本部
鮮血の女帝(エンブレス)
掲示板
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相談卓
最終発言2016/08/09 06:49:13 -
質問卓
最終発言 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/08/08 06:36:35
オープニング
燃え盛る一つの寺の中に一人の女がいた。
女は笑いながら人を殺し、殺戮を繰り返していた。女の足元には幾つものの死体が転がっており、女はそんなもの気にも止めない様子で逃げ惑う獲物……人間達を次々と剣で容赦なく切り捨てていった。
数時間前。
殺戮が舞台となった場所は一見何処にでもある街外れの大きな某所の寺だった。
夜も更ける中ある一人の女が寺を尋ねて来た。寺の住職に向けて女はこう言った。
『光栄に思いなさい。あなた達は最初の犠牲者となるのよ』
そう告げるやいなや女は住職に向けて、どこからともなく取り出した剣で住職の体を貫いた。
住職の胸からは真っ赤な血が溢れ出て彼の着物を染め上げていく。住職は薄れる意識の中で疑問を何度も、何度も、幾度となく繰り返す。
……何故殺されなければならないか……と。
そして彼は女を見、そして気づいた。女の背後にいた愚神の存在に。
愚神に体を操られているのだと最初は思った。だが様子が明らかに可笑しかった。
そして住職は一つの答えに気づいた。
彼はそれを口にする前に口からはごふっと血が吐き出され、そして体がその場に崩れ落ちた。
彼は女を憎しみの目で睨みながら痛みと苦痛を抱え、永遠に意識を手放した。
女の名は“アディアス”愚神と協力関係にあるヴィランズの組織“漆黒の神”の幹部の一人だった。
住職を襲った理由は単純なものだった。
この寺の住職を殺し、僧侶達のライヴスを根こそぎ奪ったのち死体に従魔を憑依させ、街を襲い死体を増やしたのちH.O.P.E.を襲うつもりでいた。
幾ら彼女がケントゥリオ級の愚神と協力関係にあると言っても直接H.O.P.Eに一人で攻撃をするにはあまりにも心許ない。
だからその為の準備だった。それに彼女はある一つの目論見をしていた。
それは――――。
住職を殺したのち寺の中でアディアスは逃げ惑う僧侶達を容赦なく殺し続けていた。
寺の所々には赤黒い血が飛び散り、床は血の海だった。まさしく地獄絵図に近いもの。
そんな時声が聞こえ、アディアスは後ろを振り向く。
「そこまでだ! 大人しく捕まってもらうぞ。“漆黒の神”の幹部アディアス!!」
そこにはエージェント達がいた。
エージェントを見、アディアスは赤い唇を僅かに吊り上げた。
●死の女帝
「クソッ! あの女よくも神田崎を……」
寺の本尊近くの壁に隠れながら、拳銃を手にエージェントの亜久里優之介(あぐりゆうのすけ)は悔しそうに毒づいた。
彼とその仲間達は本部から連絡を受け、現場に駆けつけた。優之介達は僧侶達を安全な場所へと避難させ別の仲間がアディアスと戦闘をし、その後彼らと合流して仲間の援護をする予定だった。
だがそれが全て覆された。
アディアスと戦闘をしていた仲間達は次々と重症を負い、そのうちの一人は殺され、逃げ遅れた僧侶の何人かはすでに殺されていた。
その死体に従魔がとり憑いている為ゾンビのような動きを寺の外でしている。
またアディアスの愚神がドロップゾーンを生み出し、そのドロップゾーンからは侍のような姿をした従魔達が次々と姿を現していた。
最悪の結果だった。
そしてアディアスの愚神は一体の従魔を出現させると一人の青年……神田崎の死体へとそれを乗り移らせようとした。
(まさか! 俺達と戦わせる気か!?)
