本部

【神月】ぼくは ぐしん で きみ ほぅぷ

電気石八生

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/09/02 16:18

掲示板

オープニング

●経緯
 戦闘に不慣れなエージェントの戦闘習熟度を上げ、その中で新規に配備されたジェットパックの運用法を確立する。
 それがHOPE作戦部から提出された『模擬戦闘イベント』企画書、その目的として記された文言だった。
 ようするに、先日の大規模作戦で新規加入したカオティックブレイドたち、そして戦闘にまだ慣れていないエージェントたちに戦闘経験を積んでもらおう。ついでに実戦配備されたばかりのジェットパックを使った立体的な作戦運用を考えよう。そのために模擬戦をやろう。ということなわけだ。
 これを受けたHOPE各支部はそれぞれで模擬戦を企画し、所属エージェントたちに告知した。
 そして東京海上支部でもまた――

●告知
 礼元堂深澪よりエージェントのみんなへ

 なんだか暑いですね。みんな調子どうですか? ボクは涼しいオペレータールームにいるので元気です。

 さてさて。今度HOPE東京海上支部の主催で模擬戦とかやることになりました。
 模擬戦は2チームに分かれて、アル=イスカンダリーヤ遺跡の隅っこでやります。
 ひとつは新人さんとか戦うのに慣れてない人、そういう人たちにコーチしてやるぜっていうベテランさんで組むHOPEチームです。
 もうひとつはベテランさん中心の愚神チームです。
 HOPEチームはジェットパック背負って強襲かける班と、地上から普通に攻める班に分かれます(準備したジェットパックは6こです)。
 愚神チームはボス(愚神)役をひとり決めて、あとの人は従魔って設定にしてください。

 HOPEチームは遺跡にいる愚神チームを攻撃します。
 愚神チームは遺跡でHOPEチームを迎撃します。
 ルールは基本的になし。相手を全滅させたほうが勝ち。それだけです。

 まあ、ほんとにあぶないことにはならないようにいろいろあれこれしてるので、お気軽に参加してください。
 よろしくどうぞ。よろしくよろしく。

解説

●依頼
 遺跡で模擬戦をしてください。

●ルール
・大枠はオープニング参照。
・2チームともレベル制限や人数制限はしませんが、できるだけHOPEチームのほうが大人数になるようにしてください(募集人数が全枠埋まるなら『HOPEチーム15~17人:愚神チーム8~10人』くらいが望ましいです)。
・HOPEチームは攻めの戦なので、トラップなどの用意は基本的に不可能です。空と陸でどう連携するかを考えてください。
・愚神チームは3時間の準備時間が与えられます。その間に張れそうなトラップは自由にどうぞ(巨大なもの、高価なものでなければ資材も自由に使用できます)。
・HOPEチームは司令官役(1名)を決めてください。そのエージェントが倒されたら敗北です。
・愚神チームはボスの愚神役(1名)を決めてください。そのエージェントが倒されたら敗北です。
・携帯品の使用は基本的に自由。回復アイテムや秘薬は使用を宣言すれば「使った」こととなります(アイテム自体は消費しません)。
・バーストリンク不可。
・この模擬戦で生命力が減少することはありません。
・死亡判定を受けた両チームのエージェントは「戦いの見学」、「実況解説者」、「戦場に紛れ込んだ一般人の役」のいずれかに回ることができます。

●状況
・模擬戦の開催時刻は朝10時からです。
・遺跡には倒れた石柱や建材(切り出した石)がごろごろしていて、身を隠したりトラップをかけたりが簡単にできます。
・地面は砂です。
・今回戦闘で内部使用ができる施設は、戦場の奥にある30×30スクエアの礼拝堂のみとなります(半ば倒壊しており、中は明るいです)。

●備考
・HOPEチームは内部でふたり以上の小隊を作って連携することもできます。
・愚神チームは愚神や従魔になりきり、極悪非道ロールプレイを楽しめます。

リプレイ

●ブリーフィング
「戦場の航空写真、地図から解析した愚神チームの潜伏候補ポイントを頭に入れておいてください。もっとも、それすら逆手に取ってくる可能性はありますけど」
 辺是 落児(aa0281)との共鳴で普段よりも5センチの高みを得た目線を仲間たちへ巡らせ、構築の魔女(aa0281hero001)は語る。
『ロロ――ロ』
 彼女は内からの落児の声にうなずき。
「愚神側がしかけた罠は、砂漠のあちらこちらに植え込んだ木柵。ただし、従魔役のみなさん個人がしかけた罠についてはわかりません。ですので情報を得たならまずは報告を。その積み重ねがチーム全体の勝利に繋がります」
 この模擬戦でHOPEチームの司令官役を務める構築の魔女の締めに一同はうなずき、散開しようとした――
「ちょっと待ってください新人のみなさんっ!」
 大宮 朝霞(aa0476)である。なぜか颯爽と仁王立ちである。彼女はその姿勢のまま高らかに。
「HOPEといえばヒーロー! ヒーローにとって大事なこととはなんでしょうそう変身ポーズです!!」
「訊いておいて答えさせないその間はなんだ」
 彼女の傍らに立つ契約英雄ニクノイーサ(aa0476hero001)が渋い顔でツッコんだが、朝霞はさっぱり聞こえない顔で。
「今から私たちがお手本を魅せますからね!」
「見せるどころか魅せるだと――おい、まさかここでアレをやる気か!?」
「ニック!! 変身よ!!」
 言い返す間も与えられないまま、ニクノイーサは朝霞の「変身! ミラクル☆トランスフォーム!!」に巻き込まれ、共鳴。
「さぁ! みなさんもカッコイイ変身ポーズを今すぐ考えて決めるのですっ!」
 なんとも言えない顔の新人たちの前で「カッコイイ変身ポーズ」を決めた朝霞は、高く声を響かせるのだった。
 と。そんな騒動につきあうことなく、いち早くジェットパックを装着して輸送機へと向かったカグヤ・アトラクア(aa0535)は独り言つ。
「はてさて。事前の相談は不足しており、数を生かした連携が成せておらぬのが実状じゃ。それがどれほど戦況を濁らせるかの」
『カグヤががんばればいいんじゃないの?』
 眠そうなクー・ナンナ(aa0535hero001)の声に、カグヤは薄い笑みを返し。
「張り切って戦と人とを見てやろうぞ」
 元より勝敗に興味はない。戦術というひとつの技術を試用し、それによって動く戦局を見届けたい。ついでに敵と味方に別れたエージェントのかけあいを楽しめればなおよしだ。

「新人の練度を上げる模擬戦だからね。情け容赦なく返り討ち! 遠足気分のHOPEどもに愚神の怖さを叩き込んでやるわ!」
 こちらは愚神チームのリーダー、“愚神”役を担う小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)である。
『返り討ちはいいけど、新人さんを怖がらせすぎたらダメよ~?』
 契約主の榊原・沙耶(aa1188)が、内でやんわりと沙羅をたしなめた。
 表面化している意識によって外見が変わる彼女たちだが、沙羅が主導権を取ると禍々しくなる。本気を出せば、どの国にでも評判の恐怖スポットを開店できるだろう。
「愚神に慈悲なんかないのよ――行け、従魔ども! 報告連絡相談、忘れるんじゃないわよ!」
『……愚神と従魔で報連相?』
 背中で沙羅の声を聞いていた荒木 拓海(aa1049)が思わずぽつり。
『命令出したり受けたりしてるんだから、似たようなことはしてるんじゃない?』
 答えたのは彼の契約英雄メリッサ インガルズ(aa1049hero001)である。
『ま、報連相はしとくとして。今日は悪役だからね。思いっきりやらかしちゃって』
『了解――って、それわたしが普通に悪役みたいじゃない!』
 今回の共鳴体は女性体で、主導権はメリッサにある。そうした理由はただひとつ。最初から全力で戦うために、だ。
『ほんとは愚神を名乗ってからの“実は愚神ではなかったのだ作戦”がやりたかった……』
『隠してないから公開情報になってるわ。あきらめて小物を務めましょ』

