本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】君も僕もアイドル!?

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/30 19:09

掲示板

オープニング

●アイドルですけど何か
「起きてくださいよー! もうすぐ本番なんですから!」
 眩しい部屋で目が覚めた。大きな鏡、強い照明。ここはメイク室? ――いや、楽屋か。
 それで、なぜ自分がここに?
「もう、みんな君のステージを待ってるんですからね?寝ぼけて転んじゃダメですよ」
 眼鏡にスーツ。騒々しいが人のよさそうな男が、怒っていないくせに怒るポーズをする。気心が知れた仲なのだ。
「プロデューサー」
「何?」
 自然に言葉が出て驚いた。いや、何を言っているんだ。彼はプロデューサー。当たり前じゃないか。
 そして、そう、自分はアイドルだ。

●ハンドアウト配布
 ようこそ、「アイドル系テーブルトークRPG」の世界へ!
・みなさんは芸能事務所・874プロ(はなぢぷろ)に所属するアイドルです。今から事務所主催のライブがあり、交代でステージに立ちます。
・男性アイドルと女性アイドルが混在していて構いません。また男女混合ユニットも可です。
・基本的には能力者と英雄のユニットとします。ソロ、能力者同士・英雄同士のユニット、複数名のグループでも構いません。
・初舞台を踏む新人から人気アイドルまで、設定は自由とします。
・最後は全員集合で歌を歌ってフィナーレです。曲中も自分らしくアピールしてください。曲はベタベタのアイドルソング。以下が歌詞です。


『僕らはアイドル』

(Aメロ・女子)
夢みたいな時間をあげる メロディに身を任せて
魔法使いはここにいるよ 熱い視線、力に変えて

(Bメロ・男子)
飛べるよ 胸が騒ぐほどに体は軽くなるんだ
飛べるよ だから今夜君の部屋のドアを叩くんだ

(サビ・全員)
星のステージ マイク向けたらレスポンス返してね
夢がスコール 決して難しいことじゃない叶うよ
星のステージ 泣き出しそうなときは思い出して
さぁアンコール 力振り絞って笑顔で歌うよ

ステージ降りたら君のとこまで
走っていくから抱き締め返して
そうさ、僕らはアイドル

※パートの分担は予定です。参加人数によってこちらで調整します。

解説

ミッションタイプ:【エリア探索】
 このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
 詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。
――――――――――
・最初に全員集合してMCを行います。内容は軽い挨拶と自己紹介です。キャッチフレーズや、ファンとの合わせ技などはご自由に
・パフォーマンスは自由、歌やダンスはもちろん、演武、射撃、専門分野の講義、コント……etc、アイドルらしからぬことをしてもファンはキャーキャー言ってくれるはずです。
・ラストはアンコールとしてOPにある曲をみんなで歌います。
・客層(男性多め、若者多めなど)の指定なども、あればどうぞ。
・OPを踏襲し、自分はアイドルだと思い込んでいる設定を推奨しますが、強制ではありません。たまに我に返る、やけになってノリノリで演技するというのもOKです。
・既存の歌詞や替え歌の使用はお控えください。歌唱希望とあれば、フルバージョンとはいきませんがマスターが歌詞を書くこともできます。

リプレイ


●Ready?
(ここが今回の世界ね。えー、と今回は共鳴できなくて……)
「シリウス……ぼーっとしてて、大丈夫ですか?」
 『神』の性質ゆえか正気を保った『破壊神?』シリウス(aa2842hero001)の顔を新星 魅流沙(aa2842)が覗き込む。
「今日は大事な……えっと……あ、そうです。シリウスとの初舞台ですから、お互い頑張りましょう!」
(魅流沙は飲まれてるのか)
 ならば好きなように楽しんでやろう。
「わかった。ちょい待ち、今カバー作る!」
 カバーとは『設定』の意なのだが。
「カバー? 今日歌うのはオリジナル曲ですよね?」
 そこで魅流沙は思い出してしまった、今日は苦手な歌唱にも挑戦するのだ。
「今更ですけど……私、歌は」
「ああん?」
「ガ、ガンバリマス」
 楽屋のソファに伸びているのは神鳥 紅梅(aa3146)。
「はぁ……今日も下僕共から搾取する一日が始まるのう」
「さぁて、オレ様の美貌で人間共を魅了してやるとするか」
 傲岸なセリフを言いつつ鏡を見るのはアルブレヒト・シャノワール(aa3146hero002)である。
「うふふぅっ♪ ベルちゃん達も交えてぇ、新ユニット結成のお披露目ですわぁっ♪」
 少女の姿に未亡人のお色気。禁断のアイドル、マリアンヌ・マリエール(aa3895)が言う。
「何だかよくわからないけど、楽しそうだからベルも頑張るよ~♪」
 大量に積まれた空の弁当箱の陰から、ぴょこっと顔を出してベル・ブベズリーブ(aa3895hero002)が答えた。
「今日も皆のために踊りまくるぜ」
「ああ、やろう」
 ダシュク バッツバウンド(aa0044)とアータル ディリングスター(aa0044hero001)は拳をぶつけ合い、気合を入れた。

