本部

ぽんぽこ狸の十五夜祭り

東川 善通

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/09/24 09:35

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掲示板

オープニング

●クマさんへのお願い
 彼らは怒っていた。それはもう日常生活にも影響するほどに怒っていた。怒ったはいいが、従魔に太刀打ちするすべを持たない彼らは友人であり、猟師兼能力者に助けを求めた。それに彼は承諾し、対従魔用にライフル「ミーティアAT7」を手に取り、その会場に来ていた。腕組をし、仁王立ちするクマのような男熊王 森家(くもう もりや)。そして、その隣で、彼と同様に仁王立ちをする少女ビー。
「ねー、クマ、なんであちきたちここにいるの?」
「そりゃあ、隠神(いぬがみ)に呼ばれたからだろ」
「ふーん、じゃあ、あそこってもぞもぞうごいてるのは?」
「邪魔しに来たっていう従魔だ! 行くぞ、ビー」
「しょうがないね。ちからかちてあげるのです」
 がさがさと草を揺らして現れた狐と兎に熊王はビーと共鳴する。その姿はクマのような熊王の姿からは想像できない美人。どこかの高校級の格闘家の中学時代にも見えなくない。そんな美人は格闘を使うわけでもなく、ライフルを構え、従魔を狙撃していく。
「やったれ、熊王!」
「隠神、今の内に作るで」
「おう」
 熊王が従魔を相手している間に今まで邪魔されてできなかったお祭りの準備を進めていく隠神たち。そんな彼らの頭にはぴょこっと可愛い丸い耳。お尻には特徴的な丸く膨らんだ尻尾を持っていた。そう彼らは狸の獣人。けして、アライグマなどではない。昔、混じってたこともあるが……。
「くそっ、多過ぎる」
『いのししのつぎはうさぎときつねづくしなのです』
「そりゃ、お断りだなぁ」
『あちきもいやなのですよ!!』

●クマさんからのお願い
 時は変わり猪野(いよの)の喫茶店では風 寿神(az0036)とソロ デラクルス(az0036hero001)はのほほんとコーヒーとカフェラテをそれぞれ頂いていた。
「……杞憂だったね」
「そうじゃのぅ」
 なにやら、寿神は嫌な予感がしたらしいが、何も起こらないことにホッとしているらしかった。
「あのね、うちに来たら、来たら何かあると思わんといて。それじゃあ、商売あがったりだよ」
「それもそうじゃのぅ。すまん」
「でも、あれっすね。エージェントの皆さんでやってもらった時の売上が良かったからって、勧誘しまくったマスターも悪いんじゃ」
「乙姫(つばき)くん?」
「はーい、黙るッスー」
 そんなマスターと従業員のやり取りに寿神は苦笑いを浮かべつつ、コーヒーに口を付けた。その直後、カランカランと扉の鐘の音が響く。
「マスター、やる」
「……兎?」
「昨日、狩ったやつだ。ただなぁ」
「どうされましたか?」
「……いや、あー」
「いったほうがいいのですよ。きょうりょくがなければ、あれはあちきたちではむりなのです」
 やってきたのは熊王。その手には狩ったという兎。ドカッと寿神の隣の席に腰を下ろした。そして、猪野の問いに言葉を濁らせる。それにビーがその背を叩きながら、促す。
「マスター、お会計を」
「もうちょっと待ってね、風くん」
 会計をと促すも猪野は笑顔で却下。それにこそりとソロが言葉を零した。
「……嫌な予感がするね」
「やっぱり、当たっちょった」

「従魔に祭りの準備を邪魔されるから助けてほしいそうだよ、風くん」
「そのままこっちに回さんでほしいのぅ」
「丁度いるんだからええやないの」
 話を聞いた猪野はスッと熊王の隣で小さくなっている寿神に声を掛ける。それに頬を引きつらせる寿神。
「なんだ、あんたエージェントか」
「……一応の」
「それではたのむのですよ。いぬがみたちはまつりにさんかしてもよいといっておったし、ぶじにおわればしっぽをさわってもよいとのことだったのです」
「……しっぽ」
「待って、待って、スー!!」
 尻尾という単語にピクリと反応する寿神。それに慌てるソロ。
「風くんはモフモフ大好きやけんねぇ。そろそろ狸とかも冬毛になってるから、結構モフモフなんじゃないかな」
 にこやかにそういう猪野に寿神はうぐぐっと唸りつつも、小さく「引き受けよう」と呟いた。それに熊王はパッと笑みを浮かべ、「ありがとな、坊(ぼん)」といって肩を抱いた。
「……スーのバカ」
 拗ねたソロは自棄食いだ! とパフェを追加注文していた。

