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相談卓
最終発言2016/09/30 00:53:50 -
質問卓
最終発言2016/09/27 10:51:00 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/09/26 16:51:43
オープニング
●一過性の食材ブーム
その世界ではとある食材による未曽有の珍味ブームが巻き起こっていた。
それは、『ドラゴンの尻尾』。
食べると香草と共に調理するとなんとも言えない味になる。食感はゴムのような弾力のあるイカのような感じだ。
どこぞの冒険者が冒険者ギルドの経営する酒場に持ち込んだことによって爆発的な広まりを見せ、今、都市も村もドラゴンの尻尾の話題で持ち切りなのだが…………如何せん、『ドラゴン』の尻尾である。仕入れる為にはドラゴンを倒さなくてはならない。
そして、早々ドラゴンが野原を歩いているはずも────。
「いた! ドラゴンだ!」
ミュシャ・ラインハルトは目の前をのしのし歩くその巨大黒蜥蜴に力一杯剣を叩きつけた。見事な花が刻まれたその剣は、一撃でドラゴンの巨体と尻尾を切り離す。
────グァアアアワオオオ!
空気をビリビリ震わせるその声をミュシャは涼しい顔で聞き流し、同時に繰り出された鋭い爪を盾で打ち払った。
「これが、ドラゴンとはずいぶん弱いな」
呟き、また一撃、その身体に叩きつける。
何度かの攻防の末、ドラゴンは地に倒れ伏した。
肉体を失い、【卓戯】のドロップゾーンのひとつであるゲーム世界に取り残されたミュシャと英雄のエルナーだったが、幸いにもそこは現実と同じように生活することが出来た。彼らは『竜牙亭』を名乗る冒険者ギルドで登録を済ませ、適度に依頼を受けて日銭を稼ぎながら、自分たちの肉体を奪った敵NPCであるイルミナートを探していた。
「それにしても────ドラゴンが沸き過ぎだろう」
ドラゴンの尾ブームに応えるかのように、この世界には、まるで雨後の筍のようにこの黒いドラゴンが大量発生していた。
このドラゴンは先日彼女が囚われていた『ドラゴンの塔』に居た個体より随分弱いが、それでも、一般人やこの世界の駆け出しの冒険者には手に余る。従魔で言えばミーレス級と言ったところか。
「それに…………」
打ち倒した黒いドラゴンをミュシャは冷たい瞳で見下ろす。
この黒いドラゴンを見る度、彼女は非常にいらついた。理由はわかっている。以前、自分が非常に危険な目にあった事件で彼女を襲ったドラゴンに似ているのだ。もちろん、記憶のそれよりもここのドラゴンは小さく弱い。
────初めてそのドラゴンを見た時、ミュシャは非常に不快感を覚えたし、それが敵ならば、彼女は萎縮するより片っ端から打ち倒す方事を選ぶ質だった。お陰で、珍味ブームもあいまって、この世界で生活するには不自由のない金銭を手に入れることはできたが。
「────ドロップゾーンになど、いつまでも居ても仕方がない」
友人や顔見知りの居る世界へ戻りたい、そんな気持ちを押し殺して、とりあえず、ミュシャは切り取った尻尾を幻想蝶へと放り込んだ。
『あまり貯め込む前に売って貰いたいな』
微かに笑う、共鳴したエルナーの声にミュシャもつられて笑った。
ところが。
●限度がある
「ミュシャさんの居る世界がドラゴンで溢れそうです」
H.O.P.E.のオペレーターが神妙な顔でそう言った。
手乗りサイズから鯨サイズまで様々なドラゴンが、もうすでに野良猫を見かける頻度で世界に溢れている。
「このままではあの世界のすべてがドラゴンに食い尽くされてしまいます。あの世界ではNPCと化し捕らえられている一般人もまだ居るはずなので、それは困るんです!」
珍味ブームで狩られる側だったドラゴンの逆襲、なのだろうか。
「ミュシャさんからの情報と『最果ての大穴』と呼ばれるところからドラゴンが湧き出ているそうです。彼女は既にそこへ向かって旅立っており、あなたたちは彼女の居るポイントへ転送可能です」
そして! とオペレーターは拳を握った。
「あの世界では、ドラゴンの大量発生にもめげず、まだドラゴンの尾ブームが継続しています。
そして、ドラゴンの尾に対する代価として────霊石が支払われているそうなのです!!」
このドロップゾーンで手に入れられる霊石が非常に高品質なのはすでにわかっている。
