本部

目覚めてはいけない

睦月江介

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 5~8人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/17 18:54

掲示板

オープニング

 愚神……その人類の脅威に遭遇すれば、一般人であれば逃走を図るか勇敢な人間ならば無謀にも挑もうとするかのどちらかがまっとうな反応だ。だが、今目の前にある光景はそのどちらでもないが故に、異質だった。
「ああ……お願いします! どうか私にも慈悲を!」
「私にも、どうか……この命尽きようと構いません!!」
 水着を思わせる煽情的な衣装に身を包んだ女性は、蛇のような尾を揺らし、人間ではありえないような宝石を思わせる目を細めて微笑む。
『ええ、構わないわ。あなた達のライヴス、貰ってあげる……くれるというものを無下に断るのは悪いものね』
 猛禽の足と翼をもつ愚神は、配下を従え、海岸を我が物顔で歩く。
『フフ……私に素敵な贈り物をしてくれる人間がたぁくさん……誰が来ようと無駄なことだし、この力がもっと強大になるときが楽しみだわ』
 ところ変わって、HOPE支部。今回の愚神出現に際し、職員が最初に述べたのは全員の覚悟を問う台詞だった。
「……君達は、いざとなったら横にいる仲間を攻撃できるか?」
「……どういう意味だ?」
「言ったそのままの意味だ。今回の愚神はデクリオ級だが実に極端かつ厄介な性質の持ち主でな、厄介さだけで言えばケントゥリオ級に迫るかもしれん」
 実質1ランク上、とまで言われるのだから由々しき事態と言える。職員はゆっくりとその『厄介な性質』を説明し始めた。
「能力的には遠距離攻撃力は皆無、防御力も低い。猛禽の足と翼をもつ飛行型・女性型でその鋭い爪と飛行能力を生かした近接攻撃力は高いが実質的には本人の戦闘力はそれだけで高くない。だが、遠距離攻撃が厄介極まるんだ」
 攻撃力がないのに、厄介という意味が分からないと考えているところに、その答えが告げられる。
「ダメージはないが、強力な洗脳効果を持つ光の矢を発射してくる。それを受けた相手はとにかく『攻撃を受けようとする』それこそ、味方の攻撃だろうが敵の攻撃だろうがお構いなしだ。幸い強い衝撃を受ければ解除されるようだがな」
 つまり、光の矢を受けると積極的に敵の盾になってしまうのだ……被害を受けると予想される人々も、同様に洗脳されて自らライヴスを差し出すというのだ。与えられるものとはいえ、ひどい被虐趣味(マゾヒズム)もあったものである。
「敵からすれば光の矢の範囲内にいる限り、相手は勝手に同士討ちするから遠距離攻撃力はなくてもいいわけだ。同士討ちを免れて距離を詰めても、近接攻撃は相手の得意分野……厄介さが少しはわかってくれたか?」
 否応なく、理解する。これは確かに厄介だ。では、矢の範囲外からの狙撃はどうか? という点だが、それまでもしっかりカバーされているという。
「取り巻きに影絵のような2体のミーレス級を連れているんだが、こいつらも攻撃力をほぼ持たない代わりに魔法・物理問わず射撃への防御力が高く、愚神が苦手とする長距離射撃に対する盾の役割を果たす」
 仲間を攻撃する覚悟をしたうえで、洗脳をかいくぐって倒さなければならない相手というのだから確かに厄介極まりない。ケントゥリオ級に匹敵すると言われるのも納得だ。幸い耐久力は低いらしいが、それでも相応の被害は避けられまい。
「愚神の識別名は『ダリア・ハーピィ』。なにぶん厄介な相手だが、出現場所も厄介でな、無理強いはしないが辛い戦いは覚悟してくれ」
 出現場所は、地中海を望むスペインの海岸。早い時間の出現故にすぐに被害が出る、という事はないが時間を駆ければ観光客が押し寄せることは想像に難くない。時間との勝負まである、という事だ。一応HOPE側で時間は稼ぐが、それでも限界がある……今回の任務の困難さを考えると、心苦しいというのが見て取れる職員はそれを押し殺すように言葉をつづける。
「我々も時間稼ぎには全力を尽くす。すまないが、頑張ってくれ」

