本部

メガジャンボなスイカ割り

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/08/06 19:43

掲示板

オープニング

 渚を駆けるエージェントたち。彼らが追うのは緑と黒のワガママボディ――。
 
●みどり色の夏景色
 翠果海岸(すいかかいがん)。翡翠(ひすい)色に透き通る海水と白い砂浜のコントラストが美しい海水浴場だ。夏には、地元はもちろん遠方からの観光客も訪れ、賑わいを見せる。夕方には水平線に沈む夕日を見ることができるロマンチックなスポットとしても知られている。はずだったのだが。
 スイカが跳ねる。転がる。そして――爆発する。楽しい海水浴場は一転、魔物の遊び場へと姿を変えた。

●巨大スイカ従魔
 翠果町の名物と言えば『メガジャンボスイカ』である。長い歴史の中で品種改良を重ねに重ね、平均で直径50㎝、長さは70㎝の俵形のボディを持つグラマラスなスイカが誕生した。重さは30㎏を優に超え、栽培者にはかなりの筋力が要求される。そこで目を付けられたのがリンカーの身体能力だ。HOPEエージェントたちは、観光を兼ねてスイカ農場の手伝いにやって来ていた。
「うわあ! な、なんだ!?」
 農場主が腰を抜かした。初老と言うべき年齢ながら見事な筋肉を保ち、真っ黒に日焼けした屈強な男だ。彼に狼狽した声は似合わないと、畑中の視線は声の方向に集まった。
「ぐあっ!」
 ジャンボスイカは農場主に体当たりして、倒れた体の上をぴょんぴょんと跳ねながら、わらわらと畑を去った。
 ――従魔。エージェントたちは直感する。そして従魔が向かう先にも見当がついた。翠果海岸だ。ここからは数百mしか離れていない海岸には多くの人出が予想される。ライブスを奪うにはうってつけだろう。
 ――脳裏をよぎるのは能天気な声。
「これ、試作品のAGW。スイカが暴れ出したらこれで退治しなよ、なんちゃって~」
 出発直前にHOPEの研究員が渡してくれたのは、ただの木の棒……にしか見えないAGWだった。まさか使うときが来ようとは。
「マサさん、平気かい?」
「ああ……」
 腰や背中を強く打ったものの農場主は無事らしい。他の農夫に支えられて日陰に寝かされる。彼は苦しげな声で事件の解決をエージェントたちに託した。
「俺は大丈夫だ……! あいつらを、止めてくれ!」
 彼らは走り出した。頭の中はすっかり、スイカ割りのイメージに埋め尽くされていた。

解説

【敵】
従魔スイカ(イマーゴ級)×30~40体?
・依代は『メガジャンボスイカ』。傷や大きさなどの規定に引っかかり、商品として出荷できないもの。エージェントたちのおやつ&お土産になる予定だった。
・転がって移動。個体によっては飛び跳ねる。
・体当たり、のしかかりが主な攻撃手段(重さは人間に例えると小学5~6年生の平均くらい)。
・海には自分からは入ろうとしない。浮くことはできるが、手足がないため泳ぐのは困難。

スキル『種飛ばし』
 半分程度の個体が使用可能。皮に10円玉程度の穴を空け、そこから種を飛ばしてくる。全部吐き出させて倒した暁には、種なしスイカの完成である。当たるとまあまあ痛い。

スキル『スイカ大爆発』
 使用する個体はまれ。見た目は派手だが、ダメージはさほどでもない。むしろ真っ赤な汁を浴びることにより、本人と周りの人間に精神的ダメージ。従魔へのダメージはないが、依代を失うため次のターゲットを探しに行く可能性が高い。

【武器】
『スイカ割り棒』
 試作品のAGW。リンカーと英雄が1本ずつ、計2本所有。スイカ農家の手伝いに行く際に研究員がふざけて渡してきた。一見ただの木製の棒だが、イマーゴ級を倒すには十分。支部に帰ったら研究員に返す予定。

【場所】
・海岸線は4km程度。海の家の立地や浅瀬の関係で、中央の500mくらいが特に密集地帯となっており、白い砂浜を埋め尽くすようにパラソルが立っている。
・海の中と砂浜に海水浴客が多数(200名以上)。戦力となるリンカーは居ない。ライフセーバーが3名いるが、非リンカー。
・海の家は2軒。作りは簡素。

