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最終発言2016/07/20 00:34:42 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/07/19 15:24:44
オープニング
●砂上の道
「皆さんに、お伝えしなければならないことがあります」
暗い夜道をトラックで揺られながら、エステルとリンカーたちはパソコンの画面に映ったHOPE職員の顔を覗き込む。リンカーたちは、近くの街に戻るためにトラックで砂漠を越えている真っ最中であった。
愚神との戦いで負傷者がでたため、エステルたちは敵の包囲網を密かに抜け出して車を走らせたのであった。戦いで回収した英雄ものせていることもあり、トラックの内部に余計なスペースなどはなかった。
遺跡の近くには町や村はないため、このまま何十分もトラックに揺られていなければならない。目的地は、廃村である。そこには、HOPEが敵に気づかれないように置いた救護班と物資補給班がいるはずなのだ。
「ウィランズが消滅した、と救護班と物資補給班より報告がありました」
パソコンに映る職員がいうに、遺跡近くに待機させていた医療班がヴィランズに襲われたらしい。砂漠の真ん中にいた人間の群を悪党たちは、補給班の人々をすぐに助けを呼べないヤツラと認識しておそったらしい。
「医療班は現在――ヴィランを倒した何者かの攻撃を受けているとのことです」
パソコンの画面が、切り替わる。
おそらくは携帯でとられたらしい画質の悪い映像が、画面に流れた。真っ黒な影は、成人男性のように思われた。素早く動いているらしく、画質の悪い画像では細部までは分からなかったが――次の瞬間にエステルは息を飲んだ。
暗い男は、何もないはずの虚空から剣を取りだしていた。
アルメイヤのものより大きな剣を、男は片手で扱っていた。男は村の家々を破壊していた。その無秩序な攻撃は、まるで男が狂っているかのようであった。
「愚神……なのでしょうか?」
エステルの呟きに、アルメイヤは首を振る。
「おそらく、あいつは私と同じモノだ」
アルメイヤと同じ、もの。
それはすなわち、英雄であるということ。
リンカーたちは、息を飲んだ。召喚された英雄は、邪英化してしまっている。「一体、何が原因で」とエステルは問おうとして、声を失った。
虚空から、男はきらめくナイフを何十と出現させる。そのナイフの雨が落ちてきて、映像が途切れたせいであった。この映像をとっていた人間は、ナイフの雨を浴びて死んだのかもしれない。その可能性を理解した途端、エステルは無意識に口を手にあてていた。
「HOPEは、これをライヴス制御の失敗による一時的な邪英化であると考えています。時間が経てば自然と戻る可能性も高いですが、ライヴスを使い尽くせば消滅します」
その前に撃破し、幻想蝶に固定してください。
そうすれば、英雄の契約者を探すだけの時間を確保することができるはずです。
HOPEの職員は、そう続けた。
●逃亡者の怒り
アルメイヤは、怒っていた。
他者にはなく、自分自身に怒っていた。
エステルやリンカーたちと共に見た画像に映し出されていたのは、過去の自分であった。エステルを守るためならば他の全てを壊してしまえ、と考えていた過去の自分であった。他の誰も気がついていなかったが、アルメイヤは気がついていた。
暗い男が虚空から出した、ナイフの群。
あのナイフの群が、空中でわずかに動いた。なにか攻撃してはいけないものに気がついて、無理矢理にでも方向を変えたのだとアルメイヤは感じとったのだ。精密射撃を不得意とするであろう英雄が、そこまでして目標を変えた理由。
あの邪英化した英雄にもいるのである。
自分のとってのエステルのような存在が。
「英雄が召喚される時は……付近に相性の良い能力者がいる可能性が高いと聞きましたけど。あの英雄にもいるのでしょうか?」
エステルの疑問にでえ、アルメイヤは答えることを忘れていた。
●助けをもとめた者
医療班と物資補給班が用意したキャンプは、破滅に近い状態であった。
すでに廃村になった村を利用する形で作られたキャンプは、重体患者の治療のために設置されたものだ。砂漠のなかではヘリも使えず、車での移動も時間がかかる。そんな環境下での大怪我は死につながる。そのために、HOPEが用意させた「もしも」のときのためのキャンプであった。
そんなキャンプに、ヴィランズが現れた。
おそらくは医療品や物資を狙ってのものだろう。非戦闘員が多かったキャンプはあっという間に混乱に陥ったが、そこに英雄が舞い降りた。
だが、英雄は狂っていた。
英雄がなぜ、狂っていたのかは職員達には分からなかった。
「あ……ああ」
キャンプの光景を見て、青年医師――ラシードは茫然としていた。それでも携帯電話を震える両手でどうにか持ち、邪英化した英雄の姿を映していた。これをHOPEに送らなければならない。誰かに、助けを求めなければならない。
「何やってるの! 早く、逃げなさい!!」
「アイシャ……」
立ち止まっていたラシードを看護師のアイシャが叱咤する。
「早く! さっきの家に地下室があるから、そこまで走って!!」
「アイシャ、後ろ!」
ラシードの声に、アイシャははっとした。
空に浮かぶ無数のナイフが、自分たちに降り注ごうとしていた。
――ごぉぉぉぉ!!