●強襲
 デジタル時計が午前10時を示した。
 侵攻を開始したHOPEチームを大きく迂回し、従魔ギシャ(aa3141)が全力移動。
「足が速いってだけのことが勝ち負けを分けることもあるのだー」
 ふははははー。消えることのない笑顔で高笑い。先の先をとったギシャはHOPEチームの後方へ。
『カグヤは見当たらんな』
 内からのどらごん(aa3141hero001)の報告に、ギシャは「あいさつしときたかったんだけどねー」と答え。
「足の遅い兎さんか狩人を狙うよ」
『問題は単機でどこまでやれるかだ』
「やれるとこまでごーごー、やっちまいなー」
 駆けながら白虎ならぬ白竜の爪牙――愛称“しろ”を装着したギシャが、風に巻かれた砂に紛れて敵陣の裏を突こうとした、そのとき。
「うぉおあああああ」
 HOPEチームの先陣から絶叫があがった。
 五々六(aa1568hero001)と共鳴した獅子ヶ谷 七海(aa1568)のものだ。彼女は足をすべらせ、肩にかついでいたディフェンダーの刃を後頭部でキャッチ。模擬戦にあるまじき鮮血をぶちまけ、退場した……。
「戦場にゃ不幸な事故がつきもんだ。ほんの少し運が悪かっただけで、どんな古強者だろうがあっさり死んじまう。俺はそいつを新人どもに教えてやりたかった――」
 HOPEスタッフに緊急治療を施された後、共鳴解除した五々六はしたり顔で述べた。
「……本当かな、トラ。歳のせいで足腰弱ってたんじゃないかな」
 抱きかかえたぬいぐるみにぽそぽそ毒を吐く七海。
「いやいや! 俺ぁ現役ビンビンだぜ! こっからは新人に戦略とか戦術とか解説しちゃうんだぜ!?」
「遠くはよく見えるんだね。近くは霞んで見えないのに」
 ともあれ。
「突貫突貫ー」
 ギシャがHOPEチーム後方を進む、ゼノビア オルコット(aa0626)と共鳴したレティシア ブランシェ(aa0626hero001)へ襲いかかった。
『――!』
「奇襲!? 待ち伏せではなく――!!」
 内でゼノビアが声なき声をあげるのを聞きながら、レティシアが迎撃態勢をとった。
「どーもー、従魔だよー。がおがお」
「決闘がしたいのなら手袋を用意してくるんだな」
 言いながら、手につかんだ砂をギシャの目へ投げつけるレティシア。それと同時にファストショットで先手を取ったが。
「じゃ、手袋のかわり?」
 しゃがみこんで射線から体を外していたギシャが跳び、射撃体勢を解除できずに硬直するレティシアの胸元を“しろ”でぽんと叩いて、疑似的に生命力をごっそりと奪った。
『さすがに経験豊かなエージェントだ。一撃ではしとめられんな』
「新人を狙わないのが従魔の優しみー」
 と。
「敵はひとりです! 前衛はそのまま前進! 後衛で従魔に対処を!」
 構築の魔女の指示で、HOPEチーム後衛陣による反撃が開始された。
「司令は私がお守りします! みなさんは攻撃に専念してください!」
 新型MM水筒の水と砂を混ぜ込んだウレタンをウレタン噴射器から射出、構築の魔女のまわりに簡易防壁を造りながら烏丸 景(aa4366)が叫ぶ。
『うー、私も思いっきり武器の嵐を叩きこみたい』
 内で歯がみするラフマ(aa4366hero001)を景は静かに諭した。
「今の私たちではラフマが思うほどの効果は出せません。それは別の形で行いましょう」
『やれる? 思いっきりやっちゃえる?』
「そのときが来たら指示します」
 ――ギシャは殺到する峰打ち柄打ちに模擬弾を横っ飛びでかわし、逃げ続ける。が、HOPEチームのベテランたちは、その経験をもって執拗に彼女を狙い続けた。
「うーわー」
『これは厳しいな……!』
 そして生命力を3分の1まで削られたギシャが、覚悟を決めようかどうしようか悩んだ、そのとき。
「前から従魔が1匹来るわよぉ! ちゃんと見ときなさいよぉアンタたちぃ!」
 鷹の目で前方を探っていたアル(aa1730)が機械化された声帯で紡いだテクノボイスで警告した。
『後ろの従魔からも目ぇ離すんじゃないわよぉ!』
 こちらはアルの契約英雄、雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)。
 ちなみにもともとのアルはかわいらしいボクっ娘なわけだが……戦闘のテンションに引きずられ、雅が乗り移ったかのようなねっとりオネェ口調になり果てている。
(やってくれたわねぇ。してやられちゃったじゃないのよぉ)
 彼女の今日の目的のひとつは、脅威の俊足を誇るギシャを抑えることだった。ギシャはかならずしかけてくる。それをわかっていながら、進路ばかりに気を取られていた。だから。
「ぜぇったいっ! 逃がしたげないんだからねぇ~!」
 その間に小鉄(aa0213)がHOPEチーム先陣へ迫る。
「ギシャ殿にいささか遅れをとったが――いざ、尋常に勝負でござるよ!」
『張り切りすぎてヘマしないでよ? でも従魔役ねぇ……それっぽいモノマネしないといけないかしら? シャギャーとか』
 内でかわいらしく小首を傾げる稲穂(aa0213hero001)。
 そして敵陣へ跳び込もうとした小鉄の前に、同じ【鴉】の仲間である齶田 米衛門(aa1482)が立ちはだかった。
「小鉄さ――従魔さん! ようこそッス!」
 米衛門のホイールアックスの柄による横薙ぎを、身をかがめてかわした小鉄はその落下力を利して足払い。が、その回転を見極めた米衛門はこれを跳ねてかわす。
『手の内はお互い知ってんだ! 殺す気で来いよ小鉄じゃなくて従魔ぁ!』
 米衛門の内からスノー ヴェイツ(aa1482hero001)が楽しげな声をあげた。
『わわ、米ちゃんもスノーちゃんもやる気まんまんよ』
 あわあわする稲穂を「のまれてはならぬでござるよ」と落ち着かせ、小鉄は自らを取り巻こうと迫るHOPEチームに目線をはしらせつつ立ち位置を変えた。
「此度の拙者は従魔ではござらぬ。忍でもござらぬ。そう、忍従魔でござる!」
 鞘――EMスカバードの電界に乗せ、超高速で抜き打った孤月を米衛門へ、と見せかけて小鉄はその場で鋭く右回転。後ろ回し蹴りを放つようにして米衛門の首に脚を巻きつけ、その視界を塞いだ。
 そうしておいて、小鉄はさらに体を大きく回してまわりのエージェントを怒濤乱舞(峰打ち)で打ち払い、米衞門から離脱。物陰へと跳び込んだ。
「ぬう、強襲には成功したでござるが、援護射撃に頼れぬのは辛いでござるな」
 ここで沙羅からの通信が入る。
『どう? まだやれる?』
「愚神殿の御心のままにでござる」
『じゃあ、こっちの射程に入るとこまで引っぱってきて』
「了解」
『れっつぱーてぃー』
 小鉄が暴れている隙に石柱の陰へ潜り込んだギシャからも返事があった。

 通信を終えた沙羅が従魔役のエージェントへ指示を出した。
「ちょっと前に出て、突っ込んだふたりのフォローして。助けなくていいから」
『この模擬戦、誰も怪我したりしないのよねぇ。残念。せっかく愚神役なんだし、傷ついた従魔を改造して……なんてのもおもしろそうなのに』
 内で唇を尖らせる沙耶に、沙羅は不敵な笑みを見せた。
「代わりに馬車馬みたいに働かせるわよ」

「初手でギシャが裏に回ったのはよかったな。あれで真っ正面から小鉄が突っ込めた。ただ、結局誰とも連携できてねぇのが痛ぇ。これからどうするよ?」
 実況役に収まった五々六は死人控え所の机に頬杖をつき、マイク代わりの通信機へ垂れ流す。
 その横に座り込んだ七海は、ひたすらにぬいぐるみと念話を交わしていた。

●緒戦
 HOPEチームのジェットパック班が乗り込んだ輸送機が、悠然と空を行く。
「――ギシャたちだけではHOPEチームの陣は崩せんじゃろう。先の先を取る奇襲、策としてはおもしろかったが」
 五々六の解説を通信機で聞いていたカグヤが肩をすくめた。
 内のクーはここぞとばかり、寝に入っている。
「上空からは長距離攻撃型従魔の位置、視認できないよ。潜伏してるみたいだね。オーバー」
 右手に双眼鏡、左手にスマホを持ち、構築の魔女へエリカ・トリフォリウム(aa4365)が報告する。
「……」
 その傍らでディフェンダーの刃を磨いているダレン・クローバー(aa4365hero001)が、時折地上へ向けて鋭い視線を投げた。
 彼女は声を発することができないが、それでもエリカにはわかる。感じられるのだ。彼女の内に高まるライヴスの輝きが。
「ダレンのやる気がボクにもやる気を出させてくれるよ」
 その横では、初の戦闘に挑む篠ノ井 一花(aa4428)が両手を開いたり握ったりしながら手汗を乾かしていた。
「……俺たちに、できるかな?」
『ばァか。できるかなァじゃねェ。やるんだよ!』
 内からかろやかな声で一花をどやしつけるクラウリー・ペインバック(aa4428hero001)。
『ヒーローの卵。殻ァ破って跳びだそうぜ。それとも卵の中身じゃなくて、殻のほうが本体か?』
「う、うるせえな。……やってやる」
 ジェットパック班最後のひとり、波月 ラルフ(aa4220)は通信機から流れてくる戦場からの声を聞きながら、寝袋にタオルケットを詰めていた。
『いつ出る?』
 内で契約英雄、ファラン・ステラ(aa4220hero001)の声が響く。ラルフは同じく内なる声で『最後の最後だ』と返し。
『俺らは真琴の仕事を邪魔する』
『あのスナイパーは確かに脅威だが、彼女だけを狙うのか?』
『チームのためにも、あいつの多彩で正確なスナイピングは抑えときたい。――全力を尽くすさ。俺は負けるのが嫌いなんでな』

