本部

今宵は生贄ライブ

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/23 20:43

掲示板

オープニング

●モンスター系アイドル
――スウィート・マジック マジにパニック!
あたしたちの魔法は 今夜甘い甘い呪いをかける
スケアリー・スクリーム まるでドリーム
くせになるでしょ? 明日からあなたは悪夢を待ちわびちゃう――

「マリの黒魔術でみんなのハートをひ・と・り・じ・め! 魔法使いのマリだよ☆」
「今宵の贄(にえ)はお主か? 楽しい夜にしようぞ。化け猫妖怪の玉尾(たまお)じゃ」
「僕に血を吸われたい? じゃあもっとそばにおいで。ヴァンパイアのカミラだ」
 最近、話題のアイドルグループ『Sweet Ghost(スウィート・ゴースト)』、通称『SG』。魔女・化け猫・女吸血鬼の3人組という異色のアイドルだ。もちろん、そういう設定なのだが――熱狂的なファンを含め各方面から苦情が入りそうなので、これ以上は言及しないでおこう。ともかくSGの人気はここのところうなぎ上りだ。それは全国ライブハウスツアーのチケットが即日完売だったことからもわかる。どうやらHOPEエージェントの中にも全国制覇した猛者がいるらしい。
 SGの道行きに暗雲が立ち込めたのは、ツアーも中ほどを過ぎたころだった。彼女たちの行く先々で不気味な事件が発生したのだ。最初に気づいたのは目ざといネット住民だったという。
「SGの行く先々で若い女が襲われてる。犯人はカミラじゃね?www」
 被害者はいずれも若い女性で、生気を失った様子で倒れているところを発見された。首筋に傷があったが血を吸われた訳ではなく、ライブスを奪われた状態だったということは、警察とHOPEしか知らなかった。今のところ死者は出ていないが、重症のものは数日の入院と心のケアが必要だそうだ。早期解決が望まれる事件である。

●吸血鬼の正体は?
 某日、18時。都内のライブハウスでリハーサルが始まった。エージェントたちは明日この会場の警備に当たるため、下見にやってきた。
 名目としては警備だが、彼らが警戒しているのは客だけではなかった。『Sweet Ghost』は近頃多発している通り魔事件の容疑者だ。ネットの噂を信じるわけではないが、たしかに彼女らのライブ地と通り魔事件には相関関係があるように思われた。彼女ら3人とプロデューサー兼マネージャーの墓間田には事件当夜のアリバイは存在しなかった。全員が「宿泊先のホテルに一人でいた」と言うのである。
「次の曲は『カラミタス・ラブ』!」
 女性アイドルが男性視点のラブソングを歌うことは珍しくない。しかし、この曲のセンターは男装の麗人、吸血鬼のカミラ。『カラミタス・ラブ』――破滅的な、または悲劇的な恋――はSGに女性ファンを一気に呼び込んだ人気曲だった。
 
――夜の闇に溶けて君の背中を追う
振り向いたって無駄だよ 足音なんてさせないから
月の光 白い首筋を照らしてる
襲われたって仕方ない 魔性のモノ引き寄せて

体中を流れる冷たい血が 沸騰するよう
君の肌に鋭い牙を立て もう止められない

僕はヴァンパイア 闇に生きるもの
どうか微笑まないで 灰になってしまうから
君と手を取り合い 生きるすべなどない
だから生きてる証 君の血(いのち)を僕にください

もう行かなくちゃ 夜が明ける さよなら 僕を恨んでよ
朝焼けに横たわる孤独な赤いバラ――

 望むと望まざるとに関わらず、アイドル達の曲を聞いていた彼らは気づいた。その歌詞が疑いを招きかねない内容だということに。――被害者たちのかたわらには毎回、一輪の赤いバラが置かれていたのだから。
 本番まで24時間を切った。今まで全国8か所で事件が起きている。千秋楽である今回こそは事件を未然に防ぎたいところだ。エージェントたちは手元の資料、あるいは頭の中に入力済みのデータを参照し始めた。

・SG、及びプロデューサーは全員が非リンカー。
・SG、及びプロデューサーは全員が東京在住。
・SGのファンたちは『生贄』を自称する。モンスターの仮装をするものが多く、ライブは年中ハロウィンパーティーの様であることで有名。
・例の通り魔事件が起きているのは毎回、彼女たちのライブがあった後。HOPEの調査の結果、被害者たちは全員ライブスを消失していた(量は個人差あり)。犯人は愚神か従魔と思われる。
・ネットなどで「犯人はSG」という噂が流れている。彼女たちの設定から生まれた(あまり趣味の良くない)冗談である、アンチのイメージ工作、あるいはそれに乗っかる者たちによって騒がれている。犯人指摘の根拠は、こじつけやジョークばかりである。

