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花火大会へご招待!
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相談卓(一応
最終発言2016/08/12 21:45:48 -
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最終発言2016/08/08 06:38:03
オープニング
●花火大会へご招待
夏の風物詩、花火大会。たくさんの光の華が夜空に咲く。
「せっかくなので、これ、エージェントの皆さんに配りますか」
H.O.P.E.が協賛企業として参加する花火大会の優待席チケットが息抜き企画部に持ち込まれた。
優待席チケットを持っていくと、とても見晴らしのいい特等席で花火を鑑賞することが出来る。
僅かな枚数である為、公募の上、希望者が多ければ抽選、という形になるだろう。
「息抜きにもいいですし、花火大会と言えばデートもいいですしね」
「そうだなぁ。じゃあ、募集用のチラシをよろしく頼むよ」
こうして、花火大会へご招待! という張り紙がH.O.P.E.で貼りだされた。
●貼り紙
この夏、日本の花火大会へ足を運んでみませんか?
H.O.P.E.からなんと、数組の方にペアチケットとして優待席のチケットをお渡しします!
優待席は川のほとりに面しており、一番近くで花火を堪能することが出来ます。
周りも他の場所より混雑しておらず、ゆったりとしたひと時を過ごせるでしょう。
この花火大会で打ち上げられる花火の本数は2万発以上!
大変込み合っている人気の花火大会です。
屋台も会場付近にたくさん出されています。
(リンゴ飴、かき氷、チョコバナナ、ソース焼きそば、クレープ、フランクフルト、たこ焼き、お好み焼き、ヨーヨー釣り、お面屋、など)
迷子にならないように気をつけましょう!
気になる方は息抜き企画部までお越しください。
●打ち上がる花火予定
時刻は夜7時頃から。
1.スターマイン(速射連発花火)
2.型物花火(にこちゃんマーク、ハート、星、雪だるま、土星、ネコ、ヒヨコ、イルカ、蝶々、カタツムリ、H.O.P.E.ロゴなど)
3.ナイアガラ
4.しだれ柳連発
解説
●目的
花火大会の満喫
●花火大会会場
人が多く、混雑している花火大会です。
屋台もたくさん出ています。花火が始まる前に屋台を楽しんでも構いません。
優待席への食べ物、飲み物の持ち込みは許可されています。
優待席は平らな地面に二人組用に二人で座るには少し大きめのシートが幾つも敷かれています。
空いているシートを選んで座れます。
●花火の種類について-
・スターマイン(速射連発花火)
カラフルな所謂ノーマルタイプの花火がどんどんと打ち上げられて行きます。
・型物花火(にこちゃんマーク、ハート、星、雪だるま、土星、ネコ、ヒヨコ、イルカ、蝶々、カタツムリ、H.O.P.E.ロゴなど)
変わった形の花火が打ち上げられますが、きちんとした形に打ち上げられる率は割と低いです。きちんとした形が見れたらハッピーです。
・ナイアガラ
ワイヤーに無数のランスという細い筒に入った花火を吊り下げ、上から火をつけ、まるで光が滝のように流れていく花火です。
横幅は長く、川の海面にも光が反射されとても壮大で美しいです。
最後は煙に辺りが包まれます。
・しだれ柳連発
緩やかにカラフルな様々な花火を再度打ち上げた後、フィナーレにしだれ柳が打ち上げられます。
光が空中で垂れ、暫く残る様はまさしく、しだれ柳そのもの。無数のしだれ柳が夜空に舞い、黄金の光が視界を埋め尽くすでしょう。
リプレイ
●
花火大会当日。
「着せてやるから二人共さっさと脱げ」
