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最終発言2016/09/09 21:13:17 -
【相談卓】
最終発言2016/09/11 01:05:04
オープニング
●研究所D地区跡地
剥がれ落ちたドーム状の半球の外装が、かつてあった文明の高度さをうかがわせている。隙間から覗いている青空だけが、唯一現実世界を思い出させる。
研究所D地区跡地――通称『D地区』。H.O.P.E.からは、そういった名称で呼ばれている。
この世界もまた、次元のはざまに再現された世界の一つであった。
どこかサイエンスフィクションめいたこの世界は、高度に発達した科学文明が、その重みに耐えきれずに一度に崩壊したような、そんな世界であった。
がれきにまみれたこの世界には、人らしいNPCはおらず、その代わり、ただただ広い青空の下をあてもなく巡回ロボットがさまよっている。
この世界には、人間はいない。
●H.O.P.E.の調査
おのおのが、普段とは少し違うメカメカしい格好になっていた。
「ううむ……。最初っから壊れた世界というのも、不気味なもんじゃなあ……」
エージェント、アーヴィン(az0034)は、卵型のポッドの中から顔を出した。コールドスリープ装置のようである。
――エージェントだけが唯一の生き残り。そういう設定であるらしい。
その辺りをうろつくロボットも、NPCではない、ただのロボットだ。
今回のエージェントたちの目的は、この世界に存在が示唆されている『霊石』の回収である。
●迫る脅威
「この世界の、一部のロボットには、現実世界では考えられないほど上質な、そして異質な霊石が使われているようなのです」
地表部分はもはや瓦礫だらけではあるが、地下の空間は、まだマシな部分があるらしい。
霊石を求めて、一行は『R&D(研究開発)』と書かれた区画へとやってきた。
R&Dは、まるで組み立て工場のような場所だ。稼働している掃除ロボットの他には動く者もエージェントたちばかりである。
『試作品』そう札のかかったここのロボットたちは、地表に転がっている残骸とは作りが違うようである。
だがしかし、どのロボットも、一部が欠けたりしていて完全ではない。そして、霊石がそこにあるはずなのだろう、動力部にあたる腹部はぽっかりと開いているのだった。
不気味なのは、何も乗っていない台があることだ。空白の部分。
まるでそのまま1体が動き出したかのようだった。
そのときだった。
がれきの山の中で、人影がぬらりと立った。
「む、……NPCかのう?」
そう言いかけて、アーヴィンは戦慄した。その風体の異様さからである。
3mは超えている。
照射される赤いレーザーサイト。
『不正ナアクセスヲ確認。侵入者ヲ排除シマス。職員ハ、速ヤカニ退避シテクダサイ。繰リ返しマス。職員ハ、速ヤカニ退避シテクダサイ……』
続けざまに定められた照準から、マシンガンの弾が雨のように発射される。
『繰リ返しマス。繰リ返しマス。繰リ返しマス……』
狂った機械<マッド・マシン>は無機質に繰り返す。
解説
このシナリオは新規プレイヤー優先シナリオです。
参加キャラクターにはLv.30の上限が掛かっています。
初めてシナリオに参加されたプレイヤーは、本部ページから『シナリオとは』のページを開き、『シナリオを攻略しよう』の項目をご覧ください。
ミッションタイプ:【霊石採掘】
このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。
●目標
「マッドマシン」の撃破。
(腹部のエンジンを破壊すると、成功度が一段階下がります。)
