本部

お休み営業中

東川 善通

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/08/12 09:37

掲示板

オープニング

●正直言うと休みたくない
 さてはてと猪野(いよの)は首を傾げていた。そうめん流しが決定したのは実に喜ばしいことである。しかし、されど、問題があった。
「え、休みにしないんスか?」
「休むとその日分のお金が入ってこんやろ」
「いや、そうッスけど」
 乙姫(つばき)の質問にさも当然とばかりに答えた猪野。それに乙姫は言葉を詰まらせる。
「ということで、風くん、どうかな?」
「へ?」
「? スーがマスターするんですか?」
「そうだよ。ソロくんは見たくないかな? 勿論、ソロくんもお手伝いしてほしいんやけど」
「見たいです!!」
 いつの間にか常連と化し、時間があれば喫茶店に遊びに来るようになった風 寿神(az0036)に急に話を振る。それは当然のように寿神は困惑した。その一方で、隣でチョコレートケーキをつついていた寿神の相方であるソロ デラクルス(az0036hero001)が面白そうだと目を輝かせる。勿論、そうなれば、こっちのもんだとばかりに猪野はたたみかける。
「まぁ、助けると思ってね。ただ、うちはこまいとこやけん、お給料はあんまり出せんけど、その分お昼ご飯とかおやつとかはうちにあるものを好きに使ってくれて構わんよ」
「いやいやいや、猪野さん待ちんしゃい。普通、素人に店任せたらいかんじゃろ」
「大丈夫だよ。たまに高校の実習で貸出とるけん。問題なか」
「まぁ、高校生だけでなく、これから喫茶店とか開いてみたいって言う人にもお試しでって一日貸し出すこともよくあるッスよ」
「たまーに、マスターが居らんで、変わり種とかが出てくる時があったが、それけ」
「それッスね」
 なんで疑問を持たなかったんスかと乙姫に尋ねられ、寿神は変わり種が食べられるのが面白かったとぼそぼそと呟いた。
「つまりは全く気付いてなかったということッスね」
 案外、風さんってぬけてるッスねと言われ、寿神は彼から顔をそらし、コーヒーを口にする。
「で、風くん、どうかな?」
「スー、ボク、やりたい! ダメ?」
 猪野とソロの方では話が盛り上がったのか、もうすでに寿神に許可をもらうという段階になっていた。それに寿神は断りを入れたい。入れたいのだが、小首を傾げ、お願いと見つめてくるソロを無下にすることなど到底寿神にはできない。
「……今回だけじゃ」
「やったー!!」
「ありがとう、風くん、助かったよ。それじゃあ、お願いするね。あ、ちなみにコレが制服で、こっちが運営方法とかそういうのね」
「……準備がええことで」
「ははは、なんのことかな」
 二人分の制服を出した上に説明書まで出してきた猪野に寿神は騙されたとばかりに大きな溜息を零した。
 そして、その翌日にはH.O.P.Eの掲示板に喫茶店ボランティアのチラシが張られることになった。

解説

一日、喫茶店を平和に運営をしましょう!
※「上流にダムはいりません」と同時系列になりますのでそちらに参加されてる方は参加しないようお願いします。

●喫茶店
 レトロチックな内装。収容客数は33人ほど(全席が埋まるのは祭りの時くらい)。4人掛けが6。カウンターが9席。
 休憩室は二階。制服の貸し出しあり。何故かメイド服らしきものも……。

●勤務時間
 朝の9時30分から夕方5時まで。休憩は合わせて1時間30分。

●勤務内容等
 とにかく平和に運営してくれればOK。お昼ご飯やおやつに店のものを使って食べてOK(そのため、報酬が寸分となっています)。
 一日限定メニューを出してもいいし、おやつにと作ったもののにおいでお客様がくるかも。尚、お昼は近くのお店の人が軽食を食べに、夕方は中高が近いため、学生の来店が多くなる。
 店員だけでなく、お客様としての来店も可。
※あまりにも器物毀損等が激しい場合、失敗になる可能性もあります。

●風寿神&ソロデラクルス
 喫茶店の常連。偶々、訪れた際にお願いされたため、断り切れず受けることに。今回は二人とも白のYシャツに黒ズボンで、ソムリエエプロンを着用。寿神は長い髪を一つに結ぶ。寿神が調理、ソロが接客の予定。何かあればプレイングへ。

