本部

世界の半分をお前にやろう

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/08/02 14:22

掲示板

オープニング

● コペルニクス的展開

 君たちはとある愚神の討伐ミッションに参加していた。
 敵はケントュリオ級愚神『大魔王コペルニクス』である。
 彼を討伐するために25人の大部隊が編成され、苦闘の末に無事討伐完了。
 魔王は光に包まれ消えつつある、というのが現在までのあらまし。
 その魔王の声を君は聞いた。

「世界の半分を、くれてやろう……。だから私を助けてくれ」

 君はその時思った。
 うーん、ちょっとまって今考えるから。
 世界の半分をゲットしたらどうなるだろう。
 まず世界の半分ってなんだろうか、北半球? 南半球?
 だったら南半球がいいなぁ、あったかそうだし。
 あれ? でも南半球って海が多くなかった?
 まぁ、いいや。でも南半球を手に入れたらあれだよね。
 一生遊んで暮らしたいよね。あったかい南の海で毎日ジュースを飲みながらクルーザーとかにのってさ。
 そんな世界の半分を手に入れた時の妄想をあなたは繰り広げ、この短時間でとっても楽しくなってしまったあなたは。
 うんと答えてしまった。
 まったくの無意識の行動だった。
 まさかのうっかりである、本当にうっかり、本気ではなかった、ただちょっと楽しそうだなと思ったら、口が勝手にうんと言っていただけである。
 本心ではない。本心ではないはずなのに。
「おお、そうか欲しいか、世界の半分が、ならくれてやる。これが世界の半分だ」
 魔王はそれを本心としてとらえてしまった。
 その結果あなたに流れ込む魔王の力、そして英雄が邪英化、能力者は突如発生した霊力の渦に飲み込まれ、急速に展開されるドロップゾーン。あなた達は再び魔王の手に囚われた。

● 状況説明
 残念ながら皆さんの仲間の誰かが邪英化してしまいました。
 彼らを倒してここから帰りましょう、

 と言っても、ここは魔王がさいごの力で作り出した精神世界なので。
 現実に何か影響があるわけではあません。ご安心を。

 邪英の数は最少一名。最大で参加者の数マイナス1です。一人は絶対に正気を保っている状態にしてください。
 ただしお勧めは一人か二人です 
 邪英はなぜか自分のドロップゾーンを生成できるようになります。
 ただしゾーンを跨ぐことはできないので。一人か二人の時のみです。
 邪英が三人以上いる場合は、邪英VS邪英VSリンカーと言ったように、三つ巴、四つ巴の戦闘が発生します。その場合ドロップゾーンは特にギミックもないものに替わります。


●考えないといけないことリスト。
 邪英の方(ただし邪英が二人以下の場合)
1 ドロップゾーンが生成ができます。
 このドロップゾーンの中は英雄に大きく左右されます、つまり思うがままです。
 演出を考えてください。自分に有利な地形を生みだせるように

2 従魔
 あなたはドロップゾーン内でそれほど強くない従魔を生成できます。
 能力や外見を設定してください、数が少なるなれば質が上がり、数が多くなれば一体一体の質が下がります。

 下記は従魔のステータスの最低値です。
 従魔は最大五体生み出せます。
 さらに従魔の特徴として魔力強め、移動力高めなどオーダーしていただければ、GM側でデザインします。
 物攻E 物防E 魔攻E 魔防E 命中E 回避E 移動E 生命E 抵抗E INTE 

3 邪英化ボーナス(下記から一つ選択できます)

・プレミアムアームズ
 装備している、武器か防具を一つ選択、その名称が変わり、性能が全体的に強化されます。

・カオスマスター
 ドロップゾーンが強化される、従魔の質が上がる

・スキル《グロムネクロ》
 三回使用可能な《グロムネクロ》というスキルを獲得する。
 効果は。他者がアクティブスキルを使用したときに発動可能で。その効果を打消し、攻撃であった場合はその攻撃を失敗させ。対象に攻撃を仕掛ける。


 リンカーの方々
 邪英が二人いる場合はどちらのドロップゾーンに入るか選んでください。
 両方に入ることは不可能です。
 三人以上いる場合は不要です。
 一丸となって邪英化したリンカーを助けるために頑張ってください。

