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変身!私達(僕達)は魔法少女!
最終発言2016/09/12 08:19:28 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/09/08 22:23:18
オープニング
●魔法少女ですけど何か
私、○○! 14歳の中学2年生! どこにでもいる普通の女の子だった私。ある日、雨に濡れている変な生き物を助けたせいで大変なことになっちゃったの――。
「何コレ?」
少女の声が言った。
「よくある魔法少女モノの第一話かな」
少年の声が答える。どちらも聞いている者の不安感を煽るような、幼く、甘く、しかし酷薄な声だ。
「今度はそれで遊ぶの?」
少年が肯定すると、少女は不思議そうに言う。
「だけどさ、乗り込んできた奴らは、少女どころか女ですらなかったりするわよ?」
「だから面白いんじゃん!」
「あ、そっか」
ダイスの女神は気まぐれだ。時に役者(プレイヤー)に一切配慮しないキャラを生み出す。世界観によっては、自分に合ったキャラなど作れないこともある。――例えば、『少女』しか出てこない、とか。
「ステージは学園ものっぽい感じでいいよね。あとは……」
ふたりの声がぴたりと合う。
「変身と必殺技は決め台詞必須!」
●ハンドアウト配布
ようこそ、「魔法少女系テーブルトークRPG」の世界へ!
・非共鳴時は『魔法少女』『サポートキャラの妖精』を分担してもらいます。能力者と英雄、どちらが魔法少女役でも構いません。
・共鳴すると、普段通りの共鳴時の姿になります。見た目がどうであろうと『魔法少女』です。
≪1、魔法少女(変身前)≫
・あなたは私立鈴鳴(すずなり)学園中等部の1~3年生です。
・元のあなたと見た目も性格も変わりませんが、女子中学生です。
・【重要】正体バレはご法度です。変身シーンを人に見られてはいけません。敵が現れたら、安全に変身できる場所を探しましょう。(ただし、変身さえしてしまえば正体がバレることはありません)
≪2サポート妖精≫
・『魔法少女』の変身に力を貸す『妖精』です。
・姿は小動物型やお人形サイズの人型を推奨しますが、それ以外でも構いません。
・いずれも潜伏方法に注意し、リンカーや不思議生物のいない『現代日本』で不審と思われそうな行動は慎んでください。
(ペナルティ)
・変身シーンを見られると、友達に距離を置かれたり、好きな子に振られたり、ゲスな記者に追いかけられたりなど、楽しい学校生活が送れなくなります。つまり、バッドエンドです。
・妖精の正体がバレると怪しげな研究機関に連れ去られます。永遠の別れ、バッドエンドです。
最後に「魔法少女としての名前」、「変身(共鳴)時の掛け声」、「必殺技の名前」を決めてください。
――これであなたも、魔法少女☆
●放課後の悪魔
私立鈴鳴学園。都内某所にある由緒正しき女子校である。今は放課後。乙女たちは思い思いに青春を謳歌していた。
どこかで悲鳴が上がった。噂好きの女生徒――そういう生徒はコミュニティに一人くらいは必ずいる――が、血相を変えて走って来る。
「大変よ! 『氷の女』がホントに氷の女になっちゃったの!」
『氷の女』とは、数学教師の雹野 法子(ひょうの のりこ)のあだ名である。規律に厳しく、誰も笑顔を見たことがないというテンプレ生徒指導教諭である。
「雹野先生が吐いた息で、校則違反の生徒が次々氷漬けにされてるの!」
『彼女』たちは思った。自分の出番だ。『魔法少女』である、自分の。
次の瞬間思った。「って、誰が魔法少女だよ!」と。そんな気持ちを知る由もない友人は言う。