●猪野&乙姫
 そうめん流し(上流にダムはいりません)のため、店を開けることになった。

リプレイ

●開店準備は念入りに
「明日け」
「明日だね。風くん、期待してるね」
「ボク、頑張ります」
「うん、お願いするね」
 いつも通り喫茶店に足を運び、マスターである猪野の入れてくれたコーヒーを啜った風 寿神(az0036)は溜息を吐く。その一方で、明日が待ち遠しい相方のソロ デラクルス(az0036hero001)はグッと拳を握りしめ、うきうきとしている。それをみて、寿神はもう一息、溜息を零した。
「……『明日は、なんと、H.O.P.Eのエージェントたちが喫茶店を営業してくれるみたいッスよ』と」
「乙姫くん、携帯は休憩中に遊ぼうね」
「……イエッサー」
 スッスッと掃除をしつつ、スマホを弄っていた乙姫は猪野に叱られ、SNSにそう投稿して、大人しくポケットにしまった。勿論、何が打ちこまれたのかは明日の準備をするとばかりにさっさと帰っていった寿神たちは知る由もないことだった。

「喫茶店ボランティア、ですか」
「うん、自分のメニュー作っても良いんだって!」
「私は皿洗い位しかできませんが……」
「それも大事なお仕事だよ」
 H.O.P.Eに掲示されたボランティアの広告を見た榛名 縁(aa1575)は相棒のウィンクルム(aa1575hero001)を連れて、早速とばかりに現地入りしていた。移動時間の合間に猪野に連絡を取り、下拵えや練習をさせてもらえるように相談を持ち掛けていた。それに対し、猪野は快く了解する。
「料理をするんだったら、しっかりと下拵えしておきたいね」
 あと、ラテアートも練習したいかな、と予定を頭の中で組み立て、縁は喫茶店のドアを潜った。そのあとに続くようにして、ウィンクルムも続く。
「あぁ、君が榛名くんやね」
「今回はよろしくお願いします」
「うん、よろしくね。あぁ、早速厨房を使うかい?」
「はい」
 猪野はそう言うとカウンターの奥に二人を案内し、ここが厨房になるよと説明する。
「昔はちょっとした繁盛店だったからね、結構広めに作ってもらってるから、人が多くなっても大丈夫かな」
「皿洗いはどちらでしたらいいでしょうか?」
「皿洗いはこっちかな」
 客の使用済み食器を入れやすいように厨房の入り口近くにしてあるんだとウィンクルムの問いに応える猪野。使用するのはと続いて、説明し、ウィンクルムはこくりと頷く。
 その一方で縁は冷蔵庫を開け、材料を確認し、作れるものを練っていた。そして、食器などもしっかりとチェックする。その後、猪野に頼み、ラテアートの練習もさせてもらった。
「んーなかなか難しいな……あ!」
 上手くできないと首を傾げ、何かを思いついた縁はウィンクルムを呼ぶ。どうしたんですかと疑問符を浮かべながらきた、彼に縁は「共鳴して試してみたいんだけど、いい?」と物は試しとばかりに共鳴し、己の能力をあげ、再度ラテアートに挑戦していた。

 下拵えや練習に熱中している彼らの一方で同様にボランティアに参加する男は明日の準備を粗方済ませ、姿見の前でポーズをとる相棒を見て、眉をしかめていた。
「……鏡の前で何やってんだ? マコト」
「んー男装したらあたしイケてるんじゃないかと思ってさー。どう思う? アル」
 折角だし、お客さんとして参加してみたいよねと東雲 マコト(aa2412)は持っている男っぽい服を体に合わせてポーズを決めてみる。それに男――バーティン アルリオ(aa2412hero001)は大きな溜息を吐いた。
「暑さで頭でもやられたのか? 馬鹿言ってないで早く寝ろ、俺は先に寝てるぞ」
「もーひどいなアルは。よーし、雑誌で勉強して見返してやる!」
 ただでさえ、朝早いんだとアルリオはさっさと寝る準備をしてしまう。相棒のそんな態度にマコトはムッとするとかき集めてきたメンズ雑誌をテーブルの上に広げる。そして、眠るアルリオの隣でふむふむとマコトは雑誌に相槌を打つ。
「えー、なになに、ガイアが俺にもっと輝け? 男は黒に染まれ? ほーほー、なるほどなるほど……」
 彼女は雑誌に書いてあることに頷くと、クローゼットを覗き込み、明日の服装を思案していった。