「で、内容は聞いたが、そもそもどういう祭りなんじゃ?」
「たぬきたちによるたぬきたちのためのまつりなのです」
「それじゃ、分からんだろうが」
 はぁと溜息を吐いた熊王はしょうがないと口を開いた。
 隠神曰く、元々は豊穣を祝う祭りだったらしい。だが、現代に近づくにつれ、自給自足じゃ食べていくのも厳しくなった。だが、その祭りは離れ離れになった同族たちが集まれる一年に一回の機会。それもあって、豊穣を祝う祭りから再会を喜び、無事を祝う祭りへと意味は変わっていった。ただ、祭りの中身は昔と変わらず、会場の真ん中でキャンプファイヤーのように祭り火を焚き、祭囃子を奏で、その周りで「ぽんぽこ、ぽんぽこ」と踊る。その一方では酒を呷り、月見酒としゃれこむ者、月見団子で早食い大会を開催する者たちがいるらしい。
「例年通り、準備をしていたら、従魔がやってきて邪魔されるという今回の事例になったらしい」
「……それは、嫌じゃな」
「嫌ですね」
 さり気なく聞く耳だけは熊王と寿神の方に向けていたソロも寿神と同じ感想を零した。
「最初はオレらだけで大丈夫だろうと思ってたんだがな、思ったよりも数が多くてな」
「それでもすこしはへらしたのですよ! あちきがんばった」
 疲れたというビーにどうぞとソロは三杯目のパフェを差し出した。
「ま、隠神の方からH.O.P.Eに依頼だせっていっといたから、そのうちでるだろうよ」

 後日、熊王の言う通り、H.O.P.Eの掲示板に隠神たちから正式な依頼として祭り準備手伝いの募集要項が張り出されることとなった。

解説

十五夜祭りを成功させましょう
【】はPCの知らない情報。

●祭り会場
 愛媛にある山の山中。そこのぽっかりと空いた広場。月や星が綺麗に眺めることができる。会場の中央にはキャンプファイヤーのような火を灯すための薪組がある。その他は準備中。

●準備するもの
・月見団子
 何度も潰されているため、食べる用は勿論、観賞用も当日に作ることに。

・野菜や果物の盛り付け
 この時期に収穫された野菜や果物の盛り付け。盛り付けるたび、散らばされている。

・ススキとコスモスと飾りづけ
 ススキやコスモスは摘んできてある。あとは飾り付けだけ。

●NPC
・風寿神&ソロデラクルス
 熊王に頼まれ、お祭りの護衛を引き受けることになった。決して、狸さんたちの尻尾に触らせてもらえるからとかではない。

・くまんばち
 熊王森家&ビー。H.O.P.E未所属の能力者と英雄。力と体力があることから餅つきをしている。

・隠神さんたち狸の獣人
 日常は耳と尻尾を隠して、人間としてせっせと働く社会人+α。十五夜が近づくと何故かそわそわしちゃう。それは埋め込まれた狸の性なのかは不明。とにかく祭りは一年に一回の大事な行事。

●邪魔部隊
・雲月×10
 二足歩行の兎型従魔。ミレース級。武器は杵。まん丸に丸めた餅などを手あたり次第壊す。また、会場の破壊も含む。攻撃範囲は1。戦闘力は総合的に低い。
【杵投げ:ハンマー投げの要領で杵を投げる。2ラウンド後、自然と手に戻ってくるため、再度使用可能。攻撃範囲は1~5】

