本部

スパイスウォーズ

アトリエL

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 6~15人
英雄
1人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/05 20:55

掲示板

オープニング

●とある料理人の苦悩
「料理に必要なもの……それはスパイスだ!」
 彼はそう豪語してやまない料理人だった。
「だが、世間ではスパイスはあまり知られていない……」
 香辛料は多くの人に知られているが、使い方まで含めて詳しい人は少ない。
 名前だけであれば聞いたことがある人も多い。カレーに入っている香辛料、などと料理を限定すれば使い方がわかる人もそれなりにはいる。
「どうすればスパイスの魅力を世界に広められるんだ……」
 その知られていないスパイスの魅力。それをより多くの人に伝えたい。それが彼の願いであり、苦悩であった。
『その願い。叶えよう』
 彼の脳裏にそんな声が響いた。

●穿て! スパイス従魔『クローブ』?!
「ふはははは、恐れ戦け!」
 逃げ惑う人々の群れを眺めながら暴走料理人はその従魔が暴れる様に満足していた。
 彼が操るのは香辛料をベースにした従魔クローブ。彼の手の代わりとして動いているからか、その姿は人の手によく似ていた。大きさは人間を掴めるほどには大きかったが……。
 その被害者達は言わば彼の手料理。その料理が人々に与える影響は悲鳴であり叫び。
 愚神と成り果てた彼には、その叫びが自らの料理に喚起する人々の声として届いていた。

解説

スパイス従魔・クローブ
 釘を打ち出して攻撃してくる従魔です。外見は2メートルほどの巨大な手……グローブのような形をしており、その指先から釘を発射してきます。
 移動時はその指をかさかさ動かして這い回るためか、攻撃ができません。攻撃モーションは観察すれば一発でわかります。
 釘の攻撃力は一般人であれば死亡する可能性がある強力なものですが、現状はスパイスのクローブの魅力を伝えようとするためか動きを封じるにとどまっています。
 目的が迷走しているためか、一般人の動きを止めながら街中を迷走しています。
 愚神化した料理人ですが、高みの見物をしています。
 従魔クローブはその指示を受けて動いているため、リンカー達から効率よく逃げ回りながら被害者を探してうろつきます。
 料理人は自分が戦えるなんて思っていないようで自らが攻撃されそうになるとすぐに逃げ出します。
 逃げ出すとクローブはライヴスを集めると言う目的を最優先にするため人に害をなし始めます。
 愚神化した料理人の歪んだ願いがスパイスを広めることであるため、今のところは人的な被害は出ていませんが放っておけばどうなるかはわかりません。
 その際に釘に捕らわれている状態の人がいた場合は危険ですので気をつけてください。
 釘によって動けなくなった人々を助けつつ、被害者を増やさないように避難誘導も忘れず、この従魔を討伐してください。

