本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】館から脱出せよ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/25 21:30

掲示板

オープニング

●事件が起こる
「誰よ、誰がこんなことを」
「俺じゃない! 俺じゃないんだ信じてくれ!!」
「おい、今何か音がしなかったか」
 そこは山奥のとある屋敷。彼らの目の前には屋敷の主人である男の死体が転がっていて、外は嵐。
 首を捻じ曲げられたその死体は病死でも自殺でもなく、犯人はこの屋敷の中にいるとしか考えられない。
「おかあさん……わたし、かえりたい……」
「もう少し待ってね……せめて嵐が止むまでは、」
 ガン!!
 何かが窓を叩いた。
 風で飛ばされた枝でも当たったのだろうか。いや違う。今のはまず間違いなく『叩く』という意図で叩かれた音だ。
 誰からともなく、窓を見る。
「う、うわぁああああああ!!!!!!!」
 そして一人が叫び声をあげ逃げ出したのをきっかけに、他の人々も死体を放置して部屋から逃げ出した。
 窓を見れば――二つの目を赤く光らせ歯をむき出しにした、人とは思えない化け物が部屋の中を覗きこんでいた――。

●脱出テーブルトークRPG
 この世界には、『化け物』が存在する。
 それはことあるごとにPCを脅かし、逃げる意思を挫いてくる。
 だが恐れるなかれ、貴方には仲間がいるのだ。
 仲間と共にこの世界からの脱出を目指せ。

●館の地図
 ■■■■■■出■■■■■■
 ■風風風ト■□■応応応応■
 ■風風風ト■□■応応応応■
 ■扉■■扉■□■扉■■■■
 ■□□□□□□□□□□□■
 ■■■■扉■□■扉■■■■
 ■寝寝寝寝■□■ダダダダ■
 ■寝寝寝寝■□■ダダダダ■
 ■■■■■■□■ダダダダ■
 ■□□□□□□扉キキキキ■
 ■■■■扉■扉■キキキキ■
 ■死死死死■書■■■■■■
 ■死死死死■書■
 ■窓■■■■■■

 ■…壁。
 □…廊下。
 扉…扉。
 窓…窓。化け物の侵入地点。
 風…風呂場。ぴちょん、ぴちょんと水が垂れている。親子が隠れている。
 ト…トイレ。水の音が止まらない。
 応…応接室。何かが窓を叩く音が響く。男が隠れている。
 寝…寝室。毛布が人の形に膨らんでいるが…。女性が隠れている。
 ダ…ダイニング。テレビがついたままだが、砂嵐だ。
 キ…キッチン。肉を切ったのか血の付いた包丁がある。青年が隠れている。
 死…死体の転がっていた部屋。
 書…書斎。古い本が多く置かれている。
 

●茶会
 テーブルにはカップが一つ。そして椅子には一人の少女が座っている。
「ふふ。パニック系なのです?」
 白髪の少女はテーブルに置かれた一冊の本を手に取る。
 化け物が窓から部屋の中を覗いている、そんな表紙を眺めて、紅茶を一口。
「無事に逃げられるとよいのですよ。いめは、楽しみにしているのです」

解説

●目標
 誰か一人でも館から脱出すること。

●ミッションタイプ:【エリア探索/一般人救助】
※このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
 詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。

●登場
・一般人
 計5人。それぞれ化け物に怯えながら部屋に隠れている。
・化け物
 今回の敵。おどかすだけで攻撃はしてこないが、怖い。

●ルール
・誰か一人でも出口に到達すればクリア。
 誰かが出口に到達した時点で『セッション』終了となり、発見されなかった一般人は救助出来ない。
・一般人が隠れている部屋に入った段階で一般人を発見することが出来、救助出来る。
 しかし発見した時点で移動は終了となる。(一般人を救助してすぐさま部屋から出ることは出来ない)
 脱落したとしても発見さえしていれば一般人は救助可能。
・共鳴は出来るがAGWが使えず、攻撃は行えない。物も壊せない。
 また、化け物や一般人から攻撃を受けることは無い。
・びっくり判定により生命力が0になると脱落となり、全員脱落した場合は『セッション』失敗となる。
・びっくり判定は【PCの特殊抵抗値+修正値】対【化け物の1d10+修正値】での対決となる。
 判定に勝利した場合はその場を逃げ出すことが出来るが、失敗した場合は恐怖により【1d10】分生命力が減少する。
・参照する値は【移動力】【生命力】【特殊抵抗】【イニシアチブ】の4点。
・なお、脱落する際は悲鳴が響き渡る為、誰が脱落したかを知ることは可能。
 ただし通信機器はゾーンルールで使用不可能。

