本部

巨躯の報復者

山鸚 大福

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/16 20:48

掲示板

オープニング

 そこは、冷たく閉ざされた鉄の牢屋の中だった
 いや、牢屋と言うより、四角い鉄の箱のようなものだ。
 人間を収容するにはあまりにも分厚く重厚な鉄で閉ざされた、巨大な箱。
 そこに眠るのは、死刑を待つだけの一人のヴィラン。
 4メートルの巨体を持つ、肉の塊。
 かつて数多の市民と、一人のエージェントを道連れに逮捕されたその死刑囚の名は『クレイマン』。
 破壊をもたらす者として恐れられた、凶悪な犯罪者だった。
 彼は望む、もう一度、その力を振るうことを。
 彼は望む、もう一度、彼らと戦うことを。
 彼は望む、今度こそ、彼らに報復することを。
 その知性は決して高いとはいえないが、そこに宿る意思と執念の強さは、決して衰えてはいない。
 その眼は、硬い鉄の箱の中でも獣のようにぎらつき、明確な殺意を持って無機質な壁を見つめていた。
 それはまるで何かを待つように、期待するように……僅かな一瞬の逃亡の隙も、逃さぬように……。
 そして……。
 

 某国の、とある市街地。
 多数の人と観光客が行き交う街は、休日というだけあって、活気に溢れていた。
 子連れの親子が手を繋ぎ、恋人達が笑い合い、若者達が数人で集まって幸せを満喫する、実に幸福な光景だ。
 空も澄み渡るほどに青く、まるで住民達の気持ちを表すように爽やかな、平和な日常だった。
 だが、そんな街には不似合いな轟音が……突然街に響いた。
 重量を持った鉄と鉄がぶつかり、派手に砕け、ひしゃげるような耳障りな音がいくつも続く。
 そして爆発音。
 街の賑わいが止まり、何が起きたのかと、皆が一様にそちらを見た。
 立ち上る土煙、トラックが横転し、周囲では潰された車達が火に包まれている。
 惨劇の後……いや、違う。
 今まさに無事だった一台の車が……巨大な鉄球に押し潰され、ひしゃげ、爆炎に包まれた。
 惨劇は、今起きているのだ。
 騒々しい悲鳴が、逃走を促す声が街に満ちていく。
 その中心には……鉄球を振るう一つの巨大な影。
「Gwooooo!!」
 獣のような雄叫びをあげ、それは人々へと襲いかかった。

 
 ――H.O.P.E.東京海上支部――


「某国でヴィランが脱獄しました、あなた方には、このヴィランの鎮圧をお願いします」
 H.O.P.E.の職員があなた方に告げると、立体映像にヴィランの詳細なデータが映し出される。
 クレイマンと呼ばれる凶悪犯、過去に大量殺人を行い、死刑囚となった人物。
 ヴィランであり、スラムの産まれらしく実名も経歴も不明、英雄の名前も、その目的も不明だが、非常に凶暴らしい。
 だが、そんな情報より眼を引くのは、その体格と外見だろう。
 身長は4メートルほどもあり、さらにその巨体を、ぶよぶよとした白い肌が覆っていた。 
 クレイマン、その名前の由来となった、粘土のような肌をした異形の姿。
「以前彼を逮捕する際、エージェントが一名死亡しました。無論、今回もそうならないとも限りません」
 そこで職員は、意味ありげにエージェント達を見た。
「ですが、H.O.P.E.に所属する能力者は、超法規的な活動を認められています」
 わざとらしく言葉を切る……つまり言いたいことは。
「依頼後にH.O.P.E.が、その活動が適切なものであったかどうかを判断しますが……今回のヴィランは凶悪犯であり、死刑囚であり、危険な存在です。もしも鎮圧の際に激しく抵抗され、手違いが起きてしまっても、あなた方は罪には問われないでしょう」
 そのヴィランの生死は問わない。
「どのような形であれ、鎮圧さえしていただければ構いません。あなた方の誰かが欠けて帰ってくるような結末だけは避けてください」

解説

【目的】
ヴィラン『クレイマン』の鎮圧

【敵情報】
『クレイマン』

【クラス】
ドレッドノート

【武器】
『クラッシャー』
(射程16)
 ライヴスを纏った非常に巨大な鉄球。長い鎖がついている。
 触れたものを圧倒的な重量で粉砕する凶悪な武器。

【スキル】

オーガドライブ
(防御を捨てて攻撃に全てを賭けるスキル)

タイラント
(相手を力任せにねじ伏せるスキル。リアクションスキルを無視する)

