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楽園と目覚める少女
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【相談】魂の鼓動、命の旋律
最終発言2016/08/31 08:16:09 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/08/29 16:32:23 -
質問場所
最終発言2016/08/30 16:35:32
オープニング
● 囚われの少女
少女は少年に手を引かれ、外の世界を渡った。
「この世界はとても綺麗、私にもっと世界を見せて」
そう少女は少年の手を離し、浮かされるように景色の中へ歩みを進める。
自然と少女の口から歌がこぼれた。
「次はどこへ行きましょう、私、今ならどこへでも行ける気がするわ」
あなたとなら。
少女が微笑みを浮かべ振り返る。次いで少女の双眸に映ったのは、少年が力なく倒れ込む姿。
その時、少女は初めて死という概念を知った。彼女は生きていなかったから。
少女の周りに死という終わりの形は、存在しなかったから。
「アーシェ、なぜ、なぜ動いてくれないの」
「僕は消える、君とは違って僕は弱いから。でもそれでいい、君の歌は僕だけの喪のでなくていいんだ、歌ってerisu。君は僕らの希望なんだ」
そう彼は言葉を残すと瞼をおろし、それから少年は口を開くことはなくなった。
世界にたった一人、楽園では感じられなかった孤独を少女は初めて知る。
「歌う? 歌えばいいの? 私がそうすることであなたが喜ぶなら、私はずっと……」
その彼の最後の言葉を聞き届け、erisuは謳い続けた。
それは長い長い時の中、絶えず続けられた。
世界を祝福する歌が、世界を満たすその日まで。
それこそ、彼女の腕が、足が、喉が朽ち果てるまで。
ひび割れた陶器の手足から覗く糸を、弦のかわりにして。彼女に絡まる蔦や花々を揺らして、音は深みを増していく。
孤独を、悲しみを、理不尽に対する怒りを、少年との思い出を、感謝を、驚きと羨望と。そして死への恐怖と。
いろんな感情を織り込んで歌は深みを増していく。
やがて、数千年たったある日。彼女の前に一人の男が現れた。
「ありがとう」
erisuが人生で二人目に見た人間だった。
「あなたのおかげで我々は救われた。ありがとう」
男がそう言うと。
erisuはついに彼女は謳うことをやめた。
その時の彼女は天使のようだったという。
全身に蔦をからませて、花を身に纏って、伸ばした無数の糸が翼のように煌いて。光を受けて輝いていた。
歌は世界の病を癒し、ひび割れた理性を修復する。絆はまた一つに結ばれ。失われた者さえ蘇る。
それが歌の力。それが人の思いの力。
● そして異世界の騎士
「これが我々の世界の伝承だ。それから世界は再建し、世界を救う歌姫にはerisu。そして彼女を守る騎士にはアーシェの称号が与えられるようになったのだ」
その独白をロクトは病室で聞いていた。彼の低い声以外には心音を刻む、ピッという甲高い音しか聞こえない。
「だが、俺には彼女が何代目のerisuか分からないぞ。いずれにせよそれなりの力を秘めていることは……期待できるが」
そうアシャトロス(果てし残響、ぬくもりすら遠く 参照)は苦々しげな表情でロクトへと語りかける。
「私の代のerisuではなさそうだがな、少なくとも少女ではない」
「まぁ、召喚されて見た目が変わることはあるけど」
「まぁ、見て見ないことにはな、だが」
アシャトロスは両手を広げて見せる。彼の体は透けていて、向こうに窓が見える。
「その作戦まで私はもたない」
「話は聞いていた? 彼方」
ロクトはベットに横たわる少女に声をかける。
しかし彼女は言葉に反応しない、当然だろう。
彼女は死に瀕しているのだから。
「あなたの力が必要なの、今彼と契約できるのは貴女だけ、契約してくれないと、作戦にはとても間に合わない」
固く瞼を閉ざし、送り込まれる気体をただ吸い上げる少女。
その少女はよく病に耐えた。三度心臓が止まり、こん睡状態に陥っても何度もこの世界に帰ってきた。
そうするまでの意味が彼女にはあったのだ。
彼女は同じ癌患者のために、新技術のテスターになっていたのだ。
だから彼女が生きている時間だけ、彼女が新技術を運用している時間分だけ、同じ病に苦しむものの助けになれる。
その一心で彼女は死という安らぎを放棄していた。
しかし、もう限界らしい。
技術の副作用で造血機能に異常が出た。このままでは別の死因に殺されることになる。
「ごめんね、あなたには申し訳ないけど、あなたしかいないの。もう一度だけ私たちに力を貸してくれないかしら」
その心音がやがて、とまり。部屋を耳障りな高音が満たした。
「おい、ロクト! 医者を呼んだ方が」
「いえ、待って、彼女、何か言おうとしている」
彼女にとって生きるということは楽なことではなかったろう。
人とは違い、自分の命は短く、手に入れてもやがてすべてを手放す日が来る。
それが目の前にあると知った時の絶望は計り知れなかっただろう。
だがそれでも彼女は歯を食いしばって病院に戻ってきて、他者の希望となることを選んだのだ。
あの歌のために、あの歌のために。
いつか自分を救いだしてくれた人たちへ。胸を張って逢いに行けるように。そう願って。
「彼方……」
その時だ。
そうロクトが彼女の名前を呼んだ時。『平岸 彼方』(桜の木の下でまた会いたい 参照)の唇がかすかに動いた。
その言葉にアシャトロスは頷いて。
そして告げる。
「いいだろう、君の誓約『命を燃やす場所を探したい』その欲求、私が叶えよう」
次の瞬間眩い霊力の光が病室を満たした。
● 廃墟の奥の実験施設。
「ガデンツァの拠点と思わしきドロップゾーンがいくつかあったのは知っている?」
ブリーフィングルームに集められた君たちは、遙華の言葉に首を降った。
「今回ガデンツァの研究施設を突き止めることに成功したの。正直手招きされている気しかしないけど……」
「erisuとはガデンツァにとらえられた英雄ね」(広告塔の少女~ホラーとマリオネット~ 参照)
「今回はガデンツァ自身との遭遇もあり得るわ、でもこれを逃すと次にerisuを助け出せる日がくるかもわからない、お願い、行ってちょうだい」
「そして今回は春香とそして彼方も同行させるわ。春香はerisuと契約できれば戦力になるし、彼方も戦力として数えてもらって構わない」
「どうか無事で帰ってきて、私からは異常よ。あとは資料を見てちょうだい」
● 人物紹介
話の流れとしては『広告塔の少女~ホラーとマリオネット~』にて『erisu』の存在が観測され、彼女がわずかな資料から、前の世界で歌をつかさどる英雄であることが判明しました。
また、『広告塔の少女~魔晶の歌姫~』で登場した『三船 春香』と共鳴できる可能性もあり、保護対象になっていました。
その彼女を『果てし残響、ぬくもりすら遠く』に搭乗した『アシャトロス』の協力によってやっと救出できる、というのが現在の状況です。
ただし『桜の木の下でまた会いたい』で登場した『平岸 彼方』と契約しなければすぐにでも消えてしまう、という状態でした。
