本部

晴れすぎた空の下で

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/13 18:56

掲示板

オープニング

● 干ばつ被害

 日本国内某所で雨の降らない期間が二週間も続いております、川の水は冷えあがり作物がかれはじめる始末。
 あと一週間以上この状態が続けば人間が住むことも難しい土地になるでしょう。
 そんな報道がなされたのが昨日のこと。
 そのニュースではこの異常事態をたっぷり十五分流していた。
 田んぼは干上がり、夏の山だというのに木々は茶色みがかかっている。子供たちは熱さに悶え、コンビニからは飲料水はおろか、ジュースやアルコール類も消え去った。
 水道管を走る水もなくなってしまったのだ。
 この異常事態に悲鳴を上げる住民たち。
 そしてその影響は病院にまで及ぶという。
 水がないことによって気候が変化し、か弱い老人たち、子供たちが次々と病院に担ぎ込まれているのだ。
 だが、なぜこんなことが起きているのか、その理由は全くつかめていなかった。
 この水資源豊富な日本において干ばつはちょっと珍しい。
 気になったH.O.P.E.が調査に乗り出すと驚くべきことが分かったのだ。
 これは全て愚神の仕業だったのである。

● 愚神の特徴。

愚神『アクアシェルター』 
 雨雲を食べてしまう愚神。
 全長二十メートルの大型貝の愚神であり等級としてはデクリオ級。
 この愚神の影響だと判明したはいいものの、その特性が厄介すぎてH.O.P.E.の手には負えなかった。

 二枚貝型の愚神で、本体は全長二メートルの女性型である。
 ただこの貝が曲者で。閉じられてしまうと強力な防護フィールドともともとの硬さによって。物理、魔法、両防御力は推定1000程度という驚異的な数値をはじき出したのである。
 実際H.O.P.E.から三度討伐部隊が送られたが返り討ちにあった。
 その理由としては水中戦に不慣れだったこと、しかし相手は水中戦が大得意である。
 水中での機動力を確保しない限り勝利がないとわかり遙華に声がかかった。


● 新アイテムお披露目

「こうして、愚神戦闘をカメラに収めるのは何度目かしらね」
 そうつぶやきながら大海原を背に遙華はぽつりとつぶやいた。そしてリンカーたちにとあるブーツを見せる。
「マーメイドドライブ《メロウ》よ」
 そう紹介されたブーツは両足に装着するタイプのアイテムで。昨日としては簡単、小型霊力エンジンによって推進力を生みだし、水の中を駆け巡ることができる。
 抵抗は同時に展開するフィールドによって軽減、みずのなかでも地上にいるのと変わらない機動性を確保できるのである。

「これを使って真珠従魔から逃げ回りつつ、貝の愚神を倒してもらうわ」

「AGWは基本的に水中内では威力を失わないから補助アイテムは無しよ」

「さらにリンカーも酸素が無くて死ぬなんてことはないから補助アイテムはなし」

「ダイバースーツくらいは用意してあげてもいいわよ」

 そう一通り話すと遙華は、じゃあブリーフィングを始めましょう。
 そう言ってこの海域の地図を広げた。


● アイテムについて   ----------------------PL情報----------

 今回皆さんはMD(マーメイドドライブ)を装備していただく予定ですが、何か思惑がありALブーツなど装備していただくことも可能です。
 逆にALブーツ、MDを装備していない場合、戦闘しづらいことになるでしょう
 また、大型機材など貸出可能です、何か作戦がある場合は、遠慮なくアイテム申請してください。
 
------------------ここまで-------------------------------------

解説

目標 愚神『アクアシェルター』の撃破

デクリオ級 愚神『アクアシェルター』
 全長20Mのホタテのような愚神、攻撃手段は下記の通り。
1 ジェット噴射
 威力はそうでもないが、大きく吹き飛ばされる水属性の攻撃。
2 ソングオブソナー
 悲鳴のような甲高い音を全体に発する、これによって周囲のリンカーを索敵することも可能。ダメージは極小
3 霊力波
 まったく水は関係ない、遠距離単体攻撃。威力は高めだが、特に追加効果はない。