臥謳(ガオウ)
(雄叫びをあげるスキル。周囲にBS『衝撃』を付与する) 

インパクト
(クレイマン固有スキル:大ダメージと共にBS『衝撃』を与える強力な攻撃、射程は武器射程)

ハンドグリップ
(クレイマン固有スキル:巨大な手で相手を掴み握り潰す技:命中した相手に大ダメージを与え、BS『拘束』を付与する技、射程2)

【説明】
 牢屋から脱獄した凶悪なヴィラン。
 4メートルの巨体と、ドレッドノートの特性を生かした怪力は驚異の一言。
 非常に高い生命力と防御力、攻撃力を誇るが、命中力と回避力はそれほど高くない。

【戦場】
 炎上した車等の他にも、大きな建物が並ぶ市街地。
 クレイマンの攻撃は車や建物で防げないが、隠れ潜むことはできる。

【脱獄した原因に関して】
 恐らく、その体躯と力を利用して脱出した可能性が高いとのこと。
 H.O.P.E.で調査を進めているが、今は脱獄犯の鎮圧を優先して欲しい。

【H.O.P.E.の超法規的活動に関して】
 H.O.P.E.に属する能力者は、各地の支部より出された正式な依頼の遂行中に限り、必要な範囲での超法規的活動が認められている。
 これは依頼遂行の後にH.O.P.E.によって審査され、その行動が任務遂行に必要な範囲を逸脱したと判断された場合、軽微なものであれば謹慎や除名措置、重大なものであれば通常犯罪と同様に司法機関に引き渡されることになる。
(ワールドガイド→H.O.P.E.とは→H.O.P.E.の権限より抜粋)

リプレイ


●プロローグ


「今回は一切口出ししない。思うままに行動するべし、ですか」
 国塚 深散(aa4139)が呟いた。
(本当に、肝心なときには助けてくれないんですね)
 ライヴスで鷹を形成しながら、彼女はその意味を考える。
(わかっています。ヴィランとは、私にとって因縁深きもの、越えるべき壁。私が自らの意志で立つことにこそ意義がある)
 鷹が力強く羽ばたき、青い空に飛び立っていく。
 それを見送ると、彼女もまた、義足で大地を踏みしめ、戦場へと向かった。
(突き放してくれてありがとう)
 風に靡く、一房の銀髪に触れて……。


●開戦


 ーー市街地・大通りーー


 死角から迫る風切り音に、クレイマンが振り返った。
「グゥゥ!」
 迫るのは勇猛な鷹。
 挑発するように飛び回る煩わしい鷹の動き……それに彼は、ぎちりと身体を捻り、暴力で応じた。
 巨腕が動く。
 ライヴスを宿した腕が異常な速度で鷹を掴み、握り潰した。
 ライヴスの粒子が指の隙間から溢れ……そこで二つの斬撃が、不意をついてクレイマンに浴びせられた。
 一つは深散。
 音もなく振り抜かれた刃が、浅く肉を裂く。
 もう一つは、桃と緑の瞳を持つオッドアイの青年……桜小路 國光(aa4046)のもの。
 曼珠沙華の装飾がされた鞘、それから引き抜かれた刀の峰が、巨大な足に叩きつけられた。
「ガアァ!!」
 完全な不意打ちに、クレイマンは怒り、身体を捻る。
「来ます、さがって!」
「ああ、わかった」
 短い問答、二人が距離を取ると……同時、巨大な手が眼前を掠めた。


 バタン。
 符綱 寒凪(aa2702)は怪我人を乗せた車を降りる。
 避難誘導と怪我人の搬送……予定外の事態だが、寒凪達は柔軟に対応した。
 深散の鷹が確認した一般人の避難誘導を仲間と行い、動かせそうな車で寒凪が怪我人を運んだのだ。
 怪我人に応急措置も施したから問題はないだろう。
「さて」
 寒凪がスマートフォンを出して、仲間と連絡を繋いだ。
 その口から零れるのは、中性的で、涼やかな声。
「搬送も終わったから、すぐ向かうね」
 それだけ告げて通話を終えると、スマートフォンをしまう。
 今回の相手は、人とは思えない巨大なヴィラン。
「終わったら餃子かな」
 寒凪の両腕、右頬から首元に爬虫類の鱗が現れる。
「行こうか、今日の仕事に」
 そして引き抜いた銃、『ブレイジングソウル』を握り……散歩するような足取りで、戦場へ赴いた。