●あいさつ!
 アイドルたちが円陣を組む。
「874プロ! ファイ、オー!」
 ナレーションに合わせ、順番に登壇する。女性の体を持つ元男子、無音 彼方(aa4329)もゾーンの影響でノリノリだ。
――男装の麗人・彼方ちゃんとロリータアイドル・除夜ちゃんの耽美な世界……!
「みんな! 待ってたかな!」
 とても複雑な状況であることがおわかり頂けただろうか。那由多乃刃 除夜(aa4329hero001)は常態を保っていたが、彼方に合わせてそれらしく振舞うつもりだ。
「はぁい、お兄ちゃん達。待ってたかしら」
 彼らはそれなりの地位を確立したアイドルである。彼方を王子様と崇拝する女性ファン、除夜のあどけなさの中に潜む魔性にノックアウトされた大きなオトモダチ、そして2人の関係に妄想の翼を広げる者などファン層は様々だ。
「今日は来てくれてありがとう! 楽しんでいってくれたまえ!」
 遠くの客に向け投げキッスのサービス。彼方が除夜を抱き上げると悲喜こもごもの歓声が上がる。
「ええ、今日は特別よ」
 除夜は小首をかしげて優雅に手を振る。長めの袖を軽く握っているのがあざとい。
――実力派ダンサーユニット! ホット&クールな彼らに酔いしれろ!
「皆―! 今日も集まってくれてさんきゅー!」
 投げキッスを連発しながら元気に登場したのはやんちゃ系ダンサー、ダシュク。ぶんぶんと振られる犬の尻尾が見えるようだ。アラサーというのは言わないお約束……ということはなく、むしろいじられまくっているがそれもまた魅力だ。
「俺達のダンス、見て行ってくれ」
 必殺の流し目でいきなりファンを悩殺するのは、ミステリアスな正統派美形、アータル。『王子』をイメージした華やかな白の衣装はダシュクとお揃いだ。ダシュクはアータルのキラキラオーラに負けるまいと奮起し、アータルは相棒のムードメイカー的能力に全幅の信頼を寄せる、というのがこのコンビの関係だ。
「お前ももうちょっと愛想良くしろってば!」
 顔を顰めたダシュクがアータルの後ろに回り込み、指で口角を上げようとする。ちょうど抱きつくような形で。
「ひゃめろ」
 断末魔の悲鳴が所々であがる。そう、萌え死だ。しかし彼女らはリビングデッド。もう腐ってるから大丈夫。
――美麗なビジュアルに、巧みな演奏技術! 心を奪われる覚悟はいいか?
「お待たせ、ハニーたち!」
「最高の時間を約束しよう」
 カール シェーンハイド(aa0632hero001)とレイ(aa0632)が言う。彼らの衣装は金糸で装飾を施した黒いジャケットとパンツだ。カールがにやりと笑う。
「気づいてくれたカンジかな? 実は俺たち、ダシュク&アータルとのコラボを披露する予定なんだぜ」
 ファンは「やばい!」「神コラボ!」「私得キタコレ!」などと沸き立つ。
――みんなのママと食いしん坊アイドル! 本日は重大発表があるそうですよ~。
 声援に応えて手を振りながら颯爽と舞台に上がるマリアンヌ。小動物のように愛らしいベルは棒状のスナック菓子を食べている。本番中なのだが気にしてはいけない。
「皆様ぁ~♪ わたくしのことはぁ、如何かママと思って下さいましねぇ♪」
 野太い「ママー!」の声援。それすら受け入れる包容力は流石だ。ゴージャスな薄桃色のドレスを着こなす可憐さとの両立はまさに奇跡という他ない。
「んまんま、美味しっ♪ あ、ベルだよー。皆ぁ~美味しいもの食べてるー?」
 今日も楽屋には大量の差し入れが届いている。ベルの衣装もお揃いの黄緑色のドレスだ。
「そして、こちらがわたくしたちの新しい『家族』ですの」
 マリアンヌが水色のドレスを着た美少女を抱き寄せる。
「マホラです! 応援してくれるお兄ちゃんお姉ちゃん達のために、ボクいっぱい頑張るよ!」
 天真爛漫な妹系アイドル、幻・A・ファビアン(aa3896)だ。隣に立つのはバゼルベルメルゼル(aa3896hero002)。