リプレイ

●事件発覚?
「ふう、ここのタンドリーチキンは最高だな。本部による時はつい此処にも来てしまう」
 満足した表情で店を出た石井 菊次郎(aa0866)はその幸せを噛みしめていた。
 タンドリーチキンを食べて満腹状態。幸せ一杯になっているはずなのに、どこかやつれたように見える不思議な雰囲気を放っているが、別に会社を首になった直後で人生に疲れているからとかそんな理由ではない。元からこういう感じなのだ。
 その鼻腔をくすぐるのはタンドリーチキンに用いられた香辛料のものだろうか。店を出てもなお感じるその香辛料の香りにまだ食べたりなかったのかと店に戻ることを一瞬考えたが、周囲の惨状を見て我に返る。
「た、助けてくれー!」
 そんな声がしたほうを向けば、そこには釘で衣服を縫い付けられ、動けなくなっている人の姿。それが、点々と路上に続いていた。
 蝶埜 月世(aa1384)はそんな一般人の救助を行いながら、脳内では想像上のドSな能力者の深夜がちょっとアレなプレイに勤しんでいたりするが、当人が行ってるのは純然たる救助活動のみである。自宅に帰ってからの創作活動などに関しては保障できないが。
「何でこの従魔は通行人を地面に縫い込んでるんだ?」
「余に分かる訳が無かろう」
 雁間 恭一(aa1168)の問いかけにマリオン(aa1168hero001)は淡々とそう答えた。
 釘自体はそれほど頑丈ではないのか、一般人には難しくとも、リンカー達が抜く分にはそれほどではないらしい。リンク状態でなくともなんとかなるので恭一はマリオンと手分けして救助活動に勤しんでいた。
「うーん、それにしても気持ちの悪い従魔だな! 匂いは良いんだけど」
 同様に救助活動を行っていた骸 麟(aa1166)が見かけた従魔の姿は動く手と言った方が早い。その動きは手だけがかさかさと這い回っている状態であり、はっきり言ってホラーである。先ほどから何度か姿を見かけるものの、リンカー達が攻撃しようとすると即座に逃げ出すため、救助活動を優先しているのが現状であった。
 逃げるたびに周辺に漂う香りは香辛料としてのクローブのもの。主に肉の臭みを取るために使われ、甘いものや辛いものを選ばず使用できるため、意外と用途は幅広い。その分、特別この料理と相性が良いというものが存在しないため、記憶されにくい香辛料でもある。
「通行人を煮込み料理の玉ねぎみたいにクローブで縫い止めるなんて許せない!」
 エステル バルヴィノヴァ(aa1165)が言うように釘に見えるそれはクローブなのだろう。少し大きい気もするが、従魔に常識が通じるわけもないので細かいことは気にしない。
「それにしても不可解です。なぜ通行人を止めるだけなんでしょうね?」
 釘はライヴスが込められているのか、一般人には抜けずともエステル達には簡単に抜くことが出来る。攻撃目的で放ったものとは考えにくい。
「まさかこれは何かの探針?! 一体どんな情報を愚神に送っているの?」
 実際は目的が香辛料の香りを広めるためなのだが、愚神の理解不能な思考回路はエステル達が理解するには敷居が高すぎた。しかし、その結果、姿は見えずとも愚神の存在に気付くことには成功している。
「従魔による犯罪か? 愚神は何処かに居ないのか?」
 石井 菊次郎(aa0866)が見たところ、従魔の行動はある程度機械的なもの。通りすがりの一般人に向かって釘を打ち放つ行動は半自動的なものだが、そこから次の標的を探すまでの行動はまるで次の標的がどこに逃げようとしているのかわかっているかのようで……標的の動きを別の場所から見ているかのようだった。