「ドラゴンの発生を止めて────ぜひ、霊石を大量ゲットしてきてください!」
●イルミナートの失敗
「うーん……」
イルミナートはうぞうぞとドラゴンが沸く大穴を見つめて唸る。
「世界の────危機か」
顎に手を当てて、一瞬だけ考えた。
「これは…………さっさと次の世界を作った方が早いな」
霊石や金貨目当てにドラゴンを大量生産したイルミナートだったが。アイテムが暴走してしまったのだ。
だが、彼は切り替えが早いたちだった。シミュレーションゲームユーザに例えると、駄目だと思ったらさっさとセーブデータを消してやり直すタイプである。
「しかし、アイテムはもったいない……」
けれども、彼はアイテムに対しては非常に強欲だったので、しばらくそこで状況を観察していた。
解説
シナリオ目的
霊石採集(ドラゴンを狩りまくってその尾と霊石と交換しよう)
ドラゴンの増殖を止める(イルミナートに人形を奪われると失敗)
ステージ:最果ての大穴
世界の果てにあるという火山の大穴らしきもの(5mで埋まってる)。また、そこへ至るダンジョンの総称。
六階層のダンジョンで、麓の一階から入り六階(屋外)へ出るとドラゴンが溢れる火口にたどり着く。
無限ループ・落とし穴がある、この世界のもう二度と訪れたくないダンジョン第一位。
登場モンスターはドラゴン(イマーゴ級・ミニサイズ・飛行×少量)、ドラゴン(ミーレス級・物理攻撃×大量)、ドラゴン(デクリオ級・炎が吐ける×1)であり、どれも大食いで放置すると食糧難を引き起こす。
火山口にはイマーゴ級10体、ミーレス級5体、デクリオ級1体がいる。
※イマーゴ級以外は飛べません
PL情報
イルミナート&ディアレット 六階火口近くの高い岩の上から眺めている。2ターンで撤退。
・イルミナート:金髪・長髪を束ねた鎧姿の男。外見は勇者のようだが、性格は強欲・独善・利己的。金と経験値に目がない。アイテムをたくさん所持。※能力情報は不確かです。
《運命の輪》二回『確定ロール』を行う(TRPGのダイスロール判定時、内容を強制変更)
《影払い》重傷以上のリンカーの共鳴を強制的に解除するらしい
《旅の扉》その場から退却
《追想の矢》(ツイソウノヤ) ガントレットに仕込まれた小さなクロスボウとその矢。打ち込んだ対象の記憶からランダムに”敵”の偽物を作るらしい
・ディアレット:茶髪長髪のエルフ戦士。この世界依存の攻撃・回復魔法が使えるらしい
大量のドラゴンの発生源には30cm程のぬいぐるみ人形と化したミュシャ・エルナーの肉体があります。
ただし、イルミナートを放置すると人形は奪われます。
ミュシャの人形に刺さった追想の矢(ドラゴン大量生成の為の特殊版)を破壊すればドラゴンの発生は止まります。
リプレイ
●合流
「来てくれて礼を言う……独りでなんとかするにはさすがに限界で」
エージェントを出向かえたミュシャは言葉を濁す。
その言葉を制して月鏡 由利菜(aa0873)が微笑んだ。
「任せてください。────それに、お二人の肉体を取り戻す為に私達も力を尽くします」
飛岡 豪(aa4056)とガイ・フィールグッド(aa4056hero001)も力強く宣言した。
「ドラゴン退治、やってやるぜ!」
「ドロップゾーンに囚われたミュシャを必ず救い出す!」
一瞬、息を飲んだミュシャだったが、慌てて背中を向けると洞窟の方を指し示した。
「あ、ありがとうございます……『最果ての大穴』はあちらです」
エルナーはそんなミュシャの背中を軽く優しく叩いた。
周囲のエージェント達と共に洞窟へと向かいながら、禮(aa2518hero001)は小さな首を傾けた。
「作りものでもここが”世界”であるならば、その日常を護るのがわたしたちの役割(ロール)。ですよね?」
「そうだね。この世界の一員になったつもりで頑張ろう」
海神 藍(aa2518)は小さな英雄に微笑んだ。
「それにしても、冒険者ギルドが報酬を出しているらしいね?」。
一方、この世界は二回目である赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は感慨深く呟いた。
「しかし、何が流行るか判らんもんだな」
「展開が予想の斜め上を行くのは良くある事ですわ」
ヴァルトラウテが頷くが。
「その言い方は、何か微妙に違う気がするんだが」
