本部

パンドラの誘惑

東川 善通

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/13 11:49

掲示板

オープニング

●忘れ物したの
 書斎で仕事をしている紳士。その書斎にコンコンと控えめにノックをして、入ってきた少女はその紳士の脇腹をつつく。
「ん、お父さんに用かい?」
 少女はその言葉にこくりと頷く。そして、父の傍まで来ると話せないのか手話で言いたいことを告げる。
「そうか。うん、あちらに行く予定があるからお父さんが取ってこよう。だから、いい子にして待っていなさい」
 こくんと頷き、笑顔を浮かべた少女に父もつられ笑みを浮かべた。そして、まだまだ小さなその頭を撫でた。
 ただ、少女の父は家を出たきり、戻ってこなかった。


●いい子で待ってるから
「資産家の波殿睦氏が行方不明となっており、娘の嵐子さんから捜索願が出されました。生活安全課において、足取り捜査が行われました。ですが、足取りが掴めたのは以前住まわれていたとされる屋敷までで、そこ以降の消息が掴めていないとのこと」
 H.O.P.Eのブリーフィングルームでそのような報告が地元警察の女性から告げられた。薄暗くした部屋のスクリーンに映し出された波殿氏の写真。
「屋敷内はドロップゾーンとなっている模様。ただ、規模が屋敷内に留まっていることからまだ出来て間もないものと推測されます」
 次に映し出されたのはドロップゾーンと化している屋敷の写真だった。それなりの大きさがあるようで、写真を見る限り、三階まである。そして、次に映し出された窓には従魔らしき影が映っていた。
「尚、波殿氏が屋敷に行った理由は嵐子さんの忘れもので母親の形見である指輪を取るためのこと。そのため、嵐子さんは波殿氏が帰ってこないのは自分がそのような頼みごとをしたためだと気にしています」
「しかし、屋敷に踏み込むのであれば、所有者の許可もいるだろう。戦闘ともなれば、破損も免れない」
「そこはご心配なく。弁護士を通し、許可は取得済みです。また、戦闘になり破損する可能性が大であることを伝えた際にはお父上である波殿氏が無事であればよいとのことでした」
 エージェントだからと言って強引に捜索はできないぞと声を上げた男性に女性は冷静に言葉を返す。
「とはいえ、波殿氏がゾーン内にいるとすれば、一刻を要する事態であることをお忘れなく」
 女性はそう言うと持っていた捜査ファイルを閉じ、「あなたがたのご健闘を祈っております」そう言って、一礼をすると部屋を退出した。しかし、すぐに「言い忘れてました」といって、部屋に戻ってきた。
「さぁ、入って。大丈夫よ、この方たちがきっとお父君を助けてくれるから」
 彼女が優しく声をかけると扉の向こうから現れたのは不安げな表情をした少女だった。その子は先程、スクリーンに移されていた波殿嵐子その子だった。嵐子は部屋に入ると女性にずっと握っていたのだろうくしゃくしゃの紙を渡した。女性はそれを受け取る。
「嵐子さんからお願いです。『どうか、お父さんを助けてください。たぶん、お父さんのことだから、私の約束を守ろうとするかもしれません。でも、指輪よりもお父さんのほうが大事だから。どうかお願いします』とのことです」
 紙の内容を読み終えると女性の隣で嵐子は手話で「お願いします」と言葉にすると頭を下げた。
「どうか、嵐子さんに無事お父君を会わせてあげてください」
 私からもお願い申し上げますと頭を下げ、女性は「さぁ、弁護士のお兄さんも待ってるから行きましょう」と嵐子を連れ、退出していった。

解説

 任務は波殿氏の救出およびドロップゾーンの消滅。

●従魔
・鬼火
 屋敷内を浮遊していると思われ、窓際で揺れ動く様が確認されている。また、個体数に関しては不明。突如、現れては消えなどをしているため、出現は神出鬼没といえるだろう。屋敷全体に分布している模様。
 イマーゴ級。浮遊しており、不用意に触れると着火する恐れあり。
 攻撃としては体当たりが主だが、時折、火を飛ばすこともある。
 攻撃値、防御値などは低く、魔攻に関しては若干高め。

・狂骨
 上記同様、屋敷内を徘徊している模様。窓枠との比較により、高さから大きさは一m程。個体数は鬼火よりも数が少ないと思われる。
 ミーレス級。全体的にも戦闘値は低いが、複数集まると厄介である。出来る限り一体一体倒していくのが良いだろう。
 群れた際は次々と襲い掛かる。一体及び数体であれば、近くのものを投げる及び振り下ろす。

