに任せてさ、隼人も偶には楽しんだ方がいいと思うんだ」
が、相方のクロエ(aa0034hero002)は笑顔で隼人のガス抜きを提案。
「いや、でも……」
「そんなに気を張らなくてもさ、時には力を抜くのも大事だよ。頑張らなきゃいけない時に頑張るために、ね」
「……わかったよ。幸いお酒には強いみたいだし、その面で役に立つって思って、本場の味を楽しませて貰おうか」
「そうそう、何と言っても祭りだからね♪」
一旦は渋った隼人だったが、最後はクロエの説得で折れた。任務で無茶をしやすい隼人を気遣う、クロエの心情をくみ取ったのだろう。隼人は頷き、再び相好を崩した。
「うわぁ! 凄い人の数、……盛況だね? リリア」
「そうですね? さて、突発に参加することになった依頼ですが、それも忘れずに楽しみましょう?」
天城 稜(aa0314)が思わず感嘆の声を上げ、この地方の民族衣装であるディアンドルを着たリリア フォーゲル(aa0314hero001)は、エプロンの右に結んだリボンを揺らしつつ穏やかな笑みを浮かべた。
彼らだけ依頼を知ったのは現地到着後。オクトーバーフェストをニュースで知った稜の「行ってみたい」発言を聞いたリリアが、休息も兼ねて稜を引っ張ってきたところ他のメンバーと遭遇。幹事職員との連絡を経て、急遽参戦が決定したのだ。
「早く見つけられると良いのですが……」
「まぁ、美味しいお酒なら噂になるのも早そうですし、なんとかなりますかねぇ」
他方、花邑 咲(aa2346)はいつもと変わらぬのんびりした口調で会場を見回す。その視線を追うブラッドリー クォーツ(aa2346hero001)も、緩い笑みを浮かべている。
「酒! いい祭!」
「そうだねェ。ただ、一応仕事もねェ」
「是!」
祭りよりも酒にテンションダダ上がりなのは九龍 蓮(aa3949)。外見年齢では飲酒を止められるため、身分証をしっかり提示しての参加である。横の聖陽(aa3949hero002)も、やる気は酒の方が上っぽい。
「さぁ、飲むぞ!」
「シリウス? ここには依頼で来たということ、忘れてませんか?」
蓮たち同様、飲酒>依頼な態度丸出しなのは『破壊神?』シリウス(aa2842hero001)。新星 魅流沙(aa2842)が釘を刺すが、聞いてねぇなこりゃ。
「うわー、飲み会ってこんな感じなのかなぁ?」
お酒の匂い漂う会場を前に、天野 一羽(aa3515)は感嘆の声を上げた。後ろのラレンティア(aa3515hero002)も鼻をしきりに引くつかせ、期待を膨らませている。
「酔っぱらって正体を無くすなんて、そんなはしたない真似はできませんわね」
「そうね、スヴァン。潰れちゃだめよ。絶対よ?」
「もちろんです、先生」
こちらは、オーパーツ探索に意欲を見せるスヴァンフヴィート(aa4368hero001)とオリガ・スカウロンスカヤ(aa4368)。若干スヴァンにフラグが乱立してるが、本当に大丈夫だろうか?
「樽にテープで貼り付けたとか、馬鹿なんじゃないのか?」
「ま、まぁ人生初のお酒が飲み放題なんてラッキーだよ!」
唯一仏頂面なのは日暮仙寿(aa4519)。オーパーツの管理と扱いのずさんさに苦言を呈し、不知火あけび(aa4519hero001)が気を逸らそうとするも効果は薄い。
「豊穣祭は我等が神を讃える重要な儀式。大地母神ハリュプの教えを広める巫女として、これほど信仰を説くに適した場もないでしょう」
「ふむ、では別行動といこう。ディエドラは布教に励むといい」
人の多さを前に、ディエドラ・マニュー(aa0105hero001)は巫女の勤めに静かに燃え、ティテオロス・ツァッハルラート(aa0105)は1人、手近なテントへ入っていく。
「もー、いくらお祭りがメインだからって、いきなりビールのテントに走ってく事ないじゃない」
御童 紗希(aa0339)もまた、英雄とは別行動。とはいえ、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が止める間もなく行ってしまったので、紗希としては不意打ちもいいところ。仕方なく、紗希はカフェテントでケーキを食べつつ、カイの行方を探していた。
「オーパーツだって探さなきゃ、……あれ? あの人、確か……」
だからこそ、1番に紗希は発見できた。1人でジュースを飲む男の姿を。
●オーパーツはいずこ?