リプレイ

●プリプレイ
 オペレーターからゾーン内の説明を受けたエージェント達は、一般人を救出する『救出班』と出口を捜索する『捜索班』で役割を分担することにした。
 『救出班』は花邑 咲(aa2346)、ブラッドリー クォーツ(aa2346hero001)、東雲 マコト(aa2412)、バーティン アルリオ(aa2412hero001)、藤咲 仁菜(aa3237)、リオン クロフォード(aa3237hero001)、ナガル・クロッソニア(aa3796)、ラヴィーウ(aa3796hero001)、日暮仙寿(aa4519)、不知火あけび(aa4519hero001)。
 『捜索班』は百目木 亮(aa1195)、ブラックウィンド 黎焔(aa1195hero001)、鈴宮 夕燈(aa1480)、Agra・Gilgit(aa1480hero001)、プラヤー・ドゥアンラット(aa4424)。
 出口の捜索よりも一般人の救助に重きを置いたこの人数だが……。
「初依頼がホラーゲームってどういうことだよ」
「……館の中の一般人さんも怖いやろなぁ……や、うちも怖いんやけど……!」
 日暮が相棒である不知火に説明を求め、鈴宮はびくびくしつつもをAgra(以下アグラ)をちらっと見るが、そこには既に彼の姿は無く。
『なあマコト、お前確か怖いの苦手だったよねな? なんでまたこの仕事を引き受けたんだ?』
「なななっ、何を言っているのアル? ヒーローであるこのあたしが幽霊なんて怖がるもんか!」
 問いかけに強気で応えながらも、東雲はしっかりとアルリオにしがみ付いてぷるぷると震え。
「私がホラーとかスプラッタとか苦手って知ってるよね!? 何でこの依頼にしたの……!」
『大丈夫だって! おどかすだけで攻撃してこないらしいし、出来のいいお化け屋敷だと思えば♪』
 誰にも聞こえないように、藤咲とリオンは小声で会話をし。
「せ、せめて象がいれば怖くないんだけど……」
 象使いでもあるプラヤーは視線をうろうろと動かすが、当然ながら象はおらず。
「あんなんがいるたあ、おっかないねえ」
『まったくじゃのう。他の者の安否が心配じゃて』
 年長組である百目木と黎焔は既にオペレーターから館内の『化け物』について説明を受けた、が……一般人はもちろんエージェント達にも不安が残る。いざという時は庇えるようにと支度を整え、準備は万端に。
 手数を増やす目的からかまだ共鳴しないメンバーもいる中、ナガルはしっかりと共鳴していた。念のためである。
『ね、念のためって何よ! まるで怖い目にでも合うみたいじゃない!』
 館の探索とは聞いていたが、まさかホラー系の館とは知らないラヴィーウ。金銀財宝どころかもっとまずい物が出てきそうな館の写真を前に、ナガルはどうにか言葉を探す。
「違うよ! 少しでも……その、館から出るのを早くするためだから!」
 嘘では無い。しかし肝心な所は濁しているので、真実とも言えないが……準備が出来てしまえばあとは飛び込むだけだ。
 申請の通ったホイッスルをそれぞれが首から下げ、きちんと音が鳴るのを確認する。合図、集合時間も細かに確認し直して――エージェント達は、ドロップゾーンに飛び込んだ。