「愚民共よ、余こそがバゼルベルメルゼルである」
 その名には人には聞き取れない音が混じる。
「余にひれ伏す貴様らに、今宵至上の時間を与えてやろうぞ」
 真紅のゴシックドレスよりもさらに鮮烈な印象を与えるのは、額にある複眼と蟻の触角、そして背中の蜻蛉の翅。ドレスに包まれた臀部には蜂の腹部を有する。まさに『蟲の女王様』。
「余たちの名は『DelicaTessen』、覚えておくがよい」
 堂々とした声でユニット名を紹介すると、背景のスクリーンにも大きく文字が映し出される。
「改めてよろしくね~」
 ベルが言う。歓迎と祝福の拍手が巻き起こる。マリアンヌは幸せそうに微笑み、初ステージに立つ幻も委縮することなく手を振って声援に応える。
――『希望を謳う歌姫』と称されるアーティスト、歌は祈りだと信じている……!
「はろろん♪ ボクはいのり、小詩いのりだよ。もう何度もテレビに出させて貰ってるから、知ってくれてる人もいるかな? 今日はよろしくね!」
 現実世界でもアイドルとして活躍する小詩 いのり(aa1420)は流石の安定感。英雄のセバス=チャン(aa1420hero001)は裏方担当であるため、モニター越しにアイドルたちの雄姿を見守る。
――本業の巫女に集中するため本日が最後のステージ! 仲良しスピリチュアルアイドル!
「サキです!」
「ムラサキです!」
「「ふたりで『カミカガリ』です!!」」
 天都 娑己(aa2459)と龍ノ紫刀(aa2459hero001)のコンビは巫女風の衣装で登場だ。会場から解散を惜しむ声が次々上がる。
――会場へお越しの姫たち、お待たせ致しました! HALTO☆王子のお出ましです!
「みんなー! 今日は874プロライブに来てくれてありがとう! 僕らの為にこんなに来てくれるなんて……すっごく嬉しいよ! 僕らも全力でお返しするから、全力で楽しんでいってね!」
 HALTO☆こと一ノ瀬 春翔(aa3715)が次を促すとエディス・ホワイトクイーン(aa3715hero002)が姿を現し、恭しくお辞儀する。
――泣き歌の女王エディス、その物語は粉雪のように儚く……!
「皆様の前でこうして歌えること……それだけで私は嬉しいです。どうか最後まで、全員で楽しみましょう」
――美人プロデューサーが見出した原石、生まれしは奇跡の2連星!
「はじめまして、魅流沙ですっ! ネットではシリウスという名前で活動してましたっ」
 会場の一部から驚喜の声。知る人ぞ知る存在というわけだ。
「つーわけで今日から『Wシリウス』っつーことでよろしくゥ!」
 プロデューサーとして多くのファンを持つシリウス。彼女の表舞台への登場に会場が沸き上がる。
――廃課金クイーンと天使すぎる男の娘の登場だ!
「この妾に自己紹介させようとはいい身分だな。おいそこの下僕! 妾の名を言うてみよ!」
「はっ、神鳥 紅梅サマでありますっ!」
 名を呼ぶ光栄を授かった男が卑屈な目を輝かせて言う。
「そうだ。妾こそ麗しの黒猫課金廃人・神鳥紅梅であるッ! 二度は言わぬ、忘れもさせん。忘れる愚か者には仕置きの腹パンを食らわせてやろう」
 地響きのような唸り声。これもカリスマ性か。
「はいはーい! 次、ボクの番ねっ」
 男の娘は天使のような翼を広げて言う。
「キミのハートにずきゅんと一撃、アルブレヒト・シャノワールでっす! 今日は皆、ボクと素敵な恋に堕ちようねっ。よっろしくぅ」
 ウインクからの投げキッスという、王道コンボ。男女入り混じった悲鳴が聞こえた。
 以上が874プロ自慢のアイドルたちだ。メンバー紹介を終えて一時降壇する。
「あれ? 俺何を」
「はいはい彼方、もうしばらく演じることよ」
 除夜が頬に触れてゆったりと言う。彼方は『正気』に戻ったようだ。