「そっち行ったわよぉ! ナニしてんのよタマとんのよタマぁ!!」
『そうよそうよぉっ!! タマよタマぁ!!』
 ますますオネェ絶好調。まさに雅に取り憑かれたかのような怒濤の内股でギシャを追い詰めるアル――と雅――である。
「しんどいー」
 アルにデスマークを撃ち込まれたギシャは転げ回ってHOPEチームの攻撃を回避しつつ、愚神チームの射線へ引き込んでいた。
『小鉄もよくやってはいるがな』
 どらごんがため息混じりに言った。
 小鉄は左から、ギシャは右から、挟撃の形を作ってはいたが、敵の数が多いだけに分断されていると言ったほうがいい有様だ。
『マーキングされている以上、隠れても意味がない。最後に爪痕だけでも残して逝くぞ』
「りょーかい」
“しろ”から蛇龍剣「ウロボロス」の“くろ”へ換装したギシャが身を沈めながら砂につま先を突き立て、跳んだ。そして“くろ”を振り回しながら石柱を蹴って三角跳び、朝霞の後ろに隠れていたレティシアへ一撃をくれて――
「従魔、覚悟」
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)と共鳴した木陰 黎夜(aa0061)の蛇弓・ユルルングルから放たれた吸盤矢で死亡判定を受けた。
「ゼノビアと、レティシアの仇、うちが取った」
「それは光栄だが、な」
 少々ばつが悪そうな顔のレティシアである。
「んあー、死んだ」
『敗因は連携不足だな。やはりチーム戦では突貫のサポート体制が不可欠だ。この経験、来世に生かすとしようか』
 どらごんの渋い声に「だねー」と返し、ギシャ退場。ここからはひなたぼっこと洒落込む予定だが……砂漠でひなたぼっこ?
『小鉄、右! 左! 上! ああ、もうどこがどこやらー』
「愚神殿、従魔の方々、あとはお任せするでござるよ」
 米衛門を中心に据えたHOPEチームの連携に飲み込まれ、小鉄と稲穂もまた死亡判定である。
「うまくできましたね」
 ラストアタックを決めた酒又 織歌(aa4300)がほぅと息をついた。
『回復ではなく、攻撃で貢献できたのはよい経験だった。余は満足だぞ』
 フードマント状に変化した契約英雄のペンギン皇帝(aa4300hero001)が織歌の頭の上でクチバシを動かし、言った。
『この調子でまわりをよく見よ。ただし突出はせんようにな』
「はい。そんな苦労、するつもりありませんから」
 きゅっと右手を握りしめる織歌に、ペンギン皇帝(愛称:陛下)はなにも言えないままクチバシをパクパクさせた。
 ――ともあれ。ギシャと小鉄の奮闘もあり、HOPEチームは想定よりも早いペースで前進させられている。
『ロロ……ロ』
「そうですね。――みなさん、もうすぐ敵の長距離攻撃の射程に入ります。隊列と体制を整えてください」
 落児の注意を受けた構築の魔女が、メンバーに告げた。
「中傷判定受けてる人は言ってください!」
 朝霞が織歌とともに怪我人を癒やす中、キース=ロロッカ(aa3593)が内にある匂坂 紙姫(aa3593hero001)に語りかけた。
「紙姫、ボクたちの出番です。心の準備はいいですか?」
『うん、いつでも! ――模擬戦は戦闘じゃないから、ちゃんとできると思う』
 自信なさげに答える紙姫。彼女は共鳴時の記憶を解除後に持ち越せない。だから感覚はともかく、経験を積んできた実感がない。彼女にとっては、ある意味で毎回が初任務なのだ。
「紙姫は大丈夫ですよ。ボクはいつも助けてもらっていますから」
 そんなキースのとなりに、今回彼とコンビを組むニノマエ(aa4381)がゴルディアシスを手に並び立った。
「行くか」
『泥をかぶり、泥を這い、最後に剣――私を突き立てる。それが私たちだ。存分に使え』
 ニノマエの内でミツルギ サヤ(aa4381hero001)が言った。
「頼みます。策とも言えない小細工ですが、“手数”も用意してありますので」
 キースは携帯品のラジカセを取り出した。ここには激しい銃声が録音されている。実際の手は増やせずとも、敵を惑わすことはできるだろう。
「威力偵察(小規模な攻撃をしかけて敵状を探る偵察)に出ます。通信は随時入れますので、本隊はボクたちの後を進んでください」
 構築の魔女へ言い置いて、身をかがめたキースがニノマエとともに陣を抜け出した。
「あ、ボクもボクも」
 アルが加わり。
「……俺も途中まで同行させてもらいたい。探してる奴がいる」
 アサシンマスクにすべての感情を隠した不知火 轍(aa1641)が続く。
「轍、探してんのはクレアさんッスか」
『約束はしていませんけど、待っているでしょうから』
 声をかけてきた米衛門へ、轍の内から雪道 イザード(aa1641hero001)が返した。
 そして轍は米衞門の肩をかるく叩き。
「おまえにも待ってる誰かがいるんじゃないのか?」
 結果、米衛門を加えた5組が威力偵察へ向かうこととなった。
「あの、いいんですか? 戦力が減るわけですよね?」
 織歌の問いに、落児が『ロロ――ロロ、ロ……』と答え、構築の魔女が翻訳して聞かせた。
「私たちが欲しいのは情報です。偵察はぜひ出したい。ですが少人数では返り討ちにあう危険性が高いですから、一定数を送り出すほうが確実です」
「こっちの数が、多いから、できること」
 黎夜が言葉を継ぎ。
『そういうことですね。せっかくですからあなたもやりたいことを決めて、学んでみるといいですよ』
 内からアーテルが添えた。
「後ろからでも、できること、あるしな」
 黎夜は蛇弓を手に前衛へ向かう。偵察小隊を後方から支援する心づもりなのだ。
 その背を見送った織歌は考える。学ぶべきことは……同じバトルメディックの動き。
「でも危険は危険ですよね。大宮さんがいたら気持ち的に楽そうですけど」
 そこで織歌は朝霞に水を向けた。
『バトルメディックは盾役だ。この模擬戦では司令官を守り切ることが勝利条件だからな。本隊の前衛につくのがひとつのセオリーになる』
 ニクノイーサの言葉に続いて朝霞がどんと胸を張り。
「それに今回、本隊の新人さんを守るのも私の仕事ですからね! ウラワンダーが体を張ってがんばりますよ!」
 楽々と暮らす参考になるかと思いきや、バトルメディックが実はしんどい職種であることを思い知り、絶望する織歌。それでも力を振り絞り、青ざめた顔をまっすぐ上げた。
「大宮さんの観察は続けますよ。ええ、手の抜きかたを考えるんです。その間の苦労は大宮さんに丸投げですが!」
『……そういうことは考えるだけにしておくがよい』
 無性に秋刀魚の蒲焼の缶詰を爆食したい気分のペンギン皇帝だった。

●準備
「静かだな」
 爆薬とワイヤーロープでしつらえた小規模な防御陣地の奥でぽつり。クレア・マクミラン(aa1631)がつぶやいた。
『来るかしら?』
 内からリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)が訊く。
 クレアは薄く口の端を吊り上げ、「来るさ」と答えた。感情を抑えることを自らに課している彼女にしてはめずらしい。
『新人さんの教育が今回の目的なのに、もう。……クレアちゃん、ほどほどにね』

 砂から突き出す石柱の陰に身を潜め、HOPEチームを待つのは佐倉 樹(aa0340)・シルミルテ(aa0340hero001)組と御代 つくし(aa0657)・メグル(aa0657hero001)組である。
 シルミルテが口を開いて。
「ヨネさん、引ッかかるカナ?」
「素直な人だから、きっとね」
 同じ口で樹が答える。
「よーっし、全力でヨネさん倒そうね、メグル!」
『えぇ。全力でぶつかりましょう、つくし』
 つくしとメグルも気合充分だ。