・がしゃどくろ
 狂骨よりも一際大きいものが二~三階窓にて確認。三階洋室にて目撃が多い。大きさ的には二m程あるのではないかとされます。また監視隊より、恐らくそれがゾーンの支配者《ゾーンルーラー》ではないかと推測される。
 デクリオ級。戦闘値は狂骨よりも攻撃と防御、生命値が高くなっている。
 棒状のものを持っている姿が確認されており、武器であるとされる。

●波殿家旧住宅
 三階建ての洋館。一階はキッチンリビングと広間があり、二階は洋室が五部屋あるがそのうち二部屋は夫婦の部屋だったとのこと。三階はバルコニーと洋室と書斎となっている。石造りの屋敷ながら、その強度は高く、多少の衝撃ではびくともしない。

●波殿睦氏
 三階書斎にいる可能性が高いとされ、波殿氏と思われる人影が書斎の窓より確認されている。しかし、その場から動く様子がないことから、若干衰弱している可能性あり。

リプレイ

●どうか、お願いします
 エージェントたちは波殿家の邸宅に集まっていた。
「お初にお目にかかります。波殿家の顧問弁護士をしております、希楽と申します。また、本日はお集まりいただきましてありがとうございます」
 まだまだ若い風貌の青年は席についているえージョンたちに深々とお辞儀をした。そして、顔を上げると全員の顔を一瞥した後、本題を切りだした。
「皆様からH.O.P.Eに申請されました道具につきまして、こちらで準備をさせていただきました」
 屋敷に住んでいる使用人と思われる人々は部屋に一礼をすると通信機をエージェントたちの前に置く。そして、去り際にも一礼をして、去って行った。
「これはありがたいな」
 メイナード(aa0655)がそう告げれば、隣に座っていたAlice:IDEA(aa0655hero001)はメイナードも持っている通信機と目の前に置かれたのを見比べながら「わたしも持っておいた方がよろしいでしょうか?」とメイナードに尋ねていた。
「通信機、ありがとうございます。で、もう一つ、申請していたと思うんですけど」
 立ち上がり、ぺこりと頭を下げた少女向井 千秋(aa0021)がそう希楽に尋ねれば、準備して外に置いてあるとのことだった。
「できれば、娘さんの手紙とかもあると助かるのですが」
 向井がホッとして座ったのを確認した後、カペラ(aa0157)が聞けば、何故手紙をと不思議そうな顔をしたため、アルデバラン(aa0157hero001)が理由を述べれば、以前依頼の際に持っていた手紙ならココにと部屋の隅に置いていたブリーフケースから取り出し、テーブルの上に置く。
「それでは、そちらは預からせていただきますね。ただ、わたしは一階からになりますので、三階突入半のどなたかに持っておいていただきたいのですけど」
 エステル バルヴィノヴァ(aa1165)はテーブルに置かれた手紙を両手で取ると、恭しく希楽に一礼をする。そして、どなたかにと三階から突入する予定のエージェントたちを見る。それに泥眼(aa1165hero001)は「そういう時は指名して差し上げるといいのよ」と言えばそうねと頷き、スッと見渡し目が合ったといわれ、驚く九字原 昂(aa0919)にお願いしますねと押し付けてしまった。
「重要なもの押し付けられたな」
「はは、そうだね。でも、預かったからにはちゃんと波殿氏には届けるよ」
「当然だ」
 隣に座っているベルフ(aa0919hero001)にそう言われ、苦笑いを浮かべるもののしっかり届けるよとなくさないようにジャケットのポッケに仕舞う。
「手紙ついでなんですが、屋敷の見取り図とかはありませんか?」
「見取り図ですか。少々確認してまいりますので、お待ちください」
 希楽は七城 志門(aa1084)にそう尋ねられ、探すために一度退出した。少しして扉が開き、戻ってきたのかと全員がそちらを向くと依頼人である嵐子が覗いていた。きょろきょろと中を覗いたかと思うとそろっと室内へと入ってくる。
「……お一つ、いかがですか?」
 そんな彼女に近づいたのは七城の隣に座っていたアルヴァード(aa1084hero001)だった。彼はいつも持っているお菓子を差し出していた。嵐子は驚きつつも持っているタブレットを上手く抱えながら両手を合わせ、いただく。一つ食べるとタブレットに「美味しかったです。ありがとう」と打ち込んでみせた。
「ところであんた、なにか用事があってきたのよね?」
 そう尋ねたのはアンブラル(aa0685hero001)だった。しかし、すぐに隣の千石 琉(aa0685)に咎められる。
「だって、そうじゃない。用事がないのにくるなんて」
「まぁ、貴公が言うことも間違ってはいない。しかし、彼女にも言うタイミングというものがあるだろう」
 口を尖らせたアンブラルに口を挟んだのはテミス(aa0866hero001)だった。そんなテミスの言葉に嵐子はぺこりと頭を下げたのち、全員に見えるようにタブレットを向けた。
『お父さんのために集まっていただき、ありがとうございます。お父さんの身も心配ではありますが、皆さまもお気をつけてください』
 皆さまに直接、お礼を言いたかったのでと続きに打ち込むと頭を下げ、退出しようとした。
「少しだけ、お話いいですか?」
 石井 菊次郎(aa0866)はそう嵐子に声をかけ、嵐子が頷くと一つ質問をした。
「お父さんはどんな人ですか?」
『お父さんはとても優しい人です。お母さんがいなくなってしまった時も私がさびしくないようにって家で仕事をしてくれました』
「あぁ、嵐子さんここに居たんですね。お姉さんたちが探してますよ」
『はい、わかりました。失礼します』
 戻ってきた希楽にそう言われると一礼をした後、部屋を後にした。希楽はそんな嵐子の姿がなくなってから、机の上に見つけてきた見取り図を開いた。
「古くからいらっしゃる方にも聞いたので、間違いないと思います」
「二階はやっぱり部屋多いですね。書斎にいなかったら、ちょっと大変かも」
 全員、見取り図を見ながら、三階はバルコニーに上れば問題なく侵入できそうだとか、書斎の位置などを確認を含め、話し合いが行われた。そして、話し合いが終われば、希楽が明日、屋敷までお送りしますと申し出、ありがたくその行為を受けた。