・欠月×5
 二足歩行の狐型従魔。ミレース級。武器はススキの束。兎に角作業の邪魔をする。攻撃範囲は1。雲月同様、戦闘力は低い。

【狐火:青白い火の玉を作りだし、攻撃。範囲は1~3。
自棄ススキ:狐火をススキの束に纏わせて攻撃。範囲は1。使用後は素手での攻撃となる。】

●その他
 時間帯は夕方からになります。暗くなり始めたころに従魔たちが動き始めます。

リプレイ

●ぽんぽこ狸は負けず嫌い
「今日こそは、邪魔されてたまるか!」
「まぁ、そやから、H.O.P.Eの人にもわざわざ依頼したんやろ」
 やられっぱなしでおれるか、と拳を振り上げるスーツ姿の隠神。それに彼の友人が呆れながらも言葉をかけた。
「やな。それにしてもこんなど田舎の祭りの手伝いを頼んで申し訳ないなぁ」
「そやけど、受けてくれたんや。感謝せにゃ」
「なー。あ、クマさんにH.O.P.Eの人らのこと頼んだけど、大丈夫やろか」
「クマさんやし、大丈夫じゃろ」

「ま、こんなものかな」
「ん、上出来」
 薪組のあまりで作った即席射撃台をたんたんと足で踏み鳴らす麻生 遊夜(aa0452)。それにこくりと頷くのは彼の相棒であるユフォアリーヤ(aa0452hero001)。
「もう少し高さが必要とあれば、我が半身を提供しよう。有効に活用して貰いたい」
 そういってきたのは2mの黒い機会の鎧を纏ったEbony Knight(aa0026hero001)だ。エボニーは射撃台の上に台座として使用できるように鎧を設置する。
「これはありがたいのぅ」
「うん、これ以上に高いものはないし、よく見渡せそう」
 狙撃台を見つめ、奈良 ハル(aa0573hero001)と今宮 真琴(aa0573)は頷く。
「そーいえばあやつはどうした?」
「なんでも、HOPEの講習があるってさー」
「そいつは残念じゃのぅ」
 思い出したようにハルが真琴に尋ねれば、真琴は残念だよねとそう零す。自然と触れ合うのが好きなあの少年だったら、きっとと思ったが、流石に講習であれば、休むことはできない。真琴の言葉にハルは深く頷いた。

「徒党を組んで祭りを邪魔する従魔……」
「どこかの酔狂な愚神に命令でもされたのかと疑うところですわ」
「本当にそういうのが居そうだからなぁ」
 暗くなったあたりから出ると聞いていたが、万が一を考え、赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は広場を巡回していた。広場の中央に薪組が置かれ、簡易テントがぽつぽつと配置されている。二人はそんな中、特に影になりそうな点を重点を置く。
「沢山月見団子食べれて、モフモフも出来る……なんて天国なんだ! そんなお祭りを守る為にも準備を邪魔する従魔をささっと倒しちゃおう!」
「おーっ!」
 グッと拳を揚げ宣言をする黄昏ひりょ(aa0118)にフローラ メルクリィ(aa0118hero001)も彼と同様に拳を揚げる。そんな彼らと同じように少し離れた場所では北条 ゆら(aa0651)が「がんばろー!」と意気込んでいた。それに彼女の英雄であるシド (aa0651hero001)もこくりと頷く。
「お団子! お酒! もふもふ!」
 力強くそういった瞬間、シドは「お前は……」と大きな溜め息を落とした。
「冬毛に代わる頃かな。すっごくもふもふしてるし、触らななきゃ、損だよ」
 テント内では休日だったまたは仕事が早く終わったという狸の獣人たちがもふもふとした尻尾をふりふりしながら動き回っていた。「早く触りたいなぁ」というゆらにシドはまた溜息を落とす。

「祭りかー……そういえば、今年の夏は行ってなかったなぁ」
「では猶更ではないか。従魔共を片付けた後、ゆら嬢の所へ行くとよい。後始末があれば我に任せよ」
「ああ……悪いな、エボちゃん」
 鎧を狙撃台に置いてきたエボニーは加賀谷 亮馬(aa0026)の隣に立ち、狸たちの尻尾をジッと見つめるゆらに目を向け、そう零せば亮馬は頬を掻き、苦笑いを零した。

「たぬきの祭りとか、まじ系? って思ったけど、狸の獣人、ね」
「だが、おつきみに、まつりのいらいとは、こころにくい」
 少し残念そうに呟く十影夕(aa0890)。それにシキ(aa0890hero001)は「すばらしいことじゃないか」と上機嫌に語る。
「ところで、おだんごのほかには、なにがたべられるのだね? きぬかつぎかね?」
「どうだろうな」
 ごくりと喉を鳴らすシキに夕はテントの方を一瞥し、首を傾げた。
「……狸ばっかり」
「大切なお祭りを無事行えるよう手を貸しましょう」
「朔はお酒目当てでしょ。月見酒もいいわねって言ってたじゃない」
「あら、報酬として頂ける物は受け取るだけよ」
 当然じゃないとふふふと微笑む音野寄 朔(aa4485hero001)に霰屋 知春(aa4485)はふんっと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。

