本部

超危険スライム襲来!

一 一

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/11 20:39

掲示板

オープニング


●衰弱者多数、ただし女性に限る
 それは突然の出来事だった。
「また急患だ! 40代女性! 意識不明で呼吸も心拍も微弱! ストレッチャーの準備、急げ!」
「こちらは30代女性! 症状は全く同じ! 急患の受け入れ希望です!」
「受け入れろ! 断って他の病院に回しても、どうせすぐやってくる!」
 突如、津波のように押し寄せてきた急患たちの対応に、救急救命の医師や看護師たちは怒声を張り上げ走り回っていた。
 午前中から騒ぎ出した電話は未だ鳴り続けており、対応に追われている看護師たちの表情には疲労の色が濃く出ていた。
「全員聞いたか!? どうせ症状は同じだ! もう10人以上同じ治療してりゃ、手順は覚えただろ!? まだまだ来るぞ、腹括れ!」
『はいっ!!』
 まとめ役の医師の言葉に、救急救命のスタッフたちは声を張り上げる。その瞬間、また1人患者がやってきた。
「心マとタオル! 手袋は毎回変えろ! くれぐれも直接触るなよ!」
 ストレッチャーで運ばれてきた女性は、先ほど医師が電話を受けた40代だという患者。しかし、見た目は30代後半に見える程度には若々しく、均整の取れたスタイルの持ち主だった。
 奇妙な点はまだあり、女性の全身にはヌルヌルした液体がべっとり張り付いており、酷く衰弱しているにも関わらず表情がとても穏やかだった。
「う、げほっ!」
 看護師たちが手早く女性の粘液をタオルで拭うと、医師が馬乗りになって心臓マッサージを施す。しばらくして、女性の口からも体に付着していた粘液らしい液体があふれ、医師は逃げるように体をどかした。
「よし、次!」
 すでに何人もの患者に心臓マッサージをしていた医師は、汗だくになりながらも新しくやってくる患者の応急処置に向かった。
 そして、救命センターのベッドは短時間で埋まってしまった。いずれも実年齢より外見年齢が若く見える、妙に満足げな表情をした妙齢の女性たちによって。