礼野 智美(aa0406hero001)が中城 凱(aa0406)と離戸 薫(aa0416)に向かってずばっと告げる。二人は驚いたような顔をして智美を見ている。
「……おい、智美。確かにお前が着物の着付け男性も女性も出来るのは知っているが……」
凱が智美にそう言うも問答無用。凱も薫も彼女の手によって浴衣へと着替えさせられた。
「……此奴女の自覚あるのか本当に……」
「……僕も覚えたいから今度凱のお爺ちゃんに教えてもらおう」
凱が智美を見ながら唸るように呟き、薫は決意をするように一つ頷く。智美はさっさと別室へ向かい今度は美森 あやか(aa0416hero001)と自分の着付けを始めた。
ちなみに凱は青藍、薫は緑地の浴衣だ。
少しして智美とあやかが戻ってくる。
「……お前男の着付けかよ」
「女着付けは俺には似合わんだろうが」
智美の浴衣を見て凱が突っ込むと彼女は当たり前のように返す。智美の浴衣は黒地に月とススキの柄が入った男物だった。
「あやかさん浴衣持ってたっけ?」
「凱さんのお母さんの娘時代の物いただいたのですよ」
薫が自身の英雄あやかに問いかけると微笑んで凱に視線を向けながら答える。彼女は青地に朝顔が色々咲いている絵柄の可愛らしい浴衣だ。髪結いを出来る者がいなかった為、浴衣に合うように三つ編みをポニーテール風に頭の上に持ち上げてある。
四人は一緒に下駄をからころと鳴らしながら会場に向かった。
「どう、一真? 私似合ってるかな?」
月夜(aa3591hero001)は濃藍色の地に白い月下美人の花が描かれた、気品ある雰囲気の浴衣を纏いくるくると回りながら沖 一真(aa3591)に問いかけた。
「お、おう。綺麗だぞ」
「ふふ、ありがと」
少しどもりながらも素直に答える一真。すると月夜は嬉しそうに微笑む。
一真も緑と白の細い縞の地に、涼しげな竹や笹の絵柄が描かれている、落ち着いた雰囲気の浴衣を着て彼女の隣に並ぶ。
これから二人で花火大会に出かけるのだ。一真と一緒に花火を見れるとあって月夜はとてもご機嫌だ。
二人は足並みを揃えて会場に向かう。
花火会場の付近はまだ開始まで時間があるにも関わらず驚くほど人で溢れていた。
この人混みの中、一真と月夜ははぐれないよう寄り添って歩く。
その前方、屋台が犇めき合う会場前辺り。
「こないだは楽しかったねー」
と、わたあめを齧りつつ榛名 縁(aa1575)が連れの二人へ思い出話を振る。先日、ここにいる三人、緑、ウィンクルム(aa1575hero001)、俺氏(aa3414hero001)と鹿島 和馬(aa3414)と天都 娑己(aa2459)、龍ノ紫刀(aa2459hero001)を合わせたメンバーで遊園地へ行ったのだ。
「二人、うまくいって良かったね。でも今日は一緒じゃないの?」
二人とは和馬と娑己のことだろう。緑が俺氏に問いかけると、俺氏は軽く頷いた。
「和馬とは別行動だよ。文字通り、馬に蹴られたくないしね」
「おまたせー」
俺氏が普段と変わらない平坦なテンションで答えてる中、紫刀が三人の元に駆け寄ってくる。
「浴衣姿も綺麗だねー場が華やぐ感じする」
「ありがとー。二人も浴衣似合ってるよ」
紫刀の浴衣姿を見て縁が素直な感想を口にする。彼女も縁とウィンクルムを交互に見て笑顔を返した。ちなみに俺氏は普段と変わらない白いローブ、である。
「何の話をしてたの? 三人で盛り上がってたけど」
「この間の遊園地の話です。楽しかったですね、と」
「あの時は縁さん達の姫抱っこ写真も大好評だったよね」
紫刀の問いかけにウィンクルムが答えると、楽しそうに一番に思い出したことを紫刀が口にした。えっ、という顔をする二人。大好評だった、ということをどうやら知らなかったようだ。
そんな感じで四人楽し気に話しを続けながら屋台を回っていく。