 逢魔が時が迫る頃、隠神を含む狸たちもエージェント達が警戒する中、特にハプニングもなく無事に集合し、広場にはわいわいがやがやと祭りを準備する声が響く。
「あれがこっちで、コレがあっちけ」
「……とってもいいように動かされてる気がする」
 文句を言うことなく作業する風 寿神(az0036)の隣では不満げに唇を尖らせるソロ デラクルス(az0036hero001)。しかし、寿神が引き受けてしまったからには己自身のやるべきことはやる。
「まぁ、折角の祭りなんじゃしな」
「わかってるよ」
「そうそう、せっかくの集まりだ、邪魔されるのは忍びねぇだろう」
「……ん、一年に一回、大事」
 寿神の言葉にソロが頷いていると遊夜とリーヤが二人に声をかけてきた。
「ところで、何か手伝おう事はあるか?」
「今のところ、様子ない」
 さほど、広いとは言えない広場。誰かしらが巡回していれば、誰かしらの手が空く。それが今回は彼らの二人だった。とはいえ、警戒をまるっきり解いているわけではない。なんせ、もう少しあたりが暗くなってきたら、彼らエージェントの本番なのだから。
「あれじゃな、装飾やら何やらが間にあっとらん」
 存外、俺は装飾が苦手でのぅと苦笑いを浮かべる寿神に遊夜はなればとリーヤを伴い、野菜など装飾の方に向かった。

 暗くなってくると隠神が代表して、薪組へと火を点火する。徐々に大きく燃え上がった炎は広場を明るく照らす。
「あ、これは、俺のライトアイ、いらなかったな」
「ま、そういうこともあるよ」
 そう残念そうに肩を落とすひりょにフローラはしょうがないしょうがないと声をかける。
「おい、来たぞ!!」
 そう敵の襲来を知らせる龍哉の声が広場に響くと同時に近くにいたエージェント達は共鳴を果たす。そして、闇色に染まった森へと獲物を構える。
 風を切り裂くように何かが闇の中から、飛び出でる。
「おいおい、杵でブーメランかよ。器用な真似を」
『届かなければ意味はありませんわ。狙い打ちますわよ!』
「ああ」
 ぐるぐると回るそれを見て、杵と判断した龍哉は苦笑いを零すも、内からの声にブレイジングソウルを赤く光る点に向かって撃ちこむ。

「エボさん、ありがとう。もう大丈夫だよ! もう、周りの把握はバッチリ」
「そうか、それならばよい」
 狙撃台の鎧の上から広場の状況、遮蔽物などの確認を一通りし終わった真琴はそう言って、そこから下りると近くで立っていたエボニーに礼を告げた。
 エボニーは鎧を纏うとすぐさま亮馬の許へと行き、共鳴をする。
「獣狩りだ。あわよくばウサギ……そして、キツネ鍋ってな!」
『それが食えればの話なのだがな』
 青い甲冑姿に身を包んだ亮馬はライヴスガンセイバーを手にまだ遠くにいる狩り人が来たことを告げる。
「よし、お団子のために頑張ろう!」
「酒のために頑張るとしよう」
 亮馬とエボニーが共鳴する頃、真琴とハルも共鳴を果たしていた。赤い髪の中にぴくりと白い耳が動く。
『それじゃ、食前の運動といくか』
「邪魔はさせないよ!」
 フェイルノートを構え、援護射撃として、従魔の足を狙い狙撃していく。

「できれば、準備は待っててほしいんだけど」
『本より、準備が間に合ってないからな』
「しょうがないよね。だったら、準備されたものはしっかりと守らないと」
 魔導銃50AEをギュッと握り、準備をする隠神たちの意識しつつ、敵の目前に弾を撃ち込むと、関心をこちらへと向けさせる。