解説
目標 キーアイテムのどれか一つの回収
erisuの回収
● NPC
・平岸 彼方 ドレッドノート 攻撃適性
レベルは能力者55 英雄30 程度。
盾と剣での攻防バランス整った戦闘スタイル。
・三船 春香
erisuと契約するために同行した一般人。他にもルネ関連の情報を紐解くために彼女の存在は有用である。
●ガデンツァ
公開されてる情報は大規模作戦の時から変わらない。体力は完全に回復している模様。
●ルネ
試作型ルネが多く研究所内に存在する、稼働していないようだがガデンツァに見つかった場合差し向けられる可能性が高い。
ステータスが安定しておらず、どんなルネが出るかはみてのお楽しみ。
● 研究所内
稼働している研究所、表向きは廃墟にした見えないが地下はドロップゾーンと化しているが、従魔は見当たらない。ただしガデンツァが潜んでいることは確認済み。
B1。B2。B3の三階建て。
全体的にトラップ注意。
種類としては、侵入感知、自動迎撃、別の場所への転移など。物理、魔法両方の属性の罠が仕掛けられています。
B1 ロの字の廊下に部屋が無数に並ぶ。合計8つの研究施設がある。しかしどれも使われていないようで荒れ果てている。
施設の中には水の入った人間が入りそうなポットが置かれている部屋もある。
B2 T字になっており左端からやってきて右端に下に降りる階段がある構図。
音楽室、人体標本室。使われている実験設備。人間保管部屋。資料室がある。
B3 一本道である。大型実験施設、ガデンツァの執務室、ルネ保管庫がある。どの部屋もかなり広く百メートル四方の部屋である。
大型実験施設にerisuがおり、厳重にロックが駆けられている。
この鍵を開ける補法は三通り
1 物理的な破壊
2 罠解除系スキルの代用
3 ガデンツァから鍵を奪う
リプレイ
プロローグ
埃っぽい監視部屋、その中央にテレビが備え付けられている。
豪奢な作りの執務室、それに似つかわしくないブラウン管。
その頭にアンテナパーツを取り付けると、唐突に電源が入った。
その画面の上部分には番組タイトルが張り付けられている。
《季節の変わり目の特番、二時間のドキュメンタリー》
《アイドルリンカー密着取材、彼女たちが戦う理由とは》
そして司会者が『西大寺 遙華』にマイクを渡すと、遙華は一つ息を吸って語り始める。
CG技術だろうか、その遙華の語りに合わせて背景が変わった、少女たちのライブ映像、笑い声。そして最後に映し出されたのは水晶の歌姫。
彼女はテレビの前の全員に微笑みかけた。
「この番組の最後には、今も戦い続けているアイドルリンカーたちから、重大発表があるわ。楽しみにしていてちょうだい」
そして大きくテロップが大きく流れる『ルネシリーズ重大発表! アイドル生放送』ここでCM。
そんなテレビの電源を水晶の指先が引っこ抜いて消した。
第一章 命燃える場所
「久しぶり!」
そう快活な声がバスの中に響き渡る。
「元気だった? 彼方ちゃん!」
『蔵李・澄香(aa0010)』は彼方の隣の席に座って微笑みかけた。
「うん、久しぶり澄香ちゃん。私は元気だよ。でも車酔いが激しくてね」
――リンカーは車酔いにならないだろう。特に共鳴中は……
「アーシェさん?」
「そんな彼方ちゃんに、じゃん。酔い覚ましに一本どう?」
「ん?」
彼方はラベルをまじまじと見つめた。
「秘薬だね」
「うん、彼方ちゃん初めての任務じゃない? だから」
「いいよ、それは澄香ちゃんが使って、私は大丈夫だから」
そう押し返される秘薬、その瓶をぼんやりと見つめるも、負けじと澄香は彼方へ声をかけた。
「ねぇ命を燃やす場所なら、アイドルにならない?」
「アイドル?」
――澄香ちゃん……
『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』が澄香にだけ聞こえるように声をかけた。
その声に澄香は首を降る。
「今度みんなでライブするんだ、よかったら一緒に。そうだ曲を作ろう、いのりが手伝うよ」
そう手帳を開いて澄香は言った、スケジュールを教えて、そうボールペンをさしだして澄香は見た、一瞬彼方の瞳が潤んだのを。
「私も一緒に立っていいの?」
「うん、戦って命を燃やすくらいなら、歌って踊って、みんなの笑顔の中で燃やしたほうが絶対いいよ」
澄香は彼方の手を取って言った。
「一緒にステージの上からも探してみよう。約束!」
「うん、約束しよう、そうだよね、せっかく病気が治ったんだから」
「彼方ちゃん、新曲作ったんだ! これCD」
そう『煤原 燃衣(aa2271)』は振り返る、彼の座席は二人の真ん前で、隣の座席には『繰耶 一(aa2162)』が座っていた。
「ありがとう、燃衣お兄さん」
「春香ちゃんにもあげる」
そう燃衣は一越しに通路跨いだ反対側の席に座る春香へCDを手渡した。
「ありがとう、聞かせてもらうね」
そんなリンカーたちを乗せ、舗装されていない道をバスは行く。
見晴らしが良い道はそれだけに、いつ攻撃されるか分からないという恐怖を、全員に与えてくる。
「私からもあるんだ」
そう澄香は幻想蝶から一振りの刃を召喚。
刀身がひんやりと冷たいそれは、ルネと呼ばれた英雄にそっくりな色と質感をしていた。
「これ、看護師さんの」
「そっか、彼方ちゃんからしたら、それが『ルネ』なんだよね。これライヴスを込めると剣になるんだ。ガデンツァ相手になら一瞬隙を作れると思う」
「ありがとう、使わせてもらうね」
「生きて帰ろう。友達を失うのはもう嫌だ」
そんな二人の会話を『小詩 いのり(aa1420)』は離れた席で聞いていた。
そして隣には目の下にクマを作った『卸 蘿蔔(aa0405)』が座っている。
蘿蔔は徹夜にしびれた頭を押さえながら、ガデンツァの情報をまとめていた。
蘿蔔だけではない、各々、思い思いの方法でガデンツァに一矢報いろうと準備を進めてきた。
――そんなにフラフラでどうする?
『レオンハルト(aa0405hero001)』が問いかける、彼は共鳴中のため姿はない。
「大丈夫です、ミスはしません」
このバスは小型で英雄たちの席はない。いつガデンツァの攻撃があるか分からないので全員が共鳴中なのだ。
なので『セバス=チャン(aa1420hero001)』もいのりの中である。
「ボクの役目はみんなを守ること。誰ひとり、死なせないんだから」
そういのりは、澄香の空元気を聞きながら目を閉じた。
「レオ、私は……」
蘿蔔は口を開こうとしてやめた。
――うまく言葉にできないなら、行動で示せばいい。
「うん」
しかしレオンハルトは口にしなくても蘿蔔の考えそうなことなどわかっている。
彼方への思い、病室での思い。複雑すぎてどこから離してもこんがらがりそうで、全部伝えないと誤解されそうで。でも伝えきる自信が無くて。
だから今は何も言わなくていいと思ったのだ。
「元気……なわけがないじゃないですか。私知ってるんです。知らないわけがないです」
そうこうしている間に、研究所にたどり着いた、足元には広く広がる霊力の気配、ドロップゾーンが展開されていることが如実にわかる。
「行こうか……」
そうつぶやいた彼方へと一が歩み寄った。
――平岸様。あなたは、虚ろいだ強い魂をこの地に埋める心積もりはありますか?