 喫茶店を任された当日、一番乗りしたのはシエロ レミプリク(aa0575)とナト アマタ(aa0575hero001)だった。シエロに抱き着いていたナトは到着すると彼女から下り、シエロと一緒に店の外観と窓から見える店内に声をあげる。
「おっほー! 雰囲気いいねえ!」
「……落ち着く」
「あはは、そう言ってもらえるととっても嬉しいよ」
 喫茶店の横に止まったミニバスに荷物を積み込んでいた猪野は彼女たちの感想に嬉しそうに頬を緩ませた。そして、積み込みを乙姫に頼むと、そろそろ集まってくるかなと彼女の隣で待機する。
「それにしても、凄い足だね」
「えっへん、うちのこだわりっす」
「うん、個性的でとってもいいね」
 そうして、のんびり話をしていると「おはようございます!」と明るく元気な声が聞こえた。その声の方を見れば、楽しみだと顔に書いているまだまだあどけない少女とムスッとした少女が喫茶店に向かってきていた。
「今日はよろしくね」
「うん、まいだがんばるよ!」
 はーいと元気よく手をあげたまいだ(aa0122)に猪野は元気でよろしいとばかりににこにこと笑みを浮かべて歓迎していた。それをみた乙姫ぼそりと「マスター、まさかの幼女趣味」と零す。しかし、すぐに猪野に「乙姫くん、追加でこれ買ってきてね」と走らされることになった。
「あー、邪魔にならねえようにやるからこいつも手伝わせてもらってもいいか」
「勿論、小さなお嬢さんも大歓迎だよ。勿論、君もね」
 頬を掻きつつ、そう尋ねた獅子道 黎焔(aa0122hero001)に猪野は心配無用とばかりに頷いて見せた。
「お、なんだ、もう揃ってんのか」
 結構、早めに出たつもりだったんだがなと頭を掻きつつやってきたのはアルリオだった。そのあとに続くように寿神たちや縁とウィンクルムも集まる。
「わわっ、もう、皆揃ってる!」
 俺たちが一番最後かぁと慌ててやってきたのは会津 灯影(aa0273)と楓(aa0273hero001)。
「ほぉ、中々だな」
「楓、失礼だろ」
「我は本当のことを言ったまでよ」
 そうだろうと彼に同意を求め、楓のことをよく知る灯影はそうだけどさぁと頭を掻いた。
「大体、お前のせいで俺の財布は侘しいの! 小遣いやってんのに何でタカるんだよ! 働け!」
「傾国の妖狐が自腹を切る方が可笑しかろう?」
 まぁ、今回は機嫌取りの一つでもしてやろうと付け加えた楓に灯影は「あ、でも戯れが過ぎるのはやめろよ!」と釘をさすのを忘れない。
 そうして、全員が集合したのを確認し、猪野はザッと店内の説明をし、制服を置いてある部屋の説明も行った。
「それでは、あとはお任せするよ」
 そういって、彼らを店内に見送った。