【鴉】の3組の後方、礼拝堂の内に陣取った今宮 真琴(aa0573)はフェイルノートを片脇に置き、時を待っている。
「ボクのトラップはひと味ちがうよ!」
 視覚効果と精神汚染あるいは覚醒、ふたつないし3つの効果を期待できるすさまじい罠を見やり、ふふーんと胸を張る。
『腐神……?』
 内で顔を引きつらせた奈良 ハル(aa0573hero001)に、真琴はぱたぱた手を振って。
「いやいやボク従魔」
『腐魔おそろしや』
「エージェントたるもの、どんな卑劣なトラップだって乗り越える気持ちがないとね! ただし踏んだり折ったりするヤツは……必殺だよ?」
 腐腐腐。
 ハルは『魔琴モード!』と戦くのだった。
「……かならず殺すのか」
 同じ礼拝堂にてジェットパック班の到来を待ち受けていた海神 藍(aa2518)が真琴の翳る笑顔と“トラップ”とを見比べ、背筋を奮わせた。
『トラップがケーキだったら……わたし、殺されちゃってました!』
 ぷー。かわいらしく息を吹いたのは彼の内にある契約英雄、禮(aa2518hero001)だ。
「ケーキでなくてよかったけど、あまり見ないようにね。あれは女子の心を腐らせるから」
 共鳴中は女性体となる藍もまた、努めてトラップから目を反らした。
『わかりましたんじゃー! 海神会のこわいとこ、ほぅぷ組のみんなに見せちゃいましょうぜー兄さんじゃなくてボス兄さんっ!』
 カチコミカチコミ。わくわくと禮が握った両手を上下上下。
 藍と禮は今回、愚神に荷担する第3勢力『海神会』として参加している設定なのだ。
『……心が腐る? じゃあ、メリッサも見ないほうがいいのかな?』
 藍たちのやり取りを聞いていた拓海が首を傾げ、内なる声でメリッサに訊いた。
『って、なんで訊くのよ!? 見ちゃダメだってかばってよ! でもわたしのことちゃんと女子だと思ってくれてて……うん、ありがと』
『みんなリラックスしてるみたいね。これなら心配いらないかしら』
 内で微笑む沙耶に沙羅が苦い顔で言い返した。
「こっちはもうふたり死んでるのよ。向こうはひとり自爆したけど……」
 こちらが7に対し、HOPEチームは新人を含むとはいえ、15。戦力差は歴然だ。しかも虎の子のジェットパック班はまだ投入されていない。
 沙羅は要請しておいた巨大扇風機のスイッチを入れ、上空へ高く砂を巻き上げた。ジェットパック班の視界を塞ぎ、降下を妨げるために。
「ジャミング装置が借りられてれば……」
 この模擬戦は新人に戦闘の基本を教えるためのものなので、今回は通信手段の妨害は不許可。東京海上支部からの回答を思い返し、歯がみする沙羅に沙耶が言う。
『それでよかったんじゃないかしら。ジャミングすると私たちも連絡とれないもの』
「連携がちゃんと取れるんならね」
 沙羅はしかめっ面でため息をつき、砂の彼方に目を向けた。

「やられたでござる」
 五々六に合流した小鉄が頭を掻いた。
「無茶しすぎなのよ、もう」
 稲穂は小鉄のまわりをぱたぱた巡り、体に傷がないかを確かめている。
「ぶつかってみた感触はどうよ?」
 五々六の問いに、小鉄はふむと考え込み。
「HOPEチームは隊列を崩さずに進んでござる。結果的に多数を保てていたのは大きいでござるな。拙者とギシャ殿は最後まで連携も合流もできなかったでござるよ」
「特攻する人から死ぬよね。“自分”じゃなくて“自分たち”なんだってわかってない人のせいでチームが負けるんだよね、トラ」
 七海がぬいぐるみに語りかけた。
「俺らが言っていいセリフじゃねぇけどな!」
 妙にいい笑顔でサムズアップを決める五々六。
 小鉄は苦笑しつつまた頭を掻き。
「このような機会は得がたいものでござる。次があるなら、自分を貫いた結果を踏まえてのぞめばいいでござろう」
「いちばん考えなくちゃいけないの、小鉄なんだからね」
 稲穂は伸び上がって小鉄の頭へぽかりとゲンコツをくれた。

●絆と縁
『ここから礼拝堂までの進軍予定路に敵の姿はありません。罠に注意して進んでください』
 雪道が威力偵察班の面々に告げ。
「……俺たちはここで分かれる」
 轍が1歩、横へずれた。
「鷹は撃墜されましたか」
 キースの問いに轍は顎の先をうなずかせ、「魔法使いのふたり組にな」と米衞門を見た。
「アルとニノマエはバリケードを破壊しながら前進してください。ボクも次の射角が取れる位置まで移動します」
 指示を出すキースの内から紙姫が、偵察班から離脱していく轍と米衞門の背へ笑んだ。
『あたしたちもがんばりますから、おふたりもがんばってくださいね!』
 かくしてアル、キース、ニノマエ組が前進を再開した。
「愚神チームの通信機の周波数がわかってたらよかったんだけど」
 思わずテンションを上げてしまったアルがううん、もぅっ! とぱたぱた足踏み。
 一行は石柱の陰にいくつか落とし穴を見つけていたが、今のところスキルやしかけを使った罠は見当たらない。せっかくのアルの罠師も空振り続きで、それが彼女を余計にイライラさせている。
 と。彼女の先を進み、黙々とゴルディアシスの切っ先で罠を探っていたニノマエが言った。
「愚神ってのはやり取り聞かせてくれるほどサービスいいもんか?」
『それはないわね。あいつらがなに考えてるかなんて、あたしたちにはわかんないわ。あたしたちにできるのは、こんなふうにやきもきすることだけよ』
 アルを落ち着かせるように、雅がやわらかい声で語る。
『ふむ。ならば地道に掘り返していくしかないな』
 このサヤの言葉に、紙姫が問うた。
『ミツルギさんって剣、なんですよね? 斬る以外のこと、めんどくさいなって思わないですか?』
『斬るためならば厭わない』

(ヨネさん来タヨ!)
 シルミルテが無声音で告げる。
 ウィザードセンスで力を高めた樹の視線につくしがうなずき。
「手を抜かない。全力で。堂々と――はちょっとお休み?」
『安全が第一ですからね。そもそもあなたは華奢なんですから』
 心配を滲ませたメグルの言葉に、つくしの頬が少し膨れた。そんなに心配されるほど弱くない。大切な友だち――樹を守るためなら、いつだって矢面に立つ。
『その覚悟を自滅へ繋げないように言っているんですよ』
 う。思考を読まれて釘を刺されたつくしは詰まりながら、それを悟らせまいとなんでもない顔で魔法攻撃の準備にかかった。
 なにも知らない米衞門が、物陰を探りながら近づいてくる。
 もうチょット? あと少し引きつけましょう。来タ来タ。よし、行きますよ。
「ヨネさん回れ右! 走って!」
 樹が放ったのは支配者の言葉ではない、ただの指示。
「え?」
 思わず身を反転させてしまう米衞門をスノーが叱りつける。
『バカ! 樹に惑わされてんじゃねぇ!』
 と、気づいたときにはもう遅い。
 飛来した樹とつくしのサンダーランス――他のアクティブスキル同様、実際に撃つのではなく宣言だ――をその背に浴びる。
「こちら齶田! 魔法特化型の従魔2体と交戦開始したッス! 位置特定、頼みまス!」
 よろけながら通信機に叫んだ米衞門がまた反転し。腕を十字に重ねて顔を守りつつ駆け出した。
 これはチーム戦だとわかっているが、何十秒かだけ……挑ませてもらう。
「おうっ!」
 米衞門がホイールアックスの石突を石柱へ叩きつけた。
「わわ」
 その衝撃で、樹とつくしが左右から転がりだしてきた。
「ヨネさん本気ダヨ!?」
「相手にとって不足なし」
 黒の猟兵を構え、樹が米衞門から距離を取りつつ回り込む。
「ヨネさんこっちこっち!」
 すかさずつくしが極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を開いて米衞門を牽制。樹からその目を反らしにかかった。
『つくし、僕たちも攻撃しながら移動しますよ』
「了解、回り込むよ! それっ」
 宝典から飛んだ魔法が米衞門を撃ち。
 背後に回り込んでいた樹が攻撃を重ねた。
 つくしと樹、ふたりが不規則なスピードで回り込みつつ、中心に捕らえた敵を撃つ。互いにアイコンタクトすらせず、息を合わせる……同じ【鴉】で戦いを重ね、磨いてきたコンビ芸だった。
「これが今の私の全力……! いこう、いつきちゃんっ!」
『行きますよ、ヨネさん』
 つくしとメグルがさらに米衞門にプレッシャーをかけた。
『相手するにゃ最悪のコンビだぜ。せめて使いきらせちまうか』
 スノーがあえて主語を使わずにささやき、米衞門は体を大きく広げた。
「ワシはそう簡単には倒れないッスよ!」