●『ゲーム』スタート
「いいいやああああああああっ!!?」
 鈴宮は、絶叫した。ゾーン内に突入し、目を開けて見れば……転がる死体と、ばっちり目が合ってしまった。更にその奥、窓の向こうには……部屋の中を覗きこむ、赤い眼。爛々と光る眼が鈴宮を見つけ、耳元まで避けた口がにやりと笑い……鈴宮は、失神した。
『おい、起きろボケ助!』
 仕方が無いとアグラが共鳴を解除し、鈴宮を起こしながらもホイッスルを鳴らす。部屋の中には他のエージェントがいない。危惧していた通り、どうやら別々の部屋に入れられたようだ。これは中々面倒な事になりそうである。主に失神している能力者が。
「……はっ!? あ、あかん。ちょっと寝とったかなぁ……」
 鈴宮が起きた所で他のエージェント達も合流し、死体には花邑がカーテンを掛けた。その際、十字を切って冥福を祈るのも忘れない。
「じゃあ予定通り、救出班と捜索班に分かれて行動だな!」
 鈴宮の絶叫に最も驚いていた東雲。アルリオの服を思い切り掴みつつ、言葉だけは強気に言い放つ。アルリオの言っていた通り、東雲は怖い物が苦手だ。だからこそ、今回はそれを克服すべく依頼に臨んだのだ。まだ、まだ負けるわけにはいかない。
 起き上がりはしたが多少ふらつく鈴宮のことを百目木が支え、捜索班は部屋からの移動を開始した。
「……出来るだけ、早く出口が見つかれば良いんですがねぇ……」
 捜索班を見送りつつ、花邑がぽつりと呟く。バトルメディックで年長者でもある百目木ペアが一緒ならば大丈夫だろうけれど……。
『……サキも、あまり無理をしてはいけませんよ?』
 相棒のブラッドリーにそう言われながら軽く頭を撫でられ、花邑はふわりと微笑む。
「はい。……私達も行きましょうか」
 館の中で怯える一般人を助ける為に。集合場所を隣の部屋の書斎と決め、救出班も行動を開始した。

●捜索ルート
「集まった時も思ったが、少し暗いな」
 言いながらもライトアイが使用できないかどうか試す百目木だが、どうにも上手く行かない。館の中は明かりが点いているが薄暗く、出来ることなら視界を明るくしておきたかったが……これもこの世界のルールなのだろうか。
『ズルは無しということかもしれんのう』
 物は破壊できず、AGWも使用できない。今の自分達はまるで一般人のようだ、と黎焔は言う。知恵を絞り、恐怖を乗り越えて進むのがこのゲームの目的ならば、ライトアイなどはズルになるのだろう、と。
「そんなもんかね」
 バン!と音を立てて開いたキッチンの扉に少し後ずさりつつ、特に驚くことも無く百目木は捜索を進めて行く。さすがに目の前に突然現れたら驚きはするが――。
「ぴゃぁぁぁぁぁ!?」
 ホラー耐性の低い鈴宮のこの叫び声と、飛んでくる右手の方が心臓に悪い。もう既に三度目である。一度目が後頭部に直撃してからは隣を歩くようにしているが、今度は叫び声が耳に痛い。
「あかんなぁ……」
 鈴宮も鈴宮で、アグラが内から叱咤激励を飛ばしてくるからこそどうにか歩けてはいるものの、今度何かあればまた倒れてしまいそうな状態である。体は元気なのに精神がどうにも耐えられそうにない。
「あんま無理は――」
 と百目木が言いかけた所で、ぶつんと館の明かりが消えた。百目木は咄嗟にスマートフォンに手を伸ばすがそれよりも早く。
「!!!」
 鈴宮の首に、生暖かくて湿った何かが纏わりつく。人の腕よりも柔らかく、ぶよぶよとした何か。不思議なのは、首の周りにしか感触が無いことだ。それが立っているのなら体の周囲に気配があってもいいはずなのに、無い。ならばこれは一体何なのか。一切の動きを止めた鈴宮の頬にぴちゃんと何かが落ちた。見てはいけない。そう思いながらも、見ずにはいられない。何かに纏わりつかれたままゆっくりと首を傾ける。視点を上へ。そこに。近すぎて分からないほどの距離に。
 にやりと笑う、化け物の首があった。

 同時刻、二人と分かれてプラヤーも出口を探していた。固まって動けば驚きが減るかもしれないと思ったが、減らないのであれば個別で動いた方が捜索はしやすい。だいぶふらふらだった鈴宮は百目木と共にいるし、先ほどから何度か叫び声が聞こえてきてはいるけれど多分きっと大丈夫。痛そうな音も聞こえるけれど多分きっと大丈夫。自分に言い聞かせながら、それでもプラヤーは恐る恐る扉を開け、ぴちょんぴちょんという音に驚きつつも出口ではないのを見て閉めようとして――明かりがぶつんと消えた。
「きゃーーー!!」
「わーーー!!!」
 風呂場にハウリングする叫び声。自分の物だけでは無いその声にまた驚いて、ずるりと足が滑る。正面から倒れ込むその先には、蓋に覆われた湯船。多分中身は無いはず。でもちょっとだけ開いている。見えるのは、白い何かが四つ。化け物だろうか。いや違う、これは人の足だ。人。要救助者!
「っ……」
 意地で引き寄せたホイッスルを短く吹き、滑った勢いのままプラヤーは蓋に突っ込んだ。