解説

目標 邪英の無力化
 
 今回はPVPとなります。
 邪英化はルールにのっとってステータスが上がるのでやや手ごわくなります。
 一応。リンカー側が全滅したら失敗ということで
 そして最初に言っておきますが、こちら精神世界のお話です。いってしまえば夢落ちですね。
 なので、邪英化になった演出はできますが、実際に邪英化しているわけではないのでご注意を。

●邪英のステータスについて。
 出発時のステータスがそのまま反映され、邪英化ルールに従って強くなります

●PL情報
 このシナリオで邪英のドロップゾーンに飲まれたのはあなた達だけです。
 なので、もし皆さんが全滅しても、他のリンカーが助けに来てくれるのでご安心を。

リプレイ

プロローグ
 世界を満たすのは、彼から発される膨大な霊力、そして断末魔。 
 その叫びの中に『八朔 カゲリ(aa0098)』は救いを求める声を聴いた。

「世界の半分を、くれてやろう……。だから私を助けてくれ」

 そんな甘言に乗るものがいるわけないだろう。そうカゲリは左から右へ聞き流しとどめをさすべく剣を振りかぶった、しかし。
「危なかった……今回ばかりは駄目かと……」
「……世界の半分には、ケーキは含まれますか?」
「え?」
「ん?」
 次の瞬間膨大な闇に飲まれていく『海神 藍(aa2518)』『禮(aa2518hero001)』のコンビ。
 彼等だけではない、その誘いにうっかり乗ってしまったもの達全員が、霧のようなものに包まれていく。
「…………。何やってるんだ、あんたら」
 『桜小路 國光(aa4046)』は思わず頭を抱える『メテオバイザー(aa4046hero001)』が何か言い出さないか注意を払いながら。
「ほう――世界の半分、寄越すと言うなら示してみよ」
 一同が混乱に飲まれている間に、『ナラカ(aa0098hero001)』はカゲリの静止を振り切ってそう答えてしまう。
「おい馬鹿、何を勝手に――」
「お前もか、少々数が多いがくれてやろう、これが世界の半分だ」
 二人の脳裏にそんな声が響き、体を満たしていく謎の力。
「……ふむ。済まぬな覚者よ、ちと遊びが過ぎたようだ」
「解り切っていた癖に良く言う……笑って言う台詞か」
「まあ、偶には共に人の輝きを見るも良かろうて。或いは汝が胸に響く姿も見られるやも知れぬぞ?」
「……言ってろよ。全く……好きにしろ」
 そして世界の半分は、沢山の邪英の手に渡った。

第一章 世界の数だけの絶望

 あの時確かにドロップゾーンは消滅したはずだった。なのになぜ
 そう『ギシャ(aa3141)』はあたりを見渡す。
 そこは平坦な世界。地平線が360°見える世界。
 ギシャは直感的に理解した、あの提案に乗ったやつが誰かいるんだと。
「せっかく愚神倒したのにー。……愚神の誘惑にのった人類の裏切り者は殺そう。うん」
『どらごん(aa3141hero001)』はその言葉に苦笑いを返す。
「そこまで深刻ではなく、ただ魔が差しただけだろう。まあしかし、邪英化解除には戦闘不能にする必要があるらしいから、戦闘は止めんがな」
 どらごんが口ずさんだ邪英化という言葉、それに國光は目を見開く。
「やっぱりそうなのか……」
 國光は溜息をついた。同じく倒れていた『キース=ロロッカ(aa3593)』に手を貸して立たせ話し合いの輪に加える。
「では、ここは一体『だれ』のドロップゾーンなのでしょう」
 キースは素早く『匂坂 紙姫(aa3593hero001)』と共鳴し、敵襲に備えた。敵が何にせよ、無防備な人間を襲わないわけがないから。
「誰が邪英化したかはわからないが、そこまで強くなっているわけでもないだろう。俺の陰に隠れてるんだ。ギシャ」
 國光はギシャにそう言うと少女は無表情にいった。
「うん、必要になったら盾にさせてもらうね」
「そして、あんたも。……えっと、沙耶さんだよな?」
 國光がへたりと座り込んでいる『榊原・沙耶(aa1188)』に手をかけると彼女はカクリと首をかしげた。
 そして。

