本部

何でもない日★ゆったり夏祭り&花火

星くもゆき

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/08/28 18:24

掲示板

オープニング

 夏の真っ盛り。エージェントたちは東北にいた。
 北に移動したとはいえ、日中の東北は東京にも負けぬほどに暑かった。だが、日が沈んだ今は適当な具合に収まっており、むしろそこそこ過ごしやすい。

 そんな夜、エージェントたちは夏祭りを訪れている。正確にはそこに発生した些細な事件を解決するために遣わされたのだが、どうせならそのまま祭りを楽しんでしまえ、と一行は事件解決後も解散せずに留まったのだ。
 幸いながら事件は簡単に片付いたので、祭りを遊びまわる体力は充分に残っている。

 港湾部に近い場所で催されるその祭りでは、広大なスペースに種々雑多な出店が展開。それを眺めるだけでも心が躍りだすし、後には海上に打ち上がる花火も見られるようだ。海面に照りかえす光はさぞ美しいことだろう。


 エージェントたちの目の前に並ぶのは、夜の中に煌々と、あるいはぼんやりと灯りのともる出店の数々。それらを脇に構えて延々と続く道は広く、そこを通りゆく人々の喧騒が耳に心地よい。

 ゆったりと流れる時間の中で、さぁ、何をして過ごそうか。

解説

■概要
 お仕事で訪れた東北で、夏祭りを過ごす。
 という何でもない日常の1コマです。
 解決すべき目標もないので、思い思い過ごして頂くのが良いでしょう。
 やりたいことがあればやれば良し! Just Do It!

■その他
・服装も自由ですし、ついでに『解決した事件』も自由に設定いただいて構いません。何かしら希望あればご指定どうぞ。
・射的、金魚すくい、水ヨーヨー釣り等々、遊び系なんでもござれ。
・焼きそば、イカ焼き、リンゴ飴等々、食い物系なんでもござれ。
・その他異色、ゲテモノ、ご希望あればなんでもござれ。ご指定どうぞ。
(その場合は他のPCも犠牲になる可能性があります。双方ご注意☆)
・花火と海面をいい感じに一緒に見られる高台がオススメ観賞スポット。
 ロマンチックな雰囲気を許さないかのごとく人がいっぱいいる。