解説

・リプレイはライブ前日のリハーサルから始まり、ライブ本番まで事前準備や調査を行うことができます(ライブ前日の18時から、ライブ開始の18時まで)。『誰を』『どのように調べるか』は明確に宣言してください。
・愚神の討伐が最終目標となります。愚神は『ライブの途中』で『会場内』に現れる予定です(変動の可能性はわずかにアリ)。

【Sweet Ghost】
マリ
 新人魔女っ娘、という設定。ふわふわの金髪ロングヘアにエメラルドのような輝く眼。衣装は黒のミニワンピと大きなとんがり帽子。元気でおしゃべりで食いしん坊。ステージ上でも印象は変わらない。

玉尾
 小柄な猫耳少女。数千年を生きる化け猫族の姫、と言う設定。ストレートの黒髪ロングヘアに金色の眼。衣装は黒地に彼岸花をあしらった着物ドレス。普段は人見知りで敬語でしゃべる。

カミラ
 ハスキーボイスで長身の美人。銀髪ショートカットに宵闇のように深い青色の眼。シルクハットと黒タキシードを身に纏った男装の麗人。ボーイッシュ担当で女性ファン多し。冷静なまとめ役。
 

【関係者】
墓間田 黒生(はかまだ くろお)
腕の良いプロデューサー。作詞作曲を担当。性格は暗く、顔の上半分が髪で隠れており、服は黒づくめという不気味な男。

【敵】※プレイヤー情報
愚神×1
 デクリオ級。SGのライブ帰りのファンを襲っていた犯人。見た目と依代は非公開。男性より女性を優先して襲う。本当は近づくだけでライブスを奪えるが、対象の首に噛みつくことにこだわる。従魔を使役する。
 