「ああ、こんなときに魔法少女が来てくれれば! 私、彼女たちに憧れてるのよね。本当に来たら握手してもらっちゃおうかなぁ」
法子は屋上のプールに居た。彼女は現実世界でも教師をしているという単純な理由でこの役に選ばれてしまった。本当は穏やかな微笑みを絶やさない人望ある教師である。25mプールの周りは幅2メートルほどの通路で囲まれ、その周りにはフェンスがある。彼女は白い息をプールに吐き掛けながら通路を歩く。やがて完成した氷のプールをに内履き用のスニーカーで見事に滑走した彼女は、空に向かって悪役っぽい台詞を言い放った。
「いずれこの世界を統べる、暗黒覇王ダークレイ様! 貴方様のために憎き魔法少女たちを滅ぼして見せますわ!」
解説
ミッションタイプ:【一般人救助】
このシナリオはクリアと成功度に応じて様々なボーナスが発生します。
詳細は特設ページから「ミッションについて」をご確認ください。
――――――――――
(救出対象)
・雹野 法子
NPCにされた一般人。悪の組織に体を乗っ取られた教師の役。倒す(乗っ取りからの解放)には魔法少女全員の『必殺技』が必要。倒せば彼女はゾーンからも解放される。リプレイ開始時は屋上で悪の幹部と交信中のため、被害者は増えない。
スキル:氷の息
射程は約3m。口から直径約15cmほどの太さで発射される。魔法少女にも効果あり。氷は魔法少女が触れて『祈り』を捧げれば溶ける(3秒程度)。法子を倒してもスキルは解けないので、どんな作戦をとるにせよ全ての被害者を発見する必要がある。
・校則違反の生徒たち
20名くらい。校内に散らばって氷漬けにされている。とても寒そう。人の多い場所もあれば、死角になりやすい場所も。
実はNPCにされた現役中学生が3人混じっている。氷漬けにされない生徒は全員エキストラで、魔法少女のファンとして群がり邪魔してくる。
(捜索範囲)
1階→教室(1年生×5組)、理科室、保健室、体育館、グラウンド
2階→教室(2年生×5組)、音楽室、視聴覚室、職員室
3階→教室(3年生×5組)、図書室、美術室、調理室
屋上→プール
(ルール)
・「魔法少女としての名前」、「変身(共鳴)時の掛け声」、「必殺技の名前」を決めてください。
・武器やスキルの性能は変わりませんが、自動的に可愛らしい効果音などがつきます。希望があれば取り入れます。
・戦闘のスタイルは指定しませんが、最後は全員で『必殺技』を放ちます。接近型の方は剣や拳から生み出した衝撃波になります。
・能力者のみで参加の場合、役柄は自動的に魔法少女になります。妖精は存在するが描写は無し、とします。
リプレイ
読み終わった瞬間、ハンドアウトの用紙は煙となって消えた。
「魔法少女系テーブルトークRPG……? 私は何をすればよろしいのでしょうか?」
クロード(aa3803hero001)が戸惑いの声を上げる。
「クロードはサポート妖精の役だから、普段は普通の黒猫になってれば良いんだよ。立って歩いたり喋ったりしちゃダメだよ?」
「はい、分かりました。旦那様は魔法少女の少女役という事ですが、大丈夫なのですか?」
世良 霧人(aa3803)。27歳男。職業:女子中学生。
「……頑張るよ」
想詞 結(aa1461)は不満げな声を出す。
「魔法少女は確かにいいなとは思ってましたけど……なりたいとは言ってません!」
「いいじゃん、せっかくの機会なんだから楽しもうよ。何事も経験経験」
そう言ったルフェ(aa1461hero001)は何事か企んでいるようだ。
(まさかこの歳で魔法少女を演じることになるとはね、超ウケる。けど、家族には絶対内緒だな)
元俳優の咲魔 聡一(aa4475)は余裕の表情を浮かべていた。
●第1幕:緊急出動! 先生は冷たいのがお好き!?