●前半戦!
「準備が整いましたぞ、お嬢様」
 舞台袖で目を閉じたいのりに、マイク越しのセバス=チャンの声が合図する。会場を温めること――トップバッターの使命を帯びて、いのりが往く。
「よろしくね、じいや」
 『天使のスタンドマイク』と『エンジェルスビット:月』で観客を包み込むような立体的な音響を演出する。飛び回るビットはまるで妖精。フリルたっぷりの白いミニドレスをきたいのりはさながら妖精の女王だ。
「『Wake Up!!』いっくよ~!」
 イントロのメロディは、水晶のベルをガラスのスティックで叩いたような幻想的な音で奏でられる。いのりは本物の羽が生えたように軽くステップを踏む。腰のリボンがターンでたなびき、ふわふわのスカートが前後へのステップでふりふり揺れる。
――深い森の荊の城、眠る君 傍らで僕は歌う、祈りをこめて
 祈りのポーズのように両手でマイクを握る。
――永遠(とわ)の眠りの呪いから解放したい 森の外へ飛び出そう、新たな世界へ
 柔らかく弾むAメロは、爆発のときを待つようなBメロへ。
――「私なんて可愛くない」それが君の呪い
――君の中の『魔女』を倒せ! 自信を持ってよ!
 1、2、3と可愛らしいパンチを繰り出したら、ノリノリのサビへ。――さぁ、目を覚ませ!
――夢から醒めて、夢を見よう! 君は何がしたい?
――自分で自分愛せるような素敵な君になれるさ
 会場を右、左、真ん中と順番に指差してウインク。
――悪夢を払い、笑ってみよう!君はとても素敵
――いつか誰かと、とろけるような恋をする日も来るかもね
「みんなー! 盛り上がってるー!? ヘイ、アリーナ!?」
――(I pray with you,Inori!)
「ヘイ、2階席ー!?」
――(I pray with you,Inori!)
「OK、この調子でどんどん行ってみよう!」
――夢から醒めて、夢を見よう! 君を見守ってる
――僕の歌が届けばいいな謙虚な眠り姫に
 男性ファンは勿論、この曲のメインターゲットである恋する女子にも届くように。最高の笑顔で歌う。
――霧も雲も晴れてたんだ! 君が笑ったときから 
――希望の歌、一緒に歌おう 聞かせてほしいんだよ
 この『祈り』が届くと信じて。
――恋をする日が来たら、僕に一番に教えてね!
 「一番に」と人差し指を立て、そのまま頬に軽くあてる。首傾げ&ウインクも惜しみなく。会場の熱を感じながら、いのりは退場した。
 ジャケットとパンツというラフな装いで登場したシリウスがギターハープを奏でる。アラビアン風の妖しげなイントロ。天女の羽衣のような舞布をまとって魅流沙が登場する。曲名は『Dream night Dance』。
――華やかな衣装まとって別人みたいに 明けるまで王城(ここ)で踊ろうか魅惑のダンスを
 不安定な歌声に戸惑うのは束の間。
――交わされる視線の隙間を 流れる音楽 いつの世も人を変えるのは色恋沙汰
 Aメロ後の間奏、魅流沙は布を高く放り投げる。腰を小刻みに動かす独特の動きで衣装の飾りがシャラシャラ揺れる。他のアイドルと一線を画すのは、このベリーダンスだ。
――「オープンセサミ」そんな呪文くらいで 私の心、見透かしたつもりなら甘いわ
 歓声にもエキゾチックな熱が宿ったのは気のせいだろうか。
――不思議な不思議な物語 魔法の物語 あなたを誘(いざな)う夢の夜 私はシェヘラザード
 シリウスのコーラスで、より幻想的なムードが高まる。
――ひと夜に一篇語られる無限の物語 あなたは知らず落ちてゆく私との恋に
 一瞬、音が止まる。再開したパーカッションの音に合わせて、魅流沙が優美に舞う。腰履きにしたロングドレスがさざ波のごとくゆらぐ。シリウスのギターハープが重なると舞踏は激しくなる。大きく背を反らしたり派手にターンしてみたり。髪すらも表現の一部だ。激しい恋を情熱的なダンスで表現する。
――命をかけて紡がれる夢幻の物語 あなたとふたり落ちましょう運命の恋に
 『音痴はしょうがねー。最後の音だけ外さないようにしな』、シリウスの言葉を胸に最後の高音を長く伸ばす。
――ha-(ha-a-)
 二人のハーモニーが途切れたとき、大きな拍手が聞こえた。シリウスが「よくやった」とばかりに口の端を上げた。
「面倒臭い……」
 ため息を漏らしつつ紅梅が現れる。
「準備できたよぉ~! はわわっ、コードに引っかかっちゃったぁ」
 アルブレヒトが「てへっ☆」と照れ笑いして起き上がると、モニターに映ったのは紅梅お気に入りのソシャゲ。下僕をどかし客席に座る。
「おい後ろの! 妾の尻尾に触るでない!」
 必殺・尻尾ビンタ。嫉妬の吐息が渦巻く。
「恒例の30連ガチャ回し行っくよ~!」
「いつも通り最高レアの出た枚数分のサインと腹パンをやろう……さぁ、刮目せよ!」
――レーア! レーア!
 引き当てたのは。
「……で、出たぞぉ!」
 前回、前々回のライブから数えて90連目の正直。興奮により30人くらいに腹パンやら尻尾ビンタを食らわせすっきりした小梅がステージに上がる。
「曲は『きゅんきゅんちゅーん☆』だよっ」
「早く終わらせて課金したいぞ……」
――止められないボクらのキラーチューンで~ちゅっ(きゅんきゅん)
 歌うのはファンとの掛け合いが楽しいアッパーチューンだ。
――明日からはキミたち恋の虜で~しょっ?(ハイハイ!)
 アウトロの台詞パートはアルブレヒトの担当。今日は最前列の眼鏡女子をロックオンだ。
「ほら、ボクの瞳を見て? このハートはキミの心。瞼を閉じれば誰にも見えないボクだけの物だ」
 と、目を閉じる。
「あぅ……」
「うふふっ奪っちゃったね! 返してほしかったらボクを恋に落としてみて。キミの瞳に天使のボクを捕えてみせてよ。お・ね・が・い」
「が、ががが頑張りますぅ!」
 曲が終わって一言。
「みんな! 今日はありがとー! ボクの事、これからも応援してね?」
「物販への廃課金よろしくじゃ」
 去り際も対照的な二名であった。暗転。
 数十秒ほどの間。やがて暗闇に音楽が流れ始める。スポットライトがステージの端に立った除夜を照らし出した。
――交差点の真ん中で見ず知らずのふたり抱き合った ママが驚いて私を呼んでるわ
 除夜とは逆の舞台端に彼方。
――君のこと生まれるずっと前から好きだったんだよ 運命が君と僕、巡り合わせたんだ
 再び除夜パート。
――あの仮面舞踏会を抜け出して誓いあったよね、永遠を
 彼方は歌っている間も観客に目を合わせ、女性ファンにはウインクを忘れない。
――あの月の夜は僕が女の子、君が男の子だったっけ
 舞台の真ん中で二人の手が重なる。
――君がどんな風に生まれ変わったって愛してる だからタイムトラベラー、見ているならこの愛を証言してよ
――君とどんな風にこの時間を生きていこうか きっと未来人たちは、僕らの愛の記録を神話にするだろう
 ミュージカルのようなステージは大きな拍手で締めくくられた。
 楽屋に戻って一息つくと除夜が立ち上がる。
「除夜、どこ行くんだ?」
「ちょっとね」
(何ゆえこのような状況になったのかは知っておきたいからの)
 こっそりと内開きのドアを開けると、現れたのは無表情のプロデューサー。
「なっ!?」
「仕事に集中してくださいよ~」
 口を動かしているのは若い男なのに。
『僕たちを楽しませることが出来たら』
『ここから出してあげるからさ』
 続いたのは子供の声。途端に彼は気絶し、質問をすることすら許されなかった。