●救出ルート
「ひ……っ」
 何度目かの悲鳴を上げ、東雲は廊下の壁に背中をつける。視線の先には四足の化け物。怖いなりに心の準備をしていた東雲だが、死角に隠れられていてはどうにもならない。彼女を驚かして満足した化け物はホイッスルを吹くよりも早く姿を消し、残されたのは東雲と、彼女を心配そうに見るアルリオ。そして。
「ア、アル~! も、もう限界~っ!」
 涙目になった東雲のギブアップ宣言を受け、アルリオは頷く。怖い物が苦手な東雲の折角の努力だ。ここでこのゲームからも脱落させてしまうわけにはいくまい。共鳴するべく手を伸ばした――瞬間。ぶつんという音と共に、館の中の電気が消えた。暗闇の中、微かに触れた手を引き寄せて、共鳴。
「――ヴァンクール、悲鳴飛び交う恐怖の館に颯爽参上だぜ」
 ヒーローらしくポーズを決める、第三の人格ヴァンクール。そんな彼の登場を喜ぶかのようなタイミングで、ピィッと短いホイッスルの音と連続した音、それから悲鳴が響き渡った。近いのはホイッスルの音の方だし、音の鳴り方からして一般人発見の合図だろう。悲鳴はなんだか聞き覚えのある声だったし、優先すべきは。
「ホイッスルの方、だな」
 記憶を辿ってみるとまだこの部屋に入って探してはいないようだが、集合時間も間近だ。一度中断し、再び来てみることにしようと決め、ヴァンクールは風呂場への移動を始めた。

 東雲が共鳴を果たした頃、書斎の捜索を終えたナガルはダイニングの扉の前までやってきていた。
『金銀財宝もあったものじゃないわね……全くシケてるわ……』
 内心ぶつぶつと呟くラヴィーウだが、大きな音や悲鳴が聞こえるたびにびくっとなっているのがナガルには伝わってくる。新しく絆を結んだ英雄は感情表現がとても豊かだ。一人では無いことを心強く思いながら足を踏みだした所で――ぶつんと明かりが消えた。それとほぼ同時に、聞き覚えのある叫び声とホイッスルの音が二種類。
『な、何っ?』
「鈴宮さんの声……」
 近いのは鈴宮の方だ。一つ目のホイッスルの音は遠く、どこで鳴ったかがはっきりしない。それなら向かうのは。
「行こう、ラヴィちゃん!」
 内に声を掛ければ、しっかりと頷く気配。
『えぇ。何かあったら、あんなのけちょんけちょんにしてやるんだから!』

 一方その頃。
「俺を驚かせようなんて100年早い!」
 化け物を強気な笑顔で撃退した藤咲は、応接室で要救助者である男性に縋りつかれていた。こうも近くてはホイッスルを吹くことも出来ない。どこか怪我をしているわけでも無さそうだし、そろそろ集合時間にもなるが……。どうしたものかと考えた所で、ふっと明かりが消えた。
「ひっ!」
 どこからか聞こえた悲鳴と笛の音。場所ははっきりしないが、何か起こったのは間違いない。悲鳴をあげた男性にさらにしがみつかれて動きにくいが、こうなってはもう仕方が無い。藤咲は思い切り息を吸い込み、出来る限りの大きさでホイッスルを鳴らした。救助者を発見した、と知らせる為に。

