本部

ハワイから来た少女

山鸚 大福

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/30 20:26

掲示板

オープニング

 ーーH.O.P.E.ハワイ支部・転移装置ーー


『またね、イリマ!』
 鮮やかな赤色をしたハイビスカスの花飾り、それを頭の右側につけた褐色肌の小さな少女が、元気な別れの挨拶をした。
 小指と親指を立て、手の平側を相手に向ける……ハングルーズと呼ばれる愛情表現。
 その少女に対して、中年の女性……サングラスとアロハシャツが特徴的な小太りの女性が、ハングルーズと笑顔を返す。
『自信を持って行ってきな、マナ』
『うん!』
 明るく頷いた少女……マナが、笑顔を浮かべて転移装置から消えていくのを見送ると、イリマと呼ばれていた女性は、マナのいた空間を、少し寂しげに見つめてから……その場を離れた。


 これは、ハワイから来た一人の少女と、エージェント達の物語。 


 ~I ku ka makemake e hele mai,
hele no me ka malo‘elo‘e. ~


『ハワイから来た少女~常夏の島のマナ』 


 ~H.O.P.E.東京海上支部・ブリーフィングルーム~


 ピシリとした職員の女性が、褐色肌の少女を連れてそこに立っていた。
「今回」
「コンニチハ! マナ、イイマス! 14、ナリマシタ!」
 職員の女性が口を開くのとほぼ同時に、褐色肌の少女がつたない日本語で自己紹介をした。
 それから思い出したように勢いよく、エージェント達に向かいお辞儀をする。
 会話を遮られるような形になった職員が僅かに眉をあげたが、コホンと咳払いをしてから気にせず口を開く。
「今回の依頼の説明を行います」
 そうして職員は、褐色肌の少女をちらりと見てから説明を再開した。
「彼女はH.O.P.E.ハワイ支部に登録されているゾーンブレイカーなのですが、ゾーンブレイカーとしての技術向上と修練の為、この東京海上支部で預かることになりました」
 職員の言葉を聞きながら、少女は興味深そうにあなた方を見ている。
「ゾーンブレイカーはエージェントと共同で依頼を進めることが多いので、エージェントへの理解と信頼を深める事も大切になります」
 職員の話にも耳を傾けながらも、少女の興味は個性的なエージェント達に移っているようだった。
「ですので彼女には、一週間の間、エージェントの方々と共同生活を行っていただくことになりました」
 そんな少女の横で淡々と話を進める職員が、締め括りとばかりに言葉を続けた。
「あなた方には、一週間彼女と生活を共にし、親睦を深めていただきたいのです。 詳細はデータとして送っておきますので、後でご覧になられてください」
 そうして職員の説明が終わり……彼女とエージェント達との、共同生活が始まることになったのだ。


解説

【目的】
 みんなで一週間の共同生活を行い、親睦を深める
 
【費用】
 日本円で50万まではHOPEが負担するが、それ以上使ったら自費。(アイテムや日用品、生活必需品等の持参は自由)
 どこに連れていくのも自由だが、外泊は禁止。
 また、ここで購入したものは依頼終了後HOPEに回収される。

【共同生活の場】
 少し大きい二階建ての住宅。
 一階にはダイニングキッチンや風呂場等があり、二階には三つ部屋がある。
 お風呂は一度に三人が限界。
 部屋の使い方は自由だが、マナの寝泊まりする部屋と男性が寝泊まりする部屋は分けるように言われている。
 家電や家具、寝具は一通り揃えられている。

【マナについて】         

 マナ・カハナモク

 ハワイ支部所属、14才のゾーンブレイカーの少女。 髪の右側にはハイビスカスの髪飾りがついている。
 とても明るく素直で、年長者の言うこともよく聞く。
 ゾーンブレイカーとしての実戦経験はない。
 日本語は苦手なので勉強をしているが、英語とハワイ語は得意。
 よくも悪くもハワイ育ちで、おおらかだが大雑把、時間にもルーズ。
 料理はとてもフルーティー、なんでも果物をいれたがるチャレンジャー。


