本部

復活の狼煙~白玉クリームあんみつ~

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/12 19:38

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掲示板

オープニング

●白玉クリームあんみつだよ!
「無理だよ、おばあちゃん!」
 望月 杏子(もちづき きょうこ)は月並みに言えば、どこにでもいるごく普通の女子高生だ。
「何を言っておる! あたしはやるよ! 『十五屋』の復活だ!」
 祖母・安子(やすこ)は団子屋だ。かつては販売スペースと喫茶店が併設された和菓子屋で、従業員も複数名雇っていたという。しかし杏子がまだ小さい頃に祖母は夫――杏子の祖父と死別。それでも彼女は『十五屋』を団子専門の小さな店として残した。
 半年前、祖母が体調を崩した。命に別状はなかったものの店は休業を余儀なくされた。
「つまらん! こんなもの、仕事してたらすぐ直っちまうのに!」
 祖母はそう言っては医者や看護師を苦笑させたという。杏子も耳にタコができるほど聞いたセリフだ。
「もうすぐ十五夜だよ。団子屋が店を開けなくてどうするんだい」
「今時、月見団子をわざわざ買う家なんて少ないよ。それに……」
 その続きは言えなかった。近所では「望月のばあさん、がんばってたけどもうダメかね」などと囁かれ、常連も『休業のお知らせ』を読んでは残念そうに帰っていく。たった半年、されど半年。店は事実上、閉店したものと信じられていた。祖母も気づいているだろう。
「なら、『きゃんぺーん』だ。お客さんを呼び戻すよ」
 まずは、暑さを癒す甘味から。
「白玉クリームあんみつだよ、杏子!」
 祖母が叫んだのは、かつての『十五屋』の名物だった。名残として『団子屋』のラインナップに白玉あんみつが残っているくらいだ。そんなことより。
「喫茶まで復活させるつもり?」
「当たり前じゃないか。あんたが店を継いでくれるんだろう。えーと、今風にいうと……何だい?」
「パティシエ?」
「その学校にいくんだろう?」
 杏子は悩んだ。店を継ぐことは公言していたし、喫茶メニューもいつかは復活させたいと思っていた。
「急には無理だよ。っていうか私まだ学校に通ってもいないんだよ!」
 話し合いは――紆余曲折あったが――1日限定の喫茶営業と新しい月見団子の開発ということで落ち着いた。店を開けるか開けないかで揉めていたというのに、この結果。年の功という他ない。
「1日限定なんて本当に効果があるのかなあ」
「なぁに、これは狼煙(のろし)みたいなもんさ。『十五屋』ぁ、ここに在りぃ~! といった具合にね」
 好奇心旺盛でやたらとカタカナ語を使いたがる祖母は、珍しく時代劇調で言った。

●あいであ募集
 あなたたちはバイト募集に応募し『十五屋』にやってきた。
「と、いうわけでみなさん、2日間よろしくお願いします」
 ぺこりと杏子が頭をさげる。
「お客さん視点の『あいであ』ってのは貴重なんだ。気づいたことがあったら、なんでも遠慮なく言っておくれよ」
 月が満ちるまでに、この店を生き返らせる。祖母と孫の野望はあなたたちの手腕にかかっている。

解説

1新しい月見団子の開発
・実施日はキャンペーン前日
・杏子と安子の話し合いでは「味違いの月見団子を数種類作る」という点までしか決まっていません。味のアイディアを募集します。定番から独創的な案まで大歓迎です。
・去年までは、月見団子はプレーン味(味付は砂糖)のみでした。15個セットを透明なプラスチックの容器(スーパーでお惣菜を詰めるようなもの)に入れて販売予定です。
・味見専門もOK。
・通常の団子は、こしあん(プレーン)、つぶあん(よもぎ)、みたらし、しょうゆです。