彼等四人とは別行動をしている和馬と娑己は2人だけの待ち合わせをしていた。
二人はまだ恋人になりたて。緊張感のある付き合い立て特有の初々しい甘酸っぱさが漂っている。
黒地に白線縞の浴衣に灰色の和柄帯。信玄袋を携えた和馬の姿に娑己の心臓はドキドキと高鳴っていた。顔が仄かに熱いのは気温のせいだけではないかもしれない。
「……あ、……浴衣、すげぇ似合ってんな。かわいいぜ」
娑己の浴衣姿、――白地に薄赤い睡蓮柄の模様の浴衣に赤い帯、桜のヘアピンで髪をアップにした、そのより可愛らしい姿に見惚れて言葉を無くしていた和馬が我に返り、素直な気持ちを口にする。
「ありがとう」
と、頬を一層赤らめ嬉しそうに答える娑己。
「写真、撮っていい?」
スマホを取り出して問いかけると少しはにかんだ笑みを浮かべて娑己は頷いた。彼女の滅多に見れない浴衣姿を和馬は写メに収める。
「はは、サンキュな……んじゃ、行こうぜ?」
そう言って大切そうにスマホをしまい、微笑んで片手を差し出す。差し出された手に娑己はそっと自分の手を重ねる。
二人は手を繋ぎ屋台巡りへと赴いた。
●
「花火大会かあ。風流だよなぁ」
「そう言いながらとーま、何かちょっと元気ないにゃ」
猫井 透真(aa3525)の顔を覗き込む白雪 沙羅(aa3525hero001)。
「ああ、友達と一緒に来る予定だったんだよ。急な用事で来られなくなっちゃってさ」
少し気落ちした様子を見せながら透真は答える。一緒に来る予定だった相手のことを考えるとため息が零れた。
「そーだったのにゃ。ダイジョブにゃ! とーまには沙羅姉さんがついてるにゃ!」
そんな透真を沙羅が明るく元気付ける。ほんの少し、透真に笑みが戻った。
「はは。そっか。うん。沙羅ありがとな。折角だから、友達にお土産買って帰ろうかな」
人混みと屋台が並ぶ辺りを見回しながら透真は友達の顔を浮かべて考える。
(あの子は何が好きかな。消えるものより、形に残るものがいいかな……)
これだけ屋台があれば景品が貰えたりお土産のようなものが売っている屋台もあるだろう。探そう、と足を踏み出した。
その屋台の一角、射的屋。月夜が挑戦してみるも当たる気配がない。
「俺に任せな」
「う、うん。頼りにしてるよ」
一真の言葉に大人しく銃を彼に渡す月夜。狙いを定めて一撃、黒猫の小さな手のリサイズのぬいぐるみが揺れる。が、落ちない。追撃にもう一度引き金を引く。揺れてバランスが崩れていた黒猫は倒れて落ちた。
「っし、ほら」
店の人から渡された黒猫のぬいぐるみをすぐ月夜の前に差し出す一真。他にも取りやすそうなものもあったが、やはり月夜が好きなもの、を選んだのだろう。両手で受け取る月夜。
「あれ? いい雰囲気?」
月夜の後ろから紫刀が冷かしで声を掛けた。突然のことにびくっとする一真と月夜。
「手渡す瞬間はしっかりシャッターに収めたよ」
冷やかし二号、デジカメを構えた俺氏も姿を現す。
「あぁ、紫刀は綺麗だな」
「……!?」
人に見られた恥ずかしさに赤くなりながら咄嗟に紫刀の浴衣を褒める。が、その言葉に月夜が一真を振り向き驚いた顔を見せた。
「い、いや、お前が一番ききき綺麗だと思うよ」
慌てて小声で弁明する一真。月夜はため息を吐いた。
「妙に説得力薄い」
月夜の一言に一真はうっ、と言葉に詰まる。今回の花火大会で月夜が喜ぶことを、と考えていたのに天性的なずぼらさでやらかしかけてしまった。あそこのわたがしでも買おう、と月夜に声を掛ける一真。
そんな青春真っ盛りの二人のやり取りを近くで聞いていた縁とウィンクルム。縁は今度はリンゴ飴を手にしている。
「このリンゴ飴より甘酸っぱいかも?」
「おなかが一杯になりそうですね」
くすっと縁が笑いを零すとウィンクルムも同意するように頷いた。二人の視線は優しく暖かい。