まずは、オーパーツ探索のためエージェントは散開。隼人とクロエはまず、スタッフに最近輸送されたビア樽があるか尋ね、各メーカーのテントを回ることに。
「落ちるまでには見つけたいよね」
「確かに。……しかしどれも美味いよ、これ。味わって沢山飲みたいぐらい」
クロエの言葉に頷く隼人は、依頼のために味の確認を優先。本日3杯目のビールを勢いよく呷り、別のテントへ移る。
「そういえば、オーパーツを使ったビールって、ドイツで大丈夫なのかしら?」
「所によってはビール純粋令なんていうのもありますわね」
仲間と別れたオリガとスヴァンはふとした疑問を口にする。オーパーツの存在がバレると、来年以降の開催が見直される可能性もあり、秘密裏の回収が望ましい。また1つ騒動を起こせない理由を見つけ、オリガたちはビールテントに入った。
「ここはラレンティアが生きていた世界でいうところの、ゲルマニアってところだけど……」
「オオカミは人間のつけた地名など知らん」
また違うテントを移動するのは一羽とラレンティア。時折すれ違う事情を知らないH.O.P.E.職員とも話をしつつ、オーパーツ樽を探し歩く。
「どれ、飲め飲め」
「ボク、お酒なんて飲んだことないんだけど? 大丈夫かな?」
ここでは16歳から飲酒が可能という話を職員から聞き、ソーセージをつまみにビールを飲むラレンティアが、一羽にも飲むように迫った。乗り気ではない一羽だったが、結局ラレンティアの押しに負けて一口。
「……いやー、あんま美味しくないなぁ。おじさんたちはビールが最高だって言うけどさぁ」
しかし、一羽の味覚には合わなかった模様。周囲でバカ飲みする男たちを眺めつつ、ビールの苦みに眉をひそめた。
「手がかりが少ないので、なかなか見つかりませんねぇ」
「幹事の職員さんの話では、樽は木製でテープの色は青か緑か黒。仕事が忙しかったとはいえ、もう少し鮮明に覚えておいてほしいものです」
別の場所では、事前に幹事職員へ聞いたオーパーツ樽についての情報を元に、咲とブラッドリーが手を繋いで会場を散策していた。祭りを楽しむカップルを装う意味が半分、かなりの方向音痴な咲の迷子防止が半分だ。
最初はスタッフと交渉し、樽を見せてもらいながらビールを飲んで確認する2人。しかし、ビア樽のほとんどが木製で、テープと同じ色をしたラベルのメーカーが複数あるため、特定できずにいた。
「それに、色んな場所でお話を聞いても、ほぼ同じ内容でしたし」
「祭りが始まってそれほど経っていないのに、酔いが回っている人が多いのも気になりますね」
同時に、祭りの参加者へも聞き込みを行ってきたが、誰もが「美味い酒? 今年はどれも美味いぜ! 乾杯!」みたいな状態であり、まともな情報を聞けた試しがない。祭り開始から数時間でこの状態は奇妙であり、だからこそ1つの仮説が浮かぶ。
「オーパーツの効果を受けたビア樽は、各テントに運ばれたのかもしれませんねぇ」
「それを知らずに振る舞われ、オーパーツビールを飲んだ客はすぐに酔った、というところでしょうね」
オーパーツの効果は酒の熟成を早める『力場の発生』。つまり、オーパーツ樽と一緒に保管されていた別のビア樽も効果を受け、会場に散らばった可能性が高い。現に、ブラッドリーはオーパーツビールらしい極上のビールを、複数のテントで飲んでいる。
捜索がさらに難航する予感を覚えつつ、咲とブラッドリーはこの推測もメールで伝え、別のテントへ足を向けた。