そう思うと同時に優之介は近くにいた仲間の鈴里に声をかけた。
「俺が奴を惹きつける。その隙にお前は僧侶達を連れ、この場から離れろ! そして本部に応援を頼め!」
そう告げると優之介はその場を駆け出し、アディアスの前へと現れ従魔へと銃弾を放った。攻撃を受けた従魔は跡形もなく消し飛ぶ。
それを見たアディアスは一瞬つまらなさそうな顔をし、そして優之介へと薄い笑みを浮かべる。
「あらぁ? たった一人でこの私に挑むのぉ? あなたの仲間達はもう瀕死だし、私には敵わない事は火を見るより明らかでしょう?」
クスクスと口許に手を当てながら可笑しそうにアディアスは笑う。
「うるせぇ! テメェだけは絶対に許さねぇ!!」
顔を歪めながら吠え、優之介は床を蹴り、アディアス目掛けて駆け出した。だが彼の足元にアディアスの魔法陣が出現した事に彼は気づいてはいなかった。
優之介は床へと倒れ付していた。
彼は今重症を負っていた。
腕、脚、腹部からは真っ赤な血が幾度となく流れ出るのが感じる。あの後アディアスへと彼は攻撃を繰り出したがやはりたった一人では厳しすぎた。
彼の近くには通信機が落ちていた。アディアスはそれを拾い上げた。
――なにを……する気だ!――
声を発する前に彼女は通信機へとスイッチを入れ、鈴が鳴るような美しい声で言葉を発した。
『H.O.P.E.の下等で、非力な皆さん早く助けに来ないとあなた方の大切な仲間が死んでしまいますわよ。そして私と戦いましょう。狂喜、復讐、鮮血にまみれながら』
それはある意味宣戦布告にも近かった。
●地獄の入口
本部から連絡を受けていたあなた達は現場へと向かっていた。
あなたの隣を走るシルフ・ハムレット(az0009)は前を見据えたまま真剣な表情で口を開く。
「連絡を受けた鈴里さんからの話によりますと寺の入口付近、本尊、そして御神木の先の森3、4メートル先にドロップゾーンがそれぞれあるみたいです。鈴里さん達は寺の入口近くまで移動は出来ましたがドロップゾーンがある為僧侶の方々と共に近くに身を潜め、また彼らを護りながら従魔と戦闘をときおり交えているみたいです」
「また優之介さんの方はアディアスと本尊の中で戦闘をしています。ですが……彼は重症を今負っているそうです」
シルフは一瞬顔を曇らせ、そして表情を切り替えて言葉を続けた。
「敵の攻撃は3パターンあるみたいです。一つは掌から赤い炎……野球ボールみたいな大きさの砲弾を生み出し攻撃してくるそうです。二つ目は剣で相手を切り裂き、三つ目は半径一メートルぐらいの魔法陣を相手の足元に展開し足元から炎の渦で攻撃して来るそうです」
「まったく面倒くさい敵ですね」
ラプンツェル・ゴーデル(az0009hero001)はシルフの言葉を耳にうんざりした表情をしながら吐き捨てるかのように言った。
「でも弱点はあるみたいです。それに三つ目の魔法陣は魔法陣の中から抜け出すと攻撃は免れるみたいです。ですが魔法陣自体は動き出す事が可能で炎の渦は一つの魔法陣につき使用回数が一度きりになるみたいです。再度攻撃するには、また魔法陣を発動しなければなりません」
「必ず敵を倒す突破口が存在します。それに皆さん達なら大丈夫です。私は皆さんを信じています。だから優之介さん達を無事助け出し“漆黒の神”の幹部アディアスをこの手で捕獲しましょう」
そうシルフは告げる。
そして徐々に景色が迫り階段を駆け上るとあなた達の目に寺の姿が映った。
解説
重症の優之介達を救出、同時にアディアスを戦闘不能にし愚神を倒した後捕獲の依頼
登場人物
亜久里優之介
エージェント(英雄と共鳴しているクラスジャックポット)
本部の依頼で現場に来たのだがアディアスに仲間を殺され、自身もアディアスとの戦闘中に重症を負う
鈴里
エージェント クラスバトルメディック