従魔×?
 見た目はコウモリ。とても弱い(1~2撃で倒せる)が、数は多め。リンカーにとっては取るに足らないものだが、一般人にとっては脅威。

リプレイ

●前夜祭に舞う
 ステージを見つめるエージェントたち。その中には酷く熱のこもった視線がいくつかあった。
「アイドル絡みの事件だし……やっぱいんのね、緋十郎」
 鹿島 和馬(aa3414)が隣の大男に話しかける。狒村 緋十郎(aa3678)は目を皿のようにしてステージを見ながら、生返事を返した。
「レミア氏、いつも大変だね」
 俺氏(aa3414hero001)が言うと、レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は眉根を寄せる。零れたため息は夫に対するものではないらしい。
「吸血事件ねぇ……。海上支部でこの任務受けた時、“犯人、まさかレミアさんじゃないですよね?”なんて言われたのよ。本物の吸血鬼として放置しがたい案件だわ」
 緋十郎が今度は力強く同意した。
「SGの行く先々で事件が起きてる以上、何らかの関係性は必然……今の歌詞が吸血衝動に基いた歌詞であることはよく分かるけど、そうなると一番怪しいのは作詞した墓間田よね」
 レミアはそう言うと黒い男の元へと歩いて行った。
「なかなか良くできた歌詞よね、褒めてあげるわ。人間にしては、吸血衝動が巧く表現されているわね」
「……どうも」
 おだてに乗るタイプではないようだ。和馬は別の方向から切り込む。
「しっかし、Sweet Ghostのメンバーはどの子も可愛い子ばっかだよなー」
 最愛の恋人に心で謝りつつ、軽い男を装った口調で言う。
「……プロデューサーさん的にゃ、どの子が一番好みなん?」
 無表情な男が不機嫌さをあからさまに表情に乗せた。
「失礼。仕事があるもので」
 彼は足早に去って行く。確かに男同士で馬鹿話をするタイプではなさそうだ。だが。
「過剰反応だよね」
 俺氏が言う。仕事に対する侮辱と取ったのかもしれないが――。
「これは図星をついちゃったかもね」
「事件に関係するかはわからねぇけどな」
 雪峰 楓(aa2427)は生歌に感動していた。SGのCDはヘビロテ済み。カミラパートは吐息までばっちり把握しているとか。
(……イイ。やっぱりイイ、この声……!!)
 桜宮 飛鳥(aa2427hero001)は得体のしれない寒気を感じて相棒に声をかける。
「……どうした、楓?」
「何でもありません。それよりあの吸血鬼の子、気になりますね」
 飛鳥から肯定が返る。
(ということで、カミラちゃんのおはようからおはようまでを見守ろうと思います!!)
 楓の思考は甘美な妄想に支配されていく。
(ははぁ、首筋にかみついていたと。もし私のカミラちゃんが下手人なら、女の子が女の子の首筋にかみついていたことになりますね)
 対照的に飛鳥は曇りのない瞳で言った。
「大人数が集まる場所と言うのは愚神や従魔が好むもの。演奏中の出現にも備えておくべきだろう」
 歌が途切れると彼らは会場の間取りや非常口などを確認し始めた。
「お疲れ! いやぁ生のステージってのはすげえなぁ!」
 和馬は楽屋に向かうSGに会話を仕掛ける。
「ネットで、事件に関連がある、とか噂になっているけど大丈夫か?」
「お気遣いありがとう。誹謗中傷には慣れてるからね」
 カミラが微笑む。
「じゃあ何か心当たりとか気付いた事はあるかな?」
 突然言われてもすぐには思いつかないらしい。和馬はひそかに本題に入る。
「人気だし、熱心なファンも多いよな。全国ツアーについてくる気合入ったのとかさ」
 そのうちの一人であるHOPEエージェントへの聞き取りは空振りに終わっている。ライブ当日は泣く泣く別の任務に行くらしい。
「差し入れとかもありそうだし、どんな人がいるとか教えておいてくれると警備としても助かるよ」
 俺氏も付け足す。ツアーを回るのは演者とスタッフが基本だが、例外がある。全国を回るほどの熱烈なファンなら容疑者候補たりえるわけだ。特に熱心なファンの特徴を書き記し和馬はその場を去った。仮装で見分けがつきやすいのは幸いだろう。SNSで写真も探してみることにする。
「ハンドルネームが魑魅魍魎だね。ガーゴイルにゴブリン、ハーピィだって」
「そん中に本物のバケモノが潜んでるかもしれないとか笑えねぇな」

