本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】荒ぶるフリークスパレード

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 6~7人
英雄
6人 / 0~7人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/10/02 16:57

掲示板

オープニング

●霧の漂う『舞台』
 君達のやってきたゾーンは、深い夜霧に包まれていた。空を仰げば、満月がおぼろげに輝いている。HOPEからの指示は殆ど聞こえてこない。霧がジャミングの役割を果たし、彼らの持つ通信機にも影響を与えてしまっているのだ。

 君達はまさにレンガ造りの家に囲まれた円形の広場に立っている。程無く周囲を見渡すだろう。

 東の方には倉庫らしきものが連なっている様子が窺える。

 南の方には黒い石で作り上げられた小さな砦が見えた。

 北の通路には『船着き場』と記された看板が立てられている。

 西の方には、そこそこ豪華な造りの教会が見えている。

 ここは小さな港町であると、君達は気付く事だろう。またもう一つ気付く事だろう。このゾーンのどこかに、少なくともミーレス級、強く見積もってデクリオ級の愚神が従魔が潜んでいるような雰囲気が漂っている事に。
 自分達も厄介なゾーンルールに縛られる事になるのだろう。仲間達からの報告を聞いていた君達は辟易する事だろう。また、二回目という者も中にはいるかもしれない。

「やあようこそ。『フリークスパレード』の世界へ。僕がこの世界の『GM(ゲームマスター)』さ」

 不意に背後から声を掛けられ、君達は慌てて振り向く。そこには、黒いシルクハットに黒い外套を合わせた、いかにも怪しい雰囲気を漂わせる青白い顔の青年が立っていた。

●怪しげな『GM』
「いやいやいや、そんなに身構えないでくださいよ。ほら、貴方達もこのフリークスパレードに参加しようと思って来てくれたのでしょう? 大歓迎いたしますよ」

 GMはにやりと笑い、両手を広げてくるりと回ってみせる。やはり怪しい雰囲気だ。夜霧漂うこの街にはいかにも相応しい。

「僕はこの世界を仕切る者。百鬼夜行のこの夜を楽しく盛り上げるためにいる者さ。君達、この街がどんな風になっているか、知りたいかい?」

 それが任務だ。君達は頷く。

「そうかい。じゃあ軽く教えてあげるよ。この街は元々人間が住んでいたけど、ある日吸血鬼と人狼が一斉に襲い掛かってきて、人間は教会に閉じ籠る羽目になってしまった。けれど吸血鬼と人狼の間でもまた争いになり、吸血鬼は砦に、人狼は倉庫街に引き籠って睨み合いをする事になった。人間はその間を突いて一気に街を取り返そうとしている。そんなところだ」

 GMは教会、砦、倉庫をそれぞれ指差して説明していく。にやにや笑う不健康そうな顔はじっと君達に向けられたままだ。

「けれど、三者は動けない。永遠に動けない。拮抗状態にあるからだ。教会に引き籠っている限りフリークス達は人間に手を出せないし、人間が外に出たらフリークスにボコボコだ。一方フリークス達もどちらが優れているような事は無いと知っている。とてもじゃないが動けないんだ」

 けらけらと笑うと、GMは軽い足取りで君達の目の前まで近づいてきた。

「だから、君達が必要なのさ。この拮抗状態を崩すためにね」

 分からない、という顔を君達の中の誰かがする。GMはうんうんと納得顔で頷くと、懐から小さな手帳を取り出し君達に向かって差し出した。

「今から僕は君達に七つの『ロール』を与えよう。この世界に一つの『役割』を持って、慎ましやかに演じてもらいたいというわけさ。そうしなければこの世界は終わらない。終われない。物語にピリオドが打てないんだ」