●お休み営業中につき、大変混雑が予想されます
 用意されていた制服に袖を通したエージェントたちは各々の配置に着く。
「若干、人多い様じゃし、俺は接客をするか」
 奥に引っ込んでおきたかったと溜息を吐く寿神は白のYシャツに黒ズボンを履き、ソムリエエプロンを着用し、いつもは括ることのない髪を一つにまとめていた。そんな寿神の隣では彼女とお揃いの服に身を包んだソロが「スーと一緒にお仕事」と変わらず、うきうきとしていた。
「ふむ、皆同じでは面白みが欠けるだろう」
 我は浴衣でやるとしよう、とその身に似合う浴衣に身を包み、妖艶に楓は微笑んで見せる。それにカウンターで準備をしていた灯影は「手は出すなよ!」と叫ぶ。
「わかったわかった、よく鳴く犬だな全く」
 向こうから出されるのであればよいのだろうと彼をあしらいつつ、聞こえないような声で呟き、楓はほくそ笑んだ。
「私は皿洗いをしますので、汚れた食器などございましたら、遠慮なく置いていってください」
「お、それは助かるな。いちいち、洗ってられねぇからな」
 厨房で仕込みを始めていたシェフ陣にそうウィンクルムが声をかければ、アルリオが早速だが頼むと調理器具を彼に託す。
「……手伝う」
「ありがとうございます。では、洗い終わったものをあちらに戻していただけますか?」
「……ん」
 小さな体をフル活用し、ナトはウィンクルムから預かった食器や調理器具を棚へと戻していく。その道中に沢山の野菜に目が向かう。
「……お野菜、いっぱい」
「お、夏野菜だね! 今の時期にぴったり!」
 素揚げとかもいいねとナトの言葉にシエロは頷き、野菜を使った料理を採用する。そして、他にはと目を巡らせる。
「えーっとあとは……んん!? こ、これは、業務用バター!?」
「……?」
 凄いと目を輝かせたシエロにナトはなんなのと首を傾げる。それに彼女は嬉々と乳製品を作ってる企業が作ったとってもいいバターであると力説する。そして、生クリームも発見し、更に彼女のテンションが上がった。
「……確かに何でも来いっつったがよぉ、なんだよこのフリッフリの服は! 似合うと思ってんのかごらぁ!!」
 一方ではサイズの合う服がそれしかなかったということで黎焔は思わず、わが身を包む服に叫んでいた。
「おー? れいえんにあうよ! おひめさまみたい!!」
「似合わねえよばか! ばーか!!」
 キラキラとした目で黎焔を見つめるのはまいだだ。そんな彼女も何故そのサイズがあるのかはたまた謎ではあるのだが、黎焔と同じ可愛らしいメイド服を着ていた。
「まいだばかじゃないもんー!! お? おきゃくさんだ! いらっしゃいませー!!」
「だーもう畜生いらっしゃいませー!?」
 カランカランと響いた鐘の音に客の来店を店内中に知らせた。最初こそは閑古鳥が鳴くのではないかというほどの人の少なさだったというのに昼が近づくと何で見たのかエージェントたちが喫茶店を開いているという情報を聞きつけ、サラリーマンやOLのお姉さんたちがわざわざ昼食をと来店する。
「す、すみません。今、大変混雑しておって、相席になるんじゃが良いでしょうか」
 敬語が混ざり混ざりになりつつ、慣れない接客を行う寿神。その隣ではソロが注文を受け付け、厨房の方に「懐かしの定食、一つお願いしまーす」と声をあげていた。
「ご注文は」
「ハニートーストにミルクコーヒーを一つ」
「はい、只今!」
 カウンターで受付をするのは灯影だ。コーヒーを抽出している間にカウンターに付属しているキッチンスペースでハニートーストを作る。なんでこんなに必要なのか不明だが、色々と材料が揃っているので、客の要望に応えて、アイス添えのハニートーストやあっさりとしてたサイダーゼリーに可愛くカットしたデザートを次々と作り、ウェイトレスを呼んでは席に運んでもらう。アイスをオレンジクレープシュゼットも注文が入り、作るたびに「俺も食べたい!」と零す。
「気まぐれシェフのパスタ入りました」
「あぁ、了解だ」
 即興パスタである注意書きをしたというのにアルリオの「気まぐれシェフのパスタ」も次々と注文が入っていた。まるでザ・男のパスタという感じがして食べごたえがあるのかもしれない。
「これとこれと……これもぶっこむか。味付けは……こんなもんだろ」
 スプーンでソースを掬い、味見をすると良しと言って、パスタと和え、サッと皿に盛る。
「窓側奥の席に気まぐれシェフのパスタもってけ」
「了解じゃ」
 カウンターに出せば、動けるウェイトレスがそれを受け取って持っていく。
「懐かしの定食も出来たよ」
 お盆には小さな小鉢が並び、そこには青々とした野菜に味の染み込んでいるだろうことがよくわかる煮物。そして、何よりも食欲を誘う香り。それに食す客は一度、ごくりと生唾を飲み、手を合わせた。
「いやー、下拵えしておいてよかった」
 多分、なかったら、大変だったなぁと縁は感想を零しながらも、次々と入る注文に自分の料理もやりつつ、手の回っていないシェフたちのも手伝う。
 そして、いよいよ天辺になると近所の店舗からもその賑わいにつられ、普段は弁当で済ませる人たちも来店する。
「ナト、キーマカレー一つだって」
「……持ってく」
「よろしく!」
 夏野菜たっぷりなキーマカレーは特にこれから頑張るぞという男性客に大人気。たっぷりと食べられるように大きめの鍋でぐつぐつと煮込み、それを一生懸命ナトが掻き混ぜる。そして、キーマカレーが呼ばれれば、忙しさも相まって、ナトが席まで運ぶ。
「――というに合わせるのであれば、コレが良いだろう」
 すすっとメニューに指を這わせながら、客に説明する楓。それに客は頬を染めながら、「で、ではそれで」と彼の言うとおりに注文をする。
「こういうのもあるが?」
「それもお願いします」
 至近距離で褒められ、微笑まれた客はコクコクと頷き、追加注文をする。
「どうだ、ザッとこんなもんだ」
「いやいやいや、なんかおかしいだろ! ココ、喫茶店だからな」
「そんなのわかっておる」
 妖しい雰囲気出すぎだろと黎焔が告げれば、何を言うかと思えばと楓は「我のでふぉというやつだ」とふふんと笑う。それに黎焔が何かいいかけるもまいだに「れいえん、おきゃくさまがよんでるよー」と呼ばれ、そちらに向かった。
「楓さんと会津さん、アルリオさんは休憩に入ってくれ」
 程なくして、落ち着いてくると寿神が楓と灯影に声をかけた。そして、灯影の立ち位置に寿神が入り、休憩を回し始める。昼食も取れてないということもあって、アルリオはパスタの上にキーマカレーをもらい、灯影は自分で作ったオレンジクレープシュゼットと楓のための稲荷を持って二階へと上がった。
 そして、休憩を終えた彼らが帰ってくると今度はまいだとナト、ウィンクルムが休憩に上がる。黎焔はまいだのためにこれとこれをと注文を付け、縁はそれを心をよく作った。そして、彼らと入れ替わりで縁、シエロ、黎焔が休憩に上がる。
 その際にちょっと興味本位で覗いたSNSでばっちり喫茶店のことが宣伝されていることに気づき、これのせいかとこれほどまでの人の多さに納得した。