「来たみたいだね。招かざる客だよって、誰か教えてやらなきゃ」
 スナイパーライフルを構え、丁度夕に狙いを定め、杵を振り下してくる兎型従魔雲月に的確に銃弾を撃ち込む。
「というか、杵があるなら邪魔じゃなくて、手伝ってくれればいいのにな」
 そう思わないか? と向かい来る雲月たちに問いかけつつ、その答えを聞く素振りなど一切見せずに引き金を引く。

「朔、行くわよ」
『ええ、癒しが欲しければ呼びなさい』
「そんなの……平気よ!」
 時雨村正を構え、内からくすくすとそういった朔に知春はいつも通り言葉を紡ぐ。そして、グッと地面を蹴り、目の前にいる狐型従魔欠月に斬りかかった。ただ、相手の方が少しばかり素早いようで、彼女が斬ることができたのは欠月の持つ、ススキ数本だった。
「大人しく斬られなさいよ!」

『おっと、邪魔はさせん』
「……ん、ここで狩られて、ね?」
 尻尾をゆらりと揺らし、アサシンナイフで迎え撃つ。それに飛びずさった雲月と欠月は間合いを確認し、リーヤを無視する形で彼女の後ろへ狐火と杵を放つ。
「……ん、やっぱり、邪魔優先?」
『なら、妨害の妨害と行こうか』
 アサシンナイフからエクスプローションナックルに持ち替えるとその拳を杵に思いっきり叩き込んだ。そんな一方でターンと軽い音が狐火を狙撃する。
「狙撃手がこんだけいると、猟師としちゃあ、黙っとれんなぁ」
 ミーティアAT7を手に美人がにっと笑う。
「ん、ということは」
「クマさんのバカー」
「まぁ、しょうがないじゃろう。ほれ、フーリやるぞ」
 本来であれば、餅つきをしているはずの熊王とビーが獲物を持ち、迎撃するはずだった寿神とソロは慣れない餅つきを頑張っていた。
『これはさっさと終わらせて、手伝った方がいいな』
「ん」

「あつっ! こんなところで、そんなのを振り回さないでほしいな」
 狐火をススキに点火し、ぶんぶんと振り回す欠月にひりょは白柳槍で対峙する。
「火事になったら、もふもふも堪能できないし、さっさと捨てさせてもらうよ」
 素早く持ち手を狙い、ススキを地面に落とすと、そのままの勢いで、欠月を貫いた。
「よし、これで火事にはならないかな」
 狐を放り、ひりょは素早く足で砂をかけた。元々強くなかった火は元々持久性がなかったのか、ライヴスがなくなったのか徐々に小さくなり、跡には黒く焼けたススキだけが残った。

●まん丸お月様の上る頃
 広場は従魔の襲撃時とは違った盛り上がりを見せていた。
「ぽんぽん狸のお祭りだ―!!」
「「「お祭りだー!!」」」
 従魔は速やかに退治され、準備もエージェントたちの活躍があって、満月が真上に来る頃には隠神の掛け声とともに狸たちの十五夜祭りが始まった。
「シド殿、我の腹の貯蔵庫はまだまだ満ち足りんぞ。どんどん持ってきてくれたまえ」
 重い鎧を脱ぎ、エボニーはシドの持ってきてくれた料理を頬張る。その一方でちらりと自分たちの近くにいる狸たちの耳や尻尾に目をやる。
「なんだったら、触らせてもらったらどうだ」
「折角、楽しんでいるのにそれは野暮というものだ」
 話が盛り上がっているのだろうぱたぱたと揺れる尻尾に「野暮」だといいつつエボニーの眼は釘付け。それを見たシドは「ゆらもああして触っているわけだから」と恋人と話しながらもその膝には狸の子供を抱え込み、その毛並みを堪能しているゆらをさした。
「なんだい、お嬢ちゃん、触りたいのかい? おばちゃんのでよかったら触ったらええよ」
 シドとエボニーの会話が偶々聞こえたのか、話を切り上げ、狸のおばちゃんが尻尾をエボニーに差し出した。
「力強く握ったら嫌だよ。優しくね」
「……な、なかなかなものだな」
「あら、そうかい。それは嬉しいねぇ」
 若い子から見たら、結構艶もなくなってるし、あれだけどそう言ってもらえると嬉しいもんだねとからからとおばちゃんは笑い、エボニーとシドへこれもお食べよとタッパーに入った料理を差し出してきた。