 GMは神妙な表情で呟くと、再び満面に不健康な笑みを浮かべ、華麗なステップを踏みつつ朗々と言い放った。

「さあ、君達の『ロール』を持って、この世界を散々に揺すぶってくれ。そうしたら、僕は君達にちょっとしたボーナスを与えるよ!」

「フリークスパレード!」

●手渡された『ミッション』

1.『人間』となる。貴方は人狼に家族を殺され、非常に人狼を憎んでいる。
  『ロール』は倉庫に潜んでいる人狼を全て撃退する事だ。

2.『人間』となる。貴方は吸血鬼の女に恋をしてしまい、全てを捧げたがっている。
  『ロール』は人間を裏切り、吸血鬼の為に教会を破壊する事だ。

3.『人間』となる。貴方は吸血鬼ハンターだ。サーチアンドデストロイ。
  『ロール』は、小砦に乗り込んで吸血鬼を撃退する事だ。

4.『吸血鬼』となる。貴方は船着き場から人間が攻め寄せる事に気付いた。
  『ロール』は、船着き場に集まった人間を撃退する事だ。

5.『吸血鬼』となる。貴方は争いに興味が無く、ただ状況を眺めている。
  『ロール』は、誰がどのミッションを選んだか、三人以上明らかにする事だ。

6.『人狼』となる。貴方は仲間の事をとても愛している。
  『ロール』は、倉庫に潜んでいる人狼を守り抜く事だ。

7.『人狼』となる。貴方はとある人間の娘に叶わぬ思いを寄せている。
  『ロール』は、吸血鬼の跋扈を許さないため、教会を守る事だ。

※所属した陣営の特殊スキルをそれぞれ入手する事になる。

 さて。君達はこのロール表を見てどう思ったか。敢えて私は同定しない。各々の思いを秘めて、それぞれのロールを選ぶがいいだろう。
 気を付けるべきは選んだロールを明かしてはならないという事だ。その行動はGMに強く見咎められる事になるだろう。
 また、ロールを達成しGMからボーナスを与えられたいならば、誰かと同じロールを選ぶ事になってもいけない。即ち、自分がどんなロールを選んだか明言せず、しかし重複が出ないよう仄めかさなければいけないというわけだ。
 とにもかくにも、せっかくこのゾーンでの役割を選んだのならば、思い切りその役割に服すのが良いというものだ。楽しく百鬼夜行の夜を過ごすがいい。

 さあ、荒ぶるフリークスパレードを始めよう。

解説

●ミッションタイプ:【エリア探索】
このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●任務
ジャミングで詳細が掴めないゾーンを探索し報告する事。

●現時点で判明しているゾーン情報
中央:広場……現在地。GMを名乗るシルクハットにマントの男がいる。
東:倉庫……人狼が数体潜伏している。
西:教会……吸血鬼が近づけずにいる。人間達の拠点。
南:小砦……吸血鬼が数体占拠している。
北:船着き場……人間達がここから砦の中へ侵入しようとしている。

※PCは広場と予め選んだ一地点を行き来する事しか出来ない。
 →ロール5番を選んだ者は二地点まで選べる。

●特殊スキル
人間
 聖銀銃:最大体力の8割のダメージを与える。判定値50
人狼
 鋼皮:ダメージを8割カットする。判定値70
吸血鬼
 魅了:発動した特殊能力を無効にする。判定値60
(1D100で出た数値が判定値を下回るかで判定)

●NPC
GM
いかにも怪しい雰囲気を漂わせる青年で、このゾーンを取り仕切る存在として、報酬を提示しながらいくつかの『ロール』をPC達に与えた。

人間・吸血鬼・人狼
GMによって作り上げられたイメージのような存在。人間は銃火器を持ったり怪物は恐ろしい格好をしているが、PCが戦闘を仕掛ければ無条件で勝つ。

※また、デクリオ級の愚神ないし従魔がゾーンに潜んでいる雰囲気をPC達は感じている。

●成功条件
普通:四か所中二か所以上の探索を完了する
成功:四か所全ての探索を完了する
大成功:シークレット

●MVP条件
GMから受け取った『ロール』を成功させること。成功者が多い場合はダイスで抽選。
(『ロール』を前もって明かしてしまった場合、『ロール』が他と被ってしまった場合はこの限りではない。)