・戦闘力は低いが、水をその身にため込めるという特徴があり、この地域一帯の雨雲を食べ続けている。
・その殻は固く、ダメージを与えることは困難。
・貝の中に入れるかは不明。貝に挟まれると、物理防御力の低いリンカーだと重症になる可能性があるため注意。
・自分では全く動けない。
・酸素を取り込むようの管を出していることがある。
・貝柱など確認できることから、生体は本物の貝にかなり近いと思われる。
・真珠従魔を放出するためには貝を開かないといけない。

弱点(と思われるもの)
・熱や雷の属性に弱く、衝撃を与えるとわずかな間貝が開く。
・真珠型従魔を沢山倒すと怒って貝を開く。
・貝は一度破壊されると修復できない。

真珠型従魔。
 触れると爆発する(物理攻撃で威力がかなり高いので注意)
 水中を高速で泳ぐ従魔。体長50CMほどで、水中を移動力10程度で泳ぐ。
 倒されると悲鳴を上げる。

リプレイ

晴れすぎた空の下で

プロローグ

 寄せては返す潮騒。肌を撫でる海風は少ししょっぱく、目の前いっぱいに広がる海は、からりと晴れた空に負けず青かった。
 ぎらつく太陽を遮るものはない、気温35℃。リンカーたちは浜辺で、作戦開始までこの暑さにさらされる地獄を見ている。
「愚神のせいで水不足……」
『酒又 織歌(aa4300)』は茫然とつぶやいた。
「うむ、ニュースでやっておったぞ。田んぼが干上がり、山の緑は枯れと酷いものであったな」
『ペンギン皇帝(aa4300hero001)』は頷くと織歌に告げた。
「田んぼも山も……え、それでは私の野菜や果物は?」
「別にそなたのものではなかろうが、駄目になっておるであろうな」
「そう、ですか……私から食べ物を奪う敵――ええ、万死に値しますね」
 織歌の怒りに着火。ペンギン皇帝は肩を震わせる。
「……っ!?」
 そんな織歌をよそに『禮(aa2518hero001)』の興味は別の物に向けられていた。
「これが”マーメイド”ドライブ……!」
『海神 藍(aa2518)』
(日常を返してもらおうか……とか、いつもなら思うのだろうが)
 ……禮がすごくそわそわしてる。
 その隣でMDをながめながら『イリス・レイバルド(aa0124)』もソワソワしている。
「海かー泳ぐんじゃなくて飛ぶイメージで挑めば空と錯覚する可能性がもしかして!?」
「まぁ、それで幸せならいいんじゃないかい?」
『アイリス(aa0124hero001)』は日笠片手に涼しげである。
「……それはそうと今回の戦場はうるさそうだよね」
「音に対抗する為に音を出す……騒音ならガデンツァ以上かもね」
 やがてリンカーの視界の先に船が見えた、港まで真っ直ぐ向かっていくそれの甲板には少女。こちらに手を振っているようでイリスは振替した。
 港まで向かいながら『赤城 龍哉(aa0090)』はつぶやく。
「貝と雨ってのは今一つ繋がらないんだが」
「貝の形をした日照り神のようなものかもしれませんわね」
『ヴァルトラウテ(aa0090hero001)』が答えた。
「降雨実験とかでも引っ掛かったりするのかね、あれ」
 やがて船にたどり着き一行は海のど真ん中へ。すると透き通った水の中に確かに巨大な貝が見えるではないか。
「鉄壁の護りに従魔の遊撃隊か、要塞と言った所か」
『御神 恭也(aa0127)』が言った。
「あれが、ホタテでも阿古屋貝であっても討伐後は美味しく食べられる筈」
『伊邪那美(aa0127hero001)』がつぶやく、食欲旺盛すぎる相方に、何も言えない恭也であった。