 攻撃を避けつつ、深散と國光は少しずつ敵の体力を削いでいた。
 周囲は瓦礫と破壊された車ばかり……避難誘導をさせたのは正解だ、逃げ遅れた人間がいたらと思うとゾッとする。
 唸りをあげる豪腕を二人が避け……クレイマンに異変が生じた。
「ガァッ!」
 一本のライヴスの針が、クレイマンのライヴスを乱し動きを阻害する。
「……止まったか」
 その針を放った忍びのような姿の女性……無月(aa1531)が、二人の元に駆け付け。
 光弾。
 そして二つの銃声。
 飛来した攻撃が、クレイマンの腕と足を撃ち抜いた。
「オォォッ!!」
「このまま鎮圧するわ」
 通信機から聞こえる、落ち着いた少女……水瀬 雨月(aa0801)の声。
 練られた大量のライヴスを本に注ぎ、多数の光弾を生み出して攻撃を仕掛ける。
 その雨月の隣には、爬虫類の鱗が見える中性的な人物……寒凪の姿。
 二対の銃でクレイマンの足を狙い、立て続けに銃弾を叩き込む。
「前の三人はどれくらい持つかしら」
 雨月が光弾を放ちながら口を開いた。
 クレイマンの破壊力は凄まじいが……。
「みんな強いからね、三十分」
「まぁ、それくらいよね」
 寒凪の感想に、雨月が穏やかに返した。
 当たらなければ破壊力は意味をなさない。
 前衛の三人は素早く、遠距離から俯瞰してクレイマンの動きを見ているCERISIER 白花(aa1660)の指示にも従い、攻撃を避けている。
 鎮圧も時間の問題だろう……力任せで勝てるほど、闘いは甘くない。
「彼と話してみたいな」
「捕まえてからはどうかしら?」
「いいね、そうしてみよう」
 その時、諭すような声が通信機から聞こえた。
「お二人とも、お話は構いませんが、気は緩めすぎないように」
 白花だ、この場にいる人間で最も年長であり、経験豊かな能力者。
「はい、スリジエさん」
 寒凪が答える。
 来る途中で雨月は気付いたが、寒凪は白花に対してとても丁寧だ。
 知り合いのようだが……今は詮索する時ではないだろう。
 雨月がクレイマンに意識を戻し……その時。
 咆哮。
「グオォォォォ!!」 
 劣勢を強いられたクレイマンが、空気を吹き飛ばすような爆発的な咆哮を放った。


 時間は少し戻る。
 巨腕を振り回すクレイマンの攻撃を避け、無月は口を開いた。
「思い出せ!貴方にもかつてあったはずの優しい心を!人としての魂を!」
 魂を揺さぶる本心からの叫び。
「いくら闇に心が堕ちようとも、人の持つ慈しみの心を完全に消す事など出来はしない!」
 返答がなくとも、無月は真摯に言葉を投げる。 
 その場にいる深散には、無月の言葉が完全に他人事とは思えなかった。
 深散は強い復讐心に囚われたことがあったからだ。
 それを闇と言うなら、きっと闇の中にいた……けれど少しずつ、日常を取り戻すことができた。
 復讐心は消えなくても、人としての心まで失う必要はない。
「オオォッ!」
 クレイマンが怒声と共に腕を振るう。
 明確な殺意を乗せた腕を無月が避け……深散が口を開いた。
「あなたは、なぜ牢を出たのですか……生きたいからですか? 何か目的があったのですか?」
 静かな問いかけ。
 それに返されるのは、殺意のこもった眼差しと巨大な鉄球、拒絶するような唸り声。
 鉄球を避けながらその眼と態度を見て……なんとなく深散は理解する。
 あれは、昔の自分にも似た、復讐者の眼だ。
 それが分かったからこそ……彼女はそこに言葉を、意思をぶつける。
「私も家族を殺したヴィランへの復讐を胸に生きていますが、貴方のそれは程度の低い八つ当たりですね」
 強い復讐心を抱くからこそ理解できる……報復者の過ち。
「奪うなら奪われる覚悟を持ちなさい。自分の力不足を棚に上げて、癇癪を起こさないで」
 その言葉を振り払うように……。
「グオォォォォ!!」
 クレイマンは怒りを込めた咆哮をあげた。