風のような音がした。もしかしたら、英雄の男が吠えた声であったのかもしれない。だが、アイシャには判断がつかなかった。
分かることは、たった一つ。
ナイフは自分たちに、当たらなかった。
幸運な事に、ナイフは自分たちではなく近くにいたウィランズの一人に当たったようだった。ウィランズは英雄が現れた当初は逃げようとしたが、彼があまりに必要にウィランズをつけ狙うので戦うことを決めたらしい。
ラシードは、落とした際に壊れた携帯を拾った。もしもデータが無事ならば、助けを呼ぶことができるからだ。
リンカーたちが村にたどり着くまで、あと三十分。
あのウィランズ程度では、邪英化した英雄を止めることなどままならないだろう。
アイシャはそう考えながらも、ラシードの手をとって走っていた。
解説
・邪瑛化した英雄を倒して、医療班および補給班の保護してください。
キャンプ……廃村を利用している。医療品などが散乱しており、酷い状態。夜間のため視界は不明瞭。何十年も前の家々が並び、細い道が続いている。中央にやや広い広場がある。
邪瑛化した英雄……剣を虚空からだして直接攻撃したり、何重と剣を虚空に呼び出して掃射する攻撃をしてくる。自分の身を守るという考えは頭から抜け落ちており、敵を見れば全力でソレに対して攻撃をしてくる。防御や撤退するという行動はとらない。ヴィランズが目の前に現れた際には、攻撃を優先的におこなう。なお、掃射の命中率は悪い。広場に出現する。
ウィランズ……キャンプを襲っていた。五名生き残っており、それぞれ家に隠れている。家に誰か尋ねてくると、銃で攻撃を仕掛けてくる。英雄が倒されるまでヴィランズが残っていると、元村長の家までいき非戦闘要員を人質にとろうとする。
アルメイヤ……エステルと共鳴し、リンカーたちと共に戦う。邪英化した英雄に対して嫌悪感を持っており、必要以上の攻撃をしてしまう。
エステル……アルメイヤを信用し、全権を譲り渡す形で共鳴する。
怪我人……トラックにてエステルたちが運んでいる怪我人。応急手当はしているが、本格的な治療を受けなければ危険な状態である。
以下、PL情報
元村長の家……広場の近くにある、大きな家。地下室があり、非戦闘要員はそこに隠れている。
リプレイ
「英雄が召喚される時は……付近に相性の良い能力者がいる可能性が高いと聞きましたけど。あの英雄にもいるのでしょうか?」
トラックに揺られながら、エステルは呟く。アルメイヤはその言葉に気が付かず、変わりに答えたのは俺氏(aa3414hero001)であった。
『なるほど、そういう可能性はありそうだね』
「キャンプにいる誰かがそうだってことか?」
鹿島 和馬(aa3414)はパソコンの映像を最初から再生してみていたが、画像が粗すぎてやはり細かいものは見えづらい。この画像では、この場に誰がいたかの断定はとても難しい。とった相手が生きていればいいのだが、はたして無事でいるかどうか。
『なんの縁もないところに突然英雄が沸いて大暴れ、というよりは説得力があるんじゃないかな』
俺氏の言葉には、説得力があった。
なるほど、と和馬も頷く。
「おー、なんか大変だねー」
パソコンの荒い画像みながらギシャ(aa3141)が呟く。
『シーカの一連の事件の続きだろう。関わったからにはやれることをやれ』
「おー。とりあえず殴って黙らせよう。うん」
『えっ?』とどらごん(aa3141hero001)が呟いた時にはもう事態は遅く、共鳴したギシャはトラックから飛び降りていた。
とりあえず現地までは急がないとねー、とギシャは一足先に現場へと向かう。
「私たちも走ったほうがいいのでしょうか?」
六鬼 硲(aa1148)は小さくなっていくギシャの背中に戸惑っていたが、その提案は九字原 昂(aa0919)に止められた。こちらにいる怪我人をおいていくわけにはいかないし、こんななかで医者の卵である狭間にいなくなられても困るからであった。
「怪我人の状態はどうだろう? 数時間ぐらいは持ちそうだろうか?」