●おことわり
アドリブをかなり強めに利かせる可能性があります。あらかじめご了承いただけると幸いです。

リプレイ

●東に迷う者

 木霊・C・リュカ(aa0068)が、パートナーの凛道(aa0068hero002)と共に立っていた。目の前には、霧に巻かれた倉庫街。
「さてさて、リンドウが今宵演じるは、人狼仲間の事が大好きな人狼だ。仲間をしっかり守りつつ、倉庫の探索を終わらせるよ!」
『Yes, Master. 誓約の下に』
 白金の髪が蒼く染まった。死神のようなロングコートを靡かせ、彼は倉庫へと足を踏み入れる。
「(お兄さん達と当たりそうなのは……フィアナちゃんかな)」
『(早めに倉庫内の探索を終えましょう。いつ来るか分かりません)』
 人狼の役を引き受けた事によるものか、普段以上に夜目が利く。木箱やら、樽やらが積み上げられる様子がよく見えた。潜む人狼達の息遣いも良く聞こえた。凛道は倉庫の壁を伝って暗闇の中を進む。
「(アレが僕達の守るべきターゲットかな?)」
 凛道はぎらぎらと光る眼を見つける。六体の人狼。二体の子どもを守るようにして、四体の大人が立っていた。
「コダマ。外の様子はどうなっている。吸血鬼共は。人間共は。どんな様子だ」
『今宵動きがあります。騒ぎに乗じて、我らに復讐しようとする人間がいても、おかしくはありませんね』
 駆け寄ってきた人狼達に向かって、凛道はすらすらと答える。人狼は眼を開くと、牙を剥き出しにして唸る。
「劣等種の虫けらに何が出来る」
『ええ。この鋼の皮と、綿密な準備さえあれば人も吸血鬼も、恐るるに足りませ――』
 鈍い音。レンガが吹き飛び、土煙が濛々と立ち込める。月夜の光が倉庫の中に兆し、白煙の内側に、おぼろげな人影が映る。凛道は顔を顰めて叫んだ。
『中央へ! とにかく固まってください!』
「(早いね……もう来たの)」



『(――楽しくなってきたな、おい)』
「(楽しくない。私達はエージェントなのに。それなのに、互いに争うようなことさせられるなんて。あのGM、きっと裏があるよ)」
 背中に白く塗られたライフルを背負い、金と黒の階調を織り成す髪を靡かせてフィアナ(aa4210)は駆ける。夜の猫のように、闇へ紛れ彼女は駆ける。人狼の潜む倉庫を視界の端に捉え、彼女は小路を脇に折れる――
「いったい!」
 しかし、彼女はしたたかぶつかった。目を白黒させ、フィアナは目の前の路地に手を伸ばした。やはり壁がある。
「(なにこれ……?)」
『(おいおい。この街はハリボテかよ。あのGMもやることが雑だなぁ)』
 ドール(aa4210hero002)はフィアナの中でケラケラ笑う。溜め息をつくと、フィアナは目の前にある倉庫を見上げる。ただ一つの倉庫に突っ込み、人狼の命を巡って殴り合い。実にシンプルだ。
「(本当に、あのGMは私達に戦わせたいのね)」
『(しょうがねぇじゃん? 仕事なんだから)』
「……」
 アルスマギカを取り出す。やりたくはない。だがGMに眼を付けられるわけにもいかない。彼女は倉庫の壁に向かって火球を放った。激しい爆発と共に、壁が吹き飛ぶ。
「もぉいいかぁい?」
 気持ちを繕い、恨み辛み満ちた声色を作る。慌ただしくなる倉庫を差し置き、彼女はぐるりと倉庫の周りを駆けて壁に次々と穴を空けていった。
『(おいおい。穴空けてるだけじゃ人狼は殺せねえぞ?)』
「(分かってるよ)」
 フィアナは倉庫の中へと突っ込んだ。土煙を切り裂き、潜む人狼を探るように倉庫全体を見渡す。中は箱や樽が積まれているだけで、いかにもシンプルな造りだ。
『愚かな人の子ですね。復讐に踊らされ、死地に自ら足を踏み入れるとは』
 高く積まれた木箱や樽の矢倉の上に、黒装束を夜風に靡かす凛道が立っていた。大柄の鎌を握りしめ、彼はじっとフィアナを見下ろしている。
「むぅ……!」
 フィアナは倉庫の壁に従い一気に駆け出した。凛道は数多の盾を喚び込み、さらに守りを固める。木箱の山に身を潜めながら、彼女は無数の刃を飛ばす。刃と盾がぶつかり合い、激しい火花を散らせる。樽の山を駆け登り、フィアナは矢倉に魔導の暴風を放つ。再び盾を広げた凛道は、暴風を受け止めた。
 その隙めがけて回り込んだフィアナが白鷺を構えて一気に矢倉へ突っ込む。その動きを見逃さなかった凛道は、遅れながらもフィアナの一撃を盾で受け止めた。そのまま体当たりを喰らわせ、フィアナを倉庫の壁際に突き飛ばす。大鎌を構え、凛道はフィアナを見下ろす。
『さあ、次はいかな手で……?』
 フィアナは槍を握りしめ、しばし凛道を見上げる。だが、やがて彼女は俯き、倉庫の穴に向かって踵を返した。
「一人で突っ込むのはちょっと無謀だったわね。……見ていなさい。次会う時は、必ず!」
 いかにもな捨て台詞を残し、フィアナは駆けだした。ドールは降参したフィアナに抗議の声を上げる。しかし、彼女は小さく首を振った。
「(いいの。私達はエージェントだもの。探索は一応したし、争う必要なんかないよ)」
『(ハッ。つまんねえなぁ)』