●皆さまの無事を祈って
 翌日、屋敷に到着した一行は計画通りに二班に分かれた。九字原、石井、メイナード、カペラの四人は用意してもらった梯子を上り、無事にバルコニーに配置することができた。そこから中の様子を伺うと、ウロウロしている狂骨の姿や壁をすり抜けて現れる鬼火などがいた。どうにもゾーンとなっている屋敷からは出てこないらしく、バルコニーにまでその姿を現すことはない。バルコニーと隣接しているがしゃどくろがいるであろう部屋を覗くと、そこには廊下を歩いている狂骨とは明らかに違い、衣類を着こんだ骸骨がガランとした部屋に唯一ある木製らしき衣装箱の上に鎮座していた。
「アレががしゃどくろみてぇだな」
「一応、部屋の奥ですし、今は動きそうにないですね」
「あの場所から動かないということはあの箱になにかありそうね」
 通信機でがしゃどくろが部屋に鎮座していることを共有する。そして、観察していると箱をすり抜け鬼火が出てくる。それも同時に連絡を入れる。
 一方、一階組もいつでも突撃できるようにスタンバイしていた。
「今、がしゃどくろを見つけたって」
「確か、西側の部屋だったな。今はまだ大人しくしておるようだ」
「書斎は東側の部屋だから、窓を割るときにも合図してもらって一階で大きな音を立てて、意識をこちらに向けさせたいとだね」
「じゃあ、最初の音で集まってきた奴らを私のブルームフレアで燃やしますね」
「では、そのタイミングで三階の方たちに突入してもらいましょう」
 エステルは三階組に連絡を取ると了承の意が返ってきた。そして、全員が武器をしっかりと手に取っているのを確認すると突入します! と連絡した後、大きな音を立て、正面から屋敷に踏み込んだ。
 通信がなくともわかるレベルで聞こえてきた騒音に派手に始めたようですねと石井が告げると同時期に三階にいた狂骨や現れた鬼火が下の階に動いたのを確認することができた。
「そんじゃ、俺たちも準備しておかねぇとな」
 未だ動きそうにないがしゃどくろを一瞥した後、メイナードの言葉に全員が書斎に続く廊下側の窓に集まる。
「――Monstrum e locis emissum summis Abi nunc ex oculis meis」
 誰かの通信機のスイッチが入っているのだろう、向井の声が入ってきた。全員がそれに耳を傾ける。
「焼き払え!」
 そういった瞬間、轟々と炎が届く音が通信機から響く。それを合図にメイナードが窓割り、中に突入する。他のメンバーもそのあとに続く。がしゃどくろが現れるかと西の部屋を見るも依然としていた。
「今の内だな。さて、日ごろ成果を見せてもらおうか……なに、失敗した時のケツくらいは持ってやる」
「それじゃあ、今日はベルフの仕事は無いだろうね」
 九字原が先陣を切り、書斎に向かって走り出した。
「では、私が殿を務めよう」
 元よりそのつもりだったしなと言えば、石井とカペラも頷き、九字原の後に続いた。
「おじさん、来ます!」
「あぁ、わかってるさ」
 上の階の異常に気づいたのか何体かが三階に姿を現した。それにイデアとメイナードを構える。
 一方、書斎は少し異様な空間だった。
「おや、お客さんかな?」
 写真で拝見した要救助者――波殿睦がやや窶れ気味ながらも椅子に座り、何やら書類らしきものを見ていたのだ。
「娘さんから頼まれてきました」
「嵐子から。一先ず、お茶でもいかがですか?」
 今、淹れますなと立ち上がり、歩き出したがすぐに倒れ込んだ。
「ちょっと、大丈夫!?」
「だいぶ、衰弱しているようだな」
「おこぼれにあやかろうと鬼火どもが集まってきたぞ」
 カペラの言葉にアルデバランは彼の体に触れ、危険な状態かもしれないという。弱りに弱ってたところをいただこう下の階から鬼火が浮上してくる。
「彼が見ていたのは白紙の紙みたいですね。幻術を見せられていたか、もしくはそう思い込んでいたか」
 机の上に広げられた書類だと思われたものは全て白紙だった。それに石井は首を捻るもテミスに「主よ、こちらが重要案件だ。詮索はあとでいくらでもできる」と言われ、やれやれと鬼火の排除に加わった。
「要救助者を発見しました。これより、要救助者の救出を行います」
『では、こちらでは引き続き、敵を引きつけるために少々派手に戦闘をさせてもらう』
「お願いします」
 九字原が通信機で対応している間にも石井が睦を背負っていた。
「すまない、青年。私はここを、出ていくわけにはいかんのだよ」
「貴公、やはり――」
「娘を、嵐子を、この屋敷に一人にはできんのだ。あの子が悲しむ」
 何か儀式をと続ける前に睦は泣きそうな声を上げる。ぼそぼそと弱弱しく喋る彼の言葉はまるで妻が亡くなった直後のようなものだった。
「睦さん、娘さんは外で、本当の屋敷であなたの帰りを待っています」
「本当の、屋敷?」
「恐らく、記憶が混濁しているのだろう」
「これは娘さんが僕たちに依頼した時の手紙です」
「依頼?」
 九字原は嵐子が書いた手紙を睦に差し出せば、石井がそれを取って渡した。睦はその手紙を読み、泣きながら「そうだ、指輪を取りに来たんだ」と呟いた。
「睦さん、このまま外に行きますのでしっかりしがみ付いててください」
「すまない、ありがとう」
 石井にしがみ付いた睦にこのまま、バルコニーに走れとテミスは告げ、全員がそれをフォローする形になった。
「随分と手間取っていたようだな」
『救助者の方、無事なようですね』
 メイナードは石井に背負われている睦を確認する。そして、共鳴中のようでメイナードの腕から少女の声が聞こえた。そして、引き続き、ここは任せて外へとと告げれば、カペラと九字原もそちらに加わった。