 地元のおばちゃんから地元の味を味わうエボニーとシドの一方で、ゆらと亮馬は狸の子供を交え、祭りを堪能していた。
「あっはははは! いやー、楽しいなぁ……おっと、ゆら、あんまりお酒に飲まれるなよ?」
「大丈夫。まだ飲んでないから。それよりも、はい、りょーちゃん。お団子、あーん」
「あーん」
 団子を差し出せば、すぐにぱくりと亮馬が食いつく。
「ああ、美味しいな。ゆらが作ったのか?」
「残念でした。私じゃなくてーー」
「うちが作ったの」
 亮馬の質問にゆらと狸の子供はくすくす笑いながら、答えを教える。それに一瞬、きょとんとなる亮馬だがすぐにニッと笑い、「これだけ美味しく作れたら、いい嫁になるな」と子供の頭を撫でる。
「はい、りょーちゃん、今度は私が作ったの食べてくれる?」
「当たり前だろ」
 グッと拳を握った亮馬にゆらはくすりと笑みをこぼし、自分が作った団子を彼に差し出した。そして、彼が咀嚼し、飲み込むと「どうだった?」と尋ねる。
「やっぱ、ゆらのが一番だな」
「……ごちそうさまでーす」
 二人の間に流れるあまーい空気に子供は小さく手を合わせながら、呟いた。

「それにしても、狸の獣人の祭りか。まさか自分が参加することになるとは思わなかったぜ」
「ワイルドブラッドが世の表に出てこなければ、触れる機会もなかったでしょうね」
 狸たちに囲まれ、狸たちと盃を交わしながら、ぽつりとそう零した龍哉にヴァルはきゃっきゃと広場を走り回る子供たちを見つめる。
「ねぇねぇ、これ、お姉ちゃんが飾り付けてくれたの?」
「えぇ、そうですけど、ダメでした?」
 綺麗に飾り付けられたススキとコスモスを指して子供たちはきゃあきゃあとはしゃいでいる。何か、ダメなことをしただろうかとヴァルが首を傾げれば、子供たちは首を振った。
「いっつも、ばあちゃんが飾り付けてくれてたんだけど」
「ばっちゃんだから、時間かかっちゃってさ」
「「完成する頃にはふにゃふにゃだったからさ。こんなに綺麗なの凄いなって思って」」
 女の子は綺麗だから思わず、待ち受けにしちゃったと彼女に携帯を見せてくれた。
「喜んでもらえたのでしたら、嬉しいです」
「あ、どうやったら、こんな風に綺麗に飾り付けられるの?」
 来年はあたしがやってみたいとヴァルに子供たちは教えてと群がり、困った表情をしつつもヴァルは嬉しそうに飾り付けを彼らに説明する。
「お、兄ちゃん飲んどるか!」
 龍哉は龍哉で地元の青年たちと趣味の話などで盛り上がっていた。

「……ん!」
「うむ、いい出来だな」
 満足そうに団子を盛り付けたリーヤに遊夜は頷く。それにリーヤはふりふりと尻尾を揺らした。それを見て、遊夜がぼそりと「……尻尾」と呟くとぴたりとリーヤの尻尾が止まった。まるで、遊夜のこの後の動きを待つように。そんなリーヤの動きに気づいていないのか遊夜はちらりと狸に視線を向ける。
「……むー、ユーヤ!」
 さぁ、行こうかと腰を上げかけたリーヤは飛びかかった。彼女の中の常識では自ら触りに行くことは親愛であるが、自分から触らせるというのは求愛を意味するからだ。求愛でなくとも自分以外の尻尾などに触らせたくない。
 尻尾を触りに行きたい遊夜と行かせたくないリーヤの攻防が少々続いた。
 その結果、勝者はーーリーヤだった。がっちりと遊夜を拘束しつつ、リーヤは「あーん♪」と団子を差し出してくる。
「……あーん……というか、そろそろ離してくれんかね?」
「ダメ」
 離した瞬間、狸たちの尻尾に行かれては困るとばかりにリーヤは遊夜のそれを却下した。
「らぶらぶというやつなのです。そういうひとたちにはこれをおいていくのですよ」
 にこにこと笑みを浮かべそういったビーはポーンと遊夜の膝に何かを投げた。ぽふんと落ちてきたのはまだまだ小さな子狸。狸である。
「ん? まさか、これも獣人という」
「いやいや、んなわけないだろ。オレのとこで保護している獣の方の狸だ。このぐらいは許してやりな、お嬢ちゃん」
「むー」
 まさかそんな馬鹿なと呟く遊夜に苦笑いを浮かべながら、熊王はそう告げ、むすっとしたリーヤに許可を求めた。とはいえ、子狸に罪はないわけで、渋々、子狸“だけ”許可した。