●この世界について
人が絶滅した世界。
●場所
『D地区研究所跡地』B1の施設。
広さはおよそ40スクエア×40スクエア。
研究所跡地のような廃墟。
●登場
・デクリオ級従魔「マッドマシン」
物攻B 物防D 魔攻E 魔防E 命中C 回避C 移動C 生命D 特殊抵抗F イニシアチブC
・ライトマシンガン(射程15):右腕の軽機関銃
・グレネード(射程15):左腕の擲弾発射器。範囲1/弾数制限有
・クローアーム:硬質の鋭い爪
・ローラーダッシュ:ムーブアクションを使用。全力移動の効果増大。ペナルティ無効化。
・スカウトアイ(サブアクション/回数制限なし)
PCの動きを観測して情報を収集し、回避パターンを予測。これ以降、命中にボーナス。
・バーストファイア(メインアクション/回数制限2~3)
全弾発射。標的周辺へ目がけて無差別に乱射を行う。
範囲2、攻撃、命中上昇。射程は武器依存(15前後)。
攻撃>>>防御・回避。
戦闘以外での機能停止は不可能。
腹部のエンジンは貴重なライヴスストーンを使用していると思われる。破壊は推奨されない。
・クリンナップ
その辺りを動き回るロボ。80cm、中立。そこそこ数があり、遮蔽物として利用することが可能。
・アーヴィン(az0034)
NPC。何か指示があればどうぞ。
リプレイ
●機械の世界
コールドスリープ装置が真っ二つに開くと、一瞬あふれ出すようなカラーライトが交錯する。中からはツインテールの少女――楪 アルト(aa4349)が、ゆっくりと歩み出す。
「んー……あたしは見た目そんな変わってないかなー……」
楪は、自分の姿を見下ろしてみた。背中の装置がないようだったが、電子盤を操作すると、即座に背中の装備一式が展開される。
「……全く変わってなかったわ」
いつものように、‐FORTISSIMODE-(aa4349hero001)はなにも言わずに幻想蝶の中にいる。
『へえ、ロボットだらけの世界ね。やっぱりドロップゾーンは面白いねぇ』
中性的な容姿をした少女――高野 香菜(aa4353hero001)は辺りを見回してみた。
「ほんと興味本位で生きてるのね」
高野は梶木 千尋(aa4353)の呼びかけに振り返ると笑顔を浮かべる。屈託のない、しかしどこかつかみどころがない笑みだ。
『人生を楽しくする秘訣だよ。千尋はどうだい?』
「――人がいない世界はあまりに寂しいわ」
梶木は、瓦礫の世界を見下ろした。梶木の鮮やかな装いと灰色のコントラストが、どことなくこの世界の物悲しさを強調しているような気がする。
『そこは同感。目的のものを回収して、さっさと帰ろうか』
足元で瓦礫が音を立てて割れた。
「人が自分たちの生活をより良く……と、高度に技術を発達させた結果がコレか?」
藍澤 健二(aa1352)は、荒廃した世界を寂しそうに見下ろす。
「何かそれって、空しくないか? やっぱり、あまり必死にならん方がいいのか?」
『そういう事は、人生の中で一度でも必死になってから言うものじゃない?』
ティーナ フォーゲル(aa1352hero001)の言葉に、藍澤は言葉を詰まらせた。
「……そう言われると、ぐうの音も出ないが」
必死になれるような、本当にやりたい事がいつか見つかるといい。――ティーナは思う。
「……ロボットいっぱい……」
【綾香、皆本当にメカ化したわけではない】
サイコロ(aa4051hero001)の言葉も一色 綾香(aa4051)の耳には入っていないようだ。一色はじゅるりと舌なめずりをすると、幸せそうにあたりを見回していた。ロボット操縦に憧れ、ついにはサイコロと契約した一色である。ロボットだらけのこの世界は、彼女にとっては垂涎ものだ。