【その他】
・時刻は14時頃。快晴。
・自前のAGWを使用してもOK。
・翠果町は日本海側のある県に存在する。距離から考えてHOPEへの協力要請は不可。

リプレイ

●罪深き果実
 巨大スイカが逃げる。ゴロゴロと舗装した道路を転がるが、従魔ゆえに傷はつかない。先頭を追うのはギシャ(aa3141)だ。
「あぁっ! おやつが逃げてく! 楽しみにっ、楽しみにしていたのにっ!」
「……さっさと追いかけろ。倒して喰えばいいだけだ。何の問題もない」
 どらごん(aa3141hero001)は短い手足を器用に動かし、その横を走る。かわいいが、渋い。
 海岸ではすでにスイカが跳ねまわり、転げまわっていた。無類のスイカ好きが居たらここを楽園と呼ぶかもしれない。いや、さすがに気味が悪いか。
「今度はスイカか」
「夏らしいと言えば夏らしいかもしれませんわね」
「ぶつかられたら人死にが出かねない物騒なもんが夏らしくてたまるかよ」
 赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は歴戦の戦士の余裕を漂わせる。しかし、龍哉の言う通り一般人にとっては危険なモノだ。彼らの安全の確保をしなくては。姿に変化はなく、せいぜいが跳ねるだけの従魔。階位は低いのだろう。何か弱点はないだろうか?
「手伝い後にはスイカを食べ、更にその後は翠果海岸で目一杯泳ごうと思っていたのに、私の幸せに邪魔が……巨大スイカ従魔、ブチ殺しましょう」
 にっこりと笑いながらどす黒いオーラを発する少女。その名は酒又 織歌(aa4300)。
「余は農場を手伝って美味しいスイカとやらを食べたかっただけなのだが……織歌が激昂ぺんぺん丸過ぎて怖い、早く帰りたい」
 隣に立つのはペンギン皇帝(aa4300hero001)。見た目は成鳥のコウテイペンギンそのものだが、暑さによるダメージはないようだ。むしろ相棒の剣幕に怯え、震えている。
「……シュールな光景だな」
「え~っと……なるべくスイカが無駄にならない様にしないとね」
 御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)は冷静、と言うより少し呆れ顔だ。いや、だったのだが。
「わ、こっちきた」
 ぴょん、と一飛び。伊邪那美の足元に転がり込んだスイカが――爆発した。まるで手榴弾。恭也は親指で頬に飛んだ赤い汁を拭う。
「ダメージは無いが……この服は廃棄しないと駄目だろうな。白では無いから色が付く事は無いが、此処まで果汁を吸い込んでは汚れが落ち切らないな」
 恭也は俯いて沈黙する相棒に目を転じた。伊邪那美の白いワンピースは返り血でも浴びたような大参事だった。
「よくもやったな……今日の為に新しく卸したばっかりだったのに……絶対、許さないから」
 嗚呼、罪深き果実。メガジャンボスイカはふたりの乙女を鬼神へと変えた。
「これは……牽制や目潰しにはなるんだろうが。なあ御神」
 爆発したスイカから飛び出した従魔を龍哉が斬る。
「ああ。こうやって弾き飛ばされてしまうんじゃ、攻撃力の割にリスクが大きすぎる。皆が皆、使ってくる技ではないだろうな」
「なんでもいい! いくよ、キョウヤ!」
「了解」
 伊邪那美と恭也が臨戦態勢に入る。手にはAGW『スイカ割り棒』。
「それ、使うんだな」
「少し思うところがあってな」
 彼はこんな緊急時に悪ふざけをするような奴ではないだろう。そう納得した龍哉は服を脱ぎ、水着になった。無論、戦闘に集中するために。
「事件解決したら美味しいスイカをくださいっておねだりしておきました」
 目が据わったままの織歌も服を脱ぐ。農場の手伝い後に海で泳ごうと服の下に水着を着ていたのだ。共鳴すると黒白の競泳水着にコウテイペンギン帽子という出で立ちになる。
「いいわね西瓜、わたし西瓜好きよ」
 アガサ(aa3950)は上品に微笑む。
「でもチャラチャラした半裸の男がいっぱいいるのは不愉快ね」
 ワンピース水着にパレオという鉄壁の守りという相棒に対して、カリオフィリア(aa3950hero001)の水着は対男子攻撃力の高いブランド物のモノキニ。
「中身は黄色かの、赤かの? むふふ、目の保養じゃ」
 彼女としてはスイカ狩りよりも、そのあとの逆ナンが楽しみなのだろう。男子たちの熱視線を受けて満足そうにウインクを返す。従魔に襲われているというのに、男と言うのはしょうがない生き物である。
 