●至急かいsy……、討伐求む!
「一大事です! これを見てください!」
 緊急の依頼が入った、ということで集められたエージェントたちは、妙に興奮した女性職員に促されて映像へ視線を向ける。
「突如町中に巨大なスライム型従魔が出現しました! これは被害者家族の1人が携帯で撮影し、H.O.P.E.に提供してくれたものです!」
 そこに映っていたのは、まるで小さなドームのようなスライムだった。冗談のようなサイズの従魔はゆっくりと移動しており、町中を我が物顔で占領している。
「そして、注目すべきはこれです!!」
 エージェントたちが従魔の脅威度に注目していると、一層興奮が高まった女性職員が別の映像を示した。
 そこには2人の女性の写真が映し出されており、左側は証明写真のコピーらしく50代前半の女性が、右側には病院のベッドに寝かされている40代後半くらいの女性が、それぞれ正面からの顔写真で映っていた。
「なんと、この2人は同一人物です! スライム従魔に襲われたところ、蓄積された肌のダメージは消え、しわやシミも丁寧に除去された上、髪の毛は色・艶・潤いを取り戻し、スタイルもちょっとよくなっています羨ましいっ!!」
 女性職員の本音はさておき、もたらされた情報はとてもすぐに信じられるものではない。確かに両者の容姿は似ている部分もあり、同じ人物だとしたら被害後の女性は美しく変貌を遂げてはいるが、まだエージェントたちは半信半疑だった。
「そしてこれが、あの素敵スライム様の恩恵を受けた被害者たちの今ですコンチクショー!!」
 また変わった画面には、現場近くの病院内の映像が映し出された。次々と運び込まれるのは30歳以上の女性ばかりで、全員が先ほど見た被害後の女性の写真を思わせる美肌の持ち主ばかり。さすがにここまでくると、ヒートアップする一方の女性職員の言を信じるほかない。
「というわけで! 皆さんにはこのスライム様を迅速に捕獲してきてください! 手段は問いません!! とにかく、私も被害者と同じような美肌とボディを手に入れたいのでs」
 ゴンッ!!
「失礼した。この馬鹿の言ったことは忘れてくれ。依頼はこのスライムの討伐だ。捕獲など一切考えず、塵も残さないよう完全に消滅させてくれ」
 力説していた女性職員の後頭部を背後から本気で殴った男性職員は、呆気にとられるエージェントたちへの説明を引き継いだ。なお、気絶した女性職員はスタッフが責任を持って運び出しました。
「この従魔が危険なのは、さっきの馬鹿みたいな考えの女性たちを自然と呼び寄せていることと、彼女たちのライヴスにより短期間でケントゥリオ級にまで成長したことにある。現場周辺に立ち入り規制を敷いたが、避難者たちの噂を聞きつけた女性たちが無断で侵入してくる可能性は非常に高い。現に、すでに包囲網をすり抜けた人物が確認されている。このままでは甚大な被害が出るだろう」
 つまり、アクティブすぎる被害者たちが、望んで従魔の餌食になっているらしい。このまま従魔を放置していたらどんどん力を増し、手に負えなくなるのは明白だ。
「そして、被害者たちは限界ギリギリまでライヴスを奪われ、全員が昏睡状態だ。病院に問い合わせたところ、死者が出ていないことが奇跡なくらいの衰弱レベルらしい。ライヴス吸収能力が相当高いことが推測され、リンカーである君たちでも危険かもしれない」
 最後に男性職員は、神妙な顔で訴えかけた。
「能力は冗談みたいな従魔だが、被害状況からして脅威度はかなり高い。速やかに討伐しないと、いずれ死者も出るはずだ。そうなる前に、あのスライムを滅してくれ」
 被害者家族の思いを代弁した男性職員の言葉に頷き、エージェントたちは立ち上がった!
「ん? スライム従魔の美容効果について? ……報告によると、全員が2歳から3歳程度、外見年齢が若返っている。スタイルについては、バストとヒップは実測値で若干サイズアップし、ウエストはわずかに細くなったらしい。効果の確実性と即効性は確認されているが、試すなよ? いいか、フリじゃないからな? 絶対試すなよ?」

解説


●目標
 従魔の討伐、被害者の救出。

●登場
 巨大スライム従魔×1。ケントゥリオ級。
 ライヴスを死ぬ一歩手前まで吸収する代わり、お肌に関する悩みなどを食ってしまう、女性にとっては特に危険なスライム。核が存在せず、粘液状の肉体を削ればダメージを受ける。ライヴス吸収速度が凄まじく、能力者でも油断できない。初期状態では5×5sqを占領する。

 能力…物理防御・魔法防御・生命力↑↑↑、物理攻撃・魔法攻撃↑↑、回避・移動・イニシアチブ↓↓↓。

 スキル
・手…射程1~5。範囲1~3。物理。手の形にした肉体で頭上から押しつぶす。
・唾…射程1~25。範囲1~2。魔法。肉体の一部を切り離し、弾丸のように飛ばす。
・沼…射程1。範囲1~3。魔法。地面に粘液を流し、接触した者のライヴスを奪う。ダメージ量から一定割合を生命力として回復。

●場所
 東北某所。田舎と都会の中間にあたる規模の町中に出現。商業施設などでない限り、3階以上の高さになる建物は少ない。従魔のサイズもあり、遠くからでも姿を確認できる。道路の舗装はしっかりしており、片道2車線以上の道を移動中。

●状況
 現場到着は午後2時ごろ。天気は晴れ。肉体が肥大し、大きい道路でしかまともに移動できない。従魔が通った跡は粘液でヌルヌル・テカテカしている。物を溶かす能力はないが、迂闊に触れるとライヴスとお肌の悩みを奪われる。
 付近の住民は避難したものの、すでに地元の妙齢の女性たちは危険を省みず、多くが自ら従魔の餌食となっている。現在も被害は増え続け、現場到着時には20名程度の女性たちが従魔に飲み込まれており、下手をすれば戦闘中に被害者が増える。