そして四人は二人に、頑張って、と声を掛け離れていった。
さて、俺氏デジカメのメインターゲット。屋台を二人のペースで巡り、繋いだ手の温もりに自然と頬が緩んでいる和馬。娑己は繋いだ手にドキドキとしている。
冷やかしの言葉と共にデジカメで二人の姿を激写していく俺氏。和馬は冷やかされても娑己の手は離さなかった。照れくさそうな和馬に頬を染めえへへ、と幸せそうな娑己の姿が写真の中に収まる。
「後で画像データ送れよ」
と、和馬が俺氏に声を掛ける。サムズアップを和馬に送る俺氏の服を紫刀が引いて、仲良く別の屋台の前で話をしている縁とウィンクルムも撮るように促した。微笑ましい一枚が撮れる。こうやって俺氏のデジカメには皆の思い出が積み重なっていく。
「……はぁ……結局1人で来ちゃいましたね……」
その近くで優待チケットを見ながらため息を零す蒼咲柚葉(aa1961)の姿があった。勢いで一人で来たものの一緒に来れなかった相手の姿が脳裏に浮かぶ。ふるふると頭を横に揺らし、チケットを誰かカップルにあげようと行動を起こした瞬間、風に煽られてチケットがはらり、と落ちる。それは丁度俺氏の足元に舞い落ちた。
「ごめんなさい……!」
チケットを拾う俺氏に柚葉が声を掛ける。俺氏がチケットを手渡しながらどうしたの、これ、と訪ねると柚葉も同じくH.O.P.E.から優待チケットを貰ったのだという。
「一人なら俺氏達と一緒に行かない? 皆でまわるのも楽しいよ」
「ありがとう……。でも誰かに譲ってあげよう、って思ってるからっ!」
俺氏の優しい誘いに礼を述べ、明るく振る舞う柚葉。でも、と俺氏が言いかけると再度「ありがとう」と言って柚葉はその場を離れた。俺氏の傍に紫刀の姿を認めていた為、カップルの邪魔は出来ない、と勘違いしたからだ。
「1人で使うより幾分もマシだし……」
柚葉は自分に言い聞かすように呟くとチケットを譲れそうなラブラブカップルを探して人混みの中へ姿を消した。
「やっぱり人多いね」
「はぐれるなよ、薫」
凱がしっかりと薫の手を握る。人混みの中、遅れ気味になる薫とあやか。あやかの手は智美が引いている。
「去年は僕が妹両手に引いて、もう一人は凱が手を引いたり抱っこしてたけど……」
薫が凱に話しかけながら隣で智美に手を引かれているあやかの顔を見て寂しさを見て取り首を傾げた。
「手を引かれるのは慣れている気がするんですけど、智ちゃんに花火会場で手を引かれた事はない気がして……」
それに気が付いたあやかが薫を安心させるように理由を話す。
「あ……あやかさん、前の世界に恋人いたっぽいんですよね。何時もはその人に手を引かれていたのかな」
「……多分、そうなんだと思います」
二人の会話は凱と智美には聞こえてない。
「祭りの時の焼きそばって美味しそうに見えるんだよな」
と、言いながら凱は焼きそば、お好み焼き、たこ焼きにフランクフルト、と軍資金で色々夕飯代わりに買い込む。
「あれ、智美はそっち買うのか?」
「さっき凱が買ったのよりこちらの方が野菜が多い」
智美が買うものを覗き込む凱。智美が親のようなことを言う。
「妹達が『おみやげ~』って言ってたし」
「何か買って帰らないと拗ねるでしょうね」
ご飯物の屋台が続くと、薫とあやかがリンゴ飴に鼈甲飴、綿菓子をチョイス。風車を3つ、その後にかき氷と薫とあやかの手は塞がってしまい、見兼ねた凱と智美がご飯物や飲み物の殆どを持つ。
(昔はお面屋なんかも見たりしたけど……生き物は金魚一択だったよな。家が病院だから金魚以外駄目って言われてたっけ)
屋台の合間を縫って会場に向かいながら凱は昔のことを思い出していた。
そしてその屋台の一角。イカ焼きの前。
「とーま! お腹空いたのにゃ! イカ焼き食べたいにゃ!!」