 一方、轍は目当ての相手と20メートルの間を開けて対峙していた。
『こちらの位置と罠の情報は送ったとおりです。なるべく自分たちで処理しますが、進軍の際にはご注意を。自分たちはこれより、従魔1と戦闘を開始します』
 報告を雪道に任せ、轍は鈍く光る赤眼を“従魔”へ向けてひと言。
「賭けよう」
 対して従魔――クレアもまた。
「負けたほうの奢りだ。財布が無事ですむと思うなよ」
 応えず、轍がクレアへと駆ける。
 クレアはスイッチで火薬に点火、爆音と砂を巻き上げてその目を塞ぎ、砂ごと轍を魔剣で斬り払った。
「ぬるい」
 轍はクレアを跳び越えながらシャープエッジを撃ち込んだ。それはもれなく彼女の体をとらえたが。
『準備していたのは罠だけではありませんよ』
 リリアンの言葉に続き、クレアが薄く笑む。
 リジェレネーションを宣言していた彼女は剣を返し、未だ上空にある轍の胴に刃を突き込んだ。
『さすがですね』
 雪道が思わず漏らす中、砂へ降り立った轍がクレアへ走る。
 彼女の目線と筋肉の動きを読み、先ほど手の内につかんでいた砂を放りつつ縫止を。
 当然、クレアは回避行動をとるものと思っていた。しかし彼女は微動だにせずにこれを受け止め、刃を叩きつけてきた。
「くっ」
 ダメージを宣告された轍はクレアから跳びすさり。
 クレアはクリアレイでBSを解除、火薬のスイッチを轍へ見せつける。
『無理にかわす必要はありませんから。当てられながら、当てればいい』
 リリアンの言葉は歴戦のバトルメディックならではのもの。1対1なら、タフさを押し立てて待ち受けることもまた戦術だ。
 クレアの傷はもう癒えつつある。単純な攻防の力でも彼女が上。だとすれば轍は。
「……当てながらかわし、当てる」

 礼拝堂前にたどりついた威力偵察班に、構築の魔女からの連絡が届く。
『ジェットパック班に出動要請をしておきます。私たちもそちらが送ってくださったルート情報に従って進軍しますので、到着まで牽制攻撃を』
『頭脳労働はあたしたちに任せちゃって!』
「外から思いっきりかきまわしちゃうからねー」
 雅とアルが言い残し、中腰で移動を開始した。
 その背を見送ったニノマエへ、後方に潜むキースからゴーサイン。
「行けって言われてもな。どうするか」
『おまえは私を振る腕だ。私はおまえに振るわれる剣だ。互いに考える頭などあるまい』
「だな」
 サヤの返答にうなずき、ニノマエは大きく息を吸って礼拝堂へ突っ込んだ。

「トラ、なんだか死人が増えないね。HOPEチームがもたついてるせいかな」
「って言ってるけどよ、どう見る?」
 七海の独り言を拾い上げた五々六に小鉄が返した。
「愚神チームはもちろんのこと、HOPEチームも基本戦術は“受け”でござる」
「攻めなくちゃいけないHOPEチームが攻めきれてないってこと?」
 稲穂の疑問へ、小鉄の代わりに五々六が答えた。
「ああ。ま、ジェットパックの連中が礼拝堂に突っ込んだらヤでも動くんだけどな」

●連携包囲
「出動要請か。ここは礼拝堂に突撃の一手じゃなぁ」
 送られてきた情報を吟味するカグヤの内で、起き出してきたクーが小首を傾げた。
『【鴉】の邪魔しに行かないの? HOPE側が劣勢でしょ』
「ヘタに飛び込んだらつつきまわされそうじゃ。……それに、この模擬戦では中盤戦がなかったからの。このままでは輸送機の上で戦を見送ることになる」
 カグヤは新人たちを振り返り。
「ボスを含む敵4体が礼拝堂で待ち受けておる。威力偵察隊と協働しようぞ」
 その横では、一花が通信機に語りかけ、敵のジャミングがないかを確かめていた。
「おいおい、司令官殿があきれてるじゃねェか。大丈夫かよ」
 クラウリーに頭をわしゃわしゃされながら、一花は「だ、大丈夫です!」と敬語でお返事。
 クラウリーは一花の緊張を馬鹿にしたりしなかった。彼の背に強い手を置いて。
「ああ大丈夫だ。なんせ俺がついてんだから」
『ボクらもついてる。思いきって先輩方の胸を借りにいこう』
 ダレンの内からエリカも言葉を添えた。
「わたしが、盾になる」
 こちらはダレンのしわがれた声。共鳴し、主導権を取ったときだけ、彼女はこうして話ができるのだ。
『真琴はボスでもねぇのに本陣詰めか。一騎打ちも悪くないと思ってたんだが』
 内なる声でラルフが苦笑い。
『しかし、それによって連携というものを学ぶ機会ができたのは幸いだ。これからの私には、他者と力を併せることが必要だと思うから』
 ファランは探るように、強ばった意志をラルフへ向けた。
 契約主はもちろん、他人を完全に信用しているわけではない。が、信用することが絶対に必要だとも考えていて、それを実行しようとがんばっている。――そんなところか。
 今は彼女の迷いを尊重し、見守ろう。ラルフは高度を下げ始めた輸送機の傾きと背のジェットパックの重みを確かめた。

 キースのラジカセがあらぬ方向で“銃声”を響かせた。
 それに合わせ、礼拝堂の外からアルが。
「わわっ、囲まれちゃったよー! 愚神さん応援くださいー」
 と、つくしの声まねを投げかける。
 もちろん、だませるほどに似ているわけではない。が、彼女のテクノボイスは素で通信機ごしの声さながらに響き、リアリティを演出。愚神チームを惑わせるのだ。
 アルはさらには朝霞の声まねで。
「ウラワンダー、ただ今到着ですっ! みなさん、愚神さんを背中から襲っちゃいましょう!」
「――攪乱だとわかっていても、気が散らされるものだな」
 ニノマエの突進をかわしながら、藍が舌打ちした。
『テクノボイスこわいです! ケークサレみたいです!』
 内で震える禮。ちなみにケークサレは塩味の、まったく甘くないパウンドケーキだ。
『ニノマエ、なぜ私を振らない?』
 かわされた後もまっすぐ駆け続けるニノマエにヤサが問う。
「俺の今の仕事は闘うことじゃねぇ」
「新顔がいい度胸してんじゃないの……!」
 装備によって砂漠に擬態していた沙羅が姿を現わし、踏み出した。
 その顔から眼、鼻、口が溶け消え、体の所々に刻まれた裂傷から眼が、舌が、指が這いずりだし、見るも禍々しい邪悪な姿を成していく。
「なにしてんのよ従魔! 沙羅がやられたら終わりなのよ! 働きなさい!」
 あわててメリッサと藍が愚神の前に跳び込んだが、ニノマエは止まらない。ふたりをすり抜け、沙羅へ突っ込んで――足元が、突然抜けた。
 小鉄が残していった落とし穴に落ちたのだ。
『ボス兄さん! 海神会のおそろしさ、ほぅぷ組のやつらに見せてやりましょうぜー』
 禮は藍の内で肩を怒らせ、『チャカぶちこんでエンコとったるー』などと息巻いている。
「待て禮。指なんかいらないからな」
 藍は魔導銃50AEを構え、穴へ近づいていく。
 果たして、穴の底で待ち受けていたのはニノマエの不敵な笑み。
「海神さん――!」
 不穏な気配を察したメリッサが藍を引き戻そうとしたが。
『ニノマエ君。囮役、おつかれさまだよ!』
 紙姫の声が通信機から響き、魔導銃50AEによるキースのファストショットが藍の肩口に大ダメージ判定を与えた。
 ニノマエは落とし穴に落ちながら、扉のほうを確かめていた。この位置なら、キースの射線が通る。敵が上から自分をのぞきこめば動きは止まり、格好の的となる。
『問題はいつ穴から上がればいいのかだな』
 サヤの言葉にニノマエは答えず、苦い顔をした。