リプレイ

●戦闘班と救助班
 スライムに取り込まれた被害者に配慮し、エージェントたちは大きく戦闘と救助の二手に分かれた。
 まずは攻撃優先組。
「気持ちはわからなくもないけど……、ちょっと多すぎじゃない?」
「……」
 スライム進路上にある商業施設の屋上にいるのはシエロ レミプリク(aa0575)とナト アマタ(aa0575hero001)の2人。遠くからスライムの体内を漂う女性たちに、シエロは感心と呆れを込めた声を漏らし、ナトは肩車の状態で「楽しそうー」という空気を出していた。
「……まあ、とりあえず。呑み込まれている人たちを助けないとね」
『む、そうだな。まずは堅実に、端から削っていこう』
 ちょっと気になる間を作り、ライヴスガンセイバーを構えたのは共鳴を済ませた鬼灯 佐千子(aa2526)。リタ(aa2526hero001)はそれに気づかずスライムを眺め、被害者救助の流れや討伐方法に意識を割いていた。
「悩む女性の心理を突いた巧妙な手口、と言うべきかしら。正直、死にかけてまで追求する事でも無いと思うのだけど」
 こちらも仲間から離れ、被害者の前で口にすればフルボッコにされそうなことをつぶやいた水瀬 雨月(aa0801)。美容対策とは無縁な体質の彼女に、世の女性の苦悩は理解し難いのかもしれない。
 共鳴済みの英雄アムブロシア(aa0801hero001)は今日も意識の奥に引っ込み、沈黙している。こんな時、突っ込み不在なのが歯がゆい。
 そして、ここからが救助優先組だ。
「スライム内部は水中と同じ、もしくはそれ以上に動きにくい可能性がありますよね。自力では外部に出れない危険性も頭に入れておきましょう」
 巨大スライムを視界に入れ思案するのは、辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)。被害者救出を念頭に、あらゆる可能性を思考し精査していく。
「ふぅむ、ドロップゾーンよりもライヴス吸収効果が高いのぅ。飼い慣らせれば面白いが、此度も無理のようじゃから、生きている者達を救いに行くとするかの」
『あれ? 美容効果の検証にサンプル採取とかすると思ったけど、違うの?』
 過去の経験から敵の力を推測して方針を固めたカグヤ・アトラクア(aa0535)は、共鳴して伝わるクー・ナンナ(aa0535hero001)の声に至極真面目に答えた。
「む? 美容の悩みなぞ、整形なり人工皮膚移植でもすればいいだけじゃろ。いちいちこんな危険物を試さずとも、若返りの秘薬や生体クローンによる――」
『……あぁ、うん。もっと非常識な思考だったね……』
 カグヤから出てくる代替案の内容に、クーは声に呆れを乗せた。ないもの(若さ)は創れる。それが彼女のポリシーです。
「全く、こんなことで命を落とすなんて馬鹿らしい。生活習慣を見直して、健康的に過ごせばいいのにな……」
 正しく美容に命を賭けた女性たちを一刀両断したのは防人 正護(aa2336)。言い分はどこまでも正しいのだが、彼女たちはそれが出来なかったからスライムの力に頼ったのだ。生活はズボラでも、美しさと若さは欲しい。それが女という生き物なのです。
『妾スライムに飛び込んだところで何か美味しいの? むしろ水禁なので嫌です』
 一方で、スライムを前に古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001)はほぼ戦意喪失していた。水恐怖症というハンデを背負うアイリスは早々に共鳴を選択し、正護の中に引きこもる。頑張れジーチャン!
「美しい物を愛でたいと云うのは世の真理。然るに、美しくあろうとするのもまた需給の真理哉。私は暫く愛でる側に立つとしよう。君達で愉しんで来給え」
 と、鞭を片手に言ったのはティテオロス・ツァッハルラート(aa0105)。要するに、「綺麗になりたいのはしょうがないし、見てて面白いから、もっとやれ」ということらしい。今日も絶好調ですね、女王様。
「ディエドラも、野畑作業に晒した手でも浸して来ると善い」
「植物油で治りますからご心配なく。ご自分でどうぞ」
 ティテオロスの煽りは相棒のディエドラ・マニュー(aa0105hero001)にもおよんだが、慣れた様子で華麗に躱していた。
「くっ、なんて危険なスライムなのでしょうか。このような狡猾な罠を用意するとは……!」
「必死だな? だってお前三十z」
 ドギューン! という銃声でぱったり倒れた天宮 愁治(aa4355)の近くで、ヘンリカ・アネリーゼ(aa4355hero001)じゅうはっさい(←ここ重要)が美容スライムへの怒りに震えていた。ええ、怒りです。決して美容効果に目がくらんでなどいないのです。
 そんなエージェントたちは現場到着後、すぐに巨大スライムを囲む配置につく。
 ここから、彼らの長い一日が始まった。