レオンハルト(aa0405hero001)改め『レオ子』は鈴鳴学園の3年生。一言でいえば、孤高の不良。今日も校舎裏でひとり物思いにふけっている。
「どうした大根」
そこへ現れたのは真っ白なウサギ――妖精の『大根』だ。正体は卸 蘿蔔(aa0405)である。
「ヴーっ」
足をダンダンと踏み鳴らし、レオ子に異変を伝える。
「なに!? 雹野先生が敵に乗っ取られてやつらの配下に?」
唯一の友、大根とは以心伝心らしい。
「ヴっ」
「屋上にいるのか……わかった。急ぐぞ」
遠くで、近くで、悲鳴のコーラス。学校中がパニックになっているのがここからでもわかった。
「……ちっ、誰か来やがるな」
大根を鞄に入れ校舎に入ると2階へと駆け上がる。職員用トイレなら変身シーンを目撃されることもないだろう。
入れ替わりに現れたのは同じ使命を持った魔法少女、ステラ=オールブライト(aa1353)だった。
「大変だよフッキー! 雹野先生がダークレイのせいで大変な事に! もともと冷たい感じがするって評判だけど、これじゃ氷点下だよ!」
鞄の中から答えるのは妖精フッキー。
「大変な事になってるのは雹野先生だけじゃなさそうフキ! 皆を助ける為にも、ステラ……メタモルフォーゼだフキ!」
「合点承知!」
負屓(aa1353hero001)の語尾も大変なことになっているが気にしてはいけない。
「レイメン、ニューメン、ヒヤソーメン! ラーメン、タンメン、タンタンメーン!!」
ステラが叫ぶと緑色の光が辺りを包み込む。
「──滴るライムの雫! 英国式魔法少女ライミー☆ライム、推参!」
ガシャン、と音を立てて甲冑が降り立った。親指と中指を合わせて雫型を作り、顔の両側に。脇をぎゅっと締め左足を側方へと可愛く曲げれば――身の丈195cmの偉丈夫魔法少女、ここにあり。
(……見物人がいるわけでもないのに毎回毎回、誰に向かって言ってるフキ、それ……)
(もー。お約束でしょ、お約束!)
同じく、校舎裏を安全地帯と見たのは霧人だ。通常サイズの黒猫となったクロードから異変を聞きつけ、彼と共にやってきた。
「マジカル・チェンジ! 悪を斬り裂く刃となれ!」
左手を腰の後ろに。そろえた右手の指先を左から袈裟懸けに振り下ろし、右斜めからも振り下ろして恭しくお辞儀。燕尾服をばっちり着こなした執事――魔法少女マジカル・リッパー。
「おや、ライミー☆ライム様もこちらでしたか」
ふたりが合流したとき、リッパーに通信が入った。
時間を少し巻き戻そう。騒がしいクラスメイトの報告を受けた志々 紅夏(aa4282)は、行かねばと直感した。重体だろうが関係ない、自分は魔法少女なのだから。保健室に行くというと親切な生徒が付き添いを申し出たが、彼女は固辞した。
「私に構わないで」
こういうときクールビューティーキャラは便利である。
「失礼します」
許可を得てベットに横たわると、養護教諭が様子を見に外へ出て行く。この騒ぎなら当然か。
「行くわよ」
保志 翼(aa4282hero001)の宿るペンダントトップをぎゅっと握りしめる。
「イーリス・ツァイホン・アルコバレーノ・アルクス」
聖虹戦乙女(イリス・ヴァルキュリア)ベニーが毛布を跳ね上げ、カーテンを颯爽と開けると。
「やあ」
聡一もまた『体調が悪い』と保健室に来たのだ。ベニーが外に出ると自分がカーテンの中へ。
(サンライトパワー、オーバーフロー!)