 樹に的を絞った米衞門が、背につくしの魔法を喰らいながらも樹へ貼りつき、執拗にその足を狙う。
「ヨネさんしつこい」
「しツコイ!」
 続けて声をあげる樹とシルミルテに、米衞門はニッと笑って言い返した。
「ふたりがかりで来られんのがすったげ怖いッスから」
『オレらは必死だからな』
 内から添えられたスノーの言葉に、米衞門は「んだ」とうなずいて。
「おらぁ!!」
 思いきり振り上げられるホイールアックス。
 そのがら空きの胴へ樹が、背につくしが、それぞれサンダーランスを叩き込んだ。
『必死だって、言ったぜ?』
 隙を見せれば、樹とつくしは息を併せた魔法攻撃を撃つ。それは確信というよりも信頼だった。
 米衞門は防御姿勢を解き、樹にオーガドライブを宣言した。
「――やられた。つくしさん、ごめん」
「これホントに当タッテタら、ワタシたち半分なくなっチゃっテタよ!」
 続くラウンド、米衞門はつくしに対し、斧の石突で砂を巻き上げてその行動を防ぎにかかったが。
『ヨネさん相手に接近戦を挑むほど無謀ではありませんよ』
「そういうことっ」
 宝典を駆使するつくしにいなされ、これまでの攻防で大きく損なっていた生命力を削り切られて死亡宣告を受けた。
「……サンダーランスを使いきらせたとこで、ワシらの仕事は終わりッス」
『おつかれ。終わったら地獄じゃなくて飯屋で会おうぜ』
 樹と米衞門が戦場を後にし、つくしだけが残される。
「よし。あとはなるべく生き残って戦いの訓練したいよね」
 彼方より迫り来るHOPEチーム本隊を透かし見て、つくしが言う。
『本陣に合流しましょう。すでに礼拝堂にHOPEチームが攻め込んでいるようです。あと1秒を長らえるには連携が必須です』
 メグルの言葉につくしは「わかった」と返し、礼拝堂へ駆け戻っていった。

 轍とクレアの戦いは泥仕合となっている。
 タフだが決め手となる攻撃スキルを持たないバトルメディック。
 紛れる闇や影がなく、しかも敵のトラップに支配されたこの場において、できることがおそろしく制限されたシャドウルーカー。
 互いににらみあい、牽制しあい、攻撃を繰り出し合う。しかし、それを経てなお互いに健在。千日手のような時間がこれからも続くかに思われたが。
『そのまま動かないでください』
 通信機から忍び出したアーテルの声に、轍が繰り出しかけていたアームブレードを引き戻した、次の瞬間。
「宣言、ブルームフレア」
 轍の動きを見、反射的に下がっていたクレアを、黎夜のブルームフレアが焼いた。
「――決闘にのめり込みすぎたか!」
 クレアが視線を上げれば、わずか20メートル先にHOPEチーム本隊がいた。偵察担当者の情報をたどり、巻き上げられる砂に隠れながら、ここまで進軍してきていたのだ。
「罠を一掃するために範囲術を使ってもよろしいでしょうか?」
 構築の魔女がうなずくのを確認し、景が内のラフマへ合図した。
「ラフマ、今こそ武器の嵐を吹き荒らすときですよ!」
『不知火さん、思いっきり離れてくださーい!!』
 ラフマの声に、轍がクレアのトラップ陣から離脱する。
『武器の、嵐ーっ!!』
 宙に召還された数万本の木刀が豪雨と化し、ワイヤーを、砂を、火薬を、クレアの身を、そこにあるすべてを、差別も区別もせずに貫き通す。
 砂漠を揺るがす爆音、爆圧、爆炎、砂煙のただ中で、クレアは自身にケアレイをかけつつ後退を試みたが、しかし。
「弾幕を張ってください。当てる必要はありませんので、可能な限り濃密に」
 魔銃「フライクーゲル」の銃口で、構築の魔女がクレアを指した。
 後方からのエージェントの遠距離攻撃がクレアを取り巻き、それに後押しされる形で近接攻撃武器を携えたエージェントたちが前進した。
『クレアちゃん、動けるうちに転進しましょう!』
 クレアが全力移動に移行する――
 内から手話によって『クレアさんを、逃がしてはだめ、です』と告げるゼノビアに、レティシアは低く言葉を返した。
「わかってるさ。クレアの退路はもう、読めてる」
 ゼノビアとレティシアの視線が重なる。撃つべきポイントは、あそこだ。
 クレアの動き、そしてたどるべき路、引き金を引いた瞬間、存在する場所――すべてを読み切ったレティシアが、ブルズアイを乗せたウッドチップ弾を撃つ。木片を詰めたやわらかな弾は正確にクレアの心臓を捕らえ、クリティカルヒットで彼女をしとめた。
「――齶田さんは間に合いませんでしたが、不知火さんは救援できましたね」
 構築の魔女が轍に頭を下げた。
「一騎打ちの邪魔をすることになってしまいました。その点はお詫びいたします」
「……いや。倒しきれなかった俺の未熟だ」
『模擬戦にわがままを通させていただいて申し訳ありませんでした』
 轍に続いて雪道もまた詫びた。
 その横を、死亡したクレアが通り過ぎ。
「今夜はワリカンだな」
 轍はマスクの下の口の端を薄く吊り上げた。
「ああ」
 今夜の酒は苦く、それでいて甘い味がするだろう。

 実況席に、シルミルテを伴った樹が入ってきた。
 あいさつを返した小鉄と稲穂の奥から、五々六が人の悪い笑みを投げた。
「仲間に殺られた感想はどうよ?」
「納得の結果、ですね。つくしさんとふたりだけでは距離が作れませんでした」
「ヨネさんダいじダね」
「はい。ヨネさんのような頼れる前衛がいてくれてこそ、後衛は安心して動けるもの。実感しますね」
「シャドウルーカーが援護すればもっと楽に前衛も後衛もがんばれるよね。どうしていなかったのかな。不思議だね、トラ」
 七海の毒に、胸を押さえてうずくまる小鉄。稲穂はなぐさめるどころか横でうんうんうなずいていた。

●礼拝堂にて
「本来であれば乱戦に紛れて奇襲したかったところじゃが……今日の従魔は個人戦好きが多かったからのう」
 エリカ、一花とともに降下口から身を躍らせながら、カグヤがつぶやいた。
『愚神役の人、コントロールが大変だよね。こっちも突入タイミング逃しちゃってるけど』
 クーが眠そうに言う。
『砂嵐で視界が悪いな。篠ノ井さん、ボクらの影に入ってて』
「了解!」
 エリカの言葉に一花は答え、息を詰めた。この模擬戦で一矢いや一刃、かならず打ち込んでみせる!

「ふたり死亡判定。ひとり戻ってくるけど、連携するなら――」
 必死で策を考えていた沙羅に沙耶がのんびりと声をかけた。
『あらあら、ついにジェットパック部隊の強襲よ』
「ここで!? ……ううん、中衛がいないんだから、飛び込んでくるのはここしかないのよね。従魔、対空攻撃急いで!」
 沙羅の指示にいち早く藍が反応した。
『やっちまいますかいっ? やっちまうんですかいボス兄さんっ?』
 小鼻をふくらませる禮をどうどうとなだめ、しかし妙にうきうきと。
「ほぅぷ組の奴らに“あいさつ”してやらねぇとな」
 藍は落ちている石の陰からカグヤを狙う。
『見た目は派手ですけどよー、意表を突けなかったらダメですだぜ』
 怪しくなってきた禮のセリフに、藍もつい、口調を戻してしまった。
「確かに。昼間の使用は避けるべきかもしれないね」
 そして、真琴。
「空からとかいい的! 目標確認、カグヤさん、男子、男子。あれ、布教できる女子がいない!? でも男子ふたり仲よさそー。これはいける……か?」
『同僚をナマモノの餌食にするのは人としてやめとけ』
 かけあいながら、真琴はフェイルノートから吸盤矢を射放した。

「来る」
 ダレンがインタラプトシールドを展開し、迫る矢弾から一花を守る。衝撃判定により、体勢を崩すダレン。
『篠ノ井さん、出番ですよ』
 エリカの言葉に、一花がジェットを吹かしてダレンの影から飛びだした。
『カズ。今、体と技でセンパイたちに負けてんのはいい。でもな、心だけは負けんじゃねぇぞ』
 クラウリーが一花の体にライヴスを燃え立たせる。
「うおおおおお!!」
 真琴へまっすぐ突っ込む一花が描いたロケット雲の中に時雨村正が生じた。1、10、100、1000……柄を下にした刀が、一花を追い抜いて地上へ降りそそぐ。
「こんなのよけきれないってばって、本! ボクの命なレア本がーっ!!」
『命=BL本……親とワタシは号泣じゃ!』
 本を守ってその命を削った真琴。その背に、彼女自身が撃ち落としたカグヤの「まったく、なにをしとるんじゃ」とツッコミもとい一撃が入り、さらに。
「太陽の角度を気にすることもなかったな」
 最後に降下してきたラルフがタオルケット詰め寝袋を真琴の鼻先に投げ落とした――内部に仕込んだスマホが、大音量で爆音を轟かせる。
 転がってその場を離れながら、それでも真琴は耳を塞いだりしない。動きを止めずに一花を狙い、ヘッドショット。
 クリティカルでこれをもらった一花は即死判定を受けた。
『初陣の苦さ、噛み締めとけよ。……それは俺もだがな』
 クラウリーにうなずきを返し、一花は邪魔にならない位置まで全力で退いた。
「最後まで見る。俺のこれからへ活かせるように」