「あらぁ、わらわを気遣うとは殊勝な奴じゃぁ。ほめてつかーす」

「へ?」
「ん?」
 ギシャと國光は二人そろってハテナマークを浮かべた。沙耶とはこのように珍妙な口調で話す人だった廊下。
「む、わらわの顔に何かついているかのぉ?」
――ちょっと沙耶!!
 脳内で沙耶に『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』が訴えかける。
――何してるのよ!!
「ちょっと、邪英化のふりをしてみようとおもって」
――って、はぁぁあぁ!? 何で邪英のフリなのよ! なんのために!!
「油断を誘うためかしら」
―― 油断を誘う為!? それって、シラフで廚弐っぽい言動と行動しろって事!?
どんな罰ゲームよ! 却下!却下!!
「いやぁよ」
 しかしその却下自体が却下され、沙羅は大人しく引き下がることになる。
――もういいわ、もうあなたの好きにしなさいよ
「あらぁ、なにてを引こうとしているの?。あなたがやるのよ」
――私が!!
「よろしくねぇ」
――え! あ! ちょっとまって、沙耶!!
 無理やり表層意識へと追い立てられる沙羅である。
「そんなわけでわた……わらわ。お前たちを、八つ裂きに、するから」
「なんでいきなり片言になったんだろこの人」
 ギシャがさらに首をひねる。
「とりあえず、自分から邪英って言ってるんだから倒しておくか」
「ちょっと、ちょっと待ちなさい。まだ幕開けには早いぞ! 役者が全員そろってないから戦い始めるべきではないかのう」
 ボイスチェンジャーを巧みに使い、ガデンツァの声を再現して見せる沙羅、内心冷や汗ものである。
「役者って、あんた意外にまだいるのか」
(まぁ、私邪英じゃないし)
 とすると、まだこの場に邪英は誰も存在していない、つまりは邪英が召喚される可能性がある。
「敵のお出ましのようだ……」
 國光がそう空を見上げると突如ゾーン内に光の柱が立ち上った。
 そこから現れたのは。
 まず、銀糸の髪を持つ少女『アヤメ』
 輝く彼女の髪には枯れ果てたアイリスの花、髪が靡き、あたかも狐の尾のようなものへと豹変する
 その時沙羅がリンカーだけに聞こえる声でつぶやいた。
「私は力を温存する」
 その声に反応しそうになるキース、だが瞬時に沙羅の思惑を理解して言葉を飲み込んだ。
 そんなリンカーたちにアヤメは語る。
「よい、久方ぶりに。力を取りもどした感覚じゃ……」
 そうつぶやいた声は『古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001)』のものに聞こえた。
 しかし表情やしぐさが普段とまるで違う。
 それもそのはず『防人 正護(aa2336)』やアイリスの意識も抑え込んで、今顕現しているのは別の人格。
 だから殺女。
 彼女はこの場にいるすべての生命を虐殺するつもりだった。
 しかし、さっそく彼女の思惑通りに事は進まなかったようだ、苦々しく顔をゆがめると、背後から歩み寄る気配へと、振り返り視線を送る。