解説

作戦目的 ダリア・ハーピィの撃破

ダリア・ハーピィ 猛禽の足と翼、蛇のような尾をもつ女性型の愚神。デクリオ級。近距離格闘攻撃力は高いが遠距離攻撃力は0。防御力・耐久力も決して高くない。盾として『シルエット・ガーディアン』を連れている。

攻撃方法
猛禽のかぎ爪による蹴りと、手から放たれる光の矢に洗脳の効果。洗脳を受けると『誰かの攻撃を受ける』行動を強制され、そのためにはダリア・ハーピィをかばう行動も辞さなくなる。光の矢は遠距離・魔法単体攻撃で受けてもダメージはありません。射程は10m。

シルエット・ガーディアン
黒い影絵のような男性型の従魔。攻撃力はほぼなく、せいぜい体当たりだが魔法・物理共に射撃防御が高く近接防御は普通。
ダリア・ハーピィをかばうように行動し、特に光の矢の範囲外からの狙撃に関して2体のうちどちらかがほぼ確実にかばう。

リプレイ

●裏切りの花との対峙
 地中海を望むリゾート地の海岸……更に朝の涼しい風が心地良い。そのまま何もなければ、思わず泳ぎたくなる快適さだがそうもいかない……目の前には、悪辣極まる愚神が影絵の部下を引き連れ、闊歩しているのだから。
 『ダリア・ハーピィ』……『裏切り』という花言葉を持つ花の名を関する愚神の『敵を洗脳し、自らの盾とする』能力に対する能力者達の反応は、やはり一様に『不快』の一言だった。特に黛香月(aa0790)とってはかつて愚神によってサイボーグ改造され、洗脳されかけた過去を想起させる、最も憎いタイプの愚神だ。
「私がトチ狂ったら迷わず攻撃しろ。このままここで奴の操り人形になるわけにはいかん」
 むろん自分もそうする、と付け加えた香月の言葉は静かながらも怒りに満ちており、高天原 凱(aa0990)を委縮させてしまう程だ。
「う、うん……き、気は引けるけど……その、頑張ってみる……」
 心情的には気が引けるが、合理的判断というのは必要だ。
「色んな意味で厄介な敵だな、マジで……ま、やりようは幾らでもあるし、援護は任せてくくださいねーっと」
 不快感を持ちつつも、それを感じさせない口調のまま視界に敵の姿を捉えると、古賀 佐助(aa2087)はすぐさま共鳴。ほぼ同時にアリス(aa1651)も共鳴し、佐助はレッド・フンガ・ムンガを投擲、アリスは銀の魔弾をもってダリアへと攻撃を開始。
「スナイパーの武器が銃や弓だけとは限らないよ。尤も……斧は流石に初の試みだけど、ね!」
「同時に仕掛ける……ダリアを庇いにきたガーディアンに当たろうと、そのままダリアに当たろうと問題ない。どちらにせよ討伐対象なのだから」
すかさず影絵の従者が主をかばうが、それすらも想定内。香月のライフルによる牽制も加わり、影絵の動きが鈍ったところで接近戦を主体とするメンバーが距離を詰める。
 影絵達の姿が揺らめくのを見て、ダリア・ハーピィは最初に驚愕、次に嗜虐に満ちた笑みを見せる。
『私の可愛いシルエットちゃんが怯むなんて、驚いたわぁ……でも、おバカさん。新しい盾になりに来てくれる人が、こんなにいるんですもの……自分達で勝手に傷つけあって、私を楽しませてね……』