『お待たせしました。これより私たちは礼拝堂へ突入します』
 通信機を通し、構築の魔女がキースに告げた。
「ニノマエ、聞きましたね。タイミングを図って眩ませますよ。ダレンにも協力をあおぎます。ですからあまり突っ込まないように」
 射角を意識して石柱の上へと移動しているキースがニノマエへ通信。
『うーん、こっちが有利なはずなのに、なんだか押されてる感じ?』
 疑問符を飛ばす紙姫にキースがうなずいた。
 ジェットパック班のおかげで数的優位はとったが、ここにいる愚神と従魔は歴戦の猛者ぞろいだ。仲間たちは引き回され、序々に生命力を削られている。
「この一手で状況を覆します……カオティックブレイドを組み込んだ決め手で」
 言いながら頭の内で演算を繰り返していたキースが、ふと。
「終わったらふたりでアイスを食べましょうね、紙姫」
『うん。キースがどうやって勝ったかーって、ちゃんと教えてね』
 うなずいたキースが、礼拝堂の内へフラッシュバンを放った。

「!」
 閃光のただ中、メリッサが、藍が、真琴が目を覆った。
「っと、見とれてる場合じゃねぇ!」
 白く塗りつぶされた視界を割り、ニノマエが無数の剣を呼び出した。
『ボクらもだよ、ダレン』
「承知」
 エリカに促されたダレンもまた、ニノマエのそれに重ねてストームエッジ。
 内の空気をすべて押し退ける勢いで空間を埋め尽くした刃の柄頭が従魔たちを打った。
 と同時にHOPEチーム本隊が礼拝堂へとなだれ込んだ。
「フラッシュバンからのストームエッジ……初期制圧策としてはひとつの理想型ですね。策は成りました」
 うなずいたキースが本隊へ合流すべく礼拝堂へ向かう。
 その間にも、目の眩んだ従魔たちは為す術もなく――
「――なんてね」
 笑みを閃かせる真琴、その手から式神が飛び立った。
「響け――鈴鳴!!」
 ふわふわと舞い上がった式神が唐突に弾け、清冽な光でキースのフラッシュバンの余韻を吹き飛ばした。
『なんにも見えないー!』
「ラフマ、落ち着いてください! ――フラッシュバンを予想しておいてのフラッシュバン返し……これはやられましたね」
 眩む目をこすり、追撃から構築の魔女を守るべく景がインタラプトシールドを展開した。
「BSを受けた方はバトルメディックの治療を受けるため後退。動ける方は相互連絡を確保しつつ散開を」
 構築の魔女が指示を飛ばしながらPride of foolsを連射。拓海や藍の動きを牽制する。
『ロ……ロロ』
 落児のつぶやきを結果的に翻訳したのは、後方から戦場を俯瞰していた黎夜だった。
「さすが……真琴」
 レティシアの内でゼノビアが手話。『真琴ちゃんの、戦いかた、参考にしたい、です』。
「参考にしすぎると藪をつつくはめに陥りそうだが……」
 レティシアは、真琴の初期位置に散らばる薄い本の表紙を見やり、ため息をついた。
「――ほっとかないぜ、真琴」
『真琴。おまえと対し、おまえを制するため、私たちはここへ来た』
「経験と地力のちがいはまあ、気合でカバーするしかないんだがな」
 ファランの口上に苦笑いを浮かべたラルフが中空でジェットパックを切り離し、真琴へ上からストレートブロウを叩き込む。すでに方向は定めてあった。拓海や藍から離し、真琴を孤立させられる向きに。
「わわ」
 体勢を立てなおしきれていなかった真琴はこれをもろに喰らい、吹き飛んで砂に転がった。しかし、倒れたはずのその体は射撃体勢をつくっており、物陰に転がり込みつつ放った吸盤矢がラルフの胸に貼りついた。
『私たちが勝たずとも、チームが勝てばいい。そうだったな、ラルフ』
 大ダメージ判定を受け、一瞬硬直したラルフから主導権を取り、ファランが共鳴体をかがませた。
『いい動きだわ。覚悟と決意と意欲がある。これに報いるのが先輩の務めよ』
 黎夜に内なる声でささやきかけるアーテル。
「……うん」
 無表情の奥に意志の火を灯した黎夜がサンダーランスを宣言し。
 幻雷が、ファランの背を跳び越えて真琴を、石柱の塊ごと貫いた。
「新しい技……どうかな……?」
「しびれた!」
『のじゃ!』
 衝撃のBSを受けた真琴とハルが叫んだ。
「真琴。獲物の隙を逃さないのがスナイパーの掟だ。遠慮はしない。撃たせてもらうぜ」
『惜しまず、手を尽くす。どんなときも、隙をうかがう。最後まで、あきらめない。勉強、させていただきました、です』
 ゼノビアが内で頭を下げるのを感じながら、レティシアは真琴を撃ち。エージェントたちが追撃をかけた。
「フェイントに使うつもりだったが、こいつをラストアタックにさせてもらう」
 ラルフの重い刃が斬り上げられ、斬り下ろされ、薙ぎ払われ。真琴の生命力をゼロにした。
『どのような強敵でも、他者と手を併せれば倒すことができる。この記憶を魂に刻もう』
 ファランの言葉にラルフは薄く笑み、「ああ」と答えた。

「……って状況だけど、愚神チームはこれからどうするべきだと思う? 解説のシルミルテさん」
「ウチの愚神はチョーすごいカラ。変形しテ空トぶんダヨ? 愚神ビームがびーッテ出るよ。あト、従魔のキズもびびびッテ治スし」
「うーわー。それはHOPEチームも要注意だね。要注意ですよ、HOPEチームさん」
 実況役の樹が通信機に口を近づけ、淡々且つ強調してお伝えした。
「……なにしてんだ?」
 五々六の問いにシルミルテがにこにこと。
「HOPEチームにせーしんコーゲキ!」
「レベルとかスキルだけが攻撃方法じゃないってこと、ルーキー君たちに教えようと思いまして」
 それ、後進育成ってより嫌がらせじゃね?
 五々六や小鉄、稲穂がコメントを避ける中、七海だけは微妙に満足そうな顔で、しかしながら無言を貫いていた。