「花と大地の魔法少女(笑)、リンクブルーム!」
カーテンが開く。花弁をまき散らしながら一回転、右手を体に巻き付け左手を空へと伸ばせば、まるで凛々しく咲く一輪花――かも。
「まずは氷漬けの生徒たちを助けに行こう」
「仕方ないわね。あんたたちだけじゃ荷が重いでしょうし、協力してあげてもいいわ」
そして、校舎裏のシーンへ戻る。話し合いの結果、ブルームが1階、ライムとベニーが2階、リッパーが3階に行くことになった。
(魔法少女ってどっちかっていうとラノベの題材だよな。そっちの分野は若い人に任せておきたいけど……ま、一応後でメモしておこう)
現在、小説家を生業とする聡一は逞しくもそんなことを考えていた。
「レモンハート、フルーティ☆チェンジ!」
両手の指を銃の形にしてBANG! BANG! 左胸の前でハートを作ったポーズで変身完了だ。職員用トイレから飛び出す。すると。
「キャー魔法少女よー!」
「嘘、どこどこー?」
あっという間に女子たちの歓声に包み込まれる。すぐ側にある階段がひどく遠い。
彼女らに構っている暇はない。レモンハートが『ハイパークールタオル「町中商店街」』を壁に叩きつけて凍らせ、凄む。
「魔法少女?んなわけねーだろ……これ見てわかんねーのか? 私も敵の一人さ。凍らされたくなかったらさっさと家に帰るんだな」
生徒を凍らせる雹野の噂は校内中に広まっている。生徒たちは一目散に逃げだした。
3階・美術室。「変身には大きな布が必要」というルフェの強い要望により、結はやってきた。ちなみにルフェはシルクハットと帽子を付けた猫のぬいぐるみとなっている。
布で体を覆い、くるくる回って。
「皆に笑顔と驚嘆を! 奇術少女マジック・ユイ華麗に見参! ……です」
小さなシルクハットにちょこんと片手で触れ、もう片方の手はまっすぐ前へ伸ばす。魔法少女バージョンだという、水色の燕尾服風の衣装はフリルがいっぱい。スカートもパニエたっぷり。
(あの……ルフェ君、その……いつもよりも派手で恥ずかしいんですけど)
(大丈夫!結お姉ちゃん似合ってるから。それに魔法少女なんでしょ? やるなら徹底的に、だね)
ここに来る途中、レモンと生徒たちの悶着を目撃したユイは思いつく。
「私が生徒さんたちを引き付けるです! そうすれば他の方が救助に集中できるはずです!」
ユイは目立つように3階の窓から飛び降りる。
「キャーカワイイー!」
生徒たちに気圧されつつも、ユイは努めて自信ありげな微笑みを浮かべてみせる。
(ルフェ君みたいに上手くできるかわからないですけど……やってみせます!)
ぞろぞろと生徒を引き連れ、目指すは校庭だ。
●第2幕:ドタバタ救出劇! 魔法少女よ、深く静かに潜行せよ!
保健室に異常はなかった。ブルームは、体育館へ続く渡り廊下を走る。部活動中の生徒たちが友人の名前を叫んでいる。
「下がってくれるかな?」
ブルームが祈ると、氷の中からぶかぶかなジャージを着た少女が現れた。
(なるほど、校則違反者っぽいね)
次の被害者を探しに行こうとすると生徒たちが追いすがってくる。友人の心配をしてくれ、と思うのだが役割なのだから仕方ない。
「雹野先生は必ず元に戻して見せる。皆が信じてくれることが、私たちの力の源。だから、信じて守られてほしい」
「リンクブルーム……!」
「約束、だよ?」
演出には演出を。力技で感動的なシーンを作り上げたブルームは脱出に成功した。
「奴らは相変わらず人助け優先か……お人好しだな」
レモンはニヒルに呟く。本当の目的は敵を足止めし、被害者が増えないようにすることなのに。恥ずかしがり屋のレモンには言えるはずがないのだ。屋上に近付くにつれ、階段の気温も低くなっていく。重いドアを開けるとそこに氷の女がいた。
「誰!」
「ヒマラヤより生まれし正義の果実、魔法少女レモンハート! 貴様の目に裁きの果汁を突っ込んでやるっ!」
「教師に逆らうの? ……校則違反ね」
それが決まり文句なのだろう。雹野が吐いた息は氷の高波となって、レモンに迫る。二丁拳銃を構え不敵に笑う。
「校則? そんなものでこのレモンハートは縛れない」
「優等生になるまで、たっぷり絞ってあげる!」
氷の息とぶつかり合うのは、きゅるるんっという効果音付きで発射される弾丸。屋上でのタイマンが今、幕を開けた。
2階の廊下には不自然に大きなダンボール箱。ライミ―☆ライムは廊下をこそこそと進む。
(生徒たちが多すぎる! 教室突入には決死の覚悟がいるな。先に特別教室を……)
いた。人気のない視聴覚室にぽつんと一人。許可のない特別教室の使用は校則違反だ。ダンボール武装を解いて、氷を溶かす。が。
「ピギャアア! 握手とサインしてくださいぃ!」
こんな時は魔法少女の秘密技『手刀で首筋をトーン☆』しかない。
(……これは魔法少女的にNGじゃないフキ?)