●吸血鬼を追え
「アセリア、今ある情報だけでどのぐらい推測できるかしら?」
「マリー、実に簡単な話です。質はともかく私の同類ですよ。とはいえ、依代はさっぱりですが」
 マリエッタ・デファン(aa4469)の言葉に答えたのは、吸血鬼――アセリア・グレーデン(aa4469hero002)。
「映像の方はお願いします。私はマリちゃんにお話を聞こうと思います」
 卸 蘿蔔(aa0405)は相棒を見上げて言う。レオンハルト(aa0405hero001)は思わず言った。
「大丈夫か?」
 蘿蔔の聞き込みが心配なのだ。
「やってみせます! 同じアイドルですし! あ、人気とか経験とかはまだまだだけど……」
「参りましょうか、卸さん」
 蘿蔔はあせあせとマリエッタの後をついていく。アセリアはレオンと共に空室を借り、ホテルの監視カメラの映像をチェックし始めた。捜査権は早い段階でHOPEに譲渡されているので警察署に向かう手間は省けた。レオンはHOPE職員との会話を思い出す。
「被害者はたまたまそこにいたのか……それとも誰かを追いかけたとかだろうか」
 答えはこうだ。
「彼女らは全員帰路の途中で襲われました。突然後ろから首筋を噛まれたかと思うと気絶していた、と」
 アセリアも情報を反芻していたのだろう。
「傷口の角度から見て、犯人の身長は170cm前後ということだったな。関係者の中ではカミラと墓間田が該当するのか。……敵が地面に足をつけていたならの話にはなるが」
 出入りは勿論、愚神がカメラに映らない場合も考え、扉が不自然に開いたりしていないかも確認する。根気がいる上に時間がかかりそうだ。彼らは気を引き締めて画面に見入った。
 立ち去った墓間田を探しながらレミアが言う。
「情報が少なすぎるわね。血を吸うのには当然好みがある筈よ。手当たり次第に誰の血でも良い……って訳では無い筈だわ」
 彼女はこの世界に顕現してからは緋十郎の血しか吸ったことがない。前の世界では若い娘が好みだった。
「好み……そ、そうか、レミアは俺の血を好んで吸ってくれていたのか……! 嬉しいぞ……! 俺は生涯レミアの“生贄”で在り続ける……!」
「任務中よ。黙りなさい、この万年発情猿……!」
 顔面を殴打するが被害者が悦んでいるため問題はないだろう。
 墓間田は打ち合わせで席を外していた。無断の『所持品検査』で二人が見つけたのは手帳に挟まれた写真だった。
「仕事とは言え、SGと関われるのは役得って感じだね。サインもらわなきゃ!」
 桜木 黒絵(aa0722)は玉尾のファンであるらしい。
「やれやれ、本来の目的を忘れないでくれよ。無事事件を解決して名探偵を名乗りたいものだね」
「名探偵かぁ。ね、シウお兄さんの推理を聞かせてよ」
 結構な無茶振りだ。シウ ベルアート(aa0722hero001)は渋ったが「一つ言えることは」と切り出した。
「赤いバラがカギ、かもね」
「現場にあったっていう?」
「ああ。仮にカミラが犯人なら、わざわざ自分の犯行を証明する証拠は残さないだろう。逆に考えればカミラ以外の者がカミラに罪を擦り付ける為にやった可能性が高い」
 その結論を気に入ったのか、黒絵は意気揚々と楽屋へ向かう。
(『SGの中に犯人はいない!』と熱弁してたからな。カミラ以外ということはこれから会う玉尾が犯人って可能性もあるんだが……そうでないことを祈るしかない)
「玉尾ちゃんのファンなの! サインください!」
「は……す、すいません!」
 断りの言葉と思いきや、わたわたとサインペンを持ってくる。腰の低い性格らしい。
「握手もいい? あ、手ちっちゃ~い」
 黒絵が玉尾と打ち解けていく中、シウはこまごまと質問を挟む。例えばプロデューサーやメンバー間の仲の良さ、トラブルの有無は把握しておきたい。
「そういう風に疑われることって多いです。でも私たちはタイプが違いすぎるのか、ライバル意識すら薄くて」
 玉尾は控えめに笑う。
「墓間田さんも良い方です。私のような者を使ってくれて……夢が叶いましたから」
「事件の日は全員が宿泊先のホテルに一人でいたということだけど、それはプロデューサーからの指示?」
 メンバーのうち誰かが犯人だと仮定すると、全員にアリバイが無い方が都合がいい。玉尾は気まずそうに目を伏せてから首を振った。引っかかる反応だとシウは思った。
 マリは楽屋で雑誌を広げていた。机上の菓子に手を出そうとしていたようだが、マリエッタが「少しお時間よろしいですか?」と話しかけると慌てて手を引っ込めた。
「SweetGhostさん、CD持ってます! まさか生で見れるなんて……マリさんが一番好……えと。明日のライブ頑張ってくださいね」
 蘿蔔はマリの警戒を解くためファンを装う。
「皆さんは何百年前くらいから一緒に行動しているんですか? なんて」
「ふふ、現世で生贄を集め始めたのは4年前。それより前のことは数えるのをやめちゃった! 数百年くらいじゃまだまだ新人魔女扱いで……あ、取り調べしないの?」
 マリはあっけらかんと言う。マリエッタは柔らかに微笑んで感謝の言葉を述べる。
「被害者の方の命に別状はありませんわ。被害者をこれ以上出さないためにご協力くださいね?」
 事件のあった日の行動には不審な点はなかった。蘿蔔は雑談を装って探りを入れてみる。
「ライブハウスって一度行ったことあるんですけど……派手に転んで怪我しちゃって、アイドルさんは怪我とかしないんですかね? 大丈夫です?」
 愚神ならライブスを介さない攻撃ではケガなどしない。当たれば大きな収穫だったが――。マリはニーハイをめくって、すねを見せた。
「あ、青あざ」
「舞台袖って暗いんだもん。マリの衣装はいろいろ隠れるからいいんだけどね」
 ならば他の二人について探りを入れよう。一番近くにいるマリならば何か異変に気付いているかもしれない。
「実は私も最近……アイドルのオーディションを受けないかって幼馴染に誘われているんです。勇気でなくて………でもその子とは一緒にいたいなって。受けないと遠くに行っちゃいそうで」
 友人の話を振ろうとして思い浮かんだのは幼馴染みの顔。
「すみません変な話して」
「蘿蔔ちゃんはどうしたいの?」
 マリは真剣な顔つきで言う。
「噂を流して人を蹴落としたり、つきたくない嘘をついたり。『魔女』でもなきゃ耐えられない世界だよ」
「マリさん……」
「ていうか、相談するならマリよりカミラや玉尾のほうがいいかも!」
 マリに引きずられるように3人は玉尾への聞き込みをしている黒絵たちの元へ向かった。
「玉尾ちゃんにだけは話すね。被害者の人たちには爪で引っかかれた様な傷跡があったの。しかも現場に毎回彼岸花が置かれていた」
「そう、玉尾君が容疑者としてマークされているんだ。犯人で無いのならライブまでの行動には注意した方が良い」
 無論、偽情報だ。しかしそれは彼らの予想以上に彼女を揺さぶったらしい。
「……あります、アリバイ」
 玉尾は財布から免許証を取り出し、黒絵に渡す。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……28歳!?」
「事件当日は神社で御祈祷を受けてました。この童顔がいつまで保つかわかりません。神頼みなんて『化け猫の姫』に相応しくない行為だけれど……」
 ガタン、と入り口で音がした。入室してきたのはマリ、蘿蔔、マリエッタ。
「マリ、ごめんなさい」
「私だって隠してる!」
 マリは玉尾を着替え用カーテンの中へ引き込んだ。
「そのお腹……ダイエットは?」
「ごめん……」
 カーテンが開く。
「……ホテルを抜け出してたのは名物を食べてたから。お店の人が証言してくれると思います」
 シウは玉尾を見つめる。
「もう何もかも話してくれないかい? 例えば墓間田さんのこととか」
 そう言うと今度はマリまでもが顔を伏せた。
 警備の名目で楓と飛鳥はカミラの帰宅に同行していた。ライヴスを介さないダメージについては彼らも考えた。
 楓がよろけたふりで鞄をぶつけてみるが、とっさに支えてくれるカミラにときめいただけ。かと言ってあまり強い攻撃を加えるのも危険だ。情報を引き出せないまま、ある通りに差し掛かったとき、カミラは急に送迎を辞退した。
「ごめん、その、急用ができて……私、一人で帰れるからっ!」
「『私』?」
 愕然とする楓を支えながら、飛鳥は駆け出すカミラの尾行を開始した。