【PL情報】

 マナはNPCなので、共同生活中は行動の中心にはなりません(活動的な姿は描写されます)。
 ただ質問等を行えば喜んで答えますし、行動への反応もよくします。
 また、楽しませたい時や音楽を楽しんでる時はフラダンスを披露してくれます。
フラダンス備考:可愛い
 

 あと、内容にはあまり関わりませんが、これは実は、マナに協調性があるかどうかを計るための共同生活であり、ある種の能力テストのようなものです。
 それがエージェント達に伝えられてないのは、伝えていると不自然に関わる人間が出て、自然な形で接することが難しくなる他、マナにテストであることが伝わる可能性が出てくる為です。

リプレイ

●プロローグ


 広々としたリビング。
 大きめのテーブルやソファやテレビもあるそこに一同は集っていた。
「私は大宮朝霞。こっちは私の英雄のニクノイーサよ。よろしくね、マナちゃん」
「よろしくたのむ」
 大宮 朝霞(aa0476)と英雄のニック……ニクノイーサ(aa0476hero001)から順番に、自己紹介が続いていく。
 ……そんな中、真壁 久朗(aa0032)は、自分の英雄の事を考えていた。
 アトリア(aa0032hero002)……新しく加わった二人目の英雄。
 彼女と久郎との関係は、未だにぎこちない。
 原因を模索をしているものの、上手くいっていない。
 今回の依頼が何かのきっかけになるといいのだが……。


 一週間。
 人の関係が変わるには、長くも短くもある、そんな時間。
 その時間が与えられた共同生活が、その日から始まった。


●雑談徒然


「ハワイから来たんでしょ?あっつかった?」
「アッツイ、ナイ、アッタカイ!」
「あつくないんだ!? じゃあじゃあ」
 自己紹介が終わると、マナの元に梵 すもも(aa4430)が駆け寄り、瞳を輝かせて質問を始めた。
 すももに仕える英雄であるリデル・ホワイトシェード(aa4430hero001)は知っているが、すももはこの一週間のお泊まり会をとても楽しみにしていたのだ。
 彼もハワイのことに興味があるのか、すももの横でニコニコと話しを聞いている。
「あ、お花かわいいね!あろは~って踊りできるの?」
「アロハ、オドリ……フラ!」
「フラ……それってフラダンスだよね!」
「フラッ、デキルヨ!」
「すごーい! あ、ねぇ、じゃあお姫さまはいる!?」
 すももがはしゃぎ、マナが嬉しそうに受け答えをする。
 なかなか心が和む少女達の姿……のはずだが。
 シンシア リリエンソール(aa1704hero001) は、そんな少女達の姿を見て、ソファーで寛いでいる相棒……風深 櫻子(aa1704)に不機嫌な視線をぶつけた。
「……おい、なんだこれは」
「ロリです」
「見ればわかるわ、馬鹿者!!」
 マナ達に聞こえないよう小さく、しかし櫻子にははっきりと聞こえるように、シンシアは憤慨する。
 泊まり込みで外国人を教育する依頼を受けたと聞いて、殊勝なものだと感心したが、依頼の蓋をあけてみればこれだ。
(サクラが社会奉仕に目覚めたと思った私が馬鹿だったか)
 いつものようにそんなことを思いながら、ふとシンシアは、あることに気付いた。
「しかし」
「しかし?」
「言語は通じるのか?」
 櫻子は英語はさほど得意ではない、それを懸念してのことだろうが……。
「平気よ、ジェスチャーあるし」
「全く、なんだその適当さは」
 ソファーにもたれ気楽に答える、いつも通りの櫻子の姿に……シンシアは呆れもまじえつつ、いつものようにその時間を過ごした。


「真壁さん、今回はよろしくお願いしますね」
「ああ」
 朝霞は久郎に挨拶をし、次にその英雄に顔を向けた。
「私、大宮朝霞といいます。アトリアさんもよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします……オオミヤ」
「皆で共同生活なんて、ワクワクしますよね!」
「ワクワク……?」
 そうして会話を始めた二人の隣で……久朗は視線を感じた。
 東海林聖(aa0203)の英雄、Le..(aa0203hero001)。
 見れば彼女が手招きをしている。
 近付くと、ルゥが口を開いた。
「真壁……仲良くしてる?」
「……アトリアとか?」
 そう聞くと首を横にふる。
「……もう一人」
 もう一人、それが差し示す人物は、久郎には馴染み深い人物だ。
「仲良くはしてるな……」
「……ん、安心。……真壁」
「なんだ?」
「アトリアとも……上手くいくよ」
 それは気遣いか……あるいは彼女の経験からの勘か。
「じゃあ……また」
 その真意を隠したまま、ルゥはその場を離れた。