第一章

 甲板の上で黄昏る『餅 望月(aa0843)』と『百薬(aa0843hero001)』である。
「海ねー」
「海だねー」
 そんな彼女たちはすでにMDを装備していて泳ぐ気満々である。
「今日のワタシはマーメイド」
「イリスちゃん、今日もよろしくね」
 そうイリスを抱き上げる『蔵李・澄香(aa0010)』MDのせいで若干重たくふらついてしまう。
「確か澄香さんたちは、海上自衛隊の人と打ち合わせがあったんですよね」
「そうだ、そしてその準備は万事うまくいった」
『飛岡 豪(aa4056)』が言葉を継ぐ。
「これからリンカー突入と同時に……」
 そう豪が話し始めると全員の顔がそちらを向いた。
「自衛隊が海にスピーカーを設置する。そこからソナーの妨害、真珠従魔の悲鳴を流して相手を混乱させる戦術をとる」
 そう周囲に説明する豪は、実は重体である。
 周りの者に心配はさせまいと耐えてはいるが、普通では動ける傷ではない。
 それを察して
「怪我人が出しゃばって…足手まといになるわけには、いかないからな…だが、やれる事はやらせてもらう」
「……飛岡さんが戦闘に参加できない分は、私達が補います」
『月鏡 由利菜(aa0873)』が告げた。
「ガイ殿、己のやり方で戦おうとする意気やよし。だが無理はするなよ」
『リーヴスラシル(aa0873hero001)』が言う。
『まったくゴウも無茶してくれるぜ!」
『ガイ・フィールグッド(aa4056hero001)』はそう笑った。
「雨雲から溜め込んだ水を個人の為に使っているなら兎も角、ガデンツァの下へ運んでいるとするなら……憂慮すべき事態だ」
 そうリーヴスラシルは告げ、由利菜と共鳴。
「各自、作戦開始までに資料に目を通しておいてください」
『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』が全員にデータを配る。
 海流モデルの可視化データ、これによって海流の悪影響を受けず、また利用することが可能になる。
「また、前回の戦闘データも配布します、驚異的なことに、あの外殻へは傷一つついていないそうです」
 龍哉がにやりと笑った。
「あの管はでてるの?」
 望月が問いかけるとクラリスは、長い管のついたスコープを渡してきた。
 それを水の中に入れると、海中の様子が目に見えるのだが。
 なんと、望月が見る限り、貝はのんきに管を出して呼吸しているではないか。
「無駄にならなくてよかったね」
 百薬はそうヒモと洗濯ばさみを差し出す。
「よし、俺たちが先行する」
『麻生 遊夜(aa0452)』は頷き『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』と共鳴、先発隊を見渡すとさっそく海に潜った。
「禮、今日は任せてもいいかな?」
 藍は禮の頭を撫でて体の制御を頼む。
「い、良いんですか!? 兄さん!」
「MD、付けて泳ぎたいだろう?」
「……はいっ」
 満面の笑みを向ける禮。それだけでもここに来た価値があったなと藍は思う。
 次々と飛び込んでいくリンカーたち。
「それはそうと水を奪う愚神とか抹殺対象だね」
 ふしぎなことにMDを装備していると空中で会話ができる。
 イリスは念話ですむものをわざわざ声に出してみた。
「愚神ってだけでも十分抹殺対象だけどさ」
――まぁ、はた迷惑の規模は相当なものだしね。
 アイリスが答える。
――自然への災害には即刻ご退場願うとするかな。
 その隣を駆け抜けていく藍。
――もう一度こんなふうに海を泳げるなんて……夢みたいです!
 禮が言った。
「あとで遥華さんにお礼を言っておかないとね」
「ええ! ……これで黒い鱗があったら……いいえ、ありました」
トリアイナ【黒鱗】を取り出して、感慨深そうに撫でてから構える。
「今日もいつも通り。負けられません……むかしみたいに」
 そして最先行する遊夜の後を追う。その遊夜は一瞬後ろを振り返ると、海上自衛隊の船が動き出したことを確認した。
「空中戦の次は水中戦か……悪くないな、これもロマンだ」
――ん、泳ぐの気持ちいい……海も綺麗……邪魔なのがなければ。
 そんな一行を見送り、最後に織歌は出発する。
「美味しいご飯が食べられなくなるなんて、そんな不幸は許せません」
――ほう
「いずれ我が家の食卓に並ぶはずの作物たちを救う為、愚神をぶち殺しましょう」
 ペンギン皇帝は何とも鋭利な織歌の笑顔の前に何も言えないでいる。 
「それだけでは腹の虫がぐぅぐぅと治まりませんが……おや、あんなところに大きなホタテが……」
 そう織歌はMDの出力を上げる。