「あぁ……ここは良い世界だ……」
【聞いてるか? 綾香??】
一色は、うっとりとメカのパーツを拾い上げる。
●接敵
もしかすると、ここは墓場のような世界かもしれない。
地下へと降り立つエージェントたちに、マッドマシンが姿を現し銃弾を浴びせかけた。
射程の外にいるうちに、エージェントたちはそれぞれ戦闘配置につく。
「わあ、格好いいロボットさんだね、ダレン。雨霰のような攻撃も親近感が湧いてしまうね」
『……』
エリカ・トリフォリウム(aa4365)が楽しそうに言う横で、ダレン・クローバー(aa4365hero001)は無言で考えを巡らせる。
(範囲攻撃は魅力だが黙っておこう。バカが勘違いする)
エリカとダレンは共鳴を果たす。髪は灰色に、瞳は鮮血の如く赤くなる。
「……おっきい。あれ、止まる かな?」
蛇を想起させる依雅 志錬(aa4364)の双眸が、じっとマッドマシンを見つめていた。アル=イスカンダリーヤ遺跡で発生した"開門"に伴って能力者として覚醒した彼女に、実戦経験はまだ少ない。しかし、口にしたことは不安というよりは、どちらかといえば乾いた、無機質な作戦上の懸念と言ったほうが正しいかもしれない。
L(aa4364hero001)と共鳴を果たした彼女の見た目は、一見して、普段の依雅と変わりはないように思われる。Lは、英雄側が戦闘時のごく一部を除き干渉を控えているのだ。
未だ不十分な共鳴――言い換えれば、まだこれ以上の共鳴が可能であると誰かは評した。
依雅は、一行から離れてクリンナップや辺りの資料を調査する算段だ。
「随分と大きいし、剣呑な兵器のカタマリね」
共鳴を果たした千尋は、誰もが目線を奪われる色彩を纏うと、極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を開く。
『弱音を吐くなら今のうちだよ?』
高野の言葉に、梶木はきりりと眉をあげる。
「わるいけど、そんなかわいい性格はしてないわ。主のいない不憫な機械を止めるわよ!」
「あれ倒すんだねっ」
一色は自らも戦闘に構える。
【霊石は貴重だ。破壊は推奨しない】
「分かった! いくよコロちゃん!!」
二人の姿が一つになると、一色の身体を、きらめきと共に装甲が覆う。サイコロの元世界での――「エーレクトロン」の姿だ。
【ライヴス上昇確認】
「リンク! エーレクトロン!!」
【Ver.バスター】
半透明な羽のようなパーツが、空気を震わせる。
砲撃に負けず主張するように音楽が流れる。
アルトだろう。依頼を共にしたことがあるダレンと一色には分かった。
楪が音叉に似た形状の幻想蝶に触れると、変身が始まる。流れるテーマソング。波紋の波は、徐々に五線譜へと収束していく。
カラーライトの様なエフェクトが全身を包み、エフェクトが弾ける。音楽が進むにつれ、漆黒の鎧が形を成す。
「ふん、ガーディアンだかカーディガンだか知んねーけどよ……あたし等の邪魔でしかねーってのは、分かるぜ!!」
言い切った言葉に重なるFF(フォルティッシモ)は、凛として響き渡った。
対峙するはこの世界の遺物。マッドマシンが突撃の構えを取る。
●セキュリティ・マシン
共鳴した藍澤の金色の髪が、尾を引いて光を反射した。
『頭部に情報集積機能があるなら、早めに処理しておきましょ』
マッドマシンのスカウトアイがこちらを睨む。ここからなら相手の攻撃は通らない。藍澤はひるまず、冷静に射程を見切っていた。
相手の攻撃は通らないが、しかしこちらは――魔導銃50AEが、ロングショットを一直線に放つ。狙うは、頭部。
遠く、的は小さい。にもかかわらず、不意の一発がマッドマシンの頭部にぶち当たる。