●堅く、重く、怠い
 まず、スライムの進路上についた攻撃班が行動を開始した。
「さぁて、まずはあの巨体を削っちゃおうか!」
 徐々に近づくスライムを前に、共鳴したシエロはアンチマテリアルライフルを構えた。被害者のいない場所をスコープで狙い、引き金を引く。が、弾丸は少量の肉体を散らしただけ。巨大な質量とスライムの粘性が、衝撃を吸収しているようだ。
「う~ん、これ、ちゃんと削れてるのかしら?」
 シエロとは別の場所から射撃を行う佐千子にも、手応えはあまりない。かといって、他に持参したフリーガーファウストG3やイグニスでは中の被害者を巻き込みかねない。リタの言葉通り、今は堅実に行こうと佐千子は機を窺う。
「試し撃ちには丁度いい相手ね」
 また別の場所では雨月が『拒絶の風』を纏い、アルスマギカ・ヘブンにライヴスを注いで反射速度を上げる。スライムの攻撃パターンを読みつつ、遠距離から攻撃をしていく作戦だ。
 的は大きく外す余地がないが、雨月も被害者がいる状態で範囲系スキルは使えないため、最初は地道に敵の質量を奪っていく。
 彼女たち攻撃組の裏で、救助組もまた奔走していた。
「まずはこの私、ヘンリカがスライムの内部に突入して市民の方々を救出します! ええ、救出です!!」
 大事なことなので二回言ったヘンリカは、躊躇いもなくスライムへ突っ込んだ。行ってらっしゃい!
「あ~、必死になっちゃって」
 そんなヘンリカの背中を、愁治は冷めた目で見送り、救助組でも後方支援のティテオロスたちとともに被害者の安全確保に動く。構築の魔女が病院搬送用の足を用意していたため、そちらへ運ぶのが主な役割だ。
「ミイラ取りがミイラにならないように……ただ、時間はあまりかけられませんから、大胆に!」
 その構築の魔女は前衛救助を担当し、拳にライヴスを流してスライムの進行方向とは逆側から腕を突っ込む。そして、体内を流れる被害者を掴み、一気に引きずり出した。
「皮膚への直接の接触はなるべく避けて、搬送してください」
「承りました」
 すぐに後退して被害者をディエドラに任せ、構築の魔女は再び敵へと向かう。被害者の救出とともに、味方が躊躇なくスライムへ攻撃できるようにするためでもあった。
「人の持つ知恵と技術を見せてやるのじゃ」
 別の方面からは、カグヤがスキル『フットガード』を使用し、ALブーツ「セイレーン」へとライヴスを送り、起動。味方の攻撃で粘体の動きの差異を見極め、活動が鈍い面から肉体を駆け上る。
「命ある者は救う。それがわらわなのでな」
 そのままスライム上部へ到達したカグヤは防護用の手袋をはめると、直下にたゆたう被害者を両手で掴み出した。
「どれだけ馬鹿な欲望で迷惑かけようが、それもまた人の業。やはり、人というものは見ていて楽しいのぅ」
 わずかに呼吸する被害者を抱え、カグヤは一度スライムから離脱。地上のディエドラと愁治に引き渡し、再びスライム上部へと戻っていった。
「はあっ!」
 足下ではスライムに接近した正護が、『拒絶の風』を発動してミラージュシールドを構える。スライムが直接肌に触れる心配がないため、腕の届く範囲にいる被害者に目を付けて引っ張り出した。
「何っ!?」
 直後スライムが正護に迫り、とっさに盾でガードする。視界すべてがスライムの壁となり、押し潰さんとする様は攻撃ともとれるが、実はただの移動だ。巨大な質量はそれだけで武器であり、進路上にいた正護は被害者をかばいつつ後退を余儀なくされる。
「ちょっと! まだ途中だったのよ!」
「誰もが欲する美だとて、贋物はくすませ、粗製は鈍らせる物だ」
 そうして前衛救助組から運ばれてきた女性を前に、後方救助組のティテオロスはピンと張った荒縄を見せつけた。
「さぁて……、安易な美へと媚びぬよう、戒めて差し上げよう」
「え? きゃあ!?」
 次の瞬間、女性は縄で縛られてゴロンと地面に横たわる。
「これで愚行に走ることもあるまい?」
 再発防止として身動きを封じたティテオロスだが、動機の大部分が趣味。きつめに縛られてもがく被害者を見下ろし、笑顔が二割増でまぶしい。実に楽しそうだ。
「一日1つの種を植え、大地に豊穣を捧げるのです。我等の神は恵みを以て報いるでしょう……」
「……う、あぁ」
 一方、ディエドラは自身の豊穣ぼでぃで地母神ハルュプ信仰を通じ、被害抑制を試みた。すると、心身ともに弱った被害者たちは次々とスライムではなく彼女に群がる。目的は達したが、なんか怖い。
「ふっ!」
 表層の被害者をあらかた救出し終えた構築の魔女は、装備を黒潮に変更。ライヴス操作を器用にこなし、スライム中心部にいる人たちを釣り上げて救助していく。
『ロローー?』
「これ? 気にしないで」
 すると、唐突に落児の声が。彼が指したのは、彼女の足下のMM水筒。何故そんなものが? という声に、構築の魔女は素知らぬ顔で幻想蝶にしまった。
『……シエロ、あっち』
「あー、愁治さん、そっちに女の人発見ー。やー美容スライム恐るべしだね」
 救助が順調に進むさなか、狙撃中にナトの指摘で新たな乱入者の姿を確認したシエロは、通信機で位置を伝える。
「了解!」
 連絡を受けた愁治は彼女たちの説得に動く。一度は渋られたものの、二度・三度と言葉を重ね、ようやく彼女たちの足が止まった。
「ここ通行止めの筈なのだけど、……執念って怖いわね」
 通信機越しに乱入者とのやりとりを聞いていた雨月は、魔導書による攻撃を続けながらぽつりとこぼす。理解は出来ても共感は出来ない、という気持ちが声から伝わる。これが、持つ者と持たざる者の違いなのか……っ!
「この脱力していく感覚……、リラクゼーション効果まであるようです、ご主人様」
 激しい攻防が続く中、両脇に被害者を抱えてヘンリカが戻ってきた。全身ヌルヌルな姿を見て、乱入者の誘導をしていた愁治の視線は一層冷えていく。
「いや、それライヴス吸われてるだけだから。お前バカだろ」
「ご主人様には分からないのですよ。そう、美しさと引き換えなら悪魔と、愚神と契約してもいいと思えるほどに、お肌の悩みは人生最大のテーマなのです」
 だが、ヘンリカも負けてはいない。肌に粘液を塗り込みながら愁治に反論した。もう美肌目的って言っちゃったよ。今までのフォローが水の泡だよ。
 こうして徐々にスライムの肉体を削り、順調に被害者たちを救助していったエージェントたちだったが、スライムが突然大きく震えだしたことで状況が一変する。