第二章 戦闘

「お、あれだな」
 遊夜は早速愚神の管を発見。
「反応は、ないみたいだね」
 貝はぴったりと口を閉じ、遊夜と望月が接近しても何の反応も見せない。
 余裕なのだろうか。
 それともスピーカーからの音のせいで、こちらの動きが把握できないのだろうか。
「どちらにせよ……」
「好都合だよね」
 そう遊夜は管に接近、睡眠薬を取り出すと、それを管の中へ放り込む。
――……ん、新鮮な空気? だよ~
「海じゃ味わえねぇもんだ、存分に堪能してくれや」
 その管をひもで結んで洗濯ばさみで固定。
 すると次の瞬間。貝全体がもがき苦しそうに呻き始めた。
「ん? 訊いたか?」
 次の瞬間わずかにひかられる貝、上がる気泡それに混じって大量に放たれる真珠の従魔。
「うお!」
「いったん離れないとまずい!」
 全力でMDをふかせる二人、その加速力と水の抵抗感のなさに二人は驚いた。
「ふむ、流石グロリア社だな」
――……ん、動きやすい、良い仕事。
――ワタシの時代がきたよ。
 そう槍を構える望月。しかし一本ではない
「そんな大げさなものかな、しかし実際そういうものかも」
 両手に双振りのやり、フラメアとトリアイナ。はたしてどちらの方が真珠従魔に効くのだろうか。
「全員に伝達、真珠従魔が解き放たれた。警戒しろ、スピーカーの破壊を阻止してくれ」
 そう、司令塔役を買って出たのは豪である。
「俺はテザー……皆の命綱だ」
「戦えなくたって役に立ってみせるぜ! 気合だ! 根性だ! 燃えるぜ! ファイヤー!」
 状況の整理、判断、把握、周知は全て彼等に任された。
「長期戦を覚悟するしか無いだろうな……」
 従魔を切り捨てながら恭也は言った。
――錐で穴を開けられないかな?
「水中じゃ無理だな。地上なら塩酸でも掛けて殻を溶かすのも可能だが」
 そう恭也は遊夜の後ろを追う従魔を一刺し。剣をふりぬいて回転するように別の従魔を切りつけた。
 恭也の一太刀の前には一撃で沈んでしまう従魔。
 だがその自爆は相当な威力だと聞く、恭也は改めて兜の緒を締める思いだった。
「奴らの目を引き付けている内に早く見つけてくれよ」
 真珠たちの悲鳴に耳を傷めながら、怒涛乱舞で一気に五体の従魔を切り裂いて見せる。
 その後、ポジションについた遊夜からの援護射撃、体勢を立て直したリンカーたちは再度貝に向けて進軍を開始する。
「また、大量に貝が生まれたぜ」
 ガイが告げた。その言葉通り、魅惑的な輝き帯びた球体がこちらめがけて一直線に泳いでくる。
「はいはい、こっちだよ」
 イリスはわざと真珠従魔の前に身を躍らせる。跳ねるようで独特な動きで敵の注意を引き、背後に従魔を引き連れたまま泳ぎ回る。
――上手く煽ってやれば相手の移動をコントロールするも同然だよ。
 移動力では遥かに上回るイリスであるが、敵が追って来れないとあきらめないように距離を調節し、水のなかを疾走する。
――なので恐れずギリギリまで近づいて挑発したまえ。
「うん、鬼ごっこはギリギリまで近づいてからがスタートだよ」
「おおい、イリス!」
 そんなイリスに外からの通信が飛んだ。
「どうしたんですか?」
 イリスが首をひねる、するとガイは言った。
「従魔が連なってイクラみたいになってるぞ」
 正しくは筋子だろうか。大量の粒が連なりすぎて一つの塊となってる。
 それを見てイリスはげんなりとつぶやいた。
「なんだか、気持ち悪い光景だね」
――ところでイリス。
「どうしたの?」
――この従魔たちはどうやって処理しようか。