『サイサール(aa2162hero001)』が言葉をかける。
彼方はきょとんと首をかしげた。
サイサールの言葉を一が継ぐ。
「例えそうだとしても、私は止めない。魂は……どれだけ長く生きているかではなく、その一瞬にどれほど輝き燃やすことが出来るかが重要だと思っているからね」
「繰耶さん?」
「だが皆に約束してやってくれ、輝きを放っても燃やし尽くさないと。きっと幻想蝶に閉じ込めてでも一緒に帰そうとするだろうしね」
「あの、ね……。命を燃やす場所を探す……それは絶対に否定しない」
「お兄ちゃんまで、どうしたの?」
「……でもね、どうか……ッ《命が消える場所》は……此処にしないで欲しいッ」
その瞬間、燃衣の巨体が揺らいで、次の瞬間には彼方を抱きしめていた。
――……お熱い事で。黒金のジゴロが伝染したか?
ネイが笑う。
「え、あ……ご、ごごごめんッ!」
あわてて離れる燃衣、見れば彼方の顔は真っ赤だった。
「う、うわあああああ、犯罪だ」
「べ。別にそんな、わたし嫌がってなんかないし」
彼方のフォローもまるで聞こえていない燃衣。四つん這いで地球に何やら語りかけている。
――……俺も否定はせん、似た事したからな……寿命などどうでも良かった……
そんな燃衣を放っておいて、ネイは告げる。
――……だが、何時だって…自分は生き残る為に戦った。
燃衣は立ち上がり、彼方を見る、まだ若干赤い顔をこすって前を向いた
――生きようとする心……それは。何よりも強い《いし》だ……生きて帰るぞッ!
「うん、わかった、そうだね。生きて帰ろう、みんなで笑いあえる明日のために」
* *
彼方は元気になった、そう言ってはいたが……
そんなわけがなかった。だって燃衣も。他の人間も。
知ってるはずだ。
彼女が病室で苦しんでたことを知っている、浮ついた声で両親の名を、友達の名を……口にしていたことを知っている。
燃衣は知っている、たまたま病院を訪れた日。
彼女の鳴き声が、死にたくないという思いが、扉越しに聞こえてきたこと。
その日燃衣はなんという言葉をかけていいか分からないと帰ったしまった。
だがそんな姿は誰か近くにいる時は一切見せなかった。
彼方は誰かが見ている前では涙することはなかった、笑顔を絶やすことはなかった。
『生きることは、戦うことです』
そうかけた燃衣の言葉。その言葉に帰ってきた笑顔。
はたしてあれが嘘でなかったと、誰が言えるのだろうか。
燃衣はわからない。皆にもわからない、彼女が何を思っているのか、きっと誰にもわからない。
第二章 潜入
バスが停車すると最後に『イリス・レイバルド(aa0124)』は降りた。当然
『アイリス(aa0124hero001)』と共鳴済みである。
「ガデンツァか……」
『黒金 蛍丸(aa2951)』は研究所を前にため息をついた。
「蛍丸君、ため息つかない。いい男が台無しだよ」
春香が声をかける。
「は、はひ、いいおとこ」
褒められるのに慣れていない蛍丸である。
――蛍丸様……
『詩乃(aa2951hero001)』がじとっとした声を向ける。
「もうちょっと待っててちょうだい」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』が画面から目を離さずそう言った。
――ずいぶんロックが厳重ね。
「もともと研究所だったんでしょ? むしろ弱い方だと思うわ。整備してないんでしょうね」
沙羅および『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)』は研究所の外壁にアクセスポイントを発見したため、そこから内部の確認を行っていた。
――普段は目立つお仕事してるけど……
「狡猾にコソコソ動くのも得意、だものね」
『アル(aa1730)』が軽快にキーボードをたたく、と言っても雅主導のもとであるが。
そんな二人によってあっという間に設備の内部情報が裸にされていく。
カメラの映像や。センサー等をジャック、停止まではさせられないが。その機能を利用して内部に人間がいないかチェックすることはできた。
――いけるわよぉ。
いつも通りのテンションで『榊原・沙耶(aa1188)』が告げる。
「隊長、打ち合わせ通り」
一が燃衣に声をかけた。燃衣はその言葉に頷いて。再度部隊の並びを確認する。
最先行するのはラジエルスミカ。その後ろを一と『月鏡 由利菜(aa0873)』で安全を確認しながら進む、アルは潜伏しトラップの索敵と解除。澄香も同様の役割で彼女を守るのはいのりだった。
蘿蔔は彼方のすぐ背後にいて全体を警戒している。
地下一階は結論から言うと手薄だった。あっさり研究所までたどりつくも残念ながら一つ目の部屋ははずれである。部屋は水浸しで機械類は錆びついていた、そのためPCを繋ぐこともできない。
「水があると危険ですね」
由利菜はそれにウレタンをふりかけていく。
そして一行は扉を開け隣の部屋に移った。
廊下に出る度に響く水音、その向こうからガラスの踵がコンクリートを叩く音が聞こえないかとひやひやするが幸いなことにまだ聞こえない。
「初めての反攻戦ね。失敗する訳にはいかないわ。とは言っても、アーシェから情報が流れている事にガデンツァが気付いていない訳ないし……」
――どうだろうな。
沙羅の言葉にアーシェは意を唱える。
――そもそも俺が死んだと思ってるはず……なんだ。
「内蔵ルネのせいで、ですか?」
由利菜が問いかけた。
――それもあるが、心が、記憶が。生きているとは仮定していない気がする。
あのアーシェ救出戦で、アーシェを殺す仕掛けは三つあった。心、記憶、そして本体の三つを殺す仕掛けが。
だがリンカーたちは全てを潜り抜けてアーシェ救出という未来を掴みとっていたのだ。
「うーんでも、警戒はして損無しよ。でも、本人と似たり寄ったりの陰気でカビ臭い場所ね。気分が滅入りそうだわ」
そう性懲りもなく沙羅はガデンツァを挑発して見せる。
「たらちゃんも大概、緊張感がないですよね」
蘿蔔が悪態をつくとほっぺたをつねられていた。
「ねぇ、ウレタンがあるならあれ探そうよ、水道管」
彼方が言うと廊下を見渡す、全員を誘導するとそこには一部分色の違う部分があった、よく見ると鉄扉で、苦労してあけるとその向こうには配管がいくつか通っている、整備用のスペースなのかもしれない。
「水が通っているようですね」
由利菜が言う。
――はたしてウレタンだけでどうにかなるかは謎だが、やれるだけやってみよう
そうリーヴスラシルの言葉に頷いて全員が吸水作業に勤しんだ。
第三章 探索の報酬
地下二階に繋がる廊下、その右隣の部屋は比較的整理されていた、今でもたまに使うのだろうか、埃などが一部払われており本棚もある。
「機材が生きてるわね」
意気揚々を沙羅が中に飛び込んだ。
「人体実験の場所とか……ではないといいのですけれどね」
蛍丸が言うと、わりと春香が本気で縮こまってしまう。
「こ、こわい……」