 化け物を撃退しつつも捜索を進めていた日暮と不知火、応接室に藤崎が向かったのを見てトイレ内を調べていた花邑とブラッドリーはホイッスルの音を聞いてすぐに風呂場へと向かっていた。途中で合流したヴァンクールも含む五人は互いの無事を確認し、何が出てきてもいいようにタイミングを合わせて風呂場の扉を開ける。
 暗闇の中に花邑がペンライトを、日暮が懐中電灯を向ければ見えたのは――人の足。
『仙寿様……!』
 一瞬だけ不知火が狼狽えるが、それもすぐに治まった。人の足、幽霊では無い。しかも上半身も……浴槽の中に突っ込んではいるが、繋がっている。さらに見たことのある服装で。
「……プラヤーさん?」
 花邑が用心深く浴槽に近づき覗き込むと、どうやら頭をぶつけて意識を飛ばしているらしいプラヤーと、蓋の下で身を竦ませている親子の姿を発見した。何があったか事情は分からないが……。
「大丈夫ですよ」
「助けに来たぞ」
 優しく声を掛け微笑む花邑と、プラヤーを起こしてやりながら親子に声を掛ける日暮。親子はどちらも歩けるようだし、先ほど聞こえた笛の音は近かった。集合時間もあるし一度集合しようと救助者発見の笛を吹いたブラッドリーが提案。まだ目覚めないプラヤーのことはヴァンクールが背負い、揃って移動を開始した。

●合流
「鈴宮さん! 百目木さん! 大丈夫ですかっ!」
 ナガルがキッチンに飛び込むと、そのすぐ横を何かがひゅっと通り過ぎて行った。幽霊……ではない。もっと質量を持ったその何かは、ダイニングのソファにごつんと当たって床に落ちた。
 鈴宮の手である。
「手……っ!?」
 ナガルの尻尾がぶわっと広がる。暗闇の中で白く浮かび上がる、人の手。何があったのか、悲鳴はこれのせいなのかと疑問符を浮かべて固まるナガルに。
「お手て飛んでってもうた……」
 ひょっこりと鈴宮が顔を覗かせる。もちろん右手は無い。暗いからどうなっているのかは分からないが、確かに五指がついていない。
「大丈夫ですか……?」
 さすがに知り合いの手が無いのは幽霊よりも怖い、というよりも不安が大きい。しかしそんなナガルに鈴宮はほわっと「うちのお手て、よぉ飛んでくんよぉ」と笑う。……アイアンパンクならではの悩みなのだろうか。
「さっき化け物にでくわしてな」
 と、要救助者である青年を背負った百目木が事情を説明する。化け物に驚いた鈴宮が悲鳴を上げ、振りほどこうと暴れるままに化け物に拳を食らわせた事。手応えは無く、化け物は去った物の半狂乱で走り出した鈴宮が転び、その拍子に右手が飛んでいってしまった事。そして手が飛んでいくのを見た青年が更に悲鳴を上げ、それによって発見出来た事。
『怪我の功名じゃな』
 ふぉっふぉと笑う黎焔が言う怪我に思い当る節がある百目木は頭を掻き、そろそろ集合時間だと二人を促して集合場所へ向かう。

●集合
 途中の応接室で男性と藤咲を発見し、一同は書斎で集合した。
「彼らの話を聞く限りだと、この館の中でまだ捜索していない場所は寝室とトイレ。発見できていないのは女性だけみたいですね」
「寝室は入れてなかったな」
 花邑の後に悔しそうに言うヴァンクール。彼女の背を不知火が優しく叩く。
「化け物はどうだった?」
「こっちは何回か遭遇したが、神出鬼没で読めねぇな」
 日暮に続いて百目木が言い、化け物の情報も交換する。どこから現れるのか分からず、スキル不使用の攻撃でも手応えが無い事。同時に出現も出来る事。しかし、少しすれば消えていなくなる事。
「それから、鈴宮と行動していて思ったことだがな」
 たまたまかもしれないがと前置きをした上で、化け物は『驚きやすい』人間を狙ってくる傾向があるのではと百目木は言う。
「確かに……俺はあまり驚かされなかったな」
「私は結構驚かされました!」
 一理あると頷く日暮に、同じく頷くナガル。目を覚ましたプラヤーも話に加わり、要救助者は書斎にて待機。護衛として藤咲、疲労の激しい鈴宮も同じく書斎で待機。救助班で寝室とトイレの捜索。百目木は引き続き出口の捜索を行い、何かあればすぐに笛で連絡と決まる。
「また十分後ですね」
 そして、エージェント達は再び暗い廊下へ歩み出した。