●ライヴスは渡さない
「これは……」
「みんな、気をつけて! なんかくるよ!」
 異変に気づいた構築の魔女に一拍遅れ、シエロが通信機で味方全員に注意喚起を行う。
 瞬間、今まで散発的に攻撃を行っていたスライムの肉体が、突如至る所で隆起する。あるいは『手』となり、あるいは『唾』となり、あるいは『沼』となって、全方位へスライムの攻撃が降り注いだ。
「ちっ!」
 ほとんど無差別攻撃なスライムの雨を見上げ、佐千子はフリーガーに持ち替えロケットを乱射。それでも足りずガンセイバーの銃口を方々へ向けるも、粘液の飛散を完全に防ぐことができない。
「急に攻撃が激しくなってきたわね。スライムにも焦りの感情があるのかしら?」
 スライム弾が数を増やして迫る様を見ながら、雨月は冷静だった。時に避け、時に『ブルームフレア』や『ゴーストウィンド』で粘液を散らし、躱していく。
「でも、これじゃあ他の援護に行けそうもない、か」
 攻撃組と救助組では距離があり、雨月の位置からでは移動も困難。通信機から漏れ聞こえる様子にもどかしい思いを抱きつつ、それでも自分に出来ることをと攻撃を継続させた。
「ぐっ!? 女性を奪われまいと、必死というわけかっ!」
 こちらは頭上から降ってきた粘液の『手』を盾で押し返す正護。救助と後退を繰り返していく内、スライムの攻撃傾向は救助組へと確実に流れていたのは理解していた。そこからの暴走は、失う肉体よりもライヴスを優先させる敵の暴食ぶりが透けて見える。
『……ふと思ったけど、このスライムってバラバラにしちゃったら分裂して、なんてことは無いよね? ね?』
「この状況でそれを言うか!?」
 スライムが積極的に肉体を切り離して攻撃に転用している中において、アイリスの発言は不穏そのもの。救出した被害者も抱える現状、回避と防御に専念するしかない正護には、アイリスの予想が外れてくれることを祈るしかない。
「っ!」
 攻撃対象は前衛だけではない。遠く離れた場所にいたはずのティテオロスへも迫り、とっさにグロリアス・ザ・バルムンクを掲げた。
『ご主人様、ご褒美は打撃を所望しま』
 直後、豚AIが何か言いかけたところで粘液が着弾。非共鳴があだとなり、被害者たちをかばって吹き飛んだ。
「ティティ! っく!?」
 ティテオロスに駆け寄ろうとするディエドラにも、飛び散った粘液が襲いかかる。本体から離れてもライヴス吸収能力は健在で、ディエドラの体から力が抜けていく。
「くっ!? 本体から離れた粘液でさえ、ライブスを吸収する危険があるようですね!」
 同じく猛攻にさらされる構築の魔女は、次々と黒潮の糸でスライムの弾丸を切断していく。ディエドラの様子から危険性を再認識し、まだ搬送できていない一般人への飛散も配慮して防いでいく。
「やばっ!?」
 が、ティテオロスたちと同様、被害者の移動中だった愁治にも、粘液の弾丸が襲う。
「ご主人様!」
 するとヘンリカが颯爽と現れ、体を滑り込ませた。しかし、結果的に直撃を受けたヘンリカはもちろん、後ろにいた愁治も巻き込まれてしまう。
「くっ……、駄メイド、お前……」
「こ、これで、もっと美肌効果が……がくっ」
「本っ当にバカだろ!?」
 致命傷を避けながら、愁治へのダメージを分散させたヘンリカの技量はさすがと言える。たとえ、最後の台詞がすべてを台無しにしていたとしても。