「ふむ、確かにこれは、状況を度外視すればなかなかに気分がいい」

 そうもう一人妙齢の着物姿の女性が光の中から姿を現し、髪をはためかせ空へと上がった。黄金色の炎をほとばしらせ。彼女は見えない玉座に腰掛けるように空へと座る。
 彼女こそ邪英化したナラカだ。
「さて、この状況にどう抗うのか、見せてもらおう、人間」
「ほう、余裕じゃなナラカ」
 アヤメがつぶやき、あろうことかナラカへと一歩一歩。歩みを進める
「油断をすれば、寝首をかかれるやもしれぬぞ」
 アヤメはその手の蜃気楼揺らめく盾をふりナラカを挑発する。
「このようにな」
 その時、アヤメの両手から銀色の狐が放たれた、それは高速でナラカに殺到する。しかし。
 突如響く呪詛の声。そして飛来した札が狐たちを封じていく。
「なにが!」
 次いで放たれるプラズマと化した弾丸。それがアヤメのぶち当たると同時に怨念とも言うべき黒い霧があたりに散った。
「邪魔するなら、君から消すよ……?」
 『月夜(aa3591hero001)』である、だが普段の共鳴姿より女性よりだ、そして『沖 一真(aa3591)』は完全に乗っ取られている。
「まだまだ増えるみたいですよ」
 そう、キースはつぶやいた、その瞬間降り注ぐさらに複数の光の柱。
「こんなに、沢山……」
 四人のリンカーたちの表情は絶望に彩られる。
 全員が顔見知ったもの達だったから、だからこそ、先ほど背中合わせに戦った時と全てが違う。
 纏うオーラも思考回路も、そのすべても。
 神鳥の化身。銀色の狐、地を泳ぐ人魚。怒れる陰陽師。赤い悪鬼。
「まあ、英雄なんて言っても方向を変えれば皆こんなものですよね」
 歌うように禮は言った。邪英化した人々を見てため息をつく。
「……まるで伝説か神話のよう」
 そう禮は溜息をつく。
「彩に、黒い人魚が歌いましょう。きれいに、感情豊かに……無意味に」
 これらすべてと一度に戦わなくてはならないのか。
 そんな死に瀕する絶望を全員が味わった。
 しかし、これはまだ絶望の序曲でしかない。

第二章 心に張り付く闇

 世界の数だけ悲劇があった。
 だからこそ全員邪英となった。
 彼女らは悲劇の化身であり、救えなかった者の末路である。
 そんな彼女たちの心の中は冷え切っていた。
 もう限界で寂しくて冷たくて。その心から噴き出す重たい感情が勝手に体を突き動かして。
 どうすることもできなかった。
 この渇きをいやすために喉が震えるほどに吠えることを繰り返した。