2白玉クリームあんみつのキャンペーン
・開催は日曜日。
・まだまだ暑いです。通行人は皆、暑さにうんざりしていることでしょう。
・仕事は主に、調理・接客・街頭パフォーマンス(呼び込み)となります。
・お月見が近いので、コスチュームや飾り付けは「うさぎ」や「月」をモチーフにすると良いかもしれません。もちろん、その他のアイディアも大歓迎です。
・メニューは白玉クリームあんみつのみの予定。前日にアイディアをだせば、数品のメニュー追加も可能。
・機材や衣装など必要なものがあれば用意します。(経費は団子屋が支払います)
※バイトは2日間ありますが、どちらかの仕事に特化したプレイングもOKです。

「十五屋」
とある下町にある(ほぼ)団子専門店。かつては喫茶スペースもあったが、現在はがらんとした倉庫。

「白玉クリームあんみつ」
具材は白玉、あんこ(つぶあん、こしあん選択可)、寒天、チェリー、バニラアイス(丸く盛るタイプ)+黒蜜。
白玉クリームあんみつは喫茶限定メニューだが、通常メニューに持ち帰り用の白玉あんみつ(↑のアイス抜き)がある。

祖母:望月 安子(やすこ)
孫:望月 杏子(きょうこ)
喧嘩するほど仲が良い祖母と孫。安子はつぶあん派、杏子はこしあん派。
キャンペーン当日は団子作りに専念する。安子の息子夫婦(杏子の父母)は仕事があり、この2日間は協力できない。

リプレイ

●お団子くっきんぐ
 とある土曜日、御神 恭也(aa0127)は伊邪那美(aa0127hero001)に引っ張り出された。その要件というのも。
「……また、勝手に依頼を受けて来たのか」
 団子屋でのバイトだった。
「さあ、がんばろ~。売り子と味見は任せろ~」
 呆れ顔の恭也だが、料理は得意分野である。
 まずは新しい月見団子の開発だ。
「は~い、ボクが審査するからどんどん試作品を作っちゃってね~」
「……太るぞ」
 伊邪那美の笑顔がスッと消えた。
「分かった、俺が悪かったから無言で脛を蹴るな」
 ダシュク バッツバウンド(aa0044)、酒又 織歌(aa4300)、ペンギン皇帝(aa4300hero001)、黄泉 呪理(aa4014)は喫茶スペースの掃除に向かう。
「安子婆ちゃん、杏子はん、きなこ団子なんかどうやろね?」
 呪理が言い残す。これも試作品に追加だ。
「陛下、今回は月見団子と白玉クリームあんみつですよ」
 ほうきを持った織歌が言う。
「また食べ物……織歌よ、そなた、エージェントの仕事を食べ歩きか何かと勘違いしておらぬか?」
「えっ」
 違うんですか?
「ぬっ」
 違うに決まっておろう。
「ぐぁーっ!」
 皇帝は織歌の名を呼んで叱っているらしい。日夜、文字通り血と汗を流して戦っているエージェントたちに喧嘩を売るような発言を。
「ペンギンってこんな鳴き声なのか」
 ダシュクと呪理は鳴き声にしか聞こえないそれをBGMに作業を始めた。
「団子の新しい境地を開く……!」
 意気込んだアータル ディリングスター(aa0044hero001)だが。
「黒ゴマ、抹茶、カボチャを練りこんだもの……と提案だけはできるが、さてどれに力を入れるべきか」