●反撃の反撃
 しばらく続いたスライムの反抗は、次第に勢いが衰えていく。今ので大量のライヴスを消費したのか、肉体が一回り縮んでいた。それでも巨大なスライムを相手に、真っ先に動いたのがシエロだった。
「ちょおっとオイタが過ぎるんじゃない!?」
 好き勝手に暴れたスライムを睨み、シエロは右手にライフル、左手にフリーガーを担いで立ち上がる。阿修羅内蔵の銃器もフル展開し、『ストライク』も込みでフルバーストを叩きつけた!
「にゃーっはっはっは! コレだけ的がでかけりゃ外す心配はないねぇ!!」
『……』
 スライムを引きつける意図もあって高笑いで撃ちまくるシエロを、ナトは「気持ちよさそう」と見守っている。
「すまぬ、遅れた!」
 シエロが気を引いている間、後方救助組のところへカグヤが駆けつける。被害者救出直後に『手』の連続攻撃を受け、今まで足止めを食らっていたのだ。
 何とか包囲網をかいくぐり、愁治たちへと『ケアレイン』を発動。さらに地面に飛び散った粘液をイグニスで焼き払っていく。
「た、助かったぜ、カグヤさん」
「動けるなら、ティテオロスを連れて退け! 反応が薄い!」
「わ、わかった!」
 何とか回復した愁治に向け、カグヤは厳しい声を叩きつけた。見ると、魔法の範囲内にいた者の内、ティテオロスだけが動かない。事態の重さを理解した愁治は倒れたヘンリカと共鳴。ティテオロスへ駆け寄ると、横抱きにしてスライムに背を向けた。
「行け!」
「すみません! 後は頼みます!」
 カグヤはもう一度『ケアレイン』を施して愁治たちを戦場から逃し、再びスライムへと向かう。取り残された被害者が、まだ残っているためだ。
「美容スライムはどこっ!?」
 それから、何とか回復して動ける一般人の避難誘導をしていたディエドラの前に、新たな乱入者が現れた。
「ここは危険です! 逃げて!」
「……っ」
 ぐったりした女性を背負い、必死にこの場から離れようとするディエドラたちの姿を見て、乱入者たちは足を止める。スライムは女性の味方ではなく、人類の敵。ここに至ってそれを理解した乱入者たちは、ディエドラの説得に従い避難を選択した。
「これで、最後です!」
 その後、敵の隙を見つけては被害者を釣り上げていた構築の魔女が、最後の1人を救出して味方へ声をかけた。
 これで、エージェントたちも遠慮はなくなった。
「ねえ」
『何だ?』
「スライムって、アレよね? ちょっとしたプールよね? ……飛び込んだら気持ちいいのかしら」
『おい、馬鹿な考えは――』
 スライムの猛攻をしのいだ後、佐千子がとんでもないことを言い出した。看過できずに佐千子を止めようとするも、リタの制止は遅かった。
「はあああっ!!」
 思い立ったらすぐ行動! とばかりに佐千子はライヴスラスターを起動させ、近くの建物へ突進。衝突の寸前で跳躍し、壁面を駆け上ってスライムの領空に躍り出る。
 そして、目標を眼下に捉えるとスラスターを追噴射。ガンセイバーの刃で粘液を切り裂きつつ、スライム内部へ沈んでいく。
「え、ちょっ、ちーちゃん何やってんの!?」
 佐千子の行動に度肝を抜かれたのはシエロだ。慌てて攻撃を中断し、装備を虹蛇に切り替えてスライムへ駆けだした。
「鬼灯さんまで何をやっているのかしら……」
 シエロとほぼ同時に佐千子のダイブを目撃した雨月。表情には呆れが浮かぶが、救助へ動こうとはしない。言って聞かせるより痛い目を見た方が早い、と考えての放置だ。手厳しい。
『あっ! おねーちゃんが飛び込んだ!』
 そしてアイリスもまた、佐千子の突撃を目撃していた。
『ジーチャン、ゴー!』
「……いや待て」
 すぐに救助を促したアイリスだったが、正護は地面に着地した佐千子を見て足を止める。
『巨大猫に巨大竜と来て、今度は巨大粘体か。体内に飛び込むのも板についたものだな』
『そう? ま、何回もやればね』
『……今のは皮肉だ』
 そんな外の反応などつゆ知らず、佐千子はリタの皮肉を心の会話で聞きながら武器を構えた。過去の経験から内部破壊が効果的と知る佐千子は、『ストライク』を発動してフリーガーやガンセイバーをぶちこみ、スライムに大打撃を与えていく。
 あ、ちなみにスライムの中はひんやりしてて気持ちいいみたいです。
「綺麗になるのは大歓迎だけど、程々に、ねっと!!」
 鞭の射程にまで近づいたシエロは、スライムの中で暴れ回る佐千子に狙いを定め、勢いそのまま鞭で粘液を突き破る。
「っ!?」
 そして佐千子の胴体に鞭を巻き付かせ、スライムから強制離脱させた。
「ふー引っ張り出せた、大丈b……やだ、すべすべだわ」
 佐千子を引き寄せると、お肌の変化にシエロは驚愕する。なるほど、これは女性が群がるわけだと納得してしまう。
「ちょっと、シエロ。合図くらい出してよ、びっくりするじゃない」
 とはいえ、内部破壊が目的の佐千子にとっては、少々不意打ちだったようだが。
 そうした佐千子の特攻を皮切りに、人質という枷がなくなったエージェントたちは、スライムへ攻撃を一気に集中させ、徐々に質量を小さくしていく。
「これで、とどめよ!」
 最後は雨月の『ブルームフレア』がスライムを包み込み、一気に収縮していく。炎が消え去った後には、スライム本体は見事に焼き消えていた。