リプレイ

●浴衣で並んで

 浴衣姿のエージェントたちが歩く。
 直前まで依頼で訪れていたのが当地の呉服屋であり、その事件解決の礼として無料で貸してもらっているのだ。
「これも無事解決の恩恵って奴か。ファランも似合ってるぞ。こういうのは女の方が華やかだな」
「華やかさは別に……し、知るか」
 灰色の浴衣に身を包む波月 ラルフ(aa4220)がからかうように褒めると、ファラン・ステラ(aa4220hero001)は恥ずかしがるように顔を背けた。白地に紫の菖蒲があしらわれた浴衣のために珍しく髪は結い上げている。
「……徒靱、私おかしくない? ……今まで、目が見えなくても大丈夫な服しか着なかったから……」
「似合ゥてるでケイ! 後で写真に取ったるからな!」
 蜷川 恵(aa4277)が不安そうに尋ねると、彼女の手を引いて歩いていた徒靱(aa4277hero001)はこぼれるような笑顔を返す。恵は朱色地に多くの花々が彩られた浴衣、徒靱は白地に青柄の入るシンプルな物。ほぼ全盲である恵には柄の美しさなどはわからなかったが、手触りからでもその浴衣が特別だと、その浴衣を着るその日が特別なのだということはわかった。
 大きなうさ耳をぴょこぴょこと揺らして歩いていたシルミルテ(aa0340hero001)は、振り返ると声を弾ませた。
「樹! オ祭り! みンナト一緒ノも楽しミネ!」
「……たまにはいいね」
 相方の佐倉 樹(aa0340)がうっすらと微笑みを返す。浴衣はシルミルテが淡い桃色の物を選んだので、樹もそれとお揃いにしていた。
 ふらっとどこかへ向かうシルミルテの背を見送ると同時、樹は背後から御代 つくし(aa0657)に抱きつかれた。
「浴衣も貸してもらえたし、楽しみだねー♪」
「あまりはしゃぎすぎて転んだりしないようにして下さいね」
 子供のように目を輝かせているつくしの後ろからメグル(aa0657hero001)もやってきた。濃藍の地に白い月下美人が映える、落ち着きと気品ある浴衣をさらっと着こなしている。対してつくしは白地に藍色のラインが走り、可愛い金魚まで描かれた華やかな浴衣だ。
「わかってるよメグル~。それより、ね、いつきちゃん何食べよー!」
「そうだね……わたあめとか? あとは……いちご飴とかあるかな?」
「探そう探そう! いちご飴!」
 買う前からすでにテンション最大値に近いほど、つくしははしゃいでいるようだ。
「皆さん浴衣とても似合ってますね! 僕もなんだか新鮮です」
「……夏ならでは、だな」
 樹たちの少し後ろを歩くセラフィナ(aa0032hero001)は浴衣で装ってのお祭りに胸を躍らせ、隣の真壁 久朗(aa0032)にいつもの無垢の笑顔を向ける。久朗は真っ黒な無地の浴衣、セラフィナは動きやすいシンプルな甚平を着用中。
 ふいに隣に元気の良い声が響く。齶田 米衛門(aa1482)だ。
「やっぱ祭りは遊ばねばッスよ!」
「ヨネ……? その格好は……」
「あぁ、これッスか? わかんねッスよ!」
 親友の突飛な衣装に目を奪われる久朗。鮮烈な水色に白と赤が映える、何か鮮やかな法被だった。たぶん地元青年団の人間と思われて着せられたとかそんなん。
「まぁ服なんてどうでもいいだろ! それより飯物制覇すっぞ!」
 米衛門の影から、落ち着いた赤色の浴衣をまとったスノー ヴェイツ(aa1482hero001)が気力みなぎる顔を覗かせた。
「はらつえ(腹いっぱい、食い過ぎ)ぐっで動けねぐならね様にしてけれな」
「ま、気分によるなァ」
 案じる米衛門を尻目に、スノーは財布を掌で遊ばせる。財布の主導権はスノーにあり、という表れです。
 楽しそうに歩くエージェント一行。それを少し離れたところから見ていた大宮 朝霞(aa0476)は、傍らのニクノイーサ(aa0476hero001)に顔を寄せてひそひそと喋る。
「ほら、みてよニック。みんなすごくかわいいわよ」
 そう語る朝霞の目は、女子勢の浴衣に釘づけ。ちなみに自身も明るい浅葱色の浴衣を呉服屋に貸してもらってはいる。
「いやぁ、依頼をちゃんと解決できてよかったわね、ニック」
「……そうだな」
 一行の最後尾には、赤嶺 謡(aa4187)とジャスリン(aa4187hero001)が歩いている。両者とも植物柄のシックな甚平を着ていて、互いの服装について話していた。
「ジャス、やっぱり浴衣を着たほうがよかったんじゃないか」
「ヨウちゃんだって浴衣を着たらよかったのに。あの金魚柄の浴衣なんて似合うと思うのにな」
「こっちの方が楽そうだからな。動きやすいからって走り回って迷子になるなよ。ジャスが迷子になるとトラブルに引き付けられるからな」
「ふふっ、不安ならしっかりと捕まえててくれたらいいんだよ」
「まったく……ほら、行くぞ」
 少しペースを上げて仲間たちと合流し、彼らは祭りの遊興へと進み入っていく。