「ゾーンブレイカーってのは稀少なのか?」
 マナとすももの会話が終わってから、波月 ラルフ(aa4220)はマナに質問をしていた。
「キショー?」
「あー……珍しいのか?」
「メズラシー、ドウデショー、ワカラナイ!」
「わからないか」
 マナは実戦経験もないらしい……なら、あまりゾーンブレイカーの事情にも詳しくないのかもしれない。
「質問かえるか……マナ、ハワイ支部ってのは特別な支部なのか?」
 それにマナは少し考えてから、答える。
「トクベツ! チカイ、ウミ、オオキイ、ドロップゾーン、アル! ハワイ、タタカウ、シナキャイケナイ!」
 近くの海に巨大なドロップゾーンがあるから、ハワイ支部は闘わないといけない、と言いたいのだろうか?
 前線基地のようなものと考えるべきか……。
「ダカラ、ワタシ、ベンキョーシマス、ニホンデ、ベンキョー、スゴクナリマス。ハワイ、タイセツ!ダカラ、ガンバル!」
 拙い日本語で語るマナの瞳はまっすぐで……。
「そうか、頑張れよ」
 故郷の為に努力をする少女の髪を、ラルフは優しく撫でた。


●がんばれウラワンダー!


 その日は、朝霞の持っていたDVDが話題になっていた。
 普通の女子中学生が変身し、魔法の国のプリンセスとして闘うアニメDVD……すももがそれに、とてつもなく興味を持ったのだ。
「姫様は、お姫様が大好きですから」
 とはすももの英雄、リデルの談。
 今はリビングに全員を呼んで、アニメ鑑賞会をしてる。
 そんな最中、テンションが上がった朝霞は、ニックを呼んで全員の前で立ち上がった。
「マナちゃん!日本のヒーローは、決め台詞、決めポーズを用意する伝統があるんだよ!」
「デントー?」
「おい、朝霞。あまり変な事を吹き込むな」
「変じゃないわよ!参考までに私達の変身ポーズをやるから、よくみててね!」
「お姉ちゃんへんしんするの!?」
 目を輝かせるすもも、アトリアも興味があるのか、無言で見ている。
「ニック、変身よ!」
「はぁ、仕方ないな」
 ニックがやれやれと言った風に、朝霞の近く……視線が集中するテレビの前に移動した。
 二人がびしゅっとポーズを決める。
「へん!」
「しん!」
 眩い霊力の輝き、現れるのは可憐な一人の闘士の姿!
「ミラクル☆トランスフォーム!!」
 その闘士こそ、聖霊紫帝闘士ウラワンダー!
「どうよ、マナちゃん!」
 ……僅か、静寂。
 すぐ、少女達の拍手と歓声がおきる。
「スゴイ、アサカ!」
「すごーい!お姫さまにもへんしんして!」
 マナとすももがキラキラした眼で駆け寄ってきたが……お姫様?
「え?」
「あたしお姫さまがみたい!」
「オヒメサマ!」
「ええ? ま、待って、ウラワンダーは?」
「お姫さまのほうがいい!」
 ピシッ。
 朝霞の精神に罅がはいる。
「お姫さまのほうが素敵だもん!」
 ある意味愚神の攻撃より強力な一言は、ガラガラと朝霞の精神を打ち崩した。