 悩む彼に安子がニッと笑う。
「それは食べてみて決めようじゃないか」
「そうだな」
 年季の入った調理場で会津 灯影(aa0273)が言う。
「お月見団子かーもうそんな時期なのな」
 カレンダーには元気な赤丸。祖母と孫の気合が伝わるようだ。
「月見で一杯ともいきたいところだな」
 甘い匂いに包まれながら楓(aa0273hero001)がマイペースに一言。
「残念ながらこれ酒飲む仕事じゃねーから」
「分かっている。貴様は調理するのだろう? 早くせよ。我が端から味見してやろう」
 道行く女子――男子もか?――が悉く卒倒しそうな微笑みも、相棒には用をなさない。
「変わった味……チョコレートは如何かしら? それと」
 リジー・V・ヒルデブラント(aa4420)の視線の先にはふわふわとしたウサギの耳。苺に桃……さすがに桜は時季外れか、などと考え込む。
「何かピンクになると良いのですけれども」
「着色しろよ」
「それだと味気無いでしょう? 分かってませんわねぇ」
 耳の持ち主――コースチャ(aa4420hero001)はむっとするが、反論は難しい。
「それなら任せろー」
 灯影は手際よく生地にイチゴペーストを混ぜ込む。生地が淡いピンク色に染まる。ほのかな苺の香りがリジーの鼻腔をくすぐる。
「これがイチゴ味で、あとはチョコと抹茶も作るつもり。やってみる?」
 リジーは一も二もなく申し出を受ける。
「けっこう力がいるぞ?」
 お嬢様は自信ありげに笑んだ。
「望むところですわ」
 恭也が蒸し器から取り出したのは、卵黄を練り込んだ生地に黒餡を包み込んだ団子。
「お~、想像よりも真っ黄色になるんだね」
「ふむ……中の黒餡が団子の薄い部分に透けて月の海にちゃんと見えてるな」
 満月をイメージした、十五夜にぴったりの商品である。
「う……やるなぁ御神くん。私も頑張るぞ」
「今のところは完全に杏子の負けだねえ。うーん、美味い!」
 祖母と孫がじゃれていると、恭也は次の作品を取り出す。
「んん? このお団子も黄色いけど……」
 伊邪那美が不思議そうに言う。黄身餡を込めた黄色い団子に葛を纏わせたものである。ほんのりとした冷たさと、柔らかな食感を楽しむことができる。
「味に変化は無いが、葛を靄に見立てた朧月に似せた物だ」
「うん、味に違いは余り無いね。ちょっと食感が変わった位かな」
 ぱくりとたべて、伊邪那美が邪気なく言う。
「和菓子の大部分を否定した発言だな」
 恭也は額に手を当てて嘆息した。伊邪那美にはいまいち伝わらなかったものの、安子と杏子には好評のようだ。
「葛かい。涼しい見た目になるもんだから、夏場はたくさん出してたよ。じいさんが好きだったのもあるんだがね。余ったら俺が食う!ってさ」
 安子は懐かしそうに目を細める。
「甘党だったんだな。今回は、こういうのも考えてみたんだが」
 餡の代りに味噌を酒と味醂で伸ばし唐辛子を入れて、タレを付けて焼いたものだ。焼きたてを口に含むと、伊邪那美はうっ、と声を漏らす。
「ボクの好みじゃ無いかな……」
「まあ、酒飲み用に作った代物だ。新たな購買層の発掘に役立つだろう」
 安子は「ほぅ、いけるねぇ」と目を丸くしていた。