●断たれるものは


 大地を揺らす咆哮に、深散の動きが止まる。
 危うい状況……だが、後衛の3人はそれでも冷静であった。
 狙撃運用も可能な銃を構えていた白花は、動じることなく狙いを定め、クレイマンの前方に威嚇射撃を行う。
「気を引きますから、そちらもお気をつけて」
 雨月と寒凪に通信を送り、速射。
 次弾を即座に装填、発砲し、注意を引く。
 判断を誤れば犠牲が出る。
 その意図を汲んでか、独断か……。
 雨月から光弾が飛び、寒凪が咆哮で動けなくなった深散にライヴスを正常に戻す光を浴びせる。
「符綱さん、狙われていますよ」
 白花が警告を送ると同時、分銅のように投げられた鉄球が、瓦礫を豪快に蹴散らし飛来する。
「っと」
 既に事前の動きから察していた寒凪が飛び退き……鉄球がアスファルトに激突した。
 その隙に雨月は杖を向ける。
 狙いは……鎖。
 ヘカテーの杖……雨月が持つのは旧式だが、使い手によっては新式に勝るとも劣らない性能を発揮できる。
 杖の先端にライヴスの光が灯り、集い、収束する。
 駆け出しの頃から何度となく扱ってきた杖……だからこそ、この杖を扱う雨月は強い。
 杖に集められた力が蒼い焔へと変わり……蒼炎が、放たれる。
 炸裂。
 鎖を中心に炸裂した焔は、圧倒的な熱と破壊を撒き散らし、強固な鎖にヒビを入れ……。
(駄目ね)
 あと一押しだが、二撃目は間に合わない……。
 そこに割り込むのは、銃声。
「手伝うよ」
 壊れかけた鎖に銃弾が浴びせられた。
 それは雨月の狙った部分に命中して鎖を断ち切り……鉄球の武器としての用途を失わせる。
 雨月が、銃を撃った人間……寒凪を見た。
「この調子でいこう」
 銃に弾薬を装填しつつ寒凪が語り。
「そうね」
 雨月が答えると、二人は攻撃を再開する。


 その間にも闘いは進む。
 クレイマンの顎が國光の峰打ちで揺すられ、脳を揺すられたクレイマンがぐらつき……。
「ガァァ!」 
 踏み止まると常軌を逸した声で鎖を引き戻す……が、手応えがない。
 その隙にさらに顎を打ちすえながら、國光は冷静に状況を見ていた。
 クレイマンが倒れるのは時間の問題だ。
 手足の傷、毒と出血による体力の衰退、脳への振動。
 いつ倒れてもおかしくないが……優勢でも油断はできない。
 國光は避けつつ、巨大な足に何回目かの打撃を加え……何かを折る感触。
 巨躯が、傾いた。
 そこに無月のライヴスの針が飛び、雨月が杖をかざす。
「闇よ」
 ヘカテーの杖の先端で闇が膨れ、奔流となり襲いかかる。
 言葉を発する間もなくクレイマンは呑み込まれ、その意識ごと闇の中に沈む。
 闇が霧散した。
 残るのは意識を失ったクレイマン、それを深散が拘束し、睡眠薬を投与して……。
 静寂。
 目を覚ます気配はない。
「終わり……ましたね」
 深散が呟く。
 呆気ない幕切れだが……闘いにはそういう時もある。
「拘束具と輸送車両もすぐ来るそうよ」
 既に手配を済ませていた雨月が言うと、祝福するように一羽の鳥が空を飛んだ。


 無月は、ワイヤーで拘束されたクレイマンを眺めていた。
 死刑が免れぬならば、せめて怪物ではなく人として。
 そう願って闘ったが……果たして届いたのだろうか?
 どこか寂しげに、物言わぬ巨体を眺め……そこで、巨体が動いた。
(……!?)
「オォ!」
 疑問に思う間もない……意識を取り戻したクレイマンは、ワイヤーに皮膚を裂かれるのも気にせず強引に手を伸ばし。
「させません!」
 その腕を深散に斬られながらも、無月の身体を巨腕で掴みあげた。


「くっ…!」
 巨腕に絞められた無月が、苦痛に呻く。
「無月さん!」
「助けます!」
 同時、巨腕に國光と深散の刃が走る。
 腱と骨、その二つを断ちきる一閃。
 だが、クレイマンはライヴスで強引に腕を固定し動かすと、執拗に無月を掴み続けた。
「ああ…」
「グゥゥッ!」
 握り潰さんとする巨腕。
 飛来した銃弾と炎に巻かれても、その手は緩めない。
「貴方に私は倒せない。いくら力があろうと、理念なき暴力で私の魂を、想いを潰すことなど出来はしない…!」
「ガアァッ!」
 クレイマンが感情のまま吼える。
 死が近付き、意識が薄れる。
 そんな中でも無月は……ただ真っ直ぐにその意思を口にした。
「私は…貴方を救いたい」
 そして……。