 その日からしばらく、ニックは朝霞の猛特訓に付き合わされることになるが、それはまた、別の話。


●マナのハワイ講座


「あ!お姫さまシールのお菓子!買っていい?」
「オヒメサマ!」
 ラルフとすもも、リデル、マナ、それに朝霞とニック、ルゥの七人は、夕食の買い出しに来ていた。
 今いるのはお菓子売り場、マナとすももにお菓子を買うためだ。
 ただし、買えるお菓子は一日一つ、マナがどれくらい約束を守れるかの確認の意味を込めてラルフが提案したものだ。
 すもももお姫様の修行と言われたからか、マナと一緒に我慢の毎日を送っている。
「今日はそれか、あとで泣いたりするなよ?」
 買いたいお菓子を持ってきた二人にラルフが言うと、二人とも頷く。
 どちらも、約束を破る気配はない。
 そうしてお菓子売り場を出ると、名残り惜しさを消すためか、すももがマナに話しかけた。
「マナお姉ちゃん、折角ならフラダンス教えてほしいなぁ」
「ハイ! オシエル、スモモ、トモダチ!」
「やったーお友だち! あたしもお姫さまの歌と踊り教えてあげるね!」
 そんな賑やかな少女達の会話が終わると、ラルフはマナに話しをふる。
 ラルフはマナとのコミュニケーションを兼ねてハワイ語の練習をしており、分からない単語も聞いているのだ。
「友達ってのは、ハワイ語だとなんて言うんだ?」
「トモダチ……Hoaloha!」
「ほあろは?」
 ほえ、とすももが聞くと、マナが頷き、すももの手をぎゅっと握る。
「スモモ、Hoaloha! オトモダチ、ダイスキ!」
 マナの言葉をきいて、すももの顔にぱぁっと笑顔が広がった。


「ほあろはほあろは~♪」
「Hoaloha~♪」
「よかったですね、姫様」
「うん!」
 帰り道、リデルとすももとマナが、仲良く手を繋いで歩いていく。
 周りが見守る中、明るい二人の少女の話し声が、途切れることはなかった。


●ある日のカレー作り


「その大量の果物をどうするつもりだ?」
 両手に大量の果物を持ったマナとすもも、アトリアがキッチンにやってきた。
 アトリア以外の二人の顔はとてもにこにこしている。
 唖然としてるシンシアに、小娘達が口を開いた。
「イレル!」
「おいしくなるよ!」
「美味しくなると聞いたので……」
「お、なになにみんな来て、楽しそうじゃない」
 と、カレー作りを始めかけていた櫻子まで寄ってきた。
「いや、これを見ろサクラ」
「すっごい量ね……。でもいいか、それなら一緒に作らない? お姉ちゃん達のやり方とかみながら」
 その言葉に……。
「ハイ!」
「やる!」
 間髪いれず、元気な声が響いた。


「ほれシンシア、手伝え手伝え」
「まったく、なんで私がこんな……。
料理は下男の類の仕事だろう……。 ……」
(シンシアさん、昨日も同じことを言ってたような)
 そんなことを思うのは、マナに包丁の使い方を教える朝霞だ。
 手伝いたくて顔を出した彼女は、丁寧にマナに料理を教えていく。
「マナちゃん、一緒に野菜を切ろう。ニックはお米を炊いておいて!」
「了解した」
「あたしもやる!」
 元気よくすももが立候補し……。
「マナちゃん包丁つかえる?皮むき器もあるよ?」
「ハイ! ツカエル!」
 マナと朝霞が和気あいあいと料理をする、そんな賑やかさの横……。
 アトリアはリンゴのすりおろしに苦戦していた。
 リンゴを擦ろうとすると、ぐしゃっと握り潰してしまうのだ。
 掃除の時もそういった失敗の多いアトリアとしては、頑張りたいが……。
「握り潰したのではダメなのですか?」
「ダメだ」
 ぴしゃりとシンシアが言うと、アトリアの手に、シンシアの手が添えられた。
「いいか、まずは力を抜いて、私の手に合わせろ、お前は力を入れすぎる」
「力を……」
「わかったな、ゆっくりやるから合わせてやるんだ」
「はい、全力で合わせます」
 ぐしゃ。
「……」
「……」
「……わざとか?」
「……いいえ」
 握り潰されたリンゴを持ったまま、アトリアは首を横に振った。