────とりあえず。このゲーム世界におかしな事が起こる場合、概ねイルミナートが関わってる気がするのはきっと気のせいじゃねぇな。
先を行くミュシャの背中と、その先で黒々とした口をあける洞窟を見ながら龍哉は唸る。
「となると、どこかでまたぞろ出張ってくる可能性はあるか」
「心構えはしておくべきですわね」
声に出さない言葉すら聞こえたかのように、彼の英雄はもう一度頷いた。
その後ろを、同じくまたこの世界を訪れた谷崎 祐二(aa1192)とプロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)は、またさらに違うことを考えていた。
「にゃにゃ!」
「あぁ、また食べられるようだな! でも、その前に仕事を終わらせないとな」
もちろん、前回、冒険の最後に食べた『ドラゴンの尻尾』のことである。
穿った見方をすれば、ある意味、この騒動の発端はドラゴンの尻尾を酒場に持ち込んだ彼らなのかもしれない。だが、その結果、彼らはまた新たな成果を手にするチャンスを掴んだ。
●最果ての大穴
そこは、前回訪れた『ドラゴンの牙』の塔とは違った迫力があった。
おどろおどろしい音楽でも流れそうな洞窟は、微かな硫黄の匂いと熱気と湿気を含んだ不快な空気が満ちていた。
「ダンジョン攻略か、冒険って感じだね」
『ドラゴンを狩って狩って狩りまくるわよぉ』
GーYA(aa2289)の言葉に、共鳴したまほらま(aa2289hero001)が元気に叫ぶ。どうやらまほらまは前回食べたドラゴンの尻尾が大変気に入ったようだった。
そんな面子の前を、シャドウルーカーたちが慎重に歩く。ミュシャからの情報では、このダンジョンには数々の罠があり特に日ごと位置が変わる無限ループと落とし穴といった厄介な代物があると言う。
墓守(aa0958hero001)と共鳴したハーメル(aa0958)はシャドウルーカーの能力、《罠師》を使用した。
「────ずいぶん、色々な罠の”跡”があります。ここは難解なダンジョンだったようですね」
『この”世界”は……、すでにある程度、冒険され尽くしているのだろうな……』
墓守の言葉にハーメルは思考を巡らす。それは、『勇者』を名乗るイルミナートたちかもしれないし、元々そういう”設定”なのかもしれない。
「でも、そのお陰で早く先へ進めるのですから」
人が好いハーメルは、ドラゴンの増殖を止めてこの世界を救うことはもちろん、顔見知りであるミュシャの実体を取り戻す手助けができれば、と考えて張り切っていた。
シャドウルーカーたちはそのスキルを活用して慎重にかつスムーズに先へと続く道を開く。
「やれやれ……ドラゴン狩ったら誰か養ってくれないかな……」
『武之はちゃんとするんだよ!』
ハーメルの後ろを歩くのは鵜鬱鷹 武之(aa3506)である。同じくシャドウルーカーの彼もハーメルに続いて洞窟内の罠を調べる役目を任されていた……のだが。ついついだれがちな彼を小さな英雄のザフル・アル・ルゥルゥ(aa3506hero001)が一生懸命、叱咤する。それを、うんざりとしながらも彼は丁寧に罠を調べて前へ進んでいた。
ジャックポットである今宮 真琴(aa0573)は後衛を務めた。弓を構え警戒しながら友人のミュシャと並んで歩く。真琴はまだ頑なだったミュシャも、最近の明るくなって来た彼女も知っている。だからこそ。
「え、ミュシャちゃん、この世界から出られないの?」
友人の状況を知った真琴は顔を曇らせた。
「ええ、でも、大丈夫です。この世界では普通に生活もできますし」
イルミナートとの因縁を話したミュシャだったが、真琴の様子を見て慌てて笑顔を浮かべた。
────……そう……そんな事あったのね……。
そっと胸を痛める真琴に、共鳴した彼女の英雄である奈良 ハル(aa0573hero001)がぼそりと呟いた。
『お主その頃何しとったんじゃ?』
────……おおぅ……普通に月見してた気がする……。
『薄情なやつじゃのぅ』
容赦の無いハルの言葉の矢に、ジャックポットは見えない矢傷を負った。
「と、ところでドラゴン退治って昔を思い出すよね!」
ハルのツッコミはミュシャには聞こえないのだが、居心地の悪さを感じた真琴は慌てて話題を変える。
『あの時は……確か龍哉殿もいたかの』
ハルが懐かしそうに、自分たちの前を歩く龍哉を見た。