「どーも! 私? サムライガールです!」
「ちっ!」
「え、何で舌打ち!?」
そんな中、観光客と一瞬で打ち解けていたあけびは、スマホに視線を落としていた仙寿に目を丸くする。この時、セラエノ襲来とオーパーツ樽の特定困難という、悪い情報が同時に届いていた。
「樽の手がかりも曖昧にしか覚えてねぇ上、敵に情報が漏れてるとか、後でもう一回職員に文句を言ってやろうか……」
「そ、そうだ! 仙寿様も飲んでみる? 仙寿様なら強いよきっと!」
不機嫌さが増す仙寿を見かね、あけびは味の確認で注文したビールを差し出した。
「……美味い気はする」
幸い、同年代の一羽と違い仙寿の舌にはビールが合った。依頼を意識してチビチビ飲む仙寿の表情から、多少険がとれる。
「前評判や個人の好みは置いておいて! ここで一番美味いビールはどれか皆で飲み比べしてみませんか!?」
その様子に内心ホッとしつつ、あけびは客からオーパーツ樽の情報を得るために飲酒をけしかけた。そうして得た客の口コミを元に、各テントで人気の樽を調べていく。
●セラエノ×飲み勝負!
少々時間はさかのぼる。完全武装のセラエノもまた、オーパーツを狙って動き出していた。
「各自散開。必ず目標を回収する」
『隊長、ここ地元の祭りなので、刃傷沙汰は避けたいんですが……』
が、今回出撃した構成員のほとんどがこの地方出身らしく、次々と通信機から暴力を控える声が漏れる。
「……なら、戦闘行為が起きる前に回収しろ!」
ほぼ全員からの嘆願に隊長は折れ、観光客を装いカフェテントでアプフェルザフトショーレを注文。部下との連絡に集中する姿を、紗希に目撃されていた。
そして現在。
「何だ? え? セラエノの連中が来てるって?」
紗希と別れたカイは蓮や聖陽と結託し、お金と飲み代を賭けた飲み勝負を観光客相手にふっかけており、すでに何人も潰した頃に電話を受ける。
紗希はすぐにスマホで男の写真を撮り、幹事職員へ確認してセラエノだと特定。狙いがオーパーツだろうことも添え、カイや他の仲間に知らせていた。同時に、別の仲間から受信したセラエノのデータを見て、カイはあくどい笑みで蓮と聖陽に声をかけた。
「是。とても、いい」
「いいねェ、面白そうだ」
それに蓮と聖陽は二つ返事で了承。カイ同様、悪い笑みを浮かべてジョッキを呷った。
「セラエノ?」
「この会場に来ているそうですよ」
少し遅れてカイたちと同じ連絡を受けた魅流沙は、オーパーツ捜索を名目にガンガン飲みまくっているシリウスへも伝える。ちなみに、真面目に調査をしていた魅流沙はまだ1滴も飲んでいない。
「それって、あいつらのことか?」
途端、声を潜めたシリウスが示す先に、数名のセラエノ構成員の姿があった。さりげなく視線を向けた魅流沙は無言で頷き、視線でどうするのかと問う。
「魅流沙、ここで一つ喧嘩の売り方を講義してやるぜ」
すると、シリウスは突然立ち上がり、ウエイターへ空のジョッキを振り上げた。
「おーい! こっちにマスジョッキ追加だ! ……それと、あの連中にビールとカリーヴルストを人数分! オレのおごりだ!」
『は!?』
「ちょっ!? シリウス!?」
シリウスの行動に驚いたのはセラエノだけではなく、魅流沙も同じ。これだけ騒げば相手もシリウスたちに気づき、すぐに警戒の視線を向ける。
「お前、何のつもり……」
「皆までいうな、騒ぎにはしたくないのはオタクらもだろ?」