●ゼロという答え
 墓間田は会場を出て資料通りの住所にあるマンションへ帰っていく。近くの物陰に隠れたところでゴーグルがライヴスの流れを捉えた。
「狒村殿?」
 それは飛鳥と楓のものだった。
「こんなところでどうした?」
「わたくしたちはカミラさんを尾行してきたのです」
 入り口付近で墓間田が振り返る。長い銀髪の女が彼の胸に飛び込んだ。
「あれがカミラ!?」
「あの姿が本来の彼女なのでしょう」
 楓が苦く笑う。
「あの写真の裏付けが取れた訳だな」
 墓間田の手帳にはカミラの写真が挟まれていた。ライブ中の舞台袖からとった隠し撮りのような代物で、事件と関連するのか判断に迷い尾行をしたのだが、一番単純な結論だった訳だ。
 物陰から出てきた4人に恋人たちは驚いたが、すぐにどこか安心したような表情になった。
「どこまでが嘘? すべて話してもらうわよ」
 彼らの証言は大筋では変わらなかった。「事件当夜は『二人で』いた」という訂正があっただけだ。
「尾行くらいされてもおかしくないよね。私そんなことも気づけなかった。不安で、どうしても顔が見たくて……紛らわしい真似をしてごめんなさい」
「すっかり騙されて……いいえ、魅せられてしまいました。演技力の賜物なのでしょうね」
 楓の言葉に美少女は俯いた。その動作一つとってもひどく女性的だ。
「いいえ、墓間田さんの演出のおかげ」
 墓間田はなぜか力なく首を振る。そのときシウから連絡が入った。玉尾たちが吐いたカミラと墓間田の関係についてだったが、それは今しがた確認済みである。それならばとシウは、作詞者にバラについて尋ねて欲しいと言った。
「おかしい。俺やSGのメンバーが犯人なら、現場に花を残すなんてことはありえない」
「どういう意味ですか?」
 断定的な口調に楓が首を傾げる。
「『朝焼けに横たわる孤独な赤いバラ』。この『赤いバラ』は歌詞の中の『君』を比喩したものだとメンバーには話してあるんだ。これは、朝の光に照らされて孤独に死んでいる『君』に寄り添うことすらできない『吸血鬼』の心情なんだ」
「言いたいことはあるけれど……戻るわよ、緋十郎。わたしたちの敵は別にいるようだわ」
 エージェントたちはライブハウスに集合した。
「カメラの映像は全てチェックした。見つかったのは変装した玉尾とマリのみ。証言とは一致するな」
 アセリアが結果を報告した。
「スタッフの方々にもお話を聞きましたが、有力な情報は何もありませんでした」
 マリエッタが続ける。
「それって……全部ハズレだったってこと? じゃあ犯人って誰なの?」
 黒絵が頭を抱える。「まあ落ち着けって」と和馬がなだめる。
「ツアーに合わせて全国で起きてんなら関係者の可能性が高ぇか」
 感情の読めない相棒に話を振ると、思いの外ピンポイントの答えが返ってきた。
「関係者は関係者でも、お客さんじゃないかな? 内部の人間だとしたらお粗末過ぎるしね」
「まぁ、自分達が疑われるような歌をわざわざ唄いながらやらねぇわな。んでも、動機は?」
「んー……歌詞がヒント、かも」
 シウが顎に手を当てる。
「歌詞? ……犯人が馬鹿正直に赤いバラを残してくところが気になっていたが……」
「それだよ。つまり、あまりに好き過ぎて、その相手と同じになりたいとか……なったと錯覚しちゃってるとかね」
 和馬は即座に反応する。
「犯人はカミラのファン、か?」
「可能性は高いと思うよ」