「春香さんは一般人ですから、そうですよね」
ごめんなさい、そう謝って蛍丸は春香の手を取った。
「安心してください、僕が守ります」
「…………そうやって、遙華も毒牙に」
「違いますよ!」
そんな仲良さ気な二人を無視して沙羅が研究所の機材とPCを繋ぐ。深くまでアクセスできないかと試みる。
「あら、案外いけそうね」
案外いい調子らしくどんどん表情が明るくなっていった。
「あら……電源が生きてる。まぁ当然ね。さてさて、ここからメインコンピューターまでたどり着ければ」
――私は逆に、電気消費や通信量からがガデンツァのいそうな場所をわりだすから、そっちはお願いね、沙羅さん。
「はいはい、まかせといて」
「あ、今表示しているのが、ガデンツァのいる可能性が高い部屋だよ。ただ、いる可能性が高いってことは電気と通信が沢山使われてる場所ってことだから重要拠点である可能性も……」
そう、アルが皆にノートPCのモニターを見せる。
重要拠点とは人体標本室、人間保管部屋、大型実験施設の三つ。ここだけ極端に電力と通信量が増えている。
そして明らかになる建物の内部構造。
「アルマレグナスみたいに研究所内部を自由にできるとか……ないですよね」
イリスが心配そうに言った。
――うーんそれはないと信じたいが。
「ん? 新型ルネ……これ!」
春香は研究資料を掲げて皆に見せた。
「あ、でも日付がかなりまえだ大規模作戦の時より前だよ」
そこにはホルンズルネ、ハープスルネ、ハートレスルネ。など設計図が詳細に書かれている。
「霊力を注ぎこむだけで、作成できるわけではなかったのですね」
由利菜が言う。
「ちなみに、こちらに日付が新しい資料がありました」
「でも全部に赤線が引かれてますね」
澄香が言った。
「ですが、内容自体は興味深いですよ。ルネという高度な自我プログラムをインストールするためにはこの世界の霊石技術では足りなかった、なのでいつも通りの方法を取ることにする、自我、魂の器は、神の作りたもうた器しかありえない……」
「ルネ、高度な?」
「みてよこれ。絵本。ルネさんが書いてあるよ」
読んでいる時間はない、結局使えそうな資料は全部持ち出そうという話になり、全ての資料をいのりの幻想蝶に入れた。
「そう言えば、前に遙華から水晶の」
いのりの言う水晶とは、ガデンツァが出現する時にたびたび現れ、ガデンツァの声を拡張するクリスタルのことだった。
「これ、全部同じ固有振動数を持ってるらしいよ」
固有振動数とは、物体一つ一つが必ず持っている振動数で、どんなHZで震わされても、ほっとけばその物体固有の振動数で落ち着くというものだ。
その固有振動数が同じ物体が二つ近くにあると、片方が震えただけでもう片方も震え。その震えはお互いに増幅し合う。
「後は大量の霊力が継ぎ足されてるらしいけど、もともとはカルシウムとか亜鉛とかごくありふれた物質らしいよ」
「こうやっていろんなことが明らかになっていくのは面白いんですがっ」
そう蘿蔔は携行品の中の冷却タオルで水たまりを叩くとひんやり凍りついた。常温で溶けてしまわないか心配だったがしばらくは大丈夫だろうと、別の水源も凍らせていく。
「ちょっと考えが追い付かないです」
すっきりしたような表情を見せる蘿蔔。
「さて、めぼしいものはもうないし。下に行きましょう」
そうノートパソコンを閉じると、沙羅が先を促した。
この階の探索は妨害も無く終了し、後は階段を下りるのみだが。
階段周りというものはとても怪しい、現にミニスミカを発射してみると、横から発射された矢でズタズタにされた。
「むしろこの先はトラップまみれかもしれない」
ダメージ系のトラップは一度作動すると解除されるのか、階段周りの扉はなくなっていたが。その下の階。T字路手前は厳重にトラップが仕掛けられている。
「あー、そう来ましたか」
持ち前の鷹の目で通路を確認すると、触れると作動するスイッチや、モーションセンサー、音感知。複数のトラップで固められていた。
「ごめん、監視装置の解除はできてもトラップは自立稼働になってるみたい」
沙羅が継げる。
「解除するしかないね……」
アルがため息をついた。
澄香は両手に霊力の塊を生成、そこからトラップにアクセス、額に汗を浮かべながら慎重に解いていく。
対してアルはドライバーや絶縁紙、カッターなどで、トラップを起動させる器械と本体を切離す作業に取り掛かる。
「警報系だけ切ってくれればいいわよ」
「なんで?」
アルが沙羅の言葉に聞き返す。するとその時。
コツリ。コツリと足音が聞こえた。
まるでガラスを転がしているような音。間違いない、ガデンツァの足音である。
「わー、ちょっと解除してる暇ないかも」
正確に言うとトラップが多すぎるのだ。物理、魔法合わせてあと三つはある。
「私が飛び込んだら走って」
「え! タラちゃん、何を」
次の瞬間、沙羅が勢いよくトラップの中心に躍り出た。
そして射出される毒針や、槍と言った攻撃トラップ。
『さらああああああ』と誰もが声にならない叫びをあげた。
「みなさん、音楽室に走って」
蛍丸が先導し春香の手を引く。全員がそれに習って走った。
串刺しになっても奇跡的に生きている沙羅を引っ張って一行は音楽室へ駆けこんだ。
鍵を閉めて息をひそめる。
「こっちに、来ないで……」
そう願う春香。
そしていつでも飛びかかれるように由利菜と燃衣が武器を構える。
「討って出ましょう」
「だめですよ」
そう彼方の手を抑える由利菜。
――まだ探索してない場所が多い、ここで出て行ってはあまりうまくない……
リーヴスラシルが継げた。
「でも……」
足音が一際強く響く。交差点まで来たのだ。そして立ち止まっているのか足音は聞こえない。
早く、早く行ってくれ。そう、全員が声を潜める。
やがて、硬いものがこすれるようなコォーーという音が長く響いた後。足音は地下一階の階段方面へと向かい、徐々に徐々に小さくなっていった。
「知っていますか。音楽室って防音効果だけではなく、吸音材による音の吸収の効果もあるのですよ。」
蛍丸は告げた。
――蛍丸様? さっきから何を考えていらっしゃるのですか?
詩乃は首をかしげた。
「今、あの人、人体標本室から出てきませんでした?」
イリスが言う。咆哮的には間違っていない。
「いま、まさに何らかの作業をしていた?」
全員は頷く、行ってみようと。
「蛍丸君、移動するよ」
「あ、はい」
そう蛍丸は考え込むしぐさをして、そののち、一冊の楽譜を手に取った。
それだけが真新しく手書きで音符が書き込まれている。
それを蛍丸はそっと幻想蝶に忍ばせた。
「ねぇ、何でerisuのところに真っ先に行かないの」
彼方が問いかける。
――愚神の改造や人体への寄生等今までのやり方から世界の垣根を越えた高度な医療技術を持っている可能性……
アイリスが答えた。
――その研究資料の中に彼方さんの治療を可能とするレベルのものがある可能性は捨てきれないだろう?