そのまま距離を縮めてきたセラエノへ、シリウスは不敵に笑う。すぐに武器を抜かずに接近したセラエノの様子を指摘し、図星を指された彼らは口を噤む。直後、注文したビールとソーセージが運ばれてきた。
「ここはヴィーズンらしく、こいつで勝負といこうじゃねーか。男と女の勝負だ。……わかるよな?」
そして、シリウスは挑発ついでに胸の谷間を強調。さりげなく色仕掛けも加えて飲み勝負をふっかける。
「い、いいだろう」
すると、生唾を飲み込んだセラエノ構成員は、数秒の葛藤の後に了承。シリウスの向かい側に座ってジョッキを手にした。
「経費で奢りとか、最高にかっこ悪いと思いますけど」
まんまと勝負に乗せたシリウスの後ろで、魅流沙はぼそっと呟き冷たい視線を英雄に送っていたが。
ほぼ同時刻、カイ・蓮・聖陽3人組の前にも、セラエノが姿を現していた。
「俺らと勝負しねぇか? ルールは簡単。俺ら一人でも飲み潰せば、賭け金総取り&負けた方がビール代全額支払う。俺らン中なら『誰でも』いいんだぜ?」
こちらでもまた、飲み勝負が提示される。しかも、こちらは金銭を絡ませている分、シリウスよりたちが悪い。さっきコソコソ話してたのはコレだな。
「こっちは『女の子』を含めた俺様とカイの三人でさァ。どうだィ、テメェさん達にとっちゃァ、悪くない条件だろォ?」
加えて聖陽が蓮を『女の子』と称し、勝負の分がセラエノにあると暗に告げた。
「よし、乗った!」
「お、おい、オーパーツはどうするんだよ?」
「いいじゃねぇか、ちょっとくらい!」
すると、ウズウズしていたセラエノ構成員が食いつき、全員巻き込んだ飲み勝負が始まった。あ、3人ともスゲー悪い顔してる。
「……っ、H.O.P.E.!?」
一方。こちらは数人の男たちが隼人たちを見て、警戒を露わにする。紗希から連絡があったセラエノ構成員だ。
「落ち着いてください。ボクたちに交戦の意志はありません」
「貴様らもオーパーツが狙いか?」
「……なるほど、まんまと乗せられましたね」
「何?」
高まった緊張感は、しかしクロエの言葉で困惑へ変化した。隼人はクロエの後ろで黙って見守る。
「こんな所にオーパーツの反応が出るなんて、おかしいと思いませんか? 貴方達、砂漠で結構派手にやったらしいですね。H.O.P.E.で全容把握や壊滅に動く派閥も出てくるってものです」
クロエの真剣な表情に、セラエノたちに動揺が走る。
「今回こちらに義はないと思うので伝えますが、これは罠なんです。誘き出して捕らえる為の、ね」
「なっ!? まさか、貴様らが!?」
「いえ、今日は非番ですよ。この話も偶然耳にしただけで、一切関与していません」
「敵の言葉を信じろと?」
「……ボクは、嘘は嫌いなんです」
見えない火花が両者の間で散ること数秒。小さく舌打ちをこぼすと、セラエノたちは背を向け、駆けだした。
「嘘も方便、ってところかな?」
「つかないとは言ってないよ。嫌いだとは言ったけどね」
焦燥が強いセラエノたちの背中を見送り、隼人とクロエは肩をすくめた。
●スマートなやり方
「やっぱり、飲み歩きながら探すしかないかな?」
「そうですね。祭りの参加者に話を聞きながら回りましょう」
稜とリリアもまた、色んなテントを飲み歩いてオーパーツ樽の特定を進める。観光客にはどのビールが美味しかったか、スタッフには客からの評判や出来の良いビア樽はどれなのか、聞き込みしては仲間と情報共有をしていく。
「……う~? なんだか、よってきちゃった、かも?」