●偽りの従者
 真っ先に敵陣に飛び込んだのは狒村 緋十郎(aa3678)。だがそれは単に勇敢というのが理由ではなかった。彼は洗脳されるまでもなく既に目覚めてしまっている真性ドMであり、愚神に苛めて貰いたいという不純極まりない理由で戦意が昂揚していたのだ。
「ダリア・ハーピィ……俺を…その蛇の尾で締め上げて、猛禽の足で踏み躙ってくれ……!」
 これには愚神もドン引きである。故に守らなければいけないと思ったのか、2体の影絵のうち1体が砲火をかいくぐってかばうように移動する。
「従魔二体が邪魔だな……先ずは、貴様らから始末してくれるッ!」
 血色の大刃から繰り出される痛烈な三連撃。そこに飛び込み、影絵なので表情こそ見えないが息も絶え絶えと言った様子のシルエット・ガーディアンを斬り伏せる紫 征四郎(aa0076)。その小さな姿を忌々しげに見つめ、距離を詰める者達に影絵の主は厄介さの根源……光の矢を放つ。
『私の可愛いシルエットちゃんを消してくれた報いよ……さぁ、私の僕になりなさい♪』
 その矢が捉えたのは征四郎……ではなく御神 恭也(aa0127)。無言のまま愚神に侍る姿に、能力者達は歯噛みする。分かっていてもやはり、味方に武器を向けるというのは気が引ける。先に影絵の従魔を撃破しようとドラゴンスレイヤーを手に距離と詰めていた凱は思わずその足を止めてしまう。そして、そんな隙を逃す彼女であろうはずもない。光の矢の射線にシルエットが割り込むように位置取りをしようという策を考えてはいがのだが、それを行うと今度は自分も味方の射線を妨害してしまう、と一瞬距離を開けたのが仇となった。
『フフッ……これでもう1人……もう1体のシルエットちゃんが消えても元通りね。』
 しょせん従魔、という事か。仲間のシルエットの負傷も『優秀な盾が失われるのが惜しい』という意図しか感じられない。そして、代わりの盾を手に入れた、と調子に乗る愚神だが彼女は侮っていた……味方を攻撃することなどあり得ない、と高をくくってしまっていた。そのため、次に起きた行動の連鎖、連携に完全に虚を突かれることになる。

●本当の連携という事
 ゴウッ! っと嵐のような烈風が吹き荒れる。緋十郎が《怒涛乱舞》によって味方ごと攻撃したのだ。これに巻き込まれた恭也は洗脳を解かれる。
『なっ……味方ごと攻撃するなんて正気!?』
 こんな罵倒も彼にはご褒美に過ぎず、快感に打ち震える。この一瞬の動揺を逃すわけにはいかないとすかさず征四郎もクリアレイで凱の洗脳を解き、佐助も武器を持ち替える。意識を取り戻した直後、これが好機という事だけわかればそれ以上の説明はいらないとばかりに恭也が《電光石火》による奇襲を仕掛ける。
「此方の予測通り自分の盾として近くに配置したか……今だ!!」
『自分が盾にされることを見越していたの!?』
 ダリア・ハーピィの目が立て続けに驚愕に見開かれる。
「周囲を従えるといえば聞こえはいいですが、結局は自分だけだと何もできないんですよね。だから、こうやって追い詰められるんです」
 潜伏し、気配を悟られないように接近していた九字原 昂(aa0919)が想定外の奇襲によって生まれた動揺を的確につき、死角から言葉とともに姿を現す。
『……っ! 調子に……乗るなぁ!!』
 基本的に防御は他人任せと言ってもそこは愚神。受けたダメージを感じさせない速度で飛び上がり、自身を傷つける原因となった恭也に鋭い爪を振り下ろす。事前情報通り、攻撃に関しては侮れない。
 無意識にガードした腕から赤い雫が飛び散るが、怒りというのは往々にして判断を鈍らせる。
「その隙、逃がしはしないよ! Fire!」
「私は二度と貴様らの玩具にはならんぞ。必ずこの世から抹殺してやる!」
 攻撃のためにおろそかになった側面から香月、佐助の十字砲火が飛ぶ。それでも残った1体の影絵が従魔らしからぬ意地を見せ、文字通り身を挺してその攻撃を防ぎきり消滅する。
『何で……どうして味方を攻撃できるのよ! どうして私のシルエットちゃんが消されるのよ!?』
「洗脳して利用するのは、本当の連携ではないのです。スキルに頼ってるだけじゃないですか、本当に魅力的ならそんなものなくても守って貰えるのです!」
 狂ったように喚き散らし、光の矢を飛ばす愚神に、征四郎はこれ以上ない答えを突きつける。確かに、ダリア・ハーピィの能力は脅威であり、一見完全な連携が取れているように見える。だが、そこには信頼はなくどこまで行っても『主』と『駒』でしかない。だが、能力者達は違う。
 プリセンサー及び職員達からもたらされた情報をもとに十全の策を練り、たとえ洗脳されても『殴ってでも起こす』という方針を固めており互いに覚悟の上。さらに言えば、受け取った情報を信じていたからこそ、こうした無茶もまかり通る……全て、信頼の上で成り立っているのだ。