●生贄の集う刻
――スウィート・マジック マジにパニック!
 蘿蔔はスタッフジャンパーを羽織り舞台袖に潜む。見た目は蘿蔔のままだがレオンとは共鳴済みだ。楓は逆の舞台袖に飛鳥と共にスタンバイしている。
「大丈夫です。彼女らは私たちが守ります」
 飛鳥が言うと墓間田は深々と頭を下げた。会話もなく待機していると、やがて墓間田はステージを見つめてつぶやく。
「スポットライトに照らされて本当の自分を『殺す』カミラ。俺は暗い舞台袖から飛び出すことはできない。一緒に光の下で生きることは叶わない」
「それが『カラミタス・ラブ』の本当の意味ですか」
 楓が問うと墓間田は薄く笑う。楓はあの麗人に愛されながら煮え切らない男をひそかに睨んだ。
 黒絵は客席にいた。共鳴時の猫耳のお陰で会場に溶け込んでいる。レミアの姿となった緋十郎もまた然りだ。
「吸血鬼コス多すぎだろ……」
 和馬がいるのは最後列のさらに後ろ、照明係のポジションだ。
「……ああ、こちらはいつでも動ける。客席で不審な動きがあれば報告を頼む」
 そして、天井照明の足場に待機するのはマリエッタ。その姿も精神も共鳴した今はアセリアのものである。愚神の最優先事項がライヴスの取得だったとしても、やはりSGが狙われる可能性は高い。舞台上の3人が見える位置に陣取る。
「来るならば来い。……ただし、これ以上『生贄』を与えてやるつもりはないぞ」