「見つけた――邪英は打ち滅ぼす……恐怖で私に匹敵する者など不要だ。皆殺しにしてくれる」

 それは月夜も例外でなく。
 彼女は今、自分の命を削りながら戦場に銃弾をばらまいている。
 憎い、壊したい、目の前にあるすべてを、愚神を。
 彼女の銃弾は全て邪英たちに向かう。
 そして、闇に染まってしまったのは『ルナ(aa3447hero001)』も同じ。
――ルナ、思い出して。お願い。
 『世良 杏奈(aa3447)』はそう懇願するも声は届かない。
「あはははははは」
 ルナは甲高い笑い声をあげながら、切っ先をリンカーへと向けた。
 真紅の様相は普段の共鳴姿と変わらない。しかし、その視線は冷たく狂気的である。
「さぁ、あたしと遊びましょう」
 その手に握られているのは禁忌の剣、揺らめく光が炎のように見える。
「あの人たち、みんな邪英ですか?」
「半分以上かこれは、骨が……」
 國光が言い終らないうちにキースが弓を抜き禮やルナめがけトリオを放つが。
 その三本の矢は空中で静止した。
 歌が聞こえる。暗く地面の底から次の瞬間、キースの足元から水しぶきが上がり。
 そして。
「く!」
 キースへと刃突き立て飛び上がった黒い影。それは人魚だった。
 そしてその影は驚くべきことに地面に着水すると、優雅に泳ぎ去っていく。
「禮さん……ですね」
 キースは切り裂かれた肩口を抑えながら呻くように言った。
――これは……? 泡沫の夢?
 そして藍は見ることになる禮が観ている悪夢。海原を赤く染めて、正義を殺し続けた夢を。
「やるしかない!」
「よーし、三人だけどがんばろー」
「みなさん陣形を、ボクが後方から援護します!」
 三人は一体、一つのユニットとなり、まずは傷ついて弱っているはずの禮を狙って進軍する。
 しかしそれを遮るようにルナが躍り出た。その切っ先をギシャはすり抜けたが続く國光の眼前に迫る。
「く!」
 とっさにルナの剣撃を書の魔術で縛るキース。短く言葉を本に含ませ。霊力として放つと、キースの言葉が耳鳴りのようにこだまする、そしてルナの行動を一瞬止めた。
 國光は屈んで滑り込み刃を回避。
「助かった……」
「この子はギシャが殺ろうかな……」
 そうギシャは地面を蹴ってはじかれたようにルナの元へ戻ると、その顔面に拳を叩きつける。
 吹き飛ぶルナ。
 しかし彼女もやられっぱなしではない、剣を地面に突き刺して勢いを殺し、足を踏み鳴らすと彼女の陰からガラスの破片のようなものが出現、それがギシャに殺到した。
 それを華麗に避けるギシャ。そして再接近。
 ルナは禁忌の剣でギシャの白虎の爪牙をはじいた。
「僕たちはその間にって……」
 その時、キースをかばい前に出る國光、そんな二人を水から跳ね上がるイルカのように禮は二人を襲った。
 そんな人魚姫を鎌で器用にすくい上げ吹き飛ばす乙女が一人、邪英化?した沙羅である。
「別にわらわは、お主らのこと何とも思っておらぬぞ! ただあの人魚で生け作りを作れば豪勢じゃろうなと思っただけじゃ」
「おまえ、何がしたいんだ」
 次の瞬間、迫る弾丸を盾ではじく國光。そしてルナの剣を沙羅が鎌で防ぐ。
「移動しましょう、止まるといい的です」
 そうキースは一真へ弓を射った。だがそれは当然届かない。
 しかし、それでいいのだ。
 これは彼なりの一真への失望の意志表現なのだから。
「僕は、君とたたかいます、君を止めます……」
 三人の邪英相手に奮戦するリンカーたち。
 しかしそれを黙って見ているアヤメではなかった。
「……そうか、アイリスも歌が欲しいかぇ」
 その禮の歌に反応したのだろうか。アヤメが愛おしそうにつぶやくと、アヤメは戦場を駆ける。リンカーたちへとめがけ両手伸ばした。
「なら妾が詠ってやろう……」
 禮の歌に重ねるように別の戦慄が場を満たす。
 それは子守唄のように静かで、全てが眠りついてしまうかのような悲しい……終わりのような唄であった。
 そしてアヤメが放った狐火は、リンカーたちもろとも周囲の邪英も弾き飛ばす。
「して主等はアイリスの何なのじゃ? ……嗚呼、アイリスのために凍てくれるというのか……良い良い、ならば妾が傍に居させてやろうではないか」
 そんなアイリスの発現を受けてナラカは溜息をついた。彼女は相変わらず俯瞰の姿勢を崩していない。遍く照らす善悪不二の光として。
 それも当然のことだろう、本来の彼女を思えば静観しているだけ、まだ優しいと言える。
 本来の彼女の役割は裁定、過剰な迄の人間への期待は試練となって具現する。はずだった、しかし。
「弱い」
 侮蔑と共にそうナラカは漏らした。その言葉は人間ではなく、邪英達に向けられた言葉だった。
「意志はあっても覚悟がない。意志ある者にしても、現実に背を向けた身で微笑ましいよ」
「今お主は誰のことを弱いといったのかの?」
 ナラカに殺到する狐火、それをナラカは一刀のもとに切り捨てた。
「何を余裕しゃくしゃくで見ておるのじゃ」
 その時アヤメの姿が変化する、膨大な霊力を纏い銀色の狐へと姿を変えた。
「なに?」
「ふふふ、奴らを物言わぬ屍に帰るのも一興であろう。しかしな、わらわは思うのじゃ。この姿でお主とわらわがぶつかれば。どうなるか。その結果を知りたくてのう」
「……歯牙にもかけなかったことに気が付かなかったか?」
 ナラカはアヤメへと冷めた視線を送る。
「ああ、いいだろう、少しの間遊んでやろう」
 浄化の焔刃は閃くたびに翼のようなオーラを纏った。放たれる浄化の滅焔と衝突した銀色の炎は地上に降り注ぎ爆炎を上げる、これはもはや一つの天災だ。
 地を駆け空を走る二つの陰。つかず離れず攻撃を受けては反撃し、周囲に熱波をまき散らしていく。
「なんだ、あいつら。争いあってるのか?」
 そう國光が二人を見あげた時、空から何かが落ちてくるのが見えた。
「隕石?」
 それは上空から突如アヤメとナラカの間に割って入った。その何かは着地すると轟音と砂埃を巻き上げ全員の注目を奪った。
「まだいるのか!!」
 國光が叫ぶのとほぼ同時。低い駆動音、そしてエンジン音を鳴らしながらそれは起動した。
 煙の向こうに見える邪英は全身を赤銅色のパワードスーツはマッシブかつスマート。全高300CM。の巨大な武器を振り回す極めて危険な存在。 
 その存在の名は『リタ(aa2526hero001)』である。
 そして当然のごとく『鬼灯 佐千子(aa2526)』は取りこまれ、ぼんやりとした意識が残るのみ。
「至近距離に高ライブス反応を多数観測。愚神及び従魔とのライブスパターン類似率、――%。――識別結果、敵性。指示を」
――……
 リタは強化されたスラスターをふかせて、全力で距離をとる、そして。
「イエス、マム」
 そう口にして邪英めがけて無差別攻撃を開始した。