●後半戦!
――元気が無いならお守り代わりに抱きしめるよぎゅっと ほんわか、ふわふわ、あったかいよね 君が大好き
――君と一緒なら今日も大吉、はりきっていこうよ ほっこり?どきどき?どっちもだよね 君との毎日
 和楽器を使ったポップスナンバーの次は恒例のコーナー。娑己が祝詞を上げるとにわかに荘厳な空気が会場を包む。
「今日は……とあるところの神様を下ろします!」
 サキが集中している間、ムラサキは桜の花弁を散らしながら舞う。
 やがてサキの雰囲気が変わる。神々しさの中に万物の母のような大らかさが混じる。
「この女(め)の子の魂は螺鈿のごとく輝く。汝らとの交わりが彩りを与えたのだ。……巫女として独占する定め、許したまへ。詫びには足りぬだろうが、汝らに祝福を」
 何が起こったのか。心はとても静かなのに体がぽわりと暖まる。ふらついたサキをムラサキが支えた。
 最後は皆で声を揃える。
――祓え給い、清め給え、神(かむ)ながら守り給い、幸(さきわ)え給え。
 お祓い下さい、お清め下さい、神様のお力によりお守り下さい、幸せにして下さい――皆の幸せを彼女らは切に願った。
「みんな温まってるかな? せーのっ!」
――HALTO☆~!!
「まだまだ! もっともっとイケるよね! じゃあ、この曲でもっと上まで! 僕が連れて行ってあげる! 『Super KIRAMEKI sunshine』!!」
 HALTO☆は王道のアイドルソングをさわやかに歌い上げる。
――太陽キラめいてるのは誰かのこと励ますため なんだか君の笑顔みたいだね My princess
 客席に向かって手を伸ばし、ウインクをお見舞いだ。
――僕をトキめかせるのは誰かじゃダメ! 君なんだよ 今その声で呼んでほしいんだ My sunshine
「もっともっと声あげて!」
 ファンたちはリフレインの大合唱で答える。
――More and More! Give me sunshine!
「そう! あはっ! みんな大好きだよー!!」
 その言葉と笑顔にファンたちが卒倒しかけながら声援を送る。
――More and More! KIRAMEKI sunshine!
 舞台裏ではエディスが恍惚の笑みを浮かべていた。
「おにぃちゃん……あはぁ……かっこいい……うふふ……」
 色々な意味で公開不可な自分を引っ込め、歌姫エディスが登壇する。
「私からは……もう多くは言いません。この歌に! 全てを!」
――眠る貴方の吐息、唇で盗み 涙落とす
 歌詞通りの吐息交じりの声。
――ロミオとジュリエットより罪深い二人、もう戻れない
 愁いを帯びた遠い視線が世界観とマッチする。
――かすかに小夜啼鳥(ナイチンゲール)さえずる間は、その腕の中に
 銀糸のような髪がかすかにさらさら揺れる。
――破滅はもうきっと避けられないから今は、愛の唄を
 触れたら壊れそうな、薄いガラスのような歌声。紡ぐのは禁断の愛。
(おにぃちゃん見てくれてるかなぁ……褒めてくれるかなぁ……褒めて欲しいなぁ……)
 が、思考の内容はこの通り。歌のモデルはお察しの通りである。
「エディスちゃん、闇深いね……尊いね……」
 ファン的には「それがいい」そうだ。アイドル業界って奥深い。
「新曲『らぶですげっちゅー』をご披露いたしますわぁ」
 ピコピコという電子音、舌を噛みそうなアップテンポ。『DelicaTessen』が歌うのは所謂、電波ソングだ。
――ママみたいに包み込んであげるし
 マリアンヌが幻を抱き締め、マイクを口に近づけてやる。
――妹になって甘えてあげるし
――女王様のキックもいかがかしら
 マリアンヌと背中合わせになり腕組みをするのはバゼル。
――あーもう君可愛いからたべちゃう(きゃー)
 半セリフ化した歌詞でベルが皆を追いかける。3人は悲鳴を上げて逃げる。
――マッドネス(death?)いえいえ愛情だったです ダークネス(death?)あなたに愛憎マッハです
 一糸乱れぬサイドステップでBメロへ。
――つまりラブ(ラブ!)ほえほえ恋情パンクです ガチでラブ(ラブ!)あなたに告白タイムです
「せーの!」
 幻の合図で4人が声を合わせて叫ぶ。
――大好き~!
 「俺も~」の声。間奏では自由にアピールする。
「うふふふぅ、皆様ぁ~わたくし達の歌ぁ、楽しんでくれてますかしらぁ?」
「お兄ちゃんお姉ちゃん、ボクのコトも一杯見てねっ」
「マホちゃぁんっ♪ その調子ですわぁ、次はぁこうですわよぉっ♪」
 豊満な胸に顔をうずめ幸せそうに頬を染める幻。
