本部
デュエル・リンカー
掲示板
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言
オープニング
「対ヴィランの戦闘データが足りませんね」
HOPEのAGWの研究開発部。その会議で上がった発言がそれだった。
「しかし、ヴィランは犯罪者……どこに現れるかわからない相手のデータを採取するのは難しくはないですか?」
AGWの実践データ自体はそれで取ることはできる。しかし、データ採取に必要な機材の小型化は需要が殆どないことからあまり進んでいない。何しろ実践で役に立つものではないのだ。それよりはAGWそのものの小型化や高出力化の方が急がれる。
「それに試作品のデータ採取も上からの許可が中々下りんしな」
そして、そうした試作品を実践の場に持ち込むのは危険を伴う。それは使い手のみならず、一般人への被害の拡大という意味合いでも大きい。
「試作品の持ち出しは危険。データ採取の機材の小型かも経費が下りない」
静まり返る会議室。うんうんと唸るのは電子機器の音だけではない。
「それならいっそヴィランを相手と想定した模擬戦をすればいいのでは?」
その意見は無駄に長引いた会議を終わらせる名案として速攻で受理された。
「今回皆さんにはリンカーになってもらいます」
「……ぇ?」
「ああ、すいません。リンカー役をやってもらいますでした」
今回のHOPEからの依頼はAGWを用いた模擬戦を行い、データを採取するというものだった。
「まあ、リンカー役といってもただの模擬戦ですから、基本的には普段通りの皆さんの戦い方で試合してもらうだけです」
リンカー役に支給されたのは各種計測装置が取り付けられた武装。それらはこの依頼を受けた段階で送られた武装のデータを元にした数値とデザインが施されている。研究室側の暇潰し……ではなく、普段通りの力が出せるようにと言う配慮だろう。
「一応リンカー役に配布する試作兵器も用意してあるので、余裕があればこちらも実験してみてください」
そう言って渡されたのは小型の爆弾。手榴弾タイプの武器で範囲は直径10メートル程度。破壊力は抑えてあるが、閃光を発するAGWとしての機能を持っているらしい。
「武装の出力は抑えてあるので怪我をする心配はないと思いますが、万一怪我をした場合もHOPEの救護班が待機しているので安心してください」
武装にはセーフティがつけられているので出力は控えめ、防具の方もその出力に合わせて戦闘不能かどうかを判断するアラーム機能が取り付いているらしく、多少のオーバーキル程度では軽い脳挫傷程度で済むらしい。この研究室の軽いの基準が不安になるような言葉だが、それ以上に後ろで待機している救護班がヴィラン顔負けの黒い雰囲気を撒き散らすダークな感じで、とても信頼できそうだ。
「ああ、そうそう。万一知人と当たっても手加減しないようにマスクを用意しておきましたので、こちらの着用もお忘れなく」
そう言って渡されたマスクは顔をすっぽりと覆い隠す形で1から8までの数字が振られていた。
解説
もう一方のシナリオとの模擬戦を行うだけの簡単なお仕事です。
ダメージなどのデータは実践と殆ど同じ形で処理され、戦闘不能になるとマスクが自動的に視界をシャットアウトしてくれます。
研究室の人達はその説明を忘れていますが、問題ないでしょう。多分。
リンカー側の特殊武装は相手の行動を阻害する広範囲非殺傷兵器タイプの手榴弾です。まあ、フラッシュグレネードですね。
攻撃力も一応ありますが、火力としてはかなり弱いので相手を確保する際に使うのが有効かもしれません。
味方を巻き込む危険もあるのでその辺りは取り扱い注意です。
マスクは顔を隠すだけで視界などに影響はありません。ヒーローごっこくらいならできます。
マスクの形状が変化する無駄な変身機能とかもついてますが、叫ばない限り大丈夫です。
HOPEの改造技術はちきゅういちぃ!