優之介達の戦闘中、隙をついて寺の入り口に移動をしているが従魔と出くわした為僧侶達を護りながら従魔と戦闘中になる
アディアス
漆黒の神”の幹部の一人。愚神ナタル(ケントゥリオ級)に体を貸し与え寺を襲う
残忍で残酷な性格をしている
攻撃1 掌から炎の砲弾を生み出し攻撃をする(5、6発程度)
2 接近戦になると剣で切り裂くように高速で攻撃する
3 ある一定の距離になると半径一メートル程の魔法陣を相手の足元に出現させ炎の渦を発動し攻撃する。魔法陣は移動可能
従魔ミーレス級
黒侍 妖刀で攻撃しながら相手のライヴスを吸い取る 数×15
ゾンビ 素手で攻撃する 数×10
PL情報
魔法陣は破壊可能。だが魔法陣を破壊すると従魔達がPC達に一斉に猛攻撃をする。アディアスの体力が減ると従魔を吸収しパワーアップして剣で攻撃する
命中率が高い
僧侶
僧侶3、4人鈴里と共にいる(残りは避難済み)
状況
入口付近のドロップゾーンから出て来た従魔(ゾンビ)と鈴里が戦闘中。寺の本尊に優之介とアディアスの二人が戦闘をしており従魔達(黒侍)と近くにドロップゾーンがある
また御神木の先3、4メートル先の森にドロップゾーンがある為、森から従魔達が寺に向かっている
ドロップゾーンは寺の入口付近、本尊、御神木の先3、4メートル先の森 全で三つになる
PC達は本部の応援要請でシルフと共に現場に向かっている。リプレイは寺の入り口から始まる
NPC
シルフ・ハムレット&ラプンツェルゴーデル
クラス ソフィスビショップ
お気軽にお申し付け下さい。無い場合は皆さんのサポートになります
リプレイ
「人命救助に悪人退治。おしごとおしごとー」
『危険な敵だ。注意して挑め。先に倒れた者達が得た情報を活用し、彼らの無念を晴らせ』
階段を駆け上がるギシャ(aa3141)へと英雄のどらごん(aa3141hero001)はそう告げた。
今回の敵はケントゥリオ級と言う事もあり、またこの依頼で既に倒れている者達がいる。その事も踏まえての言葉だった。ギシャはそれを理解し、どらごんへと明るく答えた。
「おー」
「久しぶりね、シルフ。今回もよろしくね」
レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は隣を走るシルフに真剣な表情をしながら声をかけた。対してシルフも彼女へと短く答えながら薄く微笑んだ。
「こちらこそ宜しくお願いします、レミアさん」
「それにしても、また現れたか……“漆黒の神”……!」
憎々しげに呟く狒村 緋十郎(aa3678)に同意するかのようにレミアは表情を変えた。それは酷く冷たく、冷酷に、吸血鬼の王女の顔だった。
「狂喜と復讐はともかく、このわたしの前で“鮮血”を語るなんて……身の程知らずにも程があるわね。その女の血、魔剣の糧にしてあげるわ……!」
●染められし者達の末路
寺にたどり着いたエージェント達がまず先に目にしたものは寺の入口付近で僧侶達を庇いながら必死にゾンビ達と戦う鈴里の姿だった。
鈴里の顔には疲弊の色が色濃く出ており、次々と繰り出される敵の攻撃を避け続けていっていた。
たった一人で戦うのに対し、敵の数が明らかに多い。このままではジリ貧だ。
そんな中、敵の中へと三人のエージェント達が身を投じた。
それは共鳴を果たしたフィー(aa4205)、レミア、シルフ達だった。鈴里は彼らを見、一瞬驚いた表情をするが直ぐに応援に来てくれたのだと悟った。レミアは即座に魔剣《闇夜の血華》(改造済)を召喚すると、その血色の巨刃を細腕で軽々とゾンビ達へと向けながら真横へと凪ぎ払う。
「シルフ!」
「任せてください!」
そう応えるようにシルフはレミアの攻撃に続きフェアリーテイルでゾンビ達に攻撃する。
羽根の生えた光の玉がゾンビ達にダメージを与えた。一瞬だけ怯み、再び攻撃を仕掛けて来ようとするゾンビに対し、レミアはそれを避けそして怒涛乱舞を発動した。