●捜索ルート
 鈴宮と共に居た為か、だいぶ慣れた化け物の登場をいなしつつも百目木は出口を発見していた。時間はそう経っていないが調べきれていなかった寝室やトイレには他のエージェントが向かっている。まさか出口を破壊されるなんてルール違反は無いだろうと思うが、念には念を入れておくべきか。壁から伸びてきた手を叩き落としつつ、周囲に注意を払う。
「そういや、体大丈夫か」
 百目木と同じように周囲を警戒していたプラヤーに声を掛けると、彼女はこくりと頷いた。
「治療もしてもらいましたから!」
 にこりと笑うプラヤーの額には大き目の絆創膏が貼ってある。屋敷内にあった救急箱での処置でしかないが、ゲームの世界にいる以上はゲーム内の物が役に立つのかもしれない。
「それに……」
 とプラヤーが続けようとした所で、高いホイッスルの音。短く一度と、少し後に別の場所から長く一度。救助者発見の合図と、異変の合図が鳴った。

●救出ルート
『何故、館に侵入した怪物は、オレ達を脅かすだけで、襲ってこないのでしょうね?』
 寝室の捜索をしつつ、ブラッドリーがぽつりと呟いた。救助者の話を聞いても体を見ても攻撃を受けたような傷は無く、やはり驚かされただけだと言う。
「確かに……。何か、手がかりになるような物があれば、少しは分かるのかもしれませんが……」
 クローゼットの扉を開けながら応じる花邑。それに対し、毛布を捲っていたヴァンクールが。
「そういう役割だからじゃねえかな」
 ヒーローと悪役は表裏一体だ。恐怖に陥れる存在があるからこそ助ける存在がある。同じように、化け物は『脅かすだけ』。襲ってしまったら、それはまた別の役割になってしまうから。何しろここはゲームの世界なのだ。
「ま、難しいことはわかんねえけどな!」
 言いながらもベッドの下を覗き込んだヴァンクールが女性を無事発見し、花邑とブラッドリーにそれを伝えた後短くホイッスルを吹いた。

 ナガルはじっと息を潜めていた。暗闇の中で目にした化け物の姿。何度も出くわしてそのたびに隠れてやり過ごしてはいるが、廊下の壁からいきなり現れられたらどうしようもない。幸い捜索を終えたキッチンの扉は開いたままで、すぐに駆け込んで陰に隠れたけれど……気配は、まだある。
(大丈夫……大丈夫)
 ゆっくりと気配が動く。近づいてくるのが分かる。
(心で負けてたらおしまいだもん、ね!)
 大丈夫。攻撃をされるわけじゃない。もし攻撃されたとしても、ここには仲間も、大切な英雄もいる。だから、諦めない。
 そう思い手をぎゅっと握りしめるとホイッスルの短い音が聞こえた。救助者発見の合図。その方向に向け、化け物の気配が動く。
『ナガル!』
 勇気づける声が内から響く。――行こう。
 笛の音を高く鳴らし、化け物の注意をこちらに引きつける。立ち上がり、対峙する。緑に染まった髪が舞い、同じ赤の瞳で向かい合う。行かせるわけにはいかないと距離を詰めようとしたその時、化け物の後ろからふわりと白銀の羽が舞うのが見えた。
「人間を舐めないことだ」
 共鳴した日暮が棒を振るう。他のエージェントが試した通り棒は化け物の体をすり抜けるが、その分時間は稼げる。それはここから脱出するための時間になる。
「走るぞ」
 短くナガルに告げ、二人はキッチンの中をぐるりと一周してからダイニングへ走り抜ける。今までならすぐに消えていた化け物は、消えない。ソファーを乗り越え、障害物も気にせずに四足のまま二人に近づいてくる。
『仙寿様、もしかしたらもう消えないんじゃ……』
 赤い眼を爛々と光らせ、聞こえないはずの不知火の言葉を肯定するように化け物はにやりと笑う。消えないのならばどこかで撒くしかない。せめて救助者が出口まで移動する間の時間を稼がなければ。
「……仕方が無いな」
 そう言うと日暮は共鳴を解いた。
「俺が囮になる。――任せたぞ」
 信頼を預け、暗闇の中を走る。館の中を歩き回って暗いなりに内部は把握した。最も遠いのは、死体のあったあの部屋。
「来い、化け物!」