そして人体標本室。そこは標本室と言われるだけあって。
多数の人間の死体がぶら下がっていた。
「温度が低いわね」
ひどい。少女たちは嗚咽を漏らす。
――死んだ直後に冷蔵されたと考えると、全部死亡時期はまちまちねぇ。
沙耶が言う。死体の分野にも沙耶は詳しいのだ。
――どういうことだ?
リーヴスラシルが問いかけた。
「本当に標本なのよぉ、たぶん。ガデンツァが解体して、貴重だからという理由でここにうつされた。そして根こそぎ脳が抜き取られているわぁ」
「彼方さん、これ、万能薬の研究だって」
蛍丸がフラスコを一つ彼方に見せた。机の上には……確かに万能薬についてと書かれこのフラスコの絵が描かれている。
だが……それは嘘で、トラップだ。
アーシェは気づいてしまった。いや、アーシェにしか気付けなかったろう。
――いや、これはルネだ。
彼方はそれを地面に落して見せる。中に入ってた水色の液体、通常であればあたりに発散するはずだが、フラスコから放たれた液体は、胎児をかたどって小さく鳴き、そして絶命した。
「あの体内のルネ? これ全部?」
蛍丸は息をのんだ、フラスコは棚にずらりと並べられている、それこそ百を超えるくらいに。
「万能薬という触れ込みで飲ませてるんだろうね」
いのりが言った。見れば放送される途中のフラスコがある。誰かに送られる途中だったのだろうか。
「ってことは、世界中に被害者が?」
「もしかすると、ここに集められているのかも」
澄香が言う。
「世界中から人を集めることが可能だとすれば、それは自力で歩いてきてもらうこと?」
「何のために?」
「標本集め?」
蛍丸は斜め読みだが、万能薬と書かれた書類、そのページをめくっていく。
「器。神が作りたもうた……」
「ルネの自我。インストール」
「人に寄生するルネ……」
「人に化けるのが得意なルネ」
「人に化けた時は質感も思考回路も人間そのものに近づくわよね。不思議だと前から思ってたのよぉ」
全員が思い思いの想像に囚われていく、今まで霊力という存在によってあやふやになっていた、ガデンツァ、ルネ、人との関係性。
それが一つの先で結ばれてしまいそうで怖かった。
そんな一行に追い打ちをかけるように沙耶が言う。
「もし、ルネが水を媒介に無尽蔵に作れる兵隊なら、大規模作戦の時なぜガデンツァは物量作戦を仕掛けなかったのかしら」
沙羅は沙耶の言葉を聞きながら資料を片っ端から幻想蝶に突っ込んでいく。
「そしてルネを作成するのに条件が必要なら、その条件っていったいどんな」
その時だ、全員が口を閉じた。音が聞こえた、そして声も。
「憶測は憶測を呼び……」
この場にいるリンカーではない誰かの声。それが廊下の向こうから響いてくる。
嫌にはっきり聞こえてくる。
「やがてそれは妄想に昇華する」
次いで全員の耳に響いたのは硬質な足音。あわてて蘿蔔は扉を開く。
「もしかしたらこうかもしれぬ、もしかしたらああかもしれぬ。じゃがそれは無知ゆえの恐怖じゃ」
誰もが見た、その姿。廊下の向こうから暗闇を纏って現れたのは、水晶の歌姫ガデンツァ。
「しかし、もう恐怖に震えることはない、無知に怯えることはないのじゃ。死と調和させてやろう」
「「「ガデンツァ!」」」
暁組が嬉々として叫ぶ。
「ばれてたの?」
沙羅が問いかける。
「お主ら、あんなに盛大に血を塗りたくっておいてばれんとおもったのかの?」
彼方が殺気立つ、それを感じ取って燃衣が言った。
「三階まで走って!」
「こっち!」
いのりが彼方の手を引いて澄香とアルが先行して走る。
「アルちゃん、トラップはどう?」
「モーションセンサーで隔壁が閉まるタイプみたい。まずいよ、ここで退路を断たれると」
――袋小路。
アルは壁に刃突き立てて破壊し、配線を漁る。
「彼方ちゃん!」
そう燃衣に名前を呼ばれて振り返る彼方。
「あとで追いつくから、後で……返してね!」
そう燃衣がペンダントを投げる、それを彼方はキャッチ、それは水色の水晶。音響く護石だった。
「行ってください!!」
蛍丸の声にアルが頷いた、解除している暇はない。ならばこれを利用するしかない。
「みんな、一斉に滑り込んで」
次の瞬間、三階へ進む道は閉ざされた。
「隔壁を利用されたか……」
アルは潜伏の効果によりガデンツァから見えなかった、そのためガデンツァは対応できなかったのだ。
「まぁ、よいお主らを殺しゆっくりと料理してやろう。何せこの地下から抜けることは困難じゃからな」
「これは、考えうる最高のパターンじゃないですか?」
「ああ、そうだな隊長、一~二階は調べつくしてerisuはいない、だとすれば三階にいるはずだ」
一はそう答え幻想蝶から武装を召喚する。
「そしてガデンツァは二階。後ろには分厚い隔壁」
燃衣は確認する。こちら側に残った人間を。
一に蛍丸。そして由利菜、イリス。誰もが背を預けられる強者ばかりだ。
「どこからこの場所の情報を知ったかは知らんが、侵入者がお主らだったとはのう、引導を渡してやろうぞ、死と調和するがよい」
第四章 接敵
ガデンツァは暗闇に響く声で告げた。
「こい、ルネよ」
…………。しかし。
待てど暮らせど、何も起きない。ガデンツァは顔をしかめた
「警戒用にルネを設置しておいたはずじゃが」
水たまりなどに偽装してだ。
「それは、ウレタンで全部固めました」
由利菜が言った。少なくとも地下一階、二階の水源は全て乾かしてきたはずだ。
「さらに言うとこの施設全体には水が……」
――水道管にもウレタンを流し込んでおいた……
リーヴスラシルが継げる。
一瞬ガデンツァは言葉の意味を理解できないような無表情をしていたが、一つ笑いを返すと、心が凍りつきそうな冷たいスマイルで告げた。
「…………殺す!」
甲高い音が響くと共に全員の足元から水の柱が沸き立ち。それが鈍器のうにエージェントたちを叩く。
「隊長!」
「僕が援護します、だから安心して突っ込んでください」
「最接近して奴を倒します」
「「了解」」
一が銃を構え、蛍丸が突貫する。その先陣を切るのは燃衣であり、速度にまかせて壁を走る。
だが、なかなかに距離がある、すぐにはたどり着けない。
「私達もいこう、お姉ちゃん」
イリスが言った。
――今回は、私にやらせてはくれないか、イリス。
「お姉ちゃん? …………わかったよ」
しばしの逡巡の後、イリスは頷いた。
そして翼はためかせ前へ。
次の瞬間、まるで霊力の本流に突っ込んだかのように黄金のオーラが輝きを増した。金色の光はイリスを包んで、それが輝盾の天使を妖精へと姿を変える。
舞い散る花びら、漂う華やかな甘い香り、表情は凛々しく、指先は音を奏でる。
輝きを纏った花盾の精霊がそこにいた。
「よくも、イリスの体を好き勝手してくれたね」
イリスと違い、アイリスは盾一枚のみの装備である。
「煤原さん!」
そう蛍丸が燃衣にリジェネレートを付与。継続戦闘力を高める。
「無駄なことじゃ、受けるがいい、腐食の風を」
「させるか!」
一はその時を待っていた、前面に突き出されたガデンツァの腕をファストショットで狙う。
高速の弾丸はガデンツァが反応する間もなくその水晶の腕に突き刺ささった。
「く!」
コントロールを失った風はあらぬ方向に吹き抜ける、通路の壁をびりびりと鳴らし暴風は霧散した。
「どうしました? さっきまでの威勢は!」
――無様だな!!