轟く爆発音と共に数体のゾンビ達がその場から消し飛ぶ。
「此処は任せなさい。ギシャは早く本堂へ。急がないと亜久里が死ぬわ……!」
「わかった」
ギシャ達は前を見据えながら力強く答えると、彼女達が作ってくれた道を駆け抜けていく。
だが、まだこれで終わりではない。残り数体のゾンビ達がフィー達へと襲いかかる。
「……ったく、なんとも趣味のいいこって。これだから屑ってもんは」
従魔の攻撃を避けながらフィーは忌々しげにそうぼやく。そんな中フィーの英雄のヒルフェ(aa4205hero001)の声が脳裏に聞こえた。
『オイ、確カ最近仕入レタ奴ガアッタヨナ?』
「あ? 確かそんなもんもあった気がしやがりますが」
『使エ』
「……ああいうのの扱いあんま得意じゃねーんですが?」
『イイカラ』
押しきるように言うヒルフェの言葉にフィーは仕方なさそうに、
「……しゃーねえですな」
そう言うと、怒涛乱舞を発動した。
二度目の爆発が従魔達を襲う。そしてフィーとヒルフェの言葉が同時に重なった。
「『あんたらに、死の救済を』」
その声が届くと同時に従魔達は炎の中で焼かれながら燃え尽きた。
「応援に来て下さって有り難うございます」
鈴里は安堵の表情を浮かべながらフィー達へと礼を述べた。そしてすぐある事に気づくとシルフへと切羽詰まった顔をしながら訊ねた。
「優之介……優之介は大丈夫なのですか!?」
「優之介さんの方は敵の攻撃を受けて重症を負っています。それで鈴里さんには一緒に本堂に来てもらい優之介さんの回復を頼みたいのですがお願い出来ますか?」
その言葉を聞き鈴里は一瞬顔を曇らせた。
それは自分達を先に逃がそうとした優之介に対する思いと、その身を心から案じての事だった。鈴里は表情を変え、強い瞳をしながらシルフに頷いた。
「んー、ドロップゾーンが近いみてーでやがりますが、あんたらだけで抜けられそうで? 不安ならついて行っちまいますが」
鈴里が本尊に向かう事に対しフィーは僧侶達にそう訊ねると、僧侶達は皆一同に頭を下げてフィーに同行を頼んだ。
結果フィーは僧侶達を寺の外へと送り、レミア達は本堂へとそれぞれ急いだ。
●死を導く魔物
リィェン・ユー(aa0208)とイン・シェン(aa0208hero001)の二人は寺の中を歩いていた。
寺の中を進むにつれ、床、柱の所々には赤黒い血が飛び散った後があり、その悲惨さを生々しく物語っていた。
「しかし……この時期にこの寺を襲うとはまた迷惑な奴がいたものだな」
『そうじゃな……無事に片付いたとしても檀家やこの街の人たちは大変じゃな』
「まぁ……こういった寺ってのは得てして霊脈やら地脈やら考慮しているから2次被害を広げるのには役に立つのだろう」
彼の台詞を聞き、それは的を射ぬいているのだろうとインは強くそう感じた。霊脈、地脈を考慮するには寺と言う場所は都合が良い筈だ。だから敵は寺を襲い、ドロップゾーンを生み出したのだろう。
『これ以上被害を増やさぬためにもさっさと切り込むのじゃ』
そう言いながらインは足を進めた。
暫く進んだ通路の先で二人は思わず足を止めた。そこには本尊へとゆっくりとした足取りで向かうゾンビと黒侍達の姿があった。従魔達はリィェン達の存在に気付いていない様子だった。
リィェン達は近くにあった壁に直ぐ様身を隠し、瞬時に共鳴をする。そして通路に続く壁を走り従魔達へと奇襲を仕掛けるように神斬でゾンビの首を跳ねていった。
『まったく、寺に出現させる従魔にゾンビを選ぶなんて悪趣味なやつじゃ!!』
「たしかに……時期的にはあってるのかもしれんがな」
彼の脳裏で憤りに近い感情を吐くインに対し彼はそう答える。
ゾンビ達がリィェンに気づき、リィェンへと攻撃をするが、攻撃は当たらず空振りへと空しく終わる。