●西の戸惑う者

『俺がお前の運命を乗り換えてみせる……どうだ? 格好良くないか』
榊 守(aa0045hero001)はレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)に向かって、格好つけた台詞を放つ。しかしレミアの反応はつれなかった。
『落第ね。緋十郎もげらげらとみっともなく笑っているわ』
『そうかそうか。嫁の中でぬくぬく見物しやがって。今度飲む時はお前の奢りだからな』
 守はレミアの内に篭っている狒村 緋十郎(aa3678)を睨むように顔を顰め、煙草に火を点けながら歩き出した。やはり格好つけるのはガラじゃない。守は溜め息をついた。



『さあ行きますわよ、主様! このかわいいわたしが華麗に任務を全うして差し上げますわ!』
「おー、エリザ張り切ってるね! お姉さんエリザに任せちゃうから、好きにやっちゃえ!」
 既に共鳴を終えたエリザ ビアンキ(aa2412hero002)と東雲 マコト(aa2412)。胸に輝く星のエンブレムがちらちらと明滅してマコトの言葉を放っていた。
『まずは下準備!』
 エリザは手のひらの上に一匹の鷹を創り、手紙を咥えさせて飛ばした。広場にいるのは神妙に倉庫の方角を見つめるフィアナ、軽い談笑をしているレミアと守だけだった。やがて守は、踵を返して歩き出す。その隙に、エリザは鷹をレミアに向かって飛ばした。レミアは鷹から手紙を受け取ると、さっと眼を通す。
『お断りね。今宵の私は傍観者。何者の助けにもならないし、何者の助けも要らない』
 レミアは牙を魅せつけるようにして笑うと、そのまま優雅に南へ歩き出した。その振る舞いは、彼女の選んだ気高い『ロール』に似合っている。エリザは口を尖らせ、そんなレミアの背中を鷹の目で見送っていた。
「あちゃー、不発だったか」
『想定内ですわ。こうなったら早々に教会へ向かいましょう!』
「うんっ!」



 教会に辿り着いた守は、その扉に手を掛けた瞬間刺すような痛みを感じた。コートに留めた人狼のエンブレムがちかちか火花を飛ばしている。
『ハンディ大きくねえか。……まあいい』
 力を籠め、守は扉を押し開いた。中の人々が一斉に振り向く。老若男女様々いる中で、彼女はいた。彼の主、泉 杏樹(aa0045)にどことなく似るその姿。無個性な面子の中で、彼女だけが目立っている。
「あ、貴方は?」
 守は顔が強張った。
『あー、俺は、通りすがりのヴァンパイアハンターだ。お前達を守りに来た』
 守は彼女の方をなるべく見ずに応えた。やりにくいといったらない。
「あ、ああ、貴方と神に感謝致します」
『任せろ。この世界の全て敵に回しても、俺が必ず救ってみせると誓おう』