●巡って食して

「あ、わたあめだって、いつきちゃんっ!」
「買うなら1個、かな……。あれ、一人で食べきるにはわりと多めなんだよね……」
「りょーかい!」
 びしっと敬礼。しかし買ってくるのではなく樹も引き連れぐいぐい屋台へ進行するつくし。
 飴が絡まっていくのをわくわくして見守り、出来上がるや否や素早く受け取って。
「はいっ! お先にどうぞ!」
「うん、ありがと」
 樹とつくしが2人で分け合ってわた飴を味わっていると、仲間たちが大勢で屋台にやってきた。
 米衛門はしげしげと、店先に並べられたわた飴の袋を眺める。
「今の戦隊もんはカクカクしてるんスなぁ」
「魔法少女ものはキラキラしてんのなぁ……セラフィナはどんなのが好きなんだ?」
「ま、迷ってしまいますね……!」
 スノーの質問にセラフィナは真剣に悩む。
 対照的に、朝霞は即決だった。
「やっぱり、ヒーローの絵柄が描かれた袋のがいいわよね!」
 彼女の手には、いつの間にかわた飴の袋。迷いとは無縁の行動力である。
 わた飴でひと盛り上がりしている中、徒靱も祭りの代名詞とも言えるわた飴を1つ買った。祭り初心者の恵に食べさせようと。
「ほら恵、これ。あー、ちゃんと下ンとこ持って。割と大きいから確かめて食べ」
「? これは……」
 彼女にしてみれば何かの棒を持たされただけのような感覚。しかし恐る恐る、綿に唇を当てて感触を確かめると、勧められるままに一口もぐっとやってみる。
 甘い。ふわふわ。未経験の味と食感。これは何なのだろう。
 目を閉じたままの顔を向けると、徒靱が答えを教えてくれた。
「わたあめや。食うたことないやろ?」
「……そっか。ありがとう、徒靱」
 ほんわかと、わた飴初体験。それを見ていたラルフは、ちらりと隣のファランを見やった。
「ファランもあれぐらい淑やかに礼を言ってくれていいんだぞ?」
「う……うるさい!」
 ぷりおこなファランさんは、手持ちのわた飴でバッと顔を隠す。それもラルフが買ってくれた物なのだが、素直に礼は言えずにいたのだった。
 わた飴を顔に掲げたまま、ふと視線を横に向けると、赤く艶めく球体にファランは目を奪われた。
「あれは……」
「? どうしたファラン?」
 相棒の様子に気づいたラルフは彼女の視線をたどり、そして行き着く。
 りんご飴があった。
「わかりやすいな……どれ、俺はあれを食いたくなった。おまえも付き合え」
「!!」
 ラルフが2本買ってきた物をファランは黙って受け取り、口をつける。そして近くで見れば中身が何であるかもよくわかった。
「赤い宝石みたいなのは何だと思っていたが、林檎だったとはな」
 こちらもほんわか初体験。無言でりんご飴を味わうファラン。素直にねだるということもできない相棒に、ラルフは呆れながら笑った。
 わた飴やりんご飴を一行が買い求めていた一方、謡は屋台制覇を目指すジャスリンにあっちこっちに引っぱり回されていた。
「ヨウちゃん! このお団子美味しいよっ。ずんだ餅だってさ。それにこっちの芋煮も美味しいし、きりたんぽも香ばしいよ~」
「甘いものか、食事かはっきりしろ……いつの間にビールまで持ってるんだ。この依頼の報酬をこの場で使い果たすつもりか」
「いっぱしのリンカーは宵越しの銭は持たないって前に酔っ払いが言ってたよ。だから大丈夫さ」
「それはキミだろ……」
「赤嶺さん、あなたも大変なようですね……」
 奔放に振る舞うジャスリンに謡が少し参った表情をしていると、何となく同行していたメグルが同情するように言った。彼の手にはどこぞで入手した日本酒。酒を買っている時にジャスリンと遭遇し、その流れで今に至る。
「まぁ、その分は一応ただ働きさせているんだけどね」
「ギブアンドテイクですか。つくしにもそう接すれば少しは……」
 ぶつぶつとメグルが思案しているうちに、謡たちは米衛門たちに追いつき、合流した。どうやら米衛門や朝霞、ラルフらが結構片っ端から食い物に手をつけているようで、一行の両手はそれらで一杯になっている。
 そしてなおも、朝霞はたこ焼きを買う。ぶっちゃけ食いすぎである。
「おじさん、紅ショウガ大盛りにして!」
「朝霞……食べ過ぎじゃないのか!?」
「大丈夫よ。ほら、こんなに大きいタコが入ってるわよ!」
 焼く途中のタネにうずもれたタコを指差し、朝霞が力説。するとスノーも屋台のおじさんに一声。
「なるほどこいつは食うしかねえな! オレにも1つ頼むぜ!」
「はいよー」
 ひたすらに屋台を食い尽くす気でいるスノーを見て、ジャスリンは同志っぽい何かを感じる。
「おや、キミも……ふふっ、食に対する飽くなき姿勢、素敵だね。ちょっとそこのかき氷を食べながら情報交換と行かないかい? キミの事も教えて欲しいな」
 息を吐くように口説き文句を垂れ流すジャスリン。スノーはたこ焼きを口に放りこみつつ、よくわからんけど「おう!」と言っておいた。
「……何か、この地域ならではの屋台とかはないのか?」
 ひととおり屋台物を買ってみた辺りで、それまではさして食べ物に手をつけていなかった久朗が米衛門に尋ねた。彼に訊いたのは、彼が東北の出だからだ。
「んー、そッスなぁ……」
 眉を寄せて米衛門が考えこんでいると、先ほどまでジャスリンが色々食べるさまを見ていた謡が口を挟む。
「ずんだ餅、芋煮、きりたんぽとかあったようだよ?」
「なんと、やるッスなココは! うっし久朗! きりたんぽ行くッスよ!」
「待ったー!」
 意気揚々、故郷の味を食べに行こうとした米衛門を、朝霞が力強い声で制止する。
「その前に牛タン! ずんだ餅とかがあるなら牛タン串もあるはずよ!」
「牛タン!?」
 焼きそばやらたこ焼きやら食べまくっておいて未だ胃に詰めこむ気満々の朝霞。見ているだけでお腹いっぱいなニクノイーサは驚愕。
「そうよ! すっごくおいしいのよ。ニックは塩で、私はタレね! そうすれば、お互いのを味見して両方食べられるでしょ!」
「……牛タン、きりたんぽか。食べてみるか」
 何故か、一行は東北の食巡りに向かうことに。