リィェンは床へと降り立ち、黒侍達へと駆け出す。駆け出して来るリィェンに黒侍は妖刀を閃かせるがリィェンは攻撃を即座に回避する。そして身を低くし、足を狙いながら剣を振るった。
悲鳴にならない悲鳴を黒侍は上げる。
そしてリィェンは距離を取り、近くの室内へと誘い込むかのようにその場を駆け出した。リィェンの姿を追う従魔達は室内へと入る。と、同時にリィェンの怒涛乱舞が従魔達へと炸裂した。
彼の怒涛乱舞で従魔達は一気に数を減らされ、また爆発と共に全て消え去った。
●命の代償
本尊の中にアディアスと優之介の二人がいた。優之介は地べたを這いながらアディアスを鋭い瞳で睨んでいた。
それを見下ろし、アディアスは愉悦に浸っていた。
「良いわぁ。その格好。あなたとても素敵よ。私主様以外の男を跪かせて、地べたに這いつくばらせるの大好きなのよね」
「このッ……悪趣味……が……」
「でも、あなたそろそろ死にそうだし、満足したからもう良いわ。殺してあげる」
アディアスはクスリと小さく笑いながら剣を取り出し、倒れている優之介の体を剣で貫こうとした。
鋭く尖った切っ先が優之介の体へと迫る。その瞬間、一つの人影がアディアスと優之介の間へと割り込みアディアスの剣をロータスワンドで弾いた。それに対してアディアスは眉をひそめ、視線を動かした。
そこには零月 蕾菜(aa0058)がいた。
蕾菜はアディアスへと視線を向けたまま後ろの優之介へと安心させるかのような声色で告げた。
「もう大丈夫、あとは任せてください」
『話ではケントゥリオ級、でしたか……いけますね?』
共鳴をした十三月 風架(aa0058hero001)の言葉が脳裏に聞こえ、蕾菜はアディアスを強い意思が宿った瞳で見据えながら、
「大丈夫です。いけます!」
そう告げた。
紅焔寺 静希(aa0757hero001)と共鳴をしていたダグラス=R=ハワード(aa0757)は小さく呟いた。
「屍に縁があるとは何とも俺らしいな」
そして優之介へと一瞥をくれ、
「己が力量を弁えず無駄に屍を晒す所だったが、存外運がいい」
そう言った。
アディアスは妖艶な微笑みをしながらエージェント達を見て、そして楽しそうな声色で言った。
「これで全員かしらぁ?では始めましょうか。あなた達の命を代償にした殺し合いを」
その直後突然アディアスの後ろから声が聞こえた。
「待たせたわね。さぁ、お望み通り、鮮血の宴を始めましょう」
振り向くとそこには魔剣を担ぎ獰猛な笑みを浮かべたレミアの姿があった。
あの後。
本尊に乗り込む前に敵の数、配置の確認を無線機でギシャに聞いたレミア達は本尊に駆けつけたのだった。レミアは背中に巨大な黒翼を拡げ彼女はアディアスへと魔剣で切り裂いた。
が、アディアスはそれを剣で受け止めレミアは再び攻撃を試みるが、それよりもアディアスの掌がレミアへと向けられ、砲弾が放たれた。
至近距離での攻撃。
レミアは避ける事は出来ず、その攻撃を受けてしまう。肩から赤い血が流れ、彼女はアディアスから距離を取った。
本尊の周囲にいる従魔の黒侍を見ながら、レミアはシルフへと言った。
「雑魚が目障りね……先にそいつらから片付けてあげるわ。シルフ、亜久里を安全なところへ連れて行ってくれる?」
「わかりました!」
レミアの言葉に頷き、シルフは優之介の元へと走り出した。
●残された者の想い
優之介の元へと駆けつけた鈴里は優之介の傷の回復をしていた。淡い光が優之介の体を包む中、優之介は鈴里へと問いかけた。
「鈴里……僧侶達は……」
「今フィーさんが安全な場所に連れていっているわ。でも本当に間に合って良かった。私は……私はこれ以上もう仲間を失いたくないの……」
それは悲痛に似た叫びに近かった。
仲間を殺され、護りきれなかった者の心の底からの叫びだった。
顔をくしゃりと歪め目尻に涙を溜めている鈴里の顔を見て優之介は後悔する。感情的になり、一人で愚神に挑んだ事を。