「カレールーを作るなんてすごいですね、米も水につけておくと美味しくなるとか、いろんな事を知ってて……」
 料理が少しずつ完成に近付くなかで、朝霞は櫻子に声をかけた。
 櫻子の近くには、アトリアとのすりおろし作業を終え、疲弊したシンシアの姿もみえる。
「サクラは料理人だからな」
「でも今回のはブイヨンで具を煮てるとこに、これぶっこんでるだけよ」
「これは?」
「バターで炒めた小麦粉にカレー粉を混ぜたやつ」
「手間って大切なんですね」
「そんな手間はかかってないわね。あ、じゃあ朝霞ちゃん、食器の用意をマナたんとして」
(たん?)
 なんとなく疑問に感じたが、あまり深く聞かないほうがいいだろうか?
 すぐにアトリアにも声が飛ぶ。
「アトリアちゃーん! そろそろリンゴをすったの入れるからもってきてー!」
「あたしはー?」
「すももちゃんは私にぎゅーって」
「リビングで寛いでていい」
「ちょま、シンシア」
「サクラ、お前はな……」
「ならマナお姉ちゃんのお手伝いする!」
 たーっとすももが朝霞達の方に向かったのを見て、二人は会話を中断し……櫻子がにやーっと笑った。
「やっぱ可愛いわよねー女の子。シンシアも思わなかった?」
「一緒にするな」
 そうして二人は話しながら料理を続け……やがてリビングに、香ばしいカレーの薫りが満ちていった。


●深夜の密会


 ある日の夜……ルゥとアトリアはリビングに来ていた。
 時間は深夜、誰かに気付かれないよう小さな明かりを点け、二人はソファーに腰かける。
 テーブルの真ん中には、皿に盛られた果物。
 今回アトリアを誘ったのはルゥで、アトリアの顔がどこか浮かないものだったから、こうして声をかけたのだ。
「アトリア……真壁のこと……気にしてる?」
「はい」
 迷いなく答える、こういう迷いのなさは、久郎とは違うものだろう。
「ワタシはどうもクロウの一線を引いた所や自分の考えを明らかにしない所が気に食わないのです」
「……」
「どうすれば互いにもう少し歩み寄れるのでしょうね?」
 ルゥは、テーブル置かれている果物リンゴを六つとると、一つをアトリアに放る。
 そうしてから、ソファーにその身体を沈めて話し始めた。
「アトリアは、受け入れること……真壁は、踏み出すこと」
 ポツポツと語りながら、シャク、とりんごをかじる。
「受け入れる……あの朴念人を?」
 アトリアの握ったりんごがくしゃりと潰れた。
 ルゥはそのアトリアの言葉には答えない。
 伝えておきたいことを、ただ伝えていく。
「でも、方法は、大事じゃない。今は、焦ってるだけ……時間が、大事」
「時間……ですか?」
「ん……あとでわかる」
 言うべきことは言った、とばかりに、ルゥはマイペースに果物を食べていく。
 アトリアは考えてから……答えを見つけられずに、手の中で砕けたリンゴの欠片を、口に放った。