 國光と深散は、一太刀で腱を断ち切り骨を砕いたはずだった。
 だが、ライヴスだけで筋を動かし、無月を掴みあげている。
 痛覚を無視した狂気の所業。
 このままでは犠牲者が出る。
 拘束具もすぐ来るとは限らない。
 それなら……。
 過去の情景が一瞬深散の脳裏を過り、そして消えた。
(憎しみを、飼い慣らしてみせます)
 断つべきものは、一つ。
 義足で加速した身体の勢いを乗せ……無音の鞘から刀が抜かれた。
 一閃。
「ガアアァ!」
 傷付き脆くなった腕を、無月を掴むその腕を、一刀で断つ。
 腱を切ってダメなら手を断てばいい……それだけだ。
 彼は、復讐を果たすべき相手ではないのだから。
 そこに國光が飛び込んだ。 
 踏み込みから一連の動作で続く、流れるような斬撃。
 刀に宿るのは、意識を断ち切るライヴスの刃。
「そこだ!」
 斬閃が、縦に走った。
 身体ではなくライヴスの流れを鋭く断ち切るその刃は、クレイマンの意識を裂き……地響きを立てて巨体が倒れる。
 その意識は、今度こそ完全に失われていた。


●エピローグ


 クレイマンはその後、到着した拘束具をつけられ、寒凪の応急手当てを受けて搬送されることになった。
 暴れるかと思われたが、憑き物が落ちたようにクレイマンは黙り、質問にも答えずにじっとしていた。
 ゛印゛がないかも確認したが、成果がなかったのは残念だ。
 無月もまた寒凪の治療を受け、クレイマンを見送る……雨月や深散の姿もそこに見えた。
 無月が、声をかける。
「クレイマンさん、どんなに姿が変わろうと貴方は優しさを持った人間だ。それを忘れないで欲しい」
 クレイマンはそれを聞き……。
 初めて、意味のある言葉を口にした。
「Ta」
 そして搬送用の特殊車両の扉が、固く閉ざされる。
「Ta……ありがとう、かな」
 寒凪が訳した言葉……無月は目を瞑る。
 彼の闇を断ち切れただろうか。
 それは分からないが、彼の心を救えたことを無月は願い……特殊車両で運ばれていく、巨大なヴィランを見送った。


 ーーそしてーー


「……」
「脱獄の原因は他にある、ということでよろしいのですね?」
 穏やかで、しかし曲がる様子のない白花の言葉に、通信機の先の職員は諦めて口を開いた。
「はい、事件の緊急性から同時進行で調査をしていたので、あの時はお伝えできませんでしたが」
 そう前置きして、言葉を続ける。 
「今回の脱獄ですが、ライヴスを用いた拘束機器が停止させられていました」
「どのように停止させたかも、教えていただきたいのだけれど」
「管理機構に細工がされていました。ハッキングではなく直接的な細工である為、内部犯の可能性も浮上しています」
 職員はそう説明するが……白花に疑問が残る。
「……一つお聞きしても?」
「はい、なんでしょうか」
「脱獄の際、警備の方々は何をしていたのかしら?」
「何も」
「何も?」
「全員、そもそも脱獄に気付いていなかったそうです。映像には脱獄の一部始終が残っているのに、それを監視していた人間さえ異変に気付いていなかった、と報告がありました。ライヴスによる特殊事象が原因だと見られていますが……まだ調査途中ですから、私もこれ以上は……」


 そうして、白花は丁寧にお礼を述べ、通信を終えた。
「やはり、何かありましたか?」
 そこに國光が声をかける。
 彼もまた、今回の脱獄を奇妙に感じた一人だ。
「ええ、宜しければお話しましょうか」
「はい、お願いします」


 話を終え、白花は優雅に葉巻を燻らせた。
 戦いの終わりを見計らったように一羽の鳥が飛んでいたことを思い出す。
 鳥を使っての監視、ないとはいえないけれど、想像の域はでない。
 國光が、悩むように言った。
「誰かが暗躍していたなら、何かまた起きるのでしょうね……」
 それに白花は葉巻を外し、微笑みを浮かべる。
「ですが、この事件は終わりました。救えた人がいたのですから、今は、それでいいでしょう」
「……そうですね」
 國光は、静かに頷いた。
 破壊された街、けれど空はどこまでも澄み渡っている。
 いつかこの街も、以前の活気を取り戻す事だろう。
 闘いは、終わったのだから。



結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660

重体一覧

参加者

  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660
    人間|47才|女性|回避
  • 鋼の冒険心
    符綱 寒凪aa2702
    人間|24才|?|回避
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
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