「一階は一通り、見て回ったかな」
 トリアイナで襲ってきた最後の一体を撃破し、ふぅと息を吐けば、他のところで戦っていたエステルたちも集まってくる。
「三階はどうなんだろう?」
「今、バルコニーにまで運び出せたそうです」
「では、残すは二階とがしゃどくろのみということだな」
 二階にこのまま上がろうと千石が告げれば、通信機でその旨を報告し、二階へと上がる。勿論、一階で引き寄せただけあり、二階には鬼火も含め十数体がいたが二人ずつに分かれても問題ないと判断した。
「じゃあ、俺は西側を見るよ」
「いっそのことさ、男と女でわかれよう!」
『ちょっと待ちなさいよ。あたし、女なんだけど?』
「共鳴されているから男性ではないですか」
『それ、最悪なんだけど。第一、好き好んででおっさんの格好してるんじゃないんだから』
 最悪最悪と言いながら千石の体を借り言うアンブラルに七城は「凄い光景だね」と呟き、隣を見れば、出来るだけその姿を目に入れたくないらしいアルヴァードは先に西側に向かっていた。それに七城は先に行ってるねと告げ、アルヴァードの後を追った。
「では、わしも行こう」
「よーし、じゃあ、私たちは東側ですね」
「えぇ、行きましょう」
『三階の方たちも奮闘しているようですね』
 ドォンと上から響く音に向井はちゃっちゃと終わらせて合流しようと意気込む。それにエステルが「ですが、油断は禁物ですよ」と告げれば、大丈夫、任せてとサムズアップを返した。
 そして、向井は厄介になる狂骨を中心にトリアイナとオートマチックを駆使して戦っていく。しかし、背後から鬼火が向井を目がけ飛んでくるのに向井は気づけなかった。
「わたしは油断は禁物だと言いましたよね」
「あはは、ありがとう」
 クリスタルファンで飛んできた鬼火を殴り飛ばすエステル。そして、背中合わせになれば、気合入れていきますよと言えば、うん! と元気な返事が返ってきた。
 一方、西側に向かった七城たちも向井やエステルと同様、奮闘していた。
「この屋敷は天井が高めで助かったよ」
「まぁ、これくらいの大きさにもなればこんなもんだろう」
 おかげで大きく振り回すことができると言えば、資産家なのだからこんなものだという千石。そんな中、通信機にザザッと通信が入る。
『無事、睦氏を完了しました』
『近くに東屋があったみたいで、中を確認後、そちらで待機してもらってるわ』
『救急車も呼んでおいたから、問題ないだろう』
『僕たちは引き続き、三階に戻り、バルコニーと部屋前で待機するよ』
 その通信に続き、二階東側はちょっとてこずっちゃったけど終わりましたーと明るい声が通信に入った。
「あとはこちら側だけみたいですね」
『あー、もう! 次から次へと鬱陶しい! 邪魔よ、邪魔!!』
 グリムリーパーと呼ばれる鎌を振り回し、千石もといアンブラルは次々と鬼火を消していく。
「アンブラルのおかげでこっちも終わりかな」
 それっと狂骨にとどめを刺し、額を流れる汗を拭う。
「では、三階組と合流しましょうか」
「そうだな」
 会談のところで待っていたエステルと向井と合流し、三階へと向かった。
「これで、全員揃いましたね」
 三階で出迎えたのは九字原と石井だった。そこから、七城と向井がメイナードとカペラのところに合流する。
 通信機のスイッチを入れたまま、がしゃどくろを確認をする。
『残すところはがしゃどくろのみとなったが、動く様子がないな』
「では、今の内に突入してしまうのがいいんじゃないですかね。攻撃体勢でないから、多少時間隙は生まれるだろう」
『じゃあ、いっせーのでで突入しよう』