マッドマシンは、すかさず右腕のライトマシンガンを構える。
一色が射程に割り込み、重厚なタワーシールドを難なく構える。相手の射撃をものともせずに一色はそのまま間合いを詰めていく。
その間に、楪が戦闘配置につく。
射程内。――捉えた。
まずは頭。今度は16式60mm携行型速射砲が銃弾を浴びせかける。スカウトアイが砕け散る。
『コレ以上ノ演算不能』
むき出しになった機械の眼が、ぎろりと赤い光を放った。
『排除』
マッドマシンの制御機構がうなりを上げる。マッドマシンはマシンガンとは別の腕を構えた。
『左腕の筒……あれも射出機の一種かしら? どっちにしても注意は必要ね』
ティーナの言葉に藍澤は頷く。
(広範囲への被害に巻き込まれないように、他から少し距離をおいて…と)
「来る」
しわがれた女声で、ダレンが短く合図をする。
マッドマシンはエージェントたちの下へと駆け寄りながら、グレネードを浴びせた。範囲攻撃。――動きを読んでいたダレンが、仲間たちへとインタラプトシールドを展開する。死者の書が弾丸の勢いを押しとどめ、羽根が舞った。
●クリンナップ
「……なんで、いっぱいいる のかな。ふしぎ。なに、してるの?」
依雅は戦闘地帯から離れ、クリンナップを眺めていた。吹き飛んできた一体がさかさまになってじたばたと動いている。起こしてやると、クリンナップは避難することもせずにすぐに掃除を開始した。
クリンナップは敵の攻撃を避けようとはしない。不思議な行動原理の様だ。
「何だよ、このチョコマカ動いているのは!?」
藍澤は足元に寄るクリンナップをとっさにかわした。クリンナップが戦闘で出た瓦礫を掃除しているようだ。
「あぁ……可愛い……なにこれ」
一色はうっとりとクリンナップを眺めたが、すぐにサイコロから声が飛ぶ。。
【綾香、集中。来るぞ】
「あ! 壊すな!! 逃げて!」
一色は盾を構えて、クリンナップを突き飛ばす。マッドマシンが、かなり距離を詰めていた。
「くっ……でっかいのに早いとか反則!!」
【回避能力があるわけではない。移動能力が高いな】
マッドマシンの右手のマシンガンが藍澤に向いた。タイミングよく、そこを横切るクリンナップ。
盾にできる。――幸運のはずだ。しかし、なぜだろうか。
(……畜生、とっとと逃げろよ! こんな所にいたら巻き込まれるぞ!?)
全てが終わった世界で今もまだ動いている「そいつ」に、藍澤は内心で呼びかける。
なぜだろうか。
理屈では説明できない。体が、勝手に動いていた。
藍澤は足を踏み切ると、自らそこから離れていた。
『ちょっと! 何処行くのよ!?』
ティーナが驚きの声を上げる。
それは、単なる感傷でしかないのかもしれない。只、動きの止まったこの世界において
珍しく敵意を向けないで動いていたそれに、何らかの感情を持ったのも事実だった。
その感傷を、マッドマシンは理解できない。
『意図不明。囮ノ可能性』
マッドマシンのライトマシンガンの照準は、クリンナップと藍澤から――クリンナップの群れを駆け抜けてくる梶木へと移る。
梶木はあえて姿を見せ、マシンガンの弾をかいくぐるようにして、宝典でクリンナップの群れから魔法攻撃を仕掛ける。
対処できずに、マッドマシンはのけぞった。
魔法。――それは、この機械の世界において、ひときわに異質なものだ。
続いて、ダレンがクリンナップを踏み台にして飛び上がり、後方から死者の書での攻撃を仕掛ける。
マッドマシンのパーツにひびが入り、外装が一つはじけ飛ぶ。
『対処法考案、未知ノ兵器ノ射程ヲ確認……』
『危なくはないの?』
高野が梶木に問う。