「そうですか? お祭りはまだまだこれからですよ?」
しかし、あまりお酒に強くない稜は早々に酔いが回ってきた。対し、終始変わらぬおっとりとした笑顔のリリアは、ゆったりと飲むもペースが落ちない。
「このりょうり、おいしいねぇ~。りりあおねえちゃん!」
「あ、食べかすが頬に付いてますよ?」
そんなリリアに付き合った結果、稜は加速度的に落ちた。舌っ足らずでハイテンションな姿はまるで幼児。顔を真っ赤にして天使のような笑みを浮かべる稜に、リリアは笑みを深めて彼の口元をハンカチで拭った。
「そういえば、なんだかあまりよろしくない方々が潜んでいるとか」
「よくご存じで! さすがです、お姉さま!!」
一方、こちらも飲み歩きの調査を行うオリガとスヴァン。ティテオロスや一羽と同様、スマホや通信機を持参してないオリガは、たまたま通りすがった幹事職員からセラエノの情報を知った。ただ、ずっと一緒にいたスヴァンが、ジョッキ1杯を飲んでから様子がおかしい。
「オーパーツを使ったビールって、とっても美味しくて度数が高いとか。周りで評判になったりしてないかしら?」
「さすがです、お姉さま!!」
「テントも百や二百あるわけじゃないし、そこそこの数を飲めば調べられそうだけど」
「さすがです、お姉さま!!」
うん、さっきからスヴァンは同じことしか言っていない。こりゃあ酔ったな。
「ねえ、スヴァン。もしかして酔ってる??」
「ぜーんぜん。あと1カートンぐらい余裕ですわ」
酒の単位がカートンの時点でアウトです。
「ふぅ。……ンフー」
「あの……、ラレンティア、さん?」
別の場所では、あれからたくさんビールを流し込んだラレンティアの様子に、一羽が冷や汗を流す。狼の鼻でオーパーツビールを探し当てるのはいいのだが、ラレンティアが方々を移動するため樽を確認する暇がない。
そして、気がつけばラレンティアは見事に泥酔。腰が引けつつ声をかけた一羽だったが、直後いきなり抱きつかれた。
「……ちょっとぉ!? いや、待って……うわっ!?」
「んー、可愛いなぁ、お前は。ヒック」
顔を真っ赤にした一羽は驚愕の声を上げるも、ラレンティアはさらにスリスリと頬ずりも追加。一羽を完全に拘束する状況を、周囲の客やH.O.P.E.職員たちがはやし立てるものだから、余計に肌が朱に染まる。
「は、離してー!」
「んー、なんだぁ、一羽。全然減ってないぞ? 飲んで食わんと大きくならな……ヒック!」
その状態でしばらく絡まれた後、何とか脱出した一羽。そして、ラレンティアとの長時間に及ぶ攻防の間に依頼の進展があったのかを確かめるため、一度仲間と合流しようと移動を開始した。
「あれ、ティテオロスさん?」
「お一人ですか?」
その後、オーパーツ探索をしていた面々はビールを飲むティテオロスと遭遇。声をかけたのは一羽と咲で、他にも隼人や仙寿ら8人が一緒だった。
「そちらはずいぶんと大所帯のようだな。その様子では、目的の物もまだらしい」
ティテオロスの言う通り、オーパーツはまだ見つかっていない。8人が一緒なのは情報共有を目的に集まったため。しかし、各テントにオーパーツビールの情報が氾濫し、捜索は難航していた。
「なるほど。ならば、今から回収に向かうとしよう。穏便に、な?」
すると、全員の話を聞いたティテオロスは、不敵な笑みを浮かべて告げる。
「男性陣を借りるぞ。その間、女性陣とクロエ君は祭りを楽しむといい」
「俺たちも、ですか?」
「何で俺たちまで……」