なので安心して被害者になってくださいね。
リプレイ
●リンカー達の不安
「模擬戦って里でも良くやったなあ!」
「麟殿は何も考えずに突進するから直ぐに判定を貰ってござったな」
「あれからオレも変わったんだよ」
「何も考えずに後ろに回り込んで集中攻撃を浴びるようになり申したな」
昔のことを懐かしむ骸 麟(aa1166)に宍影(aa1166hero001)は少しばかりの疲れを声に乗せながらつっこみを入れた。
「このマスクどうも信用できないんだよな……」
胡散臭さ全開の研究者や医療班の姿を前に都呂々 俊介(aa1364)はそう呟く。
ぱっと見たところは普通のマスク。こんな極薄の生地に妙な機能が備わっていると聞かされても、彼等の胡散臭さが増すだけで、信用はむしろ全速力で逃げ出していきそうだ。
すでにこの場に集まった他のリンカー達も何人かはすでにマスクをかぶっているが……むしろ最初にかぶされてから拉致されたのではないかと思えるほどに脱いだ姿の記憶がないのが半分以上。
「主よ……この者は攻撃対象か?」
「テミス、一応彼等は味方だ」
マスクをつけた怪しい一団を指差すテミス(aa0866hero001)に対して、石井 菊次郎(aa0866)は自分でも説得力がないと思いながらもそう言った。
研究者達を見れば、どこかの組織のマッドサイエンティストですと言っても通じそうな……というか、むしろそうとしか思えないような雰囲気を放っている。
「ちょ! その設定ウチの安全基準越えるんですけど!」
「ああ、ごめんごめん。これ被験者用のAGWの設定だったわ」
天野 雅洋(aa1519)が研究者達としている会話を聞いてもその不安は増大し、信用はもはや居留守を使おうとすらしなくなっていた。
●主戦場の形成
「テミス、一応彼等は味方だ。本気で攻撃するなよ」
「攻撃するという事は敵であろう? 主は味方を攻撃する裏切り者なのか?」
「……敵で良いよ。但し武器は支給品を絶対に使ってくださいよ?」
石井 菊次郎(aa0866)はテミス(aa0866hero001)に対して説明するのを放棄した。事前に説明しておくべきだったと後悔しても後の祭り。
相手が覆面をつけている時点で顔見知りがいたとしてもテミスにはわからないだろう。ならば、下手な説明をして混乱させるよりは諦めた方がお互いのためだ。
模擬戦会場は人工の障害物が幾つか用意されたフィールドだった。障害物があるといっても戦闘行為の邪魔になることはなく、まばらに設置されているだけで、その張りぼて具合からするともしかすると昨晩のうちに急造した物かもしれない。若干不自然な偏り方をしているように見えるのは何らかの細工を急遽施したからかもしれないと思うのは研究者達への不信という名の信頼があればこそ。
菊次郎が敵に渡された手榴弾の効果範囲に一度に入らないように分散する作戦を提案すると、全員が素直に頷く。どれだけこの研究者達は現時点で信頼を失っているのだろうか。
作戦を伝達したところで、模擬戦会場に相手の姿が現れる。覆面覆面きぐるみ風覆面、ゾンビ……そして、残りは覆面が続いた。一瞬本物のゾンビを用意したのかと思ったが、ゾンビなのは顔だけで、胴体は至って普通だったのでおそらくは覆面の一種なのだろう。そう信じたい。
戦闘開始と同時に相手は全員が飛び出してきた。これでは誰が後衛職なのかわからない。
急な呼び出しで作戦会議もまともに出来ない状況だったので、作戦の伝達に力を注いだのがまずかったかもしれない。
ヴィラン側から放たれた初撃のグレネードはこちらが散開していたために被害は軽微。しかし、それはあくまでも集まっていた場合と比べての話だ。集合状態で一斉に爆破されていたらおそらく耐えられなかっただろう。
互いの距離が開いているので連携を取っての行動は難しくなるが……問題はない。作戦会議をする時間がない状態で付け焼刃の連携を取ったところで効果は薄いだろう。ならば、個々の戦力を生かしての各個撃破が最適解だ。
「ほう……まだ斃れぬか? ではこの渾身の一撃を受けて見るか!」