●DIVE to ……?
 ギシャは自慢の脚力で、スイカに追いつく。でも、あれ――? それからはノープランだ。
「まぁいっか」
 スイカ割り棒を取り出し力いっぱい殴ると、難なく従魔を倒すことができた。
「おー、素晴らしいー。なんくるないさー」
 スイカは割れ、おいしそうな赤い中身が太陽の光を反射している。
「おいしそー!」
(今は討伐と人命救助が優先だ。あとで好きなだけ食べればいい)
「うん! あとで死ぬほど食べるー! まずはたくさん殺すー!」
 スイカを追っては殴り、体当たりを避けては殴る。シンプルイズベスト。難しいことは他の人たちが考えてくれるはず!
「きゃっ」
 重量級のボディが飛び上がる。若い母親がわが子に覆いかぶさった。――が、覚悟していた衝撃が来ない。かばった息子の倍の重さはありそうなスイカは、広い背中の向こうで真っ二つに割れていた。
「見た目はふざけているが、こいつ等の体当たりは威力が高いな……怪我はないか?」
 恭也は若い母親を振り返る。
「ええ、ありがとう」
 彼の手にはスイカ割りに丁度よさそうな棒が握られていた。母親は考えるのをやめた。まずは避難だ。
「でも、どこに逃げたら……」
 カリオフィリアは遠くを見つめる。お眼鏡にかなう男でもいたのか。アガサは憤慨する。
「もう、どこを見ているの? 早く共鳴を……」
「海の中に西瓜はおらんようじゃぞ。皆砂浜じゃ」
「それは……試してみる価値があるわね」
 跳ねるスイカが若い女を追っている。その間に割り込む。『聖盾アンキレー』で弾き、スイカを水に落としてみる。
「なんだかマヌケね」
 ぷかぷかと水面に漂う球体。スイカ従魔は手足のない体で必死に水を掻こうとする。だが努力もむなしく、その場で回転するばかりだ。
「そうか。元がスイカなら幾ら重くたって水には沈まねぇ」
(ええ。まして、海水に沈むほどの密度はないはずです)
 アガサと龍哉は頷き合う。――安全地帯は海だ。
 同じ結論に達した織歌はライフセイバーの元へ走る。彼らへ避難への協力を要請し、拡声器を借りてアナウンスする。
「皆さん、スイカは海では身動きが取れません! 海に逃げ込んで下さい!」
 アガサは女性、子供、老人を優先して避難させていく。
「できるだけ、沖へ。砂浜では戦闘が行われますから」
「ふかいところいくの? こわいよぉ」
「少しの間我慢していて。ほら、浮輪」
 幼児を励まし、次は、と振り返ったアガサを衝撃が襲った。――スイカ大爆発、再び。ダメージはないに等しいが、スイカの汁で肌に水着が張り付く。無数の視線が突き刺さった。アガサの嫌悪する好色な視線が。無言で盾を剣に持ち替える。
「うっとうしいのよ。なんなの、遠巻きに人の事じろじろ見て……。何サカってるのよ。文句があるなら言いなさいよ」
 ついでとばかりに世の中のリア充、チャラ男への呪詛をぶつぶつと言い始める。
(精神汚染か……恐ろしい敵よ。浮いた西瓜が"正しい位置"をかたどったかのぅ……。アガサよ、しゃんとせぃ。おんしの妹のような歳の娘が見ておるぞ。素数を数えるのじゃ)
 アガサは西瓜を斬り捨てながら、律儀に素数を数える。
「2、3、5、7、11、13……ちょっと、何個倒したかわからなくなっちゃったじゃない!」
 龍哉の耳に叫び声が届く。
「いたたたた! 誰か、こいつを止めてくれ!」
 小麦色の肌をした若い男性が頭を抱えている。彼の頭には黒い粒が連続で打ちつけられているのだ。例えるなら水鉄砲から黒い水でも浴びせられているような勢いだ。ダメージも強めの水鉄砲レベルなのか、男は「イテイテ! やめろ!」と騒いでいる。
「飛び道具って訳か」
 射線を辿ると、そこには水に浮いたスイカが居た。波にさらわれて、沖に辿り付いてしまったようだ。相変わらず泳げないようだが、少しずつライブスを吸収したからか、新技を手に入れたらしい。皮に空いた小さな穴が銃口代わり、弾は丸みを帯びた雫型――おなじみのスイカの種だ。『ライトブラスター』で狙い撃つか? 逡巡した龍哉の横をアガサが駆けて行った。
「あちらは任せて。陸の方をお願いできるかしら」
 アガサが取り出したのはALブーツ『セイレーン』。彼女はパレオを翻し、海原を駆けて行った。
 スイカの群れが逃げ遅れた人々を襲う。恭也が『ハイカバーリング』で立ちはだかり客たちを逃がす。さらにギシャの『女郎蜘蛛』がスイカたちの動きを止める。
 ためらいなくスイカを割るギシャに、なぜかスイカに穴を空ける恭也。
「何してんのー?」
「地面に放置すると汚れるからな。こうして紐を通して、吊り下げて置くんだ」
 食べ物は粗末にしてはいけない。その教えは恭也の祖父母から恭也へ、そして今ギシャへと伝わったのだった。