「ノープロブレム。大事の前の小事、正義と大義は我に在り!」
歓声。校庭がにわかに騒がしくなった。
「みなさーん、魔法少女によるマジックショー!はじめるですよー!」
外から聞こえたのはユイの声。廊下の生徒たちも我先にと階段を下りていく。
「始まったか」
ライムはダンボールを捨て、教室の調査に乗り出した。今なら密集地帯の氷像も一網打尽だ。――数分後、彼女らをまとめてトーン☆してしまうのはご愛敬。
「種も仕掛けもありません」
お決まりの台詞に合わせて大判の布の表裏を見せ、ぱっと飛び乗る。まるで魔法の絨毯。上着を広げると、次々白い鳩が飛び出し空へと舞い上がる。
「お次は、手に汗握る切断マジックです! どなたかアシスタントを……では、あなたに決めたです!」
マジカル・リッパーは慎重に捜索を進めていた。物陰はもちろん、ロッカーの中、戸棚の中まで徹底的に探す。――と。
「いましたね……」
調理室の冷蔵庫の中に。まるで溶ける様子のない氷に手を付けて祈ると、体育座りの少女が転がり出た。
「私、どうしてこんなところに? ……あの、雹野先生を知りませんか?」
伊藤と名乗った少女は、魔法少女に興味を示すことはなくゲーム研究会の顧問と仲間たちを心配している。一人目、救出完了。
「捕まった皆さんはわたくしの仲間たちが捜索中です。現在、体育館が安全地帯となっていますからご友人もいずれお越しになるでしょう。そちらでお待ちいただけないでしょうか?」
「その言葉、信じます。貴方は命の恩人ですから」
伊藤は駆けて行った。
(……ところで旦那様。私が見る限り共鳴姿は特に変わってないようなのですが、これでも魔法少女なのでしょうか?)
クロードが素朴な疑問を呈す。
(うーん、NPCの人には姿が変わって見えてるとかじゃない? 僕らだったら猫耳メイドに見えてるのかもしれないよ?)
絶句するクロード。大丈夫、NPCたちはちゃんと『執事姿』の貴方を、魔法少女として羨望している。
「教室は全部ダミーだった。私は屋上へ行く」
「うっかり氷漬けになったりしないでよ。私まで同類に思われたら恥ずかしいもの。だから……気を付けなさいよ」
屋上へ向かうライムに遠回しな叱咤をして見送り、ベニーは救出活動を続ける。
「ん……」
「動けるかしら?」
少女はキラキラとした瞳で頷いた。
「ねぇ、他に氷漬けにされそうな人に心当たりない? 校則違反の生徒が狙われてるみたいなの」
「えーとぉ……六条さんかな。テーブルトーク何とかって変な本持ち込んで没収されてたの。それより私、魔法少女に憧れててぇ、よかったらお話……」
「憧れてる? ちょうどいいわ。今、体育館で妖精が次世代の魔法少女をスカウトしてるらしいから」
魔法少女の秘密技『口から出まかせ☆』が決まったところで、ベニーは職員室に侵入する。
「没収した本、ここにあるんじゃないかしら?」
彼女は息を飲んだ。雹野法子の机の前で90°のお辞儀をした状態のまま時を止めた生徒。ベニーの祈りが呪縛を解く。
「すいませんでした! ……あれ?」
六条もまた魔法少女に過剰反応することはなかった。
「この世界に来たとたん雹野先生がおかしくなって……やっぱり悪い奴に操られてたんだ」
「伊藤さんは救出済みらしいわ。ゲーム研究会のメンバーは何人いるの?」
「3人」
そのとき、1階から昇って来たのはブルームと前髪が長すぎる少女。
「花井ちゃん!」
理科室の標本の中に花井の氷像が紛れていたそうだ。
「標本の中って……」
ホルマリン漬けの中に一人とは、辛すぎる。ベニーは同情した。
「随分と怯えてるんだ。先生の豹変も怖かったようでね。この子を頼めるかい?」
「もちろん!」
少し安心した様子で生徒たちは体育館へ。ベニーもほっとした表情を浮かべかけたが、すぐに引き締め、仲間たちへの合図を送る。職員室の緊急放送設備は――OK、使える。