その後、シルフと共に優之介達は蕾菜が要請した救急車へと急いだ。だが、そこに従魔達が阻んだ。
蕾菜は即座にサンダーランスで道を開けた。従魔達が怯むその隙にシルフ達は先を急いだ。
従魔を下がらせ蕾菜へとアディアスは剣を閃かせるが、それを蕾菜は杖を滑らすようにして受け流す。
「あなた随分と生意気な事をしてくれるじゃない」
心底不愉快そうに蕾菜に低い声音でそう告げるとアディアスは蕾菜へと魔方陣を発動した。足元から上がる炎の渦を浴びながら蕾菜は敵へと幻影蝶によるカウンターを繰り出した。まさかダメージを受けながら攻撃をして来るとは思わなかったアディアスはそれを受けてしまう。そこにギシャの弾丸がアディアスの体を貫いた。
アディアスは煩わしそうにギシャへと砲弾を連続で放っていくがギシャは駆け出しながら砲弾を避けていく。そしてフリーガーファウストG3でアディアスへと嫌がらせのように銃弾を撃ち続けた。アディアスはそれを避け、ギシャへと再び砲弾を撃つがギシャは近くにある遮蔽物へと素早く身を隠し、砲弾を避けた。
アディアスに目を向け、ダグラスは悠然とゆっくりと彼女の方へと進みながら拳銃の銃口を向けながら、そして攻撃をした。
放たれた弾丸をアディアスはあっさりと回避し、ダグラスに目を向けると掌の砲弾を連続で彼に放った。だがダグラスは体を横へとずらしながらそれを避けた。
そして彼は口を開いた。
「借り物の力で偉ぶる馬鹿はお前か、仰々しい名のわりにその本性は虎の威を借る狐か」
挑発の言葉を吐き、彼は拳銃のトリガーを引き絞る。
拳銃から吐き出された弾丸は加速し、アディアスへと向かうが、アディアスはそれを手にしていた剣で閃光のごとく即座に切り落とした。
アディアスの眉がピクリと動いた。
僅かに動いた表情を見、彼はなおも言葉を続け、歩みを進めた。
「馬鹿で間抜け且つ矮小な小娘風情はどの様な歌(憎悪と悲鳴)を聞かせてくれるか愉しみだ」
彼は嘲笑を交えながら挑発をしていく。そこには侮辱、侮蔑の色を含んでいた。
そんなダグラスに対し、アディアスは肩を震わせ、小さく笑った。まるで面白いものを見るかのように。
「あなた良いわぁ。そんなに私の歌が望みならば聞かせてあげる。でも早く死なないでよね。つまらない、から!」
そう言うとアディアスはダグラスへと駆け出し、斬撃を繰り出した。
が、ダグラスはそれに対し横へと跳躍しながら回避する。
彼女との距離は、すでに射程の半分を切っており、ダグラスは迫るアディアスへと弾丸を放つ速度を上げて攻撃をする。ドス、ドスと弾丸がアディアスの腕、脇腹へと当たり、彼女の漆黒のドレスを赤に染め上げていく。
アディアスは魔方陣を発動しょうとしたが蕾菜の放つブルームフレアの攻撃を先に受け失敗に終わった。
燃え盛る火炎に身を焼かれるアディアスへとダグラスはチェンジオブベースで間合いを詰めた。アディアスの発動される魔方陣を避け彼は鎌を換装し、再び敵の攻撃を避けると鎌を派手に振り回しながら冷淡な表情で告げた。
「さて褒美をくれてやる、じっくり味わえ」
振り回された鎌がアディアスを襲う。
アディアスは避ける事もままならず攻撃を受け、体が切り裂かれていった。
今まで表情を変える事のなかったアディアスはそこで初めて表情を変え、ダグラスへと魔方陣を発動した。
足元に浮かぶ魔方陣の炎の渦をダグラスは回避に間に合わず炎の渦で体を容赦なく焼かれる。彼は炎で焼かれた痛みを無視し、鎌の束でアディアスを攻撃するが、アディアスはそれを簡単に防御した。そしてダグラスへと魔方陣を発動しょうとするが失敗に終わった。
その瞬間、ダグラスの表情が動いた。
彼は獰猛に笑っていた。
鎌の湾曲した刃が背後からアディアスを襲い、彼女に強烈な痛みを与えた。アディアスの動きが鈍る。そこに後から駆け付けたフィーの疾風怒濤が加わった。
連続での攻撃。