まだミュシャと知り合って間もない頃、アンゼルムとの戦いで召還された大量のドラゴン型従魔が現れた時のことだった。共鳴前のミュシャがその従魔に倒されて危機に陥ったことがあった。それを救ったエージェントの中に真琴と龍哉が居て────それ以後、ミュシャの態度が如実に変わった気がした。」
「そうですね。真琴さんや龍哉さんたちに助けられて……皆さんを危ない目にも合わせました。あたし、あの頃までは自分たちだけの力で戦って行こうって思っていたんです。でも、それは傲慢で愚かなことだったんだって────」
話が聞こえたのだろう。龍哉も振り返ると、言葉を詰まらせるミュシャに笑いかけた。
「まあ、これからも共に戦っていこうぜ。それには、まずはこの世界から出ないとな」
そして、表情を引き締めると、ミュシャに釘を刺した。
「だから、例のエセ勇者が出てきても、いきなり飛び出すなよ?」
「えっ、あ……は、はい! 気を付けます」
図星だったのだろう。ミュシャは顔を赤らめて下を向いた。それでも、頑張って顔を上げる。
「あの、あたし、思い出したことがあるんです」
ミュシャが思い出したのはイルミナート戦のことだった。
「この世界は僕が救った。つまりこの勇者イルミナートのものだ」
「ふざけるな。『勇者』だと!?」
激昂したミュシャの攻撃がイルミナートの《運命の輪》によって歪められる。形勢逆転、イルミナートはミュシャの眉間に剣を突き付けた。満足げに『勇者』がなんなのか語り始めるイルミナート。ミュシャは目を閉じ、できるだけ身体を落とすとイルミナートへ足払いをかけた。剣先がミュシャの眉間を浅く裂く。バランスを崩しかけたイルミナートだったが、すぐに体勢を整え、今度は容赦なくミュシャの肩口を剣で貫いた。
呻くミュシャに、黙って控えていたディアレットの魔法が襲い掛かる。
負傷した状態での一対二の戦いはすぐに決着が着いた。
倒れたミュシャにイルミナートはガントレットに仕込まれた小さな矢を放った────。
「……その時、あたしの脳裏にあの校舎のドラゴン型従魔に襲われた記憶が過って、それから完全に意識を失いました。そして、次に気が付いた時は『ドラゴンの牙』の塔で龍哉さんたちに助けられていたのです。エルナーも私が意識を取り戻してから記憶を取り戻したと言っています」
「そして、あのドラゴン型従魔によく似たドラゴンが闊歩し始めたというわけか」
頷くミュシャに、龍哉は少し考え込んだ。イルミナートがたくさんのおかしなアイテムを持っているらしいことはわかっている……もしかすると。
「……ミュシャちゃん」
真琴が、ミュシャの無鉄砲な行動に少し怒って何か言おうとした時だった。
「おー、タツヤ、ドラゴンがたくさんだ」
ハーメルたちと共に先行していたシャドウルーカーのギシャ(aa3141)が龍哉に向かって呑気に声を上げた。
慌てて一行は得物を構える。
洞窟の先に広間があり、そこにはうろうろと様々な形のドラゴンたちが闊歩していた。
「……どらごんの友達?」
ギシャの声に、龍神を名乗る彼女の英雄、どらごん(aa3141hero001)が抗議の声を上げる。
『ふんっ。あのような駄竜と俺を一緒にするな。真の龍は…………』
「とりあえずステーキかなー。あとはじっくり煮込んだテールスープやしゃぶしゃぶもいいかなー」
『――なによりも男としての内に秘めた魅力――』
どらごんの『真の竜(=どらごん)』トークはギシャの耳を右から左へと流れた。それは、まるでリビングで父親の昔話をまるっと聞き流す娘の如く────とにかく、彼女は楽しそうに荷物を確認した。
「お土産用にタッパーよーし。さーて、がんばろっと」
一方、海神はすべて黒色のドラゴンに思わず呟いた。
「黒い龍か、黒い鱗……?」
すると、待ってましたとばかりに共鳴した禮が叫んだ。
『この藍色の槍こそが真の”黒鱗”と知るが良い! ……なんて、どうでしょう?』
禮が銘打った彼らの武器、”黒鱗”。名の通り黒い鱗のような柄を持った槍である。お魚もドラゴンも突ける優れモノだ。
「真の黒鱗は禮じゃないのか?」
美しい黒鱗の人魚だったというこの英雄にそう尋ね、そして、海神はそのまま彼女の答えを待たずに”黒鱗”を手に飛び出した。
「まあ、黒い鱗は禮と、この”黒鱗”だけで十分だ」
そんな海神たちよりも早く、ドラゴンたちの前に立ったのは共鳴した由利菜だ。
ドラゴンたちは由利菜たちの最初の一撃を受けると、すぐに侵入者に気付いた。
────グゥオォオオオ!