隼人は疑問の、仙寿は怪訝の声を上げるも、ティテオロスの鞭が一発地面を叩き、それ以上の発言を封殺。隼人・ブラッドリー・一羽・仙寿を引き連れ、1つのテントへ向かった。
「現代美術では、完成された工業製品を美的感覚で捉える事がある。そうした風潮の中で、丁度ビア樽の注文があるものでね。少々見せて頂けるかな?」
『美術商』としてスタッフに声をかけ、ティテオロスはビア樽の場所へと案内を受ける。男性陣は樽の運送スタッフと紹介した。
ティテオロスによると、オーパーツの力が『熟成』であるなら、運ばれたのは追加熟成を行う木樽の可能性が高く、提供するメーカーも限られる。後は聞き込みやテープの色などの情報から、該当メーカーを特定したそうだ。
「なるべくラベルの劣化が無い物が好いとの事でね」
さりげなくオーパーツ樽に近い条件も加え、探すこと数十分。2つ目のテントでオーパーツを発見したティテオロスは、それを自身の谷間に潜ませほくそ笑む。
「さて、仕事は終わった。私たちも続きを頂こう」
そして男性陣へオーパーツ発見を示唆し、『美術商』の取引を強調するためビア樽を目立つように運び出させ、テントを後にした。
●潰したもん勝ち
同時刻、紗希は化粧室でイメージプロジェクターを起動し、鏡の前でディアンドルへ変更。ウエイターを装って睡眠薬入りのビールをセラエノに飲ませる作戦に出た。
「……日本人のあたしが、ドイツの民族衣装なんか似合うわけないじゃない!」
問題は、紗希が己の容姿と衣装の違和感を拭えないこと。特に胸。
「あたしはドイツ人、あたしはドイツ人、……な訳ないじゃない!」
自己催眠も試みたがやはり失敗。コンプレックスの根は深い。葛藤の末、紗希は腹をくくって薬物混入ビールを片手にセラエノへ近づく。
「お兄さァん、せっかくのお祭りなんだから、フェストビア、の・ん・で!」
そして、感情を責任感で押し殺し、紗希はくるくる回りながらビールを手渡した!
「いえ、仕事中なんで」
真面目か!?
「そ、そんなこと言わずに!」
なおも食い下がる紗希。今度こそいけるか!?
「自分、酒飲めないんで」
だから真面目か!! 2度も断られ言葉が出ない紗希だったが、ここで思わぬ援護射撃が。
「こんなかわいい娘のビールを断るなんて、アンタそれでも男かい!?」
「は? いやでも……」
「いいから飲みな!」
それは、なかなかに貫禄のある中年女性。現地人らしく、装いは紗希と同じディアンドルで、リボンが右側で揺れている。
「……こ、これれいひんらろ?」
中年女性の勢いに負け、セラエノは渋々ビールを流し込む。するとすぐに顔を真っ赤にさせ、目を回して机にぶっ倒れた。
「あ~、コイツはダメだね」
そんなセラエノを見下ろし、女性は紗希に「頑張りなよ!」と告げて去っていった。
「……え~と?」
女性を見送った紗希は小首を傾げ、衣装のエプロンを結ぶ左側のリボンが揺れた。
「なんだァ、ドン、酔ったか」
「んー、いい気分」
「く、くそぉ、おうえんをよべぇ!」
飲み比べ賭博の方はというと、平然と飲み続けるカイや聖陽もそうだが、酔った振りをする蓮が大活躍。蓮を潰そうとセラエノは次々と仲間を呼びだすが、ことごとく返り討ち。観客も徐々に熱を帯び、会場の中で本日1番の見せ物と化していた。
「ちょっとトイレに」
「んだぁ、にげんのかぁ?」
すると、途中で聖陽が席を立つ。泥酔したセラエノに絡まれるも、数分で戻ると告げてギャラリーの輪からも離れていった。