「終わったことだし、酒じゃな!」
 今宵も飲むぞと意気込むハルの後ろではハル専用のお酒を取り出しつつ、自宅で作ってきたとあるものを真琴がシートの上に広げた。
「じゃじゃーん! お団子もいっぱい作ってきたよー!」
 焼いたものやチョコ、きなこ、みたらし味、あんこ、栗、ベリーとペーストなど様々な種類の団子に狸たちはおぉー!! と歓声を上げる。
「これは、いただいてもええんじゃろうか」
「どうぞどうぞ」
「いやー、だんだんねー」
 そう礼を告げると狸たちは嬉しそうに真琴が作ってくれた団子へと手を伸ばした。その一方で、ハルは隣に出された自分専用の酒を手に取っていた。
「のむぞー」
「ハルちゃんハルちゃん」
「ん?」
「モフらせて!」
「の、呑みたいんじゃが……」
 答えを詰まらせるハルに真琴は口を尖らせ、スッと近くで揺れる狸たちの目を移し、「じゃあ狸さん達におねがいしちゃおうかなー」と告げる。それにハルは却下を下す。
「……じゃあせめてブラシで梳いてからなら」
 そういうと、待ってましたとばかりにブラシを取り出した真琴は綺麗な尻尾へブラシを当てた。

「これより、お月見団子早食い大会を開始します!!」
 大きな声が広場に響く。そして、その声がしたところには長机と椅子が用意され、その長机の上にはどんだけだという月見団子の山が乗っていた。
「フローラも勿論、参加するよね」
「当たり前よ」
「俺たちも参加しますー」
「お、いいね。クマさんも勿論参加するよな」
「いや、オレは」
「あちきがさんかしてやるのです」
 はやぐいのきびしさをおしえてやるのですとむふーと鼻から息を吐いたビーに熊王は大きな溜息を零した。その一方で、フローラとひりょの間にはバチバチと火花が散っていた。
 それもそのはずで、団子を準備している際、つまみ食いをしようとしたフローラ。それをひりょが諫めた。ちなみにその隣では堂々と味見だといって、シキが団子を数個食べていたのだが、この時のひりょたちには見えていなかった。
「こら、食べるのはお祭りまで我慢!」
「ぶ~、ひりょのけちんぼ。いいもん、お祭り始まったらひりょの分まで食べちゃうもん」
「え、ちょ……それは勘弁して……」
「ふ~ん、だっ」
 そんな会話の後、どうしてそうなったのか、早食い大会で勝負をしようということになったのだ。
 そして、早食い大会はそれはもう凄まじいものだった。
「うまいっ。これならいくらでも食べれるっ」
「そんな事言ってる間に私が全部食べちゃうもんねっ」
 そう言いつつ、団子の山を減らしていくひりょとフローラに「嬢ちゃん、頑張れ!」だの「兄ちゃん、頑張れや!!」と歓声が飛び交う。そんな彼らの隣でビーは早々に完食し、二つ目の山の制覇に取り掛かっていたのは司会を務めた狸だけが知っている。
 そして、結果、コンマ差でひりょの方が山を平らげ、フローラに勝利した。それにはいい戦いだったなど、健闘を称える歓声と拍手が響いた。
「勝利されたということで、何か望まれることはあるかい?」
「ぜひ、もふもふさせてください!」
 ぐっと拳を握って告げたひりょに司会も会場もキョトンとしたがすぐに「あっはっは」と笑い声が上がった。
「そういや、お礼がまだやったなぁ」
「おれらんでよかったら、いくらでも触れりゃいい!」
 何なら、年代順に並んでみるかと毛並みの変化を体験してみるかと提案する爺さんに何言ってんだいと彼の娘であろうおばちゃんに鋭いツッコミをされていた。
 結果としては、年代など気にすることなく自由に触らせてもらい、ひりょとフローラはそのもふもふを堪能した。
「ここって天国だったのかな」
「すごくもふもふ♪」