何体かが巨体を揺らして吠えれば、またぞろぞろと大小さまざまなドラゴンたちが現れる。
「愚神の業を薙ぎ払え……!」
”シュヴェルトライテ”を手に、由利菜は大量のドラゴンたちに対して《一閃》を放つ。リンクレートの下がる技ではあるが、そのぶん、集団で居る敵には効果的だ。元々鋭い彼女の剣先が更に研ぎ澄まされ、力を帯びて敵を一気に刈り取っていく。
「……既に本部の霊石回収ノルマは達成されていますが……」
リーヴスラシル(aa0873hero001)は倒した敵の尻尾を回収しながら、共鳴した英雄へと問いかけた。
『知っている。だが尻尾を集めること自体に問題はない。それに、イルミナートの金品への執着心を利用できるかもしれないしな』
また、高品質の霊石(ライヴスストーン)はたくさんあって困るものではない。あれば、それだけ役に立つはずだ。
「さて、邪魔をするなら容赦はしねぇぜ」
『そもそも見逃すことにも意義はなさそうですけれど』
「百害あって一利なしとはよく言ったもんだ」
龍哉とヴァルトラウテが軽口を叩き合いながら、”烈華”を振う。大剣から生み出された斬撃が空を飛ぶ小さなドラゴンたちを一気に吹き飛ばす。
「尻尾の回収は帰りだ!」
────グアアアワアア!
生臭い息を吐きながらバクバク口を動かし歯を鳴らす巨大なドラゴンの一匹、そのギザギザとした歯の間から赤いものがちろちろと蠢いた。
「炎だよー!」
ギシャの声。一行が慌てて伏せるとその頭上を赤い炎で焼いた。
「火口からドラゴンが出てくるんだったら。ドラゴンが出てくる方角が火口への道に繋がってるってことじゃないか? ……なんて」
そう言ったのは谷崎だ。その言葉にギシャが元気よく手を上げる。
「とりあえずまずはダンジョン攻略ー、ちゃっちゃといこうー。
敵が増え続ける状況でもたもた対応してても、ジリ貧になるだけだからムダムダー」
いつの間にかその場を離れていた谷崎がより多くのドラゴンたちが侵入してくる道を見つけたようで、ドラゴンの巨体を避けながら、手招く。
「こっちです!」
素早く斥候として谷崎の後を追って安全を確かめたハーメルが、仲間を呼ぶ。続いて、ギシャ、武之が《罠師》を使い安全な順路を探った。
「…………俺、仕事し過ぎだよね? 誰か養ってくれないかな」
大量のドラゴンから身を隠せる小道を見つけ、全員を誘導した武之がこぼしたが、それどころではなかったので無事スルーされた。
「大丈夫か?」
豪は怪我をした者たちの様子を見て回る。深い傷を負った者には自らの回復効果のある《チョコレート》を分け与えよう用意したのだ。ドラゴンの炎のブレスで少し煤だらけになりながら、一行は甘い回復薬を食べた。
「念のために残しておくか」
彼らのパーティには回復スキルを持つバトルメディックが一人も居ない。回復はアイテムだけである。使用は慎重にした方が良いだろうと互いに頷き合った。
「この道はドラゴンたちが通る道と平行しているので、このまま進めそうですね」
冒険者ギルドで手に入れた地図を見ながらミュシャが言う。
谷崎は大量のドラゴンたちが来る道と今居る道を見比べながら少し考える。
「発生源はやっぱり火口、なんだろうな」
「問題は、位置が変わる落とし穴と無限ループ……ですね」
谷崎の隣で地図を覗き込んだハーメルが眉を顰めた。
────そう言えば、気のせいか?
谷崎が周りを見回す。同じ場所に来たような気がする。
「……先ほどから似た景色が続き過ぎる」
『そこの岩、さっきも見たぜ! これは無限ループってやつか!?」
谷崎と同じことを思ったようで豪もぽつりと呟く。すると、ガイもすぐ側の花崗岩の模様を指摘する。
「もしかして、ここって通った道……か?」
焦りを含ませた谷崎に、『にゃー……』と呆れたようなセリーの声が聞こえた。
「え、四回目?」
セリーの指摘に焦る谷崎と、その呟きに混乱するエージェントたち。
「まさか、無限回廊……?」
『ルートを変えるぞ。同じ道を選んでいたら、永遠に火口へは辿り着けない』
不安そうに周りを見る由利菜へ、リーヴスラシルが凛と指示する。
「ナイフを刺して目印にしましょう」
「削るだけでも効果がありそうです」
ミュシャの言葉に由利菜は取り出したナイフを滑らせて岩の表面に×印に抉る。
そのまま一行の誰かが目印を掘り、先へと進むことにしたが……。
『元の場所に戻ってますよ、これ!』
禮が由利菜が削った×印を見つけ、海神に伝える。
「正しい道順が必要かな……? 何かNPCかメッセージは……」
「え、えっと、あたしでしょうか」