アディアスは剣を使い防御するが間に合わず敢えなく攻撃を受けてしまう。
そして彼女は手を前へとつき出しフィーの足元に魔方陣を発動させた。
フィーは冷静な対応で足元に浮かぶ魔方陣を即座にヘヴィアタックで壊した。そして敵が連続で撃ってくる砲弾を回避しフィーはイフリートで炎をまき散らしながらアディアスを攻撃した。
「燃えっちまいな。てめーみてえな屑には相応しい末路でやがりましょー」
「でもあなたも燃えるのではないのかしらぁ?」
「この距離じゃ私も燃える?はっ」
問いかけるアディアスの台詞にフィーは吐き捨てるかのように言った。
馬鹿馬鹿しい、そんなもんに対する返答は一つに決まってやがりましょう、と。
そしてフィーは不敵に笑った。
「構うもんでやがりますか」
●鮮血と残虐
赤く燃え盛る本尊の中央の中でアディアスは天を仰ぎ、両手を広げ愉快そうに笑った。
そこには凶器に満ちた顔があった。
「これよ、これだわ! 私が求めていたものは。あなた達凄く良いわぁ~。さっきのムシケラ達とは違って凄く良いわ! ゾクゾクしちゃう! 殺しがいがあるわ!!」
叫ぶかのように言うとアディアスは掌を横にスライドさせながらダグラス達へと砲弾を打ち続ける。が、その刹那。空中を奔るシャープエッジが炎の砲弾を撃ち落とし、周囲に爆発音が響き渡った。
「わりぃが……強化はさせないぜ……そのために遅れてきたんだからな」
アディアスは視線を動かすと、本尊の入口にはリィェンの姿があった。
あの後彼は寺の中、森から寺の中へと向かって来る従魔を殲滅した後ギシャからの要請で本尊に駆けつけたのだ。
(先に従魔らを殲滅しといて正解だったみたいだな)
リィェンは心奥底でそう呟き、彼の口を借りてインはアディアスへと強く言い放った。
『このバチ当たりめ。自分がしでかしたことを体で反省するがいいのじゃ!!』
「体で教えてくれるの? それは愉しみね」
アディアスは唇へと指を当て、妖艶に微笑みながらそれをスッとリィェンの方へと向けた。リィェンの足元に魔方陣が現れるがそれと同時にリィェンは魔方陣の発現を読み避けていた。
「確かに厄介だが……起点があからさまならどうともでも出来るんだよ」
そしてそこに従魔達を掃討したレミアの疾風怒濤がアディアスへと炸裂した。
アディアスは多少怯みながらもレミアに魔方陣の攻撃をするがレミアは魔剣の剣身を盾が代わりに用いて防御し、アディアスを冷たい瞳で睨んだ。
先程黒侍からライヴスを吸われた事が彼女の怒りに触れ、それがまだ尾を引いているらしかった。
リジェネーションで回復をしたダグラスは八極拳での震脚で攻撃する。アディアスは防御する間もなくそれを直接受けてしまう。再び怯むアディアスは体制を立て直し、ダグラスを剣で貫こうとするがダグラスは換装した釵で防御をする。
そこで一瞬だけアディアスに焦りの色が浮かんだ。
それを見逃さなかったギシャはアディアスに女郎蜘蛛を投擲した。
アディアスの体にワイヤーが絡み付く。
動きが鈍ったアディアスへとダグラスは口内で唾液を練り固めた唾液を敵の目に目潰しとして放った。
見事にヒットしたアディアスは怒りの声を荒げようとしたが、それよりも早くギシャが動いた。彼女は自身が持つ速度を生かして白虎の爪牙でアディアスへと攻撃。
それはすれ違い様の攻撃だった。
『愚神に憑かれてそうなったのか、それとも元々なのか、どちらにしろ厄介な女だ』
「人を殺してるんだから、殺されても文句言わないでね」
体をぐさりと切り裂かれ、思わずアディアスはその場に膝をつく。
明らかに形勢が逆転していた。これは自分が望んだ結果とは程遠い結果になっていた。
狂喜とは死体の数を増やし、愉しむ事。
復讐とは殺された相手の殺意を浴び、それを痛ぶり殺す事。
鮮血とは美しい赤色の血を相手に流させる事。
「これは私が望んだ結果じゃないわ!!」