「お姉ちゃん……集めたその後は考えてなかったよ!」
――ふむ、頼れる仲間が遠距離攻撃で数を減らしてくれるんじゃないかな。
 そうアイリスがにやりと笑うと。
 イリスの背後で特大の爆発が二つ咲く。
――速いですね……偏差はこの位でしょうか?
 最初は真珠従魔の群に誰かが巻き込まれたのかと思った、しかし違う。
 目の前に二人の魔術師が泳いでる、藍と澄香である。
――こっちに向かってくるなら狙いやすいですね。
 次いで放たれるゴーストウィンド。
――纏めていきます!
「ありがとうございます、二人とも」
 そのまま水をかき分けイリスは疾走、反転。さらに別の従魔を引き連れようと貝に接近していく。
「本領発揮だね」
――ええ! 人魚の英雄は伊達じゃない、ですよ。
 藍が前衛『トリアイナ【黒鱗】』を手の中で滑らせ従魔を切り砕く。
――槍兵に飛び込んで来るなんて、悪手ですよ?
 打ち漏らした従魔は澄香がラジエルの刃で砕いていく。
「クラリス」
――わかってますよ。
 澄香が右手でラジエルを操り、クラリスがプロテクターに張り付けたタブレットを操作。
――真珠従魔、海流に乗り接近。後ろ方向に逆の流れがあります。離脱の際はそちらに。
「全員に通達、貝が開くぞ」
 その時である。業を煮やした愚神がその硬い殻を開いた。中にはプニプニとした質感の身、そして人間型をした愚神の本体があった。
「情報通り、ほぼ貝と同じ生体のようだな」
 遊夜は告げた。
――……ん、貝を閉じる器官……貝柱、閉殻筋がある……はず?
 首をかしげるユフォアリーヤ。
「全く同じではないかもしれんが機能的には存在するはずだ」
 そう銃を向ける遊夜、それを見ると女形の愚神は猛々しく吠える。
 そしてこちらに向けて攻撃を仕掛けてくる。
「赤城さん! これを」
 そう織歌のリジェネを受け龍哉はにやりと笑う。
「言ってくるぜ」
 龍哉はこの時を待っていた。愚神が貝を開くのを。
 迫りくる従魔を神斬の斬撃で切り倒し進む、しかし愚神の反撃によって思うように近寄れない。
「くそ!」
 龍哉は見つけた。事前の予測通り貝柱が二本あるのを。しかしMDの機動をもってしてもうまくよけられない。
 遊夜からの援護射撃も飛ぶが、それでは貝柱を断ち切るに至らず、貝は閉じてしまった。
 しかしここからが本番である。
 豪はぽちっと手元のボタンを押す、するとスピーカーからソナー防止音に加え、従魔の断末魔が流れ始めたのだ。
 再び口をあける従魔。
 遊撃、支援と立ち回る仲間の動きを有効活用させて貰って、本命の貝を叩く。
「食べられない愚神の貝など、炭と化してしまえ!」
 直後龍哉の脇を駆け抜け貝柱に突き刺さる光線。
――悪いな……水中でもこの魔術書は使えるのだ。
 アルスマギカの精神汚染に耐えながらリーヴスラシルが告げた。
―― 一丸となって絶え間なく攻撃し、奴が貝を開く時間を延長させて攻撃を叩き込む!
「硬いのは殻のみだ、なら…?」
――……ん、なら、閉めれなくすればいい
 遊夜の銃撃が貝柱に直撃する、愚神は悲鳴を上げた。
「位置の特定さえ出来ればあとは外さん!」
――……ん、どこにいても。叩き込んで、あげるよ。
 遊夜の放つ魔弾は霊力を帯びる、衝撃を吸収せずはじき返す弾力のある霊力壁は貝柱を貫通すると貝の内側の壁に激突し反射。今度は愚神の本体に突き刺さる。
 一発の銃弾は高速で飛び交い跳ねれば跳ねるほど速度を増す。
 愚神は追いきれない攻撃に恐怖した。 
 このままではまずいと、愚神の本能が警鐘を鳴らす。