「いやぁ、なかなか美味かったな。東北の味は」
 さくっと牛タンやきりたんぽの屋台でそれを食べ終えたラルフがそう言うと、一行は全員同時に頷いた。牛タン串は実に食べ応えがあったし、きりたんぽも香ばしくもっちりとしていて良品だった。おかげでお腹はだいぶ満たされてしまった。
「……ん、なんッスかこれ?」
 米衛門がある屋台で足を止めた。
 そこには――蛇っぽいのとか鳥っぽいのが姿焼きのような状態で調理されていた。恐らく食べられるだろうことはわかるのだが、見た目がアレなのでぶっちゃけグロテスク。
「……ファラン、食ってみろよ?」
「? 構わんが」
「本当か!?」
「ああ」
 ためらいもせずに屋台のおじさんに注文し、1羽(?)が刺さった串を受け取ると、ファランは頭から豪快にやったった。
「問題ない。結構美味しいぞ」
 がっつり咀嚼しているファラン。その口の中に何があるかと思うと、ラルフはただ黙って目を逸らすしかなかった。
「マぁ、なカナかネ」
「ボクも美味しいと思うよ。謡たちも食べてみたら?」
 いつの間にかその場にやってきて、もぐもぐ口を動かしているシルミルテとジャスリン。ファランといいさすが英雄は胆力が違う。周囲の多少引いてる視線とか気にも留めずに、むしろ彼らにも勧めてしまっていた。
「ほんとッスな! なかなか美味えッス!」
「あー何というか……美味いな!」
 臆せず口に突っこんだ米衛門とスノーの何の情報も伝わらない食レポ。
「徒靱? みんなで何を食べているの……?」
「ケイ、気にせんでええんやで……」
 賞味した勇者は皆、結構美味いと評価したその鳥っぽい何かは、しかしそれ以上は誰にも味わわれることはなかったそうです。