トラックの荷台で応急手当てされた怪我人の状態を真壁 久朗(aa0032)が尋ねる。医療従事者以外の目では、怪我人の大雑把な状態しかわからない。硲は「数時間は持つと思います……」と言葉を濁した。ちゃんとした医療道具がない状態では、はっきりとしたことは言えないのだろう。
「邪英対処にヴィランの確保、そして非戦闘員の保護か」
『お仕事たくさんですね! が、頑張りましょう』
セラフィナ(aa0032hero001)が、ぐっと拳を握る。
「ああ。どれも迅速に、だ」
●潜む影
昴とArcard Flawless(aa1024)は背中合わせで互いの死角をカバーしあっていた。情報ではキャンプを襲っていたウィランズがいるはずなのだが、暴走した英雄を恐れてなのか姿を見せる気配がない。そのためにも十分注意して、行動しなければならなかった。窮鼠は猫を噛む、と言う。弱った敵ほど、やみくもでなにをしてくるかわからない。
「奇襲作戦でいくんですよね」
「ああ……」
昴の問いかけに、Arcardはやや不機嫌そうに答える。もともとあまり表情に感情がでないタイプのArcardであるから、それは昴の気のせいなのかもしれない。
トラックから離れる前に昴を動物の鳴き声のような声でIriaが励ましてくれていた(あるいは気にするなと言っていたのかもしれない)が、どうにも昴にはArcardの不機嫌の理由がわからない。
「なにか、アルメイヤさんとあったんですか?」
このまま作戦を実行しても上手くいかないような気がした昴は、Arcardに憂いの理由を尋ねた。
「……ボクは、彼女が暴力を無秩序に振るった事件を知っているんだよ。アルメイヤの無知が原因だった。……今でも無知なのか、と問いただしたくなっただけなんだ」
昴はArcardの答えに、曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
過去の遺恨が原因ならば、自分が口を出せるようなことではない。
「それより、作戦の実行だ」
「おっと、そうでした。迅速にが合言葉ですもんね」
昴とArcardは頷き合うと、すでに住人がいなくなった家のドアを蹴破った。Arcardは先に家に入り、昴はその後に続く。元は大家族が住んでいたのだろう家は広々とした開放的な作りであったが、今は埃や砂でだいぶ汚れてしまっていた。
「このやろう! ここまで追ってきやがったな!!」
銃を持ったヴィランと思しき男が飛び出してくる
どうやら、彼はArcardたちを邪英化した英雄の仲間だと思っているらしい。
Arcardだけに狙いを定めていた男に向かって、昴はハングマンを投擲する。銅線が絡まるなかでも逃げようとする男に、さらに女郎蜘蛛を仕掛け動きを完全に封じる。
「この分なら、まだウィランズは潜んでいそうだ」
Arcardは、男が持っていた銃を彼が二度と持つことがないように蹴飛ばした。
●潜む影2
「医療班の事なんだが……こういった場合は、固まって避難することが多いよな。あと、この距離で通信がないってことは繋がらない場所にいるってことだ」
月影 飛翔(aa0224)はトラックを降りる際に、そう自分の考えを述べた。学校や施設などでは、避難する際は一まとまりになって行動することを前提にして避難訓練をする。医療従事者が多いこの現場では、その訓練内容をおろそかにする人間は少ないであろう。
『ある程度の人数が収容できて立て籠もりが可能。通信が届き難い場所となると、大きな家の地下室辺りでしょうか……』
ルビナス フローリア(aa0224hero001)も、わずかに首をひねっていた。
医療班を探す仲間に自分の考えを告げた飛翔は、さっそく自分の仕事に取り掛かる。手に入るものを利用して、案山子を作るつもりだったのである。飛翔はそれを囮として利用するつもりであったが、なかなか会心の作品にはいたらない。
『――ところで、アルメイヤ氏はどうかしたの? なんだかおこみたいだけれど』
トラックを離れる際に気になっていたことに、今さらながら俺氏は首をかしげていた。
「エステルの声に気付かない程って……なんか気に掛かる事でもあんのか?」
ライヴスゴーグルをつけながら和馬も「うーん」と首をひねる。
『アルメイヤ氏にも話しにくい事情とかあるだろうけど……』