「お腹空いたって、夕飯食ってから来たのに……てか、そもそもお前猫だろ!? イカ食ったら腹壊すんじゃないのか?」
と、透真は沙羅に突っ込む。
「猫は猫でも化け猫にゃ! 化け猫はイカくらいでやられはせんのにゃ!」
沙羅の言い分に仕方なくイカ焼きを一つ買う透真。が、その後すぐに
「とーま!! チョコバナナも食べたいのにゃ!」
「はぁ!? イカ焼き頬張ったまま何言ってんだよ。猫にチョコって毒じゃなかったか!?」
「だから化け猫はチョコくらいでやられはせんのにゃ!」
化け猫って都合良く出来てんのなー……。と、半ば諦め気味にチョコバナナも一つ購入。
「とーま。豚キムチ食べたいのにゃ!」
「お前どんだけ食う気なんだよ! ってかキムチも刺激物だろ。猫の身体には悪い……。」
「とーま! いちいち猫扱いするんじゃないにゃ! 私は英雄で、誇り高き化け猫にゃ! 人間と同じもの食べても大丈夫にゃ!」
きっぱりはっきり言い切る沙羅。しかし、透真は財布の中に視線を落とし……
「……大見栄切ってくれたけど、お前の食欲のせいで俺のバイト代ほとんど残ってないからな?」
泣きたい気持ちの透真である。その時大きな花火の音がその場に響いきた。花火がついに始まったようだ。
「って、うおあ! もう花火始まってるじゃないか……! ほら、沙羅! 席戻るぞ!」
「いやにゃああ! まだ食べたりないのにゃあああ!!」
沙羅の首根っこを掴み連れていこうとする透真に沙羅はジタバタと暴れる。完全に食欲魔人、いや化け猫だらから食欲魔猫だろうか。
「お前どんだけ食えば気が済むんだよ!!」
そんな透真の悲痛な声は打ち上げられる花火の音に掻き消された。
●
屋台の戦利品を味わいつつ夜空に上がった花火を見上げわくわくとする縁。
「わー始まったねえ」
「これはまた……圧巻ですね」
「ウィンはここまでおっきな花火大会。初めてだもんね」
隣のウィンクルムに花火から視線を向けて縁は目を細める。打ち上がる度に花火は辺りを鮮やかに照らしだした。何度も何度も空を光の華が彩る。また縁は空を仰ぐ。
ゆっくりと鑑賞する縁の横顔はとても楽しそうにウィンクルムには映っていた。
「随分と花火がお好きな様ですが何か特別な理由でも?」
「んー、綺麗だから……かな?」
問いかけられると縁は考えながら答える。そう、綺麗に夜空が輝いている。
「たーまやー!!」
彼らの前方のシートには和馬と娑己が寄り添って座っていた。娑己が楽し気に声をあげる。
「やっぱ生で見る花火は迫力が違ぇな」
和馬も大きな腹の底に響くような花火の爆裂音と眼前に広がる花火の勢いに感嘆している。
その横のシートには二つのシートをくっつけて4人で座っている凱達の姿があった。あやかが異性が苦手な為、三人で護る体制になっている。
彩られる空を見上げながら買い込んだものを食べつつ凱はふと感慨にふける。
(そういえばいつもは立ち見で、座って見る事は殆どなかったよな)
と。そして智美とあやかの顔をちらりと見遣った。
(……去年に比べると、随分変わったよな)
智美とあやかが来たのは9月初め。去年の今頃はリンカーになるなんて欠片も思っていなかった。けれど今、薫と共にいれるのは僥倖だった。
そして花火のプログラムはスターマインから型物花火へと移っていく。
「えーと……にこちゃん?」
「どことなく哀しげでしたが……」
縁とウィンクルムは型物当てゲームに興じていた。形がうまく形成されない為、にこちゃんマークが哀し気な表情になることもある。
「ねこさんだよね」
「私には狼に見えました」
「えええそんな凶暴そうだった?」
ウィンクルムの答えに驚く縁。多分正解は猫だろう。
「今の、俺氏さんに似てたかも?」
「見逃してたよ。鹿だった?」