次いで叩き込まれる嵐のような拳、それをガデンツァはかろうじて捌く。
彼女は接近戦が得意ではない。次の攻撃は捌けるか分からない。
「攻めは迅速ですが……回避は相変わらずなっていませんね」
左方からの襲撃、燃衣の陰に隠れるように由利菜が接敵、槍がガデンツァの肌に傷を作る。
「ぐぁ」
ガデンツァはそんな由利菜に手を伸ばすが、霊力の壁によって阻まれた。
「煤原さん、次のタイミングで」
そう蛍丸は再度。燃衣の背に手を当てる霊力によるドーピングである。
「く、わらわらと……」
その隙に後ろに下がろうとするガデンツァ、だが、そううまくはいかなかった、燃衣と由利菜がこじ開けた小さな隙間、そこに小さな体をねじ込んでアイリスは背後を取っていたのだ。
「どこにいこうというのかな?」
その手には盾が一枚握られるのみ、だがなぜだろう、イリスを目の前にするよりも明らかなプレッシャーが感じられた。
そしてアイリスは舞うように三回転、ガデンツァの膝、胴、顔面を殴り飛ばし燃衣の方向へはじいた。
「待ってました」
「いくよ、隊長」
燃衣と一が構えるのはフリーガーである。それを全弾。ガデンツァに叩き込んだ。
「これで!」
燃衣は肉薄しようとした、煙幕で視界が効かない今こそ奴の頭を吹き飛ばすチャンス、そう思った。だが。
「なるべく施設は破壊、しとうなかったが」
ガデンツァはやすやすと燃衣の腕をつかみあげた。
「ちと、お灸をな。すえてやる必要が、あるようじゃな」
そのガデンツァの顔はズタズタにひび割れている。
確かにきいているのだ、手ごたえはある。
「その手を離してください!」
由利菜が槍を叩きつける、するとガデンツァの腕は千切れ、勢い余って後方に吹き飛んだ。
その時である、ガデンツァのひび割れた顔がもとに戻った。そして。
「この距離で聞いたことはないじゃろう? ああ、よいよい、席代はいらぬ、とくと聞いて行け」
《ドローエン・ブルーム》
コンクリート壁が砕け。リンカーの脳を嵐のような雑音が満たした。
第五章 楽園の扉
下に降りる階段は二つ折りの階段で、一本道の廊下に出てみると上から激しい戦闘音が聞こえた。
「そこまで分厚くないみたいだね」
澄香は天井を見上げる。その脇をすり抜けて彼方が一歩前に歩みを勧めた。
廊下の真ん中に佇むそれに見覚えがあって。思わず歩み寄ってしまったのだ。
「ルネ……なの?」
見れば、ガデンツァをそのまま幼くしたような見た目の、水晶の少女がそこに佇んでいた。
ガデンツァとは違い豪奢な服を身に纏っている。ゴシック調のそれは彼女によく似合っていた。
「違います……」
蘿蔔が言った。
「それがあの人の手口なんです。あれは貴女の知るルネさんではないです」
蘿蔔は銃を構えた、同時に沙羅は一歩下がりグリムリーパーを構える。
「みなさん、お越しいただいてありがとうございます」
その口から洩れたのは感情の感じられない平坦な声。だが間違いなくルネの声。
「申しおくれました、私『ルネ・クイーン』と申します。主様がリンカーをぶち殺す目的で打たれた三種の手の一手です」
すかさずいのりが前に出た、そして澄香はラジエルを構える。
いのりの手には極獄宝典、その精神干渉を押さえつけ。二人は魔術を放つ。
爆炎が視界をふさぐ。しかし。
「気を付けてください」
蘿蔔が煙の向こうにそのシルエットを捉えた。
「あー。せっかくの一張羅が台無しです」
焼け落ちる衣服、華奢なその体が露わになる。
そしてルネが動いた直後、蘿蔔は九陽神弓で矢を放つ。
それは甲高い音を上げ空気を切り裂き、ルネの肩に突き刺さった。ビシッと鋭い音が響くも、自由な反対側の腕を伸ばしてリンカーたちに向ける。
「まずい!」
「春香さん、こっちに!」
澄香はいのりが、春香は蘿蔔が盾になって後ろに下がらせる。
次の瞬間吹き荒れる風、そして歪な音階。それに吹き飛ばされてリンカーたちは壁に叩きつけられた。
「突破は難しいかも!」
「だったら!」
そう沙羅は壁にグリムリーパーを壁に突き立てた。
「こっちよ、ぼやっとしないで」
そして壁を粉砕すると中へ、そこはガデンツァの執務室のようだった。大きな木の机、ソファーに用途不明の機材。
「漁ってる暇はないわよ! 地図上では隣の部屋がerisuの……」
そう沙羅がもう一枚、壁を破壊、隣の部屋へ進もうと沙羅は春香を先に進ませた。
だがその時、同じようにルネも壁を破壊して執務室に乱入してきた。隊がさらに分断された。
「魔法攻撃が、ほとんど訊いてなかったね……」
いのりが言う。
「私は主様のスケールダウンとなっております故」
「アルちゃん! 魔法じゃだめだ」
潜伏していたアルはその発言で武装を変更。
蛇腹剣で絡め捕り動きを封じにかかる。
だが、アルの足元から沸いた水の柱にアルの手から武器は弾かれ、拘束は解除されてしまう。
「こうなったら、サンダーランスで」
「有効打ではないでしょうね、焦ってませんか?」
澄香にそう告げるルネ。
だが、澄香に意識を取られるルネ、その背後から彼方が駆け寄った。
「行ってみんな」
彼方はストレートブロウで敵を弾き飛ばす。
ルネは壁に叩きつけられ、彼方はそれを真正面から見据える。
「行って! お願い」
沙羅は春香の手を取った、アルが先行し蘿蔔は周囲を警戒する。
「そこと……そこと、そこ!」
蘿蔔は目についたトラップの起動装置を片っ端から打ち抜いていく。それらは火花を散らして機能を失った。
そこで二人はその部屋の異常性に気が付くことになる。
壁を走る膨大なライン。それは部屋の中央のフラスコに繋がっていた。
中には少女が力なく座り込んでいる。
白色で、儚げで、透き通って見えるその少女。
彼女はerisu、ガデンツァによって囚われた歌の女神だ。
「私はerisu。あなたは誰?」
そしてerisu部屋のうちにある気配を感じ取って視線を上げた。
次の瞬間、四人の目の前に投影されるerisu。彼女の能力だろうか。
「助けてくれるの?」
「まっててよ、すぐに解除しちゃうから」
そうアルはコンソールと向かい合う。
そんなアルを尻目に周辺を警戒していた沙羅は気が付いた。
「これがメインコンピューターね」
沙羅はにやりと笑いUSBを取り出した。
第六章 疑問
そんなerisu解放作業中の一向に、近づけさせまいと、彼方、いのり、澄香は善戦していた。
いのりが盾となり、攻撃を防ぎ、澄香が牽制し、彼方が一撃を加える。
それでしばしの間の時間は稼げると思っていたが、甘かった。
その直後、頭上で轟音そして天井が吹き飛んだ。
「まさか……」
突如振ってきたのはガデンツァである、その右手で由利菜の首を掴み、燃衣はガデンツァの左手で手を引かれている。
「ガデンツァ!!」
彼方が突貫、クリスタロスを叩きつけようとするが、地面から沸き立つ水ではじかれ地面に転がる。
「これは、あ奴を模しているのかの? 不愉快じゃ。破壊してやろうかの」
「隊長!」
やがて一と蛍丸が下りてきた、アイリスも羽で滑空しながら彼方の前へ着地する。
そして蛍丸はルネをみて息をのんだ。
「主様、遅かったですね」
「いや、なかなかにてこずったのじゃ」
そうガデンツァは右腕に力を込める。
――私やユリナを貴様の思い通りにできると思うな!