「できたぞ」
俺氏と和馬は会話を言ったん止めて、振り返った。飛翔の手には、空き家から無断拝借したと思われる衣類を使って作られた人形があった。ご丁寧に顔まで書かれたそれは、どこをどうみても案山子である。
「どこまで騙されてくれるかは分からないけどな」
製作者である飛翔も、これが囮になるかどうかは半信半疑であった。
「落ちついて見ると、完全に案山子だもんな」
邪英化した英雄に追いかけ回されていたのだから、ウィランズは「落ちついて」はいないであろう。そう信じて和馬が突き止めたウィランズが潜んでいる家のなかに、飛翔は案山子を投げ入れた。
――ドドドドツッッ。
銃を乱射している音が響く。案山子は囮としての役割を担うことに成功したらしい。願うことならば、まだ天寿を全うしていなければいい。再利用するつもりだったのである。
「俺が前で囮になる。和馬は、裏口か窓から侵入して制圧を頼む」
「分かった。案山子の犠牲は無駄にしないぜ」
和馬が裏にまわったことを確認し、飛翔はバンカーメイスを握り直した。そのまま姿勢を低くしたまま突入し、なかにいたウィランだと思しき男の顎を狙った。その瞬間に、和馬も裏口から侵入。二人でウィランを拘束する。
「さて、仲間が何人いるかを吐いてもらおうな」
飛翔は、ヴィランに訪ねた。
場合によっては、案山子を何度も作りなおさなければならないであろう。
●助けるために
「早く医療班の人たち探さないとだね……!」
御代 つくし(aa0657)は、人気のない街を警戒しながら進んでいた。どこにウィランがいるかわからないし、医療班が隠れている場所のヒントを見落としかねない。
『そうですね。ただ用心しましょう。この暗闇ではいつどこから襲われるか分かりませんから』
ライトアイをかけてはもらいましたが、とメグル(aa0657hero001)は続ける。
「便利だよね。明りがなくとも目が見えるなんて」
さすがリーダー、とつくしは感心していた。一緒に行動する事ははじめてだが、所属する小隊のリーダーに信頼感は増していた。
「物陰に隠れた敵が見えるわけじゃないから、注意するんだな」
『ヴィランに襲われたら、時間をとられてしまうからだよね?』
セラフィナは、微笑みながら久朗の言葉を補足する。
「飛翔さんも言ってたけど、医療班の人はまとまって逃げたのかな?」
『力が無いからこそ、ばらばらになるよりは纏まるのではないでしょうか』
つくしは考え込むが、久朗がぼそりと「学校の避難訓練だ……」と口にした。その言葉を聞いて、ぽんと彼女は手を叩く。
「なるほど! たしかにまとまって逃げます!!」
「それと足跡だ。ウィランズのものである可能性もあるが、数が多ければ医療班の可能性が高い。……足跡を消すなんて時間はなかっただろうしな」
送られてきた映像を見る限り、医療班は逃げるのに精いっぱいであっただろう。こうして足跡を追跡されると分かっていても、偽装したり消したりする暇はなかったはずである。
「大きな家に足跡は向かってますね。行ってみましょう!」
つくしと久朗は、警戒しながらも一際大きな家へと向かった。入ってみると人影も荒らされた形跡もない。ウィランズもいないが、医療班がいた形跡もなかった。
「HOPEです! 助けに来ました! 誰かいませんか!」
つくしの声に、床下からドンドンと音がした。
しばらくすると床が開き、医者らしき男が顔を出す。
「君たち、リンカーなのか!」
医者は、久朗たちをみるとほっとしたように肩を下ろした。
「到着に時間がかかってすまない。これで全員か? 大怪我をした者はいないか?」
久朗が見る限り、大きな怪我を負っているような人間はいなかった。だが、別の場所に隠れていることもありうる。あるいは大怪我すぎて、動かせていない可能性もあった。
「不幸中の幸いというか。こちらは、まだ怪我人を受け入れていなかったんだ。我々のなかで負傷した人間もいない」
その報告を聞いて、つくしはほっとする。
「すまない。こんな時になんだが、こちらにも治療を必要としている者がいる。街の外れのトラックに大怪我を負ったリンカーを運んできた。医者の卵のみたてだと、数時間以内にちゃんとした治療を受けないと危険らしい」