そう言いながら覆面Aが菊次郎に向かってくる。覆面で顔はわからないが、かなりの筋肉質……駆け抜ける勢いから察するに近接タイプで間違いはない。
「全てのまつろわぬ存在に義の鉄槌を!」
菊次郎は銀の魔弾を打ち放つ。これで互いに無傷ではなくなったが……それでもまだ受けたダメージの方が大きい。反撃の一撃が呼び水となったのか、他の覆面達もこちらへ向かって駆けてくる。
「くだらぬ人間共め纏めて焼き殺してやるわ」
菊次郎はブルームフレアで覆面達がより多く巻き込まれるタイミングを狙った。初手で受けたダメージが大きい分、こちらも効率を上げなければ勝ち目はない。
攻撃の直後、痛烈な一撃が菊次郎を襲った。体重の乗った重い一撃。受けたダメージ以上にマスクの内側で点滅する赤い光がうっとおしい。
事前に立てた作戦がないのであれば、この状況で他のマスクリンカー達が取るであろう行動も考慮した上で菊次郎は敵を引きつける。
「これでまだやれますよね」
そこに合流した俊介のケアレイが傷を癒した。それで傷は完治したのだが、マスクの内側に表示されたダメージ表示上は完治には至っていない。実践であれば受けたダメージが大きいということなのだろう。癒し手が加わったことで他のマスク達もこの場に集まり始めた。
自陣奥地での主戦場の形成。そして、分散した初期配置……その結果、敵主力を包囲する形で孤立させることに成功していた。
●後方支援の分断
「ここで忍びとしての本領を発揮して……」
麟は戦場を駆け抜けていた。
「麟殿、目的の為にも本部技術陣の心証を良くするのは必須でござるぞ」
宍影に言われるまでもない。先ほどの爆発の被害はおそらく麟が一番少ない。
全速力で後方に回り込もうとしていたいつもの暴走癖のおかげで被害は少なく、ポジション的にも美味しい位置を取ったことになる。ヴィラン側が全員で前に出ていたこともこの結果に繋がっていた。
「骸神磚撃!」
主戦場に向かおうとしていたのであろう覆面を麟は本能の赴くままに強襲する。麟はともかく他のリンカー達のダメージはおそらくかなり大きい。一人でも多く引きつけることができれば、それだけあちらが有利になるはずだ。
「骸舞風斬!」
「ケアレイ!」
麟の追撃に覆面Aは自身の治療を選択しつつも、こちらに対して敵意満々で向かってくる。
あのまま回復役に合流されていたら主戦場が瓦解していてもおかしくはなかった。だが、今から合流しても遅くはないはずなのだが……目の前の覆面Aはそれをしない。それはこちらに何か策があると判断しての選択だろうか。
「エージェント共に死を!」
麟は気付いていなかったが、先ほどから密かに合流して支援してくれていたマスク6があっさりと沈んだ。回復だけではない……覆面Aの攻撃力も侮れない。
なんにしても麟はこの目の前の覆面Aとの戦闘に全力を尽くすことが全体の助けになると判断して、真正面から戦いを挑むことにした。
●落とし穴と研究者
「またですか?」
雅洋の目の前で敵が落ちる。
「あ! そこ穴空いてるよ!」
ふわもこした覆面がそう言うが早いか落ちるが早いか……覆面Gが目の前で落とし穴に落下した。
先ほど見たのは確かFでそちらはマスク6がフラッシュグレネードを使用して無力化していた。
「落とし穴こんなにたくさん掘ってたかなあ?」
もこもこチワワの覆面が首を傾げながらそう言っていることからすると、どうやらヴィラン側が用意した落とし穴のようだが、何故にこうも自分達で嵌っていっているのか理解に苦しむ。
尤も、障害物の不自然な配置や研究者達の楽しそうな様子から察するに十中八九彼等が絡んでいるのだろう。というか、それ以外にアレだけの数の敵が落とし穴に巻き込まれる理由がない。
更に覆面Hも落下し……。
「……狭い空間で絡み合う男と男……ご馳走さ……!」
何故かその穴を覗き込んでいるゾンビを発見。救助しようとしているのか、完全に隙だらけである。
「あまり熱くならないで下さいよ?」
そう呟きながら、雅洋はフラッシュグレネードでゾンビごと覆面を無力化して、確保した。
●決着ッ!