新たに打ち上がった花火を見ながら首を傾ける縁に隣のシートに座ってた俺氏が答える。俺氏は前方のシートの和馬と娑己をうまく花火と一緒に写真に撮ることに専念してた為、見逃していたようだ。
「あ! あれハートだねっ」
「? あれなんだろな……シャチ?」
前方の和馬と娑己も打ち上がる型があれだなんだ、と楽しんでいる。
そこへH.O.P.Eロゴが夜空に浮かび上がった。
「きたー!」
と、二人で万歳する縁とウィンクルム。が、それが変に型崩れしてしまい、がくっとする二人。直後、ぷっ、とおかしくなって同時に噴きだした。
「崩れても、これは嬉しいよね」
そんな二人の様子を微笑まし気に見て紫刀がH.O.P.Eロゴの感想を口にする。瞬間、今度は綺麗にH.O.P.Eロゴの花火が型崩れなく打ち上がった。
型物花火で周りがわいわい、とし始めた頃、一真は月夜の手を引いて立たせる。
「なぁ、向こう行こうぜ」
「え、あっち誰もいないけど……」
「そ、その方が静かに見れるだろ」
不思議そうな月夜を連れこっそりと人気の無い場所に二人っきりで移動した。
だが、暫く二人とも何も話題を出せずに沈黙する。ナイアガラの時間だからか花火の音も聞こえてこない。
「なぁ、俺と一緒で、良かったか? 楽しかったか?」
思い切って一真が切り出した。その問いかけに月夜が顔を上げる。今は暗くて一真に月夜の表情が見えない。
「私は一真と一緒に行きたかったの。それより、一真はどう? 私といて楽しい? 面白い?」
今度は月夜が一真へ問いを重ねる。少しの間の沈黙。
「そりゃ、勿論――だし、な。」
とても小声で殆ど聞こえない声で一真は答えた。月夜がぎゅっ、と両手を握る。その手の中にはさっき一真が取ってくれた黒猫のぬいぐるみの姿があった。
「……そこもっと自信持って言ってよ。その言葉待ってたんだから」
月夜がそう言った瞬間、フィナーレの演目の花火が打ち上がり彼女の表情が浮かび上がる。その表情を見れたのは一真ただ一人。
「わかった、じゃあ誰にも聞こえないように言うぞ」
耳打ちで一真は気持ちを月夜に伝えた。月夜の方から肩を寄せ、花火の上がる空を二人で見続ける。
静かな穴場とも言える場所に柚葉は一人でやってきていた。打ち上がる花火の光に辺りが照らし出される。
「ここ……なんだか落ち着くな……」
ぽつ、っと呟きながら色とりどりに夜空を飾る花火を見つめる。暫くは黙って見つめていたもの途中でスマートフォンを取り出した。
ピッ、と誰かに電話を掛ける。呼び出し音が鳴る。花火の音が遠くなったような気がした。
せめて、隣に居なくても、声だけ聞けたなら……寂しい気持ちが和らいで残りの花火を楽しめるだろうか。
電話口から、声が聞こえた。
「今年の花火って今まで見た花火の中でも一番キレイな気がする……。きっと和馬さんと一緒だから……かなっ」
幸せ一杯の笑顔で和馬の顔を覗く娑己。
「……綺麗だな」
和馬も意識せずに視線を娑己に向けていて二人の瞳が重なる。黙ったまま見つめ合う二人。娑己の瞳に吸い寄せられるように和馬は顔を寄せる。何かを意識しドキドキと鼓動が早くなり娑己にはそれが心臓の音なのか花火の音なのか分からなくなる。もう少しで触れそう、心臓が破裂寸前――特大花火の大きな音が二人の意識を花火会場に引き戻した。
「……ぷっ」
「……ははっ」
思わず吹き出し顔を合わせて笑い出す二人。
胸に響く花火の音と、二人で居られる幸せを胸に刻み噛みしめて二人また明るい光が躍る夜空を見上げた。
幸せそうな二人を見てほっこりする縁とウィンクルム。そしてまた花火に視線を戻す。フィナーレ前の緩やかな花火。
「……儚いから、かなあ」
縁は唐突にぽつりと呟いた。不思議そうな顔をするウィンクルム。
「宇宙の年齢に比べたら人の一生ってほんの一瞬でしょ。この、花火みたいに」
「儚いからこその美しさ……でしょうか」