●試食たいむ
 掃除は順調に進んでいた。テーブルと椅子を並べ、後は装飾のみ。ダシュクは器用に色画用紙を切りウサギや月をつくる。
「団子が完成したぞ。試食に来ない……か?」
 アータルはハサミを手にする相棒に憐みの視線を送る。織歌や呪理が作ったのなら微笑ましいと思える、手作り感満載の作品は彼の手によるものだ。何せ現行犯である。
「なんだよその目は」
「別に何も言ってない。……ああ、いいものがあるじゃないか」
 アータルは材料の中にあったススキを手に取ると、小さく切って花瓶に刺した。そして各テーブルに置く。
「風流というやつだな? そなた、なかなか良い働きをする」
「うまくまとまったところで、お団子食べに行きませんか? 出来立てが食べたいです」
「織歌……」
 首を傾げながら呪理が言う。
「あれやなぁ……団子自体の味の方はどうなんやろな? うまいんかなぁ」
 調理場に行くと、試作品と通常メニューの団子が並んでいた。まずはこしあん団子をぱくりと一口。
「めっちゃ旨いやん! これいけるわ!」
 参加者たちはしばし『こしあん派つぶあん派戦争』に興じつつ、試食を進めていく。
「こしあんとつぶあんを半々くらい作ってみるのはいいかもしれんな」
「半々って?」
 杏子が問う。
「試食に使うねん! お客さんを呼びこむに必要なんは説得力や!」
 呪理は力強く答える。
「言葉でいくら言っても旨いかどうかなんてなかなか伝わらんやろ?」
「うん。初めてのお客さんにもうちのお団子がおいしいってことを伝えなきゃね」
 席を立っていた灯影が戻って来る。
「折角お月見団子だし見た目も可愛いのにしたらどーかな?」
 白とピンクの団子に目と耳を描いたものだ。
「わ、ウサギ!」
 伊邪那美が無邪気に喜ぶ横で、コースチャが複雑な表情をしている。灯影は同じようにして緑色の抹茶味をカエルに、茶色のチョコ味をクマに変身させた。
「蛙や熊は月見関係ないな」
 楓が言う。
「別にいーだろ。可愛いは正義だって!」
「駄目とは言っておらんだろう。料理は見た目の華やかさも重要であるからな。うむ、美味い」
 女子たちにもすこぶる好評だ。
「こっちのかぼちゃも何か使えるか?」
 アータルの問いに灯影は、団子を見つめる。
「丸さを活かしてひよこ、とか?」
「なるほど、違う材料ならペンギン団子も作れそうです」
「お……織歌が言うと違う意味に聞こえるのだが……」
 織歌はあえて否定せず微笑むに止めて置いた。
「女性受けがよさそうなのは……黒ゴマだろうか?」
 各人の反応を見てアータルが言うと、杏子が頷く。
「黒ゴマペーストをプレーンのお団子に乗っけるだけなら、作る人の負担も少ないですね」
「アータル、俺抹茶のほうが好」
「お前の意見は聞いてない」
 ダシュクの声はあえなくスルーされた。
「パックに詰めるというなら、二種類パックなど味を選べる仕様はどうだろうか?」
 と、アータルが売り方についても提案する。
「こちらの負担は大きくなるが売り上げのためだ」
「やる気満々ですね」
 ダシュクが茶化すが冷静な反撃が返って来る。
「そっちこそ」
 白玉クリームあんみつのアレンジとして、抹茶団子と抹茶蜜を使用したものと果物たっぷりの『白玉フルーツあんみつ』を提案したのは他ならぬ彼だ。
「俺はばーちゃんの心意気を買ってるからな。うまくいくように、やれることをやるぜ!」
 そのやり取りに続いて恭也が言う。
「ああ、そうだ。団子を入れる容器なんだが……」
 恭也が提案したのは筍の皮だ。
「まあ、雰囲気ってやつだな」
「お、和風な感じでいいじゃん」
 灯影が賛成する。
「恭也って、こういう事には芸が細かいよね」
 伊邪那美もうんうんと頷く。そちらの手配は安子が行うことになった。
「それは……善哉か?」
 楓の言葉に灯影がニヤリとする。
「へへ、ただの冷やし善哉じゃないぜ?」
 ススキに見立てて金粉を塗した月見仕様だ。
「あとは白い饅頭をウサギにして。月は栗餡の団子でも作るか?……いや」
 目に入ったのは先ほどのウサギ団子と恭也考案の月団子。
「お月見兎セット完成!」
 恭也も喫茶用の商品を用意したらしい。
「ん、冷凍庫?」
 柚子で香りづけしたシロップをジェル状にした物を凍る寸前まで冷やす。
「これを、白玉と混ぜ合わせて提供するんだ」
 実際に作業を見せながら恭也が言う。
「これなら、うちでもできるで!」
 状況によって接客と厨房を行き来する予定の呪理が、胸を張って言う。
「単純な作りだね……手抜き?」
 伊邪那美の言葉に半眼になった恭也が言う。
「こんな暑い日には冷たいサッパリした物の方が俺は好みだ」
 兄妹のようなやりとりに杏子は笑う。
「あ、おいしい! 明日も暑くなるみたいだし、いいね。伊邪那美ちゃんも食べて見なよ」
「……おいしい」
 というわけで喫茶メニューは白玉クリームあんみつに加えて、バージョン違いのフルーツあんみつと抹茶あんみつ、ゆず白玉とお月見兎セットが提供される。一方、月見団子は。
「どれも捨てがたいし、いっそのこと5種類のせっとにしちまおう」
 プレーンと苺味のウサギ、抹茶味のカエル、チョコ味のクマ、かぼちゃ味のひよこを3個ずつ計15個詰めることになった。恭也作の月団子はプレーン味とセットにして5×3種類の計15個というセットにまとまった。
 きなこ団子、ゴマ団子、辛味団子は串に刺して限定メニュー化。売り上げによっては通常メニューの仲間入りを果たすことになるらしい。
「労働力なら心配ないよ。すでにパートさんたちには声をかけてるし、杏子も、あと息子夫婦も馬車馬のように働かせるからね!」
 店主は豪胆に笑う。後は当日の配置だ。
 リジーはキトンブルーの瞳で、ぴんと立った相棒の耳をじっと見た。
「呼び込みですわね」
「待てこらどこ見て言った?」
 青筋を立てるコースチャ。当のリジーはどこ吹く風だ。
 織歌からは新たな提案が出た。
「持ち帰りのあんみつを街頭販売できないでしょうか?」
 店の前だけで宣伝するより、その方が効果が高いだろう。安子は難しい顔をして唸ると言った。
「明日まで待っておくれ。駄目そうなら、織歌たちにも店の接客を手伝ってもらおう」
 店主が解散を宣言する。後は本番を待つのみだ。