 数分後、探索がてらバリケードを築き終え、守は人々を真ん中に集めた。その手腕を見て、彼らはすっかり信頼の眼差しを寄せている。彼女もまた同じだ。その視線がまた杏樹に似ていて、守は妙な気分になる。
「大丈夫、ですよね」
『……ああ。俺が必ず救ってやる』
 さらりと彼女の額を撫でながら、守は頷いた。
『俺はずっと、透明な存在だった。ただ、与えられた役割を果たすために生きていた。……お前は気付いていないだろうが、そんな俺をお前が変えたんだ。だから、俺はお前を守る』
「え?」
 守は手を天井に向かって掲げ、催眠ガスを放った。虚ろな顔になり、彼女はゆらりと倒れる。
『中々格好の良い事をおっしゃいますわね』
誰もが意識を失い倒れていく中、外套を着込んだ一人の少女だけが立っている。背には純白のライフル。エリザだ。守は不敵に笑う。
『ふっ……痺れるだろう。報われぬ愛の為に戦う男ってのは。……お嬢には、俺が何を言ってたか言わんでくれよ』
『……中々格好の悪い事を。……さて、ここは人間の為の場所、お引き取り願いますわ!』
 エリザは外套を脱いで共鳴態を晒すと、指を守へ向ける。
『縫止!』
 だが、何も飛ばない。守はきょとんと立ち尽くした。エリザは思わずあっと声を上げる。
『ん、共鳴してないのか、まさか』
『そんなの、ワタシ達の勝手でしょう!』
 エリザは慌てて繕うがもう遅い。守は苦笑し、構えを緩める。
『手加減しようか』
『必要ありませんわ! これでも喰らいなさい!』
 聖銀銃を構え、エリザは撃ち放つ。守は悠々と鋼皮を発動し、これを受ける。さらに撃つ。弾は外れた。さらに撃つ。守も鋼皮を発動したが、何やら急にエンブレムが眩い光を放ち、銀の弾丸を跳ね返してしまった。跳ね返った弾丸は、エリザの腕を軽く掠める。
『いったぁっ! な、何が起きたんですの!』
『俺に聞かれても知らねえが……』
「エリザ、準備できたよ!」
 マコトが遠くで手を振る。エリザは笑みを取り戻すと、イメージプロジェクターを切って本来の姿を露わにした。
『よし。ワタシの使命は達成ですわね。主様、行きましょう!』
「おー!」
 マコトは花火に火を点けると、エリザと共鳴し、バリケードを打ち壊して教会を飛び出した。瞬間、色とりどりの炎が激しく舞い、教会に火を放った。守は顔を顰める。
『参ったな。間に合うか……?』
 守は火の付いた壁に駆け寄ると、ベンチで殴りつけ崩しにかかった。振り返り、娘の顔をちらりと見る。彼女を傷つけるわけにはいかなかった。

●南の怪しむ者

「世の中には走るよりジャンプを繰り返した方が速く動ける奴がいるんですがなー」
『お姉様はそうではありませんよ』
 フィー(aa4205)とフィリア(aa4205hero002)は、砦へと繋がる道を身軽に走り抜けていた。ゴーグルはつけていない。ライヴスが辺り一面に立ち込め、よく見えなくなってしまうのだ。
「霧がライヴス由来で、これがどこにも立ち込めてるってなると、こいつがジャミング機能を果たしてるって事になるんでしょーなぁ」
『ですね。……あのGM、ますます怪しいです』
「まあ、ともかく小砦を落としちまいやしょう」
 二人は共鳴を果たした。銀色の髪をさらりと夜風に流し、彼女は鞭を取った。正面切って、フィーは砦へと突っ込む。
「いざや行かんキャッスルヴァンプ!」
 襲撃に気付いた吸血鬼が、その身を蝙蝠に変えて襲い掛かってくる。フィーは鞭を唸らせ、次々に打ちのめした。そのまま彼女は高く跳ね、砦の門を飛び越える。
「敵襲!」
「迎え撃て!」
 闇の中から吸血鬼達が次々に飛び出してくる。噛みつきを躱し、爪を受け止めながら、フィーは冷然と吸血鬼を見渡す。
「要するに、あんたさんらは雑魚なんでしょう?」
 フィーは鞭を振るい、軽く勢いをつける。
「なら、闇へ還れ!」
 その身は鋭く翻り、刀のような一閃が次々に首を刎ね飛ばした。血を噴き出しながら倒れる吸血鬼の姿を見下ろしながら、黒い感情に浸ってフィーは眼を揺らす。
「私には御似合いの任務だったかもしれないっすな」