「だが、最寄りの街まではかなりの距離があるぞ」
「邪英雄やウィランについては、仲間が対処している。……素人の考えだが、ここを治療室にできないだろうか?」
久朗の考えに、医療班はしばらくざわついた。
彼らは、一刻も早くここから逃げだすことだけを考えていたのだろう。
「この家は、俺が守る。おまえたちは治療に専念してくれ」
「リンカーの護衛があるなら、ここはなんとかなるだろうが……。トラックにいる怪我人はどうする。一人じゃ動けないだろ」
「私が、お医者さんをトラックまで護衛します!」
つくしが、手を揚げる。
「あの人を死なせたくないんです。お願いです、私を信じてついてきて下さい!!」
十代の少女の気概。
そえを見た大人たちは、腕まくりをした。
「わかった。しっかりと、守ってくれよ」
「はい!」
●守ることをできなかった愚神
アルメイヤは、エステルとの出会いを思い出していた。
この世界に呼びこまれたときに、アルメイヤはエステルとの間に特別な絆を感じた。この娘を全てに代えても守らなければならない、と心の底から思った。それは今でも変わらず、彼女の小さな手を守っている瞬間は安らぎすら感じる。
「……守らない英雄は、英雄ではない」
小さく、アルメイヤは呟く。
ナラカ(aa0098hero001)は、狂った英雄を見ていた。
パソコンの映像を見たナラカは気がついていたのである。彼がナイフの掃射する際に、狙いをずらしたことを。狂ってもなお、彼は何を守りたかったのか。
「あまり、余所見はさせてもらえないようだぞ」
八朔 カゲリ(aa0098)は掃射された剣を避けながら、邪英化した男に興味を持つナラカに呟く。
『覚者が、しっかりと避ければ問題はないぞ。それとも覚者も、気になる者があるのかのう?』
あどけない少女のように首をかしげるナラカに、カゲリは無言を通した。だが、視線は気になるほうへと向いていた。
「あぶないです!」
硲が禁軍装甲で、アルメイヤの方に振ってきたナイフを防ぐ。
「おー、みんな追いついたね」
『時間稼ぎは成功だな』
一足先に邪英と交戦していたギシャは、仲間の近くにあった民家の屋根に着地する。今までずっと一人で、邪英の情報を見出そうと接近、回避、移動を繰り返していたのである。仲間もたどり着いたし、少しばかり休憩といったところなのだろう。
「意思は完全にないねー。会話は通じなかったよ。障害物になりそうな家はないけど、代わりに遮蔽物もないよ」
「情報ありがとうございます!」
染井 義乃(aa0053)は構えながらも、ちらちらと周りを確認する。英雄が現れた場合は、近くに能力者がいる可能性が非常に高い。
『あの時とは違うぞ。相手は正気を失っている』
「そうですよね」
それでも、シュヴェルト(aa0053hero001)に会った日のことを思い出してしまう。
「私の守りたい人はシュヴェルトやこの場にいる皆……。だけど、貴方にも守るべきものがいるというなら……尚更負けるわけにはいきません。仲間の信念も守りたいから」
『ならば、やってみろ。あの時、俺と誓約を交わした時と同じように』
義乃はライオンシールドをかまえて、守るべき誓いを使用した。
これで、邪英の意識は義乃に向くはずである。
その隙に、カゲリがライブスブローを使用する。
「くるぞ……」
英雄の頭上に、ナイフが出現する。
あまたのナイフはどこれも大きくはないが、数え切れぬほどの数が義乃へと向かう。盾で防いでいるとはいえ、その猛攻は恐ろしさすら感じるものであった。
「くっ……これぐらいなら、耐えきれます!」
歯を食いしばって、義乃は耐えしのぶ。
「無理はしないでくださいね」
硲は雷神ノ書を開き、邪瑛化した英雄に攻撃を加える。
今のところは自分の回復が必要なほどの怪我人はいないようだが、それにしても敵である英雄の猛攻は酷かった。理性をなくしているせいであるのだろうか。
一つ一つの攻撃こそは単調であるのだが、あと先を考えないぶん此方がぞっとさせられる。全て力任せで、その圧倒的な力で此方を押し切ろうとしていた。