「そんな感じ」
命の輝きと似てる感じ、するから、好きなのかも、って。と付け足す縁。彼はそのまま話し続ける。
「僕の花火ね。ウィンと出会う前はちっさかったんだけど、出会ってからは……」
ウィンクルムへ視線を戻して縁は空を指さした。
「今の花火、あの位にはおっきくなった気がしてる」
「……私の花火は。貴方がいなければ散ったままだったでしょう」
縁の言葉に小さく微笑みを零し、今この時の平和な幸せを思いながらウィンクルムは空を仰いだ。すると丁度フィナーレのしだれ柳が打ち上がる。その数と勢いはフィナーレを飾るに相応しく視界一面に金色が咲く。
「どうせなら、この位豪勢な花火を目指しますか?」
そんな金色の空を今度はウィンクルムが指さして問いかけた。くすっと縁は笑う。
「こんな派手じゃなくてもいいかなあ。目立たなくても僕たちだけが出せるような綺麗な色がいいな」
「きっと、咲かせられますよ」
ウィンクルムへ向く縁の紫色の瞳は花火の光で煌めいていた。
それぞれの想いの真上で盛大に咲き誇りそして花火は消えていく。
「……綺麗……」
柚葉はフィナーレのしだれ柳を見つめながら呟いた。花火が消えて静寂が訪れる。何だかそのまま帰るのも、という気持ちもあって、終わりつつある会場を少しだけ回って帰ることにした。
人が徐々に捌け、侘しさがと喧騒の余韻が残る会場。暫くぼんやりと佇んでいたがスマホが震えた。メールが来ていたのだ。
「あっ……もうこんな時間……帰らないと……!」
メールを確認した後、時間に目を止め慌てて踵を返す柚葉。その足取りは少し軽やかだった。
●
花火が終わる少し前、沙羅に引っ張られ花火会場から出ていた透真は一緒に来れなかった友達の為に花火がデザインされたストラップを買った。鮮やかな花火を見事に表している。
結局沙羅に振り回されて花火をじっくり見ている感じではなかったが、まあいっか、と透真は思っていた。
それよりもこのお土産をあの子が喜んでくれるといいんだけど。と、買ったストラップを見つめていた。
そして、花火が終わった後、帰ろうかと娑己が立ち上がった瞬間バランスを崩し倒れそうになる。が、和馬が間一髪のところで咄嗟に支えた。
「大丈夫か? ……ああ、鼻緒が」
娑己を座らせて確認すると彼女の下駄の鼻緒が切れていた。
「こう暗いと流石に直せねぇな……と言ってこの混雑じゃタクんのも難しいか」
辺りを見回して人混みが出口の方へごちゃごちゃと移動しているのを見て取ってから徐にしゃがんで娑己に背を向ける和馬。
「乗ってくれ、家まで送ってく」
ただただ娑己を案じて自然に出た行動だった。下心は一切ない。しかし、娑己が言われた通り和馬の背に乗ると密着した予想外の柔らかい感触に心臓が跳ね上がる。
(か、考えてなかった……やべぇ、頑張れ俺の理性)
そんな和馬の気持ちを知る由もなく、彼の優しさが嬉しくて自然に笑みが零れる娑己。和馬の背中が広くて温かくて、まるで花火が続いているみたいにドキドキしながらも心地良くて安心出来て……。
「また来年も一緒に見ようね」
和馬の耳元でとても幸せそうな声音で娑己は囁いた。
そんないちゃいちゃしている二人の後ろで縁達は俺氏と紫刀達と4人で「来年も一緒に来たいね」と談笑していた。俺氏は和馬達と一緒に帰ろうと思っていたが前方でおんぶする姿を見て彼らの元に近づくのを止めた。
縁達と途中で別れ、紫刀と共に和馬達の背中を暖かく見守りながら距離を置いて歩いてついて行く。二人にはまだばれていないようだ。
「ふむ……」
パシャリ、と微かな音と共にシャッターを切る。デジカメで撮ったばかりの写真を確認し、
「……良し」
と、俺氏は満足気に頷いた。
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