●りにゅーある十五夜!
「いよいよだね」
 緊張した面持ちで安子が言う。
「絶対、お客さん連れてくるから、うちに任しとき!」
 呪理は安子の肩をぽんと叩く。
「威勢がいいじゃないか。期待してるよ」
「あーでも……客さんの対応の方は、まぁ、うーん、丁寧に話したほうがええんやろなー」
 安子は首を傾げた。
「うち、丁寧に話すと変な感じになるねん」
「そんなこと気にしなくて大丈夫さ。お、来たね」
 暖簾をくぐったのは安子と同年代らしい老人だ。
「くたばり損ねたか、婆さん!」
 乱暴な挨拶だがそれだけ気心の知れた仲なのだろう。
「呪理、そこの老いぼれを席へ案内してやんな。それから呼び込みを頼むよ」
「うん! ようこそいらっしゃいましたー!」
 呪理は一気に悩みが吹き飛んだ様子で仕事を始めた。
「さぁコースチャ、出番ですわよ! 何のためのうさぎですの!」
 きりりと眉尻を上げたリジーが宣言する。
「少なくともこの為じゃねぇんだがな! っつか俺に客寄せなんざ出来ると思ってんのか!」
 鋭いツッコミ。しかしお嬢様の方が一枚上手のようだ。
「その気になれば愛想くらい振りまけると豪語していたでしょう、今がその時ですわ」
「やるか馬鹿!」
「プロなら依頼位完璧にこなしてみせなさい、愚鈍」
 寒色の眼を細めて、見上げているのに見下すような表情。
「ああ!?」
 少年は顔をピンク色に染めていきり立つ。
「ああ良いさ、やってやらぁ!」
「ではお願いします」
 突然の収束。勝負ありだ。
「先行くでー」
 何をぐずぐずしてるんだ?、という顔でエプロン姿の呪理が通り過ぎて行った。――やるしかないらしい。
「試食は用意したのか?」
「バッチリや! こっちがこしあんで、こっちがつぶあんな」
 クーラーボックスに商品と保冷剤を詰め、エプロンをつける織歌。安子が近くの商店街で街頭販売の許可を貰ったのだ。
「ま、伊達に長くはやってないのさ。フフ、商店街の悪ガキでもめ。うちの団子に骨抜きにされるがいいよ」
 悪ガキというのは商店街の責任者たちのことなのだろう。どんな説得をしたのやら、彼らも既に客としてカウントされている。おちゃめな店主は人の悪い笑顔を浮かべていた。
「私たちは主にお団子を担当します。喫茶メニューの調理、よろしくお願いしますね」
 杏子の言葉に灯影と恭也が頷く。
「えーと、飲み物の用意は整っていますか?」
「OKだ」
 リジーの問いにはアータルが氷のたっぷり入った麦茶を指して答えた。お冷やの代わりに提供するものだ。
 外では呼び込みも始まった。袴に、大振りの髪紐、そしてエプロン。見事なはいからさんスタイルを披露するのは――楓である。性別のことは置いておくとしても、頭上に燦然と輝くは狐耳。異国情緒ならぬ異界情緒あふれる姿だ。接客のヘルプにも行けるようススキ柄の甚平を着た灯影が、やって来て言う。
「あのー接客は女装じゃなくてもいいんだけど?」
「この方が面白かろう」
「まぁいいけどさー」
 灯影は試食用の団子を残しさっさと店内へ戻った。
 楓の案もキャンペーンに生かされている。店の前が狭いため盛大な野点(のだて)とはいかないが、団子の試食と共に楓の立てた抹茶を振舞うのだ。
「そこ行く童、団子の試食など如何だ?」
 灯影より少し年下らしい男子だ。立ち止まって赤い野点傘の下に入る彼は珍しそうに茶せんを見つめる。
「何、茶を喫したことがないと? ならばなおのこと」
 傾国の妖狐たる楓自らの施し。そんなことはつゆ知らず、少年は茶を口にしながら楓の人とは思えぬ妖艶さにくらくらしている。
「まぁ入っていけ。断る等と釣れない事は言わぬだろう……?」