 石造りの砦を突き進みながら、彼女は四方から襲い掛かる吸血鬼を撃滅する。重い扉を蹴破ると、中に佇む黒いドレスの吸血鬼に向かって鋭く鞭を振り下ろした。
『あらあら。随分と血気盛んね』
 指先で鞭を止め、レミアは両の牙見せからからと笑う。フィーはむっと顔を顰めると、鞭を引いて腰に提げる。
「あんたさんとやり合うつもりはないっすよ。あんたさんもないんでしょう」
『そうね。愚神もいるというのに、無為に消耗し合う必要などないわ。フィー、貴方もライヴスゴーグルをお持ちなのだから、ちょっと見て御覧なさいな』
「ぬ?」
 フィーは言われるがままにライヴスゴーグルをかける。暗闇の中に、ぼんやりとライヴスが漂っているのが見える。攻撃の為にフィーが込めたライヴスが、鞭の軌跡を描くように、ほんのうっすら残っている。そのライヴスは、のろのろと風に吹かれた煙のように動いている。
「これが、どうしたんで?」
『来なさい。この上に来ればもう少しわかりやすくなるわ』
 レミアは部屋を出て、つかつかと階段を昇る。フィーもその後に従って屋上に出た。そして見た光景に、思わずフィーは眉を顰める。
「おやおや。これはライヴスが広場の方へ集まってるんですかいな?」
 ゴーグル越しに見た景色。漂う霧がライヴスを吸って、のろのろと広場の方へと流れている。レミアは腕組みして首を傾げる。
『みたいね。ちょっと北の方を見てくるわ。フィー、貴方は広場に戻って、あのGMの様子を見張ってなさい』
 フィーはゴーグルを上げ、広場の方を睨みつける。霧はやや薄れ、満天の星空が妖しく光を下ろしていた。
「言われんでもやります。あれはやっぱり怪しすぎますわ」

●北に考える者あり

「吸血鬼だ! 吸血鬼がいるぞ!」
 ライフルを握りしめた人間達が大勢、泡を食って身を固めている。息を震わせ、眼をふらふら揺らし、冷や汗垂らしながら物陰を見つめていた。その足元には、頭を矢で穿たれ倒れた死体が三つ。氷斬 雹(aa0842)はスマホを弄りながら、焦る彼らを嘲笑っていた。
「ハハン、あんな有様じゃあ、愚神も従魔もあん中にはいなさそうだなァ。遠慮なくブチ潰すとしようか?」
 スマホを地面に置くと、鋭く向かいの物陰へと滑らせる。瞬間、けたたましい音が鳴り響く。人々ははっと目を見開くと、反射的に引き金を引いた。屋根に上った氷斬は、その音に紛れて銃弾を次々に撃ち込んでいく。
「ぎゃあっ!」
「バーカ。烏合の衆ってのはこういう奴らの事だよなァ」
 氷斬は屋根から飛び降り、再び物陰に身を潜める。
「お、おい、屋根の上からだ。屋根の上から撃って来たぞ!」
 雑魚達の目が上を向く。隙が丸出しだ。その隙に氷斬は人間達の中に紛れ込む。一番後ろで銃を握りしめる男の襟首をつかみ、喉を鋭く切り裂く。そのままその背に逆さ十字を刻み込み、そのまま人間達の方へと蹴倒す。
「隙ばっかだな、おいおい?」
 倒れ込んだ男に気付き、振り返った人々は悲鳴を上げる。恐慌した人間達は、氷斬が紛れ込んでいる事にすら気づかない。歯を剥き出しにしてその様を嘲笑い、ひっそりと拳銃を二丁取り出す。
「ハロー♪」
「あ、あっ! お前は――」
 それに気づいた一人の男が叫ぶ前に、一発の鉛弾が頭蓋を砕く。そのまま横殴りの吹雪のように弾幕が襲い掛かり、次々に哀れなレジスタンス達は倒れていった。残ったのは、たった一人。ケラケラと笑いながら、氷斬はその眉間に拳銃を突き付ける。
「ミンナ先に逝っちまったゼ? お前も逝こうか?」
「や、やめて! も、もう二度と逆らいません。だから、命だけは、命だけは!」
「やーだよ。ByeBye★」
引き金を引く。脳漿を柘榴のように飛び散らせ、最後の生き残りも崩れ落ちた。