「ぐっ!?」
「正直、俺様は殺すのも厭わない生業なんだがねェ。俺様も甘くなったかねェ」
そして、仲間を止めようとしていたセラエノ構成員を捕まえると、物陰に移動し銃で殴って気絶させた。
「さァて、もうちっとばかし、飲もうか(暫且,使睡著)」
「ヤーン、飲み足りない、もっと(是。謝謝)」
「いやァ、随分飲んでると思うんだがねェ(不是了不起的事)」
宣言通り数分で戻った聖陽は、小声で中国語を混ぜつつ蓮に報告。同時に、机の下でスマホを操作し、セラエノ潰しが順調だと仲間にメールを送った。
ちなみに、聖陽と蓮の会話は次の通り。
『しばらく、ぐっすり眠ってもらった』
『わかった。ありがとう』
『大したことじゃねェさ』
すごいマフィアっぽい会話である。
「他の皆さんは、怪しい人を見つけたようですね」
「あんなに飲んで酔っ払うなんてはしたな……んー」
そんな盛り上がりを、通りすがったオリガたちは人垣の外から眺めていた。フラグ回収済のスヴァンは、そろそろ限界に近い。
「……酔ってなんて、酔ってなんて。わたくしがそんなこと……むにゃむにゃ」
「あら?」
「……お姉さま♪」
「……こんなに甘えん坊さんだったかしら?」
最後はスヴァンもオリガにべったりくっつき、ラレンティア状態に。そんなスヴァンを、オリガは不思議そうに眺めて空のジョッキを置いた。アンタも強いな。
「勝った!」
「疲れました……」
そして、こちらの飲み勝負もシリウスの圧勝。セラエノを全員酔い潰した。勝負の間、盛んにセラエノをヨイショで褒め殺し、飲酒ペースを上げさせた魅流沙は、盛大にため息をつく。お疲れさまです。
●飲めや歌えや!
仕事が終わり、セラエノも撃退したエージェント達は、本格的な酒盛りに突入。
「我等の神は言いました。地に恵みを与える者は、地の恵みを得ると」
こちらはディエドラが、大勢の前で乾杯の音頭をとる。
「皆様も麦の恵みを己に宿し、次の恵みへ繋げましょう。かんぱぁい!」
『かんぱぁ~いっ!』
ずっと飲みながら豊穣神の説法を披露していたディエドラは、豊穣ボディに鼻の下を伸ばす大勢の酔っぱらいに囲まれていた。話聞いてるかな、コレ?
「やれやれ」
その様子を眺めつつ、ティテオロスはまた1つジョッキを乾かしていた。何杯目ですか、女王様?
「ふぅ……稜は、色々着せても似合いますねぇ。うふふ、次は何を着せましょうか?」
「ふぇ? 服をくれるの? わぁ! うれしいなぁ!」
こちらは稜とリリア。いつの間にかリリアだけでなく、稜までもがディアンドルを着用している。実は稜が幼児化した後のオーパーツ捜索中、聞き込みの情報を仲間と共有していたリリアが着るよう促したのだ。ディアンドルは女性用衣装だが、リリアの言う通り稜が着ると違和感なく似合っており、間違いを指摘する人物はいない。
ちなみにディアンドルのエプロンは、リボンの結ぶ位置で自身の恋愛状況を示している。右側は恋人ありor既婚者。左側は恋人募集中。稜とリリアのリボンは右側にある。
こうして、さりげなくナンパ防止を行いながら、リリアは酔ったままの稜と祭りを楽しんだ。稜には黒歴史になりそうだったが。
「頑張れって、そういう意味だったんだ……」
ただ、紗希はディアンドルのリボンの意味を知り、頭を抱えていた。セラエノ隊長にビールを飲ませた時だけでなく、あれからやたら男性に声をかけられたことも思いだし、紗希は余計に羞恥がこみ上げ身悶えてしまう。う~ん、ドンマイ!