●遊びに興じて

 腹の膨れた一行は、食巡りから転じて遊戯巡りへと趣向を変えていた。やはり祭りといえば、ゲーム類も欠かせないところだ。
「お、輪投げッスね! 皆で勝負とかどうッスか?」
「勝負、か……まぁ自信はないが、やってもいいかもな……」
「ほうほう、なら私もやらないわけにはいかないね、うん」
「何故そうなる……」
 輪投げを見つけた米衛門が久朗を誘うと、耳ざとく聞きつけた樹もにやりと笑みながら参加表明。
「はいはい! 私もやりまーす!」
「勝負事は受けて立つぜー。ファラン、お前も参加な。負けるの嫌とか言うなよ?」
「……って、お前いきなり何を……誰が言うかっ!」
 諸手を上げてつくしも輪投げに加わり、面白そうだとラルフもファランを上手いこと乗せて盛り上げ参戦。朝霞や謡たちも乗り気で加わって大所帯の決戦と化す。
「よっし! やるッスよー!」
 3個の輪を手に入れた米衛門は元気良くそれを投げこむ。豪快すぎて的を越えて壁板に直撃。3発すべて外すと潔く別の遊びを探しはじめた。
 小さい的に正確に投げるのはなかなかに難しい。それほど器用というわけでもない久朗もやはりあっさりとすべての輪を外した。
「片目隠してるからじゃない?」
「……」
 負けを覚悟して黙す久朗を押しのけ、樹が3回放る。比較的易しい前列に1個成功させて対久朗の勝利を確定させると、後は悠々と投げて1個ヒット。合計2個。
「こんなものかな」
 無言で視線を向ける久朗に、樹は勝ち誇る。彼女にとっては、これは絶対に負けられない戦いなのだった。そのためにできることは何でもする所存。
「いつきちゃんすごい! でも勝負なら負けられないからね……! 頑張るよっ」
 樹の成功に触発されてつくしは張りきって輪を放った。狙いは奥側。高ランクの景品だ。
 しかしつくしは輪投げ初心者。放った3個は的に弾かれて、虚しく落下した。
「む、難しい……!」
「つくしさんならすぐ慣れるよ」
「そうだね……もう1回!」
 せめて1つは入るまで、とつくしは輪投げを続行。最終的には1個かけることができた。
 輪投げで賑わう仲間たちの声を聞いて、恵はくいくいと徒靱の手を引く。
「……ね、私もやってみたいから、いい……?」
「け、ケイもやるんか!?」
 徒靱が驚いた声を上げた。恵の言う「いい?」とは共鳴のことだろう。彼女が輪投げを楽しむには、共鳴して徒靱の目を借りるしかないのだ。彼女がそれしきのことで共鳴を願うのは意外だったが、つまりはそれほど体験してみたいということだろう。
「……よし、力貸したる。周りの奴に負けへんようにな!」
 繋がり、変容する姿。
 色鮮やかな髪を翻して輪投げに挑もうとする恵は、しかしそもそも輪投げのシステムがわからないのでしばらくじーっとしていた。
(「ケイ、お金払って輪っか貰うんや」)
「え、あ……」
 恵が慌てて財布から小銭を取り出そうとすると、その前にメグルが小銭を払って輪を受け取り、そのまま恵に渡してくれた。つくしのおかげで培われた世話焼きスキルが反射的に発動してしまったのだろう。
「これをあの突き出たところに投げて輪を通すんです。奥側のほうが良い景品みたいですよ」
「あ、ありがとうございます……」
 ぺこりと頭を下げて輪を譲り受け、恵は意気ごんで投げた。力が弱すぎて、目標の的に届かない。
「……む。案外難しい」
(「ケイ、もーちょい上や。軽く手首で投げる感じでいき!」)
 徒靱の指導を受けながら2投。更にお金を払って3投、6投。初めての輪投げは、新鮮ですごく面白い、と感じた。