「漸く、落ち付きましたね」
「いや、確か、あと少ししたら学生たちの帰宅時間だ」
「学生ラッシュだね! もっと、用意しとかなくちゃ。ついでに今の内にケーキも作っちゃおう」
 折角これだけの材料があるんだからとシエロは続け、ナトと一緒にケーキ作りに入る。それをみたウィンクルムとアルリオももうひと頑張りですね、だなと言葉を交わし、今の内にできる準備に取り掛かった。
 カランカランとなった鐘にいよいよかと入り口を覗き込めば、そこにはつま先から頭まで真っ黒な服に身を包み、髪はオールバックにし、趣味の悪いアクセサリーを身に着けた客の姿。それには一人を除き、全員が、言葉をなくし、釘付けになった。
「すれ違う人の視線を感じたが、ココではクールに決めるぞ」
 ブツブツ言いつつ、カウンターに腰を掛けたその客はメニューを開き、適当にデザートを頼む。それを食し、そのおいしさに頬が緩みそうになるが「ダメだダメだ、クールに」と自分に言い聞かせ、ぎこちない表情を作る。それに我慢ができなくなったのはアルリオだった。
「マコトおまえ……今、完全に不審者だぞ」
「えっ!? そんな馬鹿な」
 来るなとは思っていたが、こんな形でくるとは思わなかったと感想を零すアルリオに不審者もといマコトはどこがおかしいんだと自分の衣服を見つめる。
「正直、このあたりじゃ、そんな奇抜な格好をしとるやつは居らんて」
「いやいや、雑誌に書いてあったって」
 持ち歩いているのか幻想蝶から雑誌を取り出して見せたマコト。それを覗き込み、アルリオが一言一言解釈が間違っているのをしていく。
 そんな中、再びカランカランと鐘が来客を告げる。
「いらっしゃいませー、なんめいさまですか?」
「4人だけど、席は空いてますか?」
「はい、よんめいさまごあんないしまーす」
 まいだの元気な声に黎焔は彼女の補助に動き、全員が元の配置に戻り、注文を待つ。
「エージェントって言ってたけど、あんな小さな子もエージェントなんだね」
「なんか、可愛い」
 来店したのは近くの高校の生徒のようで寄り道して正解だったねなどと話していた。そして、彼女たちが注文したチーズケーキに舌鼓を打っていると続々と学生が来店する。
「なんか、腹にいっぱい入るものとかあるッスか!?」
「それだったら、これだろうな。腹もちもよいだろう」
「じゃあ、これで」
「俺は気まぐれパスタで」
 静かだった店内は一気に学生たちによって賑やかになる。楓は女子高生や乙男と思われる男子学生に尻尾を触っていいかなどと聞かれていた。そして、狐繋がりでソロにも声がかかる。
「よし、学生さんだし、ラテアートでもだそうかな」
 和食は多分でないからとデザートにてんやわんやになっている灯影の隣で縁はラテアートに挑戦する。それを見た、カウンターに座っていた女子高生が、私もくださいとと次々と注文が入る。最初こそは歪なクマさんや猫さんだったが徐々にコツが掴めてきたようで複雑な絵も描けるようになった。
「あ、俺もやりたい」
 そういった灯影の言葉が今度はきっかけになり、注文してもらい、下地を作ったところで、皆でラテアートを描く教室に早変わりした。さり気なく、カウンターにいたマコトもそれに参加して、自信満々に絵を書きあげる。
「なんだ、それは」
「え、猫だけど」
「……そうか」
 何をバカなことをという表情のマコトにアルリオは頷くとぽんと頭を撫で、「さっさと飲み干した方がいいと思うぞ」とアドバイスをした。
「皆で、SNSにあげようよ」
「いいねー」
「あ、お兄さんのもお願いしまーす」
「いいのかな」
「いいね。俺のもどうぞ」