●アフターフォローは大事です
 敵を倒した後も、すぐに帰還というわけにはいかない。エージェントたちは被害者たちの応急救護や、スライムの攻撃で散らばった粘液を除去するため、各自散開して活動していた。
「再発防止は、常に事前から防ぐ事だ」
 それらの作業も一段落した後で正護が行ったのは、全員の荷物検査だった。あのスライムがどれくらいの大きさから成長したのか不明な以上、わずかにも流出させてはいけないと、特に女性陣の荷物を念入りに調べていく。
 すると、1人の荷物で待ったがかかった。
「構築の魔女……」
「研究用に、と思いまして」
 問題のブツを見つけた正護が、構築の魔女へ白い目を向けている。それはMM水筒で、中には容量いっぱいのスライム粘液が詰まっていた。実は被害者救出時、こっそり確保していたのだ。しかも2本。
 悪びれもせず『研究用』と言い張った構築の魔女だったが、もちろん没収。目の前で水筒ごと破壊されました。残念。
「おねーちゃん、大丈夫!?」
「アイリス? あー、心配ないわよ、うん」
『ライヴスをかなり吸われておいて、よく言う』
 鬼の正護チェックが行われる中、アイリスはスライムに飛び込んだ佐千子へ駆け寄った。佐千子は心配そうなアイリスに平気だと告げるも、リタからは呆れた声をもらってしまう。
 カグヤが考察したように、スライム内部は局所的で強力なドロップゾーンに近い。加えて、物理抵抗力の強い粘液の深部に着地していた佐千子の状況では、自力での脱出は困難だった。シエロの救助が遅れれば、かなり危険だっただろう。
 体内からの攻撃は、用法容量を守って正しく行ってくださいね。
「なんていうか、新しいベクトルで手強い敵だった……。ちょい疲れたわー」
 そして、攻撃に救助にと走り回ったシエロは、普段にない疲労感に包まれていた。あ、ライヴスは吸われてませんよ、念のため。
「……シエロは、スライムよかったの?」
「あー、ウチの場合肌のキメとかのレベルじゃないしねえ、気にしたところで変わらないよ。傷だらけだしー機械だしー」
「……」
 頭に乗っかったナトが首を傾げると、シエロはケラケラ笑う。ナトは「綺麗なのに」と感情を出すものの、シエロの笑い声に紛れていた。