「あーあ。なんだなんだ、これっぽっちで終わりだったかよ。つまんねェ。こんな事なら、もうちょっとスリリングにやってのけたってのになァ?」
 拳銃をホルスターに収め、氷斬は辺りを見渡す。船着き場の石畳は血でどす赤く染まっていた。探索がてら物陰は漁ったが、生き残りはいなかった。
「(……で、結局愚神はGMか? ボーナス出すとか法螺打って、俺様達を争わせようって魂胆か。ゾッとしねえ事考えやがる。や、ある意味面白れェケド……)」

『あらあら。もう片付いていたのね』

 考え込んでいるうち、上から透き通った声を投げつけられる。ゴーグルを手にぶら下げた一人の女吸血鬼が屋根の上に立っていた。
「吸血鬼のお姉さんか。こんな雑魚俺様にかかっちゃ一瞬さァ」
『それはそれは。それで雹、貴方、こっちで愚神は見たかしら?』
「ねえよ。どいつもこいつも、揃ってただの雑魚だ。つまんねえ」
『やっぱり。雹、終わったのならとっとと広場に戻りなさい。ゲームが終わる前に、一つ仕上げをしないとならないわ』
 レミアは当然の如く氷斬に向かって言い放つ。氷斬はその尊大そのものの態度を叩きのめしてやりたい気分になったが、持ち前の警戒心が踏みとどまらせた。にへらにへらと笑って肩を竦め、血まみれの道を歩き出す。
「指図されんのは気に喰わねェケド、どうせ戻るっきゃねェし、戻ってやるよ」

 その様子を見送り、レミアは再びゴーグルで薄霧漂う船着き場を見渡す。
「(こっちでもライヴスが広場の方に流れてるな)」
 緋十郎が唸る。微弱なライヴスが、小川のように街中を流れていた。
『(ええ。攻撃に乗せたライヴスが、案山子同然のNPCに叩き込まれて、そこから一つの方向性を持って流れているわ)』
「(愚神が放った受容体みたいなもんか。NPCは)」
『(そうだとしたら、少々面倒なところに首を突っ込んだかもしれないわねぇ……)』
 レミアはくるりと身を翻す。そのまま屋根の上を歩き、広場を目指した。

●中央に諸悪あり

「おやおや、どうしたんですか、その格好は」
 焦げ付きだらけのコートを羽織る守に向かって、GMはからから笑いながら尋ねる。
『ちょっと色々あってなぁ、ムキになっちまった。アレは、守り抜かねえと寝覚めが悪くなりやがる。アレがお前の差し金だってんなら、随分と趣味が悪いぜ』
「まあ、必死になってもらわないとこちらとしては面白くありませんから。えぇ。ところで、貴方は貴方で、とっとと戦いをやめてしまって。一体どういうつもりですか」
 GMはフィアナの方を見る。共鳴も解かず、むっとしたままの顔だ。
「あんなにしっかり守られていたら戦う気にならないわ。仲間同士で争い合うって時点で、私はあまり納得がいってないのに」
「それはそれは。難儀なゲームに参加してしまったと思ってくださいよ。御愁傷さま」
「……むぅ」
 フィアナは守とこっそり目配せする。愚神としての正体を現す雰囲気は無いが、怪しさはいや増すばかりだ。

 一方、そんなGMの様子を見つめながら、リュカ達とマコト達はお互いの情報をやり取りしていた。愚神は一体どこにいるのか。その疑問を解くために。
「そっちには愚神か従魔かいたかい」
「いなかったね。皆ただのNPCみたいだったよ」
『やはり怪しいですね。というか、あれまでNPCとなると、愚神は一体どこに潜んでいるやら、という話になります』
『やる事は決定ですわね』
 彼らのGMを見る目は、いよいよ険しくなっていく。