第三章 盤上の駒

 脳裏にフラッシュバックする光景。それは、覚えのない筈の、しかし良く知る光景。
戦火に埋め尽くされたその世界で、”彼女”は、失ったはずの”戦友”と共にあった。
「火器管制系、正常。撃てます」
 彼女が観ているのはあの日の光景、眼前のリンカーや邪英など見えていない。
 思い出せないはずの過去の記憶に振り回される。
 強いライブスを持つ者全てを敵と認識し、敵対行動を取った。
 世界を取り戻すために……
「危険分子確認排除します」
 そうリタはスラスターで横向きに駆けながら、16式60mm携行型速射砲 、フリーガーファウストG3 その他砲門、全てを月夜に向けた。
「その喧しい口を噤むがいい――耳障り……私の存在を生きて知る者などいらない――、屍の数こそが私の存在を証明してくれるのだから」
 そう月夜が放った弾丸を装甲で受けつつも月夜への接近をあきらめないリタ。
 圧倒的なLPCの射程だが、倒れなければどうということはないのだ。
「とまれ!!」
 再度チャージされたLPCが、直進するリタに放たれる、その銃を構える月夜の指先はすでに闇に飲まれ炭のようになっていた。
 それをリタは体をひねって回避。衝撃波で肩パーツが吹き飛ぶが、そんなものは関係ない、ただただ直進を続ける。
 そしてその射程に月夜をとらえた瞬間。16式60mm携行型速射砲 および全身の砲門が唸りを上げた。
 展開される弾幕、遮蔽物はなく、呪符による結界でその身を守るが。もとより物理火力には対抗手段が乏しい。
「だったら!」
「目標、駆逐」
 リタのアイレンズが強い輝きを帯びる。
 その瞬間。結界を切り裂いて夜に染まる矢が放たれた。それは吸い込まれるようにリタの右目に突き刺さる。
「……」

――あっがあああああああ!

 リタの中で叫んだのは佐千子。
 リタが疲労すればするほど、ダメージを受ければ受けるほど感覚が戻っていくようだ。
―― このバカ! こんな痛み……
 これほどの痛みを受けてのリタは悲鳴を上げない。
 それがどういうことだか佐千子には感がる時間が十分すぎるほどある。