 その向井の言葉にそれで行こうといい、再度通信機から向井の声でいっせーのでというと窓とドアから同時に部屋に踏み込むとがしゃどくろはゆらりと衣装箱から腰を上げた。まるで、挑戦者を待っていたかのようなソレ。
『随分と余裕があるようだな』
 スッと棒を構えたがしゃどくろに全員も改めて気を引き締める。ブンと空を切り、間合いを取る。高身長であり、長い棒を使用しているため、彼らは中々近づくことはできない。そこで、九字原は動きを止めようとライヴスの針を飛ばしたが、全員が避けられたと思った。
「ガガガガ」
 しかし、うめき声をあげるそれにしっかりと針が刺さっており、動くことができなくなっていた。そのため、それを好機と思うのは当然のことであり、向井はオトーマチックを構え、自己暗示の後「貫け!」と銀の弾丸を打ち込むもそれはがしゃどくろに当たらず、本人も予想だにしなかったのだろう「うそー!」といって驚いていた。
 しかし、驚いている時間も惜しい状況であるため、次の一打を千石が担う。『へヴィアタック』を喰らわせ、グゥと呻くがしゃどくろ。そのあとに続くように石井たちも攻撃を行ったが、ほとんど効果をがなかったのが呻くだけで大したダメージがないようだった。
「やれやれ、随分と硬いですね」
「確かに、狂骨とは比べものにならないな」
 縫止の効果がなくなったのか、がしゃどくろの近くにいた千石たちは後ろへと吹き飛ばされた。
『ちょっと、痛いじゃない!』
 声を上げるアンブラルに打撃を受けた部分を押えるものもいる。
 しかし、次の攻撃も来ていたため、防御あるいは後ろへと下がり、攻撃をやり過ごす。向井は再度、銀の弾丸を撃ち、七城は大きくコンユンクシオをがしゃどくろに振り下ろす。ただ、相手の方が素早く弾丸は掠る程度になり、七城の攻撃は棒でガードされてしまった。
 ただ、七城の攻撃をガードしてることもあり、メイナードはその隙を狙い、スナイパーで頭を狙う。
 エステルはケアレイを唱え、前衛にいる七城や九字原らの回復を行った。
 カペラはライヴスで作った分身と共に攻撃する『ジェミニストライク』を決めた。ぐらりとうめき声を上げ、揺らぐがしゃどくろ。
 その様子を見た千石は両手で鎌を握り、最後の一撃とばかりに『オーガドライブ』を喰らわれ、がしゃどくろは低くうめき、地に伏せた。
「まぁ、こんなところだろう」
「あ、ところで波殿さんの指輪はどうされました?」
「あぁ、それなら、この部屋にあるとおっしゃっていましたね」
『確か娘と一緒に置いた覚えがあるといっていたな』
 あるとすると全員が目を向けたのはがしゃどくろが座っていた衣装箱だった。
「確か、この中から鬼火が出てきてましたよね」
「あ、なんだったら、俺が開けようか? 盾もあるし、いきなり攻撃されても防御はできると思うし」
 そう話し合いをしているとカペラはとっとと開けるわよと言い、蓋に手をかけた。後ろに控えているメイナードたちも何かあってはいけないと武器を構え、開けた瞬間に来るものに備える。
 ボフン。
 大きく炎が舞い上がったと思った瞬間、それは霧散し、彼女らに何らダメージはなかった。
「これかな、指輪っていうのは」
 ご丁寧に箱の中央に置かれたケースを開ければ、シルバーのリングが入っていた。
「裏に『M to K』って書かれてますね」
「恐らく、波殿さんが奥さんに贈ったものだろう」
 メイナードは他に危険がないか確認した後、その指輪を受け取った。
「さて、指輪の回収も終わった。あとはそれを波殿さんに渡すだけだな」
 千石がそう言えば、そうですねと頷く。それぞれ、共鳴を解き、屋敷を後にした。