「救出完了。繰り返す、救出完了。これよりラストミッションに入るわ!」
放送を聞いたユイは心で頷く。人ひとり入れそうな大きな箱を取り出して。
「最後は、不思議な瞬間移動マジックですよ。さて、私はどこに現れるでしょう?」
●第3幕:決戦! 氷結女王
レモンハートは氷が浸蝕し始めたプールサイドを走り回る。
「寒い……いや、まだまだ!」
その姿、まさに『不退転』。氷の息を横っ跳びに避け、氷上の雹野に乱れ撃ちを放つ。
けれど、彼女に羽はない。直地した瞬間、足元が凍った。
「随分ステキな姿になったわね」
歯噛みするレモン。
「このまま氷ごと砕いたら……どうなるのかしら?」
氷の微笑みを浮かべる女。
「やあやあやあ!」
雹野の手を止めたのは、勇ましい声。
「遠からん者は音に聞け! 近き者は目にも見よ! 英国式魔法少女ライミー☆ライム参上つかまつり! いざ尋常に勝負、勝負!」
源平合戦さながらの口上と共に登場したのはライミー☆ライム。氷の戦場に一歩踏み込み、そして転んだ。
「馬鹿ね!」
「……果たしてそうかな?」
腹這いのままプールの端を一蹴り。あっと言う間に25mの差を詰めた彼女は槍で足払いを掛ける。氷の女は自らの張った氷で頭を打ちつつも半身を起こす。だが、ライムがブレイクダンスのように繰り出したキックによってリンクの端まで吹っ飛ばされた。『疾風怒濤』の連続攻撃だ。
「レモンハート!」
ライムが氷を抱きしめるようにして祈ると、レモンの足が解放される。
「だ、誰も助けてなんていってねーし!」
照れ隠しの台詞の後、顔を反らし蚊の鳴くような声で言う。
「でも、ありがと」
レモンがライムに手を差し出し、立ち上がらせようとする。一瞬早く立ち上がった雹野が、憎悪の視線を向けた。
「喰らエッ!」
氷の息。先が鋭く尖った巨大つららがライムの背に迫る。だが、その前に立ちはだかったのは。
「もう貴方の好きにはさせません! その悪の心、斬り裂いてみせます!」
剣を構えたマジカル・リッパーだ。素早く剣を振り回すとつららが砕け、キラキラとした粒子が舞った。
「1、2、3!」
高らかな声が校庭から響き、屋上の4人にも届いた。マジックショーの最後の演目――瞬間移動。屋上のタンクがガタガタと揺れ、蓋が開いた。この世界、割となんでもアリなんです。
「マジック・ユイも……んしょ、相手になるですよ」
トランプが氷のリンクに突き刺さる。滑走してかわす雹野にユイの飛び道具が迫る。鳩、ナイフ、トランプ。どこからともなく紙吹雪が舞う。
「魔法少女の未来の決戦は体育館! 魔法少女に会いたい人は急げ!」
ベニーが校内放送する。ユイの出現先もミスリードできたようで、校庭の生徒たちは一斉に体育館へ駆けていく。
「待ちなさい、勝手に集会を開くなんて……」
「下には行かせませんよ!」
マジカル・リッパーの体が光をまとう。『守るべき誓い』――雹野の注意は一点に向けられる。
「華美な装飾は校則違反! どいつもこいつもッ!」
雹野は息を右手に吐き掛け、氷の剣を作る。リッパーと激しく打ち合う。
「クッ」
渾身の力で振り下ろした剣。その反動で、両者に距離が生まれる。
「先生……その張りつめた心を、連中に付け込まれてしまったんですね」
よく通る声。リンクブルームが屋上の入口に立っていた。
「あなたの事も助けます! だから……私たちを信じて!」
――ひとりじゃない だから可憐に舞い踊るの
静かな歌い出し。お約束の挿入歌である。
「うるさい!」
ギターソロを掻き消すような怒声。そして。
「天地を結ぶ愛と平和のメッセンジャー、聖虹戦乙女ベニー、ただいま光臨!」
体の右側で重ねた両手。左手を残したまま右手をアーチ状に動かして体の右へ。背景には虹のエフェクトが。聖虹戦乙女ベニーの登場。これで全員集合だ。
●終幕:合体必殺! 大団円!