●まさかのお休み大繁盛でした
「「「ありがとうございましたー」」」
 無事に営業時間が終わり、全員、近くにあった椅子にハァと息を吐き、腰を下ろした。
「まさか、こんなに忙しくなるとはな」
「まいだはたのしかったよー!」
「よかったな。あたしはもう、疲れたよ」
 アルリオの言葉にまいだは手をあげ、楽しかったと答え、それに黎焔はぽんぽんと彼女の頭を撫で、自分は息を吐いた。
「あぁ、そうじゃ、猪野さんからお疲れさんでしたって、フルーツケーキがあるんじゃが」
「お、じゃあ、俺がコーヒー淹れようか」
「なんだったら、ラテアートでもいいかも」
 寿神の言葉に灯影が一番に立ち上がり、次に縁も立ち上がった。そして、二人で爪楊枝で可愛らしいイラストをミルクの泡に描いていく。その間にウィンクルムとナトは全員分の食器を用意する。
「スー、今度、ラテアートやって」
「はいはい、今度の。フーリ、切り分けて皆に配ってくれ」
「まいだもきりたい!」
「じゃあ、一緒に」
「うん」
 フルーツのたっぷり乗ったケーキにまいだとソロがナイフを入れていく。それが上手くいくように黎焔がさり気なくフォローする。そして、少し歪だが、切れたケーキをナイフを使って皿に移していった。ケーキが全員に行きわたるころには全員分のラテアートも何とか完成したようでそちらも全員に配られた。
「俺が言うのもなんじゃが、今日はお疲れ様でした」
「「「お疲れ様でしたー」」」
 そういって、乾杯をすると疲れた体に沁み泡たる甘味に舌鼓を打つ。
「やっぱ、この生クリーム、最高っ!」
 おいしーというシエロの隣でコクコクとナトも頷く。
「これもこれで中々だな」
「だから、もらってるのにそれはないだろ」
 稲荷には敵わないという楓に灯影は全くと溜息を零していた。
「これはマコトに持って帰ってやるか」
 そんな彼らの隣ではアルリオが余った一切れを相方のお土産にと箱に詰める。
「たのしかったねー」
「いっぱい役に立てて、よかったな」
「うん」
 まいだ、がんばったというまいだにそうだなと黎焔はお疲れとばかりに気づかれないように自分のケーキを少しまいだの皿に移した。
「ピカピカになったね」
「えぇ、頑張りました。途中でお菓子も頂きましたし」
 皿洗いの途中に休憩がてらにと縁が料理の合間に作ったお菓子をウィンクルムの口に突っ込んだことを嬉しそうにいう彼にそれはよかったと縁は微笑んだ。
 そして、最後に全員で店内清掃を行い、ピカピカにし、エージェントたちは帰路へと着いた。

「毎日でもエージェントの方々に営業してほしい」
「マスター、やめて! 俺の給料がなくなるッス!!」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 止水の申し子
    まいだaa0122
    機械|6才|女性|防御
  • まいださんの保護者の方
    獅子道 黎焔aa0122hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575
    人間|20才|男性|生命
  • エージェント
    ウィンクルムaa1575hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 血まみれにゃんこ突撃隊☆
    東雲 マコトaa2412
    人間|19才|女性|回避
  • ヒーロー魂
    バーティン アルリオaa2412hero001
    英雄|26才|男性|ドレ
  • エージェント
    ナナシaa3966
    機械|17才|?|攻撃



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