●批評、そして決着
 さらに窮地へ追い込まれる愚神チーム。
「聖霊紫帝闘士ウラワンダー、出ますっ!」
 駆け出した朝霞の内からニクノイーサが織歌に声をかけた。
『前線を押し上げ、維持するのもバトルメディックの仕事のひとつだ。後ろから見ていろ』
 一直線に沙羅を目ざす朝霞を、味方の吸盤矢とウッドチップ弾が後押しする。
『後ろから指揮を執るには味方が少ないわ。陣頭指揮しかないかしらね』
 内で小首を傾げる沙耶にイライラと沙羅が言い返した。
「ちっ。――あんた、沙羅を守りなさい!」
『ははっ、自分たちにお任せを!』
「拓海、なんかすごく手下っぽい……」
 首を傾げつつ、メリッサは魔剣「カラミティエンド」を手に進み出た。
『させないよ』
 エリカの声に、ダレンがストームエッジを召還にかかった。当たらなくてもいい。メリッサと沙羅を釘づけ、朝霞の突撃を援護できれば。
「させねぇってのはこっちのセリフだ」
『さすがボス兄さんです! すっごく悪そうです!』
 禮の応援を受けながら、藍が支配者の言葉を発動し、ダレンの正気を奪う。
「おまえの敵は後ろだ。ストームエッジを叩き込め」
「――従魔さんの「させねぇ」もさせませんけどね」
 待ち受けていた織歌がダレンにクリアレイ。
『おう、そなたもついに献身を学んだか!』
 思わず感涙するペンギン皇帝へ、織歌がイヤそうな顔で答えた。
「放っておいて後悔することになったら幸せじゃないじゃないですか。私は私の幸せのために、きちんと仕事するだけです」
 この間に朝霞がメリッサへたどりつき、巨大で凶悪な魔法少女ステッキであるレインメーカーを振りかざす。
「おとなしく正義の前に倒れなさい! ワンダースラッシュ!!」
「手加減ありでも当たったらまずそうですけど……!」
 メリッサは朝霞の横をすり抜けながら、頭を振って髪を彼女のバイザーへ投げかけた。
「痛っ!」
『砂だと!?』
 朝霞とニクノイーサをひるませたのは、メリッサが髪にたっぷりからませておいた砂粒だ。上下に隙間のあるバイザーは砂を容易く侵入させ、しかも朝霞自身の指は阻む。
 その隙にメリッサは、体勢を立てなおしにかかっていたダレンの懐へデスソニックをイン。HOPEチームのほうへ蹴り返してスイッチオン。
「皆、衝撃に備えてく――」
 構築の魔女の警告が、爆音にかき消された。
『オレじゃどんなにがんばってもここまでできないよ。さすがメリッサ!』
『作戦考えたの拓海でしょ! どうして全部わたしにかぶせるのよ!』
 拓海はもう少し乙女心を勉強したほうがよさそうだが、さておき。
「もうゆるしませんからね!」
「やってくれたが、連携の手はこっちのほうが多い。追い詰めさせてもらうぜ」
 朝霞とラルフを筆頭に、HOPEチームの反撃が殺到した。
「こ、これはたまりません。退散、です!」
 メリッサが絶妙な棒読みを決め、ふらふらと後退。
『ロ、ロ――ロ』
 落児が告げたのはメリッサの挙動不審。構築の魔女はうなずき、景を見た。
「烏丸さん」
「ラフマ、もう1回、嵐を起こしますよ」
『待ってましたマスター! 武器の嵐!!』
 ウェポンズレインがメリッサの軌跡を洗い、そして偽装されていたエアーシェル製の落とし穴を露わにした。
 今度こそ追撃をかけるHOPEチーム。逃げるメリッサだが、ついに捕らえられ――
『――ないよ。まだね』
 小鉄が真琴を守るために埋めていったデスソニックが発動し、その上に足をかけていたHOPEチームの前衛を打ちのめした。
『罠にはめるのにわざとヘタな演技するなんて……すごいよメリッサ』
『いやあれはその、わざとっていうか――』
「反撃できるとしたらここしかない! 生き残ってる従魔は全力を絞り出しなさい! ――あんたたちもよ!」
 沙羅がグリムリーパーで空をかっ斬り、前へ。
 傷を癒やされたメリッサは、これ幸いとコメントを打ち切り戦闘へ向かう。
「最後にひと花咲かせるか」
『ボス兄さん、わたしフルーツタルトが咲けばいいなって思います!』
 英雄経巻を巡らせて沙羅の前に立った藍と禮が、ブルームフレアでHOPEチームの陣を焼き。
「生き残ってる従魔、ただ今帰りましたー!」
『クライマックスには間に合ったようですね』
 つくしとメグルによるブルームフレアが重ねられ、追い打ちをかけた。

『こちらは佐倉 樹です。愚神チームの反撃が始まりましたね、シルミルテさん』
『ワルあがきダネ!』
『身も蓋もありませんね。それはとにかく、ジェットパックの導入は戦場にどんな影響を与えたんでしょうか。対戦した今宮さんにうかがってみましょう』
『薄い本は……守りきった……』
『ふむ。強襲に使うなら、地上部隊と連携を密にする必要があるな。地上班に猛攻をかけさせ、裏を突くなどじゃ。爆弾ではなくエージェントを落とすのじゃから、投下の機も個人の希望だけでなく、作戦に照らし合わせて決めるべきじゃ』
『アトラクアさん、いつの間に』
『デスソニック2連発が痛かったね。2秒くらい目が覚めた……』
『ナンナさんの眠気フットばすなんテ、スゴイ目覚ましダネ』
『ほんとの戦場だったら永遠のおやすみになってたんだけど。それはそれで』
『現場からは以上じゃ。課題は後々考えるとして、今は終局を見守ろうぞ』

『距離を意識しましょう。詰めさせなければ勝ち。詰めさせれば負けです』
 内からのメグルの助言に「意識! 集中!」と返したつくしがブルームフレアを燃え立たせ、HOPEチームの追撃を阻む。
「その間に距離を取る!」
 遮蔽物から遮蔽物へ、つくしは駆ける。
 こんなとき、ひとりでも【鴉】の仲間がいてくれたなら……いや、そうじゃない。仲間にそう思ってもらえる存在にならなければ。そのために、少しでも長く、全力で――
「ニノマエ!」
 キースのファストショットがつくしの肩を弾いた。
「あ」
 16式60mm携行型速射砲の大口径ウッドチップ弾。ダメージはないが、バランスを崩したつくしは反転しながらよろめき。
「おお!」
 這うほどに低く体を傾け、炎を突っ切ってきたニノマエがつくしの両脚をタックルで刈り取った。
『普通に狙っても当てられまいが、これなら』
 当たるだろう?
「!」
 柄を返したウェポンズレインが、ニノマエに押し倒されたつくしの体を押し包んだ。

『これでも喰らえー!』
 拓海ががんばって悪そうな声をあげ、メリッサが手にした高級お弁当を投げつけた。
「日本のランチボックスに興味がないでもないが……今は遠慮しておく」
 レティシアは鋭くそれをかわし、「代わりに食後のコーヒーをごちそうしよう」とメリッサへコーヒーをかけた。
 撒かれたコーヒーはメリッサの逃げ道をもれなく塞ぎ、為す術もなくメリッサは熱い液体を浴びて体を跳ねさせた。。
「あっつ! ――もうわたしヤなんだけど! 後退か交代させて!」
『前衛職がオレたちだけだから後退はダメ。交代してるヒマもないし』
 そのとき。
「油断、大敵」
 メリッサの左方――落とし穴から黎夜が顔を出し、黒の猟兵を開いた。
『え、なんであそこに!?』
 見れば、黎夜のトレードマークでもある黒コートは逆の方向にある石柱にかけられていて、黎夜がそこにいるように偽装されていた。
『この手は味方か宿敵相手でなければ通じませんけれど』
 アーテルの言葉を継いだのは銀の魔弾。
 そこへ朝霞が他のエージェントの先頭に立って攻め寄せる。
「みんなの力を合わせれば、従魔だって怖くないです! レインメイカー、私を――みんなをそのきらめきで導いて!」
 ガン! 大上段から振り下ろされたどでかい鈍器がメリッサを一撃。ハートのエフェクトがキラキラ舞い散り、メリッサの目からも星が飛んでランデヴー。
 クラクラしている間にメリッサは囲まれ、一気に討ち取られた。
『ボ、ボス兄さんーっ!』
「ここまで、だな」
 こちらは藍が、エリカ、烏丸の支援を受けたラルフにとどめを刺され、死亡判定を受けていた。そして。
「愚神の矜持ってやつを見なさいよ!」
 今まで従魔役の後ろで回復と指示を担ってきた沙羅が、グリムリーパーの石突でニノマエを突きにじり、叫んだ。
「みなさん、攻撃を」
 進み出たのは構築の魔女だ。
『ロロ――ロ……』
「はい、特攻はしません。最後まで、皆の手で。そこに加えていただくだけです」
 エージェントの一斉攻撃が開始された。
『沙羅、回復スキルはもう尽きたわ。あとはどう散るか、よ』
 内からの沙耶の声に、沙羅の顔が引き歪む。
「あのときああしてれば、こうできてたら、そんなことばっかり思い浮かぶけど……引き際くらいは誇り高く逝くわよ」
 沙羅の放ったブラッドオペレートが構築の魔女に出血判定を与えたが、その傷は朝霞によって速やかに癒やされる。
 HOPEチームの総攻撃を食らいながら、それでも沙羅は不退転。仁王立ちでこれを受け止めた。
『沙羅』
「わかってる。わかってるわよ」
 沙羅の視線を真っ向から受け止め、構築の魔女が真摯な顔で述べた。
「今後の課題が見えたいい模擬戦でした。ありがとうございます」
「次はもっとうまくやるわ。今回はおめでとうって言っとくけどね」
 かくして構築の魔女は双銃を構え――模擬戦の幕を下ろした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • 巡り合う者
    ファラン・ステラaa4220hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
  • クラッシュバーグ
    エリカ・トリフォリウムaa4365
    機械|18才|男性|生命
  • クラッシュバーグ
    ダレン・クローバーaa4365hero001
    英雄|11才|女性|カオ
  • 砂の明星
    烏丸 景aa4366
    人間|17才|女性|生命
  • 砂の明星
    ラフマaa4366hero001
    英雄|17才|女性|カオ
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • 砂の明星
    篠ノ井 一花aa4428
    機械|14才|男性|命中
  • 逃げる的へと雨アラレ
    クラウリー・ペインバックaa4428hero001
    英雄|24才|男性|カオ
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