「あら、このケーキ美味しい。御童さんも如何ですか?」
その隣では、お酒に酔いすぎる前にカフェテントに移動した咲が、のほほんと紗希にケーキを勧めていた。テントまでの移動は、もちろんブラッドリーに誘導してもらっている。傍には潰れたスヴァンも熟睡中で、咲に介抱されていた。
「あ、本当! すごく美味しいですね!」
それに食いついたのはあけび。カフェテントにジョッキを持ち込み、ケーキをつまみに酒をグビグビ飲んでいる。女子会にしては一種独特だ。
「ぷはー! 美味い! おーい、こっちにジョッキ6つ追加だ!」
「皆さんすごいですね。これでは勝負がつきませんよ」
「お前も似たようなもんじゃねぇか、ブラッドリー」
「ヤン、食う!」
「もがっ!?」
「あら蓮さん、聖陽さんが苦しそうですよ?」
こちらでは酒豪たちによる飲み比べが行われていた。追加注文をしたシリウスに、終始笑顔のブラッドリー、さんざん客やセラエノを飲み潰してなお勢いの衰えないカイたちに加え、聖陽の口にソーセージを突っ込んだ蓮を窘めるオリガも混じったウワバミ集団だ。
彼ら彼女らの飲みっぷりは凄まじく、それだけで祭りのショー扱いされるほど。周囲には観客がさらに集まり、一般客やH.O.P.E.職員も混ざって大盛り上がりだった。
「とても、いい気分」
「一応、ドンも思考はちゃんと男なんだねェ」
シリウスとオリガに挟まれた蓮は、いつも以上にご機嫌。ただ、蓮の後ろには潰した客とセラエノが死屍累々と転がっており、対面の聖陽は苦笑気味だったが。
「キミは飲まないの~? ねぇねぇ~?」
「ヒック! ……んー、ねる」
「だ、誰か助けてー!」
一方、こちらは別の意味で大変だった。仲間と合流した魅流沙がビールを飲んで豹変し、またラレンティアに抱きつかれていた一羽に目を付けたのだ。結果、一羽は両脇を酔っぱらいに挟まれ逃げられない。良かったね。
「……ケーキ食べつつ酒かよ」
こちらでは1人で飲んでいた仙寿。飲み方も酔い方も濃いメンツの中に入れず5杯ほど飲んだ後、仙寿はカフェテントからこちらへ向かうあけびを捉える。
「仙寿様も皆のところで飲みま……いたっ!?」
それから、コミュ力全開のあけびが仙寿を仲間の方へ誘った瞬間、突然ポニーテールを掴まれた。
「仙寿様!? えっ、酔っちゃったの!?」
(うるせーな。酔うの早いとか思ってんだろ。俺に酒を勧めたのも、師匠が強かったとかだろ。お前は、師匠師匠って……)
「どうせお前は俺の顔目当てなんだろ……」
「突然人聞きの悪い事言わないでくれる!?」
内心の文句を省いた仙寿の発言を受け、あけびの額には変な汗が。落ち着かせようと水を仙寿に差し出すが拒否され、数分後には突然寝落ち。
「……ぁ、……ぅ」
(もしや拗ねてた? ……まさかね)
何か言おうとする仙寿を見て、あけびはすとんと隣に座る。それからはずっと、仙寿の隣で楽しそうにビールを飲んでいた。その近くでは、隼人が店員相手にビールの持ち帰りを交渉。今日中に飲むことを条件に、お気に入りのビールを持ち帰ることに成功した。
こうして皆、思い思いにオクトーバーフェストの1日を楽しんだ。
「嘘だろ!? これ総額いくらになるんだ!?」
「『ビア樽代』!? ビールじゃなくて樽代!?」
後日。無事オーパーツを返却できた幹事職員達の元に、大量の領収書が届いた。中にはティテオロスが買い取った樽代も含まれ、2人の悲鳴がこだまする。
借り物はきちんと管理しましょうね。