そして、アルメイヤの事も気がかりであった。
彼女もまた何も恐れずに、邪英化した英雄に切りかかる。戦力にはなっているが、その猛攻も異常なようにも思われた。義乃は、それを怪しく思った。彼女には理性があるのに、あれはどういうことだろうと。
「シュヴェルト。アルメイヤさんのこと、どう思う?」
盾を構えながら、義乃はシュヴェルトに訪ねる。
『戦闘だからな。殺気立つのは当たり前だが……義乃、気にかけた方がいいぞ』
やはり、シュヴェルトもアルメイヤの異常性には気がついていたらしい。
「エステルは、全権をゆだねたのか」
戦いながら、ぼそりとカゲリは呟く。
エステルがアルメイヤを信用するようになったのは喜ばしいことであるが、エステルは信頼という言葉の意味を取り違えている。
彼女のそれは、責任の放棄だ。
カゲリは兄のように、エステルの事を心配していた。故に、彼女の行動が「彼女のゆくべき道」なのかと気にかけてしまうのである。
「アルメイヤ。おまえは、エステルの信頼にそれで答えるのか?」
思わず、カゲリは尋ねた。
アルメイヤはちらりとカゲリを見たが、そのまま戦い続ける。
ギシャはその攻防戦を見ながら、武器をウロボロスに持ちかえた。そして、邪英化した英雄の足を狙う。逃げられては敵わない、と女郎蜘蛛を使用する。
「黒蛇食べなくてよかった、よかった」
ウロボロスを握ったギシャは、にこやかに笑っていた。
その理由は、彼女だけが知る。
「これで、最後だ」
カゲリは、剣を握っていた。
それが、最後の一撃となるはずだった。
アルメイヤが、カゲリの横をすり抜ける。カゲリはアルメイヤを止めようとしたが、間に合わない。
咄嗟に硲が、盾をもってアルメイヤと邪英化した英雄の間に入った。アルメイヤの一撃を盾で受け止めながら、硲は彼女を諭す。
「私たちの任務は、消去でなく撃破です。何を考えてのことかは分かりませんが、お叱りは後で承ります」
アルメイヤの敵意は、未だに邪英化した英雄に向けられていた。その姿をみたカゲリは、思わず呟く。
「同族嫌悪が、そんなに大切なのか」
カゲリの言葉に、アルメイヤは答えることはなかった。
●戦いの後に
「トラックで待ってもらっていた人は、命に別条はないそうです」
医者と共に怪我人を見ていたつくしは、敵を殲滅したキャンプで嬉しそうに報告をした。それを聞いた仲間たちは、ほっとする。皆、それぞれに自分たちがトラックで運んだ怪我人のことは気にかけていたのである。
「どうだ、今回の戦いについて感想は?」
Arcardは、アルメイヤに訪ねた。
アルメイヤは、喜びにわく契約者と英雄たちをみていた。
邪英化した英雄は無事に幻想蝶へと入れられて、HOPEへと送られることが決まっている。和馬は「これからが大変かもね」と英雄に同情的であった。
「廃村に現れたのだから、契約者が村人ということはないだろう。なら、補給部隊か医療班の誰かとなるよな。案外簡単に探しだせるかもな」
飛翔の考えは当たっているのであろうが、残念ながら今は時間がなかった。「全員を送り届けて終わり、じゃないからな」と飛翔は続ける。飛翔たちは戦場に戻らねばならない。英雄の契約者探しは、HOPEの職員たちに任せることになるであろう。だが、それでも狂った英雄が契約者を危険にさらしたかもしれないという事実は代わりがない。あの英雄と未だに誰かわからない契約者は、その事実を乗り越えていかなければならないのである。
「――契約者を守れない英雄に、価値なんかない」
アルメイヤは呟く。
彼女の心は未だに、エステルと契約した屋敷にあった。何か一つが間違えば契約者を失っていたかもしれないという恐怖が、アルメイヤのなかに未だにあったのである。
「狂犬め」
Arcardの言葉に、アルメイヤは頷く。
契約前にエステルを失っていたかもしれないこと――それを恐れるアルメイヤにとって、愚神の行動は憎悪に繋がることであった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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