●脱出
「この館の雰囲気じゃ素敵なお茶会って感じは出ないけど、甘い物は人を落ち着かせる効果があるからね♪」
「一緒にお外出られるように頑張ろうなぁ」
 言いながら、藤咲は持ってきていたチョコブラウニーと飲み物を出し、鈴宮も救助者の心を紛らわせようとしていた。何かあった時の為に備えなければいけないが、その前に心を癒すのも大事なことだ。ずっと緊張したままではいつか糸が切れてしまう。
「ありがとう」
 飲み物を受け取り、少しだけ回復した青年が微笑む。しかし彼が飲み物を口に含むよりも早く、遠くから響いたのは――笛の音。救助者が発見された事と、異変が起こった事。藤咲が鈴宮を見て、鈴宮はそれに頷く。大丈夫。
 扉がバンッと音を立てて開き、花邑が出口発見と救助者発見を伝え、百目木やブラッドリーが救助者を背負う。ここから出口までは一直線だ、後は。
「走り抜けるぞ」
 タイミングを計る。化け物は日暮を追っている。足音が一つ部屋の前を通り過ぎる。それを追う音が、一つ。――今!
 エージェント達は走る。向かう先は出口。救助者は五人、話を聞く限りこれで全員だ。
「出るぞ!」
 百目木が声を掛け、体当たりをするように扉を開く。外からの光が館の中を覆い――――『ゲームクリア』という文字が宙に浮かんで、消えた。
 誰からともなく振り返ればそこに館は無く、ただ真っ白な空間が広がるばかり。救助者の姿もいつの間にか消えている。
「終わったのか」
 その空間の中に日暮も居て、不知火は『仙寿様!』と呼んで駆け寄る。試しにと共鳴したままの藤咲がプラヤーに治癒魔法を掛ければ、それはそのまま発動して光が彼女を覆う。
「もう終わったん……?」
 安心してへたり込む鈴宮は共鳴を解き、じっとナガルを……正確に言うならばナガルの耳と尻尾を見つめる。もふもふ出来ればこの精神も回復出来そうだ。もふもふ……。
『無事、脱出できて良かったですね、サキ』
「えぇ。……それにしても、あの怪物さん、怖かったですねぇ」
 おっとりと胸を撫で下ろす彼女は、最後に見た化け物の姿を思い出す。日暮を追いかける四つ足の物体。正面から来られたらさすがにちょっと、困る。
「やあー皆お疲れっ、幽霊なんて大したことなかったね! あっはっはっは!」
『ビビりまくってたじゃあねぇかったく……』
 軽快に笑う東雲だが、怯えて涙目になった彼女のことをアルリオはしっかり覚えている。
『まあなんにせよまあまあ頑張ったな』
 克服出来たかどうかはまた別として、今日はパートナーを労うのも悪くは無いかもしれない。
 そして、今回が初めての依頼だった日暮と不知火は。
『仙寿様、初依頼どうだった?』
「ま、悪くなかったな。次は戦いたい所だけどな」
 言って、日暮が少し先を歩く。まだ対等にはなれない相棒と共に、今は前を向いて。
 恐怖を超えたエージェント達は、日常へと帰っていく。
 ただ。
「ラヴィちゃん! お屋敷どうだった?」
 尻尾をゆらんと揺らしながら問いかけるナガルに、ラヴィーウは全力で、恐らくは全員の総意を籠めて叫んだ。
『ホラーもびっくりももうこりごりっ!』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • 生命の護り手
    ブラックウィンド 黎焔aa1195hero001
    英雄|81才|男性|バト
  • ~トワイライトツヴァイ~
    鈴宮 夕燈aa1480
    機械|18才|女性|生命
  • 陰に日向に 
    Agra・Gilgitaa1480hero001
    英雄|53才|男性|バト
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 守るのは手の中の宝石
    ブラッドリー・クォーツaa2346hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412
    人間|19才|女性|回避
  • ヒーロー魂
    バーティン アルリオaa2412hero001
    英雄|26才|男性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 跳び猫
    ナガル・クロッソニアaa3796
    獣人|17才|女性|回避
  • 恐怖を超えて
    ラヴィーウaa3796hero002
    英雄|18才|女性|ドレ
  • ひとひらの想い
    ドゥアンラット・プラヤーaa4424
    人間|21才|女性|防御



  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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