「防御に絶対の自信があるわけじゃないけれど、相手の注意を引き付けるくらいはする。それに、隠れながら戦うなんてわたしのスタイルではないもの」
『まだまだ弱っちぃくせに何言ってるんだか』
「たとえ弱くたって貫きたい信念はあるわ」
マシンガンの攻撃を躱しながら、高野は言う。
マッドマシンに狙いをつけながらじわじわと距離を詰める藍澤は、ふと視界に入った倒れているロボットの一体に目が行く。動力部は腹部だ。
(今戦っているコイツも同じ構造なら、動力源がある腹部への攻撃はマズいって事だろう)
銃口をずらし、ローラーダッシュで仲間に迫るマッドマシンに、ファストショットを放つ。
マッドマシンは、移動を諦め左腕を構える。グレネードの範囲攻撃だ。
梶木が顔をしかめた、その時だった。
ダレンが素早くウェポンディプロイを起動させ、ディフェンダーを顕現させると、頭上に掲げ盾代わりにする。グレネードの爆発の光が、ディフェンダーに反射して輝く。
『誇り高くってのは無謀ってことじゃない。無理するなよ』
「そうね、そこはわかってるつもり」
梶木は、仲間の援護を信じて、真っ向からマッドマシンへと向かう。
「弾幕を張って近づけさせなきゃ、…みんなまとめてあたしが守ってやれるって寸法だ!」
楪は二対一組の青色の銃、ブレイジングソウルを構える。ガン=カタ戦法で一気にマッドマシンに詰め寄る。
腹部は狙わない。楪は精密に、腹部から銃口をずらす。狙うは、四肢の付け根である。
「ほらよ、てめぇのための円舞曲(ワルツ)だ! ……効聴きやがれ!!」
薄くなった装甲からはみ出ているコードを照準にとらえると、ストームエッジを発動する。
幾多もの刃が、マッドマシンを滅多切りにする。ショートしたコードが白い火花をあげ、装甲に入ったヒビが大きくなる。
「……わかった、こと……」
依雅はライヴス通信機で仲間たちへと呼びかける。
「……パターンがある、みたい。どうしてか、わからない、けど……」
クリンナップの動きには一定のパターンがある。例えば――横よりは、目の前の縦のものの動きを優先する傾向があるようだ。
依雅は戦線に復帰すると、魔導銃50AEで味方に援護射撃を送る。無線機を通じて、素早く詳細を伝える。
依雅の報告を元にして、エージェントたちは、このフィールドを掌握しつつあった。マッドマシンはクリンナップをただの邪魔者として無視する、あるいは構わない傾向にあるが、エージェントたちはクリンナップを利用することができる。
動きが分かれば、クリンナップをなるべく戦闘に巻き込まない方法もわかるわけだ。
「なるほどな……」
「了解!」
クリンナップを気に掛ける藍澤と一色が動き方を変えた。また、ほかの者たちも、わざと瓦礫を弾き飛ばすことで、クリンナップの誘導、あるいは動きの先読みができる。
「もったいないけどあなたは危険!」
盾を構えてマッドマシンに近づきつつあった一色が、大きく獲物を振りかぶるとびしっと突きつける。
【巨体の割には動作機構がスムーズだ。脚部破壊を推奨】
「狙うのあんま得意じゃないんだけど……そうは言ってられないか……綾香機、でるよ!」
屠剣「神斬」の放つ一気呵成。纏わせたライヴスが斬撃を飛ばし、体勢を崩したマッドマシンの右足をえぐる。
「壁際に押さえ込むよ!」
【Sブロウ……ロックオン……】
一色は、攻撃の手を緩めない。
梶木もまた、仲間の動きに合わせ、部屋の中央側から相手を壁際に押し込んで行くように進む。マッドマシンが少しずつ後さずる。銃撃音。空の薬莢がカランコロンと音を奏でる。
この距離であれば。
梶木は、武器をバドルに持ち替える。リンカーでなければおよそ扱いきれぬ曲刀。
身体ごとぶつけていくように斬りかかる梶木に、マッドマシンはクローアームを構えた。