●非情な報い
 遮二無二放たれた光の矢に、今度は緋十郎が被弾する。
「さぁ、ダリア・ハーピィ、この俺をっ、存分に痛めつけてくれ……!」
 地のような気がしないでもないが、紛れもなく洗脳されている。仕方がない、と昂が手加減したうえで攻撃を加えようとすると苦悶の表情浮かべ魔剣で仲間の攻撃を受け止めようとする。
「ぬおお……俺はっ、野郎に痛めつけられて悦ぶ趣味は無い……!」
 だが、その洗脳は意志だけで抗えるものではなく、抵抗は叶わぬまま無防備になり自らその一撃を受ける。流石にいくら手加減していても、ノーガードであればそれなりに痛い。緋十郎の目に痛みか、男の攻撃をノーガードで受けてしまった悲しみかはわからないが涙の雫が見えた気がした。
『ああん、もう! 使えないわね! 次!』
 彼女にとっては元より使い捨てだが、最低限のダメージであっけなく洗脳を解かれたことに怒りが募り、再び光の矢を打ち込むが既に何度も受けた攻撃であり、対処法はわかっている。
 すぐさま征四郎のクリアレイで洗脳を解除された凱は武器を九陽神弓に持ち替え、距離を取ることで次の矢の影響から逃れる。
「悪趣味な性悪女が……何度も同じ手に乗るかよっ!」
『どこまで生意気なのよ! 人間の分際で! アンタ達は素直に私の僕になっていればいいのよ!!』
 どこまでも傲慢な言葉。その言葉に不快感を覚えたためか、それとも単に好機と見たか、これまで援護射撃に徹してきたアリスが動いた。
「洗脳、ね……じゃあ、あなたの言葉、返すよ。誰かの、攻撃を、受けて」
 それは《支配者の言葉》……洗脳返しという、実に皮肉な宣告だった。
「……目には目を、歯には歯をって言葉、知ってる? あなたもやってきた事なんだから、良いよね、別に?」
『ふ、ふざけるな……命じるのは私であって、アンタじゃない!! ふざけるなああああ!!』
 だが、その言葉に抗えず無防備にその身を攻撃の前に晒してしまう。
「獣嫌いなんだよね、私達……堕ちなよ、害鳥」
 冷酷な言葉の後、その身を射抜いたのは昂の縫止。
「鳥の標本はお嫌いですか?」
「ああ、嫌いだね。愚神である以上標本にするまでもなく、生かしておく訳にはいかん。ここで果ててもらおう!!」
 ダリア・ハーピィが目にしたのは大剣を手にした香月の姿。
「あの時私を洗脳しようとした奴は誰だ? ……フン、答えは期待しない」
 ダリア・ハーピィが最後の聞いたのはそんな言葉。実は彼女の過去については知る由もなかったのだが、重要なのは目の前の敵が人類と相いれない存在である事……それだけだった。そのまま悪辣極まる愚神は消滅し、静寂が辺りを包み込んだ……。

●あなたはきれいなままでいて
「こういう面倒な仕事はコレっ切りにしてぇな……くそダリィ」
 事が片付いて、力が抜ける能力者一同……やはり今回は相当やりづらい相手だった。共鳴を解いた凱の第一声がこれなのだから、最早言わずもがなだろう。そして、今回の戦いについて思うところがポロポロと漏れる。
「人の性癖についてどうこう言う気はねぇけど、それを人に押し付けるような事は野暮ってもんだよなー」
 佐助の言葉に同意するように恭也もつい愚痴を漏らす。実際洗脳され、味方の攻撃を受けたのだから重みがある。
「やれやれ、作戦上仲間からの攻撃は覚悟していたが……自ら喜んで痛みを受けて行く者の気持ちは判らんな」
「ええと、そういう趣味を何て言うんでしたっけ……?」
 征四郎が何気なく聞いた問いに、実際『そういった趣味』を持つ緋十郎が説明しようとするが、すかさず物理的に止められる。
「世の中には知らなくても良い事がある……そのまま。穢れの無い綺麗なままで居てくれ」
 こんな依頼である意味間違った趣味に目覚めることもないだろうと切実に祈りながら、恭也は征四郎を諭すのだった……。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避
  • ブケパロスを識るもの
    高天原 凱aa0990
    機械|19才|男性|攻撃
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
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