第三章 水を食べる魔物

 戦いは案の定長期戦と化していた。
 先ほど貝を開くことに成功して以来。愚神は頑なに口を閉ざしている。
 あの時貝柱を破壊するに至らず貝はまた閉じてしまった、むしろリンカーたちに恐怖したのか、今度は真珠従魔を発生させる動きもない。
 仕方ないので、残った従魔たちを全員で蹴散らしていくリンカーたち。
「水圧とか利用してると水の中って事を嫌でも思い出すね」
 イリスは軽やかに水中を泳ぐ、空中に続いて水中での戦い方もマスターしてしまった。
 そんな彼女にかかってみれば、水を蹴りつけ、水圧で敵の勢いをそぐことなど朝飯前である。
――おや、モチベーションでも下がったかい?
「ううん、ちょっと寂しい現実を目の当たりにしただけで……戦意を下げるなんて事はありえないよ」
 背後に張り付いた敵を藍と澄香が迎撃してくれた。
「なんかいつもと戦い方が違うから新鮮というか何というか…」
――まぁ、たまにはそういうこともあるさ。
 そして、従魔の数が圧倒的にへると、本体を攻撃し放題になる。
 霊力の炎は基本消えない。由利菜はイフリートによって貝を炙り始めた。
「なかなか思うように行きませんね」
 貝の上部ではひたすらに恭也が剣を叩きつけている、しかしそれでもびくともしない。
――まるで効いてないね
「こんなに固い愚神は初めてじゃないだろうか……」
「みなさん、耳をふさいでください!」
 織歌が叫ぶと全員が距離を取とる。投げ込まれたのは『目覚まし時計「デスソニック」』
「目覚まし行きます! 一応、音に注意してください!」
 そのけたたましい音は水を伝って全リンカーの耳に響いた。かなり距離を取っていても耳が痛い。間近で聞いていれば、目覚めた直後に失神するのではないだろうか。
 それほどまでにうるさかった。
 しかし、それもあまり効果がない。
「あれをやるしかねぇか」
 龍哉が笑い武装を斧に持ち替える。
「あれ? ああ、なるほど……」
 ヴァルトラウテは黙って頷いた。
「やりたがると思っていました」
 開かない貝に対して龍哉が選択したのは、真っ向勝負である。
「噂に聞いたその堅さがどれ程か試させて貰おう」
 MDを操作し、貝の真上で体制を固定、斧を構えすべての霊力を斧に注ぐ。
「とっておきの荒波だ。とくと味わえ!」
 アックスチャージャーを発動。溜めた後にシュナイデンを一直線に振り下ろす。
 ガギィと甲高い音が響く。
「まだまだ!」
 直後、龍哉は恐るべき精度で斧を振り下ろす、先ほどと同じ部位、それを狙ってもう一度、もう二度、振り下ろす。
 瞬間に三連撃。
 そしてその斧は貝に突き刺さる、貝の表面にひびが生まれた。
「なるほど、大した堅さだな。初見なら耐え切られたかもしれねぇが」
 斧を引き抜くと、さらにひびが広がる。突破口が見えた。
 愚神の悲鳴が上がる、そしてあわてて従魔を吐き出す愚神、しかし。
「届けぇー!!」
 その傷めがけて放たれたサンダーランス。それは従魔ごと焼き払い、貝の傷をさらに広げていく。
「どんなに堅牢であっても、討伐隊の皆の戦いは無駄じゃないって証明して見せる!」
「砕け散りなさい!」
――私達も!
 由利菜と藍の魔法攻撃も殺到する。ひびがさらに大きくなった。
「ここだ!」
 そして最後に恭也の一撃。殻の一部がバキリと割れて砕ける。
 その向こうには唖然と呆ける愚神の姿があった。
「いまだ!」
 遊夜を筆頭に遠距離火力の集中砲火、愚神の弾幕にはそれで対抗する。
 次いで接近した、由利菜、恭也、龍哉の斬撃が迫る。
「即興ですが、龍哉さんや恭也さん達の剣閃に合わせて!」
「あ、気を付けないともしかすると……」
 望月の静止は間に合わず、連なること斬撃が三閃、ざっくりと切り開かれた愚神の体からほとばしる水流。
 体の中にため込まれた水が流れで始めたのだ。
「ああ、たぶん愚神が今までため込んだ水が一気に出てくるね」
 そう望月は愚神の体に槍を突き刺して水流に耐える。
――そうなったら水中から一気に空を飛べるかも
「おっと、そうじゃないよ百薬、干上がった川をどうにかできるかも」
 全員が望月の話に耳を傾ける。
「押したり引いたりして河口から上流に愚神を引きずり出せば水不足緩和の可能性があるよ」
「でもどうやってずらすんだよ……」
 豪が言った。
 リンカーたち全員が沈黙する。別にあきらめたわけではない、誰も何も思いつかなかったのだ。
 結局誰かが言った、とりあえず倒そうの声に皆が頷いた。
「これから良い所なんでな、邪魔しないで貰おうか!」
 すさまじい水流に押し流されて攻撃ができない前衛のかわりに遊夜が愚神の眉間を狙う。
――……ん、クライマックス。