●集いの中で……


「負けないよ!ポーカーフェイスだっ」
「俺だって得意だぜ!」
 すももと聖の溌剌とした声。
 五日目の夜は、トランプ大会が開かれていた。
 種目はババ抜き、ほぼ強制参加だったからか、ラルフの英雄、ファラン・ステラ(aa4220hero001)の姿もある。
 彼女だけは、この五日という日数でも馴染めたとは言い難いが……だからといって除け者にする気はさらさらなかった。
「リデル!気づかなかったでしょー!」
「はい、さすがは姫様です」
「えへへ~」
 わざとすもものババを引いたリデル。
 そのリデルの札を、今度はアトリアがじっと見る。
 その表情は真剣そのものだ。
 ニコニコとしたリデルの顔を凝視する。
 この青年、爽やか過ぎて表情が読めない……が。
「これです」
 こういう時に頼れるのは、戦場において培われる……勘!
 迷いなく、アトリアは一枚の札を取り。
「な……こんなはずではっ!」
 描かれていたババにうちひしがれる。
 こうして見れば、彼女は純粋な少女だ。
 カードを切り直し、ばっと広げ……次の手番の人間、聖を真剣に見つめた。
「引いてください……ショウジ!」
「いくぜ!」
 聖もまた真剣だ……勝負事で手を抜くような真似はしない。
 バチバチと、聖とアトリアの間に火花が散る。
 そして……聖の手が、動いた。
 シャッ、と、アトリアの札を一枚抜き取り……そして。
 ふ、と、アトリアが笑った。
「私の勝ちです……ショウジ」
「あーくそっ!!」
 ババを引いた聖が、先程のアトリアのように苦悩する。
 手番が来る度に、この二人は賑やかだ、ある意味一番トランプを楽しんでるかもしれない。
 そんな様子を、カウンター式のキッチンから眺める人間達がいた。
「アトリも……今日は楽しんでるみたいだな」
「いつもはああじゃないんですか?」
 久郎とラルフだ。
 ラルフは葱とジャガイモを使った……櫻子とレシピ交換をしたスイスの料理、パペ・ヴォードワを作り、久郎はその隣で、ラルフからのリクエストであるホットケーキを焼いている。
「いや、ああいう時もある」
 久郎以外の相手に、だが。
 久郎には、笑顔を向けてきたことはない。
 難しい顔をしてその原因を考える久郎の横で、ラルフは料理にソーセージを盛りつけ、口を開こうとし……。
 そこに、朝霞がやってきた。
「真壁さん達もトランプ大会に参加しましょう!」
「ああ、あとで……」
「あとではなく今です!」
 久郎とラルフの腕が朝霞に引っ張られ……彼らもトランプ大会の場に引き出される。
 アトリアは久郎の参加に憮然としていたが、それでいい。
 どんな関わり方でも、近くにいて時間を重ねれば、自然と歩みよることはできる。
 アトリアと久郎が……ぎこちないながらもトランプを始めたのを見て……朝霞はくすりと笑い、一人の人物に声をかけた。
「ルゥちゃん、アトリアさんの相談のこと、教えてくれてありがとう」
「ん……」
 短く返事をし、もぐもぐとホットケーキを食べながら……ルゥは賑やかなそのトランプ大会を、満足げに眺めていた。


●女子部屋談話


 その夜。
「恋バナはお泊りのてーばんだよっ」
 パジャマ姿のすももが元気よくいった。
「コイバナ?」
「恋のお話だよ! あたしはかっこよくて歌と踊りが得意でイケメンで強くてハンサムな王子さまが好き! みんなは!」
「肉まん……」
「ルゥちゃんそれ食べものー」
「知ってる」
 ルゥの発言にすももが返すと、ルゥはこくんと頷いた。
 そんな雰囲気に懐かしさを感じたのか、櫻子がシンシアに語る。
「あぁ、なんとなく修学旅行の夜思い出すわー。あれからもう5年かぁ……」
「お前28だろう」
「気持ちはもっと若いわよ」
「そうだな、若すぎて引きずり回されるほうが大変だ」
「シンシア苦労してるのね……」
「誰のせいだ!」
 そんな和気あいあいとした会話をしている間にも、向こうの恋ばなトークは進んでいたようだ。
 朝霞だけ、途中からヒーロー愛を語っていたが。
 そんな中、ファランやアトリア、櫻子達にも、すももから話がふられた。
「お姉ちゃんたちの恋ばなもきかせて!」
「コイバナ?よく判らん」
「花の名前……ですか?」
 そんな怪訝な顔をする二人と……。
 彼氏いない歴と年齢が同じ櫻子に、何かを語る術はない……。
 たまたま矛先を逃れたシンシアも、助け船を出す気はないようだ。
「お花じゃないのー! 好きな男の子はいないの?いいなーっておもう男の子だよ!」
 すももがむくれて言うと……少し考えてファランが口を開いた。
「私の背を預けたいと思える男がいい」
「ははぁん……」
 それにニヤリと笑ったのは櫻子だ。
「つまりラルフくんよね」 
 それは悪戯心か……あるいはファランから反応を引き出すために言った一言だったのかもしれない。
 でも、その名前が出た途端……ファランの顔が真っ赤になる。
「知るか!」
 そうしてぼふっと横になり、眠ろうとするその姿は……その場にいた人間には、とても可愛らしいものに見えていた。