「えへへぇ♪ マリィママに抱っこされるの気持ちいぃよぉ♪」
 ファンはちょっと危険な絵面への背徳感と悦びを隠しきれない。
 バゼルは放物線を描くようにマシュマロを投げ、ベルが口でキャッチする。カラフルなマカロンやチョコレートが飛ぶ。
「んきゅ、もきゅ、はぐっ♪んまんまっ、んんぅ~もっと欲しい」
『無駄に洗練された無駄のない無駄な動き』と呼ばれるおなじみのパフォーマンス。新メンバーとの息もぴったりだ。
「まだ欲するというか、卑しい奴め。ならば受け取ってみせよ、そら!」
 猫のように軽やかに跳んで空中キャッチもお手の物。全て人並み外れた食い意地のなせる業と思われる。
「えーっと、こうで良いの、かな? んんぅ、お腹すいたよぉ~」
 だが、物欲しげな困り顔や食事中の笑顔は紛れもなくアイドル。バゼルも満足気だ。尚、彼女がお菓子をどこから取り出しているのかは謎とのことだ。
――フリルからドリル 悪い子はお仕置き
 ドレスをちょんとつまみあげてステップ。
――パニエからバニラ 甘い罠仕掛ける
 ベルと幻が元気いっぱいに、ちょっぴりあざとく。
――クール気取るドール 綺麗なだけじゃダメ
 マリアンヌとバゼルが吐息交じりに色っぽい表情で。
――ワルキューレ急襲 可憐系死神が心臓狩っちゃいますです!
 目まぐるしい旋律のアウトロ。
――イタダキ!(Wao!)
 可愛らしいシャウトの余韻を残して曲が終わる。バゼルは菓子を全てキャッチした褒美としてベルを抱き締め、撫で回す。
「くく、愛い奴め。褒美を取らせてやらねばな。愚民共は見ておれ」
 そして直接クッキーを食べさせる、口移しで。悲鳴交じりの歓声が沸き起こる。
「ママぁ~! ボクも褒めて褒めて!」
「うふふ、いい子ねぇマホちゃん。でもそろそろ時間なの。続きは奥で、ね?」
「はぁい♪」
 カオスでハッピーな時間が終わりを告げた。
「聞いてくれ、『惰弱妄言breakfast』」
「本日限定コラボバージョンだぜ!」
 レイとカールがギターとベースをかき鳴らし始めると、ダシュクは華麗にバック転を決める。
――雨音が窓を叩いて目覚めるholiday 予定なんかなくて
 ダンサー組は眠るように目を閉じ、顔を伏せる。
――傘さした君が手を振るのを妄想 Weak guy 二度寝すらできない
 そして、再び激しく踊り出す。
――女神のような君は残酷 きっと俺だけじゃなくて誰にでも優しいから
 アータルがダシュクの肩を叩き、すれ違う。ダシュクは後姿に手を伸ばす。
――迷子のような気分で放浪 この迷宮抜けた先、君がいなきゃ死んじゃいそう
 切ないレイの視線はファンたちに「彼の想い人は自分だ」と錯覚させる。
――真っ白なミルクの中で溺れてる
――これが恋? 今までとは随分違ってて
 カールがレイと背中合わせになる位置へ移動する。めまぐるしく弦を弾きながらも、客席へのウインクで乙女たちをときめかせる使命を怠らない。
――パニックさ 君のことを独占したいのに
――さぁ、もがけ! 流れに逆らえ! 溺死する前に何かを掴むんだ
「みんな、ノってるかーー!」
 歓声が答える。ダシュクとアータルが客席にマイクを向け、コールを先導する。
――(Death in the milk?)
――ほの甘い窒息を
――(Death in the milk?)
――続けてる場合じゃない
――(Break! fast!)
――停滞する現状を
――(Break! fast!)
――そうだ 迅速に、ぶっ壊せ!
 囁くようにレイが放つ言葉は。
「I love you.」
――真っ白なミルクの中で溺れよう
――「これが恋」開き直って無様にもがこうか
 盛り上がり最高潮の大サビ。ダシュクはレイの隣に移動してエアギターを始める。どうやらアドリブらしい。くすりと笑ったアータルも華麗なターンを決めカールの側へ。同様にエアベースを奏でる。貴重なシーンだ。
――シャングリラ その笑顔が唯一の合鍵
――この想い、ぶつけるんだ! ためらってたら何も掴めない
 演奏が徐々にスピードを落とす。
――わがままな俺を赦(ゆる)してくれるなら 俺のためだけに女神(きみ)よ笑っていて
 イントロと同じメロディが再来すると、潔く曲の終焉を告げた。
「最っ高に熱かったぜ!」
 カールが言うとレイが頷いて微笑む。
「声援ありがとう」
 ダンスで乱れた息を整えながらダシュクは客席に手を振る。
「超~楽しかったぜ! すっげぇはしゃいだわ~」
「俺もだ。いつも皆に元気をもらっている。……ありがとう」
 2組は交代で握手を交わし、ステージを終えた。