困り顔の海神に『NPC』と言われて、現在NPC状態のミュシャが困ったように自分を指さす。
そんなミュシャの隣で真琴が「え、同じとこなの!?」と目を丸くするが、その後ろには真琴が彫ったキャンディマークがあり、『いや、気づけよ』とハルが呆れた声を出した。
すると、低い笑い声が響いた。GーYAの中で。
『にく、ニク、肉! うふふふふふふ』
「ま、まほらま!?」
突然、声を上げたGーYAを一行が見ると、GーYAはふらふらと壁を叩き始めた。
「どうしたんですか……?」
驚いて尋ねる由利菜にGーYAが戸惑いながら答える。
「まほらまが、罠なら壁に出口があるんじゃないかって……」
早くドラゴンの尻尾を食べたいまほらまの苦肉の策ならぬ案。
「罠。そっか、これも罠だよねー」
ギシャが《罠師》を使って壁を調べる────。
「出られた!?」
壁の一部にギシャの上半身が吸い込まれるように消えるのを見て、GーYAが目を丸くする。
「なるほど、罠の一種にカウントされるんだな」
龍哉が頷くと、GーYAはまほらまへ語り掛けた。
「ありがとう、後で皆としっぽ肉パーティーしような!」
だが。
「うわっ!?」
壁を抜けた、谷崎の姿が一瞬にして消えた。
「た、谷崎さん!?」
焦って飛び出したミュシャを、《罠》に気付いた武之が止める。
「待って」
岩の削れる激しい音。風を切る鋭い音。
「うっそだろ!?」
そして、足元から声────全長二メートルを越える大鎌を壁に刺してぶら下がった谷崎が焦った顔で半ば落ちかけた穴を眺めていた。その服の襟元には真琴が放った矢が壁にしっかりと刺さり、彼を縫いとめていた。
「大丈夫ですか!?」
ハーメルが《女郎蜘蛛》を放ち谷崎を絡めとる。谷崎は真琴の矢を引き抜くと、ハーメルの放ったライヴスのネットにしがみ付く。全員でそれを引き上げた。
「お約束だね。……下の階層まで落ちるのか?」
覗きこんだ海神の目には真っ黒な深い闇しか映らなかった。
────こういう場合、五階から一階に落ちる穴もあるよな……お約束として。
『……この高さだとリンカーじゃなかったら即死かもしれないです』
禮が震える。
「間一髪……」
大きく息を吐いた真琴に、ハルが思わず言葉を漏らした。
『……刺さる場所間違ってたら、危なかったのぅ……』
真琴の顔が強張る。
「そんなヘマはしないよぅ……」
たぶん、小声で付け足したその言葉は、もちろん共鳴した英雄にはしっかり聞こえていた。
『真琴……』
「まったく、こんな罠まで再現しなくても……!」
由利菜がシャドウルーカ―たちが《罠師》で見つけた落とし穴を避ける。
流石リンカーだ。罠の場所さえわかれば、全員が落ちることなく進んで行った。
そんな中、G-YAは慎重に足場を探して進んでいた。
「────今、落ちたらカッコ悪いよな」
『ほら、遅れてるわよぉ』
まほらまが急かす。カツン、と小石が穴に落ちて、G-YAの心臓が跳ね上がった。
●火口
「シャドウルーカ―さんたちのお陰で、ドラゴンにもそんなに合わずに出ることが出来ましたね」
洞窟の終わりを示す青空。それ覗く出口を前にしてミュシャがほっと息を吐く。
「だが、ここからが本番だ」
そう言いながら龍哉が外を覗き、口を閉ざした。
「どうしたんだ?」
殿を務めていた豪が訝し気に龍哉を見る。
「────イルミナートだ」
火口からは次々にドラゴンが現れては、洞窟へ続く入口へと向かって、まるで導かれるようにぞろぞろと歩いていた。
そして、一際大きな岩の上でそれを眺めるイルミナートとディアレット。腕を組むイルミナートは何かを考え込んでいるようだった。
ぎり、と唇を噛んだミュシャの肩を海神が掴んだ。
「情報不足だ、気に入らないが、やるのはまた今度だね」
龍哉の後ろから外の状況を覗き込んだ豪と共鳴したガイは息を飲む。
『あれは……ミュシャの人形じゃねーか!?』
「あそこからドラゴンが現れているというのか!」
大量のドラゴンが現れる火口近くに一組の縫いぐるみ人形が落ちていた。ドラゴンたちはその一メートルほど先から生まれているのだった。
「あれが原因っぽい?」
武之の言葉にルゥルゥが叫ぶ。
『変な矢がささってるんだよ!』
「ミュシャさんの実体が奪われている事、ドラゴンの造型にミュシャさんの見覚えがあるものである事、矢を放たれた記憶────あの人形がミュシャさんの実体と関係があるんじゃないでしょうか」
ハーメルの言葉にミュシャは小さく息を飲んだ。
「いいか?」
龍哉が尋ねると、全員が頷いた。
「──── 一、……二、……三!」
真琴のカウント合わせて、全員が次々に外へと飛び出した。
「頼むぞ! 俺が道を拓く!