 耳朶をくすぐる吐息に、少年は空の串を取り落とした。
「いらっしゃいませ……大丈夫ですか?」
 アータルは喉がカラカラだと言う少年に――抹茶を飲んだだろうに不思議だが――続けざまに2杯冷たい麦茶を注いでやった。
「いらっしゃいやー! 美味しい団子屋さんやでー! どや、試しに食べてみいへんか?」
 軽快で押しの強い口調に壮年の男性が立ち止まる。小柄な少女の姿に、怪しいセールスではなさそうだと安心する。
「おっちゃん、甘いモンは好き?」
 困り眉で首を振る男性に差し出したのは、恭也提案の新作だ。団子屋には縁がなかったらしい男は電流が走ったような顔をする。自分用と家族への土産用を買ってくれた。
「おおきにー!」
 商店街。
「十五屋、十五屋でーす。美味しいお団子に冷たいあんみつもありますよー♪」
 溌溂とした少女の声に振り返れば、そこにいるのはペンギン。……ペンギン!? 二度見する者、思わず声を上げる者、駆け寄って来る者、道行く人々の心は釘付けである。
「お持ち帰りできる白玉あんみつは、こちらでもお買い上げ頂けまーす」
 寄ってきた親子連れに織歌は愛想よく挨拶する。
「あの、この子本物ですか?」
「いかにも。余が本物のペンギン皇帝である」
 微妙にズレた回答をする皇帝に、衝撃。
「グエッ」
 幼子からの熱いタックルである。知ってか知らずか、織歌は両親に向かって営業トークの真っ最中だ。
「はい、店内でもお召し上がり頂けますよ。宜しければご案内致します……陛下」
「うむ、良かろう。行くぞ皆の者、余を慕う臣民が如くついて参るが良い」
 自前の王錫の先に『十五屋』のノボリをつけた皇帝は悠然とした歩みで、てちてち案内をし始めた。
「は~い、道行くみんな~1日限定十五屋の開店だよ~」
 涼し気な浴衣にうさ耳を装着した伊邪那美が元気よく客引きを行う。
「暑気払いにあんみつなんかどうかな~、御月見用の御団子も販売してるから見に来てね~」
 早速、寄ってきた親子連れにメニューを見せてみる。試食会の後、杏子がパソコンで作りクリアファイルに入れてくれたのだ。
「冷たいのたべたーい」
「じゃあ、ママと半分こね?」
 外の暑さが増し、試食を受け取る者が減ってきた。逆に店内に涼を求める客は増えている。
「予報通りあっちーな。例の作戦で行くぞ」
 宣言したダシュクの手には、かき氷機。
「おー、客さん、来はったなー。そろそろ、うちも中の手伝いしょうか」
 呪理を一旦厨房のヘルプにつけ、ダシュクとアータルが外に出る。
「いらっしゃーい! 暑いならかき氷はいかがっすかー?」
 苺練乳、メロンという定番商品と十五屋の団子をあしらった宇治金時。注目度は抜群だ。
「お土産に団子もどうっすか? お月見団子やそれ以外の変わり種もあるっすよー」
 食堂での勤務経験が生きているのか、客との会話も弾んでいるようだ。一方アータルは。
「いらっしゃいませ。お月見団子はいかがでしょうか?」
 真顔+うさ耳=ものすごい違和感。
「こえーからせめて笑顔で」
 思わずツッコむダシュクの額から汗が流れてきらめいた。
「たきつけたは良いものの……大丈夫でしょうか?」
 リジーは心配半分、興味半分で団子の販売スペースを覗き込んだ。
「十五屋だよー、お兄さんお姉さんいらっしゃいっ」
 自前の耳に、月を模した髪飾り、手には杵をかたどった看板。見事な営業スマイルを振りまくコースチャがいた。
(伊達にあっちで愛想振りまいてきてねぇんだよ、完璧だ完璧。後でほえ面かきやがれ!)
 と、内心は荒れていたが。
「今年は特別っ、色んな味あるんだよー。このお団子ね、僕と同じ色なんだ。食べてみる? はいっあーん」