 後日、病院の廃棄物から出たスライム粘液をH.O.P.E.が調査したところ、今回のスライムの美容効果は最大でも半年ほどしか続かず、被害者が目を覚ます時期も同じくらい先ということが判明した。結局、ライヴスは奪われ損になってしまっていたのだ。やはり、そうそう都合のいい話はないらしい。
 また、この事件に関わった女性たちに、愁治お手製コラーゲンやビタミン入りの美肌ゼリーが届く。従魔の力なんかに頼らず、美味しいもので綺麗になる方がいい、という愁治なりの気遣いの形だった。
「……む、美味だな」
「お返しを考えなくてはいけませんね」
 それは今回重傷を負ったティテオロスの元にも届き、病床でディエドラと共に食された。他の女性たちにも好評だったようだ。スライムの美容効果に惑わされ、その上隠されたショッキングな事実を知った女性たちも、このゼリーを健康的な生活の美を勝ち取るきっかけにしてくれることだろう。
「ご主人様、私の分がありません」
「あるわけねぇだろ」
 なお、男と駄メイドにゼリーの差し入れはない。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

  • 己が至高の美・
    ティテオロス・ツァッハルラートaa0105

参加者

  • 己が至高の美
    ティテオロス・ツァッハルラートaa0105
    人間|25才|女性|命中
  • 豊穣の巫女
    ディエドラ・マニューaa0105hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • エージェント
    天宮 愁治aa4355
    獣人|25才|男性|命中
  • エージェント
    ヘンリカ・アネリーゼaa4355hero001
    英雄|29才|女性|カオ
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