   *    *

 そんな光景を見ながらリンカーたちは誰と戦うべきかを冷静に見定めていた。
「いい傾向ですね……」
 キースが言うと國光が問う。
「なにがだ?」
「邪英達は各々のターゲットを見つけたようです、これなら……」 
 同士討ちが狙える、どちらにせよ消耗した邪英を叩くことはたやすいだろう。
「なら狙うなら」
「負傷している人から優先だね」
「こんな状況でも、なんだか胸が痛みますね」
 そう目配せをすると、目の前のルナを飛び越えてキースとギシャは駆けた。
「お前の相手は、この俺だ」
 國光の頬を冷や汗が頬を伝う。
「アハハハハ!とっても楽しいわね!」
「わらっておられるのも今のうちじゃ!」
 突如乱入したきた沙羅は鎌を振るうと、その鎌から異形の者たちが噴出、肉塊の中に飲まれ裂傷を作るルナ。
「シンクロニティでぇす」
 まったくもって、音は関係ない一撃だが、なぜか血は止まらない。
「あんた!! せっかく遊んでるのに、邪魔しないでよ!」
「いや、わらわも邪英でのう。遊び相手に困っておったのじゃ」
 ルナは叩きつけるように沙羅へと剣を振るう。
 それを國光が盾ではじいた。
 対して禮の元へ向かったキースとギシャはというと
「さっきからあなたは私を狙ってばかり……あなたは敵なんですね? 敵は殺さなくちゃ」
 キースの放った矢を握りつぶして禮は笑う。
「ギシャもいるよ」
 そう禮が気をとられている隙にバックスタブ、後ろに回って背後から掌底を叩き込んだ。
「邪教徒の魔女に鉄槌を! 死んだ魔女だけがいい魔女だー」
――やれやれだ。連戦で疲れているのか言動が危ないな。早く休ませたいのだか、どうしたものか……
自らを攻撃した相手を執拗に狙う。ギシャへ魔術を投げるも当らない
「害成すものには災いを……まさか害される覚悟が無いだなんて、言いませんよね?」
 その隙にキースが一矢放つ。禮の喉に命中、そしてもう一矢。ファストショットで追撃を狙う。
「そう、こんな魔法が得意でした、音がないなんてふざけた歌。”無声劇”」
 そう口ずさんで禮は耳鳴りのような音を発声した。思わずキースは耳を押さえて屈める。
「頭が……」
 しかしこれはキースの計算のうちでもある。
 敵がこちらのスキルを妨害することができることを、キースはすでに理解していた。
「これだけ騒げば」
 そしてキースの分析はすでに完了している。
 どの邪英がどんな気性でどんな対象に攻撃したがるのか。
「信じていますよ、あなたなら僕より彼女を攻撃するって」
 そうキースは後方に全力で飛ぶと。月夜の放った弾丸が禮自信を弾き飛ばした。

「たくさん殺したんです……殺されも、しますよね」
 その体は煌く光となって天に上る。
「……ああ、楽しかった」

 キースはその光景を見届けてから、立ち上がる。
 そして背後に視線を感じて振り返った。
 やはり攻撃してきた、読みは当たった、そうにやりと笑いながらキースは月夜に視線を送る。
「え?」
 キースの視線に合わせて月夜も笑う。いや違う、あの笑い方は月夜のものではない。
「あとは、任せたぜ」
 次の瞬間、リタの銃弾を全身に浴びて果てる月夜。
 リタも相当な損傷を受けたのが、ひしゃげた16式60mm携行型速射砲と、用をなさなくなった装甲をパージする。
 そして次なる対象に狙いを定めた。
 急接近してくる沙羅である。
「お主の相手をしてやろう。リタ!」
 だんだんガデンツァの物まねが板についてきた沙羅である。ちなみに沙羅と一緒に戦っていた國光は、倒したルナをその手に抱えて立ち尽くしていた。
 ルナは光の粒になって消えかけている。
「本当に、ここはドロップゾーンの中なのか?」
 通常、邪英を倒せば英雄を幻想蝶に収めることができる。しかしそれはできなかった
 そして。ルナは國光の腕の中で消えようとしている。
「これがドロップゾーンのルールである可能性は捨てきれない。だが……」
 だとしたらこのドロップゾーンは一体誰が作っている?
 そう思案にふける國光をよそに沙羅は戦闘を継続している。
「ちょっと、あんた正気に戻ったら鬼灯さんに、ちくるからね。あとで怒られなさいあなた!」
 そうガデンツァの物まねも忘れて、友人に必死の訴えをする沙羅。
「鬼灯さん」
――ちくらなくても。聞こえてるっての
 そう、暗闇の中で佐千子は悪態をつく。
――私だって全力でやってんだ。勝手なこと言ってくれちゃって。
「鬼灯さん!!」
 彼女にとっては、見知ったものに刃を向けるだけでもつらいのだろう。そして何より友人が闇に落ちてしまったことが悲しいのだろう。
 その叫びは懇願の色を帯びていた。戻ってきてほしい。そう願う声だった。

―― ……こンの、馬鹿! とっとと目を覚ましなさいっ……!!