『エンジンに気をつけなよ』
「いわれなくても――!」
退かない。
マッドマシンはエージェントの息の根を止めようと迫っている。しかし、梶木には、いや、エージェントたちには、エンジンを避ける余裕すらあった。
樫木は足元をねらって機動力を割くように攻撃する。楪と一色が入れたヒビが、梶木の攻撃で決定的なものとなった。
ガコン。
ローラーが、外れる。
空回りしたローラーは、チェーンソーのごとき恐ろし気な音を立ててはじけ飛び、壁に当たって落ちた。
移動手段がまた一つ減った。
梶木は常に広い方向への移動を邪魔するように斬撃を繰り出し、マッドマシンを壁際へと押し込む。
タン。
軽く踏み切る音がした。
ダレンだ。ダレンがクリンナップを足場代わりにして、あらぬ方向からの攻撃を仕掛ける。
『学習パターン使用』
魔法攻撃を警戒し、マッドマシンは距離を詰めた。――違う。
ウェポンディプロイにより、ディフェンダーが再び顕現させられる。
『――ッ!?』
常識的に考えて、ありえない動きだった。
エラーが吐き出される。一瞬のラグ。
大振りの一撃が大きく右腕に突き刺さる。エラー音が悲鳴のように、しかし無機質に響き渡る。
確かな手ごたえ。そして、――空気が、変わった。
●バーストファイア
『シンニュウ、シャ』
「弾幕!?」
「シンニュウシャ、排除シマス。排除、排除、排除」
マッドマシンの銃口が光と熱を帯びる。何かが『来る』。
【警告。味方機被害予測が許容範囲を超える】
「着弾予測早く! 間に合えぇぇっ!」
一色は叫ぶ。
マッドマシンはエージェントたちに銃口を向けた。バーストファイア。捨て身の全弾射撃。兆候を察知した藍澤の威嚇射撃が、とっさに注意を逸らす。
カキン。
僅かなラグに割り込むように。不意に、戦場に桜が咲いた。
「投影、開始。霊子収束・固定、了(トレース:オン。ライヴス・コントロール:クリア)」
陰陽双鉄扇・桜が、周囲のエージェントたちをかばうようにして空中に散る。夜桜と桜。桃色を帯びたライヴスが、一斉射撃を受け止める。
依雅のインタラプトシールドである。
「之、『刹に謳う櫻花の錬』也(セット:『ヤマトウタ・ソメイヨシノ』)」
扇が優雅に弾丸の雨を弾く。
弾を打ち尽くしたマッドマシンは、外装が剥がれてもはや人型にすら見えない。
依雅の防御に応えて、エージェントたちは武器を振るう。
大きな隙。それは、チャンス。
楪のストームエッジが、小気味よいリズムでマッドマシンを刻む。かと思えば、樫木がバドルを振るう。
鮮やかな桜の残像の上に、バドルの満月が輝いた。
もはや、戦うことしか残っていないのだろう。
マッドマシンは最後に残った明確な殺意を向けるようにして、こんどは左腕を構える。――またしても、全弾。
そこへ、盾をかざした楪が割り込む。
「どうだ、狂想曲(ラプソディ)もいいもんだろ? しっかり効聴けよ♪」
サーフボード007が浮かび上がり、攻撃をつるりと弾き飛ばす。
全てとは行かない。しかし――。
「あたしの力で……みんなを守ることが出来んならよぉ……いくらでもくれてやらぁ!」
楪は叫ぶ。
――立っていられる。誰か一人でなければ。ダメージが分散していれさえすれば。ダレンと依雅が再びシールドを展開する。
信頼できる。
攪乱し、マッドマシンの殺意を真っ向から受け止めるように――エージェントたちは、退かない。
危ないと見た梶木が爆発に割り込み、バドルで防御姿勢を取る。
「――ほんと、いい盾がほしいわ!」
『そいつはグロリア社に文句いっとくんだね』
「聞いてくれるかしら? ねえ、大丈夫?」
「まだ! まだいける!!」
一色が叫ぶ。仮想の武器が、仲間の盾がダメージを受け止める。