身動きが取れなくともリンクレートを高めることはできる、リーヴスラシルと由利菜の必死の抵抗していた。
「なに、まだ邪英化はせぬよ、まだ……じゃが」
状況はあまりよろしくない。
ガデンツァはそもそも、ここにいる全員が束になっても勝てない相手だ。その上実力未知数のルネまで配置されている。
ただ、蛍丸が見た限り春香がいない、他に何人か別のメンバーも。
契約という目的さえ果たしてしまえばあとは逃げるだけなのだ。
だから必要なのは、何より時間。
蛍丸が口を開いた、彼を見つめるガデンツァ。
「ずっと聞きたいことがあったんです、でも聞きそびれてしまって」
「よい、冥途の土産に教えてやろう、きくがよい」
「貴女は過去に存在していた英雄ルネだったんじゃないんですか?」
「違う、断じてあやつと同じ存在ではない……」
あからさまに気分を害した。そうガデンツァは眉をひそめる。
――問わせてもらう。貴様にとっての”楽園”とは何だ?人形たちに囲まれて、孤独に高みで人類を嘲笑う事か。
問いかけるサイサール。
「楽園? ああ、それはerisuを作り上げたその世界の神の戯言じゃ。我には関係はない、あのように悪趣味な存在、わらわとは何ら関係がないのじゃ」
「ああ、そうでしょう、あなたは何者でもない」
ガデンツァの手を抑えて、燃衣が告げる。
「この前も言っておったな」
「あなたはルネじゃないし、誰でもない」
「ほう、であれば誰だというのじゃ?」
「……貴方が正面から来たら、だからまだ答えない」
「ゴミが」
ガデンツァは左手を大きくふる、宙を舞う燃衣、それを地面に叩きつけた。
「あぐ……」
――ヒントは出す。……もし。お前が心底、成し遂げたいと思う事があった時……。お前は自分が偽者かどうか……問題にするか?
「成し遂げたいこと、まぁ、そうじゃな問題ではないじゃろうなぁ」
――貴様は人類に絶望したのか。本当は希望を見出したいのではないのか?
サイサールが告げる。
「なに?」
あまりに意外な問いかけにガデンツァは思わず笑ってしまった。
「なんでそこまで邪英化にこだわるんですか? erisuさんにも試すつもりだったんですか?」
蛍丸が言う。
――ガデンツァ、私は貴様をもっと知りたい。貴様の死生観を、価値観を!
「はぁ?」
ガデンツァは歪んだ顔で一を睨む、次の瞬間ガデンツァは二人を投げ捨て、一に歩み寄った。
「では、こちら側へ来るかの? 我を知りたくば軍門に下るのが……手っ取り早いと思うがの?」
このままではまずい、そうイリスが動こうとすると、ルネが両腕を変化させてリングのように二人を囲ってしまった。
「やはりリンカーとセットでなくては十分なデータはとれそうにないしのう……じゃから。お主がほしい」
そう伸ばされる腕。
(ここで退場みたいだ。すまない、隊長……)
「放送は見てくれましたか?」
突如響いたのは澄香の声。その声は場違いなほどに落ち着いていた。
次の瞬間テレビがつく。いのりが電源を入れたのだ。チャンネルはまだアイドル特番に合っていて。テレビの向こうでは遙華がコメントしている。
「言っておきたいことがあります」
次いで画像が切り替わり、他のアイドルメンバーや、遙華が歌と踊りを披露していた。
そして重大発表とテロップが流れ画面が切り替わる。春香の顔がドアップで映し出された。
『私は怯えていました、けどまだ彼女の思いを絶やすまいと戦ってくれている人がいるって知って』
その声の合間に澄香は自分の言葉を続ける。
「貴女は敵です。でも。ルネさんとの縁だけは感謝しています」
『私たちは負けない、何度、あなたが人の尊厳を貶めようと私たちは絶対に』
「それだけは言っておきたかった」
「感謝、感謝じゃと!! 正気か? 虫唾が走る。わらわの楽譜にはいらぬ感情よ」
ガデンツァは口を開くと大気が揺れ、テレビが粉砕された。
「あああああ、お主らは本当に耳障りじゃ。人間など、本来何も感じる必要はない、この振動を存分に味わうだけで、ガラスのように脆いお主らの心は張り裂ける。ただただわらわの歌を受け入れよ」
「そんなの歌じゃない」
いのりは言った。
「あなたのそれは歌じゃない!」
「ああああああああああ、なぜなぜこのタイミングでお主らが。殺す、殺せぬ。じゃがせっかく来たのじゃ、心に一つでも傷をつくって帰って行くがよい、一の死をもってのう」
そう右手が突きだされようとした瞬間である
直後、無数に飛来する刃がガデンツァを襲った。
「なに?」
それは威力に乏しく目くらまし程度にしかならなかったが、由利菜とイリスが共にライブスリッパーでルネの意識を奪う時間を作ることはできた。
――ラララ。歌は希望。
「何が起こったのじゃ」
混乱するガデンツァ、彼女が目を見開くとそこには。
そこには髪を白く染めた春香が立っていた。
第七章 脱出
「時間稼ぎありがとう、いや、解除方法がマザーPCの中にあってよかったわ」
そう沙羅が言うとPCを幻想蝶の中へとしまった。
――失敗していたら私、爆発霧散してたね……
erisuが悲しそうにつぶやいた。
「うまく言ったからいいじゃない」
沙羅はそう言いつつ、傷ついた燃衣を回復していく。
「さぁらぁー」
普段のガデンツァから想像がつかないような低い声で彼女は告げた。
「お主の悲鳴が聞きたくて仕方がなかったぞ」
いのりと澄香が前に立つ。
「邪魔じゃ」
――erisuと春香の契約も貴女の思惑通りではないですか? なら、逃がして下さいな。
クラリスが言う。
「思惑通り? いやいや我とてすべてが見えているわけではない。これは……わらわの楽譜、その小さな傷が亀裂となって顕現した瞬間じゃ」
音で震わせた拳をいのりに叩きつけるガデンツァ。
それを受けても一歩も引かないいのり。
「澄香!」
「サンダーラーンス!」
直後眩い閃光がルネとガデンツァを襲う。
「この程度の魔力では」
確かにダメージは与えられないだろう、だがこれまでの作戦からガデンツァは五感を視覚と聴覚に頼り切っていることがわかっている。
すこしもったいないが、サンダーランスは二つの感覚両方をいっぺんに潰せる数少ない方法なのだ。
「どこにいようと音でわかるぞ!」
「それも想定済みなんだよね」
全力疾走するリンカーたち、そんな澄香の小脇に彼方は担がれていた。
「ちょっと、澄香ちゃん」
「あのまま残るつもりだったでしょ」
澄香は言った。見えていたから、全員が撤退するために上を向いたときに、彼方はガデンツァを見ていた。