「サチ……」
 リタの視界の端には戦友が映っている。しかし。
 その映像が一瞬ぶれ。代わりに見えたのは。
 今の相棒が、笑いながら友人たちと話している姿。
 そして戦友が微笑んでいる姿。
「エラー、エラー、エラー、エラー。戦闘続行、不可!! 不可!! あああああああ」
 リタのパワードスーツからすべての光が消えうせた。エンジンが止まる。
 そして彼女を覆うアーマーを沙羅は切り捨てた。

「機密保持のため、10秒後に最終シークエンスに移行」
「えええ! なんであなたまで」

「6、5、4、3、2、1、……移行完了。リアクター限界超過。システム強制停止、――オーバーライド。グッバイ、マム。ご健勝、を、……――」

 そして戦場に一つの大きな花が咲いた。

 第四章 悪夢の際

「残念なお知らせよ、回復が今ので尽きたわ」
 爆心地で寝転がっていた沙羅にギシャが歩み寄ると彼女は言った。
 その発言を受けて、リンカー側は顔を曇らせる。
 全員がある程度余裕があり、継続戦闘が可能だったとはいえ。最後に残っているのは最悪の相手だったからだ。
「なかなか、楽しめたぞ」 
「クフフ……、妾は消えぬ……またアイリスのため、眠り……また目覚め、そしてアイリスのための世界に………… 」
 そうアヤメを浄化の焔刃であぶり殺し。ナラカはリンカーたちに向き直った。
「さあ、済度の刻だ」
 彼女は欲しているのだ。リンカーたちの意志の輝き、それを見せつけてほしいと。
「我が浄化の焔を越え至高の輝きで魅せてくれ」
 ナラカはあふれ出す霊力を浄化の炎と変えて振りかざす。
「喉が枯れ果てるほどに、人間賛歌を高らかに謳わせてくれ!」
 そしてナラカは笑った、この程度の困難を越えられないようではこの先、人類に未来はないと。
 そう、神は告げた。


エピローグ

 
「……と言う夢を見たんです!恰好良くないですか!?
「そうか……禮、一緒に病院へ行こうか。」
「というか、ここ病院だよ」
 そうケントゥリオ級愚神の討伐任務直後、なぜか倒れた十組のリンカーたちはすぐさま病院に搬送された。
 別段異常はなかったが様子見ということで同じ病室に押し込められるリンカーたち。
「……夢で良かった」
 燃え尽きたようにルナは言う。
「本当にね。実際にあんなバトルロワイヤルが起きたら、大変な事になるわ」
 杏奈はあの時のことを断片的にしか覚えていないが、ルナの深い闇を知った。それを今後どうしていくかも考えなければいけない。
「学びの多い依頼でしたね」
 そうキースは口ずさむと紙姫の剥いたリンゴをひとかじりした。
「あたしも邪英化したかった~」
「……それは、冗談でも口にしてはいけませんよ」
「なぁ、キース」
 國光は神妙な面持ちでキースに言葉をかけた。
「はい?」
「あのドロップゾーン、どう思う?」
「ああ、それはですねぇ」
 そんな分析、考察に熱を上げるリンカーたち。
 そんな彼等を病室に残し沙耶は外でロクトに電話をかけている。
「もしもし、ロクトちゃん? 実は聞いてみたいことがあって……」
「あなたの入ったドロップゾーンの話ね興味深いわ……」
「再現できたら面白いわよね。邪英化した時の対処法をシミュレーションしやすくなるし、邪英化した状態を知れるなんて、優れものだからねぇ」
 今回の一件、結局は夢の中の話だったが、もしこれが現実に起これば対処の仕様がないだろう。
 心底夢でよかったと胸をなでおろすリンカーたちなのであった。

結果

シナリオ成功度 失敗

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
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