「「おやすみなさい、良い旅を」」

 撃ち込まれた弾丸は愚神の脳天に突き刺さると、彼女は絶叫を上げ、絶命した。
 しかしその命耐える瞬間にため込んでいた水を全て放出、水流が爆発的にあたりに広がった。
「津波だぁぁぁぁぁぁ!」
 町に押し寄せる巨大津波、それを見て豪はにやりと笑う。
 相手が従魔や愚神ではなく、霊力を纏った攻撃でなければダメージは受けない。
 津波の目の前には船があった、海上自衛隊の船だ。その上には戦闘に参加できなかった豪が乗っている。
「この津波が町に衝突すれば、被害は免れないだろうな」
 ガイはその言葉に頷き、傷ついた体に鞭打って共鳴。
「おおおおおお!」
 そしてその拳を海面に叩きつけた。するとその衝撃によって津波の衝撃波分散。
 船に直撃することもなければ、町に到達したとしてもちょっとした被害で済むだろう。
「これで一件落着か?」
 そう豪は冷たいに浮かび、一つため息をついた。



エピローグ

「ねえ、この余った貝殻どうする?」
 伊邪那美が言った。
「……焼き砕いて漆喰の材料か土壌改良剤にでもするか?
「蔵も畑も無いのに?」
 そう貝を眺める恭也の肩を叩いて龍哉は笑う。
「まぁしかし、良い見世物にはなりそうだな」
「愚神退治の証として立てるには良いかもしれませんわ」
 そう龍哉が引き上げられた貝殻の表面を撫でる、この質感でわかる、これはどんな鋼鉄より固い。少し前までの自分なら切り裂けなかっただろう。
 そんな龍哉のシリアスな表情を、しょっぱみあふれる匂いが和らげる。
 そして聞こえて来るのは、鉄板にこぼれた汁が蒸発する音。
 見れば織歌が自衛隊四型飯盒をしようして、透き通る乳白色の物体を並べていた。
「味付けは、バターと、醤油と。マヨネーズとか、チーズも合うかもしれません」
油を引いてライヴスを通して加熱、強火で一気に焼き、バターを投入、溶けきる前に醤油をひとたらし。
「……食えるのかこれは?」
 串を手に取って恭也が言う、織歌はその言葉に首をかしげた。
「これって一応愚神ですけど、そうですね……食べて平気なのでしょうか」
 ペンギン帝王に問いかける。
「何をいまさらなことを」
「ホタテか阿古屋貝の親戚みたいだから大丈夫でしょ」
 伊邪那美が言った。
「とても良い匂いですし、いけそうな気が。いただきます」
「貝毒の心配があるんだがな」
 恭也が告げる。
 それを皮切りに海で泳いでいたメンバーがもどってくる。
 望月に至っては、愚神を倒してからずっと泳ぎづくめだったので、中が減ったらしく、それがなにかもよくわからず、グリルの上の物体を食べていた。
 誰も何も言うまいと心に誓った瞬間であった。
「あら、みんなもう退治できたのね、早かったわね」
 そう遙華が駆け寄ってきた、愚神の貝がらが、良い素材になりそうと聞いて、飛んできたのだ。
「あ、西大寺さんこちらをどうぞ」
 織歌が愚神のお肉をさらに乗せて手渡した。
「あら、これはなんなの?」
「美味しいですよ、どうぞお食べくださいな」
「え? じゃあ、遠慮なく…………あら、美味しい。ほたて?」
 にやりと笑う伊邪那美。
 そんな遙華に禮が走り寄ってきた。
「遥華さんありがとうございます! MDはすばらしいものですよ! ……そうだ! 民生転用品の予定なんてありませんか!?」
「そうね、一応計画はあるけど、もう少しテストが必要で」
「いや、すまない。かつてのように泳げたのが嬉しかったみたいでね。……本当にありがとう。今度ケーキでも差し入れしますね」
「データが欲しいなら、話せることはいろいろあるぜ」
 そう龍哉が告げると遙華の目が輝いた。
「私もです、もうすこしスムーズに泳ぐために、展開するフィールドを鱗状に」
「とは言え、あまり根を詰め過ぎないようにな」
 そう龍哉は笑って、愚神の肉を頬張った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
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