「おやおや、最後の一人が戻ってきたようですね」

 GMは胸を張ってつかつかと歩いてくるレミアの姿を目に留めた。シルクハットを目深に被り、GMは口元にうっすらと笑みを浮かべる。
「お疲れ様です。貴方のロールは果たせそうですか?」
『……ええもちろん。きっちり私は見定めたわ。誰がどの『ロール』を選んだのか。一人残さずにね。GM、貴方も例外じゃないわ』
 レミアは薄笑いを浮かべ、ぴしりとGMの鼻先を指差した。GMの笑みはふわりと潜み、小さく首を傾げる。
「おやおや? それは一体どのような意味で」
 GMはあくまですっとぼける。レミアは周囲に目配せした。言葉を交わす必要も無い。エージェント達はひっそりと共鳴し、武器を構えた。
『GM。貴方がここを根城にした愚神でしょう?』
「ふふ、はっはっは。それはそれは。面白い事をおっしゃいますねえ」
 慌てる様子も無く、余裕たっぷりにGMは笑う。
『否定しないんだな?』
 守は顔を顰め、すかさずパニッシュメントを放った。その眩い光は、GMの禍々しい正体を露わにする。
「全く困ったものです。私の正体に気付かなければ、お互い幸せに終われたかもしれないのに」
「何を言っとるんですかね! 愚神と幸せになる道なんざありゃしやせん!」
 ふわりと舞い、フィーは毒刃を見舞おうとする。しかし、GMが全身から橙の光を放った瞬間、全身に違和感を感じる。
『(スキルが練れない……!?)』
 慌てて身を翻し、フィーは間合いを取り直す。GMは瞳をぎらつかせ、フィーを見据えていた。
「これでも喰らえ!」
 フィアナはGMの頭上を取り、刃の雨を降らせる。白く輝くGMの身体は、刃をあっさり弾いてしまった。GMはへらへら嗤うと、白銀の銃を取り出した。
「GMに逆らうPLには、お仕置きしないとねぇ」
 レミアに向かって銀弾が放たれる。咄嗟に魔剣で受け止めるが、その衝撃は強い。痛みを引き受けた緋十郎は的確に自分のダメージを弾きだす。
「(むっ。渡されたスキルよりは威力が低いな。大したことはない)」
『(へえ。たまには役に立つわね)』
『僕達に渡されたスキルを、そのまま使っている……?』
 GMを観察していた凛道の呟きを聞き逃さず、それは高らかに快哉を上げた。
「ああ、君達を同士討ちで消耗させるために僕の力の一部を具現化して渡したんだ。いやいや、面白いねえこのドロップゾーンは!」
「言うほど消耗してないけどなァ? 潰すぞ?」
 氷斬は大胆不敵に銃を構える。だが同時に、全員の通信機から少女の半ば叫ぶような声が飛んできた。
「一度撤退してください! 皆さんのお陰でそのゾーンの状況は的確に把握できています。愚神の撃破は態勢を整えてからでも間に合います!」
「愚神が、目の前に居るのに……!」
 フィアナは顔を顰める。敵前で撤退になるのは嫌だった。マコトはそんな彼女を収めるように肩を叩く。
「ここは堪えて退こう。戦うにしても改めて準備した方が確実だ」
「あははっ! 退け退け。何人束になったって、PLはGMに敵いやしないのさ!」

 七人のエージェントは高笑いする愚神を睨みつける。それは嘲笑い、挑発するように彼らを見渡していた。

Continue to “Beat down the Minnesaenger.”

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 冷血なる破綻者
    氷斬 雹aa0842
    機械|19才|男性|命中



  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412
    人間|19才|女性|回避
  • クラッシュバーグ
    エリザ ビアンキaa2412hero002
    英雄|15才|女性|シャド
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ステイシス
    フィリアaa4205hero002
    英雄|10才|女性|シャド
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 裏切りを識る者
    ドールaa4210hero002
    英雄|18才|男性|カオ
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