爆発。
そして、グレネードの雨がやんだ。隙を見て、一色が盾を捨てて飛び出す。
「チャンス!! いくよ!!」
【上限圧力開放……上腕可動関節限界値……】
「オゥゥガドラァァイブゥゥッ!」
叩きつけるような、一撃。マッドマシンはその場に崩れ落ちた。
電子鍵盤の音が、旋律を奏でる。機械には理解できない――美しい旋律を。
「リミッター解除っ! アンプリファイア・セット! いくぜっ!! これがあたしの……小夜曲(セレナーデ)だぁあああああ!!!」
叩きつけるような攻撃に、ブレイジングソウルが燃え上がる。烈火のごとく、ライヴスを帯びて熱く熱く燃え上がる。手のひらが焼けるような、ライヴスの奔流。
刃の嵐がマッドマシンに降り注ぐ。
金属と金属が音を奏で、限界を突破しようとしている。
力を籠める。
『計算デハ……コチラガ』
マッドマシンの狂ったセンサが、不確かな勝利を告げる。勝てるはずなのだ。それなのに、なぜ。
ピシリ。関節部が砕ける。ピシリ。腕が落ちる。
ブレイジングソウルは、応えた。――壊れなかった。
もはやセンサーも機能してはいない。マッドマシンは最後に唸るようなモーター音を響かせて、そして、機能を永久に停止させた。
エージェントたちの勝利だった。
●終幕
「終わったわね」
共鳴が解け、楪の外装が元に戻る。
戦闘のリズムがゆっくりともとに戻っていくにつれて、FORTISSIMODEの存在が遠ざかるのが分かった。
マッドマシンが破壊され、少しずつ、少しずつ、世界はもとのように戻っていく。このロボットの用途。目的。架空の世界とはいえ、人類が滅びた世界にあってもなお意味があるのだろうか。
依雅はそっとクリンナップの外装を撫でると、立ち上がる。
藍澤のそばを横切ったクリンナップの一体は、焦げ跡から藍澤が攻撃を引き付けて庇ったものだとわかった。
『無事だったみたいね』
「ああ……」
梶木は、マッドマシンの腹部のエンジンを慎重に切り離すと霊石を確認する。まだ煙を上げるエンジンの動力に高純度の霊石が輝いている。
「ん、機械は苦手。細かい作業は任せるわ。……香菜も離れときなさい」
『いいじゃん、興味あるし』
そう言って、高野はじっと動かなくなった機械を見ている。
「あなたは壊しそうで怖いのよ」
梶木はため息をついた。
殺意の赤い光を失くしたマッドマシンは、どこか安らいでいるようにすら見えた。
「壊れてしまったロボットさん、どうか安らかに」
エリカは、慣れた手つきで穴を掘ると、動かなくなったマシンを埋めた。マシンの墓といったところだろうか。
この世界に長らく忘れられた土と花の香り。
『…(破壊されるまで動いたことは大義か)』
ダレンは、その様子をじっと見ていた。
クリンナップたちが、墓の周りをぐるぐると回っている。仲間のパーツを回収しようとしているのか、それとも新しいものを観察しているのか。しばらくそうしていると、その場を離れて通常通りに動き出した。
「あれ、1つぐらいもって帰れないかな……?」
一色は名残惜しそうにあちこちを行き来するクリンナップと、エリカたちの作る墓を見ていた。
【不可能であると思われる】
「あぁ……やっぱし……」
【ロボ専はやはり数を欲しがるものなのか?】
「ううん! 私にはコロちゃんいればいいけどさっ」
【理解】
「早くお風呂入りたいなぁ……」
転がってきたICチップらしきものを空に透かすと、一色は灰色の空を見上げる。この世界には、お風呂なんてものはなさそうだ。
【帰ったら入浴すればいい】
「また一緒にはいろーね!」
風が吹いていく。
それぞれの思いを胸に、エージェントたちはこの世界を後にする。その手には、しっかりと霊石を握りしめて。