アディアスは醜く、歪んだ叫びを発し従魔達をエージェント達へと乗り移らせようとした。優之介の時と同じ状況を作り出そうとしたのだ。
仲間同士の殺し合いを。
だがもう従魔は一匹足りとも残ってはおらず全て殲滅されていた。
アディアスは小さく舌打ちをし、レミアへと剣を閃かせた。それに対し彼女は防御し、魔剣で全力で攻撃した。
その時アディアスの体がビクリと震えた。
目をやると彼女の体から一人の騎士のような姿の男が出て来た。
愚神ナタル。
『女帝(エンブレス)契約は終了だ』
「ま、待ちなさい! 聞いてないわよ! そんな事」
アディアスの台詞を無視し愚神はレミア達へと襲いかかる。
だが、レミアは即座に再び魔剣で愚神を斬り裂いた。ダメージが蓄積された愚神は悲鳴を上げる暇もなく、顔を醜く歪め虚空に消え去ってしまった。
愚神が剥がれたアディアスにレミアは致命傷を避けアディアスを切り刻み流血させ嬲った。
「ふふふ楽しいわねぇ、鮮血の宴。でもそろそろ飽きたわ。トドメ、刺してあげる」
アディアスはレミアから来る攻撃を避けようと試みるがもう彼女には力が残っておらずそれは失敗した。
そしてレミアは魔剣の一撃でアディアスを転倒させ、倒れたアディアスへと殺気を張り、剣を彼女の顔面へと向けた。
――殺される――
苦痛に顔を滲ませ、強くそう感じたアディアスの顔面のすぐ横にグサリと巨刃が床に突き刺さった。
レミアはアディアスへと顔を近づけ、冷たい声色で告げた。
「なーんてね。殺されると思った? すぐに楽にしてあげる程わたしは優しくないわ。本部でじっくり情報を吐いて貰うわよ。“漆黒の神”、必ず根絶やしにしてあげるわ……!」
●目的のさらなる真実の果て
その後傷を負ったエージェント達は鈴里のケアレインで全員が回復し、アディアスはH.O.P.Eの輸送車で警察に送られた。
グレイプニールで適当に縛られたアディアスはフィーに取調室まで引き摺って行かれ、取調室ではレミアからブーツで体をグリグリと踏み躙られていた。
愉悦の微笑を浮かべるレミアに緋十郎はそれを見て見惚れてしまう。
「くっ、屈辱的だわっ……。こんなの、でも何なのこの感覚は……」
訳が分からない感覚にゾクゾクしながらアディアスは顔を悔しそうに歪めた。
何かに目覚めようとしているらしい……。
「単刀直入に聞くわ。“漆黒の神”の目的は何なの?」
レミアはそう言い、さらに踏み躙る力を込めた。それに対してアディアスは苦痛の表情をしながら、だが諦めて口を開いた。
「“漆黒の神”の本来の目的は私にも分からない。でも、分かっているのは一つだけあるわ、それは邪魔なH.O.P.Eを壊滅しょうと計画している事よ」
●
薄暗い長い通路を一人の男が歩いていた。
それは体格の良いマッチョの大男だった。男はズボンのポケットの中から携帯端末を取り出すとある人物へと電話をした。
何度目かのコールで相手へと繋がった。
「ああ。俺だ、ジジィ契約は完了したか?」
『勿論とうに済ませておるのじゃよ。それよりそっちの準備はどうじゃ? ちゃんと出来ておるんじゃろうな?』
「たりめーだろ。俺を誰だと思ってやがるんだ。だけど思ったより抜け出すの早かったな」
そう言い男は電話の相手……同じ幹部の老人に軽口を叩いた。以前エージェント達に捕まった老人は留置所を抜け出していたのだった。
『あんなのは簡単じゃよ。さて、機は熟した始めるぞ。まずはH.O.P.Eの小さい支部から情報を頂戴するとするかのぅ』
「ああ、そうだな。じゃぁ始めようぜ! “戦争”って奴をよ」
男……イグザードは唇の端を吊り上げ獰猛な笑みを浮かべた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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