●フィナーレ!
「アンコールありがとう!」
 ムラサキの声。ステージに全員が集合する。サキは涙をこらえて笑う。
「私たちにとってはラストライブ……! みんなの魂をひとつに!!!」
 お馴染みのイントロに合わせて踊ったり、飛び跳ねたり。色とりどりのサイリウムも揺れる。ムラサキは大きく手を振る。
「後ろの人もちゃんと見えてるよー!」
 歌い出しはいのり、幻、魅流沙、ベル、アルブレヒトが元気よく。
――夢みたいな時間をあげる メロディに身を任せて
 次は沙己、マリアンヌ、除夜、エディス、小梅が甘く歌い上げる。
――魔法使いはここにいるよ 熱い視線、力に変えて
 キーを上げた男性パートを凛とした歌声で務めるのは、シリウス、ムラサキ、彼方、バゼル。
――飛べるよ 胸が騒ぐほどに体は軽くなるんだ(3,2,1,try!)
 最後は情熱的に、HALTO☆、レイ、カールが歌う。
――飛べるよ だから今夜君の部屋のドアを叩くんだ(3,2,1,fly!)
 サビはいのりとレイとカールがハモリを担当し、ダシュクとアータルが観客と共に合いの手を入れる。アルブレヒトはちゃっかりセンター位置にいる。
――星のステージ マイク向けたらレスポンス返してね(twinkle stars)
――夢がスコール 決して難しいことじゃない叶うよ(叶うよ)
――星のステージ 泣き出しそうなときは思い出して(cheerful stars)
――さぁアンコール 力振り絞って笑顔で歌うよ(見てるよ)
「いっしょにー!」
 サキの合図で客たちも歌い出す。
――ステージ降りたら君のとこまで走っていくから抱き締め返して
――そうさ、僕らは
 ダシュクとアータルがHALTO☆の両側からマイクを持つ。女子たちは同パートの者と抱き合ってマイクを囲む。
――アイドル
 最後は客席へと手を伸ばす。アンコールが終わった。皆に背中を押され、サキとムラサキがステージ中央へ。
「みんなが私たちから魂のパワーをもらうって言ってくれてるみたいに、私たちはファンのみんなから魂のパワーをもらってて……みんなの笑顔が私たちを輝かせてくれます! 辛いときもあったけど、ここまで頑張ってこれたのも本当にファンの人たちがいてくれたからで、みんなのおかげで……」
 感極まって滲む涙。「がんばれ」の声がこだまする。
「みんな! 今までほんとうにありがとうっ!!」
「あたしは……そうね、ひとことだけ。みんなに会えて幸せでした、ありがとう」
 誰からともなく手を差し出して全員で手を繋ぎ、深くお辞儀。スポットライトの光が強くなり、彼らは小さくなっていくBGMと共に意識をフェードアウトさせた。
――GAME CLEAR!!