●ありがとう
 屋敷の外に出ると随分と前に来ていたのだろう救急車が止まっており、その近くには睦の姿があった。
「お乗りにならなかったのですか」
「迷惑をかけたこともあり、あなた方の無事を確認したくてですね、待っておりました」
 優しくエステルの質問にそう答えた睦。そして、救急隊員に声をかけられ、隊員の力を借りて、救急車に乗り込んだ。
「波殿さん、こちら、回収した指輪になります」
「あぁ、ありがとう。本当にありがとう」
 メイナードの差し出した指輪を受け取り、睦は涙を零しながら何度もエージェントたちに礼の言葉を繰り返し、隊員に出発しますよと言われるまで彼は頭を下げていた。
「結局、何が従魔を呼び寄せたのか不明でしたね」
「まぁ、そんなこともあるだろう」
 クイッとサングラスを上げた石井にテミスはそう言い、救急車が走り去った後を眺めた。
「今日の出来は大体何点くらい?」
「……甘く見積もって70点だな」
「僕的にはもう少しいったと思ったんだけどな」
「俺からするとまだまだだ」
 そんな九字原とベルフの会話やよかったよかったという七城に隣で安堵したアルヴァードの姿などもあった。

 後日、エージェントたちのもとに一枚の絵ハガキが届いていた。そこには笑顔で写る波殿親子の姿。睦は足を悪くしたのか車いすに乗っており、その睦の首に抱き着く嵐子。そして、よくよく見れば、嵐子の首には先日彼らが回収した指輪がきらりと光っていた。

『大変お世話になりました。親子共々、あなた方に感謝いたします』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 再生者を滅する者
    向井 千秋aa0021
    人間|16才|女性|攻撃



  • シャドウラン
    カペラaa0157
    人間|15才|女性|攻撃
  • シャドウラン
    アルデバランaa0157hero001
    英雄|35才|男性|シャド
  • 危険人物
    メイナードaa0655
    機械|46才|男性|防御
  • 筋肉好きだヨ!
    Alice:IDEAaa0655hero001
    英雄|9才|女性|ブレ
  • エージェント
    千石 琉aa0685
    人間|48才|男性|生命
  • エージェント
    アンブラルaa0685hero001
    英雄|15才|女性|ドレ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • エージェント
    七城 志門aa1084
    人間|18才|男性|生命
  • エージェント
    アルヴァードaa1084hero001
    英雄|24才|男性|ブレ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
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