 他方、謡とファランはすぽすぽと輪を通して、夜店のおじさんに多大な精神的ダメージを与えていた。
「……おまえ、なかなかやるな」
「キミも中々やるじゃないか……そうだな、背面で勝負しよう」
「背面……こ、こうか?」
 謡とともに何故か無駄テクニックで輪投げにいそしむファランを、ラルフは保護者のような優しい目で見守っていたようだ。
 その後も遊戯巡りは続く。
「っしやるッス! ……っと、いきなり壊れちったッスよ!?」
「ラルフ、この型は欠陥品だ。脆すぎる」
 型抜きをすれば米衛門とファランが初撃から型をぶち壊し。
「クロさん、ヨーヨー釣りもゼロですね」
「まタ樹の勝チネ! くろートヨネチャ、ダメダめネー」
 ヨーヨー釣りでは久朗と米衛門が、樹に破竹の連敗街道。
 雪辱を期して金魚すくいの勝負を米衛門が持ちかけたが、樹が「イキモノに責任持ちたくない」として勝負不成立。
 その代わりということでもないが、金魚すくいでは朝霞とジャスリンが白熱した勝負を繰り広げる。
「狙うのは、大物よ! あの黒いでめきんをゲットしてやるわ!」
「キミ達もボクと一緒に暮らしてみないかい?」
 威勢よく上がる、水しぶき。
 ――力任せにポイを水に突っこみまくる世紀の凡戦でした。
 何度やっても金魚をすくえない2人を尻目に、隣ではちょこっとやってみたセラフィナがさくさく金魚をゲットしていたりして。
「おかしいな……ねぇ、キミ上手だね。ボクに手取り足取り教えてくれないかい」
「わっ、僕ですか? お教えするといっても、僕も今やってみたばかりですし……」
「セラフィナさん、お上手ですね。ちょっと私にもコツを教えてくれませんか!?」
 意外と金魚すくいが上手かったセラフィナに、ジャスリンと朝霞で教えを請うという悲しいのだか微笑ましいだか、という光景になる。
 そんなお祭りの1コマ1コマを、つくしはこーっそりカメラでパシパシと撮影。何気ない日常を丁寧に切り取っていった。
 次なるシーン。ファインダーを覗くと、メグルが米衛門と一緒に射的に挑んでいた。
「あっ射的……! 私もやりたいですっ!」
「おーつくしもやれやれ!」
 カメラをしまい、スノーに銃を渡されるつくし。嬉しそうに銃を構え、景品を品定め。
 色々良いところのなかった米衛門は、射的ではガチな眼光。
「前はいっぺん外したんで、調節はしっかとするッスよ」
「マジになるのも程々にな」
 米衛門が銃口を向けポンッと撃つと、小さな駄菓子の箱を落とした。射的に関しては確かな力量を持っているようだ。もっとも射的をする頃には、久朗も樹も参加はしていなかったが。
 久朗は屋台の売り子から花火観賞の穴場を聞きだしてそこの確保に向かい、久朗が抜けたので樹も参戦理由がなくなり見物に移行、という流れである。
「つくしもあまり夢中になりすぎないようにして下さいね」
「わかってるよーメグル」
 わくわくして射的に興じるつくし。横でメグルが見守っていると、その隣に朝霞が自信満々の表情で立った。
 やったったる、って雰囲気(だけ)が出ていた。
「ふふっ。スナイパーとしての腕を魅せる時がきたようね!」
 どやっと撃ち出した希望の弾丸は……。
 素晴らしい確度で景品を外れていった。
「どうして……!」
「朝霞、まぁ、気を落とすな。今日は調子が悪かったんだろう」
 終始、朝霞の挑戦を眺めていたニクノイーサは、この日一番の優しさで彼女を慰めてあげた。