────唸れ、爆炎竜咆ドラゴンハウル!」
豪が叫び、多連装ロケット砲はその場のどのドラゴンより激しい雄叫びを上げ激しい炎を吐き散らした。即座に黒い岩と灰が広がるその場に赤い炎が広がる。
「なんだ、お前らは!」
イルミナートが叫ぶ。
「俺は邪竜を屠る赤色巨星! 爆炎竜装ゴーガイン!
偽りの勇者イルミナートよ、これ以上お前の好きにはさせん! ミュシャは返してもらうぞ!」
豪の名乗りと共に、ドラゴンたちを巻き込んで燃えていた炎が爆炎をあげる。
同時に、龍哉の九陽神弓からイルミナートを狙った一撃が放たれた。
「くっ、《愚かな鏃は風と共に岩を射貫く》!」
慌てたように手を前に出したイルミナートの言葉通りに、矢が大きく反れて岩を射貫く。
「一回、使ったな!」
にやりと龍哉が不敵に笑う。
『ヴァルハラへ迎えるに能わぬ魂の持ち主を、勇者などを認めるつもりはありませんわ』
「ま、自分から勇者なんぞと名乗る胡散臭い輩じゃあな」
再び”烈華”に持ち替えた龍哉もイルミナート目指して駆け出した。
「ミュシャちゃん、無理しないでね!!」
弓を構えた真琴にミュシャが頷く。
「真琴さん、後方支援頼りにしてます!」
「飛んでるのは任せて! 急々如律令……白羅の舞!!」
ハーメル、ギシャ、武之が火口の人形へと走り、谷崎はドラゴンたちへ向かって《女郎蜘蛛》を放ち、仲間を助けた。
イルミナートの前に姫騎士が立つ。
「剣を取りなさい。戦士……いいえ、<ガーディアン>イルミナート!」
『愚神の手の者よ、こちら側の情報網を甘く見るな……!』
由利菜の言葉に、イルミナートは大きく顔を歪めた。
「なん……だと……?」
由利菜は”シュヴェルトライテ”を構え続ける。
「……もし、あなたが自分の主────ガネスやレイリィから『集めた金品や霊石を渡せ』と言われたら従うのですか?」
『愚神の目的は最終的にライヴス吸収による自己強化へと帰結する。貴様やあのトリブヌス級の双子も例外だとは思えんな』
そして、由利菜の《ライヴスリッパー》がイルミナートに叩き込まれる。顔色を変えたイルミナートが指先を由利菜に向けて叫ぶ。
「《勇者を愚弄する蛮族の戦士、その剣は正義には届かぬ》!」
由利菜の剣の軌道が不自然に曲がり、地面を抉る。
「……その力、個人にしか使えないのですか」
冷静な眼差しで自分を見つめる姫騎士に、イルミナートの顔が怒りで赤く染まった。
その時。
「お前だけがアイテム使えるわけじゃないんだぜ!」
一緒に駆け寄ったG-YAが《イカサマダイス》を取り出して振る真似をした。
出目が決められるそのダイスは、このゲームの世界ならば有効かと思われたが……。
「いかさまなど!」
イルミナートの剣がダイスごとG-YAの身体を切り裂いた。岩場から転がり落ちるG-YA。
代わりに駆けのぼった谷崎がイルミナートへと攻撃を繰り出す。
そして、ディアレットがG-YA目指して剣を掲げて駆け寄る。
「あの変な矢を折るか抜くかすればいいんじゃないかな」
最短距離を走る武之。目の前に現れたドラゴンに怯ませる程度に攻撃した武之の、その上をギシャが軽々と飛び越えた。全力で走るギシャの前に現れる別のドラゴンをハーメルの投剣の雨が足止めをする。
「よーし、取ったよー!」
縫いぐるみを掴み取ったギシャは矢を叩き折ると、それを武之へと投げる。
その瞬間、目の前でうぞうぞと現れかけていたドラゴンたちがふっと消えた。
「わっ!」
何もなくなった地面にくるりと着地すると、片足を軸にして素早く振り返るギシャ。近場のドラゴンは消えていたが、まだ消えていないドラゴンも居る────そして。
「はい、ミュシャちゃん」
武之が放り投げた人形が再び宙を舞い、ミュシャの元へ。彼女がそれを掴み取った瞬間、強い風がミュシャを中心に吹き荒れた。
「っ!」
風がおさまると、ミュシャは閉じた目を開け、剣をひらりと動かした。
「ありがとうございます! ────イルミナート、今度は負けません!」
矢を折った上に実体を取り戻したミュシャへ、イルミナートが大きく舌打ちをした。
「くっ!」
痛みを堪えながら、G-YAはまほらまに尋ねる。目の前にはディアレット。
────この人も囚われている可能性があるのかな?