●東京海上支部にて


「じゃーん!HOPE東京支部へようこそ!」
「マナは来た事あるだろう?」
「あらためて!よ」
 朝霞とニックが言う、今日は東京観光の日だ。
 見馴れた場所だが、観光となれば少しばかり意識は違う。
「姫様、荷物は持ちますよ」
「ありがとリデル! いこっ、マナお姉ちゃん」
「ハイ!」
 リデルがすももの荷物を持ち、すももがマナの手を引く。
 久郎や聖、朝霞達は、懐かしい饅頭争奪戦……生首のような饅頭を取り合った時や、それぞれの闘いの話に花を咲かせ、櫻子やラルフは、英雄と時間を過ごす。
 一週間で培ったもの、あるいはそれまでに培っていたもの……そのどれもが、この時間に結びつき、その風景の彩りとなっていた。
 海上支部の次は浅草、それで今日の予定は終わり……明日には、お別れの時が来る。
 残された時間は、もうほとんどない……。


 その時間を惜しむように、あるいは、最後まで楽しむために……。
 最後の一日は、深夜になっても、全員が過ごしていたその家から、明かりが消えることはなかった。


●お別れは笑顔と共に……


 一週間を過ごした家の荷物を片付け、最後に久郎が鍵をかける。
 HOPEのバスは既に家の前に止まり、全員がその近くに立っていた。
「このままマナたん達をお持ち帰りしたいー」
「いいからもう離してやれ、聞いてるのかサクラ!」
 マナをぎゅーっと抱き締めて頬擦りする櫻子を、無理矢理引き剥がそうとするシンシアの姿。 
 一週間という時間。
 その間に積み重ねた思い出は、きっと櫻子以外の胸の中にも、蘇っていることだろう。
 シンシアによって引き剥がされた櫻子の頬に、マナがキスをする。
「aloha! サクラコ!」
 様々な意味で使われ、ハワイで頻繁に口にされる、アロハ(aloha)という言葉……その根底に流れるのは、愛情、他者が存在することへの感謝の気持ち。
 そんな感情を言葉とキスに変えて、櫻子からシンシア……聖とルゥ、ニックと朝霞、久郎とアトリアにしていくと、その次はリデルの番になった。
「リデルにはキスしちゃだめだよ!ぜったいだめ!」
「ハイ! aloha!リデル」
 すももの言葉に頷くと、リデルに言葉だけで挨拶をして……。
「スモモ!」
「マナお姉ちゃん……」
「スモモ! スモモハ、Hoaloha!オトモダチ!ダカラ、ゲンキガイイ!」
 ぐすっと泣き顔を浮かべるスモモの頬に、涙を浮かべながら、マナはキスをする。
「aloha! スモモ!」
「っうん、またね、マナお姉ちゃん!」
 そして最後に、ラルフ達の番だ。
 ファランに挨拶を終えたマナが、ラルフと挨拶を交わす。
 ラルフは、マナが買えなかったお菓子を袋にいれて渡し……マナの髪を軽く撫でた。
「アリガトウ! aloha!ラルフ」
 _
「malama pono。A hui hou…」
 ハワイの言葉……マナと覚えてきたそれを口にして、ラルフは微笑む。
「日本語では、元気でな。また会おうって言うんだぜ?髪飾りの位置が左になる前には皆で会いたいもんだ」
 マナはそれに、大きく頷くと……涙をぽたぽたと落としながらも、満面の笑みを浮かべて、言葉を返した。
「アイタイ!キットアウ!アリガトウ、ゴザイマシタ!」


 そして……。


●エピローグ


 ハワイから来た一人の少女と、六人の能力者、六人の英雄が写った、一枚の写真。
 マナと別れる前に、ラルフが頼んで撮ってもらった一枚だ。
 一週間の間に撮られた写真とその集合写真は、全員の元に届けられた。


 一週間……長いようで短い、その時間。
 写真の中に眠るその一週間の記憶は、きっといつまでも、残り続けることだろう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • あたしがロリ少女だ!
    風深 櫻子aa1704
    人間|28才|女性|命中
  • メイド騎士
    シンシア リリエンソールaa1704hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • 巡り合う者
    ファラン・ステラaa4220hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • Hoaloha
    梵 すももaa4430
    人間|9才|女性|生命
  • エージェント
    リデル・ホワイトシェードaa4430hero001
    英雄|24才|男性|カオ
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