●できそこないの独白
 この女を依代に選んだのは偶然居合わせたからに過ぎない。だからすぐ殺して、成り代わってしまった。ふいに耳に届いたのは女が聞いていた音楽。笑うが良い、僕はその歌に心酔したのだ。
「僕はヴァンパイア 闇に生きるもの」
 ようやくそばで聞けた。力の弱かった僕はライブ会場に足を運んだものの、自分より強いライヴスの気配を感じて立ち去るしかなかった。代わりにライブ帰りの女を襲った。イヤホンからはずっと哀しい歌声が流れ込んでいる。赤いバラを投げ捨てた。僕は『吸血鬼』だから。――不定形だった僕は形を成していく。
「だから生きてる証 君のいのちを僕にください」
 そうすればきっと僕は君になれる。力を蓄えこの日を待った。飢えぬよう、満たされすぎぬようにして。行こう。力を解放し、使い魔を召還する。
「見つけた」
 背中に感じる痛み。それはライヴスの杭だった。
「やあ吸血鬼。……君は本物かな? いや、この際そんなことはどうでもいい」
 銀髪の女の口から鋭い犬歯が覗いた。同類か。
「派手に暴れた若造の制裁は年長者の仕事だ。覚悟はいいか」
 僕はまた痛みを感じる。闇から溶け出してきたのは長髪の男。
「サイリウムも持たず飛び跳ねもしない観客って目立つもんだぜ」
 僕を『縫止』めるのはこいつか。
「HOPEです! みなさん落ちついて誘導に従ってください」
 非常口を開け放ち活発そうな少女が叫ぶ。
「カミラちゃんにそっくり……推理は当たりだったってことね」
 俺の蝙蝠を払いながら猫のような耳を持つ少女が言う。早く、ステージへ――。
「無駄よ」
 赤い双眸が言葉以上に語る軽蔑。小柄な少女が僕に正対し漆黒の翼を広げた。その手に大剣が召還される。まばたきの間に蝙蝠が枯葉のように床に積もった。
「カミラ!」
 伸ばした手。応えるように蝙蝠が飛んでいく。それを切り裂いたのは刀。カミラたちの前に立ちはだかった黒髪の女のものなのだろう。――その間にも、いのちは流れていく。
「さあ、傷を塞げ。夜(我等の時間)はこれからだ」
 傷? そんな、ことは。
「……出来ないのか? 出来損ないめ。貴様のような奴をのさばらせては我等の格が落ちるというもの」
 もう痛いのか、つめたいのか、あついのか、わからない。見えない。カミラ、歌ってくれ。そうしたら、震える喉を噛みちぎろう。
「目障りよ、消えなさい」
 3度の衝撃。なけなしの防御も意味をなさない。
 僕は、吸血鬼ではないのか。奪うはずが、奪われるばかりじゃないか。金の髪の女と銀の髪の女が――本物が僕を嗤っていた。

●朝焼けに立つ
「俺氏は鹿以外の自分になりたいと思った事ないけどね」
「久し振りに言うけど……お前のような鹿がいるか」
 依代は黒いマントで簡易な仮装をした小柄な女性だった。カミラと瓜二つの姿だったのは愚神の力によるものらしい。
「事件は終わりました。皆様の不名誉な噂もすぐに消えるでしょう」
 安心させるように楓が言う。
「『僕』のせいで彼女は……」
 消沈するカミラに、マリエッタが言葉をかける。
「愚神にまで影響を及ぼすほどの歌。非凡な才とお見受け致します」
「でも……」
「愚神はあなたに心酔し、あなたと同化するべく歌詞の通りに動き、結果的にあなたたちの容疑は晴れた。おかげで警備の的が絞れ、一人の被害者を出すこともなかったのです」
 アセリアが静かな口調で与えたのは厳しい激励の言葉だった。
「カミラ君が『出来損ない』でないことを祈るよ。……歌い続けるんだ、待っている者たちがいるのだから。人を惑わせ、狂わせる覚悟もなく、『吸血鬼』を名乗るな」

 後日改めて行われることになったツアーの千秋楽も、あとはアンコールを残すのみ。舞台袖で見守っていたエージェントたちは墓間田を舞台上に突き飛ばした。SGは戸惑う彼に大きな花束を渡す。
「堂々と交際宣言って訳にはいかないだろうけど、これくらいはね」
 俺氏が言う。
「光の下で生きられないなんてことは無いだろう。カミラ殿は彼の力を必要としていた」
「玉尾君もマリ君もね」
 飛鳥が言うとシウも同意した。
「楓、客席で見なくて良かったのか?」
「ええ、元気に歌う彼女たちが確認できただけで十分です。事件の影響が心配でしたが、流石にプロですね」
 客席から墓間田へ大きな拍手が送られる。
(認めたくありませんが……カミラちゃんのこと、しっかり支えてください。泣かせたら許しませんから)
 人気の失せた廊下に荒い息が反響する。歓喜の吐息を発するのは緋十郎だった。傷ついていたカミラは迷いを振り切り、今まで以上に真に迫った様子でセンター曲を歌いきった。欲に塗りつぶされた愛の歌を。それがレミアの吸血欲求を煽った。片手で乱暴に引き寄せて、相手の鼓動すら支配するように――。吸血姫は渇きと充足感をないまぜにしながら、アンコール曲を遠くに聞いていた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414

重体一覧

参加者

  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • プロの変態
    雪峰 楓aa2427
    人間|24才|女性|攻撃
  • イロコイ朴念仁※
    桜宮 飛鳥aa2427hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • エージェント
    マリエッタ・デファンaa4469
    人間|15才|女性|生命
  • エージェント
    アセリア・グレーデンaa4469hero002
    英雄|21才|女性|ブレ
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