●従魔スイカクッキング
 水面に漂い、砂浜の様子を眺める人々の脳裏には有名な3分料理番組のテーマが流れていた。エージェントたちの手並みは鮮やかであった。脳内で女子アナと料理研究家が解説を始めるほどに。
 ――まずは、材料を用意します。
 『守るべき誓い』を発動したアガサが盾で攻撃を受けつつ後退。海から遠ざかるように従魔を引き付ける。
 ――ここに用意してあります。材料をスライスしましょう。
 『バルムンク』での輪切りは見事に等分。
(輪切りは無粋じゃ。スイカバーの形が良いのじゃ)
「どうだっていいじゃないの……食べられれば」
 ――切り方はお好みで。いろいろと工夫してみてください。
「さて、かかって来いよスイカども。丸ごと纏めて食べやすく刻んでやるぜ!」
 龍哉が威勢よく言って、『ツインセイバー』を構える。鋭利な光刃がスイカを切り裂いていく。
「しかしよくその成りで跳びはねられるもんだ」
(動きだけ見ていると40kg弱もあるとは思えませんわ)
 ――切ったものがこちらです。棒で叩くよりも切り口が滑らかになるのが利点ですね。
「ついでにスイカの美味しい切り方を準えてみるのもありだな」
 中心から放射線状に広がる切れ目を入れる。花が咲くように半月型のスイカが転がった。思い切りよくかぶりつくのにぴったりの大型サイズ。さらに切り分ければ扇形で食べやすい。さいの目に切ればフルーツポンチも楽しめそうだが、さすがにそれは悠長か。
「すごい量だな。食いごたえがありそうだぜ」
 ――どんどんスライスしていきましょう。サイドメニューも同時に作ります。
 恭也の『ドラゴンスレイヤー』が空中でスイカの輪切りを行う。曲芸斬りだ。剣を下ろし左手をかかげると、上に向けた手のひらの上に、元の形を復元するようにスイカが乗った。
(ねえ……状況を分かってる? 急いで倒さないといけないんだけど)
「状況は理解しているさ。だがな、食べ物を無駄にしないで済むならそれに越した事はないだろ?」
 恭也は斬ったスイカを地面に落とさないよう心掛けていた。
(って言うか食べるつもりなの? あんなに大きくなってたら美味しくないと思うよ)
「不味ければ、皮の部分を漬物にでもするさ」
 無表情でそう言い切る。パラソルの間には紐が張り巡らされ、たくさんのスイカがぶら下げられている。
(干し柿じゃないんだから……)
 余談だが、干しスイカと言う食べ物が存在する。水分を飛ばすことで保存がきくのはもちろんのこと、凝縮した甘味も楽しめるという一品だ。スライスしたスイカはしばらく干しておくのも良いかもしれない。
 それにしても、スイカの皮の漬物もまた知る人ぞ知るメニュー。御神 恭也――クールな見た目からは想像できない抜群の主婦力である。
 ――次は種を処理しましょう。
 織歌は地面に突き刺さるパラソルを抜き取り、正面にかざす。ぱららららと大粒の雨のような音。スイカの吐き出した種がぶつかる。けれど、いつまでも続くわけではない。
「種切れ、ですね?」
 飛び道具を失ったスイカの上に織歌の黒い影が落ちた。
 ――ハプニングにも慌てずに。まだまだ材料はたっぷりありますからね。
 織歌は立ち尽くしていた。びしょ濡れになった顔面を拭くようにして前髪をかき上げる。不気味なほどゆっくりとした動作だ。――2度あることは3度ある。相対していたスイカは棒の一撃を食らうのを嫌うように自爆した。