『そうねぇ……勇者には聖女がつきもの……アイテムの一つくらいの思い入れかしらぁ』
まほらまの言葉に、G-YAは目の前のエルフの戦士をしっかりと見つめた。
「なんであんな奴にくっついてるのさ!」
「勇者で────敬愛し、仕えているからです!」
「────なら」
剣を叩き込まれふらつきながら、G-YAはネビロスの操糸でディアレットを狙う。肉を裂く金属の糸はディアレットに絡みついた。
そして、ディアレットが口を開くより早く、G-YAは叫んだ。
「お前の仲間は捕らえた! どうする、イルミナート!」
ネビロスの操糸は敵に絡みつくが武器である。捕らえるための道具ではない。しかし、それはイルミナートにはわからないはずだった。
「そうか」
一瞬、考えたイルミナートは、つまらなそうに呟いた。
「もうアイテムも無いことだし、ここへ居る意味は無いな」
同時に、《旅の扉》のアイテムの効果によってイルミナートの姿が消える。
目を見開いたディアレットがその場に崩れ落ちた────。
そして、谷崎がイルミナートの消えた空間を黙って見上げていた。
────谷崎の放った《デスマーク》はイルミナートをしっかりと追跡していた。
●しっぽ肉パーティ
「奴は逃がしたか……!」
「退き時を見誤らないのだけは一流かもな」
龍哉の言葉に、豪は悔しそうにイルミナートの消えた空間を睨みつけた。
『まだドラゴンが残ってるぜ! 全部倒さねーと!』
ガイの言葉に豪がハッとする。そうだ、霊石をゲットせねば。
「うむ、持ち帰るしかあるまい。しかし、幻想蝶に収容しきるだろうか?」
『ダストスポット、使えるんじゃねーかな。入れてみようぜ!』
「ギシャもどらごんも、相手がドラゴンであるなら自分のプライド的に負けないよー」
一行は詰めに詰めたドラゴンの尻尾を持って冒険者ギルドまで帰った。
それは霊石のため、そして。
「そうだよな。ドラゴンのしっぽを食べるまでが依頼だよな!」
セリーの言葉に谷崎が力強く頷く。
そう、ギルドマスターの下でもう一度。
「どれがおいしそうかしらぁ~」
「食欲魔王降臨ッ!?」
ワクワクと尻尾の並んだ皿を厳しくチェックするまほらま。
────黒い鱗の竜、食べるんですね……。
禮と海神は目を点にしてそれを見守っている。
「騒動が収まれば尻尾の買取は終わるかもしれない、燻製などにして味を変えていかないと在庫が余るな」
気を取り直してそう言った海神の言葉にギルドマスターがイケメンボイスで答えた。
「燻製、あるよ」
「あるんだ……」
「鰐の肉を食べたことはあるが、それとはまた違う味だな……確かにこれはクセになる味だ」
豪がそう言う横でギシャとどらごんも肉を喰らう。
「紛い物は本物の竜に食われるサダメなのだー」
どらごんがそう言って元気に肉を食べている様を見て、ミュシャがなぜかほっと胸を撫でおろしていた。
「さあ食べるわよぉ!にく、ニク、肉~、どんどん持ってきてぇ」
まほらまの横で、部隊服姿の真琴は神妙な顔でしっぽ肉を見つめた。
「……あんまり美味しそうに見えないよね?」
「得てして珍味とはそういうものじゃのぅ……酒には合いそうじゃな」
そう言って、ハルは無造作に肉を噛んだ。
「甘くなさそう……ボクはいいかなぁ」
「うむ、この食感もいいが噛めば噛むほど味がでる……ツマミだな」
存外、気に入った様子のハルを見ながら、由利菜が硬い表情で肉を見る。
「……珍味、なんでしょうか?」
「私には劇物に見えるが……。食すのは止めておいた方がいい」
警戒したリーヴスラシルは由利菜とワインとチーズを楽しんだ。
実はもう食べたことのあるミュシャはその横で改めて食べるべきかエルナーに視線で訴えた。
……その肩を、ぽん、と龍哉が叩く。見上げると、彼はにっこり笑った。
「ともあれ現実世界へお帰り、だな。二人とも」
「おかえりなさい、ミュシャさんエルナーさん」
G-YAが続き、ミュシャは目を潤ませた。
「────ただいま!」