「下ろして!」
「きみが命をかける場所は、今この時じゃないよね」
アルが言った。
「ほら、目的を思い出して?」
次いで蛍丸が言った。
「彼方さんの事情は知っています。ですが、僕は彼方さんの辛さを分かるとは言えません。だから……戦うことには反対しません」
「…………」
「彼方さん、貴女には生きて欲しいんです。僕との約束覚えてますか?」
彼方の耳に言葉が蘇る。
《いつか、彼方さんの本当の笑顔見せてくださいね……》
「笑うこと?」
「そうです」
「だったら、ごめん、澄香ちゃん。下ろして」
「なんで! だって彼方ちゃん」
「おろしてよ!」
澄香は思わず立ち止まった。
「知ってるでしょ? 私もう、死んでるようなものなんだよ。共鳴を解いたら心臓が止まるの、この心臓はもう動き出すことはないんだよ」
「彼方さん……」
「私がここに来たのはerisuさんを助けるため、拠点から情報を持ち帰るため。それもある、けど、私はみんなと最後に戦ってみたかった」
憧れたみんなと一緒に、そんな思いが彼方をここに導いた。
「みんなの仲間として死にたかった」
――ああ、そうか、なら私は……
君の意見を尊重する、そう告げようとしたリーヴスラシル。その言葉を由利菜は遮った。
「生きることを諦めないでください! リンカーの奇跡に賭けてみてもいいではないですか!」
「奇跡はもう、起きたよ。だからもう起きなくていい。私は!」
「だめだよ、帰ろう」
いのりが告げる。
「人間はいつか死んじゃうものだけど、みんなに看取られて穏やかに逝って欲しい。だめかな」
それは願いだ、彼方へのお願い。
「キミの最期は今じゃないよ。命を諦めないで!」
「行きましょう、かなちゃん」
蘿蔔が手を差し伸べる、あの時と同じ、あの閉じた世界から抜け出す時、蘿蔔が手を引いてくれた。
「うん、しろちゃん」
次の瞬間、皆を祝福するかのように施設内から音が鳴った。
それは讃美歌のように神々しく、その音のおかげで、壁や天井を破壊してもばれない。
一行は正規ルートから大きく外れた脱出ルートをたどった。
第八章 光の中へ
一行は荒れ果てた荒野を駆けていた。救援のバスやヘリを施設近くで呼ぶわけにはいかない、そうした配慮だったが。
道中の丘を登りきったところで彼方は足を止めた。
雲の切れ間から光がふり、彼女の顔を照らす。その肌は青白くまるで作り物のように見えた。
「ねぇ。みんな。訊いて、私みんなに渡したいものがあるんだ」
「え?」
蛍丸はか細くつぶやいた、そしてあわてて彼方に駆け寄る。
彼女は幻想蝶から何かを取り出して、そして。その体が傾いた。
風に舞う紙切れ。
蛍丸はそれを抱き留める。その肌は驚くほどに冷たかった。
鼓動も聞こえない、まるで死人だ。
「みんなに渡したいものがあるんだ、ほら私ってあんまり外に出ないからプレゼント買うこともできなくて、これくらいしかなくて、トランプ……」
そう彼方はハートのエースを蛍丸に差し出した。
そして力なく、彼方は笑った。
「一度視線を外に向ければ、そこには、沢山の光がひろがっていた」
「みんなが私を助けてくれたように誰かを助けたかった、手を差し伸べてくれたように誰かに手を差し伸べたかった」
「みんながくれたんだよ? だから私も誰かに返したいと思えた」
「ほら、クラリスさんが治療費とかなんとかしてくれたでしょ? 研究に協力したお金は孤児院とかさ、難病と闘う人のために寄付したりしてさ」
「悲しい気持ちはあるよ」
「でも、ありがとう。私みんなのおかげで救われた、救われてた」
「しろちゃん。ありがとう」
蘿蔔は彼方に歩みよる、その目にはもう蘿蔔の姿は映っていなかった。
「かなちゃん……」
その時、蘿蔔は後悔した、こうしてまたあえて元気な彼女にあえて、なぜ真っ先に話をしなかったのだろうか。言葉をかけなかったのだろうか。
不器用な自分が本当に、本当に恨めしくて。かける言葉の一つもない自分が悔しかった。
「大丈夫、わかってるよ、ずっと私を守ってくれてたよね。知ってるよ、私のこと気にかけてくれてたの知ってるから」
蘿蔔が常に彼方の周りを警戒していたこと、近寄りはしなかったが、離れずずっといてくれたこと。
言葉を駆けようとして、口をつぐんでしまっていたこと、それが何度もあったこと。
彼方は知ってる。何せ一か月も生活を共にしたのだ。それくらいわかる。
「いい、人生だったなぁ、ありがとう。本当にありがとう」
彼女の体から紐のように霊力が立ち上り共鳴が解けた。
後に残ったのは契約破棄されたアーシェと。そして彼方の思いを乗せたトランプだけだった。
エピローグ
ガデンツァは調べられることのなかったルネ保管庫の扉を開ける。
「ここは手つかずであったか、よかったよかった」
リンカーたちが暴れまわってくれたおかげで、ほとんどの設備が破壊されてしまった。PC類に至ってはウイルスのせいで何がどうなっているのかもわからない。
だが、彼女にととって一番重要なのはこの施設であり、最低限だけでも守れたことに安堵した。
ガデンツァが前に立つと扉が自動的に開く、
そこにはずらりとポッドが並べられておりその中には人間がずらっとおさめられていた。
「全て霊力に変換するのじゃ」
「よいのですか? 計画遂行のためにはルネの数が三割ほど少ない気がするのですが」
ルネが尋ねる、彼女は焼け落ちた衣服のかわりにチャイナドレスを身に纏っていた。
「よい、それよりも我の力を取り戻す方が先じゃ」
ガデンツァは霊力の枯渇にあえぐ。大規模作戦の時からあまり回復していなかったのだ。
それは何も人間たちを侮っていたわけではなく、新型のルネを作成するために心血を注いでいたせいである。
だが、それももうどうでもいい。
煮え湯を飲まされた今、ガデンツァの頭を支配しているのは報復の二文字だ。
「血も肉も霊力とせよ」
そう命じるとルネはコンソールを操作。直後ポットの中の人間が爆ぜた、赤く染まるポット内の水、それが排水され、加工され一つの霊石となるとなって排出された。
それを飲み込むと膨大な霊力がガデンツァを満たす。
「これで、完全復活じゃ」
ハープの翼で音を奏でながら意気揚々と施設を後にする。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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