「ふふっ」
 少女は嗤う。口元に撥ねた汁を舌でなめとり、にっこりと笑む。織歌、いや『スイカ従魔絶対許さないウーマン』と化した少女は『スイカ従魔絶対カチ割るスティック(スイカ割り棒の意)』を上段に構えた。
「あらら、囲まれちゃいました」
 緑と黒の敵軍に囲まれても彼女は怯まない。真正面から叩き割るのみ。四面楚歌? 御冗談。一騎当千の女戦士が跳ぶ。
「はぁ!」
 『必殺・ブリーチングスマッシュ』――高く飛び上がり、全体重を乗せて叩きつけるように放つ一撃。スイカは割れる――。
 ――お子様にお手伝いしてもらうのも良いですね。多少雑な部分があっても、温かく見守りましょう。
「とうっ! とうっ!」
 スイカが割れる、転がる。初めてのスイカ狩りの後は、初めてのスイカ割り。ちょっぴりワイルドすぎる気もするが、ギシャは夏を満喫していた。ごく普通の子供のように。
「うわっ! 待て!」
 両腕で捕まえたスイカがするりと抜け、うっかり苦手な海に飛び込む。ギシャも追いかけて海へ。逃げ場を失ったスイカは御用となった。半分に割れた状態でぷかぷか浮いている。
「『スイカ割り』って楽しいね」
 なんだか間違った認識を植え付けてしまったような気もしたが、どらごんは何も言わなかった。小さな相棒がとても無邪気に笑っていたからだ。
(またいつか本物のスイカ割りをすることもあるだろう。俺があれこれ教えるよりも、外の世界で学んで来る方が良い。常識も、遊びも)
 どらごんは仲間たちと共に海辺で遊ぶギシャの未来を思った。
 ――最後まで気を抜かずに。完成は間近です。
 スイカはもう残り少ない。生き残った従魔たちは比較的知能が高いのか、徒党を組んで龍哉を襲う。輪になって横にステップ、ぐーるぐーる。無言のマイムマイム。
「って、鬱陶しい! 目が回るだろうが!」
 哀れ、メガジャンボスイカ軍の残党は『怒涛乱舞』で一瞬のうちに切り刻まれた。
「これで一通り片付いたな。討ち漏らしはないよな?」
 辺りを見まわすと、浜辺のところどころで仲間たちがOKサインを出している。
(さすがに果汁を浴びるとベタベタしますわね)
 龍哉とヴァルトラウテは共鳴を解き、救助に向かった。
「もう大丈夫だ。慌てて足をつったりしないようにな」
 海に入れば体のべたつきも洗い流せて一石二鳥だ。ライブスを奪われた者には肩を貸して泳ぐ。まったく動けないほどの重傷者は居ないようだ。
「落ち着いて海から上がってくださいな」
 従魔の姿がスイカだったせいで怖がっている子供もおらず、ヴァルトラウテは安心した。
 騒ぎは無事収まり、渚に平和が戻って来た。ギシャは空腹感を感じて周りを見渡す。
「デザートの前に、おいしそうな鶏肉がいるよー。アレ、飼い鳥かな?」
「脂肪だらけで肉は臭い。うまいものではなかったからやめておけ。それにこの世界では保護指定鳥らしい。海の家で好きなものを買って食っていろ」
 ギシャとどらごんの言葉は、幸いにもペンギン皇帝には聞こえていないようだった。
「行くぞ」
 真剣な顔が並ぶ。恭也がスイカを食べやすい大きさに切り分ける。
「スイカ食べる! すいかーすいかー♪ すいかって何味ー?」
 エージェントたちは従魔から解放されたスイカたちを試食することにしたのだ。
 ――本日のメニュー、カットスイカの完成です!
 メガジャンボな従魔たちは見事に『料理』されてしまったのだった。