「……シキが悪かった」
「いやいや、気にせられん」
 お手伝いの段階でお団子を食べたいと騒がしかったシキ。それを夕が「向こうでお花とか飾ってきなよ。可愛くしてね」と追い払ったのだが……。
「里帰り、とかってやつなんだね。盆と正月がいっしょにきた的な。俺は実家とかよくわかんないけど、楽しそうでいいな」
 隠神たちの話を聞きながら、団子づくりをせっせと夕がしているその隣で小さな声で味見だといいつつ、狸の子供たちを引き連れ、作った団子をおなかの方へとしまっていた。それに気づいた時にはすでに遅く、さてと思った時には数個の団子が転がっているだけだった。その犯人が分かった夕は隠神に陳謝するのだが、隠神は小さい子はそのぐらいがいいと笑うばかりだった。
「それに、シキちゃんじゃったか。あの子、きちんと飾り付けもしてくれとるしな! これだけ食べてくれたってことは美味しかったってことやろ。それなら、なおよしや」
 団子はいくらでも作ってるから、心配するなと隠神は夕の肩を叩き、手伝ってくれた礼だとちょっとした茶菓子を彼に手渡した。
「シキちゃんと仲ようお食べ」
「……ありがとう」
 そんなことをやっている一方でシキはさり気なくつまみ食いした時の子供たちと一緒にこっそり早食い大会の方に参加してた。ただ、途中で飽きて、兎汁を食べに行ってしまったが……。

「あー、疲れた」
 団子を頬張り、動き回った足を労わる知春。そして、ふと、相方のことが気になるキョロキョロと見渡せば、何やら三角の耳を持つ者同士集まっていた。
「このお酒、美味しいのぅ」
「ですよね! スーのお気に入りなんですよー」
「あら、この油揚げ、炙ってもいいかしら」
「七輪がそこにあるので、どうぞ」
 狸とは違う尻尾が揺れる。知春はせっかく盛り上がってるみたいだし、邪魔しないほうがと思い、声をかけるのを諦める。ただ、七輪で油揚げを炙り始めた朔がどうしようかと悩んでいた知春の姿を見つけた。
「知春も一緒に飲みましょ」
「つーか、私、未成年だし飲めないって」
「あ、ソフトドリンクもあるから大丈夫ですよ。どうぞどうぞ」
「え、あ」
「ほらほら、座って」
 戸惑う知春の背を押して、朔は狐の集まりに知春も混ぜ込む。ソロは未成年だという彼女のためにソフトドリンクを用意し、差し出す。それを断るわけにもいかず、知春が受け取れば、再び酒談義になった。というよりも、ソロはもっぱら、寿神が飲んでいた愛媛のお酒を推薦するだけにとどまっているが。
「なんじゃ、飲めんのか」
「いや、飲めるんですけどねー。スーは酔った後、大変だから」
「なるほどな」
 頬を赤らめながら、酒を呷るハルにソロは酒の赤さなのかそれとも後ろでもふもふしているお姉さんのせいなのかどっちなんだろうなと思いつつ、自分の持っているお茶を啜った。
 ちなみに寿神は隠神たちの尻尾をもふもふしたかったのだが、遊夜がリーヤに妨害されたように相方であるソロに妨害され、何故か、熊王と酒を交わす羽目になっていた。
「……フーリが居らん時を狙わんとなぁ」
「お前さんも中々な相方を持ってるみたいだな」

 酒も数本空き始めると酔いに任せて、恋人の方に寄りかかり月を鑑賞する人、武道談議に花を咲かせる人、もふもふ談議に花を咲かせる人など色々と別れてきた。そして、祭りも終わるころには世話好きなおばちゃん達が大活躍をしていた。
「これ、今日狩った兎ね」
 お土産とばかりに血抜きのされた兎を配ったり、盛り付けた野菜などを配り歩いたりなど、エージェントたちの腕の中にも祭りの名残がしっかりと存在をアピールしていた。

「しばらくはうさぎづくじなのですよ」
「狐は食えたもんじゃなくてよかったな」
「ほんと、それなのです」
 ただ、とある猟師はしばらく続く兎尽くしに溜息を落としていたとか。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • エージェント
    霰屋 知春aa4485
    人間|18才|女性|回避
  • 天儀の英雄
    音野寄 朔aa4485hero001
    英雄|22才|女性|バト
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