●『普通の男の子と女の子』に戻った結果
「やっちまった……やっちまったよおい…」
 目に見えてヘコむ彼方を除夜は笑いながら宥める。
「まあまあ、これも良い経験よ。なあ『彼方くん』」
 ダシュクはしきりに首を傾げている。
(なんか物凄く思い出したくない気がする)
 アータルに至っては一言。
「しにたい」
 娑己と紫刀は顔を見合わせ、ふっと噴き出した。
「無意識にとんでもないアイドルになってたね!」
「恥を捨ててやりきったわ……」
 この世の終わりの如き大悶絶を見せる春翔おにいちゃんには、珍しくエディスがフォローに回っていた。
「か、かっこよかったよ!?」
「ああ……もう……無理……しにたい……」
 黒歴史と呼んでも良い。だから忘れないでほしい、あの夢のステージを。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 復活の狼煙
    ダシュク バッツバウンドaa0044
    人間|27才|男性|攻撃
  • 復活の狼煙
    アータル ディリングスターaa0044hero001
    英雄|23才|男性|ドレ
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 初心者彼女
    天都 娑己aa2459
    人間|16才|女性|攻撃
  • 弄する漆黒の策士
    龍ノ紫刀aa2459hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 魅惑の踊り子
    新星 魅流沙aa2842
    人間|20才|女性|生命
  • 疾風迅雷
    『破壊神?』シリウスaa2842hero001
    英雄|21才|女性|ソフィ
  • 筋金入りの引き籠り
    神鳥 紅梅aa3146
    獣人|20才|女性|攻撃
  • 世話焼き英雄
    アルブレヒト・シャノワールaa3146hero002
    英雄|20才|女性|バト
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 希望の意義を守る者
    エディス・ホワイトクイーンaa3715hero002
    英雄|25才|女性|カオ
  • 奇跡のロリ未亡人
    マリアンヌ・マリエールaa3895
    獣人|12才|女性|命中
  • エージェント
    ベル・ブベズリーブaa3895hero002
    英雄|10才|女性|シャド
  • エージェント
    幻・A・ファビアンaa3896
    獣人|10才|?|命中
  • エージェント
    バゼルベルメルゼルaa3896hero002
    英雄|12才|女性|カオ
  • ひとひらの想い
    無音 彼方aa4329
    人間|17才|?|回避
  • 鉄壁の仮面
    那由多乃刃 除夜aa4329hero001
    英雄|11才|女性|シャド
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