半ば拮抗していた主戦場の様子が変わったのはもっふもふのスピッツの覆面が主戦場に合流してからだった。形状が変わっている気がするが、きっとあの覆面もこちらのマスクと同様の技術を詰め込んでいるのだろう。毛に埋もれてて見えにくいが覆面に記されているアルファベットはCでチワワのときから変わっていない。
最初に狙われたのは俊介だったが、すでに回復済みで被害はそれほどではない。
しかし、続けざまに放たれたトリオによる分散攻撃が菊次郎と雅洋を怯ませる。交戦中に二人は一応治療済みなので問題はないが、全く治療していなかったマスク7がそれでリタイア。
敗北条件の戦闘不能による離脱はヴィラン側よりも厳しい。回復手段が尽きた現状では尚更だ。
医療班に拉致監禁されたマスク7の絶叫が余計な不安を煽った。
このまま負傷退場することになれば、あの絶叫を今度は聞く側ではなくなる。
戦場が一つになった。包囲状態のリンカー側に対し、ヴィラン側は若干体力の面で余裕を残している。どちらに転ぶかわからなくなった戦場に緊張と医療班の期待と研究者の興味が渦巻く。
残された手段はそれほど多くはない。合流した覆面Aはまだ回復手段を残している可能性もある。
このまま包囲された状態で戦闘を続けても勝つことは難しい。不幸中の幸いか、この場に残ったリンカー達の手にはフラッシュグレネードがまだ残っていた。それらを自分が巻き込まれない範囲に投擲し、ヴィラン側の全員を戦闘不能にすることが出来ればまだ勝機はある。
そして、戦場はフラッシュグレネードの光に包まれた。
●敗北の理由
「……何が起きたんですかねえ?」
実際何が起こったのか菊次郎は良くわからなかった。
「いやー、本当によくやってくれました」
何故か喜んでいる研究者達の様子から察するに模擬戦でのデータ収集という目的は達成したと見て間違いはないだろう。だが、非殺傷タイプのはずのフラッシュグレネードで全員が戦闘不能に陥った理由がいま一つわからない。
決着はフラッシュグレネードの同時使用による暴発によって引き分け。しかし、全員戦闘不能扱いで、ヴィラン側の勝利で幕を閉じた。
研究者達によるとマスクの機能で勝敗を判定していたことにその原因があったらしい。
戦闘不能時にマスクが視界をシャットアウトする機能があり、それによって敗北や戦闘不能を判定していたので……フラッシュグレネードで全員が巻き込まれた瞬間に全員戦闘不能と判定されて模擬戦が終了したというわけだ。
「それではマスクのデータを取りたいので皆さんこちらへ並んでください」
そう言って研究者が示したのは先ほどから絶叫が止まない医療班の仮説テント。リンカー達はマスクを自力で脱ごうとするが、どんな細工をされていたのか全く脱げる気配がない。
「ふっふっふ、そのマスクには自動追跡昨日も着けてあるんです。逃げて助けを呼ぼうとしても声も出ませんよ」
どこの悪徳組織だといいたくなるような研究者達を前にすれば、リンカー達は研究材料でしかないのかもしれない。
「……」
だが、こんなこともあろうかとマスクの下にワイヤーで空洞を作っておいた俊介は自力でマスクを脱いで脱兎の如く逃げ出した。
「あ……」
研究者達の予想外という反応。
「……では、ちゃんと普通にマスクを外しますね」
上司にばれたら研究費を削られて困ると判断したのだろうか。
研究者達は素直にマスクを脱がせてくれるのであった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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