●おいしく頂きました
 凪いだ海を見つめながら、種を飛ばす。ぷぷぷぷぷ、と織歌。ぷぷぷぷぷぷぷ、とギシャ。まるで会話をしているようだ。同時にふっと噴き出す。
「種を飛ばしてると、スイカを食べてるって実感できますよね」
「そうなの? スイカって初めてなんだよねー」
 織歌は神妙な表情で言う。
「種なしスイカも食べやすそうでしたけど、すっかり味が抜けてしまっていましたからね」
「従魔から早めに解放できた個体は、元のスイカと比べても遜色ないみたいね。無駄にならなくてよかったわ」
 もくもくと食べていたアガサも同意を示す。害がない上に美味しさも証明されたスイカは一般客の希望者にも配られた。
「この大きさで、この甘さが保てるなんてすごいですわ」
 ヴァルトラウテは予想以上の甘さに目を細めて感激している。
「難しいことよくわかんないけどまいっかー。スイカっておいしー!」
 そこに龍哉が両手にイカ焼きを持って現れた。女子たちは歓声を上げる。
「ま、お疲れさんだ」
「ありがたいな。確かにうまいスイカだが、女子供のように甘いものだけ食べ続けるのは少し辛い」
 片頬で笑うドラゴン。やはり、渋い。
「なんつーか……妙に似合うな、イカ焼き」
 龍哉は彼の隣に腰かけ、大きな一口でイカを食べ始めた。醤油の香ばしい風味が口いっぱいに広がった。ビールが進みそうだ。
 伊邪那美は恨みを晴らすかの様に豪快に食べ漁る。恭也は農場主の妻と共にどこかへ行っていたが、戻って来たようだ。
「服を駄目にされて腹立たしいのは判るが、もっと上品に食べろ」
「良いの! こうなったらやけ食いでもしないと気が収まらないんだから」
 カリオフィリアは冷えたビールを注いで回る。水滴をふき取るしぐさがプロである。何の、とは言わないが。農場主――マサがタバコ出すと、サッと火をつける。
「マサさんイケメンじゃの、筋肉触らせてくりゃれ~」
「こ、こら! 俺には愛する妻と娘が……」
「あなた、そのだらしない顔は何?」
 妻に凄まれマサが悲鳴を上げる。
「そういえばキョウヤ、お漬物もうできたの?」
「ああ、浅漬けなら1~2時間も漬けて置けばできるからな」
「御神さんって硬派だし家庭的だし男前だし、素敵だわ~。あたしがあと30歳若ければお婿さんに欲しいわねぇ」
「く、クミコ~!」
 クミコは「娘のお古だけど」と着替えも持参してくれた。パフスリーブの白い膝下丈ワンピースに着替えた伊邪那美はすっかりご機嫌だ。そして恭也の持って来たスイカの皮の漬物には皆、興味津々だ。
「ん! うまい! 食感がいいな!」
 龍哉が先陣を切り、アガサやヴァルトラウテも箸を伸ばす。ギシャはまだ巨大な半月型のメガジャンボスイカにかぶりついている。
「おいしい……! 忘れがちだけれど、スイカって野菜だものね」
「ヤサイ? こんなに甘いのにー?」
 アガサの言葉にギシャが首をかしげる。
「さわやかな味ですわね。夏らしい感じがしますわ」
 最初こそ不審そうに見る者もいたが、ひとたび食べ始めると好評価が帰って来た。
「見よ、余の華麗な泳ぎを!」
 皇帝はちょっとだけ野生に帰っていた。物凄い速さで泳ぎ回っている。
「あの1/4でもいいから、陸上でも早く動けないものでしょうかね」
 宴もたけなわ。帰りの時間である。
「今日は本当に助かったよ。しこたまスイカを食べた後でどうかと思ったんだがね、よかったらお土産に持ってってくれ」
「わあ! ありがとうございます! このスイカもおいしそう」
「まさか、全部自分で食べるのか?」
「陛下にもちょっとくらいは分けてあげますよ?」
 満面の笑みで答える織歌。クミコはおっとりと微笑んだ。
「ふふ、食べきれなさそうならHOPEへのお土産にでも。早めに食べてもらえると嬉しいわ……爆発するから」
 アガサの顔色がさっと青ざめた。他の者も多かれ少なかれぎょっとしている。どらごんはそっと相棒からスイカを奪った。
「龍哉……」
「ジャンケンだ。負けた方がスイカを持つ……!」
 熱戦の末、爆弾かもしれない球体は龍哉の手に渡った。というところで、夫婦が笑い出した。
「冗談よ。若い子をからかうのって楽しいわぁ」
「クミコ……。大雨なんかで腐ったやつが爆発することもあるが、こいつらは心配ないと思うよ」
 一同は安心したように息を吐く。
 ともあれ、メガジャンボなスイカを抱えた愉快な団体は、心地よい疲れと共に家路に就いたのだった。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • ツンデレお嬢様
    アガサaa3950
    人間|21才|女性|防御
  • 星辰浮上
    カリオフィリアaa3950hero001
    英雄|32才|女性|ブレ
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
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