●かわいい? コックさん
「学校の課題でレストランのシェフに取材に来た筈なのに何でこんな事に?」
 街中に響く一般人の悲鳴を聞きながら、都呂々 俊介(aa1364)はメモを片手に首を傾げる。
「探偵くんの付き合いで来たけどこのシェフ使えない? 結構有名?」
 穂村 御園(aa1362)が取材しているのは街中だと言うのにシェフの格好をした人物。
「ローズマリーとかナツメグって何か可愛い女の子っぽい名前ですよね」
「うむ。ローズマリーは聖母マリアのバラ。アロマオイルとして有名だが香辛料としても美と健康によく、ナツメグも冷え性に効果がある香辛料で血行促進と言う形でこちらも美容効果が期待できるであろう」
 俊介の質問に答えているのは一人のシェフ……だと思う。
 なんとなく絵描き歌の可愛いコックさんのようで、人間離れしている姿ではあるが……先ほどから恍惚とした表情で香辛料に対する愛を語っているところを見ると、それなりにこだわりを持ったシェフなのだろう。それに誰もが一度は見たことがある姿なのだから、きっと有名なシェフなのだ。それはきっと間違いない。腕前の方の保障は出来ないどころか、不安にしかならないが……先ほどから凄い勢いでメモ用紙が埋まっていっていることからするときっと凄いのだろう。
「スターアニスって美少女戦士?」
「そんなわけないですよね」
「トウシキミのことかね。それは五香粉戦士の一人ということになるのだろうか」
 俊介の質問とはいいがたい質問に思わず突っ込む御園だが、そんな冗談にもシェフは真面目に答えてくれていた。
「クローブって調べたら昔の音楽ユニットから名前来てるんですね。スパイスなのに凄いですね」
「音楽も料理も全ては香辛料が基本となっているのだよ」
 香辛料のことばかりで料理そのものには一切触れていない状態でこれなのだから、料理の話題が出たらきっといいレポートになるに違いない。……先ほどからの俊介との会話の内容からは不安のほうが増大しつつあるが、きっとそうなのだ。
「シェフって素晴らしい拘りが有るんですね!」
「うむ。香辛料には胡椒のように収穫するタイミングや加工法でまったく別のスパイスになるように、一つ一つの香辛料に拘り、料理に活かすことは料理人にとって最も重要なことなのだよ」
 御園がそう割り切って声をかければ、シェフは嬉しかったのか香辛料に対する熱い愛を語り始めた。
「胡椒一つとってみてもそんな拘りが有るなんて御園感激です!」
 シェフはキザったらしく決めたつもりかもしれないが、外見がかわいいコックさんなので全く決まっていないのだが、そんなことは些細な問題である。
「御園もシェフのスパイシーブッフブルギニオンご賞味したいです!」
「今は料理よりも香辛料の魅力を世界に広めることが先決でね」
「えー? プライベートな食事会とかしないんですか? 参加したい!」
 御園のおだてて情報収集する作戦は成功のようで、先ほどまでよりもより多くの情報がメモ用紙に書き連ねられていく。
 そんな三人の背後に現れる影が一つ。
「あのレストランのシェフ?」
 明らかに人間離れした風体だが、近くにいる二人が何の抵抗もなく話しかけていることから安全だと判断し、菊次郎はシェフへと近付く。
「……そうか。失礼ですがお顔をもう少し良く拝見……違うか」
 どこからどう見ても人間には思えないその顔はむしろカエルやアヒルに近いかもしれない。似て似つかない両者なのに何故かそんな気がする。これほど特徴的な顔なのだから一度見たことがあれば忘れるはずもない。知っている店のシェフではないとはっきりと断言できた。
「この瞳と同じ瞳の者を見た事ありませんか?」
 それならば逆に知らない情報も知っていると判断し、菊次郎はサングラスを外して、紫で金色の縁取り、十字型の瞳孔の特徴的な瞳を見せる。
「教えて頂けたらスパイス普及についての重要な提案をさせて頂きます」
「それは興味深い……しかし、記憶にはありませんね」
 菊次郎の提案に乗り気のシェフだが、どうやら本気で心当たりがないらしい。非常に残念そうな様子から察するにこちらのことを疑っているようには見えなかった。
「愚神の中には料理の素材として最適な存在がいく種類か存在するようですよ。とは言え、とてもスパイス無しでは食えたシロモノでは無いので正にスパイスブレンディングの妙を試すに最適の素材じゃ無いでしょうか? 紫で十字の瞳の愚神は特に奥が深いとか? 愚神料理道を切り拓けばスパイス普及にも弾みが付くでしょうね」
「これはご親切に。今後もし見かけるようなことがあれば心に止めておくことを誓いましょう」
 そう言って菊次郎に例を述べるとシェフは三人に背を向け、何処かへと消え去った。