――不思議な力、手にした日から 普通の女の子じゃいられなくなって
魔法少女たちがそれぞれの構えを取る。必殺技を放つのだ。
――戸惑う心、持て余してた 私にできることはなんだろうなって
「フルーヒトザフト・デア・ツィトローネ!」
まずはレモンハート。レモンの果汁が飛び散り、辺り一面にはさわやかなレモンの香りが漂う。
――今ならわかるよ ぎゅっと拳握って 暗闇にパンチ
「帽子から鳩さんが、そして、おっきくもなっちゃいます!」
ユイがひときわ大きな鳩をシルクハットから取り出し、飛ばす。リボンを巻いた鳩の周りを紙吹雪が踊る。
――今ならできるよ ぎゅっと手と手つないで 越えようよピンチ
「女神の名の下、あなたへ調和の虹を届けて見せましょう! 私の想いと共に! 天弓のルフス!」
ベニーのペンダントが輝き、光の大弓が現れる。虹色の矢が『シャランラ☆』と可愛らしい音で飛んでいく。
――魔法使い? いいえ、それよりずっとピュアに
マジカル・リッパーとリンクブルームが頷き合い、合わせ技を放つ。
「マジック・ナイフストーム!」
「マジカルフラワーストーム!」
リッパーの呼んだ大量のナイフが、ブルームの起こした花弁の嵐と混ざり合う。
――スーパーヒーロー? いいえ、それよりずっとキュートに
「大回天! パンジャンドラム!!」
氷の天敵、炎の輪を投げつけるのはライミー☆ライム。
「……あ」
あらぬ方向に飛んだ輪はフェンスを2バウンドし、雹野を包む必殺技たちの中に飛び込んだ。
――ひとりじゃない だから可憐に舞い踊るの
6つの力が混ざり合い、悪を浄化する。断末魔のような女教師の悲鳴はやがて途切れ、光の中に優しい表情の雹野がちらりと見えた。
――ひとりじゃない 私たちはそう魔法少女!
レモンハートは夕暮れの空を見ていた。心には、初めて出会った感情。
(仲間がいるって…心強いんだなぁ)
「雹野先生!」
目を覚ました彼女は驚いた。心配そうにのぞき込むライミ―☆ライムとマジック・ユイ、その後ろで微笑むマジカル・リッパーとリンクブルーム、ちらと横目で伺ってくる聖虹戦乙女ベニー。フェンスにもたれて腕を組むレモンハート。
「助けてくれたのね、ありがとう」
声が震える。教師でありながら、自分は何てことを。
「使いますか?」
ユイがハンカチを取り出す。
「こ、これはレモンの果汁が目にしみただけで……っ」
そう、それより――。少女たちの顔を見回す。
「あなたたち、どこかで会ったことがあるかしら」
魔法少女たちは顔を見合わせる。そして、否定した。ある者は焦ったように、ある者は笑顔で、ある者は表情ひとつ変えずに。夕日が、そんな彼女らの表情をまぶしく照らしていた。
――GAME CLEAR!!
●
羞恥に頬を染めている結を含め、皆が楽しそうに健闘を称え合うのを紅夏は見ていた。
「……翼、ツッコミなさいよ。結構恥ずかしかったんだからツッコミないのきつい」
その言葉に応じる者は――。
(やっぱ無反応か)
諦めかけたそのとき。
「……虹が届くなど……」
紅夏は眼を見開く。そして、言う。
「届いたっていいんじゃない? 届かないって思うより思ってた方がいい」
けれど、返って来るのはやはり沈黙。
(そう思う方が楽みたいな言い方ね。……あんたはきっと凄く絶望したから今こうなのね)
そこへ息せき切って走ってきたオペレーターが、雹野と生徒たちの意識が戻ったことを伝えた。