 遊戯の見物に飽きたシルミルテはセラフィナを連れて、またぶらーっと屋台を巡っていた。
 セラフィナの手にはりんご飴、シルミルテの頭には兎のお面がひっついている。セラフィナが買ってくれた物だ。
 そのお返しに何か買ってあげたい、と思ってキョロキョロしながら歩いていると、シルミルテのアンテナにビビッと反応する物アリ。
「ほラ! セラフィナ! 光るブレスレット! オ揃いデ買オ!」
 そう言って彼女が指差したのは、サイリウム的なブレスレット。そのヘンテコなブツが気に入ったシルミルテは2つ買い、片方をセラフィナの手首につけた。
「オ揃いネ!」
「綺麗ですね!」

「ニック! もうすぐ花火の時間みたいだよ! 観に行こう!」
 射的のダメージから復帰した朝霞は、迫る時刻に気がついてニクノイーサの肩を叩いた。
 祭りの遊興もそろそろ佳境。
 最後の花火を楽しむために、皆は久朗の待つ場所へ向かった。

●花火を感じて

 久朗が場所取りしてところは、多少祭り会場から離れた場所にあった。長い傾斜を上った末のそこは、空と海とその境界が実によく見える。人はまばらで、花火観賞には絶好のポイントだった。
「わー! 静かで良い場所だねいつきちゃん!」
「そうだね。くろーもたまには役に立つね」
「……」
 つくしと一緒にいちご飴を手にして坂を上がってきた樹に対し、久朗はじっと視線を送るが、樹はまったく取り合わずにつくしと話しこむ。
 その樹らに遅れること少し、両手に大量の景品を抱えた米衛門がやってきた。自身が射的で獲得した物に加え、樹の分も受け持ったらしい。
 続いて次々仲間たちがやってきて、全員揃った頃になると。
 天に光が灯った。炸裂音が重く響き、一瞬の輝きが絶え間なく空に散る。
 黒い空、明滅。人々が目を奪われ、その場を静けさが覆った。
「花火の下で飲むのも、悪くないですね」
 片隅で日本酒を飲みながら、メグルは打ち上がる花火の美を楽しむ。つくしはだいぶ楽しんでいたようだったし、今日はメグルにとっても良い1日だった。
 静かに楽しむメグルとは対照的に、朝霞は花火に興奮気味。
「ニック、見て!」
「花火とやらをちゃんと観るのははじめてかもしれんな。なるほど、火薬をあんな風に使うのだな」
「私がたーまやー! って言うから、ニックはかーぎやーって言うのよ!?」
「……なんだ、それは?」
「まぁ、約束事みたいなものよ。ほら、たーまやー」
「かっ……、かーぎやー」
 戸惑うニクノイーサを置いてきぼりに、朝霞はもう一度、渾身の「たーまやー」。
 ラルフとファランはのんびりと花火を眺める。
「花火は初めて見るが凄いな」
「外国の花火に詳しいって訳じゃねぇが、日本の花火は最高だな」
「外国?」
「ん? あぁ、ガキの頃はフランスにいたってだけだ」
「そうか……」
 瞳の色が違うから少し苦労した、とラルフから聞いていたファランは得心がいったように頷いたが、胸のうちにはわずかなひっかかりがあるのだった。
「……この音は、こんなに綺麗な色をしてたんだね」
(「そうやで。めっちゃ綺麗やろ。まだまだいっぱい、色んなモン見よな、ケイ」)
 音ではなく光で、恵は『花火』を感じていた。徒靱の言葉に小さく頷いて、恵は静かに、色の舞う空を見つめる。
「見てよ、ヨウ。綺麗だね……花火もだけど。ほら、花火に照らされた人達の笑顔。ボク達が守ってるんだよ」
「……そうだね。今日の事件がそのままだったら、この時間もなかったのかな」
 いつも飄然としたジャスリンが珍しく静かになったので、謡も黙って、守った笑顔たちを眺めることにした。
「近くで見ると迫力がすごいですね」
「そうだな」
「大変な事がたくさんありましたから、穏やかな一日もうんと楽しんで大切にしなきゃですね」
 セラフィナと言葉を交わしながら、久朗は今この時の日常を愛おしく感じた。シャーム共和国での激動を駆け抜けた後の日常を。そう考えることができるのも、出会った者たちのおかげなのかもしれない、と思いながら。
(この先、いつまでこうしてみんなと一緒にいられるのかな……)
 樹は久朗と同じように日常に愛おしさを感じながら、しかしその先にある終息を思わずにいられなかった。
 そこに、その思いを吹き飛ばすような、明るい声。
「せっかくのお祭りだし、みんなで写真とかどうかな? カメラ持ってきたから写真撮りたいっ!」
 皆が声のほうを向くと、つくしがカメラを持って満面の笑みを浮かべていた。
 みんなで写真を撮ろう!
 そう言ってその場にいた全員を集めると、近くにいたお祭り客に撮影を頼んで、つくしもその輪の中へ。

「また来年も来よう! みんなでね!」
 つくしが心底楽しそうな声で言うと、旧知の仲間も、今日初めて会った仲間も、和やかな笑みを返してくれた。
 この愛おしい日常は、きっと続く。
 明日も、来年も、その何年後も。
 祈りを込めて、写真を撮ろう。


 映し出された彼らの笑顔は、何てことない日常の1コマ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • Gate Keeper
    赤嶺 謡aa4187
    獣人|24才|?|命中
  • Gate Keeper
    ジャスリンaa4187hero001
    英雄|23才|?|ドレ
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • 巡り合う者
    ファラン・ステラaa4220hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 見えなくとも感じる『心』
    蜷川 恵aa4277
    人間|17才|女性|生命
  • 気さくな英雄
    徒靱aa4277hero001
    英雄|28才|男性|バト
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