●従魔クローブの本気?
「……逃げ足が速いですね」
 菊次郎は攻撃のために構えていた扇子を閉じると、標的を従魔へと切り替える。
 愚神であることはその異形から察しはついていた。普通のシェフが建物の屋上で意味もなく佇んでいるわけがない。
 そのまま視点を下へ向けると、そこには従魔クローブとその追跡や一般人の救助活動に当たっているリンカー達の姿が見える。
「やだ! 深夜が何て言うか……へへ」
 半分以上自分の世界に入りながらも月世は救助活動に勤しんでいた。そのあまりの腐のオーラに従魔クローブが後ずさったようにも見えたがきっと気のせいだろう。
 実際は愚神シェフがこの場から立ち去ったことで、従魔クローブの行動が無差別攻撃に切り替わったための動きだ。このまま愚神を追うわけにはいかない。
「ドロップゾーンが拡がって来るってのは勘弁な」
「ふむ……これは油断ならぬかも知れんな」
 様子が変わったことには恭一とマリオンも気付いたらしい。その指先が恭一の方を向き、放たれた釘がその足を縫いつけた。
 一般人相手には本気を出していなかったと言うことなのだろう。先ほどまで抜いていたクローブと違い、リンカー達に向かって放たれたそれは簡単には抜けそうにない。しかも、ライヴスが吸われているような気さえする。一般人達の救助が終わっていなかったら被害がどれほど拡大していたのかわからない。リンク状態に移行すると従魔クローブは警戒したのか、距離を取った。
「おい、そこのリンカー! そちらの進路を塞げ!」
 一般人への被害を出さないためにもここから逃がすわけには行かない。恭一の指示にちょうど反対側に回り込んでいた俊介が反射的に進路を塞ぐように移動する。
「うわ! きも! きも! きも!」
 しかし、自分に向かってくる従魔クローブの姿を見て、俊介は思わず退避した。攻撃のチャンスだった気もするが、生理的嫌悪感には逆らえない。
「何これ? 連敗続きの野球部の怨念が凝り固まって……な訳ないよね。抹消!」
 御園はそう言いながら向かってくる従魔グローブ……じゃなかった、クローブに鋭い一撃をお見舞いする。二人とも上から見ていたので状況は地上にいた他のリンカー達よりも理解が早い。
「骸舞風斬!」
 駆けつけた麟のシルフィードによる斬撃が従魔クローブの指を切り落とす。
 そこから離れるように従魔クローブは移動し、向きを変えて残された指を構えたところで……。
「指を一本ずつ切り落とすだけの簡単なお仕事ですってな!」
「余の剣の試しにはちと力不足だが致し方あるまい」
 釘の拘束から逃れた恭一が二本目の指を切り落とした。
「あ、指先から釘を打って攻撃するわけだから、指を使って移動してる間は攻撃も出来ないってことですね」
 俊介はそれを理解するときもさに耐えながら攻撃に参加する。
「骸分身術二分撃!」
「釘×グローブ……しっくりこないわね」
 指を次々と失って、移動すらままならなくなった従魔クローブは調理されるだけだった。

●従魔の残した香り
「それにしてもこの従魔、いい匂いだな?」
「些か腹が減ったのは事実だ」
 恭一の言葉にあちこち走り回らされたマリオンは愚痴を溢す。
「この従魔、ビーフシチューの匂いしません?」
「そう言えば急にクグロフが食べたくなってしまいました。どうしてかな?」
 ビーフシチューにもクグロフにもクローブが使われていることが多いからなのだが、それが俊介やエステルの食欲を刺激していたらしい。
「分かった! これうちの筋煮込みのにおいだ!」
 麟の筋煮込みにも隠し味にクローブが使われていたようだ。
「英雄って飯いらんだろう? 余計な出費は勘弁願いたいんだが」
「お主と余の仲ではないか?」
「それ食うか?」
 そう返した恭一にマリオンは従魔に対する視線よりも鋭いものを向ける。目の前にあるのは香辛料のクローブの小瓶。どうやら従魔の元の姿はこれのようだ。
「グローブ×釘……やっぱり今一」
「グローブ、釘、クローブ……つ、急に疲れが出て来ました」
 月世の呟きでエステルはこの駄洒落のような従魔クローブをしなくていい方向で理解して脱力した。
「シェフはどこ? 食事会!」
 御園はシェフの料理を食べようと探すが、あれほど特徴的なシェフの姿は見当たらなかった。

●愚神スパイスシェフ
「愚神……グライヴァーでしたか。一体なんのことなのでしょうか。私の知らない香辛料にあう食材……」
 自身がその愚神の一人と化している事に無自覚な愚神が住み慣れた街を離れようとしていた。
「スパイスの道を極めるためにも少々調べてみる必要があるかもしれませんね」
 街を離れていく異形のシェフ。その手には様々なスパイスが握られていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中



  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御



  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避



  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中



  • 真仮のリンカー
    都呂々 俊介aa1364
    人間|16才|男性|攻撃



  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃



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