 小さな女の子に合わせて屈み、試食の団子を食べさせてやる。――その瞬間をこっそりパシャリ。
「わたし、うさぎさんのおだんごがいい!」
 優秀なる販売員に敬意を払い、リジーは心配を放り投げた。
「十五屋? 聞いたことないわね。おいしいの?」
 織歌は真剣な顔で、婦人の眼を覗きこむ。
「もう、すっっっ……」
「す?」
「……っっっっごく! 美味しいですよ♪」
 昨日食べた団子の味を思い浮かべて満面の笑み。思わず噴き出した婦人はあんみつを2つ買っていった。昨日たらふく『試食』した成果だと織歌は満足げだった。
「白玉クリームあんみつ1つ」
「新メニューの団子もおすすめだが……おっと、すまぬ」
 メニューを持つ男の指に、楓の長い指が触れる。思わず、といった調子で俯く楓に純情そうな男が焦る。
「す、すみません。あ、ああ良いですね! きなことごまを下さい!」
「追加注文感謝するぞ。なんなら『あーん』とやらのさーびすもしてやるが?」
「おいそこ! ここはメイド喫茶じゃありませんよ!」
 食器を下げに来た灯影が言う。楓は余裕の態度を崩さず、男に微笑みかけながら席を去った。が、魔性の者は1人だけではなかった。帰宅途中の客が増えてきた頃。
「こんなところにお団子屋があったのね。……ん、味も美味しい」
 コースチャから団子を受け取ったスーツにハイヒールの女性が言う。
「でしょでしょっ? 手土産にもオススメだから十五屋って名前、覚えていってね」
 店内に案内すると。女性は限定商品の月見団子にも興味を示してくれた。
「折角のお月見だからね、買ってくれたら嬉しいな」
 少しだけ低い目線から、大きな目の上目遣い。嗚呼、オチた。
「ありがとっ、また来てね」
 商品は店を出るまで持ってあげて、別れ際は最高の笑顔を。居合わせた伊邪那美と呪理は、鮮やかな手際を呆然と見つめていた。
「なんだか、見てはいけないモノを見ちゃったような?」
「あーいう男に騙されたらあかん……」

「昨日の試作会で懲りてないんなら、たんと食べな」
 閉店後。成功の暁にはあんみつと団子もごちそうになりたい、との織歌の願いは叶えられることとなった。キャンペーンは好評を博し、『十五屋』は復活を高らかに宣言したのだった。
「この辺を通りかかるときは寄っておくれ。さーびすするからね。あ、ばいとに来てくれてもいいよ」
 安子の言葉に皆笑う。満月には少し早い月を見て、彼らは勝利の美酒――麦茶――に酔いしれたのだった。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273

重体一覧

参加者

  • 復活の狼煙
    ダシュク バッツバウンドaa0044
    人間|27才|男性|攻撃
  • 復活の狼煙
    アータル ディリングスターaa0044hero001
    英雄|23才|男性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • アパタイト
    黄泉 呪理aa4014
    人間|14才|女性|防御



  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
  • 復活の狼煙
    リジー・V・ヒルデブラントaa4420
    獣人|15才|女性|攻撃
  • 復活の狼煙
    コースチャaa4420hero001
    英雄|15才|女性|カオ
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